No.826071

九番目の熾天使・外伝 = 蒼の章 = カムイ篇

Blazさん

出ました、第三話。
グダグダなのは相変わらずですが取り合えず話をどうにか組み上げて進めていく方針です。

2016-01-21 11:11:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:608   閲覧ユーザー数:572

三話「過去」

 

 

 

 

= 大和居城 九重家管轄の間 =

 

 

 

「いつつつ…」

 

「…ふむ。見た目頑丈と思いきや、なるほど…」

 

聴診器を離し、耳からとった老年の医師は軽く腕を回すげんぶの姿を見て当然の事のように診断の結果を言い渡す。

 

「問題はないじゃろ。傷も浅いし、出血も全て表面からじゃ」

 

「随分適当な言い方にも聞こえるが」

 

「気のせいじゃろ。ワシは診断には嘘はつかん主義での」

 

鞄の中に診断具を片づける医師の笑う顔に気の触ったげんぶはため息をつく。

腕がいいのは確かだが、性格に難のある人物なのでどうにも言葉全てを信用するという事は難しい。

 

 

げんぶが襲撃された後、彼らは現場検証を地元の侍たちに任せ自分たちは体勢を立て直すため、一度彼らの好意の甘えて大和の居城に訪れていた。

傷の手当と情報の整理、そしてもしあるのであれば新しい情報の入手。

軽傷ではあるが傷を負っただけの見返りがあると信じ、彼らは協力者である幻霞に襲撃した犯人の特徴を話し、結果を彼女と共に待ち望んでいた。

 

「…で。改めて聞くが…その…」

 

「あ、面倒でしたら普通にマドカとお呼び下さい。ガルムさん、げんぶさん」

 

「………。」

 

「ならマドカ。その話は本当なんだな」

 

 

「ええ。げんぶさんの話では犯人が使用していた武器は刀。

刀はアヴァロンでは、このカムイでしか手に入らない物であり、その技術は秘匿された物として外部への流出は完全に避けています。なので、もし犯人が刀をココで手に入れたのなら、必ず足跡が残っている筈です」

 

「…けど、それはあくまでこのアヴァロンでの話だ。もし奴がこの世界でない何処かで手に入れたなら…」

 

「だとしても、Blazが話してくれた親方さんの兼定さんの証言も合わせて現在、過去の事件などから情報を洗っていますし、外部との協力も行っています」

 

 

流石は守護者だけあって、とマドカの手の回す速さに舌を巻くげんぶ。

彼らが部屋に案内された直後もすぐに手当てができるようにと医師が待機しており、性格こそなんのある人物だったが仕事ぶりは真面目で的確なものだった。

そして、それに平行してマドカが彼からの情報を元に情報収集を開始すると言った手際の良さに、自分たち旅団の調査部の手際のよさを重ねる。

 

「結果は出そうか」

 

「まだなんとも…ですが、何らかの関係を持っているのなら…」

 

「…証拠は残っている…か」

 

「今は傷の回復と吉報を待ちましょう」

 

 

子どものあどけない笑顔で言うマドカに、今回はと有難くとどまる事にした二人だが、ただ黙っているというのも我慢ならなかったのでげんぶは唐突にマドカに問いを投げた。

 

「…マドカ。訊いてもいいか?」

 

「はい…?」

 

「君はBlazは何時知り合ったんだ?」

 

「Blazと…ですか」

 

んー…と子どもらしく考えるマドカは俯いて質問の答えを探す。

具体的な内容というのを鮮明に覚えているが、どう言葉に表せばいいのか分からない彼女は少しの間そうしていると、まずはと小さく呟くと話を切り出す。

 

 

「一年前…私がまだ守護者に成りたての頃の話です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年前。偶然の事からある依頼で顔を合わせる事となったマドカとBlaz。

始まりは彼女が守護者として任官され、その為の式が執り行われる事になった時の事だ。

早くに親を亡くし、更には頭首が居なくなってしまった九重家には新たな主、そして守護者が必要だった。

それが偶然というべきか、運よくというべきか。

マドカの父は生涯妻を一人しか取らず、また側室等の縁談も全て断っていた。

価値観が一夫一婦制だったので当初は跡継ぎが生まれなければどうするのかという心配性な意見も家内で起こりはしたが、無事にマドカが生まれ跡継ぎも決まっていた事と世継ぎ争いが無かったことで話はとんとん拍子に進んでいった。

