その頃……。
「はっはっはー! やっぱりミッドガルドっていい場所だなー!」
オーディンの子、トールが下界を歩いているところでした。
トールはかなりの下界かぶれであり、この服装も下界の人間のものを真似しているのです。
「しかし人間っていうのは本当に面白い奴だな」
人間は、神と比べて寿命も力も遥かに劣っています。
しかし、適応力が非常に高く、この広い下界の隅々まで広がって生活をしています。
また、完全な存在である神と違い、人間は不完全故に「成長」する力も秘めています。
それがトールにとって一番興味深い事なのでしょう。
「さーて、どんな人間が来るかなー?」
トールが、人間が来るのを待ち望んでいた、その時でした。
―シュン
「うおっ!?」
彼の目の前に、ジャンヌ、ゲール、バイオレット、使者、レオーネがやって来ました。
「あんた達、下界に落ちたばかりの見習い三女神かい?」
「いえ、今はジーン、ゲルダ、ヴィアという人間として活動しています」
「だそうだ」
ジャンヌは、あくまで自分達は人間として振る舞っている、とトールに話しました。
「つまんない奴だなー。まぁ、その方がいいがな」
「ええと、どういう意味ですか?」
「まぁあんたらはそのまんま、人間として振る舞えばいいさ!」
トールのあっけらかんとした態度に、バイオレットははぁ、と溜息をつきました。
しかし、かなり人間臭い神である事もまた、事実です。
「そういえば、なんであんたらは下界にいるんだ?」
「話は長くなりますが……」
そう言うと、ゲールはトールに自分達三女神が下界に落ちた理由を話しました。
「あ~なるほどね。だからあんたらは冒険者の人間となってここにいるのか」
「うん、そうだよ」
「しっかしマザー教団か……。オレ達の敵になる事は確かだな」
トールはあまり頭は良くありませんが、何故か頭の回転は速いのです。
「そんなわけで、オレもあんたらに協力していいか?」
「えっ? いいのですか?」
「いいってもんよ! 同じ神なんだからな!」
トールはあっけらかんとした表情でそう言いました。
「だから使者さんとそこの海賊さん、早く帰ってな」
「えっ!?」
「何故だ!?」
「ここから先は危険な戦いになりそうなんでな。女神さんもまだ見習いらしいし。
だから、これからオレが女神さんを守るってわけさ」
「……」
使者は黙りました。
当初は三女神を神界に連れ戻そうとした使者でしたが、
現在三女神が帰れない今、その役目は果たせません。
「何故、私を置き去りにするんだ」
「おっと、ここから先は神の領域だ。お前のような人間が入れる場所じゃねぇよ。
それとも人間やめるか?」
「……」
トールの言葉を聞いたレオーネは黙りました。
人間をやめれば、人の心が失われてしまうかもしれないからです。
「なら、とっとと家に帰るんだな。オレが言える事は、それだけだ」
「……分かったよ」
トールに促されたレオーネは、使者と共に船に乗りました。
「それじゃあお前達、そいつのところでも頑張るんだよ!」
「運命に負けるなよ、三女神……」
「はい! ありがとうございます!」
「必ず、マザー教団を壊滅させてみせます!」
「そのためには絶対に、負けたりしない!!」
三女神は手を振り、船に乗った使者とレオーネを見送っていきました。
「さあ、オレ達はマザー教団をぶっ潰しに行こうぜ!」
「はい!」
ジャンヌ、ゲール、バイオレットは、トールという新たな仲間と共に、
マザー教団を倒しに行くのでした。
(……あれ? どうしてトールが下界に……?)
少しの疑問を持ちながら。
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ここから主人公側の人間キャラが少なくなっていくつもり……。主役は神ですからね。