No.821292

「真・恋姫無双  君の隣に」 第51話

小次郎さん

互いに届かない思いに苦しむ一刀と風。
残酷な現実からは逃げられない。

2015-12-28 00:49:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:9305   閲覧ユーザー数:6451

俺は今、どんな顔をしてるんだろう?

「お兄さん、風は何も思い出してません。お兄さんの知ってる風が風なら、同じ行動を取っていると考えただけです」

ハッタリだった、でも全てを見透かしてるかのように俺を見据えている。

何か、何か言わないと、でも何を言ったらいいんだ。

もう風は確信してる、俺が風を知っていた事を。

「自分で言っててもおかしな話ですが、お兄さんは出会う前から風と知り合ってたんですね。風自身には全く身に覚えが無いのに」

胸に痛みが走る。

全く身に覚えが無いと言われ、改めて突き付けられる現実に。

「おそらく華国なら凪ちゃん達三羽烏、そして華琳様や稟ちゃんを含む魏国の殆んどの人達もそうなんでしょう。お兄さんがどんなに隠そうとしてても、お兄さんを見てれば分かるんです」

風の先までの能面のような無表情が崩れる。

こんな泣き出しそうな顔は見た事がない、見たくもなかった。

もう、完全にばれてる。

・・。

・・それなら。

・・それなら、話してもいいんじゃないか?

本当はずっと言いたかった。

聞いて欲しかったんだ。

俺は風の両肩を強く掴んで、全てを話そうと口を開く。

・・だけど、言葉が出なかった。

風は思い出した訳じゃない。

話してどうなる?

以前の風と仲良くしてたから、再会できて嬉しいとでも言うのか?

じゃあ俺にとって大事なのは以前の風であって、いま目の前に居る風は代替品か?

そんな訳あるかっ!!

自分に対しての怒りが膨れ上がる。

楽になる為に手前勝手な事を告げようとした自分が許せなかった。

そして、掴んでいた手を離し無言となった俺から風が離れる。

泣きそうな顔のままに。

「・・お兄さん、風は華琳様の元に戻ります」

部屋から出て行く風を、俺は止める事が出来なかった。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第51話

 

 

「お姉ちゃん、ちょっといいかな?」

「シャオ。何、また政に関しての質問?」

「うん、税収の事で聞きたい事があるの。何で華国ってこんな非効率な事してるの?役人のみんな、めちゃくちゃ忙しそうにしてるよ?」

そう、政に疑問を持つ事が出来るようになったのね。

一刀のところから戻ったシャオは別人の様に勉強に励んでいるわ。

姉として妹の成長を嬉しく思いながら私は問うてみる。

「具体的に言ってくれる?」

「だって実際の収穫量をきちんと量った上で税率分を徴収って、確認作業だけで一苦労だよ。以前みたいに土地の広さで収穫量は予測出来るんだから、最初から決めた分を徴収すれば楽じゃない」

そうね、その方が税収も予測できるし管理する方も楽ね。

「それじゃ不作だった時はどうなるかしら。税を納めたら民が餓えるような状況でも変わらず徴収するの?」

「そ、その時は施したらどうかな」

「それなら最初から徴収しなかったらいいんじゃないかしら」

「で、でも・・」

言葉に詰まるシャオを見てると、ちょっと恥ずかしいわね。

以前に私も同じ事を一刀に言ったから。

 

「蓮華、効率が良くて楽なのは役人や国だけだよ。民だけが苦労するやり方だ」

「で、でもそうやって国は成り立ってきたじゃない」

「強い民に甘える方が楽だからね。面倒事は全部民に押し付けて美味しい所だけ貰ってた訳だ」

「強い民?」

どういう事?

私達は民を護る為に良い政をしようと励んでいるのに。

「うん、民はとても強いよ。重税に野盗、飢饉、洪水、不作、徴兵、お上の理不尽な命令等々。数え切れない程の苦難にあいながらも日々を生き抜いてる、そんな民が弱い訳無いだろう?」

あまりにも枠外な考え、自分の考えが根底から揺さぶられて思わず反論する。

「待って、民には個の考え方しか出来ないから集の力を持てないわ。だからこそ戦が起これば私達は民を護らないと。個の力を束ねて集の力に昇華させる事が出来るのは国で、指導する者がいるからこそよ」

「うん、その通りだね」

あっさりと肯定されて拍子抜けだけど、否定されなかった事に安堵する。

「役目は違うけど平和な世の中を作り上げる為に頑張ってるのは一緒だよ」

「ええ、そうよ。想いは一緒よ」

私だってこれからも努力を続けて頑張るもの。

そして一刀は笑顔で言ったわ。

「それなら民が苦労する時は、国や役人も苦労するのが筋じゃないかい?」

 