 

しかし、当時まだ十歳になったばかりのマドカは他の権力などを広げたい者たちからの妨害なども多く常に危険に身を晒される事が多かった。

 

 

 

 

そこで、覇獣などを撃退する者が居るという噂だけを頼りに家臣らはBlazたちに数か月間、マドカの護衛と警護を依頼。

いくら報奨金が高いからとは言え、最初はBlazたちも命惜しさに断りはしたが、直後に状況が変わり渋々ながら請け負う事となる。

 

 

 

 

 

「そして、その後に私はあの人に………ああ…///」

 

「………。」

 

「………ああ、はい…」

 

 

確かに本人の周りに女性が多いのは事実だが、実際こうして明確な好意を持つ人間といえばニューぐらいだったので、どうして彼の事を好きになったのかというよりも彼に明確な好意を持っているという事に疑問を持つ二人だった。

 

 

 

((まずあの馬鹿にどう好きになる要素がある?))

 

 

 

 

 

 

「あの時、彼が私を面倒くさそうな顔をしても抱きかかえて逃げてくれたお陰で…しかもお姫様抱っこですよ!!お姫様の!!!

これは求愛行動間違いなしですよ!!!」

 

 

「…年頃の少女の夢か」

 

「というかそれで求愛行動はおかしくないか」

 

 

「だから私は直ぐに彼をお婿さんとして迎え入れたいのですが、あの人が「えーメンドくせー」とかなんとか言ってデレて直ぐに逃げ出したから私と彼との純愛に満ちた遠距離恋愛(一方的)が始まったんですよ!!!」

 

「…何となしにBlazが彼女と距離を取る理由が分かった」

 

「既にこの年で三十近い歳の奴と身の回り固めようとしてんぞ」

 

 

ちなみに。現在Blazの年齢は二十六。

今年で十二のマドカとは十四ほどの差がある。

一応は常識人に部類されている彼だから、そこも含めて断ったのだろうと納得するが、げんぶはそんな彼女を見て娘があんな珍言を言わないかと本気で心配になった。

娘の蓮も時に天然な事を言うが、本当にその珍事だけは避けたいと願うばかりだ。

 

気まずい空気だった所為でどうするかと考えていたがガルムは話を変えてマドカに些細な事だが疑問に思っていた事を尋ねた。

 

「…話を変えよう。この大和には十二の家があると言うが、具体的にどうなってるんだ?

俺たちが入ったときは結構平然としていたが…」

 

「…別に日常外からの来訪者が珍しいとか、来てはならないとかの理由はありません。

ですから、基本的に私たちこの城内にいる者たちはさして来客には驚くことや警戒することはありませんし、ちゃんと手続きをとってくださればさして問題はありません」

 

「随分とオープンなんだな」

 

「一応は自警団ですし、一般の人も出入りは可能なんです。その分入っていい場所とかの制限は設けられていますけど」

 

 

 

九重は何を思いついたのか、ある事を思い出すと自分が使っていた机に置かれている紙を一枚取り出し、それをげんぶとガルムの二人に見せる。

一応は夜なので見えにくくなっているが、近くにあった灯篭を寄せて明かりを近づけた。

そこにはマドカの家である九重を入れた十二の名前が書かれている。

彼女曰く、これが守護者の家の名だと言う。

 

 

 

「現在、この大和は十二の家とそれを束ねる霊式(れいしき)を入れた十三の家によって動かされています。家の名は順に

一ノ条(いちのじょう)、弐敷(にしき)、三星(みほし)、肆鬼(しき)、五衣(いつつきぬ)、睦月(むつき)…

と言った感じで、それぞれ男女の守護者が主として各地を治めています」

 

「…睦月は旧暦の一月だろ?なんで六に割り当てられているんだ?」

 

