No.857307

つきあかりのルナ・ルナー 後編

雨宮 丸さん

連続での投稿になります。
いきなり後編から見てもあれなので興味を持っていただいた方は是非前編もご覧になってみてくださいね。

文章が読みづらい部分もあるかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

2016-07-07 22:47:08 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:462   閲覧ユーザー数:462

 

 

「……。……ルーナ・ヴェンティ」

 震える声とともに、月の魔法の杖は空を目指して伸ばしそれからルナ・ルナーは呪文を唱えました。呪文が唱えられると傷付き立ち上がることが難しくなってしまった身体がまばゆい光が包み込み始めてルナ・ルナーの身体を暖めるようにして光は彼女の身体に入り込んでいきます。すると光を全て受け入れたルナ・ルナーの身体からは傷が消え、ルナ・ルナーは再び起き上がりました。

「……まさか、私にこの魔法をかける時が来るなんて……。……セリニ……」

 服に残った土汚れを払いながらルナ・ルナーは立ち上がり、空に顔を向けて静かに瞼を閉じます。

「……。守る側が守られずにむざむざとやられるなんて、これは傑作だ……か。……本当にそうだね。改めて私の無力さを知ったよ。……それから、セリニが私に打ち明けてくれたことの強さが今身を持って知った……何も変わってないや、私は……。知ったつもりになっていた。誰かが傷付くのが怖いから、助けるということでずっと逃げていた……確かに私は誰かの為に有りたいとそう胸に込めて今までを過ごしてきた。でも、私の為に力を尽くしたいと言う思いを、傷付けたくないという頑固な気持ちで……セリニのことを突き放してしまった……」

 ルナ・ルナーは首を横に振りながら静かに佇んでいます。そしてルナ・ルナーは少しだけ鼻を啜る音を響かせました。

「……お月さま、私は間違っていたのでしょうか。戦わなくても平和に……幸せが築けると思っていた、そんな願いは……。……難しいですね、答えというものを探しだすのは……」

「――。―――」

「……はは。半分正しくて半分間違いだ……か。もう、お月さまはいつも曖昧なんだから……」

 ルナ・ルナーはそう言って目をこすって再び瞼を開きます。ルナ・ルナーの瞳に浮かぶ翡翠色の瞳には少しだけ、赤色が混じっていたのでした。

「でも、こうなったらあれこれ考えてもしょうがないよ、うん。今は……私のことをこんなにも思ってくれたセリニを助けなきゃ。……あんな風に憧れを持ってもらって目標としてもらえると、嬉しい。大切なもの、大好きな人たち……大好きなセリニを守るためなら、力を振るわなければならない時が来る……何にしても綺麗事だけじゃ済まされない輪廻の理の下にあるこの世界だから……。私は向き合わなければならない……そうでしょう? お月さま……」

「―――。――」

 ルナ・ルナーの言葉に応えるように空に浮かぶ月は光の強弱を変えて問いかけるルナ・ルナーに応えます。それを目の当たりにしたルナ・ルナーは可笑しいというような笑いをして、瞼を閉じ彼女自身の頬を何度も叩き再び瞼を開きます。

 

 

 その瞳にはもう、悲しみだとか迷いだとかは消えて、決心を固めたルナ・ルナーの力強い気持ちが宿って居たのでした――

 

「よし! 決めたのならいつまでもクヨクヨしてられないよ! 行かなきゃ! 大切なみんなを守るために……大好きなセリニを助けるために――」

「―。―――」

「……。ふふっ、やっぱり心強いなぁお月さまは! ……では、遠慮無く……!」

 そう言ってルナ・ルナーは頭上に浮かぶ月に向かって手を伸ばします。すると月からは今までにないほど眩しい光が差し込んできて……!

 

「――我が母、月よ。使命を全うするために光を授け給え。月の光を秘めたこの身体に、輝きという名の剣と盾を――」

 

 ルナ・ルナーがそう唱えると光が強くなった月から一筋の光が伸び、ルナ・ルナーの身体へと注ぎ込みます。月の眩しくも温かな光に包まれルナ・ルナーの身体は光を輝かせ、彼女の身体の底から力が爆発するように漲ってくるのです。そしてその光が一杯になってルナ・ルナーの身体から光が弾け飛びました。そこに現れたもの。月の顔と同じ月白色(げっぱくいろ)の髪を靡かせ、翡翠色の瞳は輝きを増し月の光を沢山に浴びて、先ほどよりも意思も力も勇気も倍に滾らせ力強い眼差しを持ったルナ・ルナーの姿。 ――つきあかりのルナ・ルナーは、大きな月の力を借りて守るべきものたちの為に再び立ち上がったのでした……!

