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ALO~妖精郷の黄昏・UW決戦編~ 第38-9話 女神降臨、覇王再臨

本郷 刃さん

第9話です。
サブタイ通りになります、ついにあの二人の登場!

では、どうぞです・・・!

2016-05-29 14:32:39 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:7436   閲覧ユーザー数:6829

第38-9話 女神降臨、覇王再臨

 

 

 

 

 

 

 

No Side

 

アリスによる先の大宣言により、ダークテリトリーの侵略軍ほぼ全てが南下した彼女を追ってきた。

囮部隊としての役割を果たし、見事に釣れたということになるだろう。

 

また、一時は低迷が危ぶまれた囮部隊の士気もいまは高く、良い状態と言える。

絶体絶命と思われた暗黒術師団による大規模術式《死詛蟲術》、彼らを守るために重傷を負った二人の整合騎士。

エルドリエは重傷であるが意識はあり治療さえ施せば再び戦うことも可能だが、ユージオは瀕死の重傷であり一刻を争う状態だ。

飛竜に乗せて運ぶには不味く、一台の馬車の積荷を他の馬車に移し、

空いた馬車に二人を乗せて高位の修道士に二人を治療させながら、氷華と滝刳に馬車を掴ませて本陣に移動させることになった。

二人の騎士の命を懸けた行動に心打たれ、作戦を成功させるのだと意気込み士気があがったのだ。

 

しかし、アリスは不安定な状態にある。

弟子であるエルドリエだけでなく、恋人でもあるユージオが瀕死の重傷、危篤状態ということもあり一時は錯乱するほどであった。

それを落ちつかせたのはベルクーリとティーゼとロニエの存在だった。

 

「落ちつけ、アリス・シンセシス・サーティ!」

「おじ、さま…?」

 

氷華と滝刳に連れられて馬車が飛び去っていた後、部隊から少し距離を置いたところでベルクーリはアリスに檄を飛ばし、

泣き腫らして半ば呆然自失に近かった彼女は顔を上げた。

普段は温厚で優しく接してくれるベルクーリの怒声に驚くが、そのお陰か彼女の意識は確かなものになった。

 

「俺がファナティオを失ったら、きっと嬢ちゃんと同じになるかもしれねぇ。

 だけどな、ユージオもエルドリエもまだ生きているじゃねぇか。

 エルドリエはユージオが庇ったお陰で無事に済んだし、ユージオに関してはお前さんを倒した男だぞ。

 信じろ、そう簡単にくたばるような男じゃないさ」

「はい、小父様……申し訳ありません、見苦しいところをお見せしてしまい…」

「構わんさ。それに何も出来なかったのは俺とて同じだ」

 

苦々しい表情を浮かべるベルクーリ。彼もあの時即座に対処できず、二人の騎士が重傷を負う事態となったことを悔いている。

だが、指揮官である以上はいつまでも悔いている場合ではない、彼らが守った兵達と共に作戦を成功させなければならないから。

二人の決死の行動に応えることが報いとなると思っている。

 

そこへティーゼとロニエの二人がやってきた。

 

「お話し中、失礼いたします! 補給部隊所属、ティーゼ・シュトリーネン初等練士です!」

「同じく、補給部隊所属ロニエ・アラベル初等練士であります!」

 

形式通りの名乗りと共に近づいてきたのはまずは礼儀、次にここがダークテリトリーであるからこそのスパイ対策だ。

それでも普通ならば整合騎士を相手にこの二人の位では話しかけるのも億劫になるものだが、ティーゼとロニエはアリスと親しい。

加えて、いまこの二人には上位騎士の言葉を超える最優先の任務がある。

彼女達は顔を見合わせてから頷き、揃えて言葉を発する。

 

「「最上位騎士ユージオ・シンセシス・ゼロ様より、騎士アリス様の支えになるよう申しつけられました」」

「ユージオ、から…?」

 

最上位騎士の命令、それは整合騎士長であるベルクーリの命令さえも棄却できることを意味している。

だからこそ、ティーゼとロニエは上位騎士二人の話に入ることを許されているのである。

 

彼女達にそう命じたユージオは本陣に送られる前、二人を呼び寄せていた。

 

 

「ぼく…もどる、ま、で……アリス、ささえ、て…。まもる…じゃ、なく……ささえて、あげて…」

「「先輩…!」」

「だい、じょ…ぶ……かなら、ず…もどる、よ…。だから、たのむ…ね…」

「「はい、必ず…!」」

 

運ばれる前に一度意識を取り戻し、泣き縋るアリスをベルクーリが引き離した後の出来事。

 

 

本当はユージオもアリスから離れたくないという思いが二人にはしっかりと伝わった。

傍に居て自分の手で守りたい、だけどそれは叶わない。

ならせめて、同じ女性であり少しでもアリスと関わりのある彼女達に白羽の矢を立て、支えてくれと願った。

最上位騎士からの命令、だが二人は尊敬する先輩からの願いとして受け取った。

アリスのみではなく、自分達一人一人さえも守るためにエルドリエと共に全力を尽くした。

なら、今度は自分達が彼に応える番だと考えたのだ。

だから、ティーゼとロニエは支えになる。ユージオが戻るまでの間、少しでもアリスが前を向けるように。

 

「あの、私達などではいまのアリス様のお心の程を察することはできません。

 ですが、先輩が学院から去ることになった時、私はもうお会いできないかもしれないとも思いました。

 でも、先輩は戻ってきてくださいました。今度も、帰ってきてくださると信じています」

「先輩、必ず戻るって言っていました。アリス様のところに戻るって!

