No.844072

九番目の熾天使・外伝 ~改~

竜神丸さん

生まれ変わる羽根

2016-04-24 00:34:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2319   閲覧ユーザー数:988

普段、ナンバーズメンバーが使用する会議室。

 

そこでは…

 

 

 

 

 

 

『瑞希君? あぁ、君なら既にナンバーズ候補に入っているが』

 

「感謝の極みですわ、団長様♪」

 

「…はぁっ!?」

 

クライシスから通信で伝えられた事実。それを聞いて瑞希は嬉しそうに微笑み、逆に朱音は思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

「いや、でも……今回の任務じゃ、特にこれと言った功績は残してないわよ!?」

 

『今回の任務以前に、これまでもバックアップの面で世話になっているからな。それに彼女の実力は、君から見ても特に申し分の無い物だろう? 違うか?』

 

「うっ……それはまぁ、そうだけど…」

 

「ふふん♪」

 

(こ、このアマァ…!!)

 

「まぁそれを言っちゃうと、何故kaitoがナンバーズに入れたのかっていう突っ込みも必要になるからなぁ」

 

「「「あぁそれは確かに」」」

 

「ちょっと君達、毒舌過ぎないか~い? 自分だって、ちゃんとした功績を残してナンバーズ入りしたんだよ~?」

 

「「「「ごめん全く信用出来ない」」」」

 

「本当にちょっと酷過ぎないかね君達ィッ!?」

 

瑞希のドヤ顔で朱音がイラついたような表情を浮かべる、そしてロキ、miri、ガルム、ルカの四人がkaitoを徹底的に弄っている中、クライシスは同じ部屋にいた琥珀と葵にも声をかける。

 

『さて……坂下琥珀君に、葵・泉美君だったな。君達も既にナンバーズ候補に加えているよ』

 

「え? いやでも、僕だってそんなに結果を残せてませんよ? 今回だって、ワイルドハント相手に手こずりましたし…」

 

『いや、君もいずれはナンバーズに加わる事になるかも知れない……そう、いずれね』

 

「…?」

 

クライシスの告げる言葉に、琥珀は首を傾げる事しか出来ない。そんな彼を他所にクライシスは、今度は葵に対して語りかける。

 

『君はどうかな、葵・泉美君。ナンバーズに加わってみる気は無いか?』

 

「あら、顔も見せずに勧誘かしら? 趣味の悪い御方ね! そんなんで釣れる女なんて、よほど馬鹿じゃない限りいないわよ! やるならこの私が釣られたいと思えるくらいの事はしなくちゃ!」

 

((((何か凄い事言ってんぞこの女!?))))

 

ロキ、miri、ガルム、ルカが唖然とした表情で見る中、葵はドヤ顔でその豊満な胸を張ってみせる。

 

『むぅ、そうか…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だな、君がナンバーズに加入してくれないのは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「…え!?」

 

一同は驚愕した。気付けば葵の真後ろにクライシスが立っており、しかもクライシスの持っている杖が、葵の首元に堂々と突き立てられていたからだ。

 

(…え!? はっ!? 何だ、今何が起きたんだ…………何で、葵さんに触る事が出来てる(・・・・・・・・・・・・)んだ…!?)

 

そう。一番の問題は、高嶺舞(たかねまい)がアッサリ破られている事だ。高嶺舞がどんな能力なのかを嫌と言うほど知っている琥珀は、目の前で起こっている現実をすぐには受け入れられなかった。

 

「ッ…!」

 

「確か高嶺舞(たかねまい)は、音速すらも上回るほどの速度で、しかも何百回も、何千回も、何万回も途切れる事なく連続で攻撃しなければ掠りもしないんだったな。だから、実際に私に出来る範囲内でそれを実行してみたんだが……何か、マズい事でもしたかな?」

 

