No.847032

真・恋影無想

月神さん

2年前のことである、当時高校1年生だった彼は寮の自室で突然光に包まれ三国志の世界に飛ばされた。その世界でかつての英傑・曹操孟徳と夏侯姉妹に出会い拾われる形で行動を共にしていく。曹孟徳率いる〝魏〟の下に集まった英傑達は彼の誰にでも発せられる太陽のような優しさに惹かれ好意を抱き、やがて愛し合っていった。

彼は本来の歴史を知っている。曹孟徳からは本来の歴史を言う事を固く禁じられていた。そしてある占い師はこう言った。〝大局に逆らうな 逆らえば身の破滅〟しかし彼は愛する者のために、その命を救うために歴史を変えてしまう。定軍山で夏侯淵達の命を救っただけでなく最終決戦赤壁で魏を勝利へと導いてしまう。そして満月の夜、彼は最も愛する少女〝華琳〟の前で文字通り消えてしまったのであった。

3年後、彼は皆の元へと戻る。だが、そこで待っていたのは……

2016-05-10 18:25:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2304   閲覧ユーザー数:2032

 

1話 卒業・真実を知る者

 

 

 

 

「俺がこっちの世界に戻ってきてからもう2年も経つのか。この制服とも今日でお別れかぁ。寂しくなるな。」

 

 

今日で最後の着用となる愛用の制服を着ながら1人言葉を漏らす。今日で俺は卒業だ。あの世界からこちらの世界に戻って2年になる。

 

 

「あっちの皆も元気かなぁ。」

 

 

平和にはなっているんだろうけど

心配なのは心配だよな。

 

 

 

「にしても帰ってきた時は驚いたなぁ。何時間かしか経ってないんだもんなぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀がこの世界に帰ってきた時、光に包まれた時間から数時間のみが経過しており外は闇。空には紅い満月が浮かんでいるという状況であった。

 

夢だったのではないかと絶望し学校を無断欠席し、部屋に引きこもりろくに食事も取らず叫び涙を流す毎日。

 

 

 

そんな生活が続き一週間たった時だった。泣きつかれて眠ると夢 に二人の自分が現れた。そして彼らは俺に対してこう言った。

 

 

 

〝夢ではないさ。彼女達は確かにいるんだ。

 

思い続ければきっとまた会える〟

 

 

それは絶望していた自分を励ますものであり

君が体験したことは現実だったと教えてくれた

 

 

 

〝彼女達との日々を思い出を忘れてはいないだろう?〟

 

 

そう言った〝北郷一刀〟の着ている服の背には〝呉〟の文字。そしてもう1人の〝北郷一刀〟も近づいてくる。その背にあるのは〝蜀〟の文字。2人とも自分より背が高く不思議と安心させる雰囲気を持っていた。

 

 

〝君をこれから辛いことが待ってるかもしれない〟

 

 

〝だけど彼女達を片時も忘れちゃダメだ〟

 

 

〝君は俺なんだ。相手が武将だったとしても女の子を守りたいという気持ちは人1倍強いはずだ〟

 

 

ーーーーハハハ、違いないな。ーーー

2人の〝北郷一刀〟はお互いに笑う。

 

 

〝男として愛した女の子達を守ってやれよ。〟

 

 

 

〝さぁ、いつまでも布団にこもってないで目を覚ませ。

 

君は〝北郷一刀〟だろう?〟

 

 

 

2人の〝北郷一刀〟は優しい笑みを浮かべてそう言って消えていった。その瞬間目が覚めた。

 

不思議と体が軽くなって先程まで自分を支配していた絶望など毛ほども無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あの〝 2 人の俺〟 には感謝しないとな」

 

 

 

 

 

その後の行動は早かった。すぐに制服に着替え学校に向かい先生、クラスメイトに無断欠席して迷惑をかけたことを謝罪した。

 

 

放課後になると自転車で実家に向かった。

 

実家に着くとドアを開け顔を見た瞬間飛んできた母のビンタ。

 

その後、「心配したのよ!」と泣きながら抱きしめてくれた。その後妹達も駆けつけ抱き着いて泣いていた。

 

 

 

その後は事情を話すため祖父がいるであろう道場へ向かった。

 

祖父は一刀の顔を見るなり驚いた表情になり、「話を聞こう。」と言った。

 

