No.851543

真・恋姫†無双~司馬家の鬼才と浅学菲才な御遣いの奇録伝~6話

H108さん

遅れてしまい、申し訳ございません。先日までネット環境のない実家にいまして、執筆がほとんどできない状態でした。

2016-06-05 02:01:45 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2981   閲覧ユーザー数:2754

司馬懿が曹操軍に仕官してから数ヶ月後、大陸では幾つかの大きな出来事が発生した。

まず、幽州の公孫賛が袁紹に敗れ、公孫賛はそのまま徐州の劉備の領地へ落ち延びた。

そして袁紹はそのまま北方に勢力を伸ばし、やがて河北四州を支配下に置いたという。

北へはこれ以上進軍できない為、今度はおそらく南方へと進軍し、次なる標的は自分達、もしくは劉備達が治める徐州にするはずだと大半の者達は予測していた。

腐れ縁である袁紹の派手好きな性格を軍内の誰よりも理解している華琳自身はここを最優先で攻めてくる事を推測し、国境の各城に万全の警戒で当たるように通達した。

 

 

「(袁紹は確か三公を輩出した名門袁家の次期当主。本人の実力は大した事がないが、彼奴とその大軍を率いる武将は侮れぬ者ばかり。文醜、顔良、そして張郃。特に張郃は袁紹に仕える以前、韓馥という者の下で複数の功績を上げた猛将。警戒すべし)」

 

現在行われている軍議には司馬懿も参加しており、曹魏に入ってから文官として常に良い結果を出してきた司馬懿は早くも軍議に出席する事を華琳に認められた。

繰り広げられる議論を聞きながらも司馬懿は独自に袁紹の軍勢を分析し、軍議はそのまま河南を支配下に置いている袁術について主題が変わる 。

桂花によれば袁術は特に大きな動きは見せておらず、華琳や劉備の国境を偵察している兵が確認された程度の事。

もう既に袁術に対する警戒指示を出していると桂花は申し上げ、改めて彼女の責務の多さを感じる司馬懿。

 

「(筆頭軍師を自ら名乗るのは伊達ではなかったか。その感情に流されやすい部分さえ直せば彼奴の真価が発揮できるはずなのだが……。現状では非常に困難である。それ以前に、日頃ろくに睡眠を取っていない彼奴の体調を安定させる為、優秀な軍師のもう一人や二人は欲しいところ )」

 

華琳はできれば手の空いている者に任せたいと言うが、戦闘以外の仕事もうまくこなせる秋蘭は他の案件を任せられている為、この軍議にいる他の面子に桂花は一人一人視線を向けるが、特に役に立ちそうな人物もいなかったので華琳に不要だと言おうとした途端。

 

「司馬懿。あなた、桂花の手伝いをしてみない?」

 

「か、華琳様!?」

 

華琳の唐突な発言によって驚きを隠せない桂花。

無論これは当然の反応であり、あれだけ司馬懿を欲しがっていながらあまり重用していなかった華琳が急に重要な任務を与えると言ったのだ。

とうとう重用される時が来たのかと考える者や、ただ驚愕していた者など反応は分かれていた。

 

「我で宜しければ」

 

何の異議を問う事もなく、ただ冷静に命令を承る司馬懿。

 

「華琳様、お言葉ですがこのような得体の知れない者の手を借りなくとも私は……!」

 

一刀や他の男性に対する反応ほどではなかったが 、桂花は司馬懿と行動を共にする事に相当な拒絶感を示していた。

それに対して司馬懿は首を傾げながら、

 

「不可解なほどの嫌悪感で拒んでいますが、どうされます?」

 

華琳に方針を委ねるかのように問う。

 

「司馬懿、あなたはこの件を成功させる自信はあるのかしら?」

 

「あります。我が取り掛かる以上、心配ご無用」

 

真剣な眼差しと態度で司馬懿の自信を確認する華琳に司馬懿は気負う感情の一片も見せず、簡単に請け負った。

 

「そう。なら桂花、司馬懿。国境の警戒に関してはあなた達二人に任せるわ」

 