 

「待っていてね。今、助けに行くから――」

 

 

「うう……! ど、どこに向かってるの……?」

「この先にある街へさ。あそこを住処ということにすれば一気に行動の幅が広がるからね。……その前に、こっちも片付けておかなきゃ。ボクの姿を最初に見た人たちが五人もいるとなるとルナ・ルナーを助けかねない。その前に……!」

 夜空を滑るようにルナティック・ルナーは空を翔けていきます。その早さからぶつかってくる風に悶えながらセリニはルナティック・ルナーに引っ張られていました。セリにの質問に答えたルナティック・ルナーはそれと同時に進む早さを緩めて下を見下ろします。するとそこには、大きく広がっている森の木々の間を縫うように進んでいく影がありました。その影は全部で四つ。それでいて頭からは耳と思われる長いものがそれぞれに付いて揺れていました。そこにいたのはそう、ルナ・ルナーが先に逃がしたレヴォネたちなのでした。

「……! 何を……する気なの!?」

「ははは……今更そんな質問をしないでくれよ。何をって……こうするのさ――」

 そう言ってルナティック・ルナーは杖を取り出して下で走るレヴォネたちに向けたのです。そして、ルナティック・ルナーは小さく呪文を唱え始めましたではありませんか! このままでは、ルナ・ルナーさえも抑えこんでしまった強力な魔法がレヴォネたちを巻き込んでしまいます……! そうなったら、ルナ・ルナーのように魔法を使えることが出来ない彼女たちは……。

 そんな身の毛のよだつ恐ろしい光景が広がろがろうとしていた、その時でした。

「――そうはさせないよ! ガブッ……!」

「ぐっ!? いたたたっ……!?」

 ルナティック・ルナーのすぐ側にいたセリニは首を一杯一杯に伸ばして、セリニを縛る影の縄を持っていた腕に噛み付いたのです!ルナティック・ルナーはその行動と痛みに驚いて攻撃の手を取りやめます。その時持っていた魔法の杖を落としそうになりましたが、ルナティック・ルナーはなんとか持ち直して落とすことを免れたのでした。

 それでもセリニはルナティック・ルナーの腕に噛み付きし続けました。一度はルナティック・ルナーが振るう腕に口を離してしまいましたがそれでも彼女は諦めずにもう一度噛み付いたのです。今度は相手が諦めることを誘うように何度も何度も噛みつき、ルナティック・ルナーの腕はすっかりセリニの歯型だらけになってしまいました。

「うぐぐ……! こ、このっ!」

「ぷはっ……! みんなーっ! 早く隠れて! ルナティック・ルナーが空から狙っているよーっ!」

 セリニは一瞬の隙を見逃さず、痛みに悶えるルナティック・ルナーの近くから地上に居る四人に叫びかけます。すると、その四つの影は止まり、すぐさまそれぞれが別の方向へ散り散りになっていきました。どうやらセリニの大きな声はレヴォネたちに聞こえたようです。それを見たセリニほっとして、瞳から溢れ出してくる涙を吹き付けてくる風に任せていました。けれどそんな安心感は束の間、ルナティック・ルナーは睨みつけるようにしてセリニの顔を見つめ、セリニの身体を突き飛ばしました。

「小賢しい真似を! お前なんてこうしてくれる! ルーナ……ええと……」

 ルナティック・ルナーは一度魔法の杖に付く月の印を下に向けようとしてそれを取りやめて杖を向かせる向きを悩みます。そして彼女は結局月の印を下に向けて呪文を唱える体勢に入ります。一体どうしたのでしょうか?

「ルーナ・ゼ――」

 

「――ルーナ・ヴェントゥノー!」

 

 ルナティック・ルナーが呪文を言いかけたその時、突然響き渡る声とともにルナティック・ルナーに黒く透明なシャボン玉のような物が飛んできて彼女にぶつかり割れて弾けました。それにまた驚いたルナティック・ルナーは飛んできた方向を探して辺りを見渡します。そして顔をあげると、そこには……。

「そこまでだよ、ルナティック・ルナー。私の大事なセリニに手を出さないでちょうだい!」

 魔法の杖を携えて、月の光に照らされながらルナ・ルナーが姿を現したのです! そしてルナ・ルナーはセリニの前にやって来て、セリニを庇うように両腕を広げて佇んでいたのでした。

「ル……ルナルナ!? 無事だったんだね……! それにしても、その髪……どうしちゃったの……?」

「ふふふ……。セリニを助けたくて、力をお月さまに分けてもらったの。私は月の精霊ルナ・ルナー。そして今は……」

 ルナ・ルナーはセリにの質問に答えながら振り返ります。そしてルナ・ルナーの真っ直ぐな視線の先に映り込んできたのは、驚きと焦りの表情を見せているルナティック・ルナーなのでした。

「私の全てを掛けて身体の中に眠る光を呼び起こした、つきあかりのルナ・ルナー。私の中にある輝きが曇らないかぎり、私は負けないよ! ……さあ、ルナティック・ルナー。私の中に眠る光と戦う覚悟はあるかな……?」

 そう言ってルナ・ルナーは魔法の杖をルナティック・ルナーへと向けます。するとルナティック・ルナーも覚悟を決めて呪文とともに魔法の杖を槍にへと変身させて構えを取ります。ルナティック・ルナーの灰色の瞳は、まるで風に煽られたかのように小刻みに揺れていました。

