No.836424

リリカルなのはZ

たかbさん

第二十五話 ガンレオンはどっちサイド?

2016-03-09 21:00:56 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1486   閲覧ユーザー数:1350

第二十五話 ガンレオンはどっちサイド?

 

 グランツ研究所は広大である。

 東京ドーム十数個は余裕で収まるその敷地に働く従業員は千をくだらない。多くはゲームの開発者だが、その下に施設内の案内人にゲームやフィギュアを作り売り出す人材。清掃員から食堂のスタッフ。チヴィットという人工知能を搭載した機械がそれらの隙間を埋めるように配備されている。その為、どこかで必ずチヴィット一体はいる。研究施設にはチビレオンが主だが、警備の方にも出向いているのがいるので迂闊に震有すれば鋼鉄の拳がお見舞いされるだろう。

 さて、そんなスタッフ達には寮が設置されており、その中には公衆浴場も設置されている。それはどこかの銭湯を思わせるものだったがその広さは倍以上だ。男湯女湯で区切られている浴場にそれぞれ持ち込まれるモニター。それを見ながら高志達は自分達がこの世界にやってくる前の事件を軽く説明することにした。

 

 それは一人の少年が迂闊な事にスフィアをとある少女に明け渡したことに始まる。

 少年は少女とその母親とで何事も起きない事を願いながら日々を過ごそうとしていた。だが、それは叶わない事だった。スフィアに呼ばれるように顕現した彼等を強襲する新たなスフィア。

 何度も何度も傷つき倒れても立ち上がる事しか許されなかった彼に出来たのは痛みに耐えながら自分よりも強い存在に戦いを挑むことしかなかった。

 辛勝。一言で片づけるならそれの連続だった、

 彼の持つ力は強大であってもそれ以上の力を持つ存在が多くいた。それに立ち向かうためにも彼は周りの人達に教えを請い助力を願い、誰よりも前で戦い誰よりも多く倒れ伏した。そんな彼に待ち受けていたのは称賛の声や幸せな時間でもない。自分が守りたいと思っていた人達との別れだった。

 スフィアの力を使えば使うほどその持ち主とそれに近しい人間達を戦いに巻き込んでしまう。そうならない為にも彼等は地球を去ったのだ。

 

 「・・・そんな事が」

 

 「使えば使うほど呪われるなんて、ね」

 

 はやてとリンディは高志達が重ねてきた過去の戦いを教えられた頃には彼等を束縛するような真似はもうしないと考えていた。

 

 「ちょっと待ちなさい。それじゃあ私達は呪われるんじゃない」

 

 「其処まで迂闊じゃねえって、ある程度使いこなせるからこそこうやってお前等と話せているんだからよ」

 

 アスカがふと気になったことを口にした。呪いを撒き散らす存在が近くにいると知った人間なら当然の反応だろう。だが、彼女達に教えたのは高志がなのは達の所から一度離れた所だけだ。そこにプレシアとアリシア。リニスが共にやって来たと一部嘘も交えている。

 

 「辛くないのかい、誰かの為に戦えば戦うほどその人から離れないといけない運命を背負って」

 

 「う~ん。仕方ないんじゃないかな。私もお母さんもお兄ちゃんとガンレオンに助けられたからこそ、ここにこうしていられる。それ自体が奇跡みたいなものだから・・・。その奇跡に誰だってあやかりたいでしょ。でもそれは私達以外に使おうとすれば私達は死んじゃうんだよ」

 

 『傷だらけの獅子』のスフィアをもぎ取られれば死ぬ。安易にそれは言わない。一応、高志とガンレオンにしか使えないレアスキルのような物で、それの効果を及ぼせるのは一人までと言っているが嘘ではない。

 仮死状態から復活するという生命力の塊の存在を知れば誰もがそれを欲しようとするだろう。自分の為、自分が愛する人間の為にアリシアの中にあるスフィアを欲さずにはいられないだろう。もちろん、そんな事は高志もプレシアも許さない。だが、度重なる使徒との戦いでスフィアの力を使い続けていれば彼等にもスティグマ。スフィアをめぐる戦いの呪いを受けるかもしれない。

 

 「それを話すという事は。あなた達はここから去るつもりでいるという事ですか?」

 