 私達、いつも先輩達に助けられてばかりでしたから、今度は私達が先輩やアリス様のお力になります!

 アリス様がユージオ先輩のことを想っていれば、絶対に先輩の力になります!

 だから、その間だけでも私達がアリス様をお助けします!」

 

アリスは心打たれると同時に自身を不甲斐無く思った。

愛するが故に錯乱した自分に対し、彼女達も一時は動揺しただろうがいまではユージオの思いに応えるため、

毅然とした態度でアリスとベルクーリの前に立っている。

それに引き換え、自分は悲しみに暮れていまのいままで泣いていた。

ようやく、ユージオのやるべきことをやるという言葉が浸透した。

 

「っ…ありがとう、ティーゼさん、ロニエさん…!」

 

ベルクーリもティーゼとロニエに深い関心を抱いていた。

彼女達は前最高司祭アドミニストレータや元老長チェデルキンによって失敗作の烙印を押されたレンリを立ち直らせた。

そしていま、ユージオが倒れたことで心に影が落ちたアリスすら立ち直らせてみせた。

聞いた話ではキリトとユージオが学院に居た頃に傍付きとして彼らから指導を受けていたという。

彼らの影響は大きいものなのかもしれないと彼はこの場にいない二人に感謝した。

 

 

 

一方、人界守備軍の本陣は少々ざわつく事態になっている。

整合騎士の乗るはずの二頭の飛竜が馬車を足で掴み上げて戻ってきたのだ、中からは衛士が顔を覗かせている。

本陣を任されているファナティオは周囲に落ちつくよう檄を飛ばし、着陸する馬車に近づいた。

 

すると、中から衛士の一人が飛び出たことでファナティオと鉢合わせた。

 

「ふ、副騎士長様!?」

「落ちつけ、一体なにがあった?」

「は、はい、報告致します!

 最上位整合騎士ユージオ・シンセシス・ゼロ様、

 並びに上位整合騎士エルドリエ・シンセシス・サーティワン様が敵の大規模術式により重傷!

 現在、高位治癒術で治療中ですが、どうかお二人を…!」

「っ、分かった! 高位治癒術を扱える者で手の空いている者はすぐに来い! 重傷者の治療を頼む!」

 

周囲にそう言い付けてファナティオも馬車の中の様子を見たが、

副騎士長である彼女ですらも思わず悲鳴を上げそうになり、しかしなんとか息を呑むに留めたが絶句した。

 

鎧を粉砕されたのか、それでも治療を受けたお陰で座り込めるくらいには回復しているエルドリエはまだいい。

だが、その傍で高位修道士達に治療されているユージオは違った。

全ての鎧が吹き飛び、全身から血を流し、特に右半身は抉られたような箇所も多く、

右腕からは折れた骨が飛び出ており、右腹部は貫通している箇所もある。

左半身もエルドリエが負った傷全てをそのまま彼も負ったような状態であり、よく生きていると思えるほどだ。

 

そこでエルドリエがファナティオに気が付き、ふらつきながらも馬車から降りようとしたところを彼女は肩を貸し手伝った。

さらにデュソルバート、アーシンとビステン、リネルとフィゼルも駆けつけ馬車の中の様子を窺い絶句している。

 

「お前が飛び立ったあと、一体どんな術式を受けた?」

 

ファナティオはエルドリエに高位治癒術を掛けながらも詳細を聞き出すことにした。

 

「私が飛び立った直前に、敵軍は自軍の兵士達を生け贄にして大規模術式を展開したようです。

 闇素を用いた天命への直接攻撃を行う呪詛系遠隔攻撃でした。

 黒き長虫は囮部隊へ向かい、それを受け止めるべく私は《記憶解放術》を発動し、

 私の命を以て収めるつもりでしたが、ユージオもまた《記憶解放術》を行使して介入、

 そのお陰で私も命を取りとめることができましたが、倒しきれなかった攻撃を彼が庇い…!」

「囮部隊の方は、被害はあったのか?」

「いえ、私達が優先度を超えたことで引き付けることに成功し、囮部隊は全員無事です」

「そうか……よくやった、エルドリエ。

 ユージオはみなで必ず助けよう、その時に彼に礼を言えば、彼はそれを笑って受け入れるだろう」

「っ、はい…!」

 

エルドリエは囮部隊を守るため、ユージオはその彼を助けるため、両者共に命を懸けて行ったのだ。

そして二人ともそれを成しえた、これを称えることすれ、責めるところなど有りはしない。

ならば、自分達もまたそれに応えねばならない。

 

「副騎士長様! 最上位騎士様の怪我が幾ら高位治癒術を重ね掛けしようにも一向に癒える気配が見えません!」

「なんだと、どういうことだ!?」

「これ以上の天命の損耗は抑えられておりますが回復の兆しがないのです! おそらくは呪詛の影響かとっ!」

 

整合騎士達すらもそのことに動揺するしかなかった。

残されている限られた空間神聖力、しかしそれも多いわけではない。

加えて触媒も余ってはいるが今後どのような展開になるかの予想もつかない状況でのことだった。

 

いま、整合騎士達は二つの選択を強いられていた。

最大戦力にして同僚でもある友か、今後の戦闘に必要である高位の触媒か、先の見えないユージオの容態を前に苦悩が訪れる。

 

 

 

 

アリスが落ちついたことで小休止中にベルクーリとアリスはこの後の展開を話し合った。

 