「ええ。その通りです。

睦月は皆さんの世界の旧暦の一月に充てられた名ですが、そうなった理由はかつての一ノ条家と睦月の旧姓である六事(りくじ)とか政略結婚をしたとかなんとか…兎も角、それに伴って家名共々変更になったそうです」

 

 

所々に疑問符やハッキリしない所を見ると、マドカもあまり詳しくは知らされていないらしい。その証拠に考え込む仕草をして必死に思い出す彼女が居たので、げんぶが無理はさせまいと話を打ち切る。

すると、その場には不釣り合いなバイブ音が低く響き、誰のかと思っていると彼女の服の袖から未来的な携帯端末が取り出され誰かが連絡してきた。

着信画面を見て知り合いだったのか表情を明るくすると、応答と映像の投影を行い着信相手を映し出す。

 

 

 

 

 

 

 

『もしもーし!』

 

「はやてさん!」

 

 

「な…!?」

 

「はやてっ…お前、まさか…!?」

 

しかし、彼らの予想していた八神はやてではない。かつてBlazと共に旅団の活動を支援していた方の彼女であり、現在敵対している世界の彼女とは並行世界の別人だ。

その証拠として彼女の映る映像には人の姿となったアマツマガツチのアーマが居る。

 

『おお!げんぶさん、お久しぶり! 連ちゃん元気か?』

 

「…お前、あのはやてか」

 

『そうそうアッチのはやて。って…あっちこっち言われてもどっちか分からんケド…』

 

 

どうやら本人曰く、Blazとの縁で知り合った中で彼女の世界の六課と大和はアヴァロン内などでの協力関係を密かに築いていて、彼女の他にアヴァロンのメンバーとも面識があったりと、こちらの世界でも人脈を広げているらしい。

今回もその一環で今回の事件の情報収集を手伝ってもらっているらしく、向こうで記録されている様々な事件などの記録を洗い直していたようだ。

 

『いくらウチらのトコの記録の検索方法がよくなったちゅーても、これは流石に時間かかったわ…丸四日は徹夜した…』

 

「ああははははは…」

 

『で。げんぶさんらはその任務の手伝いなん?』

 

「まぁな。あとはBlazと二百式とだ」

 

『ああ…あの人か…』

 

「それで。はやてさん、結果は?」

 

勿論。と断言したはやてはキーボードを弄って数枚のデータを表示させる。

見始めという事で大雑把にしか見られなかったが、どうやらある事件の記録のようで、それを見て誰かが問いを言う前に話を始める。

 

『少ない情報とかで調べたら一年かかっても無理やったけど…旅団のみんなが関わったって事で絞ったら、ビンゴが出て来たわ』

 

「それがコレか」

 

『そ。内容は今から話すわ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から数十年ほど前。

旅団が組織され、まだ初期のメンバー『以前』だった頃…

 

当初、謎の組織としてしか認知されていたなかった旅団が次第に戦力を拡大し管理局ならず各異世界の組織からも危険因子として狙われていた時。

当初はアーマードコア・ネクストのパイロットであるリンクスを中心とした組織であったため、戦力も自ずとネクスト等に頼ることもままあった。

その為、ネクストの原動力であるコジマ粒子の汚染によって投入された戦域は人の住めない環境に変化するというのも多かった。

ただし、これは彼らだけの所為ではなく、途中介入した管理局等もそれと同等かそれ以上の被害を出した事も原因として挙げられる。

 

 

その中の一つ。

特に、最初期のメンバーにとって大敗と言っても過言ではないほど、最悪の結果のみを残した作戦。

それを知る数少ない人々の間ではこう呼ばれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――「煉獄の日」と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『旅団と並行世界の管理局が争った解体戦争に次ぐ大規模な戦闘。解体戦争は規模こそ最大やけど、それがほぼ二日間の出来事やったのに対して、この事件は丸一週間は続いたって記録されてる』

 

 

「一週間…」

 

「場所は?」

 

 

『ええっと…第三十管理世界の「フィオナ」って場所。っていうか二人は知らんの?』

 

「記録はあまり見ないからな」

 

「それに、基本そういった最初期の記録にはロックが掛けられてて、入団したメンバーの時期によって開けられる範囲が違うんだ。だから、恐らくそれは…」

 