「……ふん。どんなに姿を変えたとしても元々の力は同じだ! 同じ力から恩恵を受ける魔法で刺し違えることはない……最後まで立っているのは、このボクだッ!」

「……違うよ。あなたのような邪な願いに汚された魔法なんて、力があるはずない。例えそれが同じ源の力であっても……私に勝つなんて、百億年かかっても無理でしょうね!」

「……。ならば、試してみようじゃないか――」

 二人の会話はそこで区切られました。そこから話の続きは始まることはなく、始まったのは二人のルナルナの力のぶつかり合いでした。

 ルナティック・ルナーは槍を両手で構えルナ・ルナーに向けて付いたり足元を掬うようにして振り攻撃を仕掛けていきます。その攻撃はとても正確で、吹き上げられた葉っぱの真ん中を、一枚たりともずらすことのない程の正確さです。ルナ・ルナーはその攻撃たちを躱しながら、セリニに危害が加わらないように距離を少しずつルナティック・ルナーを誘導して離れていきます。

「ルーナ・オット!」

 魔法の杖を天に掲げそう呪文を唱えると、ルナ・ルナーの魔法の杖は二つに割れ二本になりました。そこから魔法の杖は形を縦長に姿を変えて二本の剣となってルナ・ルナーの手の中に収まったのです。そしてルナ・ルナーは二本の剣の剣身をすりあわせ硬い金属の音を響かせて構えを取ります。構えを取り剣の身体が映し出していたのは、険しい表情をして槍を構えるルナティック・ルナーなのでした。

「はあああっ!」

「ていっ……やあっ!」

 月夜の空の下で、形は瓜二つでも思う気持ちが違う二人がそれぞれ気持ちを力に変えて戦いを繰り広げています。一方は二つの剣を。もう一方は腕を伸ばせばすぐに相手をねじ込ますことが出来る長く頑丈そうな槍。けれどその二つのどちらかが一方的に有利で勝機を見せているわけではありませんでした。果たして同じ刃同士が見せる戦いの行く末とは……!?

「ふん……たあっ!」

「う……!? くそっ……」

 ルナ・ルナーが振り下ろした剣が槍の柄に当たり、一瞬にして切り落としていきました。一度や二度で切れたのではなく、ルナティック・ルナー攻撃を避けるために柄を用いていたため、それが限界を迎えていたのでした。

 折れた槍を握りしめながらルナティック・ルナーは槍を元々の杖の姿に戻し再び呪文を唱えるために構えました。けれど、そんなルナティック・ルナーの様子がなんだかおかしいのです。彼女はまた杖を上にしたりしなかったりと、どこか焦っているようにも見えます。一体、どうしたというのでしょうか? すると、ルナ・ルナーは何か分かったような素振りを見せて剣を構えることをやめてルナティック・ルナーの方を見つめました。

「……。やはり、その月の魔法の呪文にどのような効果があるのか解ってみたいだね。月の印を上下どちらかに向けるかによって変わるということは知っているみたいだけど……どの呪文で、マイナの呪文を付加させるかどうかさえもバラバラ。……ま、私のそっくりさんだし、しょうがないことだけれど?」

「ぐう……! 黙れ……黙れ黙れだまれっ! ルーナ――」

 頭を揺らし、まるで挑発をしているようなルナ・ルナーの振る舞いにルナティック・ルナーは声を荒げ素早く呪文を唱えます。――しかし、彼女が放った呪文で魔法の杖はその声に応えることはありませんでした。なぜなら剣を振りきったルナ・ルナーが目の前にいて、ルナティック・ルナーの魔法の杖を切り落としていたのだから――

「……!? いつの間に距離を……!」

「残念でした。言ったでしょ、私はつきあかりのルナ・ルナー。私の中に眠る光と戦う覚悟はあるかな……と。そんな偽物が作り出したルパタスで一つしかないはずの私のルパタスに敵うわけがないでしょ?」

「ぐっ……! だったら……う……!?」

「……ふふ、そろそろ化けの皮が剥がれてきたみたいだね。地の位置でのヴェントゥノーの呪文が意味するものは、衰退し堕落していく……。ほら、あなたがセリニから奪った光が……次々と逃げていく……」

「……! バ、バカな……!」

「ま、そういう呪文があるのだから天の位置、地の位置のどちらかのトレイヂーチでも自分自身に掛けておけばよかったんじゃないかな? 効果に関しては今後の宿題にするので考えておくように! べーっだ!」

 ルナ・ルナーが言った通りにルナティック・ルナーの身体から立ち込めるように光が溢れ出してきては空中を舞っていきます。そうした光たちの行き着く場所、それは元々の光の持ち主であるセリニの所でした。身動きの取れないセリニはその光たちが自らの身体の中に戻っていくのを動かずに待っていると、先ほどまで力ない表情を浮かべていたセリニに力が徐々に戻り始めて、セリニの顔色はゆっくりと赤みを増していくのでした。

「くっ……!? ち、力が……力が奪われていく……!」

「……もう観念しなさい。いくら足掻いても、もう逃げ場なんてないよ。それにあなたには沢山謝ってもらわなきゃね。関係のないカマルたちに危害を加えようとしたこと……モーネおばあちゃんを狙ったこと。そしてなにより……人の想いを利用としてこの星を乗っ取ろうとした。その力の源を奪い取ったセリニに……!」

 

 

「ぐ……うううううううううう、くくくううううううう……!」

 

 

 光が次々と抜けていく所が苦痛で仕方ない、そんな振る舞い方をしているルナティック・ルナーは自らの頭を抱えて悶え苦しんでいます。声は縫い目の粗い布のように掠れて悲痛にも思える声を出してルナティック・ルナーの姿が少しずつなくなっていきます。それを見たルナ・ルナーは戦う相手であるルナティック・ルナーの姿が痛ましく思ったのでしょう、彼女は少し表情を歪ませて瞼を閉じていました。

 徐々にルナティック・ルナーの正体が明らかになる……その時です!

