No.826903

みほ杏看病SS

jerky_001さん

我が人生経験における二作目の二次創作SSですご査収ください

2016-01-26 01:14:35 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5765   閲覧ユーザー数:5724

「…わかりました。私の右腕代わりに、なってくれますか?」

「うん。…西住ちゃんのためなら、何でもするよ」

日の低くなり始めた午後の帰り道。私と会長は一つの約束を交わした。

まるで人目に隠れて睦事でもするような、仄かな後ろ暗さを感じる。だけど。

「…これからよろしくねっ!西住ちゃん!」

さっきまで沈んだ表情をしていた会長が一転、ぱぁっ、と笑顔を取り戻したのを見て。

会長が笑ってくれるなら、それでもいいかな、と自分に言い聞かせた。

 

 

 

お昼休みの大洗女子学園。生徒のみんなはお弁当を持参したり、学食へ向かったりと思い思いの昼食を摂っている。

私、西住みほはというと、沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さんの五人と学食を頂くために、食堂のテーブルの一角に集っていた。

学食か、お弁当か、はたまた近くのコンビニで買ってきた食事かの違いはあるけれど、こうしてみんなで食事をするのが私たちのお昼の恒例行事なのだ。

ただ一つ、いつもと違うことがあるとすれば。

「西住ちゃん、はいっ。あーん」

私の右隣の席に、寄り添うようにして会長が座っていること。

「あ、あぁーん。はむっ、ん」

会長が差し出してきたスプーンに、思わず条件反射で口を開け、一口サイズに切り分けられたオムライスを頬張る私。

「ひゅうひゅーう!らぶらぶだねぇ二人ともっ!」

「ずるいですぅ!西住殿のお世話なら私がいたしますのにぃっ!」

沙織さんと優花里さんの冷やかしの言葉に、思わず顔が真っ赤になるほど恥ずかしくなる。

「いやぁどうもどうもお二人とも、祝福ありがとー!」

「も、もうっ!二人とも茶化さないでよぉ。会長も会長で乗っからないでくださぁい!」

とっさに抗議の声をあげるものの、会長はすでに次の一口を取り分け始めていて、どこ吹く風といった感じ。

「あ、あの、会長。いろいろとお世話してくれるのはうれしいんですけど…食事くらいならもう自分で摂れますから…」

「ダメダメぇ西住ちゃーん。この前約束したでしょ?怪我が治るまでは私が西住ちゃんの右腕代わりになるって」

「でっでもぉ…」

やんわりと会長のご厚意を辞退しようとしたけど、会長はこの前交わした約束を盾に、聞き入れてくれない。

「そういえばそうです。お怪我の方はいかがですか、みほさん?」

「まだ痛むのか?」

華さんと麻子さんが、吊り紐で下げ、包帯を巻かれた右腕を心配そうに見つめ訪ねてきたので―――

「あっ、はい。…御覧の通り、もう大分よくなってきました、ほらっ。…いたた」

私は右腕を上げ、かろうじて包帯が巻かれていない掌を、ちょっと無理してグーパーして見せた。

そもそも私がなぜ右腕を怪我してしまったのかというと、ことの始まりは、二学期が始まってひと月ほどした頃。

二度の廃校危機を乗り越え、平穏を取り戻した私たち大洗戦車道チームは、いつもどおり戦車道の練習の最中だった。

その日の練習内容は、チームを二手に分けてのより実戦に近い練習試合。

チーム分けは、私たちあんこうチームにカメさんチームとアヒルさんチーム、アリクイさんチームで構成された西軍に対し、

うさぎさんチームを中心にカバさんチームとレオポンさんチーム、カモさんチームで構成された東軍といった構成。

チーム分けの理由、特に何故東軍をうさぎさんチームを中心に据えたかというと、いろんな意味で個性豊かな一年生組をまとめ上げ、

全国大会ではその戦績からヤングプレーヤー賞も受賞した澤さんに、未来の隊長としての素質の片鱗を感じ取ったから。

無名の弱小校、大洗女子学園の優勝に影響を受け、来年以降の大会参加を検討中の学校に加え、こちらの手の内を既に知り尽くしている既存の強豪校を前に、

来年の三年生卒業で戦力維持に大きな不安が残る大洗戦車道チームとしては、後進の育成による能力の継承が当面の急務となるはずと

会長から進言を受けて、今回のチーム構成での練習試合の運びとなった。

 

