~真・恋姫✝無双 魏after to after~side季衣・流琉 北郷一刀が覇王・曹孟徳(華琳)と交わした約束の日まで、七日を切ったある日の昼下がりの事。 「う~・・・ねむいよぉ・・・・・・流琉、おかわり」 「どっちかにしなさいって・・・言っても聞くわけないよね」 はい、とおかわりを差し出す流琉。受け取るや否やそれをすごい速さで口に運ぶ季衣。戦いとは無意味なとこでもコンビネーション抜群な二人であった。 「季衣、やっぱり眠れないの?」 「うん」 「兄様のところに行ったら?」 「やだ」 一刀が帰ってきて以来、二人はほぼ毎日このやり取りを繰り返していた。二人のやりとり、良くも悪くも原因は一刀にあるのだが、一刀も決して馬鹿ではなく、季衣と流琉を誘って街に出かけようとしたことは何度もあったのだ。 だが、流琉のほうこそ了承してくれていたが、季衣に至っては何かしら用事があるから自分も流琉もいけないと言って、流琉ごと連れて猛ダッシュで一刀の前を去っていくのだった。その後も、一刀が季衣を見つけても逃げられ、季衣が一刀を見つけた時は気付かれないように姿を隠す。この繰り返しなのだ。 「兄様はちゃんといるのよ?」 「わかってるよ」 「だったら・・・兄様のお誘いを断らなくたっていいじゃない」 「だってやなんだもん」 「季衣・・・・・・」 実の姉妹のような関係である流琉には、季衣が頑なに一刀の誘いを断る理由が分かっていた。だからこそ、無理強いを出来ずにいたわけなのだが、正直を言えば流琉は一刀とお出かけをしたかったのだ。 (兄様にお話すれば、季衣の事をなんとかしていただけるでしょうか・・・) 信頼できる兄であり愛する人の顔を思い浮かべる。思わず表情が緩んでしまったが。 思い至ったら即行動。警備隊の詰め所へと足を運ぶことにした。ちなみに季衣は夏侯姉妹と一緒にいるらしい。 処は変わって、警備隊詰め所。 「あ~・・・暇や」 「同感なの」 「「・・・・・・」」 好き勝手なこと言う二名を無視して、一刀と凪は黙々と意見書などを整理していく。 相手にするだけ悪循環につながるだけだと理解している二人ならではの対応である。 「あかん、一刀も凪も完全に無視決めこんでもうとる」 「娯楽に飢えてしまってお病気になっちゃってるの」 「凪、あとどれくらい残ってる?」 「あと半分くらいです。一刀様はもう終わったのですか?」 「まぁね。よし、半分もらうよ」 「あ・・・ありがとうございます」 どことなく桃色な空気を醸し出す二人に、蚊帳の外にされた二人は実に不快そうな顔をしているではありませんか。 「一刀~ウチのも半分もらってや~」 「沙和のもなの~」 「却下、お前ら頑張ってないし駄弁ってばっかりだし」 「「ぶ~ぶ~!!」」 と二人が不貞腐れていると。 「北郷隊長はおられますでしょうか?」 警備隊の兵が一人詰め所に入ってきたので、何事かと尋ねると。 「典韋将軍が隊長にご用事があるとのことなのでご案内させていただきました」 ありがとうと謝辞を述べると兵はビシッと礼をして去って行った。そして、入れ替わるように流琉が詰め所に入ってくる。 「あの、兄様にご相談があるんです」 ただ一言、流琉はそう言った。 詰め所で向かい合う一刀と流琉、傍から見れば取り調べに見えるかもしれないが、全くもってそのようなことではないので、心配ご無用。 ちなみに凪たちは何となく察してくれたようで三人そろって警羅に出てしまった。 「それで?相談っていうのは多分季衣の事なんだと思うんだけど・・・」 「はい・・・」 そこで一呼吸置いて流琉と一刀の話し合いが始まった。 「季衣は兄様を避けたいわけじゃないんです。ただ怖いだけで・・・」 「怖い?」 「・・・ええ。これが幻なんじゃないかって季衣は思ってるんだと思います。だから最近は寝不足なんですよ、あの子」 「寝不足・・・」 そこでほぼ確実な輪郭を持っていく理由と原因。だが、一刀はそれを口にせずに流琉の話の続きを待った。 「眠ってしまったら、目が覚めた時に兄様がいないんじゃないかって・・・だからあの子ほとんど寝ずにいるんですよ」 ――彼女たちの想いは重い。だが、あの世界に帰るのであればそれを受け止めない限り君は今度こそ消えるだろう。君をあの世界に繋ぎ止めるのは彼女たちとの絆なのだから。 不意に思い出したのは許子将が一刀に投げかけた言葉だった。 (覚悟はしていたんだけど・・・ホントに重いんだな。これが俺が皆に残してしまった傷なのか・・・) 潰されてしまいそうなほどに重い彼女たちの抱えている痛み。 「触れたら、それは幻で・・・そこには何もないんじゃないかって。季衣は・・・いえ、私も今でも夢に見てしまうんです。兄様がいない世界の夢を・・・」 流琉の声はすでに震えていた。両の瞳からはぼろぼろと涙がこぼれている。 彼女も本当は怖かったのだ。でも、自分と大好きな季衣のために精一杯の勇気を振り絞って今日という日に行動を起こしたのだ。 「流琉・・・俺はここにいるよ」 優しく流琉を懐に抱き締める。伝わる一刀の温もりに心からの安堵を浮かべその身を委ねた。 それから落ち着いた流琉の肩に手を置き、一刀は彼女と向き合う。 「成功するかはわかんないんだけど・・・俺がなんとかしてみせるよ。だから、それがすんだら三人で出かけよう?いろんな屋台とか歩き回ったりさ」 今自分にできる精一杯の笑顔を浮かべると 「・・・・・・」 言葉なく流琉がそれを見つめていた。今までになく頼もしいその笑顔に言葉をなくしてしまったのだ。 「!」 そこでちょっと悪戯心が浮かんでしまった一刀は呆けている流琉の唇に自分の唇を重ねた。 「///!!」 顔を真っ赤にした流琉に可愛いなぁと思わずにはいられなかった一刀であった。 ――一方その頃、詰所の入り口では面白い光景が広がっていた。 「ふふっ・・・一刀は季衣に一体何をしてくれるのかしらね?」 「さぁ~。ですがお兄さんの事ですから、きっと大丈夫ですよ~」 「そうですね。一刀殿なら心配は無用でしょう・・・そうは思いませんか?桂花」 「私の知ったことじゃないわ。だいたい、あの役立たずのせいで季衣があんなことになってるんだから、それぐらいはして当然よ」 「桂花ウサちゃんは素直じゃないですね~」 「ウサちゃん?風、なんなんやそれ?」 「ウチも気になんな。それ」 「風ちゃん、教えてほしいの」 「いえいえお気になさらずに」 「いいんでしょうか、盗み聞きなどして」 「「「「「「「問題なし」」」」」」」 凪以外のその場にいた面子――華琳、風、稟、桂花、霞、真桜、沙和の七人の声がハモったりしていた。 ――その日の夜、季衣は流琉に呼び出され食堂に足を運んでいた。 「ボク眠たいのに、流琉ってば何なんだよ・・・」 ぶつくさと文句を言ってはいるが、自分の事を呼び出した流琉の顔は真剣そのものだったので面と向かって文句を言うことなんてできる筈なかった。と食堂近くまで来てみると中から実に甘く、香ばしい匂いがするではないか。何事かと思って食堂に入ってみればそこには、前掛けを身に付けた流琉と一刀がいた。走って逃げだそうかとも思った季衣だが、この香りにやられて逃げる気が失せてしまったので仕方なく入り口の陰から中をこそっと窺う。 「季衣は来るでしょうか?」 「きっと来てくれるさ・・・と、流琉、卵とって」 「はい、・・・ところで兄様、これはなんていう料理なんですか?」 「ケーキだよ・・・っていっても俺が作れるのは初心者でも簡単に作れるパウンドケーキだけどね」 「これがけぇき・・・あ、兄様、焼きあがったみたいですよ」 「お・・・じゃぁ竹具し刺してっと」 真桜に頼んで作ってもらった型で焼いた生地に竹串を刺してなにもくっつかないことを確認すると用意しておいた別の生地を流し込んだ型を窯に入れまた更に用意する。 二人はかれこれ十個ほどパウンドケーキを作っていた。目標は二十個だが、これにはちゃんと理由がある。 「多分、皆来るだろうからね」 「そうですね。あ!私お茶入れますね」 「うん、頼むよ」 井戸の水を汲みに流琉がいくのを見計らって一刀は後ろの方に声をかける。 「そんなところにいないで入っておいでよ。季衣」 「!」 「これでも鍛えられたし、鍛えてるからね・・・気付くさ。大丈夫、俺は〝ここ〟いるよ」 「・・・・・・」 渋々と席をついた季衣は何も言わない、そして一刀もまた、何も言わなかった。静かな時間だけが二人の間に流れる。 「兄ちゃん・・・そのまま聞いてね」 「・・・・・・」 首肯だけでそれに応える それを確認した季衣は静かに語り始めた。 ――兄ちゃんがいなくなってからボク、いろんなところ探し回ったんだ。あっちにいるかも、こっちならいるんじゃないかなって・・・。