 

 

ガルムの予想が正しければ、この記録は最も最初期の頃。

しかもまだ中核メンバーが数える程度で楽園も作られていなかった頃ではないか、と見た感じに感じたのだ。

楽園も実は解体戦争に参加した初期メンバーたちの時期に作られた物で、それ以前は各地を転戦したり至る所に秘密基地のような場所を作って活動していたらしい。

 

「一応、管理は全て竜神丸が請け負ってるけど、その範囲は全部団長が許可するかどうかをやってるからな。多分アイツも見た事のない記録のハズだ。でなけれゃ俺も知ってる話だ」

 

『…なるほど。確かに、ユーノ君が調べた時にかーなり苦労してたし、凄い奥から引っ張り出してきたって言ってたから、それは正しいやろうな』

 

「…で。内容は?」

 

『ああ。んじゃ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事は今から数十年前。

ミッドの世界の闇の書事件やジュエルシード事件よりも更に前の事で旅団の勢力が延び始め、それに危険性を感じた管理局は組織の壊滅を決定。

中規模艦隊を送り込んで撃破を目論んだが、当時既にUnknownが参加していた事で戦力は極めて大規模になっており、送り込まれた艦隊は全滅。それを見て管理局は彼らを反乱分子として認め、完全な組織根絶を掲げ討伐に乗り出した。

 

その主戦場となってしまったのが第三十管理世界「フィオナ」である。

 

当時、周囲の環境からネクスト使用を可能な限り行わなかった彼らは、第二波である大規模艦隊を見て全戦力での応戦を決断。フィオナの世界ギリギリの次元空間で迎え撃ち初の大艦隊戦が行われた。

当然、管理局側の戦艦は全て次元空間での攻撃が不可能だった為、大損害を受けるが、決死覚悟の特攻により旅団側も少なからずの損害を受ける。

 

そして、艦隊戦開始から二日。

ついに事件が幕を上げた。

 

 

 

 

 

決死覚悟の管理局艦隊が防衛線を突破。更には少数の別動隊がフィオナを占領に入り、これを阻止するためにネクスト部隊は半分近くに分割された。

 

朱音、二百式、ロキの三人がフィオナに入った管理局艦隊に攻撃。

侵入されたとはいえ、少数だった事が幸いしたのか艦隊は抵抗する間もなく撃破。

しかし、決死覚悟だった艦隊は撃破されても抵抗を続けた。

 

 

 

 

 

墜落していく艦を質量兵器代わりに近隣の町や村に投下していったのだ。

 

 

 

 

 

当時ネクスト戦力が足りなかった事と、次元空間での艦隊殲滅に力を注いでしまったのが原因で投下される艦の破壊を行うも間に合わず、フィオナに存在したと言われる居住地域の七割から八割はこれで壊滅ないし全滅した。

 

生き残って侵入に成功した局員らは残った町や住人を拘束か確保。自分らがここを支配すると豪語するも大半はその騒ぎを見つけられて制圧されるといったものだった。

 

 

 

 

 

居住地の壊滅。それによる現地住民の虐殺と蹂躙。

 

そして、それを必死に止めようとする旅団たち。

 

次第に戦火は広がり、最終的に緑豊かだったフィオナの自然は殆どがこれで焼き尽くされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今でも鮮明に、この脳裏で蘇る

あの日の出来事

 

 

紅蓮の炎の中、死屍累々の中で見つけた命

 

 

しかし、その目に宿っていたのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜったいに…おまえらを……………許さない―――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ…」

 

不意に思い出した記憶に二百式は頭を痛めたのか近くの民家の壁に寄り添う。

鮮烈に刻まれた記憶が炎のように熱く、そして濁りとぬめりを持って彼の頭に襲い掛かり、体の自由を一時的だが奪う。

 

一瞬のことだが、その影響で意識が朦朧とし重い鉛が彼の頭の中に落とされた。

ただの記憶が彼をそこまで追い詰める。自分に不があるわけではない。

 

その記憶が鮮烈で、鮮明で、そして忘れようとしても忘れられないほどしっかりと記憶されていたのだ。

 

