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ALO~妖精郷の黄昏・UW決戦編~ 第38-6話 開戦の前兆

本郷 刃さん

第6話目です。
今回は戦闘回でもありますが大したものじゃないですよw

では、どうぞ・・・。

2016-05-08 17:19:19 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6469   閲覧ユーザー数:5930

 

第38-6話 開戦の前兆

 

 

 

 

 

 

 

セルカSide

 

「大変だ! ゴブリンが、魔物の群れが攻めてきたぞぉっ!?」

 

いつも通り家の自室で眠っていたあたしの耳に衛士の声が届いて、跳び起きた。

父さまと母さまもすぐに部屋から出てきて、衛士の話を聞いた。

北側の門で寝ずの番をしていた衛士が北側の森を見ていたら、いきなりゴブリンが群れで押し寄せてきたって。

すぐに北側の住民を起こして中央近くのこの家まできて、外にはみんなが着のままで居た。

 

「そ、村長! い、いったいどうすればっ!?」

「っ、落ちつけ! 村人達を全員起こして中央に集め、北側に木材や家具を重ねて壁を作るのだ! 急げ!」

「は、はい! みんな、手伝ってくれぇっ!」

 

父さまの指示ですぐに衛士の人が動いて、村のみんなも駆けだした。

どんどんみんなが集まって、教会前の中央広場の北側に壁を作っていく。

あたし達子供もみんなで運んでいくけど、気付いたら北の方で火の手が上がっていることに気付いた。

 

――ギシャァッ!

 

「ゴブリンの、こえ…」

 

二年も前に聞いたあの声が壁の向こうから聞こえてきて、隙間からその姿が見えた。

 

「こ、ここは広場で円陣を組んで守りを固めるんだ! 俺達がゴブリンを迎撃するぞ!」

 

衛士長のジンクが他の衛士達を連れて北側に作った壁のところに向かっていった。

でも、本当にこれでいいのかしら?

だって、ゴブリンと戦ったことのないみんなが勝てるとは思えない、数も凄く多いみたいなのに。

考えている内に衛士のみんなの声とゴブリン達の怒鳴り声が聞こえてきて、

姉さまとユージオが剣の稽古をする時の剣がぶつかり合う時のような音も聞こえてきた。

戦いが始まったんだ…。

 

「母さま…」

「大丈夫よ。貴女は私が守るわ」

 

怖い、あの時のことを思い出すから。

あの時はユージオとキリトさんが助けてくれたけど、いまはキリトさんみたいに凄く強い人がいない。

姉さまとユージオなら、そう思ったけどここにいないといけない。

震える体を母さまが抱き締めてくれるけれど、母さまも震えているし、

大人はみんな鎌や鍬や斧を持ってゴブリンが来た時の為に構えているけど、

そのみんなも不安そうで、子供達の中には泣いている子もいる。

少しでも役に立ちたくて怪我をした人に神聖術をかけて怪我を癒す。

 

父さまとバルボッサさんが怒声で指示を出していた、その時だった。

 

――ドンッ!

 

凄い音と揺れで壁が崩れたと思ったら、父さまとバルボッサさんの前に一人の女性が居た。

 

「姉さま!」

 

外套を深く着込んだ姉さまがそこに立っていた。

 

セルカSide Out

 

 

 

アリスSide

 

わたしもユージオも村の方から立つ黒煙が山火事なんかじゃないと、エルドリエが言っていた闇の軍勢の襲撃だと悟った。

だから急いで家の中に駆けこんで、物置部屋となっている部屋に入り、寝間着の上から鎧を着込んだ。

ユージオは『青薔薇の剣』を、わたしは『金木犀の剣』を腰に据えて再び家から飛び出す。

 

「雨縁!」「氷華!」

 

それぞれの飛竜の名を呼び、彼女達が待っていたと言わんばかりに翼を広げ、わたしは雨縁に、ユージオは氷華に飛び乗った。

 

「「行け!」」

「「クルルゥッ!」」

 

短い助走で二頭はほぼ同時に夜空へ舞い上がった。

久しぶりの空を楽しんでいる余裕が無いことが口惜しいけれど仕方が無い。

村の惨状はすぐに察せた、村の北側は既に火の海となっている。

 