一刀は家族に全てを話した。妹も母親も酷く驚き一刀の心情を思ってか涙を流していた。祖父は納得したように頷き静かに一刀を見据えていた

 

後日、一刀は祖父と二人きりになり北郷流を正式に受け継ぎたいと願い出た。

本当であれば中学生になった時点で受け継ぐのだが一刀は返答を渋っていた。

 

それは北郷流が〝人を殺すためだけに生まれた殺人剣の流派〟だからだった。戦争を知らない一刀にとってはソレはおぞましいものであるし現代日本において戦争はない。それに今どきの戦争など銃火器が主流である。なので必要ないと思っていた。

 

しかしあの世界では別だ。既に平和になっているとはいえやはり争いは絶えないだろう。周辺国からの襲撃や三国での統一に納得していない者達の反乱も十分に考えられた。

 

その時のため一刀には戦う術が必要だった。 その点、北郷流ほど頼もしいものはない。それに一刀はいずれあちらの世界に戻るつもりである。明確な手段はまだわからないが絶対に戻れるという勘というか確信があった。だからこそ一刀は頭を下げていた。

 

そんな一刀の様子を見た祖父は少し笑い「お前以外に誰が北郷流を継ぐのじゃ?」と頭を撫でた。

 

 

 

 

それから2年の間学校が終わると実家に急いで向かい0時まで稽古、鍛練それから寮に帰り就寝。

長期休みには実家に泊まり込みを繰り返し一刀の腕はみるみる成長していった。

 

今では当時の春蘭並みの実力を持つ祖父に対し互角に打ち合い勝てるようになっていた。

 

元々から北郷流を学んでいた妹達もそれに負けじと鍛練を重ね〝凪〟と互角以上にやり合えると思えるほどに強くなった。

 

 

 

 

 

ゴンゴン

 

 

「かずピー準備できたか?遅れるでー」

 

 

外から悪友の声がする

 

 

「さて、高校最後の出校行きますか。」

 

 

外で待機している悪友及川と合流し学園を目指す。

二人で歩いていると及川が声をかけてきた

 

 

「なぁ、かずピー。かずピーは進路どないするん?そのまま大学行くん?」

 

 

聖フランチェスカ学園の生徒のおよそ80%は聖フランチェスカ大学と言う付属の大学に進むのだが一刀はまだ決めかねていた。いつか向こうに帰る。それが明日なのか一年後なのか十年後なのかはわからないが。

 

 

 

「わからん。まだ時間はあるし考えてる。」

 

 

「えぇ〜、かずピーおらんとわい寂しい~」

 

 

 

そう言いながら及川が抱きついて来る。

 

 

「やめろ、気持ち悪い。」

 

俺は及川を振り払い先を歩く

 

 

 

「あぁ〜かずピー置いてかんといて〜」

 

 

学校に着くと校門の所に母さんが立っていた

 

「おはよう。母さん来てくれてありがと。」

 

 

「母親なんだから当たり前でしょ。父さんも来てるわよ今ごろ体育館で三脚の準備してるわ。」

 

 

「父さんも来てるんだ…嬉しいなぁ。」

 

 

「ちょ、かずピー早いって。あ、かずピーママおはようございます。」

 

 

及川は母さんを見つけると丁寧に頭を下げた

 

及川とは保育園の頃から今に至るまでずっと同じクラスであり最も付き合いの長い親友である。家に泊まりに来ることも多々あったため当然母さんとは顔見知りだ。

 

 

「及川君じゃない。久しぶり。おはよう。」

 

 

「じゃあ、母さん行こうか。体育館まで送るよ」

 

 

「ありがとう。」

 

 

ざわざわ

 

 

俺が敷地内に入ると辺りが騒がしくなる。

 

 

 

〝皆!北郷先輩きたわよ!〟

 

〝きゃー!先輩こっち向いてください!〟

 

〝制服のボタンくださーい!〟

 

〝抱いてー!〟

 

 

(なんか最後変なのが混ざってたな。)

 

卒業式の最終準備等をしていた女子生徒達から黄色い声が上がり始める。

 

 

 

「ねぇ、及川君?これなに?」

 

 

母さんが及川に聞く

俺はノータッチとしておこう。

 

「あぁ、これいつもの事なんです。」

 

 

「いつも!?」

 

(そうなんだよなぁ、)