基本的な方針としては、囮部隊の整合騎士四人の内の一人が倒れるまでひたすら敵を引っ張り数を削いでいくということだ。

既に侵略軍五万の半数が殲滅され、亜人部隊の数も少なく、暗黒術師団はほぼ掃討された。

残る暗黒騎士団と拳闘士団、暗殺者ギルドを損耗させ、暗黒神ベクタさえ倒してしまえば残党が休戦交渉に応じる可能性が高いからだ。

それはダークテリトリーの暗黙の了解が強者に従う、というものだからである。

 

だが問題はベクタを倒せたとしてその後継を誰が行うかというものだ。

ベルクーリとしては暗黒騎士団団長のビクスル・ウル・シャスターであれば是が非でもということなのだが、

先に暗黒騎士団を見た限りでは戦場に彼の姿はなく、彼の補佐である女騎士の姿もない。

思想の違いからベクタに殺されたのではとも考えたが、シャスターの命が消えた気配すら感じ取れなかったことから、

何かしらの理由で出られないのではと判断している。

 

概ねの方針が確定したところにレンリがやってきて、

偵察により一キロル(1km)ほど南下したところに待ち伏せに利用可能な灌木地帯を見つけたと報告してきた。

ベルクーリはレンリに労いの言葉を掛け、全部隊に移動再開の準備をさせるように伝える。

 

そして、灌木地帯目指して移動を始めた…。

 

囮部隊の移動は先頭をレンリが務め、殿(しんがり)をアリスとベルクーリとシェータの三人が務めている。

既に先頭は灌木地帯までだいぶ近づいたが最後尾はまだそれなりに離れているため、

アリス達は警戒しながら徐々に最後尾と距離を詰めていた。

そこに異様な気配が放たれ、後方から何かが迫ってきていることに気付く。

 

「竜騎士、ではないですね……でも、速い」

「ありゃ拳闘士だな」

 

アリスの疑問に応えたのはベルクーリだった。

 

事実、追ってきているのは拳闘士団であり、さらには拳闘士ギルド第十代チャンピオンである青年イスカーンが来ている。

彼は拳闘士団本隊と暗黒騎士団本隊が到達する前に副官のダンパと『兎隊』と呼ばれる機動力に特化した百人と共に腕試しに出たのだ。

 

“心意によって対象物に干渉する”というのが騎士や剣士などを含めて一般的なものだが、

彼ら拳闘士は“心意によって己を強化する”という技術を是としている。

脚力を強化して走ることで遠く離れたところから一気に距離を詰めて駆け抜けてきたのである。

また、拳闘士の感性は独特のものであり、拳を受けることは是とするが剣や武器で攻撃を受けることを拒否するというものだ。

しかも彼らの一撃は整合騎士の鎧であろうとも打ち砕くものである。

 

よって、ベルクーリ自身が戦うことになり、アリスは彼に戦うのなら《武装完全支配術》を使うように言われる。

その準備のために『金木犀の剣』の柄に手を添えるが、これまでの戦闘で天命も神聖力もかなり消耗している。

使うのならば敵の本隊、飛竜に乗る暗黒騎士団相手が好ましい。

 

けれど、敵は迫ってきている。アリスとベルクーリが岩場を降りようとしたその時だった。

 

「私が行きましょう」

 

二人に掛けられた静かな女性の声、アリスは勿論だがベルクーリすら驚く声の持ち主。

濃い灰色の髪は額に張り付くようにきっちりと分けられ首の後ろで一つに束ねられており、清潔感のある容貌だが表情は無い。

年齢はアリスと同じくらいの二十前後であろう。

二人が初めて聞く彼女自身の音である声、ここにシェータ・シンセシス・トゥエルブの【無音】は破られた。

 

 

 

岩場を降りたシェータの許に拳闘士チャンピオンのイスカーンと兎隊が到達した。

 

相対する両者だがシェータは特に思うところは有らず、しかしイスカーンは唖然とした。

拳闘士ではないからとかそういうものではない、

以前に見たことのある女性の整合騎士にしても彼女よりか肉付きはよかったが、彼女は随分と細いのだ。

同じ整合騎士でもこうまで違うものかと思っただろう。

加えて、腰に据えている長剣は金串のように細いのだ。

 

これでは武器も防具も破壊したところで楽しんで戦うことはできないだろう、

そう思い苛立ちを含みながらもイスカーンはシェータと言葉を投げ交わした。

結果的には余計に苛立ちが増すだけで彼は兎隊の十人組長の一人であるヨッテに戦うよう告げ、彼女も自信満々に応じた。

拳闘士の一族は五歳になると拳闘士ギルドの修練所に入れられ、そこで硬度と刃の違う武器を砕く毎に強くなっていく。

今回も整合騎士の剣は砕け散るだろう、イスカーンだけでなく他の拳闘士達もそう思っていた。

 

だが、そうならなかった。シェータの剣は剣よりも固いはずの拳闘士ヨッテの右腕を引き裂いたのである。

中指と薬指の間から肩まで、縦に引き裂いたのだ。

霧のように血が噴き出し、ヨッテは甲高い悲鳴を上げ右腕を抑えながら地面を転がる。

イスカーン達拳闘士は驚愕するしかなかった。

 

 

上位整合騎士シェータ・シンセシス・トゥエルブは四帝国統一大会の優勝を経てシンセサイズされた生粋の騎士である。

しかし、その大会に於いてシェータと戦った相手全てが斬死しており、全ての記録から抹消されている。

彼女の本質はイスカーンと似通っており、彼が殴ることに重きを置いていることに対し、シェータは斬ることに重きを置いている。

違うとすればイスカーンは楽しんでいるが、シェータは楽しんでいないことだ。

 

