No.851974

飛将†夢想

古の猛将・李広に準え飛将軍と呼ばれた呂布。
だが、最強と謳われた男にも死が訪れる。

再版してます。。。
作者同一です(´`)

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2016-06-07 13:25:39 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1715   閲覧ユーザー数:1558

 

 

『三国志』

 

三国志とは、中国の後漢末期から三国時代にかけて群雄割拠した時代の興亡史である。

 

 

 

(…俺は死ぬのか?)

 

 

自分の城であった下丕城に、

幾つも立てられ風に靡かれる『曹』の旗を見ながら、自身に問う男。

 

男はボロボロになった鎧を身に纏い、

両手首をまとめて太い縄で縛られ、

更にその上から胴体ごと鎖で何重にも巻かれ拘束されていた。

 

その男の事を知っている者ならば、

彼のこの姿を想像することは出来ないであろう。

一部の者は『そうさせてやろう』と思っていただろう。

男をこの様な姿にさせた者も、後者の内の一人であった。

 

 

「惨めだな、呂布よ…」

 

 

旗を見ていた男…呂布に語りかける小柄の男。

だが、その小柄な身体からは並々ならぬ覇気が溢れ出ていた。

 

男の名は曹操。

『乱世の奸雄』と呼ばれた、英雄であった。

曹操はそのまま言葉を続ける。

 

 

「ぬしが消えた時、この群雄割拠の乱世に新しい時代が訪れる。そして、その先の時代の先頭を歩むのは、この曹孟徳だ」

 

 

「…俺は、消えるのか?」

 

 

曹操の言葉を聞かず虚ろに尋ねる呂布。

言葉に覇気が無い呂布の問いに曹操は哀れに思い、顔を歪めると、

それの問いに答えず右腕をゆっくり高く上げる。

すると、それと同時に呂布の左右に待機していた曹操軍の屈強な兵士が、

呂布の首に鎖を巻き付け始めた。

 

 

「…どうなのだ、貂蝉…」 

 

 

呂布が問いを投げかけた相手が違うことに、

曹操は気付くこともなく、

 

 

「さらばだ、乱世の亡霊よ」

 

 

その高く上げた右手を振り下ろした。

それが合図だったのだろう。

呂布の首に鎖を巻いた兵士たちはその鎖を両手で持って、

 

ガションッ!!!!

 

一斉にその鎖を引いた。

大きな鎖の音を周囲に響かせながら。

 

 

処刑後、

永遠に続く暗闇の中で浮遊する呂布の意識。

呂布は“意識だけ有る”という状態で、

ただただ身を任せる様に浮遊し続けていた。

 

だが、

それも突然のまばゆい閃光と共に一変する。

 

 

(………ッ)

 

 

呂布の意識はどうする事もできず、

そのまま光に飲み込まれた。

 

 

并州・上党城近郊

 

 

広い并州の大地に砂埃が舞い、地響きが鳴る。

その原因はそこを駆ける騎馬数千の存在であった。

 

騎馬隊の先頭を駆けるのは、

紫紺の髪を靡かせる年若い娘。

豊満な胸の上からサラシを巻き、

後は着物を羽織る程度の装備だが、

 

 

「んぅ~…やっぱ、馬上で直接肌に感じる風は格別やなぁ♪」

 

 

それは娘の台詞通り、

風を、自然を身体に感じさせる為自ら選んだ装備で、

同時に彼女が防御を考えず動き易さを優先した格好であった。

 

娘の名は張遼。

併州・上党城の武将であり、

『神速』の異名を持つ猛将である。

その名は未だに大陸全土に知られていないが、

軍の兵士たちからは絶大な信頼があった。

 

目をつぶり、

顔を空に向けて風を感じながら馬を走らせる張遼。

その彼女に、後ろから兵士の一人が叫ぶ。

 

 

「張遼様ッ、前方に敵影確認!!ご指示を!!」

 

 

兵士の言葉に張遼はバッと前を向くと、

兵士の報告通り敵部隊を確認するなり、

手に持っていた得物である長刀『飛龍偃月刀』を握り直した。

 

 

「よっしゃっ!!敵はゴロツキ上がりの戦下手ばかりや、さっさと終わらせるでぇ!!鋒矢の陣を組みぃ!!」

 

 

「「「ハッ!!!」」」

 

 