エルドリエが気をつけてほしいと言っていたことがこれほど早く起きてしまうなんて…。

カーディナル様やベルクーリの小父様の指示で北の洞窟を全て埋めたと言っていたけれど、

それほどの崩落の処理を少数で行えるとは思えない。一体、どうして…。

 

すぐに村の上空に辿り着き、手綱がないから手で首筋を叩いて滞空を指示し、氷華もそれを見て滞空した。

 

「酷い…」

 

南北に伸びる大通りの北側は炎によって焼かれていて、襲撃者である俊敏なゴブリンと力のあるオークがはっきりとわかる。

中央広場のすぐ北に家具や木材で作られた防御線があって、そこを境にして衛士隊とゴブリン達が刃を交わしている。

だけど、これもオークが来てしまえばすぐに破られてしまうはず。

だけど広場から南側はまだ無傷、村人達が動いている様子はないから、森に避難できたようね…。

 

「バカな、なんでっ!?」

「ユージオ?」

「アリス! あそこ、中央広場!」

 

突如、左側で滞空している氷華の上のユージオが叫んだ。指示されるままに広場を見た。

 

「嘘、どうして…」

 

そこには村人達が集まって身を寄せていた、まだ逃げていなかっただなんて!

固まって、動いていなかったから炎と夜闇の影で判別できなかった。

それにあの数、多分だけど村人約三百人がほぼ全員集まっているはず。

 

「ユージオ! みんなのところに降りるわ! 雨縁、呼ぶまで待機!」

「あ、待っ、くそ! 氷華も待機、僕はジンク達の方に降りる!」

 

ユージオの返事を聞く前に雨縁から中央広場めがけて飛び降りる。

 

――ドンッ!

 

衝撃が脚から全身を伝わってきた、天命が少しだけ減ったわね。

降りたところが丁度よく、父様とバルボッサさんの前だった。

驚く二人には悪いけど、すぐに撤退させないと。

 

「ここでは奴らを防ぎきれません! いますぐ南の通りから全住民を避難させてください!」

「馬鹿を言うな! 屋敷を、村を捨てて逃げ出せるか!」

「いまならまだゴブリン共に追いつかれることなく逃げられます! 命と家財どちらが大切なのか、それぐらい分かるでしょう!」

「だが、広場で円陣を組んで守りを固めろというのが衛士長ジンクの指示なのだ。

 この状況において、村長の私とて彼の命令に従わなければならない。それが帝国の法なのだ」

 

村長である父様の言葉に愕然とする。ノーランガルス北帝国の法、いや他の三国の法でもその条文は存在するんだった。

ジンクはまだ父親から天職を受け継いだばかりで緊急事態に冷静な判断が出来ていないのね。

そこにこの指示と帝国の法、術を打ち破ったわたしやユージオと違いみんなにとって帝国の法は絶対、

それが仇になっているなんて。

 

「お父さま、姉さまの言うとおりにしましょう!」

「セルカ」

 

無事だった、セルカが無事でよかった。

彼女はそのまま父様に告げた、かつてわたしが村に居た時に告げていたことに間違いがあっただろうかと。

父様もそれを聞いて言い淀む、実際には父様も逃げた方がいいと思っているけど、法のせいでその狭間に揺れている。

 

「子供が出しゃばるな! そうか、解ったぞ! 村に闇の国の怪物共を招き入れたのはお前じゃな!

 汚染が再びぶり返してきたのじゃろう! 魔女、この娘は恐ろしい魔女じゃっ!」

 

愚かな、このナイグル・バルボッサという男には屋敷の中にある収穫したばかりの大量の小麦、

それに長年貯め込んできた金貨のことで一杯なのね。

だから他の人の命を使ってでも村を、自分の欲望を守ろうとする。

その表情は醜悪なオークのそれと変わらない。

そして、こんな事態を招いてしまった要因の一つは間違いなくわたし達整合騎士にもある。

近くもなければ遠くもないこの男の言葉に自嘲するしかない、ぬるま湯の平穏を与え過ぎた。

ユージオとキリトが助けてくれなかったら、どんなことになっていたか。

 

――パキィィィンッ!