「「……御意」」

 

こうして軍議は終了し、各武将は課せられた職務へと戻っていく。

司馬懿も支度の為に自室へ戻ろうとするが、何故か玉座の間に残っていた桂花に呼び止められる。

振り返ると、桂花は言いたい事を待っていたかのように立ち尽くしていた。

 

「何か?」

 

「……二人でやる事になったからって全部私に押し付けるんじゃないわよ」

 

「そのような事をして何の意味がある 。通常、複数人宛ての任務はそれぞれの人物が自分に課せられた役割をまず理解し、そして自らの能力及び才能をどう用いれば役割に貢献できるのかが重要なのだ。よって周囲との連携が要となる集団における任務での役割の押し付けなどは無意味である」

 

「……ふん、あんたに言われるまでもないわよ」

 

内心では納得していないが、決定された事項である以上、桂花は司馬懿と働くことを渋々受け入れるしかなかった。

 

「では、お互い支度を終えた後、この件について話し合うとしよう」

 

そう言った司馬懿は今度こそ玉座の間から部屋へ向かい、それにつられるかのように桂花も出て行く。

 

 

 

 

「司馬懿様!」

 

任務に行く支度を終えた司馬懿は部屋を出た瞬間、一人の衛兵に呼び止められた。

その声の主である衛兵の方に顔を向けると、複数の書状を手にしていた。

 

「司馬懿様宛に複数の書状が届いております。送り主は司馬防、司馬朗、司馬孚、司馬馗と記されております」

 

「ご苦労。読み終えるまでしばし待たれよ 」

 

 

連絡係から書状を受け取った司馬懿は一つずつその場で広げ、読み始める。

本来であれば書状を自室に置いて任務に向かうべきであるが、集合時間まで少し時間があるので、迅速で読み切る事にした。

最初に読み始めたのは父親である司馬防によって書かれた書物。

 

『くだらぬ事でこの私に手紙などを送るな。そこまで知りたいのなら他を当たれ』

 

 

次に読んだのは長女の司馬朗によるもの。

 

『ご両親が我らに名付けてくださった神聖たる真名を忘れるほどの愚者に教える事はない』

 

そして連続で最後の二つを読み始める。

 

『確かせんって読み方だったはず。字までは覚えてない。ごめん 』

 

『知らん。それより姉ちゃん、なんで曹操の陣営に入ったんだよ?』

 

読み終えた後、手紙を持ってきた兵に自室の机の上に置いていくよう指示した司馬懿は自身にとっては初めての城外の仕事場へと向かう。

 

 

仕事場へ向かう途中、司馬懿は自分の妹である司馬孚の手紙に書かれた自身の真名に関する内容について考えを巡らせていた。

 

「(戦、線、千、船、仙、専、閃、煽、鮮、蝉……。候補の数が多すぎる)」

 

否、考えを巡らせていたというよりは自分の真名の「せん」という読み方を持つ字を知識の限界まで思い浮かべていただけだった。

 

「(字の意味、及び我が親が何故その字を真名にしたかを予想すれば少ない量に絞れるが……。それでも多い事に変わりはなく、そもそもその字が本当に

合っているのかなど分かるわけがない)」

 

例えば真名が戦で「せん」という読み方だとしても、荒事を嫌う親がそのような真名を子につけるはずもない。

ましてや本当に深い意味がある「せん」という読み方を持ち、自身の本質と繋がる字など到底考えられるはずもない。

今日読んだ手紙はまだ四つ。

残りの四人の妹達が司馬孚の手紙以上に有益な内容を含んだ手紙を送る事を期待しかないだろう。

 

「(現時点で詮索は無用。ここで判明しても明確な利がない以上、職務に専念すべし)」

 

これ以上考えても無駄だと悟った司馬懿は思考を断ち、任務へと向かう。

 

 

 