「…いわゆるバグ野郎って奴なのね。良いわねそういうの、負けない男は大好き! でもどうせ突破するなら、動物みたいに正面から突き連打するくらいじゃなきゃ! 無音で済ませちゃったのが数少ない不満点ね! それじゃ女は満足しないわよ!?」

 

「「「アンタ何言っちゃってんの!?」」」

 

「む、そうか……いかんな。どうも私は、女心という物をイマイチ理解出来ていないようだ」

 

「「「団長も真に受けないで!?」」」

 

miri、ガルム、ルカが盛大に突っ込む中、クライシスは杖を降ろして葵を解放する。その一部始終を見ていたロキは、改めてこう思うのだった。

 

(…本当、素敵にバグってらっしゃいますわぁ。うちの団長は)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは、何処だ…

 

 

 

 

 

 

私は、どうなっているんだ…

 

 

 

 

 

 

私は奴を、倒せたのだろうか……それとも…

 

 

 

 

 

 

『―――』

 

 

 

 

 

 

…?

 

 

 

 

 

 

誰かに、呼ばれている…?

 

 

 

 

 

 

『―――さい』

 

 

 

 

 

 

誰だ…

 

 

 

 

 

 

私を呼ぶのは、誰なんだ…?

 

 

 

 

 

 

『―――いい加減に起きなさい。既に適合は完了している筈ですよ』

 

 

 

 

 

 

…!

 

 

 

 

 

 

そうだ、私は…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はっ!?」

 

「おや、やっと目が覚めましたか」

 

竜神丸の研究室。

 

目を覚ましたランが手術台からガバッと起き上がり、椅子に座ってコーヒーを飲みながらその様子を見ていた竜神丸はニヤリと笑みを浮かべながら立ち上がる。そんな竜神丸に対し、現状を把握し切れていないランは未だ周囲を見渡し続ける。

 

「ここは…」

 

「私の研究室ですよ、ランさん。まずはおめでとうございますと言っておきましょうか」

 

「…どういう事ですか」

 

「覚えていませんか? 数時間前、私があなたに問いかけた言葉を」

 

「問いかけた言葉…………ッ!」

 

竜神丸の言葉で、ランは思い出した。数時間前、この竜神丸の研究室であった出来事を。

 

(そうだ! 私は確か―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、ランさん。あなたに聞きたい事があります』

 

数時間前。

 

ワイルドハントのチャンプとの戦闘で重傷を負ったランは、チェルシーの頼みで竜神丸に治療を任され、こうして竜神丸の研究室に運ばれていた。手術台に乗せられたランの身体は鎖などの拘束具で厳重に縛りつけられ、たまたま研究室に来ていたデルタがその様子を近くから眺めていた。そんな中、竜神丸はランに問いかける。

 

『さてランさん。私はこれから、あなたの治療を開始しようと思っているのですが』

 

『ッ……治療、する…よう…ゲホ……には…見え、ませんが…ゴホッ…!』

 

『まぁ、これが結構荒い方法な物でして……今からしばらくの間、地獄を見る覚悟はおありですか?』

 

楽しそうな表情を浮かべながら問いかける竜神丸に対し……ランの向けている目は、睨みつけるように竜神丸の目を見据えていた。

 

『地獄など、とうに見ましたよ……あの時の、ゲホッ……あの村で…!!』

 

『ほぉ?』

 

迷いの無い台詞。それを聞いた竜神丸は更に楽しそうな表情を見せる。

 

『いやぁ~それを聞いて安心しました♪ あなたは旅団関係者の中でもウイルスの適合率が非常に高い、貴重な特異体質だったもので。断れたらどうしようかと思ってました♪』

 

竜神丸は拘束されているランの右腕を掴み、服の袖を強引に破いてからその肌を晒す。既に右腕は骨折している状態の為、ランはそういった感覚すらも分からない状態だった。そして竜神丸は、Tウイルスの入っている注射器を取り出した。

 

『それではランさん……良い悪夢を』

 

『ッ…!』

 

注射器の針は、ランの折れた右腕に突き刺さる。そして…

 

