No.848806

双子物語70話~大学編夏休み1

初音軍さん

雪乃と叶メインのお話。キャラはいっぱいいるのに活かす事ができない悲しみ。
何だかんだで堂々とイチャイチャして充電する二人+他一人。
次の話は同じ日の彩菜辺りの話になりそうかも。

2016-05-21 13:58:35 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:554   閲覧ユーザー数:554

双子物語70話

 

【雪乃】

*************

 

以前、叶ちゃんと付き合っていたときは胸が高鳴って

感情に振り回されて、普通に振舞うのが大変だった。

 

久しぶりにあった叶ちゃんと触れた時は少しドキドキしたけれど

前みたいに強い感情に流されることなく接することができた。

でもそれは決して好きな気持ちが減ったのではなく

なんだろう…一緒にいて落ち着くような安定したような

そんな安心できる気持ちが私の中で芽生えたみたいで

私は今の感じがすごく好きだと思った。

 

*************

 

「ということで、迷惑かけないのでちょっと普通に過ごしてくれる?」

 

 毎年恒例の海が近い別荘へ向かった私たち。あまり他の人に知られていない場所だから

人がほとんどいない穴場となっていた。

 

 そして、私と叶ちゃんが再会して次の日。

みんなが海で遊んでいる中、嘉手納先輩が拝むような姿勢で叶ちゃんに頼み込んでいた。

 

 知らない人にいきなりプライベートを密着させてくれなんて言われたら驚くだろう。

まさに叶ちゃんの表情はそんな感じに見られた。

 

「先輩?」

「あ、嘉手納先輩って言って私の大学でお世話になってる人だよ。

色々悩んでいて私が協力する感じになってるんだけど…。」

 

 叶ちゃんは私の方を見て状況がわからないという視線を投げかけてきたから

私は先輩の簡単な説明をしてみた。叶ちゃんが嫌なら無理にさせるわけにはいかないし…。

それは嘉手納先輩もそうなったら手を引くという約束をしてくれた。

 

「…いいですよ」

 

 少し悩む素振りを見せてから叶ちゃんは頷いてくれた。

するとテーブルを挟んで叶ちゃんの正面にいた嘉手納先輩は目を輝かせながら

身を乗り出して叶ちゃんの手を握ってお礼を言っていた。

 

「ありがとう!」

「…邪魔はしないでくださいね」

 

「それはもちろん!」

 

 久しぶりに会えたのにっていう気持ちが雰囲気に表れていたのを見て

隣にいた私はそっと彼女に近づいて聞こえるか聞こえないかの声で囁いた。

 

「ごめんね」

 

 それから私と叶ちゃんは二人で散歩に出かけた。

みんなと遊ぶのもいいけれどせっかくなんだから二人きりでのんびり過ごしたかった。

別荘から少し離れた森林の中を手を繋ぎながら歩く。

 

 こういう時間を過ごせるのも本当に久しぶりに感じられた。

適度に吹く風にさわさわと心地良い音が聞こえてくる。

 

「雪乃先輩のためですからね、さっきの」

「え、あぁ。ごめん」

 

「それはもういいです。さっき言ってもらえたし」

「あ、聞こえてたんだ」

 

「もちろん。こうやって近くにいるの本当に久々だったから少しでもどんな言葉でも

逃したくなかったので」

「可愛いこと言うなぁ」

 

 少し緊張していたのか少しだけ握っている手が湿っているように感じた。

先輩の気配を感じないから今は本当に二人だけしかいなくて、安心できて心地良かった。

 

 

「かわいいのは先輩ですよ」

 

 不意に言われて驚くのも一瞬で、どんどんと照れが私の中で大きくなっていった。

 

「そ、そう…」

 

 叶ちゃんにそう言われたのは初めてだったかもしれない。

彼女に言われるのは他の人に言われるのと心にクるものは全然違っていた。

すごく…ドキドキした。

 

「ありがとう…」

「照れてる先輩も可愛いです」

 

「も、もういいから…」

 

 何だろう。以前とは違う意味で積極的になっている気がする。

少し余裕が出てきてるのだろうか、感覚的にそう思えた。

 

「そ、そうだ。お互い最近のこととかの話しようよ。メールばっかりだったし」

「そうですね。楽しそうです」

 

 反応に困りやや強引に話を変えてしまったけれど、これが思いのほか楽しくなって

別荘に帰るまでの間ずっと話し続けていた。

 

 必要になりそうなものをついでに買っていってみんなの所に戻ると遊びつかれた

みたいで各々リラックスできるやり方をしながらくつろいでいた。

 

 部屋割りはサブちゃんや母達がしてくれて確認してみると、やはりというか何というか

私と叶ちゃんは別の部屋に当てられていた。まぁ、それはお互いわかっていたことだから

そんなに残念な気持ちにはならなかった。

 