切断を求めるシェータの性、彼女はそれを封じるために周囲に無関心であり続けた。

相手を無闇に斬り殺してしまわないように。

シェータの切断性はそれほどまでに深く、何かと対峙した瞬間に彼女の眼には断たれるべき切断面が見えてしまうほどだ。

それが無機物であれば、手刀でも滑らかに斬ってしまえるほどに。

 

そんなシェータに目を付けたのがアドミニストレータであり、彼女に誘惑を囁いた。

ダークテリトリーの五種族が相討った最後の激戦『鉄血の時代』において、

その時の戦いで発生した空間神聖力(空間暗黒力)を大量に吸収した物を持ってくれば、何だろうと斬れる最高優先度の神器を作る、と。

シェータは誘惑に抗えず三日三晩を経て一輪の黒百合を発見して持ち帰り、アドミニストレータは神器『黒百合の剣』を生み出した。

完成した剣を用いた整合騎士との立ち合い、シェータは相手を斬り殺し、長い眠りについた。

 

そして、半年前に再び目覚めたシェータ。

新たな最高司祭、最上位の整合騎士、新しい出来事が多い中で守備軍への参加希望の願いでた。

なぜそうしようと思ったのか彼女も理解していない、他の騎士達のように人界を守りたいからなのか、

ただ斬りたいだけなのか、それとも斬ってほしいからなのか。

 

ヨッテの腕を斬り裂いたシェータは感情の解らない溜息を吐いた。

 

「(この人じゃない。最上位騎士のような、見えない人か、斬りたくない人…)」

 

半年前、最上位整合騎士となったユージオに断つべき切断面が見えなかった。

衝撃を受けた彼女だったが、彼はアリスと共に故郷へと帰ったためにそれ以上の行動はできなかった。

だから、もしかしたらこの戦いを経験すれば何か解るのかもしれないと、考えていた。

 

けれどいま斬った相手は違った。故に、シェータは残る百人ほどの拳闘士に斬り込んだ。

 

そんな彼女の凄まじい戦いぶりを目にし、アリスもベルクーリも驚いていた。

敵軍に対して敵意も激しい感情も露わにせず、剣でも斬ることが難しい拳闘士の肉体を容易く斬り裂いているからだ。

これならば任せても問題無いと判断し、二人は迫る拳闘士団本隊と暗黒騎士団に対抗するべく、囮部隊の後を追った。

 

 

手塩に掛けて育てた拳闘士達がやられる光景を目の当たりにし、ついにイスカーン自身がシェータと戦闘を開始した。

全てを斬る心意と全てを殴る心意がぶつかり合い、シェータの左篭手は砕け散って腕が露わになり血は流れるが骨は砕けず、

イスカーンの不可侵の肉体にも切り傷が奔り血は流れる。

拳闘王の拳撃と蹴撃に斬騎士の鎧が幾つも吹き飛ぶがその身に大した傷は無い。

ただ、少しだけ露わになった雪のような白い肌を見て、

呼吸がやや浅くなったことはイスカーンとそれを指摘したシェータしか知らない。

 

イスカーンは右の拳に超高熱の青白い炎を宿して構え、シェータはそれに応えるように極限まで力を込めた心意を乗せる。

斬騎士の剣による漆黒の半月、拳闘王の青白い流星がぶつかり合い、

超高密度の衝撃波が発生して周囲を粉砕していき、倒れている拳闘士達も吹き飛ばされた。

ぶつかり合う心意、シェータはイスカーンの攻撃を敢えて正面から受け止めた。

 

斬りたいから斬る=殺したいから殺す、という図式であった彼女の思いが変わる瞬間でもあった。

楽しいから、ぶつかりたいと思ったのだ。

そして、それはイスカーンも同じであった。この剣を打ち砕くことがどれほど楽しいことか。

 

終わらないでほしい、そう思いながらも決着の時が近づく。

ぴしっ、というささやかな音、それは黒い刀身ではなく拳の骨に罅が入った音だ。

イスカーンはここで体が二つに分かれようとも、そこに恐怖はなくそれでいいとも思った。

これだけ楽しい思いができたから。しかし、両者の決着は中断させられた。

それはイスカーンの副官であるダンパの介入であり、理由は拳闘士団本隊と暗黒騎士団の到着だ。

 

シェータも剣を鞘に納めている。

 

「女、これで勝ったつもりじゃねぇだろうな!」

「その、女っていうの、やめてほしい」

「あ、あのなぁ……ていうか、この状況でどうやって逃げるつもりなんだ?」

「こうやって」

 

シェータを拳闘士達が囲もうとした瞬間、彼女の飛竜『宵呼』が降下し、シェータはその背に飛び乗った。

飛竜はそのまま上昇を始めていき、イスカーンは我知らずに叫んだ。

 

「俺はイスカーンだ! やめろっていうなら、逃げる前に名乗りやがれ!」

「逃げる、わけじゃない。私は、シェータ・シンセシス・トゥエルブ」

 

シェータは宵呼と共に夜闇に紛れて撤退していった。

 

もう一度修練の後に戦いたい、イスカーンはそう思いながらも戦争でそんな我儘が通用しないことは理解していた。

 

「(『光の巫女』ってのを捕まえりゃ、皇帝にあの女の助命を願える…って、馬鹿か俺は!