でもどこにも兄ちゃんはいなくて、そのうち夢を見るようになっちゃった。 その夢はね、町を散歩してたら兄ちゃんを見つけるって夢で・・・ボクは兄ちゃんのところに走るんだけど、兄ちゃんまであと一歩ってところで目が覚めちゃうの。 一度その夢を見てからは繰り返し見るようになって、でもやっぱり兄ちゃんには届かなかったよ。 最初はね、嬉しかったんだけど・・・だんだん苦しくなって・・・それから寝ること自体が怖くなっちゃって、毎日毎日ちょっとしか眠れなくてボク、初めて風邪ひいたんだよ。 華琳様や春蘭様にも迷惑かけちゃった。 「季衣・・・」 ――次は私が話しますね、兄様。 私は季衣ほどではありませんでしたが、やっぱり兄様がいなくなったことが信じられなくて・・・そんな風に落ち込んでいくうちに料理が楽しいって思えなくなってきました。 表立って華琳様たちは何も仰りはしませんでしたが、多分味にも影響していたと思うんです。 いろんな料理を作っていると、兄様の声が聞こえたような気がして振り返って・・・でもそこには兄様はいなくて・・・だんだんそのことが苦しくなって。 ひと月ではありましたが、一切包丁を握ることはありませんでした。でも、皆さんが落ち込んでるのを見て少しでも元気を出してもらおうと思ってまた包丁を握ったんです。 「流琉・・・」 ――ボクも流琉もちょっとだけ元気が出た後は色々、皆のお仕事手伝ったんだよー。 一番大変だったのは凪ちゃんの見張りかなぁ。 凪ちゃんはちょっと目を離した隙にすぐに死のうとするもんだから、皆気が気でなかったもん。 ――そのうち、五胡が攻めてきて平和になった世に再び戦乱が訪れたんです。私や季衣はもちろん、皆さんが頑張りました。兄様が暮れた平和をまもるんだって。 その中で一番活躍されたのは、死に場所を求め続けていた凪さんでした。 ――凪ちゃんの活躍と、ちびっこのいる蜀とかが助けてくれたおかげで勝ったんだよボクたち。 そっからは、復旧とか何とかで忙しかったんだ。 おかげでしばらくは夢を見なくなったんだけど・・・ 「兄ちゃんが帰ってきてからまた見るようになっちゃったんだ」 「季衣ったら最近はずっと私の部屋で寝てるんですよ。一人で寝るのが怖いからって」 「ちょ流琉!ボク怖いなんて・・・」 「一人であの夢見たくないって言ってたじゃない」 「むむむむ・・・」 「素直になっていいのに」 一刀は何も言えなかった。かつてこの世界にいたときはこの少女たちは向日葵のように明るい花だと思った、この花は枯れることなく咲き誇り続けるだろうと。 でも現実は違う。今までに散々思い知ったはずなのに、それでも激し痛みとなって一刀の心をえぐる。 (・・・駄目だ駄目だ駄目だ!!俺が落ち込むためにこれを作ったんじゃないんだから、俺が今するべきことは!) 精一杯の笑顔を浮かべ、皿に盛り付けたパウンドケーキを二人の前に差し出して、お茶を用意する。流琉はあわてて手伝おうとしたが、一刀はそれを手で制した。 「俺にやれせてくれ・・・季衣も流琉も、今日は俺のおもてなしを受けてほしいからね」 「兄様・・・」 「おなか減ったよ~」 さっきまでのしんみりした空気はどこに行ったとツッコミを入れそうになった一刀だったがせっかく明るくなり始めた場の空気を壊しては何の意味もない。なので沈黙を保った。 「はいよ、それじゃあ召し上がれ」 「「いただきます!」」 切り分けたケーキを口に運ぶと、二人の表情がぱあっと輝いた。 「美味しい!美味しいよ、兄ちゃん!」 「本当に・・・こっちのは角切りの林檎が入ってるんですね。ふわっとした生地にあって林檎のシャクっとした食感がとてもいいです」 果物入りだったり、お茶を練りこんだ生地だったりと色々な種類を作ってよかったと、一刀は心から思う。そんな感傷に浸っていると、二人のほうが自分なりに気に入ったケーキを一刀に進めてきた。これが不思議なことに、二人が進めてきたのは、同じ角切り林檎入りのパウンドケーキだったので、思わず笑う一刀。すると、それにつられて季衣と流琉も笑う。 賑やかな空気に変わった食堂に案の定、匂いやら騒ぎやらにつられて続々と魏の面々がやってくる。 「何かおいしいそうな匂いがするわね。一刀、これはあなたが作ったのかしら?」 