「ううう……ググググググ……! マダ、オワルモノカ……!」

「……!? な、なにが……きゃあああっ!?」

「――っ! セリニ!」

 ルナティック・ルナーの姿が完全になくなるというあと一歩のところで異変が起こりました。消えそうになっていた僅かな影は力を振り絞るようにして、黒い影として再び姿を現したではありませんか!? そしてその影は見る見るうちに大きな塊になっていき、一本だけが影の塊から伸びるように身体を伸ばしていきます。その先にあったのは、未だ捕まったままのセリニの元です。その影の塊はセリニを鷲掴みするように乱暴に掴みあげてさらって行くのです。さらにセリニの身体は影の塊の一番上まで連れ去られてしまいました。

「な、何を……!? セリニーっ!」

「や、やだやだ……っ! 何をする気……!?」

 

 

「モウイチドトリコンデイテハジカンガカカッテシマウ……。クワエテ、コノママデハカツコトナドデキナイ……! ナラバ、イッソノコト……コイツゴトマルノミニシテスベテノチカラヲウバウシカナイ――」

 

 

 苦しそうな声とともに、聞き取りづらい声で何かを叫んでいます。ルナ・ルナーたちは何が起きるのだろうと思っていると、突然セリニが居る所の影の塊が二つに割れて、まるで[[rb:獰猛 > どうもう]]な動物が食べ物を食べる時に大きく口を開けたように影は二つに裂け始めたのです……! セリニの目にはその様子が本当に食べられてしまうのではないかという錯覚に陥って、身体全部使って暴れ始めました。異変に気が付いたルナ・ルナーも急いでその場所を目指して駆け上がっていきます。

 ――でもその時にはもう、セリニを捕まえていた影は消え去り彼女は影の塊の中へ真っ逆さま! ルナ・ルナーが気付いた時にはもう遅かったのです……!

「……! セリニーッ!」

 

「い……いやあああああああああああああっ! ルナルナーッ! たすけてえええええええええええ……――」

 

 ばくん。と、そんな音が聞こえてきそうなほど二つに割れた影の塊はセリニを影の中へと落として飲み込んでしまったのです! その様子にルナ・ルナーは目を丸くして、驚きを抱きながらその様子を眺めることしか出来ないのでした……。

「ムグ……クク……くくくっ……! サイショカラこうすれば良かったんだな……! すごい、さっきよりも力が……漲ってくる……!」

 影の塊はセリニを飲み込むとあっという間に形姿を小さくしていき、先ほどと同じルナティック・ルナーの姿に戻りました。けれど先ほどとは違いルナティック・ルナーの瞳にはセリニと同じ赤い色の瞳が宿っていたのでした。

「なんて……なんて惨いことを……! そこまでして力が欲しいだなんて……信じられないよ!」

「……そうだろうね。君には影たちの窮屈さなど知りもしないだろうね。だから尚更虫酸が走るよ……力の差では変わりはないのにどうして光の住人たちだけ……! だからボクは君を倒して光の住人たちを徐々に追い詰めてやる。それを行使するためならば、交渉する余地など……有りはしないッ!」

 ルナティック・ルナーはルナ・ルナーと同じ高さにまで降りてきて向き合います。けれど一色触発の状態の中、話し合いなどあるわけもなく、ルナティック・ルナーは腕を伸ばし仄暗く稲妻のような光の筋をルナ・ルナーに向けて放ちました。それに気がついたルナ・ルナーは間一髪のところでかわし剣を構え直します。そうしているとルナティック・ルナーは一瞬の内に詰め寄ってきたのです!

「こ……これ……! 影の魔法……!? 何が、どうなって……!?」

「ふん……もはや杖などいらない。ボク自身の力を使って君をねじ伏せるまでさ。いつか月は……光は影に飲み込まれて光を奪われていくもの……それが今この時だということを、教えてやる!」

 そう言い残してルナティック・ルナーはルナ・ルナーを蹴って突き飛ばします。そしてルナティック・ルナーは両手を合わせてその中に闇の力を溜め込んで一つの球体を作ります。そうした後その球体を引きちぎるようにしてルナティック・ルナーは両腕を伸ばしました。そこに現れたもの、長くしなやかな影の塊から作られた黒いウィップなのでした。

 ルナティック・ルナーはそれを振るってルナ・ルナーに攻撃を加えていきます。それを防ごうとしてルナ・ルナーは剣を使って防ごうとしますが、黒色のウィップはそれに絡みついて、ルナティック・ルナーが引き寄せると奪うかのように引きずられていきます。それをなんとか阻止しようとしてルナ・ルナーは魔法の杖に掛けた魔法を解いて離そうと試みます。なんとかそのことをするのに成功してルナ・ルナーは魔法の杖を抱きしめ胸をなでおろしていると、突如横から鋭い痛みとともに何かで叩かれた感覚がしたのでした。