 

その時、大気中の神聖術が減ったのを感じ取り、背後に振り向いた瞬間に耳を突くような音と共に急造の壁が氷の壁になっていた。

父様も騒いでいた男も村人達も静まり返り、その光景を見た。

こちらに向けて駆けてくる足音と共に姿を現したのはユージオと衛士隊だった。

ユージオは負傷した衛士を担いでくる。

 

「神聖術で壁を凍らせてきた! ゴブリンやオーク程度じゃ破られないし、炎でも溶けない。

 よじ登られたらどうしようもないけど、時間は稼げる!」

 

壁を凍らせた以上、武器で打ち合うことは出来ない。

だから撤退してきたというのに、わたしは未だに成すべきことを成せていないなんて…!

悔しい、ユージオはやるべきことに冷静に対処してみせた。

わたしは彼に応じることが出来ていない、それがただ悔しい。

 

でも、不思議とさっきのバルボッサの言葉にもう何も感じなくて、彼が傍に居ることを思えば何も怖くなくなった。

これが、答えね…。

 

「ユージオ、わたしはもう大丈夫よ。答えは出たわ」

「いいのかい、一時の間は戻れないよ?」

「構わないわ。でも、ユージオは…」

「言ったよね、アリス。僕はキミと一緒に居るって」

「うん、ありがとう」

 

ユージオの答えは最初から決まっていて、わたしは彼が居てくれるのならもう迷うことなんて一つもない。

立ち止まって休むのはここまで、今度は未来を守るために進もう。

 

 

 

 

「衛士長ジンクの命令を破棄します。

 村人は全員、衛士と武器を持つ者が先導しつつ守りを固めながら、南の森へ退避するよう命じます」

「な、なんの権限で、小娘が…」

「騎士の権限においてです」

 

なおも言い募ろうとするバルボッサを言葉と威圧で封じ、わたしもユージオも左手で外套の右肩部分を掴んでから引き剥がす。

 

「我が名はアリス。セントリア市域統括、公理教会整合騎士第三位、アリス・シンセシス・サーティ!」

「我が名はユージオ。最高司祭直属、公理教会整合騎士第零位、ユージオ・シンセシス・ゼロ!」

 

わたしの黄金の鎧とユージオの青銀の鎧が燃え盛る炎の輝きによって眩く煌めく。

 

「せ、せせ、整合騎士!?」

 

仰天顔でバルボッサは尻餅をつき、父様も母様も村のみんなも、眼を見開いて静まり返る。

わたしとユージオの名乗りを偽りだと言う者はいない、いまのこの世界で公理教会の権威を否定できる者はいないから。

でもこれで、一時の間は一個人のアリスには戻れない。

 

「姉さま、ユージオ…」

「セルカ、いままで黙っていてごめんなさい」

「ごめんね、セルカ。ちょっとした考えで知られるわけにはいかなかったんだ」

「姉さま、ユージオ……ううん、ありがとう。二人とも、素敵、カッコいいわ」

 

セルカの想いが心に広がる、大好きな妹がこんなにも想ってくれている。

なら、あとは戦おう、いつか戻ってくる日の為に。

 

「騎士アリス、先の貴公の命令は上位騎士として破棄する」

「理由をお伺いしても? 騎士ユージオ」

「僕かキミのどちらか一人ならともかく、僕達二人ならみんなを守れる」

「そう、そうだわ。わたし達は一人じゃない」

 

同時に鞘に納めていた神器である剣を抜き放ち、構える。

逃げるのもいい、けれどもしもゴブリン達が既に南側に回り込んでいたとしたら、みんなを守れない。

一人なら衛士達に守らせて一人残って戦うのがいいけど、いまはユージオが一緒だから二人で守ればいい。

 

「衛士隊は分散して四方から村人を囲み、ゆっくりと徐々に南下しろ! 広場を利用して我らが迎撃に移る!」

「農具を持つ者達は衛士達と共にそれ以外の者達を守りなさい!