 

(…ここに来てからずっとそうだ)

 

 

時折悩まされる頭痛。それは過去が自分を呼んでいるかのように叩かれ、そして出てこようとしている。

意識的にそれを抑制してはいるが、二百式の中にある無意識が勝手に動き表面的に記憶の一部、最も鮮明に覚えている記憶が呼び起こされ彼の頭痛や金縛りの原因になっているのだ。

あの時、あの場所、あの記憶と全てを現在再現しようとする。苛立つ二百式は無理やりにでも抑え込もうとするが…

 

 

「チッ…!」

 

考えれば考えるほど記憶が蘇り、表面へと引き上げられていく。

黙っていれば記憶が全てを支配しそうになるが、それを彼は必死に抑え込むしかない。

疼く頭痛に頭を悩ませた彼だったが、また、ふとある事を考え出す。

 

今度は頭痛の関係することではない。本当に無意識に思い浮かべた事。

それはこの頭痛自体、どこか変でならなかったことだ。

ずっとただの頭痛だと思っていた筈だが、何度かあった頭痛に対し不思議と疑問が浮かびあがり、それが鎮痛剤としても頭の中に働きかける。

 

事あるごとに痛んでいた頭痛だが、その痛みは強弱様々でタイミングや長さ、強さにしてもバラバラだった。規則性も皆無だ。

何故か痛んでいた。どうしてだか強弱があった。何故かタイミングはバラバラだった。

幾つもの疑問だが、それは彼の脳裏では疑問を思った瞬間から薄々とだが「そうなんだ」と何処か理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お前が、俺にそうさせていたんだな」

 

 

 

炎のように思える家屋。

それに焼かれ、撃たれ、汚されて倒れる死屍累々の数々。

 

地獄絵図の中、彼は歯を強くかみしめる。

 

これが現実であっていいのか、と

 

 

そこにたった一人だけ、彼の瞳を見続ける

 

怒りの炎に燃えた、もう一つの目があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――やっと…会えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の全てを奪った奴ら」

 

 

 

 

 

 

過去の復讐を誓った目は、狩人の瞳を持って睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= 楽園 資料室奥地・データサーバールーム =

 

旅団の全ての戦歴や情報が集約されるデータサーバーのある部屋。

そこにはポツンと一つだけコンピュータが鎮座し、何時来るかもわからない来客を待ち続けていた。

 

 

 

「…さてと」

 

暗く狭い部屋の中に足を踏み入れたのは竜神丸。彼はひとつだけしかないPCを見ると、何もないからか真っ直ぐに向かい電源を入れる。

自分が資料室の管理を行っているのが幸いしたか、と内心では呟くが、それで済めばいいがと周囲の警戒をしながらもPCの操作を始めた。

 

「ふむ…バージョンがかなり古いな…」

 

あえてそうしているのか、使用されているOSのバージョンなどの古さに愚痴を募らせながらも淡々と操作していく。

 

「………!」

 

すると、中に保存されていたデータのフォルダを見つけ、そのファイル名を見て目を細める。

 

「これか。最初期メンバーの活動記録…」

 

クリックすると自由に閲覧できないようにパスワードを入力するようにと表示され、当然の事ではあるなと思いながら、取り合えずと自分が知っているパスワードを打ち込む。

 

 

 

『パスワードが違います』

 

 

「…でしょうね」

 

もう一度打ち込もうとした時。再び表示された入力画面の中に追加された文面を見つける。

 

 

『同じパスワード、またパスワードを入れてから二十四時間以内は再入力は不可能です』

 

 

「…日を改めて、ですか」

 

二十四時間ということは一日ほど経過しないと打ち込めない。

もし失敗した時はどうするのだろうかと思い、仕方なく諦めた竜神丸は他に閲覧できるファイルなどは無いかとマウスを動かすが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――残念だが、もうお前が見られる所はないぞ」

 

 

「…意外と、早かったですね。………朱音さん」

 

 

出入り口の所に肩を寄せる朱音はゆっくりと中に入っていき、後ろを向きながらも言葉を返した竜神丸の後ろに就く。

後ろと死角を取られたからと言って焦るような性格ではないが、それでも彼の背筋に伝わる悪寒に、申し訳程度にと訊ねた。

 