こうして始まった、互いの隊長車をフラッグ車に据えての練習試合は、こちらの予想もしていなかった意外な試合運びとなった。

最初こそ慣れない戦闘指揮に戸惑っていた澤さんだけど、そこはさすが一年生。まだ何色にも染まりきってない柔軟な頭脳が、

まるでスポンジが水を吸い上げるように経験を吸収していき、試合中の僅かな間にもみるみる指揮能力を研ぎ澄ませていった。

巧みな誘導によって西軍を待ち伏せ中のⅢ突のキルゾーンにおびき寄せ、アヒルさんチームの八九式を撃破。なんとこちらよりも先に白旗を取ってしまった。

これには澤さんを隊長に推薦した私もびっくり!でも、私だって練習とは言え手を抜くつもりは無い。

こちらも劣勢を装い転身するふりをして、追撃に回った東軍を迂回ルートを通じて待ち伏せさせたカメさんチームのヘッツァーの射界に誘い込む。

ヘッツァーはまず東軍の最大脅威である、レオポンさんチームのポルシェティーガーを仕留めるつもりだったようだけど…ここでさらに予想外の事態が。

ポルシェティーガーの行進間射撃が私たちの護衛に回っていた三式中戦車の履帯に偶然命中。唯一の直轄護衛が崩れ、フラッグ車のⅣ号が東軍の砲口に晒されることに。

停止状態からの二撃目に入ろうとしていたポルシェティーガーを食い止めようとヘッツァーが砲撃するも、ほぼ同時に88㎜砲が火を噴き、そして―――

 