 何処から攻撃があるか解らないゆえ、全員で注意しなさい!」

「御命令、確かに承知した、整合騎士殿! 全員、起立だ! 騎士殿達の指示通りに動け!」

 

父様の指示に従いみんなはすぐに立ちあがって態勢を整える。

そして、氷壁の前にいるオーク達を利用してゴブリン達が乗り越えてきた。

屋敷に迫る炎とゴブリン達の姿に喚くバルボッサの声が聞こえるが、聞き流すことが一番。

 

「雨縁!」「氷華!」

「「焼き払え!」」

 

広場に駆けこんできたゴブリン達の前に空中に待機していた二頭の飛竜が舞い降り、指示で体内の熱素を一気に吐き出した。

熱線は広場と北側の通りの一部を焼き尽くし、氷の壁ごとオークを吹き飛ばした。

 

「ギヒィッ! イウムだぁっ、全員殺して喰うぞ!」

 

こちらの攻撃に気付いているはずだけど、ゴブリン達はそのまま広場に駆けこんできた。

先の一撃でそれほど多くはない、わたしとユージオで十分にやれる。

 

「させない!」「やらせるか!」

 

迫りくるゴブリン達を一振りで斬り捨てる。

心意の乗ったわたし達の一撃は目前の敵だけではなく、その後ろの敵も含めて上半身と下半身をわけるように切断した。

しかし、そのさらに後ろの完全に壁が崩壊した北側からゴブリンとオークの集団が迫る。

その先頭に居るオークはこれまでの奴らとは違い装備がやや異なる、指揮官のようね。

 

「我、人界の騎士ユージオ!」「我、人界の騎士アリス!」

「「我らある限り、お前達が求める血の殺戮は得られなどしない! いますぐにお前達の国へ去れ!」」

「グラァァァッ! 白イウムの小僧と小娘が、この【足刈のモリッカ】様が地に這わせてくれるわぁっ!」

 

わたしとユージオの言葉に敵が怯んだのも束の間、その指揮官らしいオークが名乗りと共に前に出たことで敵の士気も上がる。

みんなは悲鳴を上げかけるけど、わたし達には通用しない。

 

「雨縁!」「氷華!」

 

再度二頭の名を呼んだことで雨縁と氷華が唸り声を上げながら低空飛行を行い威嚇し、それに気を取られる敵の軍勢。

その隙を逃がさず、いまここで決着をつける。

 

ユージオに目配せをすれば、先に仕掛けると言わんばかりに動きだして、彼は青薔薇の剣を地面に突き刺した。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

《武装完全支配術》の術式本体を省略したの!?

ユージオの意思に応えるように青薔薇の剣の刀身が青白く輝いてから、そこから冷気を発していく。

 

「凍てつかせろ、薔薇よ!」

 

剣から氷の蔓が地面を這い、闇の軍勢に向かっていく。

その氷の蔓は名乗りを上げたオークだけでなく、他のゴブリンもオークにも余すことなく巻き付き、

凍てつく氷によって全身を覆われて絶命し、氷の薔薇が幾つも花開いた。

蔓は北側へとさらに進み、次々と敵を凍りつかせ、村を出たところで神聖力の減少が停止した。

【絶対零度】の異名を持つ氷塊から出来ているその剣の特性の前に成す術もなく村内の敵軍は全滅してしまった。

 

冷気の中で立ちあがる彼の姿に目を奪われた、どうやらわたしの心はユージオの氷の蔓に絡まれ捕まってしまったらしい。

恐怖もあるけど、それ以上に彼に応えてあげたいと思う。

 

「エンハンス・アーマメント!」

 

わたしも金木犀の剣を高く掲げ、術式本体を省略して《武装完全支配術》の式句を唱える。

愛剣は応えてくれた、黄金の刀身から澄んだ金属音を奏で、無数の小刃に分離して炎の輝きを受けながら空中に舞い上がる。

 

「吹き荒れろ、花弁よ!」

 

数百に分離した刃の花弁は小さくとも全てが名剣と比べても優位に立てる力を誇り、

氷の薔薇に包まれている亡骸を諸共に破壊していく。

【永劫不朽】の名を持ち、突き進む刃の花弁は北側の通りを駆け、その先でゴブリンやオークの絶叫が聞こえた。

 

