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マイ「艦これ」「みほちん」:第17話(改2.4)<巡回(鎮守府の外)>

しろっこさん

司令は艦娘たちと軍用車で境港市内を見て周る。地元ながら以前と変化した町の様子。そして陸軍や空軍との関係性も徐々に分かって来るのだった。だが青葉さんは落ち着きが無く……。

2016-06-25 00:46:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:497   閲覧ユーザー数:491

 

「くれぐれも自重して下さいね」

 

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マイ「艦これ」「みほちん」

:第17話(改2.6)<巡回(鎮守府の外)>

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「あまり時間がありません。市内の主要部分、ざっと回りましょう」

助手席の祥高さんが言った。

 

「イエス・マム」

運転席の青葉さんは前を見詰めたまま片手で敬礼をする。

 

 祥高さんは私を見て確認する。

「どこか、見ておきたい場所は御座いますか?」

「いや、特には無いが」

 

「分かりました。青葉さん、一時間程度で周れる主要地点を、お願いします。場所は、お任せします」

「イエス・マム」

その言葉に妙に明るい声で答える運転手。

 

(なるほど記者なら選ぶのも得意そうだな)

適任だと思った。実際、青葉さん自身も嬉しそうだが。

 

「曲がりまぁす」

運転手は軽やかにハンドルを回し軍用車は幹線道路を右折した。

バスガイドが居るのかと思った。

 

 松林の間から青い海が見えている。青葉さんが話し掛けてきた。

「司令、ご存知でしょうけど右手が美保湾で、正面が高尾山です」

 

「あぁ」

一瞬、同名の重巡洋艦を連想した。

 

「あの山は懐かしいな」

地元出身なのでつい、そんな言葉が出た。

 

 やがて前方に境水道大橋の骨組みがチラッと見えてきた。その手前の交差点で車が減速する。

 

「左折します」

青葉さんはハンドルを左へ切る。路(みち)は狭くなり境港の市街地へ入った。

 

「まず最初に『お台場へ』参りましょうか」

彼女が言うと同時に目の前に広場が見えてきた。

 

「えっと確か、ここに陸軍の砲台があったはずですが」

私たちが近づくと直ぐ瓦礫(がれき)の山が見えた。それは完膚なまでに叩きのめされた陸軍の対空砲だった。

 

「うわぁ、結構やられちゃってマスねえ」

ハンドルを握りながら青葉さんが言った。

 

「凄まじいな」

私も驚く。

 

「……」

「……」

祥高さんと寛代は無言。

 

改めて深海棲艦の破壊力と執念に圧倒された。私と寛代は、よくこんな敵の攻撃を潜り抜けたものだと思った。

 

 周りには『立入禁止』と表示され憲兵や陸軍兵が復旧作業をしていた。彼らは時々チラっと、こちらを見るが軍用車に乗った私たちが海軍関係者だと分かるのだろう。特に追い払われることはなかった。

 

「写真撮っちゃ……ダメですよね」

さっきからソワソワしている青葉さん。秘書艦に上目遣いで聞く。

 

「……」

当然、祥高さんは『ダメ』という意味で頷く。

 

(結論の分かる質問だな)

破壊された陸軍の高射砲を、うかつに撮影したら即、憲兵さんに捕まる。

 

「残念だなぁ」

実感のこもった呟きだ。

 

 記者の青葉さんが興味本位でないことは分かるが、これは陸軍には機密事項。かつ負け戦の証拠だ。彼らも気分を害するだろう。

 

苦笑した青葉さんが答える。

「では脳内シャッターに刻んでおきます」

「うまいこと言うな」

「えへへ」

 

彼女は車を、ゆっくり前進させながらジックリ見ていた。

 

(逆に、こういった攻撃を受けながら耐え抜く艦娘たちも凄い)

改めて、そう思った。

 

「私たちも、よく逃げ延びたものだな」

私は寛代を見ながら呟いた。

 

彼女も無言で高射砲を見詰めていた。

(この子なりにも何か感じるものがあるのだろうか)