 …少しはしたけど。

 

***

 

 彩菜と春花と私の3人部屋になって昔話とかしながら少し夜更かししたにも

関わらず私だけ眠れないでいた。一応布団には入って目は瞑っていたんだけど…。

 

 目を開けて天井を眺めながら外から差し込む月明かりがうっすらと部屋の中を

照らしていた。その中でやっぱり叶ちゃんと一緒に過ごしたのがよほど嬉しかったのか

その名残がこの眠れない状況を作ったのかもしれない。

 

「はぁ…」

 

 隣を見ると彩菜と春花がいつの間にかぴったりとくっつきながら寝ていて

幸せそうな顔をして寝息を立てていた。

 

「ちょっと外出ようかな」

 

 二人を見ているとちょっと…というかかなり羨ましく感じてしまい私は外の空気を

吸いに外に出ると波の音が静かに聞こえる中、見知った後ろ姿を見つけた。

 

「叶ちゃん…?」

「あ、先輩」

 

 月光りに照らされてまるで妖精でもいるかのような雰囲気に見惚れそうになった私は

ちょっと戸惑いつつ声をかけると叶ちゃんが驚いた顔をして振り返った。

 

 可愛い柄で下が短パンの形をしたパジャマが何だか子供っぽく見えて可愛い。

 

「眠れない?」

「先輩も?」

 

「うん」

 

 二人で立ちながら少し話をして、じっくり二人で話をするために近くに座れる

場所がないか探すと近くに海へ行くための階段があったからその隣辺りの

段差のある場所に二人で座った。

 

 夜の潮風がほどよく私たちにかかるので暑さもそんなに気にならなかった。

そして改めて叶ちゃんの顔を見ながら話をするとさっきまでの笑顔が徐々に曇っていって。

ちょっと苦笑い混じりに叶ちゃんは私に告げてきた。

 

「せっかく先輩と一緒にいられると思ってすごく喜んでいたんですけど、

何か…色々あって二人きりになれなくて少しモヤってました」

「ごめんなさい」

 

 確かに久しぶりに会ったのに人に見られる状況にしてしまったのは理不尽だなって

私も思ったけれど、先輩が悩んでいるのを見ているとほっとくことなんて

できなかったから。

 

 でもそのことで叶ちゃんの気持ちが落ち込んじゃったのなら本当に

悪いことしたな、と考えていると。叶ちゃんの表情は真剣なものになっていた。

そして叶ちゃんは私に聞いてきた。

 

「その代わり、私のお願いを聞いてくれるって約束してください」

「なに?」

 

 あまり見たことのない真剣な眼差しにドキっとしてしまった。

 

「来年は二人きりでどこかに旅行…行きましょう!」

「…」

 

「だめ…ですか?」

「ううん。そんなことないよ。嬉しすぎて…言葉にならなくて…」

 

 彼女のあまりに真っ直ぐな目で積極的に誘われた私は心臓が止まっていたのでは

ないかというくらいびっくりして固まっていたのを叶ちゃんの心配そうな声を

聞いたら解けたのだった。

 

「先輩…。やっぱり先輩可愛すぎですよ」

「もう…」

 

 うっすらとしか見えないけれど叶ちゃんの横顔がとても嬉しそうに微笑んでるように

見えて私もつられるように笑みを浮かべていた。

 

「最初はクールでかっこいい系だと思っていたんですけどね。今はすごく可愛く見えます」

「そういう叶ちゃんは前より随分頼もしくなったよね」

 

「えへへ、照れますね」

「私も照れるよ…」

 

 しばらく二人で黙って見つめあっていると

火照った肌に夜風がほどよく冷ましてくれて気持ちよかった。

そして安心したら少しずつ眠気が戻ってきた気がした。

 

「先輩?」

「ん?」

 

「眠いならそろそろ戻ります?」

「うん…そうしようかな…。少し名残惜しいけど」

 

「じゃ、じゃあ最後だけ一つお願いが」

「何?」

 

 ちゅっ

 

 油断して顔を近づけて聞こうとしたら叶ちゃんは不意に私の頬にキスをしてから

慌てるような様子で立ち上がって私に何度も頭を下げて一言告げて去っていった。

 

「お、おやすみなさい!いい夢をみてください!」

 

 って。そんなこと言っても今ので目覚めちゃったよ…。

眠れなくなったらどうしてくれるの~って暑くなってしまった顔を両手で覆いながら

考えてから自分の部屋に戻ると、私の悩んでいたことはどこへやら。

布団に入ったらあっさりと眠りに就くことができたのだった。

 

**

 

 翌朝。

 