花弁がわたしの許に戻り、止めを刺さんとばかりに雨縁と氷華が空中から村外に出ていたらしい軍勢に向けて上空から炎の息を吐き、

そのまま上空を旋回したあとでわたし達の上に戻ってきた。

 

「死してなお聞こえるというのならばその魂に刻み込め!」

「我ら人界の守護者、整合騎士!」

「「我らある限り貴様らにこの地を汚させはしない!」」

 

高らかに宣言し、わたし達はルーリッドの村を守ることが出来た。

 

 

 

襲撃によって村の北側は壊滅状態になり、逃げ遅れた人もいて死者が二十一人もいた。

わたしとユージオはほぼ全員の天職の休職を命じ、村の復旧に勤めさせた。

教会にて死者の弔いが行われ、わたし達も騎士として出席を請われて参加した。

 

その前に二人で『最果ての洞窟』へ向かったところ、洞窟内部はオークの巨体でも楽に通れるほどに掘り起こされていた。

奴らは野営と工作兵を用いることで洞窟の内部に潜み、徐々に洞窟を掘り返していたことがわかった。

いままでのゴブリンやオークではありえない作戦にダークテリトリーで何らかの変化があったことを悟るしかない。

洞窟内の小川を堰き止めて洞窟内部を水没させ、両側を予め用意しておいた凍素で完全に凍らせることで出入り口を封じた。

少なくともこれでダークテリトリー側から侵入するにはわたし以上の神聖術の使い手でなくては突破することはできないと思う。

 

そして、わたしとユージオは前線に向かうことを決めた。

エルドリエが東帝国の最果て、ダークテリトリーとの境目にある『東の大門』に戦力を集めていると聞いていたからそこに行くことを。

父様には再度闇の軍勢の侵攻が確認された場合は即座に村を捨て、今度は街へ向かうことを指示した。

 

「お父様。お母様とセルカのこと、お願いします…」

「騎士殿も、ご武運を…」

「っ、こんどは、アリスとして帰ってきます…」

「……か、必ず、帰ってきてくれ、アリス…!」

 

去り際にそう言ってすれ違った時、搾り出すように父様の言葉が聞こえて、涙が溢れそうになった。

手を繋いでくれるユージオの優しい頬笑みが嬉しくて、そのまま森の中の自宅まで行く。

 

雨縁と氷華に頭絡と鞍をつけ、完全装備状態にして幾つかの食糧を積み込んだ。

その時、二頭が鳴いたことでセルカが来たことに気付いた。

彼女には食材を村で使っていいことと馬の世話を村で頼みたいとお願いして、快く伝えてくれると言った。

 

「姉さま、ユージオ。二人、とも……絶対、無事に…」

「ええ。必ず、ユージオと二人で戻るわ」

「約束するよ、セルカ」

 

ユージオと一緒にセルカを優しく抱き締めてから、彼女に家の鍵を託してわたし達は互いの飛竜の鞍に乗る。

手綱を操り、一声上げることで雨縁と氷華が地面から飛び立った。

 

アリスSide Out

 

 

 

 

ユージオSide

 

いくら飛竜に乗っていても、人界最北端から最東端への移動となると数日かかった。

四帝国の一つ、イスタバリエス東帝国の『東の大門』付近に到着した。

眼下の野営地では訓練を行っているようだけど、総数は三千にも届いていないかな。

アリスに聞いたところでは、ダークテリトリー側は五万ともいう、仕方が無いといえばそうかもしれない。

 

だけど、僕もアリスも絶句するしかなかった。

三百メル(300m)を超える『東の大門』の天命は残り僅かであり、あとたったの五日で崩壊してしまう。

門の最上部を超えたところからダークテリトリーを見てみれば幾つもの篝火がある、闇の軍勢の先鋒だ。

残された時間は後僅か、それを再認識した僕達は一先ず野営地に降りることにした。

 

飛竜の発着場らしいところをアリスが見つけたからそこへ降り立ち、彼女達の両脚にある荷物を外す。

雨縁は兄の滝刳がいるらしい天幕へ、氷華は空いている天幕に向かっていく。

 

「騎士アリス様、騎士ユージオ! 二人ともよくぞここへ!」

 

僕達の前にやってきたのは数日前に会ったエルドリエさんで早速と言わんばかりに僕達をベルクーリさんの許へ案内してくれた。

 