 

「はい。かずピー2年くらい前かな?えらい女の子から人気が出るようになって今じゃH・Kファンクラブて言うのまであるんです。」

 

確かに2年前だな。俺がこっちに帰ってきてから凛々しくなったとか言って異様にモテるようになったの。だけど俺には華琳達いるしな。

 

 

「ファンクラブまで…クラッ」

 

 

「ちょ、母さん大丈夫?」

 

母さんが不意によろける

俺はそれを慌てて支えた。

 

 

「ええ。ちょっとめまいが」

 

 

「あ、兄ちゃんー!母さんおはよう!」

「兄さん、母様おはようございます。」

 

聞きなれた二人の声。

妹たちだ。

 

「おはよう。美菜、美夏」

 

 

ざわざわ

 

 

 

〝会長ー!副会長ー!おはようございます!〟

 

〝先輩とそんな近くにぃー羨ましい〜、〟

 

 

「ふふふ。妹特権ですよ♪」

 

などと返事をしている二人。

 

 

「会長?副会長?あなた達生徒会とか入ってたの?」

 

 

「やだなぁ母さん。毎日稽古と勉強あるのにそんなのやってる暇あるわけないじゃん。」

 

 

「そうですよ。母様」

 

そう言えばそうだ。二人とも夜中まで鍛錬してるし勉強もしっかりしなきゃいけない。生徒会は無理だよなぁ、、?ならなんの会長と副会長?

 

 

「じゃあ一体…?」

 

 

「あー、かずピーママ?そのH・Kファンクラブの会長と副会長が美菜ちゃんと美夏ちゃんなんです。」

 

(は?)

 

及川がしれっと答える

初耳なんだが。どこでも俺を監視しているストーカー軍団は妹達が指揮していたのか。

そうだとすればいつも先回りされたり俺の稽古中の写真が出回っているのも納得だ。

 

(まぁ、今日で卒業だし。なんも言うまい。)

 

 

 

「ほえ…クラッ」

 

 

「「ちょ、母さん(様)?大丈夫!?」」

妹二人が声を上げる

 

 

 

「え、えぇ。大丈夫よ。立ちくらみがしただけ。美菜、美夏学校が終わったら話があります。」

 

(GJだ。母さん。)

 

 

「「???。はーい。」」

 

 

「かずピーママも大変やなぁ…」

 

 

最後に及川が呟いた。

 

 

 

 

 

 

時間は進み卒業式終了後。帰り道

 

 

俺は今一人で帰り道を歩いている

及川は自分の母親に連れられどこかに消え妹たちは後片付け、父さんと母さんはごちそうを作るとかで買い物に行った。今は同級生の女子達の追跡を逃れいつもとは違う道で帰宅していた。

 

 

 

「ん?こんな所に公園?わぁ。スゴイ綺麗な桜だなぁ」

 

 

 

いつもとは違う道だからだろうか角を曲がると初めて見る小さな公園がありそこに一本大きな桜の木が立っていた。

 

狂い桜とでも言うのだろうか。桜は見てると気が狂いそうになるほど満開だった。

 

 

 

「ちょっと休憩するか。」

 

 

俺はその公園に立ち寄った

そして公園のベンチに腰を下ろした時だった

 

 

 

 

「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」

 

 

 

 

桜から声が聞こえた気がした

 

 

すると桜から1人の青年が降りてきた。

多分桜の木に登っていたのだろう

 

 

そしてその青年と目が合った

それと同時に強烈な殺気を感じた

 

 

 

「っ!」

 

 

一刀は臨戦態勢を取りながら尋ねた

 

(この殺気只者じゃない…)

 

 

 

 

すると青年は答えた。

 

 

 

 

「そう身構えるな。俺の名は左慈。北郷一刀、お前に起きた全てを知る者だ。」

 

 

 

左慈と名乗った青年はそう言うと先程まで放っていた殺気を収めた。

 

 

 

「俺に起きた全てを知っている?なんのことだ?」

 

 

俺は警戒態勢のまま問いかける

 

 

 

 

「お前がなぜあの世界に飛ばされたのかそしてなぜ曹操の前で消えたのか全ての真相を知っている。そういうことだ。」

 

 

「!」

 

 

 

一刀は左慈の言葉を聞き警戒態勢を解いた。

 

 

 