「まぁね、作り方は流琉が覚えたと思うから、次食べる時はもっと美味しいのが食べれると思うから、今日は俺が作ったので我慢してほしいな」 「馬鹿ね、貴方が一生懸命作ったものにケチをつける気なんてないわよ」 駆けつけた華琳を筆頭に、春蘭、秋蘭、霞、真桜、沙和、凪、風、稟、桂花、天和、地和、人和がそれぞれの意見を好き放題言って、一刀がそれに律儀に答えていく。その光景を見ながら季衣と流琉は顔を見合わせて笑った。 「兄ちゃん、ちゃんとここにいるんだね」 「うん、ねぇ季衣?」 「うにゃ?」 「今日は兄様と一緒に寝ない?」 「うん、寝よ?」 二人の夜の予定が決まった。のだが、まずは目の前に広がるこの賑わいをどうにかしなければならない。どうしたものかと考えていたら、一刀が二人の傍にやってきた。 「華琳がこの場を引き受けてくれるってさ。春蘭と秋蘭にも送りだされちゃった」 どうやら自分たちは本当に良い上司に巡り合えたらしい。断る理由もなかった季衣と流琉は先程の意見を述べ、一刀はそれを承諾して、三人は一刀の部屋へと向かうのだった。 ――その後、季衣と流琉は一刀が〝ここにいる〟証をたくさん刻みこんでもらうのであった。 ――次の日、三人は目いっぱい食べ歩きを楽しんだそうだ。 ~epilogue~ あれから数年たって、季衣と流琉も母親になった。 「こら~!儀、満ボクの髪飾り返せ~!」 季衣の娘である儀に巻き込まれて、一緒に逃げている流琉の娘の満。彼女先程から自分の無実を訴えているのだが、季衣は全く聞き入れてくれず、この微笑ましい親子の鬼ごっこが繰り広げられているのである。 「季衣母様~なんで私まで追いかけるんですか~」 「なんとなくだよ~♪」 「あはははー!満、つかまったらお仕置きされちゃうぞ~」 「あなたのせいでしょ儀!ああ、早いです、捕まっちゃいます」 どれくらいあの三人はああしているのだろうと休憩所から見守る一刀。流琉は今、お茶の準備をしている最中で、手伝おうとしたらやんわりと断られてしまったのでこうして鬼ごっこを観戦しているというわけだ。 (あれは親子っていうより仲のいい姉妹かなぁ) 季衣も流琉も成長こそしてはいるのだが、風同様に幼児体型であるためについついそう見えてしまう。 ――それでもいい光景ではあるのだが。 ――そう、温かな日常の光景である。 などと感傷に浸っていたらお盆を持って流琉がやってきた。 「あの三人は・・・またですか?」 「まあね、でもいいじゃないか・・・とっても優しい光景だと思うよ。季衣があんなに楽しそうに笑ってる・・・」 「そうですね・・・兄様、三人を呼んできてください。私はお菓子とお茶を並べておきますから」 「りょーかい、いってくるよ」 「はい、お願いしますね兄様」 一番大変な仕事を夫に任せ、流琉はてきぱきと皿やらなんらを並べていく。 ほどなくして季衣、儀、満に飛びつかれた一刀の楽しげな悲鳴が聞こえてきた。 「ふふふっ・・・きっとお茶もお菓子もより美味しくなりますね」 といってからおおよそ三十分ほどして元気な三人と息を切らせた一刀がやってきた。 「「「あ~楽しかった!」」」 「つ・・・疲れた」 見事に分かれた意見である。 「兄様、季衣、儀ちゃん、満・・・お茶にしましょう」 満点の笑みを浮かべて、流琉は四人を迎えた。 ――かつて咲いていた花。 ――一度は咲くことをやめてしまった花は、もう二度と咲くことをやめはしないだろう。 ――お日様のような向日葵の花たちが一刀の傍で咲き誇っていた。 ~あとがき~ さて、~真・恋姫✝無双 魏after to after~side季衣・流琉 いかがだったでしょう?自分なりに彼女たちを描くことができたと思っています。 今回は彼女たちを向日葵と喩えましたが、これは個人的な観点ですのであしからず。 ――いや、違う。喩えるべき花は他にある。と思った方もいると思いますがご了承いただけますようお願います。 いよいよ残り三名、after to afterシリーズも完結が近づいてまいりましたが、変わらず読んでいただけたら、作者としては嬉しい限りで幸いです。 それでは次の作品でお会いしましょう。 Kanadeでした。
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after to afterシリーズも残りあとわずか、最後までお付き合いくださいませ。
感想、コメント待ってます。
それではどーぞ