『…ッ!? ァ、ガ…』

 

Tウイルスがランの血管に侵入していき……その瞬間、ランの身体に異変が起こった。

 

『ゥ…グガァァアアァァアアァァアァァアァアァアア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!!??』

 

研究室全体に、ランの大きな悲鳴が響き渡り始めた。拘束具によって身動き一つ取れない中、ランは尋常でない苦痛にひたすら叫び声を上げる事しか出来ない。他の研究員逹がうるさそうに両手で耳を塞いでいる中、竜神丸とデルタ、そしてイーリスだけは何事も無い様子でその光景を見据えていた。

 

『おやまぁ、苦しそうですねぇ? …イーリスさん、今の時点ではどうですか?』

 

『今の瞬間、適合率はまだ5%に到達したばかりです。ここから更に適合率を上げるには、数時間かけてウイルスを肉体に馴染ませていく必要がありますが、これまで適合率50%に到達できた被験者はいません』

 

『半分にすら満たないとは……本当に成功するんですかねぇ? 竜神丸さん』

 

『ま、失敗すれば所詮それまでの存在でしかなかった……その一言で片付きます。彼は先程まで任務でワイルドハントと戦っていましたからねぇ。もしそうなった場合は、ワイルドハントとの戦闘で重傷を負って殉職……という形でカンナさんに伝えれば良いだけの話』

 

『酷い人ですねぇ。ネジが10本どころか100本も外れていらっしゃる』

 

『いやいやデルタさん、そんなに褒めても何も出ませんよ♪』

 

(((((誰も褒めてねぇよ!!)))))

 

耳を塞いでいた研究員逹は心の中でそう突っ込みたかったが、ランの悲痛な叫び声が大きい事でそんな事を考える余裕すら無かった。

 

『さぁて、ラン・アルジェントさん。あなたはどうですか? あなたは私を、満足させてくれますか? 結果を楽しみにしてますよ…♪』

 

『ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛!!!!!』

 

竜神丸は今まで以上にドス黒い笑みを浮かべながら、手術台の上で悲鳴を上げ続けるランを見下ろす。ランの悲鳴はしばらくの間、収まりそうになかった。

 

(ま、だ……死ね、ない…ッ……隊、ちょ……み、ん………な………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数時間後、現在に至った。

 

ランのウイルス適合実験は、見事成功したのだ。

 

「…そうだ。あの時、私はウイルスを注入されて…」

 

「ある程度は適合率を上げている特殊なTウイルスですが、それでも適合率が100%に到達出来た被験者は今まで一人もいませんでした。あなたは誇って良い。文字通り、人間を超えた“怪物”に生まれ変われたのです♪」

 

「…!」

 

竜神丸の言葉に、ランは気付いた。折れていた筈の右腕から痛みを感じない事に。全身の傷が、何事も無かったかのように完治している事に。そして近くにあった鏡を見ると……自分の瞳が、赤く染まり切っていた事に。

 

「この特殊型Tウイルスは貴重でしてね。適合者自身が望む事で、適合者に未知なる力を授けてくれるのですよ。適合中、あなたは心の中で何かを強く望みませんでしたか? 生き延びたいとか、力が欲しいとか」

 

「…では、私が“生き延びたい”と強く望んだ場合、どのような力が発現するんですか?」

 

「非常にシンプルな物です。適合者が生き延びられるよう、まず肉体その物の構造が劇的に変化します。より頑丈になった骨はハンマーでも折れず、より頑丈になった皮膚は並の刃物を通さない……こんな風にね」

 

-ドゴォンッ!!-

 

「ッ…!?」

 

直後、イーリスの向けた砲台から鉄球が発射され、ランの腹部に炸裂。いきなりの出来事にランは何も対応出来ないまま手術台から吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて地面に落ちる……しかし、常人なら大怪我では済まないような攻撃を受けたにも関わらず、ランは何の痛みも感じていなかった。

 

「! …痛みが、全くない…」

 