 起き上がって早々、寝る前のことを思い出してまた少し照れてしまう。

以前は普通にキスしていたはずなのに、頬にされただけでこんなになってしまうとは。

本当…私、叶ちゃんのこと大好きなんだなぁって再認識した。

 

 朝食の時間はみんな集まってそれぞれ好きな人や仲の良い人同士で楽しく朝食をとった。

それからどう過ごすかをみんなで話しあって、それぞれ目的に向かい行動を始めた。

買い物に行く人、のんびり過ごす人、再び海へ遊びにいく人。

 

 私と叶ちゃんは他の子と一緒に海へ遊びにいくのを選んだ。

泳ぐことはできないけど、楽しそうにしている様子を見ておきたかった。

それと前日、私たちを見ていたと思われる嘉手納先輩も私たちに同行していた。

 

「昨日はどうも」

「先輩、昨日本当に私たちの後をつけてたんですか? 気配感じなかったですけど…」

 

「ばっちりよ!」

 

 私も鈍感な方ではないし、叶ちゃんに至っては鋭い方なのに一体どうやって…。

謎は謎のままスルーされ、遊んでいる子たちを眺めながら話を続けた。

 

「どうでした?」

「すごい収穫だったわ」

 

「それはなにより」

「無理言ってごめんね」

 

 申し訳なさそうに言いつつも嬉しそうにしながらノートに書き込んでるのを

見ているとしてよかったかなって少し思っていた。

 

 先輩の生き生きした顔が徐々に真剣な眼差しに変わってノートに書き込む手が

止まると、私に声をかけてきた。

 

「後ね。私がこの後どうするかキミ達を見ていたら考えが変わったよ」

「そうですか…」

 

「やっぱり後悔はしないようにしたいからね…大変だけどがんばるよ」

 

 先輩の家族や親戚がどういう風なのか、私にはわからないけれど。

すごい苦労しているんだなってことはすごく伝わってきた。

 

 良い人だと思っているからこそ、私は先輩を応援したいと考えている。

できる範囲内だけど…。

 

「ありがとう、いい思い出ができたよ」

「先輩…」

 

 寂しそうに呟く先輩になんて言えばいいのかわからずにいると。

先輩は私の方を見ていつもの笑みを浮かべていた。

 

「そんな顔しないの。やっぱり少し寂しいけど、ここに来れたおかげで

すごくやる気が満ちてるんだから」

 

 そう言って手を力強く握って熱く語る小さい先輩が大きく見えた気がした。

 

「それはよかったです」

「本当に…キミ達に会えてよかったよ」

 

 それからみんなに気付かれないようにそっと先輩は私に密着するくらい

寄ってきた。

 

「残った時間、またよろしくやってくれると嬉しいよ」

「はい」

 

 話している内に途中まで辛かった暑さも気にならなくなっていて

みんなが遊び疲れてへとへとになって帰ってくるまでの間、私と先輩はそうしていた。

叶ちゃんといるときのような気持ちとは違うけれど、不思議と落ち着く気持ちになれた。

 

 それからやり残したことがないようにみんなそれぞれのやりたいことを満喫して

みんなで集まる休みの最終日。行き先が違う私たちが先に出発することになり

玄関で叶ちゃんたちと別れの挨拶を交わした。

 

「叶ちゃん、すごく頼もしくなっていて嬉しかった。来年、楽しみにしてるからね」

「はい!先輩…体だけは気をつけてくださいね」

 

「ありがと」

 

 そう言った後、私はそっと叶ちゃんを抱きしめてから外に出た。

車の中には既に大学生の面子が揃っていて、別荘から出てきた私をみんなは

微笑ましそうな目で私を見ていた。

 

「雪乃、もういいの?」

「えぇ。大丈夫よ」

 

 その中で一番早く私に声をかけてきた彩菜に私はそう答えて車に乗った。

私の隣には嘉手納先輩がいて、先輩の家まで送る間、楽しく話していた。

こうやってお喋りしている間はこの先のことなんて考えられなくて

それぞれの自宅へ帰った後、私はそのことを考えていたら寂しくなっていた。

 

 そんな私の様子に彩菜は笑顔でこう言った。

 

「寂しく感じても、楽しく感じても残された時間は同じなんだから。

先輩たちがいる間は精一杯楽しもうよ」

 

 言われて私は気付いた。まったくその通りだった、悩んだところで時間が止まる

わけでもないのに。

 

 彩菜のくせにもっともなことを言うので悔しいから少しからかってやった。

そんなことされても嬉しそうにしている彩菜を見て何だか寂しかった気持ちが少しは

和らいだ気がした。

 

 こういう時、わかりあえる姉がいて本当によかったと思うのだった。

 

続。

 


 
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