「…ところで。その腰に下げている得物は…本物ですか?」

 

「話を逸らす話題か?」

 

「…一応ソレ、地球では国宝ですよ」

 

「アンを守るためなら、別に一国ぐらい敵に回そうが恐るに足らん」

 

 

「いやだからって…天下の国刀『鬼丸国綱』を持ちだしますか…」

 

 

別に問題はない、とまた一言で片づける朱音に、竜神丸は今頃地球ではあの刀が盗まれたという事で大騒ぎになっているだろうと、次の日の一面の想像をしながら話を続ける。

 

 

「…まぁそれは兎も角。見られる所がない、とは?」

 

「言葉通りだ。そのPCでパスワードを一回でも間違えれば即アウト。一日は再入力不可能になるし、入力されたパスワードはブラックリスト化されて防がれてしまう。

正しいコードを入力しない限り、永遠閲覧する事はできない」

 

「…なるほど。管理は団長か」

 

「いや。二百式だよ」

 

「ッ…?」

 

 

厳重な管理を行っている事から団長ではないかと予想していた彼も、意外な人物が出て来たので眉を寄せる。

 

 

「まだメンバーが少なかった時だからな。それにうっかり漏れる…というのもアイツは避けたかったし。何よりそれで後の連中が不安がるのもな」

 

しかし、当時の事を考えれば直後に言った朱音の言葉も正しいと取れる。

人数が少なかった事や初期段階で構築されていた組織関係など。それがここに集束しているという事は、それを管理させるのは必然的に最初期から居る人間にすればいい。当時の事を自分の目で目撃したりしているのだ。そして、その中からデータの管理などをしっかりと行える人物と言えば、クライシスの他には二百式ぐらいなのだろう。

 

 

「―――という事は、ここにはそれだけのブラックボックスが入っている、と」

 

それを好奇心として捉えた竜神丸は不適な笑みを浮かべて切り返す。

大よそ予想通りだったとはいえ、堂々と言い放った彼には流石の彼女も呆れてため息をつき、それ以上の詮索をさせまいと釘を刺す。

 

「だが、これ以上はやるなよ?

無駄な詮索とは言わないが、昔の事をほじり返すのはアイツも好きじゃない。いつか本物の釘が刺さるぞ」

 

「…そうします。本当にあの人はそれをやりかねませんから」

 

 

そう言って竜神丸は素直にPCの電源を切り、その場から離れていった。だがこれで一つハッキリとした事がある。

ごく単純な事。あのPCに記録されているデータの中には、旅団の数少ない失敗の記録ではない、さらにその上を行く何かが隠されているのだ、と。

いつかそのパンドラの箱を開けるがため、竜神丸は今は静観すべきと資料室のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで少なくとも、今回の事件が旅団の過去に関係しているのはハッキリとした。だが…本当にそれだけ?」

 

自問自答を行う竜神丸は笑う。

これだけでは済まない。これだけじゃないはずだ。

そう読んだ彼は、端末を起動させると管理者権限を使い楽園のあるネットワークにアクセス。そこから必要なデータをダウンロードし、監視システムからある場所の映像をLIVEで観始める。

楽園の中にある一室で四人ほどベッドに横になって睡眠を取っている。見た目がすらりとした体つきからして一人はまだ幼い少女だ。そしてもう三人は大体十代半といったところ。

背丈、スタイルはそれぞれバラバラだが彼の目的は彼女たちではない。

 

 

その中に紛れ、共に休息をとっている『二匹』。

 

 

 

 

「…ルージュヴォルフと…これが…カーバンクルですか」

 

 

額にエメラルドを埋めている小さな精霊。

しかしその正体は彼女たちの頭の上で眠っているブランカと同じ覇獣の一種だ。

神話で幸福の精霊と言われるカーバンクルが咲良とこなたの相棒として二人の間で微睡みをしていた。

 

「ふにゅぅ…」

 

「きゅぅ…」

 

 

 

「精霊種の覇獣…さて。実力はいかほどに?」

 


 
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