No.827403

真 恋姫無双 もう一人の大剣 5話

チェンジさん

チェンジです。

2016-01-29 00:57:32 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2116   閲覧ユーザー数:1923

 

時間にして三十分二人は体を止めることなく常に動かし続けた。

 

三十分間二人は同じ手数で剣を交差させる。

 

型などない。

 

力任せに振り下ろす、振り上げる、横に振る。

 

繰り出した斬撃は全て剣と交差し、無力化される。

 

避けるなんて言語道断。

 

二人の中にはそんな暗黙の了解があった。

 

どの斬撃も一撃必殺。

 

まともに当たれば命はない。

 

「(こいつとやり合う度に思うが、一撃一撃が重い。馬鹿力だけは健在ってか。流石の俺も腕が痺れてきやがった。足も地面に根生やしてんじゃねえだろうな。ビクともしねえ)」

 

「(こんだけ力いっぱい振ってんのに、南海覇王に全く折れる気配がねえ。あの細い剣がこんなにも硬いとは。しかも体の位置や剣の角度を微妙に変えて、衝撃を軽減させてやがる。なんて才覚してやがんだこのババア。手応えが感じない分体にこたえる)」

 

「「(だが!)」」

 

「(楽しいのはここからだ!そうだろ炎!)」

 

「(こいつを一度ぶっとばさねえと終われねえよ!)」

 

「「おらあ!!」」

 

この仕合を見ていた者は・・・

 

「何よこれ。無茶苦茶。ただ振り回してるだけじゃない。しかも二人共笑ってる」

 

「・・・・・」

 

初めて炎蓮の実力を目の当たりにした雪蓮と蓮華は驚愕。

 

蓮華は言葉すら発することができない。

 

「これが炎蓮様・・・あの男の斬撃の重さに負けていない」

 

直接手を合わせた思春にはあの斬撃の重さを誰よりも分かっていた。

 

炎の怪力を化け物と称したが、それと互角に打ち合っている炎蓮もやはり人外だと言う他ない。

 

「あ・・・・音がやんだ」

 

高速の斬撃によって舞った砂埃が周りの人間から仕合を見えにくくしていた。

 

どっちが勝った?

 

その場にいた者が皆その問いを頭に浮かばせる。

 

その答えを誰もが心待ちにしている。

 

それだけ無茶苦茶で、身を震わせるような仕合だった。

 

「勝負ありだ・・・・炎」

 

炎が仰向けに大の字で倒れ、炎蓮は南海覇王を首へ添えている。

 

周りから雄たけび。

 

炎蓮にも敗者の炎にも称賛の声が聞こえてくる。

 

「くそ・・・負けか」

 

「お前しばらく体動かしてなかったな。明らかに動きが鈍い。しかも体力の底が浅い。前のお前はいつ止まるかわからねえくらい無尽蔵だったぜ」

 

「やっぱり・・・炎蓮、お前俺に合わせて加減してたな。お前なら俺の初撃を受ける前に終わらせられただろう」

 

「はん、そんなことしたら意味がないだろう」

 

言い終わると、周りの兵たちに一喝。

 

「うるせえ、てめえら!!こいつは俺の古いダチだ。丁重にもてなせ。コソ泥はまた後日捕らえてやるよ」

 

兵士達は炎蓮に敬礼をする。

 

「ってわけだ、どうせしばらく滞在するんだろう?ゆっくりしていけ」

 

「悪いな・・・・」

 

先程の仕合で体力を使い果たしたからだろう。

 

目を閉じ安らかな寝息とともに深い眠りに落ちた。

 

「全く、こんなところで寝てたら風邪ひくぜ。おい、お前ら起こさねえよう慎重に運べ」

 

「母さんはどこいくの?」

 

「酒だ。決まってるだろう」

 

そう言うと炎蓮は兵ご再びつくった道を堂々と歩いて行った。

 

「元気ねえ。あれだけ体力使いそうな仕合をした後で」

 

兵や雪蓮の見えない位置まで辿り着くと、徐々に歩く速さが下がっていく。

 

足元もおぼつかない。

 

炎蓮は自分の部屋へ可能な限り急ぐ。

 

倒れかけたところを壁が受け止める。

 

壁から離れようと手をついた時、その手が震えていることに気づいた。

 

「手がまだ震えてやがる。あと少しあいつが倒れるのが遅れてたら、負けてたのは俺かもな」

 

握力が弱い。

 

炎の首に剣を添えている時も持っているのがやっとだった。

 

雪蓮や蓮華達にそんな姿を見せるわけにはいかない。

 

震える手を見ながら通路を歩いていると、視界の端に人の影。

 

「見てましたぞ堅殿。流石の堅殿でも炎が相手では楽はできないようですな」

 

「祭、なんだ笑いに来たのか?仕事もしやがらねえで、酒ばかり飲みやがって」

 

「堅殿も似たようなものでしょう。そんなことはいい。堅殿はどうぞ部屋でお休みを。儂が扉の前で見張っております」

 

「おいおい俺がてめえらの前でそんな姿を見せると思うか?」

 

「ええしょうでしょうな。だから儂は何も見とらん。堅殿の手が震えていたことも、仕合の疲労でふらついていたことも儂は見てはいませぬ」

 