大洗女子学園から最寄りの整形外科。その病室の一室に私はいた。

結局レオポンさんチームの砲撃は、Ⅳ号の左履帯に命中。さすがの麻子さんでも片側動力の喪失でコントロールを失い、

間の悪いことに丘陵地を登攀中だったため車体は大きくバランスを崩し、左側に振り回されることに。

いつものように指揮のため車長席から体を乗り出していた私は、その急旋回によって車外に投げ出されてしまって…不自然な体勢で右手を付いてしまった。

びきり、と激痛が走りうずくまった私のもとに、すぐに試合を中断したみんなが駆けつけて、私はつい大丈夫と誤魔化そうとしたけど。

再び走った痛みに大慌てのみんなによって、問答無用で病院へと担ぎ込まれてしまった。

ただちにレントゲン撮影を受けるも骨に異常は見られず、腫れの具合などから軽い肉離れと診断され、圧迫し過ぎない程度のテーピングと包帯に吊り紐を巻いて治療は終了。

あんこうチームのみんなに、東軍隊長を務めた澤さん、ポルシェティーガー車長のナカジマさんが代表付き添いとしてかわるがわる病室に出入りし、

心底申し訳なさそうに私に対して謝罪を繰り返すのをいえいえとなだめるのは、怪我の治療よりもよっぽど骨が折れた。折れてないけど。

最終的には、みんな荷物を置いてきたままということで、私以外はいったん学園に戻ることに。

私はというと、無理して学園に戻るよりもそのまま家に帰った方が早いということで、荷物持ちついでの付き添いが戻ってくるまで、病室で待つことになってしまった。

「…みんなに心配、させちゃったなぁ。特に澤さんは、直接の原因でもないのにあんなに申し訳なさそうにしてて…悪いことしちゃった」

澤さんは見る限り、責任感強そうだし、きっと隊長としての責任と感じているのだろうか。そんなことを想像しながら独り言を漏らしていると。

ふいに響いた、ドアをノックする音。

「あ、はい。ひょっとすると麻子さん…かな?どうぞ入って」

擦りガラス窓の外に覗く人影の背丈に、同じチームとは言え意外な人選だなぁと予測しつつ声をかけると、入ってきたのはさらに意外な人だった。

「やっほ、西住ちゃん。おまたせ」

「か、会長…?」

帰り道は、会長が私の分の荷物を持ちながら付き添ってくれた。

私よりも小さな体の会長に荷物持ちをしてもらうのはなんだか申し訳ない気がしたけど、こんな体では今はそのご厚意に甘えるしかない。

明日からは片手が塞がってても大丈夫なように、肩掛けの鞄で登校しないとなぁ。そんなことを考えていたら。

「西住ちゃん、ごめんね。…私がもっと早くレオポンを止められていれば、西住ちゃんに怪我させずに済んだのに。」

会長から意外な理由で謝罪を申し出され、思わず面食らってしまった。

「えっ?そんなっ会長は何も悪くないじゃないですか。私の方こそ不注意で練習を中断させちゃって」

「でもさっでも、元はといえば後進育成を焦って慣れない編成で練習試合を急かしたのがいけなかった訳だし…本当に、ごめんね」

「そんな…本当に、謝らないでください。」

そこで会話が途切れ、しばらくの間気まずい沈黙。

思い詰めた顔をした会長を見ているのは、何故だか胸の奥がちくり、と痛んで。うぅ、なんとか別の話題を切り出さないと。

「そ、そういえばっ。他のみんなはどうしてました?なんだか心配かけちゃったみたいで、申し訳なくって。」

ふと思いついて、みんなの様子を尋ねてみた。

「あぁ…。みんなもちろん心配してたけど、戻ってからそこまで深刻な怪我じゃないって伝えたら安心してたよー。多分今頃いつもみたいにお風呂入ってるんじゃない?」

「よかった…。そっかお風呂かーいいなぁ。私もちょっと汚れちゃったしお風呂入りた…あっ!?」

会長から告げられてほっとしたのもつかの間、一つ気がかりな事を思い出してしまった。

「そういえば、お医者さんから腫れが引くまではお風呂入っちゃダメって言われてたんだった…どうしよう…」

「あーそっかぁ。血行が良くなると痛みがひどくなるもんねぇ。片腕しか使えないとシャワーも体拭くのも大変だし…そうだっ!」

私が一人ごちると、ふと会長が妙案を閃いた、といった感じでこちらへ振り向いた。

「怪我が治るまでの間、私が西住ちゃんの右腕代わりになってあげるよっ!」

 