 

 すると秘書艦が口を開いた。

「青葉さん、そろそろ」

「あ、ハイハイ。では、次に参りますぅ」

 

 やや名残惜しそうにして青葉さんはアクセルを踏み込んだ。ドルンという太い音を響かせた軍用車は加速する。

 

作業している憲兵たちが再びこちらを見たが、やはり私たちへの関心は少ないようだ。

 

 ただ逆に私は陸軍の反応に違和感を覚えた。これが都市部だと海軍に対し、あからさまに嫌がらせを受けたものだ。実際、中央でも陸軍と海軍は仲が悪かったりする。

 

だがここ山陰では、お互いにノンビリしている印象だ。

(これも地方だから?)

 

 私は助手席の祥高さんに聞いた。

「ここでは陸軍と海軍が仲が悪いってことはないのか?」

 

「そうですね」

彼女は一瞬、不思議そうな顔をしたが直ぐ質問の意図を理解した。

 

「ここでは、さほど対立する雰囲気はありませんね」

「なるほど」

私は今日、陸軍に送って貰ったことを思い出した。

 

「そういえば今朝の憲兵さんも親切だったな」

私は頭の後ろに手をやって座席に深く腰をかけた。すると隣に座っている寛代が頷いている。彼女も彼のことは印象に残ったのだろう。

 

 公園を離れた軍用車は路地を抜けて岸壁へ出た。そこには境水道に沿って一本の道路があった。

 

「へえ、ここは変わったなぁ」

思わず声を出した。

 

すると青葉さんが直ぐに反応する。

「司令、この辺りも、よくご存知なのですね?」

「あぁ、地元だからな。ただ、この岸壁に魚市場が有った気がするが」

 

すると彼女が説明する。

「えぇ。以前より漁獲量が減ってしまったとかで」

「へえ?」

 

「それで市場が無くなって新しく道路が出来ました」

「なるほど、よく知っているな」

私は感心した。

 

「えへへ。一応ぉ、記者ですから。地元のことは時々調べてます」

彼女は恥ずかしそうな顔をする。

 

「では、この道に沿って西へ向かいまぁす」

車は岸壁に沿って走り出す。

 

 祥高さんが境水道(海峡)の対岸に見える山を指差しながら説明する。

「右の山……島根半島の頂上に電探設備が見えますか?」

「ああ、あれか」

 

私が横から見上げると、ちょうど島根半島の頂部分にドーム型の建物が見えた。{IMG13220}

 

「確か空軍の施設だったな?」

「はい。あれで広範囲の航空機や船舶を捕捉します」

「海軍の設備でないのが残念だなあ」

私は呟いた。

 

 しばらく走ると大きな旅客船(隠岐連絡船)が停泊していた。

「ここは港町らしい活気が、ありますねえ」

 

青葉さんは興味津々だった。

(車を止めたら、そのままカメラを担いで取材に行きそうな勢いだな)

 

隣で黙っていた寛代も珍しく興味深げに漁船を目で追っている。それでも時おり首を傾けて何かの無線を傍受するのだろう。じっと耳を傾ける仕草をしていた。

 

(境港には高い建物はないからな。どこでも無線傍受し易いのだろう)

この駆逐艦娘は電探特化だなと改めて感じた。

 

「あの旅客船を時々美保鎮守府の艦娘たちで『護衛』することがあります」

祥高さんが説明する。

 

「へえ、ここでは、そういう需要もあるんだな」

「単価は低いですけど」

祥高さんが苦笑した。

 

「そりゃまぁ我々は軍人だし地元奉仕のボランティアだな」

私も返した。

 

「では、駅へ参ります」

青葉さんの言葉で車は岸壁を離れ境港の駅へと向かう。

 

 数分経たないうちに境港駅が見えてきた。駅舎は米子駅より小さい。

私は言った。

「漁港は、それなりに活気があるが。街は少し沈んでいるかな」

 