「祭・・・・けっ!」

 

すれ違いざま。

 

「礼は言わねえぞ祭」

 

「それで十分じゃよ。炎蓮」

 

炎蓮が部屋に入り、扉が閉まる。

 

「全く、王位を策殿に譲ってもこの調子か。世話が焼けるの」

 

炎蓮の部屋を見ながらそう呟いた。

 

 

ずっと頭の中であの言葉が繰り返される。

 

「俺はお前と一緒にいたくない」

 

私が物心ついた頃から彼は傍にいた。

 

お爺様が連れて来た人物だと聞いていた。

 

生まれた時から共に過ごしていたからだろう。

 

私もすぐに懐いたという。

 

私が歳を重ねても彼への評価が変わることはなかった。

 

類稀なる武才の持ち主。

 

知才の面は残念というしかないけれど、それを補って余りある感情を読み取る能力。

 

彼の力は大陸でも指折りだった。

 

すぐに自分の思ったことを吐露してしまうあの素直さもそばにいて心地よかった。

 

私自身彼の魅力に惹かれていた。

 

彼はきっと近い将来私に仕えてくれる。

 

8歳・・・の頃だったか?

 

私はそう思い勉学に励んだ。

 

実績も残した。

 

彼が仕えるに相応しい王になるために。

 

私には才があり、能力がある。

 

きっと彼を上手く使える。

 

ずっと彼と一緒にいられる。

 

そう思ったのに。

 

それが今はこれだ。

 

彼に仕えてもらうためだけに今日まで励んできた。

 

高らかに天下泰平、天下統一なんて声をあげてるけど、そんなものは彼が一緒にいてくれてる上で初めて行動に移せるもの。

 

天下なんて彼と比べればちっぽけなものだった。

 

私の何が間違っていたのか。

 

私は昔の何も知らない幼子とは違う。

 

知識を得た。

 

孫氏も覚えた。

 

苦手だけど、武の鍛錬もサボらずにやったおかげで相当なものを手に入れた。

 

政にも手を出した。

 

私の政策でこの街は潤っている。

 

私は誰よりも優秀なはず。

 

なぜ彼は私を選んでくれなかったのか。

 

私にはわからない。

 

「バカ・・・炎のバカ」

 

 

その頃秋蘭の部屋では春蘭と秋蘭の二人で仕事を片付けていた。

 

「なあ秋蘭?」

 

「なんだ姉者」

 

「華琳様なんだが、あれから部屋から一歩で出られてない」

 

「そうだな」

 

「お食事だってあまり口にしておられない」

 

「華琳様は我らより長く炎と共に過ごしてきたのだ。悲しみも大きいのだろう。だが華琳様はそんなことで自滅するような方ではない。姉者もそれは分かっているだろう?」

 

「むぅ、だがな」

 

「姉者はそんなに華琳様を信頼できぬか?」

 

「そんなわけなかろう。私がこの大陸で最も華琳様を愛している者だぞ。だが私は心配なのだ」

 

「問題ない。華琳さまは強いお方だ」

 

部屋の扉が開く。

 

「ふっ、噂をすればだ」

 

「心配かけたわね。二人共」

 

万全とは言えないまでも、炎が出て行った初日よりはだいぶマシに見えた。

 

「華琳様ーー!」

 

春蘭は涙や鼻水でまみれた顔で華琳に向かい飛びついた。

 

「私がふさぎ込んでいる間、仕事を任せきりでごめんなさい」

 

「構いませんよ。華琳様の為とあらば」

 

「ふふ、ありがとう。秋蘭」

 

「か、華琳様・・・・」

 

「春蘭もありがとう」

 

「あ・・・はい!」

 

そうよ、炎がいなくなったくらいでへこたれてはダメ。

 

私にはまだこの二人がいる。

 

 

炎は炎蓮に用意された部屋で寝ている。

 

扉を開いて、炎蓮が入ってくる。

 

「・・・・・」

 

炎を起こさないよう、静かに扉を閉め寝台の横に忍び寄る。

 

そっと寝台に腰かけ、炎の頬を撫でる。

 

「本当に・・・でかくなりやがった」

 

髪を撫でる。

 

三分ほど撫で続けた後、 来た時と同じように音を立てず部屋を出る。

 

数時間後、炎が起き自己紹介を主な将達に済ませた。

 

炎の通り名はかなり知られた名だった。

 

曹螢という名よりも、”曹操の盾”の方が名が大きいというのは炎にとっては納得しがたいものだった。

 

「炎寝てなくていいの?」

 

「別に怪我したわけじゃないんだ。いつまでも寝ていられるかよ」

 

「そう」

 

雪蓮は右手を差し出して握手を促す。

 

「改めて、呉王、孫策よ。一応貴方は客将という立場になるわ。貴方に真名を預けるわ。名は雪蓮。よろしくね」

 

炎は差し出された手を握り返す。

 

「ああ」

 

「皆の事も紹介するわ」

 

「ああ、いいよいいよ。どうせすぐには覚えられねえから。一人ずつゆっくり覚えていくよ。それと、俺の真名は炎だ」

 

「ええ、よろしくね炎」

 

それから炎はすぐに呉に馴染んでいった。

 


 
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