「素晴らしいでしょう? しかも、与えてくれるのは頑丈な肉体だけじゃない。万が一、適合者が傷を負ってもすぐに全快になるまで回復させてくれる再生能力。あなたは肉体面では既にこの私と同じくらいの領域にまで達しているのですよ」

 

「…ですが」

 

ランは倒れている状態からゆっくり立ち上がり、手術台の上に座り込む。

 

「これほどの再生力と、頑丈な肉体を授けてくれるウイルスの力……何かしら、デメリットも存在してるんじゃありませんか?」

 

「その通り」

 

竜神丸はデスクに置かれているパソコンのキーボードを打ち込み始める。

 

「いくら適合率が100%に達したといっても、あなたの肉体はまだまだ不安定な状態です。普通のTウイルスですら我儘なんです、今はまだ必要な栄養分を摂取するなどして、体内のTウイルスを肉体に馴染ませ続ける必要があります。もしそれを怠ってしまえば……あなたの肉体は暴走を引き起こし、あなたは理性なき怪物へと成り果ててしまう事でしょう」

 

「…何故ですか?」

 

「んむ?」

 

「何故、そこまでして私を助けたんですか…? 私がワイルドハントとの戦いで死にかけた時に……もしや、このタイミングを狙って…?」

 

「さぁ、どうでしょうねぇ? 私はただ、目の前に転がっている貴重な被験体をみすみす見逃したくなかっただけの事です」

 

「…食えない人ですね、分かってはいましたが」

 

「褒め言葉をどうも……あ、そういえば忘れてました。チェルシーさんから、あなたの治療を頼まれた事を。仲間思いな人ですねぇ、彼女という人は」

 

「! チェルシーさんが…?」

 

「えぇ。ちなみにチェルシーさんは現在、この私なんかに治療を懇願した罰として、カンナさんからお仕置きを受けている真っ最中のようですがね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜神丸の言葉通り、現在のチェルシーは…

 

 

 

 

 

 

「―――さてチェルシー。私が何故お前をここに呼んだのか、分かっているな?」

 

「…ハ、ハイ」

 

…イェーガーズの会議室にて、お仕置きを受けそうになっているところだった。椅子に座ったカンナが足を組んでいる中、チェルシーは土下座した状態のまま涙目で震えている。

 

(怖ぇ……カンナ隊長、ひっさびさに怖ぇ…!!)

 

(姉さん、竜神丸とはウマが合わないって言ってたもんなぁ…)

 

「モグモグ」

 

ウェイブとタツミが冷や汗を掻きながら、クロメがクッキーを頬張りながらその光景を見ている中、カンナは腕を組みながら口を開く。

 

「私は別に、ランの傷の治療を他の仲間に頼った事を言っているのではない。むしろその判断は素晴らしい物だ。自分の能力を過信した結果、傷を治せなくて死なせてしまいました~…ではお笑い草だ。だがな……その頼った奴が問題なんだ」

 

「ッ…でも!! あの状況じゃ、竜神丸以外に頼れる人なんて…」

 

「現場にはウルも向かっていたのだろう? アイツなら通信で連絡すれば、テレポートの魔法ですぐに駆けつける事が出来ただろうな」

 

「…あ゛っ」

 

((墓穴掘ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?))

 

カンナの一言で、ハッと気付いたチェルシーは一気に表情が青ざめていき、近くで見ているだけの筈であるウェイブやタツミも恐怖で震え上がる。カンナは呆れた様子で溜め息をつく。

 

「チェルシー、お前の来歴くらいは私も知っているさ。その考え方を捨てろとも言わん。だが覚えておけ…『戦場では常に冷静に』…だ。焦って選択肢を誤れば、取り返しのつかない事態になる。勝てる戦も勝てんし、救える命も救えない…………しかしまぁ、今回はまだ運が良かった方だな。奴は……竜神丸は、何よりも自分の研究欲を優先するような男だ」

 

「え? うわっとと…!」

 