「「ごちそうさまでしたっ」」

処変わって、ここは学園女子寮の私の部屋。

あのあと私は付き添ってくれた会長をお部屋に招き、なんとそのまま会長自らご用意してくれた夕食をごちそうになってしまった。

そういえば料理がご趣味なだけあって、会長の作ったメニューはどれも絶品!とても冷蔵庫のあまりものだけで間に合わせたとは思えないものばかりで大満足。

きっと、会長がお嫁さんになってくれたら、毎日おいしいご飯を作ってくれて幸せだろうなぁ…って、一瞬変な事を考えてしまった。

「それじゃ食器片付けてくるねー。ついでにお湯の準備もしてくるからさっ」

私の気の迷いも知らず、しばらく食後の余韻にひたっていた会長は席を立ち、手際よくテーブルの上の空き皿を重ね、まとめていく。

「あ、それなら私も手伝います」

「だめだめぇ西住ちゃん。こういう時くらい誰かに思いっきり甘えても罰は当たらないよ?それに今は早く腕を治すことが最優先!わかった?」

会長は私を言葉で静止すると、まとめた食器を器用に両手で抱えて流し台へと向かった。

そのしっかりとした口調に気圧され、私は会長の背を見送りつつ小さく、は、はい…と呟くしかなくて。

「…どうして会長、こんなにも私のこと心配してくれるんだろう」

帰り道での、会長の突拍子もない提案に、私はもちろん最初のうちはお断りの意思を示していた。だって先にも言った通り、会長は何も悪くないのに。

だけど会長の方もまるで引き下がる様子は無く、私の辞退の言葉にも食い下がり続け。

しまいにはスカートの裾をきゅっと握りしめて、でもさ、でも、と言いよどんでしまい、その姿に胸の奥がまた、ちくり、と痛んで。

最終的には折れる形で、会長の提案を了承してしまった。

「…お湯の準備してくるって言ってたけど、本当にそんなことまでしてくれるんだ」

会長が、私の体を、あの小さな手で拭いて…

想像したら、なぜか照れ臭くなってきてしまった。女の子同士なのに…練習後はいつもみんなでお風呂に入ってたから、裸を見られるのだってこれが初めてじゃないのに。

「お待たせぇ、西住ちゃんっ」

妙に意識してしまい、一人で悶々としていると、それを知らずに会長が戻ってきた。お湯を張った洗面器を両手で持ちながら。

「あ、あのっ。本当にそんなことまでしてくれるんですか?なにも体を拭くくらいなら自分でも何とかできますから…」

「西住ちゃんも往生際が悪いねぇ。もう食事までごちそうになったんだから今更じたばたしなぁい。さっきも言ったでしょ?甘えられるときは甘えろって」

やんわりと遠慮をしてみるものの、やっぱり会長に言いくるめられ、押し切られてしまい。

「それじゃあ背中から拭いていくから、上を脱いで。」

会長にそう促され、おずおずと上着を脱ぎ、続いて肌着のキャミソールも脱ぎ、素肌の背中をその前にさらけ出した。

「熱かったら言ってね」

そうささやくと、会長は私の背中をお湯で濡らしたタオルで拭きはじめた。

濡らしたタオルで、何度も背中を撫でつけて、少し汚れたら、洗面器でゆすいで、絞り、また撫でる。

強すぎず、ちょうどいい力加減で、背中にタオルがあてがわれる度、少しくすぐったくて。

暖かいタオルと、会長の優しい手つきが気持ちよくって…上に何も着ていないのに、なんだか体がポカポカしてきちゃった。

「西住ちゃん?ぼーっとしてるけど、大丈夫?ひょっとして傷が痛む?」

「へっ?い、いやっ違うんですっ。ちょっとくすぐったかっただけで…」

照れ隠しでとっさに誤魔化すと、会長はふぅん、と相槌を打つと清拭を続けた。

その時の私は、やっぱりちょっと変だったと思う。何故か会長の事を変に意識しちゃって。なにか話題を切り出さないと、沈黙に耐えられない。

でも、わたしは沙織さんみたいにコミュ力高くないし、何を話したらいいのか…

「…あの」

「なぁに。西住ちゃん」

「どうして会長は、私の事をそんなに気にかけてくれるんですか?」

結局、一番聞き出したかった問いを、素直に聞き出すことにした。

「あー。…さっきも言ったけど、私のせいで西住ちゃんに怪我させちゃったからさぁ。お詫びになにか西住ちゃんのためにしてあげないと、気が済まなくって」

「それなら私もさっき言いましたけど、怪我したのは会長のせいなんかじゃありませんよ。本当に、気にしないでください…でないと私も、かえって申し訳ないです」

そこから、しばし沈黙。なんだか、気まずい雰囲気。会長の手もぴたりと止まってしまった。