「ふん。いい心掛けだ。」

 

 

 

「でまかせで言っているようじゃないからね。それに俺はあのことについて少しでも情報が欲しい。ならいつまでも警戒してても仕方がない」

 

 

 

「そうか。まぁ、とりあえず場所を変える。」

 

 

 

 

そう言うと左慈は俺の胸のあたりに手を当て

一言。

 

 

 

「発」

 

 

 

 

と唱えた。その瞬間周りの景色が歪んだ

 

 

次の瞬間一刀は聖フランチェスカ学園の今日まで自分が使っていた教室に立っていた。

 

 

「……これはいったい」

 

 

左慈の姿も見当たらない。それに学校にしてはやけに静かだ。試しに気を探ってみるが人どころか動物の気すら感知できない。

 

 

 

 

「どうなっているんだ?」

 

 

 

「ここは私が作った異空間と言った所ですかね。」

 

 

 

「!?」

 

いきなり後ろから声が聞こえ振り返る

そこには聖フランチェスカの制服を着たメガネの青年?が立っていた。

 

 

 

「お前は?」

 

 

 

「あぁ、申し遅れました。私の名前は于吉。先程あなたが会った左慈の恋人です。」

 

 

 

「誰が恋人だ!1回氏ね!」

 

 

突然左慈が横から現れ于吉と名乗った青年を殴り飛ばした。于吉は壁のあたりまで吹っ飛んだもののなぜか恍惚の表情を浮かべていた。

 

 

 

「そんなツンツンしたところも最高です!」

 

と叫んでいた。

 

(桂花?いや、さすがにこれは違うものか)

 

 

 

 

「すまないな。北郷一刀。あの汚物は無視してもらっていいぞ。」

 

 

 

「あ、あぁ。」

 

 

 

「さて、こちらからですまないがお前には聞きたいことがいくつかある。」

 

 

 

「なんだ?」

 

 

 

「お前はあの外史に戻るつもりなのか?」

 

 

 

 

「? 外史というのがなんなのかはわからないけどそれが華琳達のいる世界の事なら俺はあの世界に戻りたいと思ってる。」

 

 

 

 

「そうか。外史については後で説明してやる。なら次だ。あの世界に戻ると言ったが何のために戻る?」

 

 

 

 

「なのためにか。皆ともう一度会いたいというのもあるんだろうけど、今度こそ自分の力で皆を守りたいんだ。皆の生活を笑顔を守りたい。俺はそのために力をつけたんだから。」

 

 

 

 

「もしも〝そこ〟にお前の居場所がなく、直接会えなくてもか?」

 

 

 

「?? あぁ。それなら俺は影から支えるよ。」

 

 

 

そう答えると左慈は一瞬辛そうな顔になる。

しかしすぐに表情を厳しいものに変える

 

 

 

「そうか。なら次はお前の番だ。なんでも答えてやる。」

 

 

 

「なら聞くけど。君達は一体何者なんだ?変な術を使っていたのもだけど殺気もかなり強かったし。」

 

 

「それは私が説明いたしましょう。」

 

 

(び、びっくりした。)

先程左慈に吹き飛ばされた于吉が起き上がり言う。

 

 

「それでは私達が何者かですが私達に正式な名称はありません。ですが私達は〝管理者〟と呼ばれます。」

 

 

 

「管理者?何かを管理しているのか? 」

 

 

 

「えぇ。それがさっき言っていた〝外史〟と言う物と繋がってきます。外史と言うのは正史の変動や衝撃により生み出された世界。まぁ、簡単に言うなら原本があなたのこの世界で複写された複写本があなたが過ごしたあの世界。」

 

 

「よくわからんがパラレルワールドみたいなものか?」

 

 

 

 

「少し違いますが、まぁ、そんな感じです。管理者とは外史を管理及び保全する者達を指します。破壊することもありますが」

 

 

 

「なんかまるで仙人とか神様みたいだな。」

(ようするに世界の管理人か。すごそうだな。)

 

 

「えぇ。ですから私達のことを仙人や神仙と呼ぶ者もいますね。術を使えるのは管理者特権と言いますか、仙人だからと言っておきます。」

 

 

 

「なんかそこはえらく適当なんだな」

 

 

 

「えぇ、まぁ。私自身よくわかりませんから明快な回答はお答えできませんからね。」

 

 

 