カンナは取り出した一枚の診断書を、チェルシーの前に放り捨てる。チェルシーは慌ててそれを掴み取り……診断書の内容を見て言葉を失った。

 

「これ、は…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イェーガーズ構成員:ラン・アルジェント  特殊型Tウイルス適合実験の結果、適合率は無事に100%に到達した。まだまだ監視をつける必要はあるものの、実験その物は成功したと言っても過言ではないだろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、診断書に書かれたデータの結論だった。

 

「ランは今も生きているだろう……ウイルスの実験台としてな」

 

「そん、な……私の、所為…で…!」

 

チェルシーの診断書を掴んでいる手が、ワナワナ震え始めた。同時に彼女の目からも一粒の涙が零れかける。

 

「ごめん、なさい…!」

 

「謝りたいのなら、それは私ではなくそいつにするべきだろう?」

 

「え…?」

 

カンナはある方向を指差し、チェルシーもそちらに振り返る。二人が見据えるその先には…

 

「おやおや? カンナさんが長期任務から帰って来たものだから、わざわざ挨拶しに来てみれば……何やら妙な空気になってますねぇ」

 

「…チェルシーさん」

 

会議室の扉の前にて、満足そうにニヤニヤ笑みを浮かべている竜神丸と、何事も無かったかのようにいつもの服装を身に纏っているランの姿があった。

 

「「ラン!」」

 

「ラン…!」

 

「ッ…ラン……」」

 

ウェイブやタツミ、そしてクロメやチェルシーは安堵した表情を浮かべるが……それも一瞬だけだった。

 

「…よくおめおめと、この私の前に顔を出せたものだな? 竜神丸」

 

「おぉっと、いきなり酷い一言を飛ばしてくれるものですねぇ。せっかくあなたの部下を、この私が助けてあげたというのに」

 

竜神丸の姿を見た途端に、カンナが不機嫌な表情を浮かべ始めたからだ。その影響からか会議室の気温は一気に低下していくが、竜神丸は平然とした様子で笑みを浮かべ続け、カンナに対して挑発とも取れる返事を返してみせる。

 

「助けてあげた、か……貴様にとってはそれすらも実験(・・)で、助けたつもりなど毛頭ない癖にな?」

 

「そうは言いますがねぇ~……私は最初に『地獄を見る覚悟はおありですか』と問いかけて、彼はその問いに対して首を縦に振った。それに、こんな私なんかに彼の治療を頼んだのは他でもない、そこで正座しているチェルシーさんです。つまり、私一人の責任ではないでしょう?」

 

「…ふん、まぁ良いさ。結果としてランが生き延びた事には変わりないからな……だが」

 

「!」

 

直後、カンナの空中に形成した氷柱が、竜神丸の左頬を掠るように飛んで壁に突き刺さる。竜神丸の左頬は、掠った箇所がほんの僅かに凍りつく。

 

「…今度、許可も無く私の部下を勝手に実験台にしてみろ。人間が何処まで低温に耐えられるのか、私が貴様を実験台にして検証してやる」

 

「…おぉ、怖い怖い。そんな事をされれば私なんかじゃひとたまりも無いでしょうねぇ。あ~大変だ☆」

 

((怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!))

 

カンナが鋭い目線を向けるも、竜神丸は変わらず挑発的な言葉と表情を返してから会議室を去っていく。そんな一触即発過ぎる空気でウェイブとタツミが震え上がっている中…

 

「ラン…ッ!」

 

チェルシーは気まずそうな表情で、ランと真正面から向き合っているところだった。その際、ランの赤く染まった瞳を見たチェルシーは、彼がウイルスの実験台にされてしまった事を改めて思い知る。

 

「ッ……ごめん、なさい。私の所為で、ランの身体は…「ありがとうございます」…え?」

 

ランから返って来た言葉は、チェルシーにとっては想定外な物だった。

 

