No.838981

38(t)視点のおはなし その2

jerky_001さん

戦車視点のお話の続きです
38(t)戦車は自己評価低めな紳士的人物をイメージしてかいてます

2016-03-25 01:01:52 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:515   閲覧ユーザー数:508

私の名は38(t)戦車。

チェコスロバキアにて生まれ、ドイツ軍配下の元、ソ連の雪原にて撃破され、

極東の島国日本にてレストアを受け「戦車道」なる競技に従事すると言う、

珍妙奇天烈な運命を辿る事となった戦車で御座います。

戦車道人気の衰退により、再び物言わぬ鉄塊として長らく放棄されていた私ですが、

かつて私を駆った乙女達にも似た雰囲気を宿す現・大洗女子学生達に見出だされ、

三度、数奇な運命の転輪を駆動する事となるのです。

 

見目懐かしい赤茶色の戦車倉庫の前へと牽引されて来た私は、これまた昔懐かしいかつての戦友、

Ⅳ号・Ⅲ突・M3・八九式の、旧・大洗戦車道最後の八輌の内、四両と再会する事と相成りました。

最も最初に見つけ出されたと言うⅣ号に話を伺うと、何でも

国策での戦車道人気復権に習い、ここ大洗女子学園でも、戦車道を復活させるとの事。

この度戦車道を履修すべく集った乙女達は、それぞれ発見した車輌に割り振られ、

私はと言うと此度の戦車道復活の首謀者で有ると言う、生徒会チームの搭乗車輌となりました。

 

生徒会長の角谷杏殿。

大洗戦車道復活を決定した張本人であり、常に飄々とした態度を崩さない少女。

副会長の小山柚子殿。

常におおらかで優しげな雰囲気を漂わせ、面倒見の良さが伺える少女。

広報担当の河嶋桃殿。

厳格な態度と険しい表情で生徒達に接し、恐らく此度の戦車道復活に最も意欲を燃やす少女。

 

彼女達の指示により、私達一同は久方振りにその身に積もった泥と錆と苔を磨き落とされ、

かつてと同じ橙色のツナギを身に纏った自動車部の手によって、驚くべき手際で修復を施されました。

そして程無く、戦車道指導の為学園に招致された自衛官、

蝶野亜美殿の発案により、チーム同士での練習試合を行う事となるので御座います。

 

結果だけ簡潔に申し上げると、試合は唯一の戦車道経験者である西住みほ殿が搭乗したⅣ号が、

エンジントラブルで自滅したM3を除く三輌全てを撃破する快勝に終わりました。

私などは、図らずもⅢ突・八九式との挟撃体勢に入りⅣ号の至近距離に肉薄するも砲撃を外し、

応戦射撃に遭い撃破されてしまいました。

あれだけの近接距離にありながら、さほどの口径でもない私の主砲撃を外すものか、とも思いましたが、

如何せん河嶋殿は戦車道未経験との事なので、致し方の無い事かも知れません。

むしろ、初操縦とは思えない小山殿の手際により、あれだけⅣ号に肉薄を果たした事を褒め称えるべきでしょう。

一方で、私の一応の車長に任命された筈の角谷殿はと言うと、

試合中も何故か所在無げに干し芋を齧り、腰を落ち着けているだけ。

仮にも大洗戦車道復活の発起人である筈が、練習試合とは言えあまりにも意欲が見られないのは、どういう事なのか。

私の思考の片隅に、小さな疑問がしこりの様に残ります。

 

練習試合での模擬弾による損傷を手早く修復された私達は、搭乗者各々のアイディアで

各車輌共々、奇抜なペイントやデコレーションを施されてしまう事となります。

見世物染みたカラーリングに変わり果てたその姿は、戦車道に厳格な者ならば憤慨しそうな様相では有りますが、

何せ皆戦車に慣れ親しんだ経験の無い乙女達。少しでも親しみ易くと考えての装飾で御座いましょう。

欺瞞効果の無さを嘆く堅物のⅢ突。自嘲気味に搭乗者達を見守るM3。快活に笑い飛ばす老骨の八九式。

唯一奇抜な塗装を免れたⅣ号だけが、そんな皆の様子に苦笑いを浮かべ眺めております。

私などは、眩いばかりの黄金色に染め上げられてしまいましたが、塗装案の張本人たる河嶋殿曰く、

「会長に相応しい高貴な輝きだ。これなら多少はご満足いただけるだろう!」

との事。

河嶋殿はさぞ、角谷殿を敬愛していらっしゃるのでしょう。

その様子を見守る小山殿も、にこやかに微笑み河嶋殿を見守っております。

 

それから幾度かの基礎練習ののち、私達に対外での練習試合が御膳立てされたので御座います。

相手は名門、聖グロリアーナ。

かつて過ごした旧き戦車道においても、幾度かの砲火を交えた相手であり、かつてと変わらぬのであれば、

苦戦は必至の強豪校であります。

Ⅳ号装填手の秋山ゆかり殿より準優勝経験校たる情報がもたらされると、皆一様に戦々恐々のご様子。

すぐに各車長が集まっての作戦会議が開かれる事と相成ります。

車長以外の解散が告げられ、残った車長達が別室へと場所を移す直前。

私の傍らに参られた角谷殿は、私の鋼鉄の肌をさらり、と一撫でして、一言。

 

「ま、こんなメンツじゃ、作戦ってもたかが知れてるけどね~」

 

どこか悲観的で、物憂げな独り言。

その言葉を鵜呑みにするならば、私達の性能を小馬鹿にする暴言と本来ならば腹を立てるのでありましょうが。

私はむしろ、いつも飄々とした笑顔を崩さないこの学園の小さな君主の、

ちらり、と見せた弱みとも言える一面にこそ、気が行ってしまったので御座います。

その弱さの根源、乙女達を見舞う未曽有の苦難の正体が明かされるのは、あと少しだけ先のお話。

 

つづく


 
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