「? そっか。で、破壊するってのは?」

 

 

 

「外史には必ず主人公という者がいます。外史は主人公が死ぬと他に主人公の器を持つ者がその世界にいないと判断すると自己的に消滅します。」

 

 

「?」

話がよくわからずポカーンとしていると

 

 

「物語で主人公がいるのは当たり前だ。だが主人公が死ねば物語は終了だ。もし物語を続けたいなら新たに主人公を作らなければならない。そういうことだ。」

 

 

左慈が横からわかりすい説明をくれる。

 

 

 

 

「えぇ。で、管理者には肯定者と否定者という派閥がありまして前者は外史の保全を目的にし必要最低限干渉せず見守る者達。そして後者は」

 

 

 

「外史の破壊を望み外史に直接干渉する者だ。主人公と新たに主人公になり得る奴がいたらソイツを消し外史を直接終端へと導く」

 

 

 

横から嫌そうな顔をした左慈が言う。

 

 

「ちょ、そんなことしてなんの意味があるんだよ!?」

なぜ主人公を消す意味があるのかわからない。

 

 

 

「あるんだよ。外史は正史から生まれたものだ。正史にも許容量がある。」

 

 

 

 

「許容量を過ぎれば正史は負担を減らそうとして〝正史〟から物や人を消そうとする。それは自然災害であったり国同士の戦争であったりとする訳ですよ。もし外史の容量が重くなりすぎて正史が耐え切れなくなったらどうなると思います?」

 

 

 

(まさかな。世界が消えるとでも言うのか?)

 

「まさか、そんなの根拠はあるのか?」

 

 

「いえ?でもそんなことが起こっていれば既に我々は存在しませんから。でも可能性としては極めて高いと私は考えています。」

 

 

 

「肯定者の連中は外史から余計なものを省き保全している。正史の負担を減らしつつ外史を綺麗な終へと導くためにな」

 

 

 

「なら肯定者のほうがいいじゃないか。世界はなんだかんだ保ててるわけだし。」

 

至極当たり前のことだ。

それで維持できているなら否定者の意味は無い。ただのサイコパスだ。

 

 

「いや、今はそうも言えない。状況が違う。俺や于吉、他否定者達は正史のためと今まで何十、何百の外史をこの手で終端へ導いてきた。そして残る外史は3つ。」

 

 

 

「そもそも正史にも許容量というものがありますから、それを越していない場合外史をわざわざ消す必要はないんです。しかし残った3つの外史。これが今までの外史に比べバカみたいに容量が大きい。」

 

 

「その3つの外史に共通するのは三国志の時代。そして北郷一刀。お前だ。」

 

 

「!」

俺はその馬鹿でかい容量の外史の全てにいるのか。

 

 

 

 

「今、一つの外史が〝正史〟から独立して一つの正史になろうとしている。」

 

 

 

「どういうことだ?」

 

 

すると于吉がまぁ、しょうがないですね。と言いながら

 

 

「話を少し戻しましょうか。あなたの行った外史これを〝魏の物語〟としましょう。魏の物語には元々曹操以外の主人公はいなかった。劉備や孫策をもってをしても魏の物語においては曹操ほどの器を持ってはいなかった。そして他2つの物語。蜀と呉でも同様1人しか主人公はいなかったんです。」

 

 

「管理者達は最初からこのデカい3つの物語には何かあると思っていたらしい。だが魏の物語に主人公は曹操のみ。曹操が死ねば消えてしまう。ちなみに他の2つは主人公が劉備、孫策だがその2つでも本人達以外に器に足る人物いなかった。」

 

 

「だから管理者達は主人公となりえる器の人物を正史から送った。それがあなたですよ。北郷一刀。」

 

 

 

どういうことだ?

「待ってくれ。なんで俺なんだ?」

 

 

 

「普通の人間ならば外史に飛ぶことも出来ない。だがお前は主人公としての器があり確実に外史に行くことが出来る。」

 

 

(どういうことだ?)