 他の奴らに気が触れたと思われちまう……あぁ、くそ、なんだっていうんだよ…)」

 

自身に訪れた変化に戸惑いながらも、イスカーンはこの後に備えて部下に治療を頼んだ。

 

この出会いは後に人界と暗黒界の繋がりの一つとなるが、この時はまだ誰も知らない…。

 

 

 

 

囮部隊は灌木地帯にて樹木の陰に隠れるように待機している。

一先ずは拳闘士対策として神聖術を行える修道士二百人に攻撃の準備をさせ、衛士達千人に守らせており、

補給部隊五十人がその後方で待機する形をとっている。

レンリは可能な限り最適な戦闘用意を行うことに腐心しており、それは間違いではないだろう。

侵略軍だけであれば問題は無かったが、現実世界からの来訪者には通用しなかった。

 

ヴァサゴ・カザルス、暗黒騎士ヴァサゴは暗黒騎士団から連れてきた偵察兵三十人と共に補給部隊の許へ来ていた。

既に五人の衛士達が命を落としているが、未だに囮部隊は気付いていない。

ヴァサゴは新たな獲物を見つけたと、巡回をしている女性に目を付けた。さぁ仕掛けよう、そう思った時だった。

 

――シュンッ!

 

滑らかな動きで女性、少女が剣を鞘から振り抜き、ヴァサゴの首元を掠めそうになった。

突然のことに彼は驚き、少女の前に姿を現してしまった。

 

「お嬢さん、なんで解った?」

「眼だけに頼るな、全体で感じろって先輩が教えてくれたから」

「せ、先輩だぁ?」

 

ヴァサゴは驚きながらも問いかけたが返ってきた言葉で新人なんだろうと悟り、

そしてかつて何処かで聞いたことがあると感じたが、それは止められた。

 

「敵襲! 敵襲!」

「ちっ、お前ら仕事だ!」

 

少女、ロニエ・アラベルの敵襲を告げる叫びに我を取り戻し、ヴァサゴは潜ませていた三十人の暗黒騎士達を立ち上がらせた。

ロニエだけでなく、そこへティーゼと十名ほどの衛士達も駆けつけたが一様に凍りついてしまった。

 

敵襲の急報を受け、レンリは動揺するしかなかった。

騎士長達に任されたこの作戦の要であるこの場で物資を無くしてしまえば行動が取れなくなる。

しかも後方の補給部隊といえば、ティーゼとロニエもいる。

アリスに彼女達を任されて自分が守ると言った、自分を助けてくれた彼女達が。

救援を出すべきか、一度森から撤退すべきか、経験の少ないレンリはどうするべきか焦る、そこへ…。

 

「俺達の南進を見抜いて伏兵を先に置いてやがったか。

 レンリは本隊を撤退させろ、嬢ちゃんは補給部隊の救援に向かえ、俺は北からの敵を食い止める」

 

騎士長であるベルクーリとアリスも到着し、指示を出してきた。

アリスは迫る拳闘士団の数を考えて反論するがこれしかなく、三人はそれぞれ動き出した。

彼女は襲撃を受けている補給部隊の許へ駆けだす。

 

 

 

いま、ヴァサゴはロニエの命を奪おうとしている。人の命を、絆を剣先で弄ぶことの愉悦。

それこそ、この男が楽しむプレイヤー・キル(人殺し)である。

ロニエに恐怖と屈辱の涙が溢れる、迫る死と何もできずにいることに、決意が絶望へと変わろうとしていた。

 

「光…?」「なに…?」

 

それがロニエとヴァサゴの同時に出た言葉だった。

舞い降りる乳白色の光の粒子、それに戦慄を感じたヴァサゴはロニエから離れる。

空に浮かぶは女性、真珠のように輝くブレストプレートに籠手とブーツも同色、

長めのスカートは無数の細布が縫い合わされ、翼のようにはためき、夜風によって長い艶やかな栗色の髪がなびいている。

 

「ステイシア様…」

 

ロニエが呼ぶ名は人界の三大神の一角、【創世神ステイシア】のもの。

そのまま彼女は後退し、ティーゼの元まで辿り着けた。

その間ヴァサゴは立ち竦むばかりであり、浮かぶ女性に圧力を掛けられていた。

 

ラ――――――――――。

 

幾千もの天使の唱和が行われたかのような重厚な和音が世界を揺るがす。

しなやかな五本の指が振るわれ、指先からオーロラのような光のカーテンが降り注ぐ。

直後、地響きが起こり悲鳴が上がった。ヴァサゴの部下達の足元で地割れが発生し全員がそこに飲み込まれていった。

 

ラ――――――――――。

 

再び天使の歌声、華麗に手を振るい、先程の数倍の光がヴァサゴに降り注ぎ、その足元に地割れが起こり彼は落下していく。

手を伸ばすその先、見覚えのある栗色の髪と顔、覚えのある気配、ヴァサゴは、過去にこう呼ばれた男はそれを知っている。

 

「マジかよ、おいマジかよ……ありゃ、KoBの【閃光】じゃねぇか」

 

かつて、『ソードアート・オンライン』にてギルド『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』を率い、

PoHと呼ばれた男は驚愕のまま奈落の底へと落ちていった。

同時に理解する、かつて【閃光】が浮かべていた表情とは真逆の冷酷な表情、それがあの漆黒の者と同一のものであったと。

 

 

 

「(ここが『アンダー・ワールド(UW)』のダークテリトリー……アレが、キリトくんの敵)」

 

【創世神ステイシア】のスーパーアカウントを用いてUWにフルダイブしたアスナ。

彼女は眼下に存在する人界人と暗黒界人を認識した直後、

使用をなるべく控えるように言われた管理者権限の《無制限地形操作》を行使した。

軍団の前に谷を作りその行動を停止させ、人界人の傍に居る三十人の暗黒界人達は奈落の底に叩き落とした。

キリトが守りたかったものでもあるが、取捨選択を行った結果は人界人の生である。

《無制限地形操作》の影響により頭痛が伴うも、それも命を奪った対価と判断する。

 