「安心してやられるがいいさ。そうすれば変な杖を気遣うこと無くて済むのだからね!」

 そう言いながらルナティック・ルナーは何度もルナ・ルナーにウィップを打ち付けます。凄まじい音とともにルナ・ルナーからあまりの痛みに声を荒げ眉がくっついてしまうほど寄せていきます。そしてルナティック・ルナーは動きの弱まったルナ・ルナーの首にウィップの身体を巻きつけて自由を奪ったのでした。

「……はは、アハハハハッ! どうした? 月の力を貰って強くなったのだろう!? ならば……もっと足掻いてみせろ! ……どうした出来ないのか……? 出来ないのか出来ないのかできないのか出来ないんだよなぁっ!? アハハ、これはいいや! 一度はボクを打ち破った相手をこうして自由を奪っているのだから、これほどいい気持ちはないや!」

「うゔ……! うぐぐ……っ!」

「なんてザマだよルナ・ルナー? その苦しそうな状態から……解き放ってやるよッ――!」

 その言葉とともにルナティック・ルナーは何か呪文のようなものを唱え始めます。すると――

「シャッテン・モル・アハトー!」

 ルナティック・ルナーの腕から黒色の稲妻が走りウィップを伝っていきます。その先にあるルナ・ルナーを目掛けて……! その黒色の稲妻がルナ・ルナーに到達するには時間を要することはなく、それに続くようにしてルナ・ルナーの悲鳴が聞こえてきたのです……!

「――! うわあああああああああああああああっ!?」

 電撃を受けてルナ・ルナーはその衝撃に身体を震わせます。

 全ての電撃が終わるまでにどのくらいの時間がかかったことでしょう……そう思うほど長くルナ・ルナーの身体には黒色の稲妻が流れていたのでした。全ての電撃を受け終わるとルナ・ルナーの身体は力なく地面の彼方へと落ちていくのでした。

「ハハッ! このままでは終わらせない! いくぞ、シャッテン・ツルク・アイントツヴァンツィヒ――」

 ルナティック・ルナーは最後の留めにとルナ・ルナーを追いかけながら影の魔法の呪文を唱えていきます。このままではルナ・ルナーがやられてしまいます……!

 ……おや……? ルナ・ルナーの口が僅かに動いています……さらに彼女の杖の月の印は上を向いて……?

 

「――ヂ……チ……! ……ルーナ・アンヂーチ!」

 

 叫ぶようにして声が辺り一面に響き渡ります。その声に驚いてルナティック・ルナーは攻撃をしようとした腕を止めます。すると、ルナ・ルナーの声とともに現れた月の光を纏った屈強そうな腕がルナティック・ルナーごと包み込んで突き抜けていきます。その衝撃にルナティック・ルナーのウィップは消え去り、ルナティック・ルナーは光の中でただただ悶え続けるのでした。

「ぐ……!? ぐああああっ! な、なんだ……この、溢れ出してくるような……力は……!?」

「……そう、これは私の中に秘めたる月の光の力。誰かを思う力はどの力さえも跳ね除けて膨れ上がっていくんだよ! 例えそれが、あなたみたいな強く力のある魔法の力だったとしても……!」

「バ……バカな……! 平和を愛するものが……これほど押し返す力など……!?」

「……愛するから、こそ……」

 光の筋に押さえつけられているルナティック・ルナーに近付きルナ・ルナーは彼女に語りかけます。その時のルナ・ルナーの表情は、痛みに歪ませていても怒りの表情はなく、優しい笑みを浮かべていました。

「私はみんなと穏やかに過ごすことが大好き。だから争い事は嫌い……でも、そんなことをいつまでも言っていたから私はセリニをあなたに奪われてしまった。……私は少しだけ考え方を変えた。いつまでも守りに入っていたって奪われてしまうものは奪われてしまうから……。だから私は戦うの。それで誰かが助かるというのなら――」

 ルナ・ルナーはそれだけを言い残すと、ルナティック・ルナーにもたれかかるように抱きつきました。その行動にルナティック・ルナーからは抑制の声が響き渡ります。それでもルナ・ルナーは抱きしめることを止めることはありませんでした。それどころかルナ・ルナーは抱きしめる力を強めて、まるで泣きじゃくる子どもが落ち着くまで一緒にいるかのように強く優しく……心の中で語りかけるように――

 

「……あ……うう……――」

 

 光の中で包まれているルナティック・ルナーの暴れていた手足は次第に大人しくなっていき彼女の表情は血眼になっていた様子が消え穏やかに、眠たそうな表情に変わっていきます。

 そしてルナティック・ルナーが完全に瞼を閉じ眠りにつくと、ルナティック・ルナーの身体は光の中に溶けていき、やがてその身体は完全に光の中へと消えていくのでした。

「……。良かった、これで……あっ、セリニ……!」

 戦いが終わったことに胸を撫で下ろしていると、ルナ・ルナーが居る方へと空からセリニがゆっくりと降りてくるのが視界に入り、ルナ・ルナーは嬉しそうな面持ちでその方へ近付いて行きました。