 

 

「これについてはまだ話せませんが、あなたにはその〝資格〟があると言えます。パスのような物です。そしてあなたは曹操亡き後も外史を安定させるための代わりの器としてあちらに飛ばされた。だが管理者達にとって予定外のことがあったんです。それがきっかけで〝外史の独立〟という兆しが見え始めました。」

 

 

「まさか、予定外って俺が歴史を変えたことか?」

 

 

「ええ。未然に管理者達は魏の物語へ管理者を派遣しあなたに釘を刺した。だけど無駄に終わりあなたは歴史を変えてしまった。」

 

 

 

脳裏にあの占い師が浮かぶ。

 

〝大局に逆らうな 逆らえば身の破滅〟

 

(これは俺に余計な事をするなと言っていたのか)

 

 

 

 

「俺が秋蘭達を助けたから華琳達を勝たせたから…その外史の独立やらが起き始めたと?」

 

しかしまだよくわからない。

 

 

「あぁ。そして最大のトリガーは死ぬはずだった夏候淵が黄蓋を討った事だ。」

 

 

「秋蘭が黄蓋さんを討った事?」

 

 

「いや、正確には攻撃したことが正しいか。夏候淵の放った矢が黄蓋に当たった瞬間魏の物語は確信したんだ〝これが本当の正史〟だと。夏候淵は最初から生き延びて赤壁で黄蓋を討つのだと。そして魏が勝利し大陸を治める物語である。と」

 

 

「な!?そんなことが…」

 

(そんなことがありえるのか?)

 

 

「実際にありえてるからこんな事が起きてるんですよ。呉の物語でも蜀の物語でも北郷一刀の介入により多少の違いはあれど黄蓋の苦肉の策は成功し赤壁で魏は大敗しています。」

 

「待ってくれ。そこまでは理解した。だけど俺があの世界から消えた理由はどうなるんだ?」

 

 

「外史はいくら異端の存在だったとしても特定の人物を消すことはしません。そもそも魏の物語は自分を〝正史〟だと思っていますから正史から正史の人間のあなたを消すなんて無意味だ。」

 

 

「えらく回りくどい言い方だな?はっきり言ったらどうだ?」

 

大体わかってきた。

だけどそんなの…

聞きたくなくても聞きたい事だった。

 

 

 

「ようするにお前は管理者達に利用されたんだ。外史を観察するため予備として送ったら向こうで予想外の出来事が起きた。それによって正史にどんな影響があるかわからない不測の事態に陥った。だから元の世界に強制的に呼び戻した。そういうことだ。」

 

 

俺は頭が真っ白になり左慈に掴みかかろうとした

だが俺より先に左慈の首を掴んだ人物がいた

 

 

 

「ふざけんな!お前らは私の大事な兄ちゃんをなんだと思ってるんだ!」

 

 

妹の美菜だった。

一気に頭が冷えてくる。どうしてここに?確かここは于吉の作った空間じゃ?

 

 

「ふざけないでください。パスとか言うのがあるからと言って兄さんを戦乱の時代に送っておいてそこでできた愛する人達の命を助けたら不測の事態が起こったから強制的に引き戻した?」

 

 

「なんで美夏まで…」

 

 

「あぁ。その通りだ。ついでに言うと北郷一刀を正史に戻し魏の外史が正史になる前に曹操を殺せばまだ〝外史〟である魏の物語を直接終わらせることが出来る。それも込みでの事だろう。」

 

 

「もう、黙れよ!」

 

 

美菜はそう言うと左慈を殴り飛ばした

目からは涙が溢れていた

 

 

「そんな理不尽な事絶対に認めない!私はあなた達を許さない。兄さんが味わった身を引き裂かれるような苦痛。味わわせてあげます。」

 

そう言うと美夏は于吉に近づいて行く

 

 

 

「やめろ!二人とも! なっ!!」

 

部屋に充満する殺気の渦。一つは爆発したような赤の殺気。もう一つは冷酷な青の殺気。それはまるで覇王が最も信頼を寄せている姉妹を見ているようだった。

 

 

「くっ!こうなったら」

 

まだ于吉達には聞きたい事がある。それに妹達の手を赤く染めるわけにはいかない。

 

(こうなったら本気で)

 

 

 

拳を握りしめた時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に任せてくれ。一刀。」

 

 

そう言って誰かが俺の肩に手を置く

どこかで聞いたことがある声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最終五斗米道(ファイナルゴッドヴェイドー)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男は静かに言い放った。

次の瞬間馬鹿でかい〝気〟が部屋に充満していた殺気を全て吹き飛ばし、

 

美菜と美夏はその場で倒れた。

 

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
13
3

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択