「お、嬢ちゃんにユージオ。来てくれたか」

「お久しぶりです、ベルクーリさん」

「ご無沙汰しておりました、小父様」

 

半年ぶりの再会に華を咲かせたいところだろうけど、いまはそれどころじゃない。

僕とアリスで数日前の出来事を話したことで二人とも事態を察した。

二人もまた現在の状況を説明してくれた。概ねの現状は理解できた、可能な限りの人員と志願兵を招集し、ここまで鍛えてきた。

カーディナルさんがある物資を融通してくれたこともあり、そっち方面を任せて集中できたという。

そのカーディナルさんはというと現在はカセドラルで決戦に向けての最終調整と大規模神聖術の展開を行っているらしい。

 

「大規模神聖術の展開、それはどういうことですか?」

「ああ、それはだな…お、噂をすればだ。まぁ空を見てな」

 

僕は知っているけど、知らないアリスがベルクーリさんに聞いた瞬間、途轍もない力を感じ取り、

カセドラルのある方角を見ると巨大な光の力がダークテリトリー側に向かっていった。

この前のとは別の神聖術かぁ、と呑気に思う僕とは別にアリスは呆然としていた。

 

「二人が帰省してから何度かの間隔でああやって大規模神聖術をぶつけているってことだ。

 しかも狙い先が敵の本拠地『オブシディア城』ときた、さすがは最高司祭様だな」

「容赦無いですね、カーディナルさん…」

 

恐らく、そのオブシディア城は今頃というかほぼ壊滅状態なんじゃないだろうか?

少し、ほんの少しだけ敵に同情した僕を許してほしい。

 

 

 

「「……………どういうこと(よ)?」」

 

僕達の天幕に案内されたものの空いている物は一つだけ、確認の為に中を覗いてみれば寝床は一つ、

しかも一人で使うには明らかに大きいということは。

 

「ねぇ、ユージオ…これって、もしかして…///」

「間違いなく、この天幕は僕達用(・・・)ってことだろうね」

 

エルドリエさんかなぁ、僕達が二人で暮らしていたのを伝えて、

それをベルクーリさん達が字面通りに受け止めていたからこういう風に捉えられたんだろう。

僕は吝かじゃないけど、アリスは…。

 

「野営地でこんな、でもユージオと二人で、一体だれが、だけど嬉しいし、どうすれば…///」

 

あ、手遅れだ。いや、手遅れにさせた僕が言っちゃだめか。

 

「アリス。僕はちょっとベルクーリさんと話してくるから、先に休んでいて」

「え、あ、うん…///」

 

返事が曖昧だけど仕方が無い、いまはそっとしておくとして、僕は騎士長に会いに行く。

 

 

 

「それで、あの天幕はどういうことですか?」

 

早速というかベルクーリさんと話をしている。

 

「エルドリエから二人が一緒に住んでるって聞いたもんだから、余計なお世話だったか?」

「個人的には助かります。ただ、アリスが駄目みたいです、色々な意味で」

「どういう意味だ?」

「いえ、やっぱりいいです」

 

そうか、と朗らかに区切ったベルクーリさん、その表情は嬉しそうだ。

 

「まぁ、なんだ、本当の親父さんには悪いが俺にとってアリス嬢ちゃんは娘みたいなものだったからな。

 こうやって嬢ちゃんを大切に思っている奴と幸せそうな顔を見たら、こっちも嬉しくなってなぁ。

 俺が言うのは違うかもしれねぇが、アリス嬢ちゃんのこと頼むぜ」

 

ベルクーリさんにとってアリスは剣術を教えていただけでなく、見守ってきた存在でもあったんだ。

だからこそアリスも彼には心を開いていた、そういうことか。

でも、それをいま騎士長自身が終わらせようとしている。それなら僕の答えは一つだ。

 

「必ず。アリスと一緒に生きてみせます」

「いいねぇ、一緒にってところが最高だ」

 

どうやらいい回答が出来たみたいだ、良かった。

 