私、なにかまずいこと言ったかな?会長の機嫌を損ねちゃった?ああでもないこうでもないと、頭の中を思考がぐるぐる回ったけれど。

ふぅ、と一息。先に沈黙に耐えきれなくなったのは、会長の方だった。

「ごめんね、西住ちゃん。…本当のことを話すよ」

「…本当のこと?」

落ち着いた口調の会長の言葉にはっとして、思わず背筋を伸ばして聞き耳を立てる。

「お詫びのつもりっていうのは、本当にホント。でも、今回の怪我の事についてだけじゃ、ないんだ」

「?どういうことですか?」

「ほら、そもそも私たちさ、最初は西住ちゃんを嫌々戦車道に巻き込んじゃったでしょ?西住ちゃんが、どうして戦車道を辞めて、大洗に来たのか。その事情も無視して」

そういえば、最初はそうだった。なんだかもうずっと昔の事みたいに思えるけど、会長はずっと、そのことを気にしていたんだ。

「それからもずっと、西住ちゃんには頼りっぱなしだった。全国大会も、大学選抜対抗戦も、ずっと、ずぅっと。西住ちゃんには、返しきれない借りを沢山作っちゃった」

「借りだなんて…確かにきっかけこそ強引でしたけど、そのおかげで私、本当に大切なものをたくさん見つけることが出来たんです」

会長が私を戦車道に巻き込んでくれたおかげで。

自分の弱さに目を背けて戦車道から逃げるのをやめることが出来た。

大切な友達をたくさん作ることが出来た。

そんなみんなの過ごす学園艦を守ることが出来た。

西住流じゃない…私だけの戦車道を見つけることが出来た。

「だから私、会長にはむしろ、感謝してるんです。ちょっとむりやりだけど、沢山のきっかけを作ってくれた会長に」

「…うん。西住ちゃんなら、多分そう言うと思った。西住ちゃんは本当に、優しい娘だもんね」

ふと会長が、帰り道の時のような沈んだ声色に変わって。

「偉そうに、西住ちゃんの右腕代わりになってあげる、なんて言ったけどさ、結局これもきっと、ただの自己満足なんだよ。」

「西住ちゃんの本心なんか関係なしに、ただ単に私が自分のやってきたことに対して区切りを付けられないからって、結局また西住ちゃんを利用してる」

「怪我をした西住ちゃんを理由にして、お詫びなんて言い訳をして、自分の中だけで勝手に禊ぎを落とそうとしてる」

背中越しでも、自己嫌悪の感情が伝わって来るようで。また、胸の奥がちくり、と痛んで。

「私、自分勝手だ。本当に…最低だ」

背中にあてがわれたタオルが、はらりと落ちる。と、ほぼ同時に。

「そ、そんなことっ、ありませんっ!」

居ても立ってもいられず、会長の方に振り向いてそう叫んだ。

「会長は今までずっと、みなさんのために頑張ってくれたじゃないですか」

「学園艦のために、学園艦に住む生徒や住人のために、そんな小さな体で沢山の重荷を背負って。時には他人に負い目を与えないよう、憎まれ役まで買って出て」

「だから…そんな悲しくなること、言わないでください。自分を責めるようなこと…言わないで、ください」

まるでさっきの沈黙が嘘みたいに、次からつぎへと言葉があふれ出て止まらなかった。

会長にこれ以上、悲しい思いをして欲しくない一心で。

向かい合った会長は、完全にあっけにとられたと言った感じの表情で、ぽかんと口をあけながらこっちを見つめていた。

しまった。会長の自己嫌悪に耐えきれず、つい熱くなって言葉が堰を切ってしまったけど。

自分の事でもないのに何を必死になってるんだろうって、変に思われちゃったかな。

でも、そうじゃなかったみたいで。私を見つめる目線がゆっくりと下のほうへと降りて、しばらく一点で釘付けになったあと、視線がゆっくり上がって、再び視線が交差して。

「えーっと、その。別に女同士だから良いんだけどさぁ。さすがにこんなに間近でさらけ出されると、さすがに目のやり場に困るというか。」

…あ。

そう言えば、私、からだ、拭いてもらって、上着、ぜんぶ、脱いで… お っ ぱ い ま る だ し 。

「ひぃやぁああああああぁあああああっ!?」

自分がどれだけあられもない痴態を晒しているかようやく気付いて、大慌てで両手で前を隠し、超信地旋回で回れ右。

頭のてっぺんまで血が上って顔が火照って、恥ずかしさで頭の中がぐちゃぐちゃになって、さっきまで何をしゃべっていたのかなんて完全にすっ飛んでしまった。

「…あの。とりあえず、続けよっか」

会長の言葉に返事をする余裕もなくなった私は、顔を真っ赤にしてあわあわしながら、こくり、と頷くしかできなかった。

 