「……良かった、無事で……! ……ルナティック・ルナーも力でねじ伏せるという形で倒すことにならなくて、本当に良かった……」

 降りてくるセリニを優しく受け止め、まだ意識があることを確認すると、ルナ・ルナーは翡翠色の瞳が溺れるほど目元に涙を溜めてセリニの小さな身体を抱きしめました。

「しかし……あのルナティック・ルナーって子は、誰だったんだろう……? 私と同じ格好して月の魔法と……使う人が限られてる影の魔法を使っていただなんて。……それにしても本当に私そっくりでちょっと不気味だったかも……。私も私で真似されるような格好だからいけないのかな……? だからと言って如何にも魔法使いって格好は……ねぇ……。お着替えするのも面倒くさそうだ――あいたっ!?」

 今までのことを思い出していると、突然何かが自分自身の頭に激突してきてルナ・ルナーは思わずよろめきます。突然降り注いできた痛みに混乱していると、ルナ・ルナーが抱えているセリニのお腹の上にルナ・ルナーの頭に当たった何かが転がります。その転がったものは真っ黒で毛糸の玉のようにふわふわとした身体を身にまとっています。ルナ・ルナーはそれに見覚えがあり声をあげるのでした。

「ク……クレイ!? クレイじゃないの! どうして……こんなとこ……。……もしかして……?」

 ルナ・ルナーはそう言って怪訝な表情を浮かべたまま何かを察したように深く頷きました。それと同時に月白色の髪をしたつきあかりのルナ・ルナーの姿は穏やかに静まっていき、元の月の精霊・ルナ・ルナーへと変わっていきました。

 二人のルナルナの戦いはこうして幕を閉じました。そしてこの辺りに吹き抜ける風は、ちょっと前に激しい戦いがあったということを忘れさせるほど、穏やかに駆け抜けていくのでした。

 

 

 ルナ・ルナーはセリニと頭に当たってきたクレイを連れて一人自らの家へと戻ってきていました。ルナ・ルナーは家につくと真っ先にセリニを彼女自身のベッドへ寝かせ凍えないように布団をかぶせてあげました。そして今回の事件の張本人のクレイはというと……ルナ・ルナーの視界に偶然映り込んだ虫かごの中へと放り込まれたのでした。

「さてと……あとは二人が目覚めるのを待つしかないね。……セリニ、クク飲むかな。お湯を沸かしておこう」

 そう言ってルナ・ルナーはストーブの中に割った木と紙を入れて火を付けました。白い煙を上げながら火は瞬く間に燃え広がっていき、それを見たルナ・ルナーは静かに扉を閉めました。そして彼女は水を入れた入れ物を用意してストーブの上に置いて、ククを作る準備をしたのでした。

「……」

 ルナ・ルナーは落ち着いた寝息を立てているセリニの方に近寄り、ベッドに腰を掛けます。そのセリニの姿を見つめる表情は嬉しそうで――どこか苦しそうな気持ちを混ぜ込んでいました。

「……ごめんねセリニ……。辛い思いをさせちゃったね……こんなことになるならあなたのことを突き放すような真似をせずに、きちんと納得するまで向きあえば良かった……」

 そう言ってルナ・ルナーはセリニ頭を撫でてセリニの耳も指でなぞったり、指で挟み込んでこねていきます。そうしているとセリニは眠っていても擽ったそうな声と笑顔を見せるのでした。

「……可愛い寝顔をしちゃって。本当、まだ生まれてから半月も経っていないんだよね。それでも立派な考えを持っているなんて、きちんとしているね。私も見習わなくちゃ――」

「――ううん……! ……はっ!? ど、どこだここは! な、なんだってボクは虫カゴなんかに……!?」

 ルナ・ルナーがセリニを見守っていると突然虫かごから賑やかな声が聞こえてくるではありませんか。ルナ・ルナーがその声がする方へ顔を向けると、虫かごを激しく揺らすクレイの姿があって、ルナ・ルナーは溜息を混じらせながらその声がする方へと歩いていきます。

「チキショウ! 誰だこんな真似をするのは――」

「やいやい! やっと目を覚ましたか影の精霊・クレイめ!」

「! うわあ!? ル、ルナ・ルナー!? どうしてここに!?」

「どうしても何も、ここは私の家だよ! 悪さをしたクレイにお説教するためにとっちめてやったんだから! 覚悟なさい?」

 

 ルナ・ルナーはそう言いながらクレイが入った虫かごを持ち上げて中を睨むように覗き込みます。普段は穏やかな表情を見せる優しげなルナ・ルナーの表情とは違ったその様子にクレイは少しだけ怯えた様子を見せ大人しくしていました。

 

「クレイ、あなたはどうしてまたこの星に居るの? 確かずっと前に今日みたいに戦いを挑んできて、不完全だったあなたは私に倒されて他の星……あなたの母星へと逃れたはず。それなのにどうして? ……もしまたこの星に来た理由が私を倒すためにやって来た、だなんて言い出したら承知しないんだから!」

 