「それじゃ、本題に移ろうか。ま、鎧を外してきたということは整合騎士の身分はまだ隠すってことでいいのか?」

「はい。(おおやけ)にはアリスの従騎士ということでいこうかと」

「なるほど、確かにお前さんはこっちの切り札だからな。よし解った、承認しておこう」

「ありがとうございます」

 

可能な限りまで整合騎士としての位は隠す、切り札は言い過ぎだと思うけど相手に知られていない札は隠しておくべきだからね。

そのために、先日のルーリッドでの戦いは敵を殲滅したんだ。

話すことも話したので村での生活を楽しそうに聞いてくるベルクーリさんにも話して、天幕に戻った。

 

中に入ればアリスが嬉しそうな顔をして待っていた、志願兵としてロニエとティーゼが参加しているらしい。

その二人が食事を持ってきて、こちらも半年ぶりの再会ということで少し話をしていたという。

その時、様付けは取れなかったようだけど二人と完全に打ち解けることができたようだ。

食事をとった後、僕とアリスはここまでの旅の疲れを癒すために睡眠をとった。

 

 

 

軍議が始まるということで昼間は飛竜の発着場に使われている場所に現在は陣幕が張られ、僕達もそこへ向かった。

幕の中では整合騎士と兵士の隊長らしき人達が議論を交わしていて、

アリスとベルクーリさんの話でこういう風に変わったということが伝わってきた。

そこへファナティオさんがやってきて、何かをアリスと話し始めた。

僕とベルクーリさんはなんとなく嫌な感じがして即座に自分達指定の席に移動した。

十中八九、話を終えたアリスが睨みつけるように僕をみてきた。

 

「ユージオは、わたしのなんだから…///」

 

呟くような声だけど、隣の僕にはしっかりと聞き届いた。

 

 

 

午後六時に軍議が始まった、アリスから見ても集まったのは錚々たる顔ぶれらしい。

 

整合騎士の長にして神器『時穿剣』のベルクーリ・シンセシス・ワン。

整合騎士の副長で神器『天穿剣』のファナティオ・シンセシス・ツー。

神器『熾焔弓』のデュソルバート・シンセシス・セブン。

【無音】の異名を持つ神器『黒百合の剣』のシェータ・シンセシス・トゥエルブ。

神器『比翼』のアーシン・シンセシス・エイティーとビステン・シンセシス・ナイティーの二人。

神器『雙翼刃』のレンリ・シンセシス・トゥエニセブン。

神器『霜鱗鞭』のエルドリエ・シンセシス・サーティワン。

そして神器『金木犀の剣』のアリス・シンセシス・サーティ。

以上九人が整合騎士の上位騎士達。

 

ダキラ・シンセシス・トゥエニツーとジェイス・シンセシス・トゥエニスリー、

ホーブレン・シンセシス・トゥエニフォーとジーロ・シンセシス・トゥエニファイブの【四穿剣】。

見習い少女騎士のリネル・シンセシス・トゥエニエイトとフィゼル・シンセシス・トゥエニナイン。

他十二名を合わせた計十八名の下位騎士達。

 

ここには来ていない四名の整合騎士はそれぞれ北・西・南の警戒と中央の管理を任されているらしい。

人界守備軍の部隊長達は三十名が列席している。本当に凄い光景だね。

 

僕、神器『青薔薇の剣』のユージオ・シンセシス・ゼロは整合騎士最上位騎士という扱いとのこと。

いや、確かにカーディナルさんの直属だけど最上位ってどういうことさ? 勘弁してほしいよ…。

 

さておいて、軍議はほぼ最後の確認という状況らしい。

というのも僕達がここに来るまでの間に散々話し合い、あらゆる作戦を検討してきたからだ。

僕達が来たことで決定打となる、重要そうだね。

 

 

 

作戦内容はこうだ。

 

現状の戦力で敵軍の総攻撃を押し戻すことは困難、

こちら側は草原と岩場しかないから五万の敵軍に包囲されたら殲滅されるしかなくなり、敗北となる。

よって、こちらは『東の大門』からここまでに続く峡谷で戦い抜き、

縦深陣で敵の突撃を受け止めて削り切ることが作戦の基本方針となる。

 