「チェルシーさんが迅速な判断をしてくれたおかげで、私はこうして生き永らえる事が出来ました……本当にありがとうございます」

 

「ラン…」

 

ランはにこやかな笑みを浮かべ、チェルシーに感謝の意を述べる。チェルシーは申し訳ないという思いと彼が無事で良かったという思いで、その内心は複雑な状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と甘ぇんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!」」」」」

 

その言葉に、会議室にいたメンバー全員が一斉に振り返る。彼等が振り返った先には、四角いテーブルの上に足をかけて行儀悪く座っているZEROの姿があった。

 

「な!? ZERO、さん……何時の間に!?」

 

「割と最初からここにいたぜ……にしてもカンナ、テメェも随分と甘いもんだな」

 

「何?」

 

「ワイルドハント…つったっけか? あの程度の雑魚なんぞを相手に死にかけるような奴は、この旅団にいたところで長生き出来やしない」

 

「…何が言いたい?」

 

「この世は弱肉強食だって事くらい、テメェが一番よく知ってる筈だぜ。それなのに……何でそんな弱っちぃ奴を、今も部下として従えようとする? 弱者は強者に喰われる運命(さだめ)。テメェの考えに反してるだろ―――」

 

「何をほざくのかと思えば」

 

ZEROの言葉をカンナが遮る。

 

「私の部隊の連中なら、そんな死の運命すらも喰らい尽くしてみせる……そうだろう? ラン」

 

「…えぇ、もう油断などしません。どのような敵も、私がこのマスティマで貫いてみせましょう」

 

「はん、そうかよ。そりゃ何よりだ」

 

カンナとランの言葉に、ZEROはニヤリと口の端を吊り上げる。

 

「氷の女帝と呼ばれる女、東雲環那(しののめかんな)が率いる部隊なんだ……そうこなくちゃ、俺も期待してやる意味が無い」

 

「随分と上から目線な奴だな……私達に喧嘩を売っている、と思って良いのか?」

 

「テメェが言えた口かよ? まぁ良い、せっかく時間もあるんだ……模擬戦でもやるか?」

 

「…それも面白そうだな。貴様が床に這いつくばっている姿、ぜひ見てみたいものだ」

 

「へぇ、出来るってのか? 全く逆の光景が出来なければ良いがなぁ?」

 

((ま、またこの空気になんのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!))

 

今度はカンナとZEROが一触即発な空気になる。しかし、数秒間睨み合い続けた後……カンナはフッと殺気を抑えていつもの表情に戻る。

 

「しかし、今回はやめておこう。任務から帰ったばかりで休暇を取りたいしな」

 

「…ふん、つまらん」

 

ZEROはつまらなそうに会議室の窓を蹴破り、割れた窓から飛び出して会議室を去って行く。

 

「…全く。また修理班を呼ばなければならんな」

 

「ところで、チェルシーのお仕置きはしなくて良いの?」

 

(ちょ!? 回避出来そうだと思ってたのに…!?)

 

「おっと、そうだったな。忘れるところだった」

 

クロメの発言でチェルシーが再び青ざめる中、カンナは振り返ってから右手を上げ、右手に少しずつ強力な冷気を纏い始めた。チェルシーはビクッと怯えた様子で僅かに後退する。

 

「ランも無事に生き延びた事だし、今回は特別に仕置きも軽い物にしてやろう。尻叩き1000回だ、ありがたく思え」

 

「ま、まままままままま待って下さいって!? え、ちょ……こ、ここでやるんですか!? しかも何か凄い冷気を纏ってるし!?」

 

「? そうだが、何かあるのか?」

 

「い、いやいや!! ここにはタツミやウェイブ、それにランもいますし!! 流石にここでは…」

 

「あ、俺、そろそろトレーニングの時間だ」

 

「お、おぉ、俺も付き合うぜタツミ」

 

「私はまだ、竜神丸さんの検査を受けなければなりませんので」

 

「…支配人さんにお菓子貰って来る」

 

「皆待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 私を見捨てないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