 「ぶっちゃけた話。そうなるわね。世界中からありもしないクレームと情報、技術提供を欲しようとしている国家が山ほどある。しかも私達のスフィアの事を知れば何が何でも欲しようとするでしょうし・・・。そうなる前にここから立ち去った方がいい」

 

ユーリは高志達が何を言いたいのかを感じ取り思ったまま言葉にした。そしてプレシアは答えた。彼女が心配する通りだと。

 

「いやだっ、行かないで」

「・・・私も嫌です。おいていかないでください」

 

 レヴィはプレシアに。シュテルは高志の腰にしがみつく。二人は困ったよう顔をしながらも二人を引き離す。

 

 「まあ、『許容内』だ。だけど、またあのドラゴンが出てきたらさすがに危なくなるな」

 

 「まあ、管理局から例の物が届けばもう少しやりようはあるんだけどね。例えばそちらで持て余している超高エネルギー結晶とか・・・」

 

 プレシアの言葉にリンディは慌てふためく。

 

 「ば、馬鹿言わないでくださいっ。あれをあなたに渡せるわけないじゃないですか!」

 

 「いいじゃない。私達に技術提供を求めているくらいに幼稚な技術しか持っていないのなら持て余しているんでしょう。ジュエルシード」

 

 「前科のある貴女に渡せるわけないでしょう!一度は地球丸ごと吹き飛ばそうとしたあなたに!」

 

 ジュエルシード。それを求めて幼少時のフェイトは地球にやってきてなのは達に出会った。それは一歩間違えれば地球自体が次元断層という次元の狭間に呑みこまれ消滅するという危険極まりない代物。当時のフェイトはそれを満足できるほど回収できなかった為、プレシアに虐待を受けていた。

 別次元のプレシアの事とはいえ、こちら側のプレシアも虐待していたのは事実。ジュエルシードという言葉自体忌避していたものの、プレシアは人の感情という不定期的なエネルギー供給しか出来ないDエクストラクター七号機よりもより膨大に取り出せるジュエルシードに目をつけた。これは暗に生き残りをかけた戦いに子ども達が関与すべきではないと言っているのだが、暴走すれば地球がぶっ飛ぶ代物。それこそ元も子もない。

 

 「何か聞き捨てならない言葉を聞いたんだけど。ジュエルシードって何かしら?」

 

 「高魔力結晶体。そちらでいう所の物騒すぎる核融合発生器みたいなものかしら」

 

 リツコはリンディの言葉に立ちくらみを覚えた。魔法の世界というのはこうも物騒なのかと・・・。

 

 「あ、あの核融合って何ですか?」

 

 「太陽発生装置って言えばわかるかな?」

 

 「あ、よくわかりました」

 

 シンジの質問に答えたアリシア。タカシも核融合とは何ぞやと考えていたがかなり物騒な物らしい。まあ、ジュエルシードを用いると言い出した時点でかなり物騒な物だというのは想像できた。

 

 「それにもともと私達は次元断層を意図的に作って元の世界に戻るためにも出来るだけそれに近い現象を起こせるジュエルシードが欲しいのよ。もちろんこの世界に影響をおよばさないところまで移動しての実験を兼ねての事だけど」

 

 「万が一に暴走したらどう収めるつもりですか?」

 

 「ガンレオンで止めればいい事よ。それでも出来なかったらDエクストラクターも足せばどうにかなるわ」

 

 「地球を消滅させるというジュエルシードの暴走。それを抑え込むことが出来るガンレオンって何なのかしら?」

 

 「そちらのエヴァも気になるけどね。ATフィールドの情報をくれればこちらの技術も上がると思うんだけど・・・」

 

 「あれは極秘の資料ですので」

 

 お互いに微笑を崩さないリンディとリツコとプレシア。

 この三すくみ状態になのは達を含め中学生組。キリエ達高校生組もドン引きだった。プレシアとの付き合いが長い俺とアリシアは苦笑するだけにとどまった。顔色悪くしているグランツさん、本当に申し訳ない。

 

 「ところで、・・・アスカ?で、いいのかな。うちのリニスとはどうやって知り合ったの?」

 

 「呼び捨てにしな、し・・・。年上。姉の方?フェイトだった?」

 