敵の後方からの攻撃、大弓を装備するオーガと闇の術を使う暗黒術師団への対処もある。

戦う場所である峡谷は深く碌に陽光も届かず、草木が一本も生えていない、つまりは空間神聖力が薄いということ。

人数的にこちらは神聖術師が百人ほどで敵は大規模なので神聖力の消費は相手の方が遥かに多い、

それを逆手にとり開幕で大規模神聖術を行使して敵を吹き飛ばすというもの。

危険な賭けになるがカセドラルの宝物庫に備蓄されていた高級触媒と治療薬を全て、

カーディナルさんの指示のもとで運び出したらしい。

 

当然、長年かけて大地に蓄積された膨大な神聖力はある。

それを開戦直前に根こそぎ使い尽くせる者はいない、アリスがそうファナティオさんに言った。

居るとすれば現在中央で最後の準備を整えているカーディナルさんくらいだけど、彼女は開戦時には間に合わないらしい。

だが、もう一人居るという、誰しもが知らないで黙りこむ中、

ファナティオさんとベルクーリさん、そして僕が彼女(・・・)に目を向けた。

 

「貴女です、アリス・シンセシス・サーティ」

「え…!?」

「現在の貴女の力は整合騎士の範疇を超えています。いまの貴女なら行使できるはずです、天を割り地を裂く、神の如き力を」

 

守るべきアリスこそ、戦いの鍵を握っている、か…。

 

 

 

五日間はあっという間だった。

人界守備軍の全ての兵士達に連撃技を伝授し、可能な限り鍛え上げ、作戦を何度も確認して細かいところを調整。

だけど、今回の初戦に関しては僕の役目はアリスの守護じゃない、遊撃だ。

アリスが安心して戦えるよう、戦場のあらゆる場所が僕の戦闘範囲になる。

 

傾き始めた夕日、あと三時間後には完全に沈んで夜を迎え、大門が崩壊する。

周囲にも緊張が訪れていて、隣に立つアリスとは手を繋いでいる。

 

「不思議とね、怖くはないの。絶対って言ってもいいくらい、貴方が居るからだわ」

「そうだね、僕も怖くないよ。むしろ…」

「むしろ?」

「いや、なんでもない。さぁ、最後の確認にいこう」

「ええ」

 

アリスと共に本陣へ向かい、開戦間際の最終準備を行いにいく。

 

 

 

――むしろ、これからの戦いに高揚している

 

 

 

なんて、さすがに言わない方がいいよね。

 

ユージオSide Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

更新できました~、原作のルーリッド戦とは打って変わって攻勢に出させました。

 

本文でもある通りなのですがアリス一人ならまだしもユージオと一緒で飛竜も一頭+されていますのでw

 

しかも余計な被害を出さないよう、慎重を期して相手を撤退させた原作とは違いこっちは殲滅、ユージオ情報は掴ませない。

 

それと半オリキャラも登場させました、整合騎士の上位騎士にWeb版のショタコンビであるアーシンとビステンを投入!

 

Web版知っている人にはあぁと思ってもらい、知らない人には知ってもらおうと思ったもので。

 

彼らはリネルとフィゼルによって原作ではリストラされた二人です、なのでナンバーも変えています。

 

そういうわけで性格とか戦い方もまったく違いますがそこは自分の手腕でなんとかしますw

 

あとは彼らの神器なのですが二人で一つという異色の神器『比翼』ですがどんなものかはまた本編で。

 

それとこの『比翼』、本来はWeb版のレンリの神器の名前でしたが小説版で『雙翼刃』になったんですよね。

 

なので彼らの神器名にしました、戦い方も特殊にするつもりなので。

 

あとはジェイスとホーブレンとジーロのナンバーも捏造しました、彼らも不明でしたから。

 

さらには配置されている整合騎士達も原作とは人数が違います、カーディナルがいるので東以外は軽めです。

 

次回はついに大規模戦闘、原作の色々な死亡フラグをバッサリとユージオが斬っていきます。

 

最後でユージオが言っているじゃないですか、戦いで高揚するって、遊撃だって(黒笑)

 

一応、あと次話と次々話までがアバターの締め切り期間となっております、参加はお早目に!

 

ではまた次回で・・・・・・・・・色々と思いだしたら追記していきますのでよろw

 

 

 

 


 
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