タツミ、ウェイブ、ラン、クロメの四人は一斉にチェルシーを見捨ててしまった。チェルシーが涙目で彼等に助けを求める中、カンナは左手でチェルシーの肩をガシッと掴む。

 

「さて、チェルシー……覚悟は良いな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな状況になっている事など露知らず、ディアーリーズと支配人は通路でタツミ逹と擦れ違った。

 

「あれ、皆さんお揃いで。どうかしたんですか?」

 

「え? あ、あぁいや、ちょっとな…ハハハ」

 

「な、何でもないぜ? アハハハハハ…」

 

「「?」」

 

タツミとウェイブのおかしな様子に、ディアーリーズと支配人は視線を合わせて首を傾げる。

 

「あ、そうだ皆さん。カンナさんを見ませんでしたか? ワイルドハントから回収した帝具について、色々と聞きたい事があるんですが―――」

 

 

 

 

 

 

イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…

 

 

 

 

 

 

「「「!?」」」

 

突然聞こえて来たチェルシーの悲鳴。ディアーリーズと支配人はいきなり聞こえて来た悲鳴に驚き、タツミとウェイブは「あぁ、やってるなぁ…」と言いたげな表情を浮かべ、ランは「あはは…」と苦笑し、クロメは変わらずクッキーを口の中に放り込み続ける。

 

「今の悲鳴、チェルシーさんに何かあったのか…!?」

 

「あ、ちょ、待てってウル!!」

 

「今はまだ行かない方が……あぁ、行っちまった」

 

ディアーリーズはタツミ逹の制止も振り切り、カンナとチェルシーがいるであろうイェーガーズの会議室まで大急ぎで走って行く。それに対して支配人は走り出す事も無く、何となく察したかのような表情でタツミ逹の方に視線を向ける。

 

「…もしやとは思うが、そういう事か?」

 

「「…はい、その通りです」」

 

「あ、あははははは…」

 

「モグモグ……あ、支配人さん。お菓子の在庫なくなっちゃったから、また新しいの頂戴」

 

「いや、それより今の悲鳴…………あぁはいはい、分かったよ。チョコクッキーとかで良いか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェルシーさん、大丈夫です……か…」

 

イェーガーズの会議室に、一足先に到着したディアーリーズ。彼はバァンと勢い良く扉を開けてみせたが、その先にあったのは…

 

 

 

 

 

 

「…え」

 

「…あ」

 

 

 

 

 

 

尻叩きの刑を執行中のカンナと、尻丸出しで尻叩きを受けているチェルシーの姿があった。もちろん、今のチェルシーはスカートも下着も履いていない状態だ。

 

「…お、お邪魔しましたぁ~…」

 

ディアーリーズは静かに扉を閉める。そして数秒後…

 

「―――キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!??」

 

先程よりも更に大きな悲鳴が、会議室の外の通路まで響き渡るのだった。そしてお仕置きが終わった後、ディアーリーズがチェルシーから往復ビンタを受けたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて。早いところ、ランさんがウイルスを馴染ませる為のカプセルを用意しなければ…」

 

一方、竜神丸は上機嫌な様子で自分の研究室に戻ろうとしていた……が、彼はすぐに足を止めた。彼が入ろうとしていた研究室の前に、ある人物が立っていたからだ。

 

「ほほぉ? あなたがここに来るとは珍しいですねぇ……二百式さん」

 

「…お前に頼みたい事がある」

 

研究室の前に立っていた人物―――二百式は、右腕が無い状態のまま彼に告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェイル・スカリエッティ……奴に、お前から連絡を取れないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、某次元世界…

 

 

 

 

 

 

「んん~? えぇっと、ここは一体どぉ~こだっと…」

 

 

 

 

 

 

謎の戦士―――アナザードライブは、アナザートライドロンに寄り掛かりながら街の景色を見渡していた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


0
このエントリーをはてなブックマークに追加
0
0
4
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択