青葉さんが応える。

「はい。情報統制や食料の配給制限もあって市民生活も不便だと思います」

 

(おまけに今朝の空襲だ。この港町には事件だな)

そう考えていると窓から彫像が見えた。

 

「あれは?」

聞くと秘書艦が答える。

 

「妖怪の像で『町おこし』です」

「噂には聞いた事がある。えっと?」

「水木しげるロードです。地の人は『鬼多郎ロード』とも呼びます」

「なるほど」

小さな駅前に妖怪の像がいくつも並んで妙な存在感があった。

 

「これも一種のハイカラ文化なのか?」

私は呟いた。

 

(戦時下だからこそ、こんな『遊び心』も必要かな?)

そう思った。

 

 だが、さっきから小刻みに震えていた青葉さん、ついに直訴する。

「スミマセン!」

 

うるうるとした瞳で秘書艦に懇願する。祥高さんは直ぐ事情を察し微笑んだ。

「仕方ありませんね。くれぐれも自重して下さい」

「はい!」

 

応えるや否や青葉さん、運転を休止しカメラを抱え車から飛び降りた。

 

(商売道具は常時携行か)

妙に感心した。

 

直ぐに青葉さんは彫像や町の風景の撮影を始めた。私は通りに地元の人間ではない観光客が少々散策していることに気付いた。

 

「なるほど観光地だな」

私は呟く。寛代も面白そうに見ている。開いた車窓から町の喧騒(けんそう)と穏やかな風が吹き込んで来る。

 

 私はボンヤリ考えていた。明後日は中央からの視察団を出迎える。

(指揮官は、前線でも後方でも忙しいものだな)

 

 青葉さんは数分と経たずに戻ってきた。

「済みません、失礼しました!」

どうやら私用だという自責の念はあるらしい。

 

微笑んだ祥高さんが青葉さんに何かを囁(ささや)く。彼女は大きく頷いて敬礼した。

「了解です! では出発します」

 

軍用車は郊外へ向けて再び走り出した。

 

 10分くらい走ると閑散とした田園地帯になった。広い道路脇に車を停めると祥高さんが島根半島を指差した。

「先ほども確認しましたが、あの丸い建物が空軍の電探設備です」

「なるほど、ここからでも目立つな」

 

何となく『上から目線』というコトバが連想された。

すると青葉さんも続ける。

「空軍って、なかなか重要な索敵情報は、こっちに提供してくれないんですよねぇ」

 

「何だ? やっぱり空軍と仲が良くないのか?」

私が聞くと祥高さんが返した。

 

「いえ、悪くはありません。ただ今朝の攻撃でもギリギリまで情報提供がありませんでした」

「そりゃ拙い」

 

私の言葉に頷く彼女。

「はい。ですから空軍の迎撃機が何機か撃墜されてから、やっと私たちに依頼が来ました」

 

寛代もポツポツと言う。

「既成事実確認後の緊急発進」

 

それを聞いた私は誰とも無く呟いた。

「敵が地上を空襲したのは今回が初めてではないだろう?」

 

続けて祥高さんに問う。

「うちにも電探はあるだろう? 艦娘だって持っているはずだが」

 

しかし彼女は寛代を見ながら苦笑いする。

「はい。でも鎮守府いちばんの電探娘(寛代)は米子から荒島の方まで行き過ぎて索敵どころではありませんでした。他の艦娘の電探も地上からでは範囲も狭く精度も落ちます」

「おいおい、それって大丈夫か?」

 

呆れたような私の言葉に彼女が応じる。

「山城さんの電探も旧型ですし。他は駆逐艦や巡洋艦がほとんどで……せめて美保に正規空母か別の戦艦が居ればと思いますが」

 

私は肩をすくめた。

「やれやれ。先が思いやられるな、ここは」

 

遠くから聞こえる航空機の音が寂しく響いた。

 

 

以下魔除け

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※これは「艦これ」の二次創作です。

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PS:「みほちん」とは

「美保鎮守府:第一部」の略称です。

 


 
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