「ふん……ルナ・ルナーの言ったことそのままがこのボクのこの星へ来た理由さ。承知してもらうつもりなんて毛頭ない。ただ……君という存在を乗り越えて示したかった。いつだってボクたち影の存在は光に追いやられて隅っこ暮らしなのさ。……太陽の精霊・ソアレの膨大な力では、影の精霊の力ではどうしようもない……せめて、二番目に強い明かりを持つものさえ倒してしまえばと思ったんだ。……もう、追い出されてしまうような暮らしはうんざりなんだ……」

 

「……」

 

 しおらしくしょんぼりとした口調でクレイは観念したように自分自身のことを話していきます。彼の言葉には偽りは無いようで本音を語っているようでした。その想いが通じたのでしょう、ルナ・ルナーは先ほど浮かべていた怒りの表情はなくなり、真剣に話を聞くルナ・ルナーの姿がありました。そしてルナ・ルナーは話し終え大人しくしているクレイを虫かごの中から出してあげて、ルナ・ルナーはクレイを手のひらの上に乗せてあげたのです。

 

「……クレイの言い分はよく解ったよ。確かに、そのことに関しては私たちにも考える余地がある……影たちというのはどんな場所でも生きることが出来る「永遠の生命体」と称されるほどの強い精霊たち。だからなのかもしれない、人々が怖がってあなたたちを追いだそうとしてしまうのは……。そういった所は考えを改めていかなければいけないね」

 

「……。……ルナ・ルナー……」

 

「でも……でもね、今回あなたのしたことはうんと乱暴で、関係のない人たちを苦しめてしまったんだよ。考えてみなさい、あなたが手を出したポーラビットの子どもたち……数は少ないけれど彼らは傷付き声を荒げていた。そして何より……あなたの身勝手な力を欲する願いを叶えるために、そこで寝ているセリニの力を二度も奪った。挙句の果てには彼女を飲み込んで力を手にするなんて。……あなたはいいのかもしれない。でも力を奪われたセリニは? 手に入れた力で生活を追われる人々の気持ちは? ……そんなの関係ないだなんて言わせないよ。自分たちがそういう目に遭ったんだからいいだろう……なんてもし思っているなら今すぐにやめなさい。平等を叶えるために力で押さえつける……そんなこと、決して許されるものではないんだよ」

 

 両手でクレイの身体を包み込みルナ・ルナーは優しく問いかけます。クレイは暴れること無く、優しい声で話しかけているルナ・ルナーの言葉をしっかりと聞いていました。

 

「だからね、奪い合うのではなくわかり合うんだよ。きちんと向き合って話さえすれば相手もきっと解ってくれる。今回のことは褒められたことではないけれど、立派な力を持っているんだもの、今日みたいな出来事を繰り返さないと私は信じているわ」

 

「……気安く言ってくれるよ。ボクと君は戦い合ったじゃないか。それでも信じてあげるというのかい?」

 

「信じるよ。例えあなたが納得がいかないというなら納得がいくまで、何度でも」

 

「……。……本当に愚かだよ君はさ……。敵に塩を送る様な真似を……」

 

「ふふ、それが私だもの。この性根はお月さまがなくなるその日まで変わらないよ」

 

 そう言ってルナ・ルナーはクレイに微笑みかけます。それを見たクレイは諦めたように溜息をつきながらルナ・ルナーの手のひらの中で転がっていました。

 

「さ、今日の所はも帰りなさい。ポーラビットの人たちにはクレイがごめんねって言ってたって言ってあげるからさ」

 

「……ボクはごめんなんて一言も言わないよ」

 

「……?」

 

「……。悪かった。そうとだけ言っててくれ」

 

 クレイはそう言い残すとルナ・ルナーの手のひらから離れていき、ルナ・ルナーの家の窓へ近付いてそこから外へ出て行きました。その様子にルナ・ルナーは立ち尽くしていましたが、ルナ・ルナーは少しだけ笑ってクレイが出て行ったところを眺めているのでした。

 

「本当にもう、素直じゃないんだから。……でもまあ、根は優しいからねクレイも……」

 

「……う、ん……。ううん……」

 

 ふとルナ・ルナーの後ろから声が聞こえてきて彼女が振り返ると、ベッドからは寝かせていたセリニ目覚めたばかりの声をあげて起き上がったのでした。

 

「……あれ……? ここは……?」

 

「セリニ……! 良かった、気が付いて……」

 

「わっ……!? ル、ルナルナ……」

 

 セリニが起き上がるところを見てルナ・ルナーは起き上がったばかりのセリニの身体を強く抱きしめました。突然のことにセリニは驚いて目を丸めていましたが、その表情はすぐに無くなり心地よさそうな表情を浮かべたのでした。

 

「痛い所はない? 本当に……クレイに連れ去られた時はどうなるかと思った……本当に、よかった……」

 

「……ルナルナ……」

 

 セリニの身体をルナ・ルナーは強く、強く抱きしめます。そして彼女のセリニを想う気持ちが込められた声にはどこか涙が混じっていて、微かに震えていたのでした。

 

「……ルナルナ」

 

「うん? なあに?」

 

「……今日は、ごめんなさい。セリニがルナルナに魔法使いになるなって言われて……いじけたりなんかしたから、こんな風にルナルナに痛い思いをさせちゃった……。セリニがワガママを言わなければ……こんなことにはならなかったのにっ……ごめんなさいっ……」

 