あの後は何も言えなくなって、暫く頭から離れなかったんだから。

「そ、そうだ。税率を状況によって変更すればいいんだよ。それなら民も役人も困らないでしょ」

一生懸命に考えてるのは分かるわ。

「シャオ、税率というものは簡単に変更するものじゃないわ。急場は凌げるかもしれない。でもそれは為政者の怠慢よ、自分達の努力を放棄して民に苦労を押し付けてるだけ」

「で、でも・・・」

ちょっときついかも知れないけど、本気で学ぼうとしてるからこそ私も真剣に答える。

私や一刀と同じ考えになって欲しいんじゃない。

色々な考えや知識を知って欲しいの、いつか貴女が自身で導き出した答えに胸を張れる様に。

「急いで答えを出さなくていいの。ゆっくり考えたらいいわ。シャオはとても頑張ってる、姉としてとても嬉しいもの。そうだわ、よかったらシャオも寿春で学んでくる?」

一刀ならきっと良い影響を与えてくれるわ。

「だ、駄目、それだけは駄目ーーー!!」

大声で拒否するシャオに驚きつつ理由を聞く。

「今のシャオだと子供扱いされるだけだよ。そんなの嫌!」

あ、そういう事。

悪い事じゃないわ、やる気の原因が一刀への恋心でも。

ええ、悪い事じゃないわよ、だっていつもの事じゃない。

流石よね、もうシャオに影響を与えてるなんて。

ああ、そういえば建国祭の事で先に亞莎に寿春に行ってもらったけど、きっと忙しい中でも時間を作って楽しく過ごしてるでしょうね。

ねえ、一刀、勿論私との時間も作ってくれるわよね、フフフフ。

「お姉ちゃん、何か怖いんだけど」

 

 

兄は変わってるけど、いい奴にゃ。

みいの知ってる漢人は縄張りに勝手に入ってきて、勝手な事ばかり言ってたじょ。

自分達に従え、食べ物寄こせって、失礼な奴等ばかりだったにゃ。

でも兄はみい達の事を沢山教えて欲しいと聞いてきて、自分達の事も沢山知って欲しいと言ってきたにゃ。

友達になりたいからって言ってたじょ。

大陸を統一したらみいの国にも行って見たいと言ってたから、その時は色んな所を案内してやるにゃ。

「兄、お祭りの準備をしているにょか?」

「そうだよ。色んな所から人が一杯来るし、沢山のお店も並ぶから楽しみにしててね」

「「「楽しみだにゃー」」」

楽しみだけど、何か物足りないにゃ。

だって兄はもう楽しそうにゃ。

同じように働いてるしおんとききょうに話したら、理由を教えてくれたじょ。

「美以ちゃん、お祭りはね、準備するところから楽しいのよ」

「共に作り上げるからこそ喜びも大きいのだ。祭りの日だけ遊んでも与えられるだけだからな」

そうなのか、だったらみいも手伝うのにゃ。

「手伝ってくれるのかい、ありがとう。それじゃ美羽が子供達と飾り付けを作ってるから、一緒にお願いできるかい」

「わかったのにゃー」

「「「手伝うのにゃー」」」

美羽のところへ急いで行って、手伝うと言ったじょ。

「助かるのじゃ」

「璃々もがんばってるの」

やる事一杯だけど楽しいじょ、ここに来て本当に良かったにゃ。

 

 