場所は変わってここは袁紹軍の支配下にある冀州に立つ袁紹の城。

ここで大将軍へと昇格し、一気に北方の制圧に成功を祝う軍議を行っていた。

劉備の領地を先に落とした方が得策なのにも関わらず、袁紹と文醜は華琳の領地を攻め落とす事に張り切っており、 顔良はその無謀さに片隅で呆然としていた頃、一人の女性の声が玉座の間に届く。

 

 

「遅れて申し訳ねえっす、麗羽様」

 

声の主は一人の長身の女性。

袁紹陣営の兵や将と同じく、金で出来た鎧を着ているが、玉座の間にいた三人とは違い、鎧のあちこちに大きな傷が目立っていた。

黒のドレッドヘアーを持ち、鎧と同じく顔面にも複数の傷跡が際立っていた。

女性の名は張郃。字を儁乂。

 

 

「あら、獰鬼(どうき)さん。ずいぶんと遅かったですわね」

 

「すんません、ちょっと武器の手入れとかに長引いちまって」

 

「まあいいですわ。もうあなたも知っていると思いますけど、私達はあの生意気小娘を攻め落とす事を決定しましたわ。

 

「おお、本当ですかい!麗羽様、寛大すぎるにもほどがありますぜ!」

 

麗羽の宣言に興奮せずにいられなかった張郃の喜びは親から菓子を与えられた子供にも喩えられるほどだった。

張郃は戦場においての指揮官としてはそれなりに有能なのだが、かなりの戦闘狂でもある。

猛者揃いである曹操軍との戦いが楽しみで仕方ない張郃は武将として必須な本来の判断力と冷静さを無くしていた。

 

 

「おーっほっほっほ!ほら斗詩さん、獰鬼さんも賛成しているでしょう?やはり我が軍最強の将もこの私が正しいと理解しているのですわ!」

 

「…………はぁ」

 

玉座の間に響くほどの高笑いをしていた袁紹に顔良は呆れすぎて、溜息しか吐けなかった。

 

「へへへへへ……。公孫賛との戦いはただの蟻潰しだったからなぁ……。曹操のトコには夏侯姉妹やかつて董卓軍に所属していた張遼、さらにはここ最近良い成果を出している楽進に許褚とかいう奴もいたなぁ。ああもう、どいつもこいつも喰らい尽くしてぇぞ……」

 

張郃の方に視線を送れば、あまり人には見せられない表情でよだれを垂らしながら、一人で何かをブツブツ喋っていた。

独り言を終えたと思ったら、今度は文醜に顔を向けた張郃は、

 

「おい、猪々子。言っておくが夏侯姉妹と張遼は私が殺るから横取りすんなよ?」

 

まるで脅迫するかのように凶悪な笑みを浮かべていた。

 

「ええ、そりゃさすがにないだろ。アタイだって強い奴と戦いたいんだぜ?」

 

「ならお前には許褚と典韋を譲る。それでも不満なら夏侯淵も譲ろうか?」

 

「おお、いいね!アタイもきょっちーと流琉とは一回戦ってみたかったんだよな!いいぜ、その話乗った!」

 

戦闘を楽しむ者同士、話し合いはスムーズに進んでいた 。

 

「さあ!三人とも、今こそあの生意気小娘を叩き潰す準備をしてきなさい!奴の泣き顔を見るまでは私は止まりませんわよ!」

 

 

華琳を打倒する事にますます燃えていた袁紹に命令された三人の武将はそのまま軍の準備へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「(絶対負ける……。この戦、絶対負けちゃうよぉ……)」

 

 

軍の編成に向かう途中、三人のお気楽さに顔良は絶望するしかなかった。

 

 

 

あとがき

 

どうも、H108です。

この度は更新に遅れ、申し訳ありませんでした。

 

 

今回初登場した第二のオリキャラである張郃ですが、彼女の登場によって菅渡の戦いは原作とは多少の違いが出ます。

尚、脳筋でも男でも司馬懿にここまで嫌悪感を示す桂花に違和感を感じる人もいるかもしれませんが、近いうちにその理由を掘り下げていく予定です。

 

 

 

今後不定期更新になると思いますが、これからもこの作品を宜しくお願い致します。

 

 


 
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