張遼が後ろを振り返りながら『飛龍偃月刀』を高々と上げると、

部隊はそのまま止まらず“鋒矢の陣”を展開。

そのまま気合いと共に速度を上げる。

 

敵部隊も張遼たちに気が付くのだが、

休憩を取っていたのだろうか慌てて武器を持ったり、

果ては逃げ出す者も現れる始末。

 

そのような事はお構いなしに、

張遼たちはそのまま混乱状態の敵部隊に向かって突撃するのであった。

 

 

 

蒼い広大な空。

何度も見上げた景色が目の前にある。

あれから目を覚ました呂布は自身を疑っていた。

 

 

「…此処は」

 

 

そのまま、ゆっくりと身体を起こす呂布。

辺りを見渡すと観たことのある山々、大地があり、

そして自身にも肉体がある。

恐る恐る首にも手を触れてみるが、

生前のままの、丈夫なままの首があった。

 

 

「…地獄、か。此処は」

 

 

だが、未だに生き返った気がしない呂布は、

此処を生前悪事ばかり働いた者が堕ちるとされる“地獄”と判断し、

立ち上がって宛てもなくさ迷うことにした。

 

それから暫く呂布がさ迷い続けていると、

その耳に金属が激しく交錯する音と悲鳴、怒声が入る。

 

咄嗟に呂布はその音の下へ向かうなり近くの木に身を隠して、

それを確認した。

 

 

「…黄色の頭巾、“黄巾賊”か?」

 

 

先ず呂布の目に映ったのは、

黄色の頭巾を被る軽装の男たち。

その姿は呂布が若い頃に起きた大規模の農民反乱『黄巾の乱』で農民たちの武装した時の姿であった。

 

黄巾賊も漢に不満を持って立ち上がったが、

それも名ばかりで大体の者は意味を履き違い悪事を働いていた。

呂布はその事を加え、

此処が地獄であるという事を確信しつつあった。

 

そして、次に目に入ったものによって、

いよいよ呂布は此処が地獄であると本当に信じ始める。

 

呂布の目に入ったのは、紫色の旗を付けた騎馬兵の姿。

その旗には『丁』の文字が書かれており、

呂布の良く知る人物…自らの手で殺害した義父・丁原の旗と全く同じものであった。

 

 

「……フッ、ハハハ…死んで尚、戦い、殺し合えというのか。まぁ、それも善いだろう」

 

 

目の前の光景に呂布は思わず笑ってしまうが、

それも半分は逃避の笑い。

だが、直ぐに気持ちを切り替えると呂布は走り始める。

 

それが此処で受ける罰の一つであるのならば、

と覚悟を決めた時にはもう目前に黄巾賊の姿があった。

 

 

「っ、な、何だテメェは!?」

 

 

呂布の姿に気付いた黄巾賊の一人が剣を向けて叫ぶが、

呂布はそれを無視してその男に向かって走る。

それに対して恐怖を感じた黄巾賊の男は慌てて剣を構えるが、時既に遅し。

呂布の拳は既に彼の頬に触れていた。

 

ゴキャッ!!

 

呂布の拳により、顎の骨を粉砕されショック死する黄巾賊の男。

呂布の姿、先程の鈍い音に近くにいた黄巾賊たちが気づくと直ぐに脅威と感じ、

呂布は遠巻きに包囲される。

 

だが、呂布はその状況に焦りもせず、地面に転がっていた剣を拾う。

さっきの男の物であろう、ブンッと一振りして感覚を確かめると、

自ら黄巾賊に飛び掛かった。

 

飛び散る鮮血。

呂布の目の前にいた男がズルズルと大地に倒れる。

それを目の当たりにした他の黄巾賊は、

恐怖の余り呂布に向かって走った。

 

 

(…この感じは)

 

 

黄巾賊を斬り捨てながら、ふと何かが違うと感じる呂布。

それは身体が軽いということ。

呂布の身体は死んだ後より確実に若くなっていたのだ。

 

それは、最盛期の頃の肉体。

呂布はそれを知ると尚更戦いに準じたくなった。

“地獄での罰”だからではない。

それが“戦士の性”だからである。

 

気付けば周りには屍しかなく、

残った黄巾賊は逃げ出していた。

そして、そこには血まみれの呂布、ただ一人だけになった。

 

 

「…ちょ、何や、これは」

 

 

と、そこに狼狽した女の声が呂布の耳に入る。

呂布が目をやると、

そこには馬を操りながら近寄る張遼の姿があった。

 