結局、私は会長に体のすみずみまで拭いてもらい、最後はお湯を張りなおした洗面器の上で髪を軽く流してもらい、清拭は終了。

正直、勢い余ってのアクシデント以降は完全に会長の事を意識してしまい、会長が後ろから手を廻して胸の周りを拭ってくれた時なんか、頭がのぼせ上ってしまいそうだった。

これじゃあ、お風呂に入るよりもよっぽど血行が良くなっちゃって、傷に良くなかったような。

「はいっ、お疲れ西住ちゃんっ。体冷えちゃうし、早く服着てねぇ」

一方で会長のほうを見やると、一時の沈んだ口調はどこへやら。いつもの飄々とした態度で洗面器を片付けようとしていた。

そのことに気付いて、さっきまで火照っていた頬から徐々に熱が引き、ようやく頭の中も落ち着いてきて。

言われた通り、衣装棚から部屋着を引っ張り出して袖を通した。

思えばあんな恥ずかしい思いをしたのも、元はと言えば落ち込んだ会長を放っておけなかったから。

だとすれば…会長の表情を見る限り、当初の作戦目標は、達成できたのかな。

小さく不思議な達成感を感じながら、流し場へと向かう会長を目で追っていたら、そうだっ。と、会長が思い出したように振り向いて。

「あのさ、西住ちゃん。…ありがとねっ。西住ちゃんのそういう優しいところ…すっごく、好きだよっ」

不意打ちみたく投げかけられた好意に。

一度は引いたはずの火照りが、ぶり返してきたのを感じた。

あっ、はい。…御覧の通り、もう大分よくなってきました、ほらっ。…いたた」

「ほらぁ西住ちゃーん、そうやってすぐに無理するんだからぁ」

あれから一週間ほど経って、右腕もある程度は動かせるようになった。

なのでみんなを安心させようと、ちょっと無理して掌をグーパーして見せたけど、まだ少しは痛みが残っていて、つい声に出してしまって。

ふと見ると、最初に怪我の具合を尋ねてきた華さんも麻子さんも、心配そうな顔をしている。

「んもー会長の言うとおりだよみぽりんっ。無理しちゃダメっ、なんだからねっ」

「そうです西住殿っ。何かお困りのことがあったら、私がお手伝いしますからぁっ」

「いやいやそれには及ばないよぉ?だって西住ちゃんのお世話をする役目なら、私が先約済みだからねぇ」

沙織さんと優花里さんも気遣いの言葉をかけてくれるけど、優花里さんに対しては会長が牽制に割って入る。

あの日以降、会長は毎日帰りに付き添ってくれて、ついでに家に上がって食事や清拭の手伝いをしてくれるのが日課になっていた。

私はというと、あの日以降なぜか会長の事を意識しっぱなしで、ちょっとした仕草にドキドキしたり、体を触られるたびに顔が熱くなったりで。

…ひょっとして私、普通じゃないのかなぁ?女の子同士なのに、会長と一緒にいると何でこんなに平常心でいられなくなっちゃったんだろう。

張本人の会長はと言えば、相変わらず私の口に運ぶオムライスをスプーンで切り分けていて。

ふふふん、ふふふん、と、あんこう音頭の一節を鼻歌で歌いながら、どことなくご機嫌そう。

「はいっ、西住ちゃんっ。あぁーん」

…会長が笑顔でいてくれるなら、今はそれでいいかな。

もやもやと実態がつかめず、定かにならない自分の気持ちに、結論付けるのはとりあえず先送りにして。

私は、会長の差し出した一切れのオムライスをぱくり、と頬張った。

 

 

 

そんな私が、会長への想いをはっきりと自覚して、成就させるのは、年が明けてしばらく経った、甘い贈り物の時期だけど。

それはまた別のお話。


 
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