 「フェイトはあっち。私はアリシアね」

 

 「・・・ごめん。なんか同い年か一つ年上ぐらいにしか見えなかったから」

 

 まあ、アリシアはまだ少女特有のあどけなさがあるからな。中学生にしては大人びているフェイトと並ぶと丁度いい具合に双子とも思える容姿だ。

 

 「NERVのドイツ支部が白菜とジャガイモ。後七面鳥もどきがドイツ支部を襲ってきた時にお姉様が不思議なチャクラムと共に現れてそいつらを輪切りにしてくれたのがであいよ」

 

 蜘蛛とジャガイモを足して二で割ったような六足歩行の生物に。調理済みの七面鳥に羽が生えたような奇怪生物。ハリモグラのような体を丸めて巨大化しながら突撃してくる怪物、中でも突如地面から巨大な樹木が生えたと思ったら白菜のような、牡蠣のような妙にプリッとした実(葉?)がついた植物が生えた。根や茎の裏に隠れてそれは見えなかったがそこには人の顔のような物があり、その目にあたる所からビームをぶっ放した。しかも根っこの部分が飛び出し、車輪の様に走り出して出動した戦車に体当たりしてきた。そこにあった軍隊は酷い痛手を負いながらも何とか撃退に成功するもEVA二号機が緊急出撃しなかったら全滅していただろう。その時間を稼いだのがグランツ夫人と共に研究所のスポンサー集めをしていたリニス。使徒のATフィールドを展開しなかった怪物たちをSPIGOTで輪切りにしたのはただの正当防衛だったのだが当時いたのが緊急避難先に指定された学校でそこに避難してきた人達の中に子どもがいた。そんな子どもを通してフェイトやアリシアの顔がよぎったリニスは異形の怪物たちと対峙することになった。その立ち振る舞い、崩れかかった軍隊の編成を立て直し、異形の怪物の三割を八つ裂きにしたためドイツでは戦乙女と称され、アスカの信頼を萌えた。なにより、共に戦った彼女と軍隊の人達への感謝と避難していた人達への気遣いで圧倒的な支持を得た。だが、それを面白く思わない人も少なからずいるので日本に帰るのは延期。そのまま各国を回り十二分に支持を集めたら日本に戻るとの事。

 それを聞いたアスカとフェイトは落胆の表情を見せながらも納得してくれた。グランツ研究所には余りのも力が集まりすぎている。それも国連や国家ではなく一組織のみが独占しているのだからスパイや工作員が毎日のように捕縛されている。別に彼等の国に利益が無いわけではない。逆に技術提供というセカンド・インパクト後のエネルギー不足の解消を世界的に貢献している。だが、それだけで満足せず更に搾取しようとする輩は何処にでもいる。そういう連中がいるからプレシアは計画を前倒しで進める予定だという。

 

 「来月辺りをめどに火星辺りにでも行って私達は私達の世界に帰る支度を整えるから」

 

 「・・・へ?」

 

 「毎度毎度、ガンレオンを寄こせとか。D・エクストラクターを寄こせとかあれこれ難癖つけてくる通夜から対策として私達は火星に移住するの。物資は少しばかり足りないけどガンレオンにD・エクストラクターを背負わせて火星に行くぐらいなら何とかなるわ」

 

 ガンレオンが自分の2、3倍の大きさはあるD・エクストラクターを「どっこいしょ」と背負っている絵がその場にいた全員の脳裏に浮かんだ。

 

 「いやいや、そっちのガンレオンがいくらパワーがあるとはいえD・エクストラクターを持って宇宙までは飛べないでしょ!」

 

 「一応、座標と魔力と時間さえあれば少なくても月まで転移できるわ。今のガンレオン自体が管理局の時空航行船以上の出力を叩き出せるから理論上は問題無いわ」

 

 ロボット工学にあまり学の無いミサトでもそれは無理だろうとタカをくくっていたが、プレシアサイドは魔力と科学のハイブリットな組織だ。恐らくこの次元世界一の技術と言っても過言ではない。

 

 「ついに魔法は宇宙進出ですか。そうですか・・・」

 

 「いや、もともとガンレオンはどっちかというと科学サイドだったと思うんだけど」

 