「(この痛みは命の対価、キリトくんの敵はわたしの敵、キリトくんのためならどんな罪でも犯してみせる)」

 

そして、眼下で残って少女を殺そうとしていた男を見て、アスナは嫌悪を感じ取った。

何度も覚えのある感覚、アレは生かしておけない。

即座にヴァサゴを抹殺した辺り、やはりキリトの半身といえるだろう。

 

それからゆっくりと地に降りたち、襲われていた少女の前に立った。

 

「ステイシア、さま…? 貴女は、神様なのですか…?」

 

自分がかつて隣に寄り添う男性を畏敬で見ていた時のような表情を浮かべる二人の少女を見てアスナは悟った。

彼女達も周囲の人達も間違いなく生きている、だからこそキリトは苦悩していたのだと思い、

アスナは胸を締め付けられるような思いになった。

 

「ごめんなさい、わたしは神様じゃないの」

「でも、貴女は奇跡を起こして、私達を助けてくださりました。衛士さん達、修道士さん達、みんなを…」

「そんな高尚なものじゃないわ、本当は落ちていった彼らも止められるものなら止めたかった。

 でも、どちらかを取らないといけない状況だったから、貴方達だけを助ける形になったの」

 

そんな大層なものじゃない、結果的にそうなっただけなのはキリトが守りたいものだったからだ。

とにかく、アスナは『A.L.I.C.E.』を探さなければと思った時だった。

 

「皆、無事です、か…?」

「アリス様!」

 

救援に来てみれば敵の姿はなく、この世のものとは思えないほどに美しい女性がそこに居り、アリスは混乱した。

ティーゼとロニエは無事らしく、大きな被害もないと判断した。

同時に彼女は感じ取っていた、何処かで会ったことがあるような雰囲気を纏っている。

そう、記憶を取り戻す前に、ユージオと共に居た彼に…。

 

「貴女がアリス?」

「え、あ、確かにアリスという名ですが…」

 

周囲の誰しもがひれ伏したくなるような雰囲気を放つ女性に声を掛けられ、

アリスは戸惑いながらも応じられたのは敵意を感じず、何より慈愛の心意すら感じ取れたからだ。

 

「ごめんなさい、名乗ってなかったね。わたしの名前はアスナ。ステイシア神の体を借りてこの世界に来たの。

 アリスはキリトくんの友達でいいんだよね?」

 

キリトの名が出たことでさらに驚くアリスは返す言葉が遅れたが、ロニエが話し出した。

 

「あの、アスナ様は、もしかしてキリト先輩の、恋人、の…?」

「うん、そうだよ」

 

ほんわかとした応答にアリスもティーゼもロニエも反応が遅れたが、やはりキリトの雰囲気が彼女から出ていたのに間違いはなかった。

彼の独特な強者の気配、それは彼女にもある。

 

「キリトくんも来てるよ。いまは親友の男の子のところに行ってるから」

 

アスナが見つめたその先は人界守備軍の本陣である。彼女は十数キロルも離れた場所にいるキリトの位置を完全に把握していた。

 

 

 

 

人界守備軍本陣、移された先の天幕にてユージオは高位治癒術による集中治療を受けていた。

既に空間神聖力は枯渇し、副騎士長であるファナティオが決めた高位触媒の制限に達しようとしていた。

 

彼女は他の整合騎士達と話し合い、今後の展開も踏まえたことで十本の触媒を扱うことを決めた。

これで彼に回復の兆しが見えなければ、見捨てることも考えると。

リネルとフィゼルはなんとしても治療するべきと抗議し、エルドリエとダキラに関しては自身の天命を消費してほしいと言いだす始末。

それを血が滲み出るほどきつく握り締めた拳を隠さずに却下した彼女の姿を見て、四人はそれ以上何も言えなかった。

 

ファナティオはユージオのいる天幕の入り口を守る。

副長として成さねばならないことがあるため、このような選択しかできないことを悔やむ。

キリトと共に大恩のある彼に対し、このような仕打ちはあんまりだと自分でも思っているのだ。

 

「(いけないな、これでは……万が一の時は、私の天命で以て…?)」

 

考える中、ファナティオは妙な気配を感じ取る。

気のせいかと思ったが、直後に周囲にばら撒かれた球体に不味いと判断する。

直後、球体が破裂して煙幕が辺りを満たし、何人もの衛士や修道士達が倒れた、微量ながら毒が含まれているようだ。

ファナティオはすぐさま口元をマントで覆ったために難を逃れた。

 

「(不味い、中の修道士達が倒れたらユージオが…! くっ、敵か!)」

 

さらにファナティオ目掛けて飛来物が迫り、『天穿剣』で斬り落としたが次々に迫る。

加えて煙幕に紛れて何度も敵が交錯し、斬りつけてくるので身動きが取れないでいる。

 

「(この動きは暗殺者か! 暗殺者ギルドは全て囮部隊を追ったわけではなかったのか!)」

 

口元を隠しながら戦うファナティオだが相手の数が多い。

周囲で聞こえる剣の音から他の整合騎士達が全ての暗殺者達に対抗しているらしい。

だがこのままではジリ貧であり、ユージオだけでなく民達も危ないことに変わりはない。

 

そこへまったく気配のない刃が通り、なんとか回避に成功した。

 