更にその後ろから騎馬隊が続くのを確認すると、

呂布は切れ味の落ちた剣を投げ捨て再び転がっていた剣を拾う。

 

 

「っ、ちょい待ちぃっ!!」

 

 

呂布の行動を見た張遼は直ぐに察したのだろう、

慌てて呂布の前に手を出して止めようとする。

 

 

 

「…来ないのか?ならば…」

 

 

張遼の言葉に呂布は制止せず、

剣を持ったままゆっくりと騎馬隊に歩み寄る。

その呂布の姿に兵士たちは、

身体の震えと戦いながら隊列を整え始めた。

 

 

「だから違うんやて!!コラァッ、お前らも何もすんなッ!!」

 

 

この状況に、張遼は呂布と騎馬隊たちを交互に見ながら叫ぶ。

それにより、騎馬隊の兵士たちは信頼している将からの命として、

呂布は先の言葉より覇気のこもった言葉に、その行動を止めた。

 

呂布の歩みが止まった事を確認すると張遼は安堵して息を吐き、

そのまま武器を部下に投げ渡して馬から降りた。

 

呂布は立ち止まるも警戒は解かず、

張遼が目の前に立っても剣は握り締めていた。

 

 

「いやぁ、立ち止まってくれてホンマ感謝するわぁ。ウチの名は張遼、字は文遠。今は上党城太守・丁原の配下として働いとるもんや」

 

 

「……張、遼?」

 

 

だが、その剣の柄を握る力も張遼の言葉により一気に弱まる。

張遼は呂布の動揺に気付かず、話を続ける。

 

 

「それにしても今回の戦は大収穫やわ。黄巾賊の将もおったらしいし、アンタみたいな凄腕の猛将に会えたしなぁ♪」

 

 

「…いや、同性同名…」

 

 

一行にブツブツと自問自答を繰り返す呂布に、

一行にそれを気にせずベラベラと話す張遼。

その二人を見ながら騎馬隊の兵士たちは汗をかいた。

 

 

「…ちゅう訳や、是非アンタにはウチらの仲間になってほしいねん。頼む、来てくれんか?あー…何なら、朱…丁原に会うだけでも構わへんッ、な?」

 

 

と、気付かぬ内に張遼が話の核を呂布に伝える。

呂布も自問自答の中で何かを得たのであろう、

既に独り言は呟いておらず張遼のその言葉に耳を傾けていた。

 

暫くの沈黙。

だが、呂布の言葉により再び会話が始まる。

 

 

「…一つ条件がある」

 

 

「何、何?ある程度なら聞いてやるで」

 

 

「…俺の質問に答えてくれ。此処は何処だ?」

 

 

呂布の口から出る疑問に張遼は一瞬唖然とした。

てっきり此処に在野として居た者だろう、

と思っていた張遼はとりあえず呂布の問いに答える。

 

 

「此処は上党近郊、もう少し北に向かったら晋陽に入るなぁ………アンタ、方向音痴かぁ?」

 

 

「…地獄、ではないのか?」

 

 

張遼の言葉を聞かず再び問う呂布に、

張遼は少し不安が過ぎる。

だが、約束は約束。

張遼は呂布の問いに答えた。

 

 

「地獄って…まぁ、この御時勢なら民からしたら地獄かもしれんけど…なぁ、アンタ、さっきの戦いで頭とか打っとらんか?ウチ少し心配になってきたわ」

 

 

と、張遼は呂布の頭部や身体のあちこちを見始める。

呂布も、下丕城の戦いで頭でも打って今本当は夢でも見ているのではないだろうか、と考えてはいた。

だが、こんな感触ある夢は見たことなく、

その予想も消えかけていた。

 

 

「…もういい、分かった。とりあえず休みたい。城で休ませてくれないか?」

 

 

混乱が極まった呂布は少し落ち着いて整理もしたかったので、

とりあえず張遼の申し出を受ける。

 

そんな呂布の言葉に張遼は笑みを浮かべて、

 

 

「了解や。アンタは黄巾の将を討ち取った上党の民の恩人でもあるからなぁ、手厚く歓迎するでぇ」

 

 

と、部下の一人を呼んで、その乗っていた馬を呂布に貸すよう伝える。

呂布は張遼に促せられるまま馬に乗り、

張遼たちについて行くのであった。

 

 
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