「……セリニ、それは違うよ。……確かにセリニは私に憧れて魔法使いになりたかった。それだけなら良かったのかもしれない。でも今日はそれにつけ込んでクレイがあなたの強い力を奪って暴れまわっただけのこと。だからセリニは謝ることなんてないのよ?」

 

「……。怒って、ないの……?」

 

「誰が怒るもんですか。むしろ感謝するくらいだよ。私はセリニのおかげで大事なことを見つけ直すことが出来た。それからセリニのことが今まで以上にとーっても大好きになっちゃった! 大事なことを気付かせてくれて、本当にありがとう。セリニ……」

 

 その言葉を聞いてセリニは今まで積もっていた気持ちが一気に弾けて、また赤い瞳から大粒の涙をこぼし始めました。それを見たルナ・ルナーはセリニを抱き寄せて頭をなでたり、セリニの耳をこねたりして、セリニから心地の良さそうな声とともにルナ・ルナーの身体はセリニに強く抱きしめられたのでした。

 

 そうしているとストーブの上に乗せてあった水の入った入れ物から甲高い音が聞こえて、それを聞いたルナ・ルナーは慌ててそれの前に駆け寄ります。

 

 するとセリニはそれを追うようにしてベッドから降りて、後ろ姿を見せているルナ・ルナーに声をかけるのでした。

 

「あ、あのね……そのう……」

 

「?」

 

「……やっぱり、セリニ夢を……憧れをまだ捨てたくない……。辛い修行や稽古も一生懸命頑張るし、お勉強もいっぱいする! だ、だから……セ、セリニをっ! ルナルナの弟子にしてくださいっ……!」

 

「……。口では簡単に言うけれど、本当に大変だよ? それから私は結構厳しくやるよ? それでも……?」

 

「も、もちろん……! セリニ、夢を叶えることがとっても簡単だなんて思ってないもん! いっぱい大変なことも楽しいことも体験しなくちゃいけないって……今日学んだよ……。だから――」

 

「……くすっ。それじゃあ……はい、これ」

 

 ルナ・ルナーはそう言ってコップをセリニに差し出します。そのコップに入れてあったのは、白く湯気を上げてとても甘い匂いを漂わせている入れたばかりのククが入っていたのでした。

 

「……クク?」

 

「そう。今この状況で私がダメって言うなら、こういう風にククを作ってセリニに手渡さないよ。だって、辛いことをさせるのにそんな悠長なことをしてられないでしょ? ……つまり?」

 

「……! それじゃあ……!」

 

「ふふふ……うん。私の教えでいいなら大歓迎よ。改めてよろしくね、セリニ」

 

「……でも、そんなすぐに覚える自信は……ないよ……うう……」

 

「もう、いきなり弱気になんてなってはダメ。気は持ち様なんだから。……大丈夫、出来るわ。心優しい、あなたになら……」

 

 そうルナ・ルナーが微笑んでいるとセリニは差し出されたルナ・ルナーの手を静かに握って見つめ合います。見つめ合う二人の顔には嬉しさと期待が輝いていたのでした。

 

「え、えへへ……なんだかムズムズしちゃうな……改めてルナルナと挨拶するなんて」

 

「あはは……。じゃあ、早速魔法とはなにかというところから始めましょうか! ……でもその前に、カマルやフェンガリ、レヴォネとモーネおばあちゃんたちに顔を見せてこなきゃね。無事に帰ってきたよって……セリニを連れて見せてあげなきゃ」

 

「うん! ……えへへっ、ルナルナ!」

 

ルナ・ルナーが街へ行く支度をしているとセリニは突然ルナ・ルナーの身体に抱きつきました。突然のことにルナ・ルナーは身体をよろめかせましたがなんとかこらえました。ふとルナ・ルナーがセリニの方へ顔を向けると、そこにあったのはとても嬉しそうに、耳さえも機嫌が良さそうに動いている、ポーラビットの小さな女の子のセリニの姿なのでした。

 

「ルナルナ……! えへ、大好き……!」

 

「……ふふっ。私もよ、セリニ……――」

 

 

 

 

 

 

 こうしてセリニ魔法使いになるべくルナ・ルナーの下で様々な修行を積み始めました。セリニはルナ・ルナーが思っていたよりも覚えることが得意みたいで普通の人が一年かかるところをたった数週間で覚えたといいいます。これは、もしかしてセリニには本当にルナ・ルナーのような魔法使いの素質があるのかも……!? そういった経緯もあってルナ・ルナーはセリニをつれて精霊がいる様々な星に連れて行くのですが、それはまた別のお話……。

 

 

 それからセリニは相変わらずだらしない生活を送るルナ・ルナーをなんとかしてあげたいと、セリニはルナ・ルナーの家に引っ越してきてともに暮らし始めました。

 

 喧嘩や思い違いはあるけれど、それでも二人の家からはいつでも笑い声であふれていて、ブレンホーツの丘を通る人たちが笑顔になっていくほどとても幸せそうと言うほどなのだそう。

 

 月の精霊ルナ・ルナーとポーラビットのセリニはそれからずっと、ずっとつきあかりの照らす世界で楽しく幸せに暮らしたのだとさ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つきあかりのルナ・ルナー(完)

 

 
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