「さすがは整合騎士副長というところか…」

「暗殺者め、私の名は知っていても名乗りはしないか…! 暗黒騎士団長と違い、臆病者のようだな」

「臆病者はその暗黒騎士団長の方です、一緒にしないでもらいたい。

 いいでしょう、死にいく者に名乗るのもまた一興、私は暗殺者ギルド頭領フ・ザ」

 

ファナティオの挑発に暗殺者ギルドの頭領であるフ・ザは敢えて乗った。

彼には暗黒騎士団長のビクスル以下と思われることを嫌悪している。

 

かつての名前はフェリウス・ザルガティス、彼は平騎士の幼年学校時代にビクスルに叩きのめされた屈辱で水路に身投げしたが、

当時の暗殺者ギルド頭領に拾われ、奴隷に扱き使われながら生きてきた。

その間に様々な毒の知識を身に付け、自身にすらそれを試し、整合騎士すら瞬時に動けなくするほどの猛毒を作り出した。

フ・ザはビクスルへ復讐の機会を窺っていたが、先日に起きた騒動でそれは叶わなかった。

 

そのため、今回は毒の検証も兼ねて囮部隊ではなく本陣を狙った。

皇帝の命令は『光の巫女を無傷で捕えること』であり、

その過程は指示されていないため、まずは毒の有用性を示してから光の巫女を捕え易くするために行動することにした。

人界守備軍の本陣を混乱させ、整合騎士の動きを止めた。

あとはこの毒針に仕込んだ猛毒を与えれば完遂する。

他の暗殺者達と共にファナティオへ仕掛けようとした、その時だった。

 

――ブォンッ!

 

何かが空を切る音と共に目前の天幕が吹き飛び、その衝撃波によって周囲を満たしていた毒の煙幕も払われた。

何が起こったのか解らない暗殺者達だったが、天幕だった物の中心に立つ者がいた。

 

「やらせない、って……いって、る…だろう、が…!」

 

瀕死の重傷を負ったユージオが立っていた。

誰が見ても立つことなど不可能なほどの傷を受けてなお守ろうとするその姿にファナティオの目尻には涙が浮かぶ。

一方のフ・ザは彼の姿を見て恐怖した、あのような傷を受けていても立つことができる者が整合騎士なのかと。

 

その恐怖に従うように、フ・ザは真っ先にユージオを排除しようと駆け抜け、

ファナティオはそれをさせまいとするが他の暗殺者に阻まれる。

殺った、ユージオの目前に到達し毒針を振り上げたフ・ザは勝利を確信した。

その毒針が目前の若者に突き刺さり、死にもがく様を目に焼き付けようとする…が、

 

「おい、なに人の親友に手を出そうとしているんだ?」

 

その言葉と共にフ・ザの腕は掴まれ、同時にこの本陣に居た全ての者に“殺の心意”が伝わった。

暗殺者頭領は恐怖のままに自身の腕を掴む手を振りほどこうとするが、動かない。

そんな中でも彼らは話を続ける。

 

「助けに来たぞ、親友(ユージオ)

「おそい、よ……しんゆう(キリト)…」

 

親友の窮地を知り、キリトは人界守備軍本陣に降り立った。

そのまま倒れそうになったユージオを後ろから小柄な人物が寝かせながら支えた。

 

「まったく無茶をしおってからに。アリスと共に生きると言ったのはお主じゃろうが」

「すみま、せん……カーディナル、さん…」

「よい、いまは眠っておれ」

「はい…」

 

ユージオを支えたのは最高司祭カーディナル、気絶した彼に神聖術を施してその全ての傷を癒した。

さすがに失った血液は癒せないがそれも特性の治療薬で増やせる。

眼を覚ませば呑ませればいいだろうと彼女は判断した。

 

そして、殺の心意を零距離で受けているフ・ザは目の前の青年にこう思うしかなかった。

 

「(“怪物”、皇帝以上の、“化物”…!?)」

 

カーディナル以外の全ての時が止まったかのように誰も動かない、いや動けないでいる。

圧倒的な強者による圧倒的な殺意、最早誰が見るにも明らかな状態。

 

「ここまで歪んでしまった以上、放ってはおけないからな。怨めよ、俺を」

 

漆黒の神器の剣、彼がこの世界に降りる時に決めた愛用していた剣に付けた銘は『夜空の剣』。

それを誰にも見ることのできない速度で振るい、フ・ザは何も解らぬ内に恐怖のまま死を迎えた。

硬直していた周囲の者達、キリトは即座に剣を振るって心意の刃を飛ばし、数人の暗殺者を斬り裂いた。

ファナティオも我を取り戻し、他の整合騎士達も共に暗殺者達を打ち倒していく。

 

殲滅を終え、キリトとカーディナルの許へ整合騎士達が集った。

 

「久しぶり、と言えばよさそうだな、ファナティオ」

「ふっ、そうだな。しかし、相変わらず恐ろしいほどの強さだな、キリトは」

 

既に暗殺者達は消滅し、一部は空間神聖力となって逝った。

周囲も落ち着きを取り戻し、いまは毒の煙幕の治療を行われている。

 

「申し訳ございません、カーディナル様。我らの後始末をお任せしてしまう形になってしまい…」

「気にするな、これが戦争である以上は仕方のないこと。むしろ、少ない戦力で良くやってくれた」

「皆が奮起してくれたお陰です。それで、ユージオは…?」

「安心するがいい、もう大丈夫じゃ。呪詛も解呪してあるからの、すぐにでも目を覚ます」

 