 リツコはあまりの技術差に目が虚ろになっていた。高志の言葉など聞こえていないようだが原作よりガンレオンの生産元は未だに不明。謎の多い存在である。神様得点で貰ったと言ったらリツコの顔はどのようになるのだろうか・・・。

 

 「だいたいナイフを突きつけながら助けてと言われて助けると思っているのかしら、あの屑ども」

 

 「プレシアさん。口汚い言葉が出てますよ」

 

 アミタがさりげなくフォローを入れるが今のところ、リニス以外暴走し始めたプレシアを止めることは出来ない。

 

 「タカども」

 

 「あれぇえええっ、俺の評価まだそんなに低い?!」

 

 「アリシアと一緒の部屋で呼吸している時点で抹殺対象よ」

 

 「それを言ったらグランツ研究所とフェイト達が通っている学校から男が消えるよっ」

 

 「いっそ世界中から男という存在を抹消してやろうかしら」

 

 「滅ぶよ世界が!」

 

 「私の頭脳と技術があればガンレオン一つでどうにでもなるわ」

 

 笑えねえっ!と高志が声を上げて反対する。

 

 現にこの二人。アリシアを守る為に世界を救うついでで衛星一つを消し飛ばしたことがある。未だに底が見えない次元科学とスフィアの力。それを追及するプレシアに不可能という事柄がどんどん減っていくのを感じた高志だった。

 

 

 「な~んかもう疲れたわ~。というかやる気が失せる~。あの研究所の連中が持つ技術ってマッチとロケットぐらいに差があるじゃないのよ~。その内EVAも作れそうな連中じゃないっ」

 

 「あら、貴女にしては的を得た例えね」

 

 グランツ研究所からの帰り道。NERV関係者の運転する車の中でミサトがぼやいた愚痴にリツコが答える。確かに自分達とあちらの研究所の差は激しい。だが、彼女達がEVAを作り上げるというのは無理だと考えていた。あれだけ善性のあるの人達にEVAの材料を調達できるはずがない。

 

 「そういえば、シンジ君。貴方が今回叩きだしたシンクロ率なんだけど三人中でトップの数値を出したわよ。シンクロ率67%。自己最高記録を更新ね」

 

 「うっそ!この七光りが!」

 

 シンジを中心に座っているNERVのメンバー。彼を覗けば全てが女性というある意味ハーレムな環境にいるシンジだが浮かない表情をしていた。自分達よりも前で使徒と戦ってくれた。そこにいなくても何かしらバックアップしてくれていた高志達が時期にいなくなるということを聞いて落ち込んでいるのだ。そんな彼に対してアスカの方は信じられないと言った具合にシンジを指さすがリツコの次の言葉に疑問を持つ。

 

 「だけど初号機の損傷は一番激しい。何故なら初号機は今回の戦いで殆どATフィールドを展開しなかったから。この損傷は自衛隊からの砲撃をもろに受けた所為よ」

 

 「ちょっとリツコ、それはおかしくない?シンクロ率が上がればATフィールドも強固になるんじゃないの?」

 

 「私もそう思っていたんだけどね。シンジ君、貴方はATフィールドを必要としないと考えているんじゃないかしら」

 

 「・・・それは。・・・」

 

 「はっきりしない男ね。というかATフィールドが展開できないEVAってただの鉄の人形じゃない」

 

 「・・・ATフィールドは拒絶する想いで展開される。碇君の攻撃は使徒に届くけど使徒の攻撃も碇君には防げない」

 

 「そう、レイの言う通り。今回の戦いで一番シンクロ率が高かったのに損傷も一番。僅差でシンクロ率を出したアスカの二号機の方がほぼ無傷。この差はたぶんシンジ君の心境の変化じゃないかしら」

 

 殴られてもいいけど絶対にぶん殴り返す!いわばノーガード戦法。そんな心境になったのはきっと・・・。ガンレオン。いえ、あのタカシとか言う人に感化されたんだろうとリツコは考えていた。

 

 

 

 

 シンジには他人を受け入れるという度量ではなく自分の世界にこもってもらう。いわば引きこもりに近い状態で使徒を退治してほしい。

 人類補完計画を立案しただろう人物達が緩やかに『傷だらけの獅子』の排除に腰を上げ始めるのであった。

 


 
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