騎士一同は安心したかのように息を吐いた。

危うく命の瀬戸際まで追い込まれ、そのような状態でも敵の前に立ったユージオが助かったのだから喜びも一入(ひとしお)だろう。

エルドリエに至っては嬉し涙を、ダキラも隠してはいるが師と自分の恩人が助かったことに涙を流し、

リネルとフィゼルは我慢している様子もあるが目尻には涙が一杯だ。

 

 

奥の天幕ではユージオが目を覚まし、カーディナルが作った増血薬を飲んでいた。

 

「不味い……けど、生きてるんだよなぁ…」

 

彼自身、いまも生きていることが不思議でならないが現実である。

アリスとエルドリエと囮部隊を守った、本陣でもその一端を担え、そこをキリトとカーディナルに助けられた。

でもまだ終わりじゃない、『青薔薇の剣』もかなり損耗して鎧も無くなったが戦えないわけではないから。

寝床の隣に置かれている整合騎士用の服、ユージオ用なのか青を基調とした新たな服に身を包み、青薔薇の剣を持って天幕を出る。

 

「お、目が覚めたか。どうだ、寝起きの気分は?」

「最悪だね。フラフラするし、頭痛はするし、節々も痛いし。でも、これ以上寝ているわけにもいかないからさ」

「ま、その通りだな」

 

先程まで死にかけていたとは思えないほどにキリトと軽快な会話をするユージオを見て、さすがの騎士達も唖然とするしかない。

一体どんな胆力をしているのやら、勿論キリトの影響であることに違いない。

 

「ユージオ。お主は鎧が吹き飛んでいたな、新しいものを拵えてあるからそれを着ておけ。

 みなの神器も損耗しておるが、最高位の砥石を用意してある。

 使えば天命を一瞬で回復させられるから使っておけ、予備も持つように」

 

カーディナルは飛竜達を引き連れて大量の積荷を持ってきた。

新たに用意した最高位の治療薬や神聖力触媒に砥石、矢等の消耗品が補給される。

各自が砥石を使うことで神器の天命が全回復し、再び戦闘で力を存分に揮えるようになった。

 

そしてユージオ、彼の新たな鎧は基調としている青は変わらないが、それ以外は白から黒に変わり半分が黒と言っても差し支えない。

それはキリトの影響を鑑みてのことである。青と黒の鎧を纏い、戦支度を整え終わったユージオは飛竜の発着場へ向かう。

 

そこには半年前の別れ際の時に見せた黒衣を纏うキリトが居た。

 

「俺も行くぞ、向こうにはアスナも来ているからな」

「その人ってキリトの恋人だよね? なるほど、それで殺る気十分と」

「なんか字が違わないか? まぁその通りだけどさ」

 

認めた!? 周囲の人員は心の中でツッコんだが言葉にはしない、怖いから。

そこへカーディナルが歩み寄ってくる。

 

「キリト、そこの天幕に飛竜が一匹おる。おそらくお主と気が合うと思う、ぬ…?」

 

天幕の入り口が揺らぎ、黒銀の鱗を持つ大柄な一匹の飛竜が出てきた。

ダークテリトリーの飛竜に良く見られる黒、しかしこの飛竜の黒い鱗は銀のような輝きすら発している。

そしてその体躯、成人してかなりの年齢であるユージオの氷華より一回りも大きい、

性別は雄であり他の飛竜すら寄せ付けない威圧を醸し出している。

 

キリトと飛竜の目が合い、両者は目を外すことなくジッと見つめ合う。

 

「よろしく頼む、『黒天』」「グルゥッ!」

 

なんとも短く静かな意思疎通、しかし両者にはこれで十分だったらしい。

キリトは自身の相棒足りえると判断し、黒天と名付けられた黒銀の飛竜も満足そうに唸る。

ユージオもカーディナルもツッコまない、ツッコんだら負けだから。

 

そんなやり取りを終えて、キリトとユージオはそれぞれの飛竜に乗る。

 

「それじゃあ俺達は先に行かせてもらうぞ!」

「また後で!」

 

二人はカーディナルと騎士達にそう告げ、黒天と氷華を飛ばしてアスナとアリスのいる囮部隊の許へと向かった。

 

 

女神の降臨と覇王の再臨、それは戦場に激動を齎す。

 

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

満を持してついに登場、我らが覇王夫婦のキリアスです!

 

今回も半分ほどは原作未読の方のために軽い説明ありで進めました。

 

あとは本編中にて気付いた方々も多いと思いますが原作とは違いあるキャラ達の生存フラグがありますね。

 

フ・ザもここで死んでいることから把握している人もいると思いますが、名前は明かさないように。

 

なお、その時に先代のゴブリン族長達は死んでいるのでご安心を(オイッ

 

あとヴァサゴがPoHであることは原作未読の方でも今話で大体察せられると思ったので明かしました。

 

キリトにも飛竜です、黒がいいけど暗黒界の竜になっちゃうから黒い銀、名前はそれっぽくしました。

 

アスナさん、原作以上に容赦がないです、PoHとは気付いていませんが覇王妃としての感覚w

 

キリトさん、エグイです、零距離で殺の心意とかやめたげてくださいw

 

カーディナルが戦場に行かないと誰が言った、これで回復と大規模術式と補給は安心w

 

ユージオ復活、キリトとコンビ再結成、誰かコイツらを止めてくださいw

 

アリスとアスナによる嫁コンビ結成、キリトとユージオを止められ……一緒に暴れる光景しか見えないw

 

次回、閑話に入ります、休憩回ってやつですね、笑いとかイチャイチャを入れたいw

 

では皆さん、また次回をお楽しみに!

 

 

 

 


 
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