まだ少し早いけど、そろそろ起きよ。

各地でお米の収穫が始まって終わるまでは舞台も無いから、体力が有り余ってるのよね。

ご飯前の時間つぶしに腹筋運動をしてたら、人和が起きてきた。

「おはよ、人和。一刀の所に行く日程はまだ決まらないの?もう豫州はあらかた回ったでしょ」

「おはよう、地和姉さん。その話は朝御飯を食べてからするわ。準備するから天和姉さんを起こしてきて」

「放っておけばいいじゃない、流石に昼には起きてくるわよ」

「説明は一回で済ましたいから、お願いね」

仕方ないから起こしに行く、床から引き剥がすのに二刻かかったわ。

食卓についたと同時に朝食が並んだ、計算通りってかんじね。

起きたばかりなのに天和姉さんは凄い勢いで食べて、挙句に信じられない事まで言い放つ。

「一刀の作ったぱんけいきが食べたいなあ」

どんな胃袋してるのか真剣に聞きたくなるわ。

「最近は魏の領地でも売ってるお店あるじゃない。お昼に食べにいけばいいでしょ」

「でも何か物足りないんだよ~。美味しいんだけど一味足りないっていうのかな」

それはそうなのよね。

一刀が作ったのより洗練されてるし見栄えもいいんだけど、なんていうか心に響かないっていうか物足りないっていうか。

「当たり前でしょ。好きな人が自分の為に作ってくれるんだから、特級厨士が作ったよりも美味しいわよ」

「だよね~。あ~ん、早く一刀に会いたいよ~」

「人和、華の建国祭まで時間無いじゃない。何で寿春への出発許可が下りないの?」

去年は一ヶ月前から準備で大忙しだったのよ、もう半月を切ってるのに。

こんな待機時間、絶対に勿体無いわよ。

「華琳様が仲国と戦ってる最中だから認可が出せないって言われたの。私達の事は政に関わるから、どうしても華琳様直々の認可がいるらしいの」

「それじゃ戦が終わるまで出発できないの?建国祭に参加出来ないじゃない」

「大丈夫よ、後三日もすれば戦は終わるって留守役の桂花さんが言ってたから。一刀さんにも私達の事は連絡してあるって」

そう、ならいいわ。

「じゃ、お姉ちゃんは街に出かけてくるね。ぱんけいき♪ぱんけいき♪」

・・私も食べに行こうかな。

そういえば、少し気になってたんだけど。

「人和、ぱんけいきのお店、魏でも一気に増えたよね?普通は内緒にして独占するんじゃない?」

「そこは一刀さんだから。食べ物の知識に関しては気前良く誰にでも教えてるそうよ。皆が競い合ったら更に美味しくなるって言ってたらしいわ」

成程、それなら皆が嬉しいもんね。

まだ食べた事は無いけど、最近はちいずけいきっていうのも流行り始めてて、これも一刀が広めたって噂がある。

よーし、建国祭で凄い舞台をやって、ご褒美に作って貰っちゃお。

その為にも、今から頑張って練習よ。

 

 

チッ、騒々しい。

官途での戦から南皮に戻ったら、何だ、このお祭り騒ぎは。

「左慈、少しは笑顔でも見せてはいかがですか。貴方の大将軍就任を祝っての祝賀会なのですから」

「・・貴様の裏工作だろうが、面倒臭い地位に就けやがって」

「いえいえ、相応しい人事が行われただけですよ。これまでは袁家親族や名家出身の者が高位の官職を務めていたおかげで歯痒い思いをしてましたからね」

白々しい事を言いやがって。

ヒゲを使って実態と違った華々しい噂を南皮に立たせておいて、実際は劉備にボロボロに負けてきた高幹達に袁紹が切れて御鉢が回ってきたからだろうが。

おまけに貴様、劉備に情報を流しまくっただろう。

兵力差はあっても将や軍師の質が違う、その条件じゃ当たり前の結果だ。

就任に関しても重臣でまともな類の沮授や張郃辺りを抱き込んだだろうが。

「フン、まあいい。こうなったら軍の全てを鍛え直してやる」

「ハハハ、頼もしいですねえ。それこそ私の愛する左慈」

「余程死にたいらしいな、貴様!」

鳩尾に一撃をいれて悶絶させる。

馬鹿は放って置くとして、袁紹が人だかりで自分の目の確かさを高々に自慢してるから、俺はもういいだろう。

出て行こうとしたら、

「左慈さん、大将軍就任、おめでとう御座います」

「左慈ならアタイらも納得だぜ、何しろ官途の戦でも大活躍だったかんな」

顔良、文醜が祝いの言葉を掛けてきた。

「よっ、おめでとう。兵達も喜んでたぞ、最も頼りになる人がなったって」

公孫賛、お前には部下に酒を振舞わせてた筈だろう。

「旦那、おめでとうっす。こんなに嬉しい事はねえですよ」

「んだんだ」

ヒゲ、デブ。

・・何だ、この居心地の悪さは。

「フッ、左慈、貴方も幸せ者ですね。勿論私が一番喜んでいるのですが」

チッ、浅かったか、復活しやがった。

「アニキ、すんません、目出度え席で申し訳ないんすけど危急の報告っす」

チビがもたらした報は、并州民の大移動。

「そうきましたか。并州の民はそこまで多くありませんが、戦略の大幅な見直しが必要になりますね。左慈、騎馬軍を率いて向かって貰えますか」

俺の騎馬軍なら通常五日の行程も二日でいけるが、攻撃対象が只の民だと?

「俺にそんなつまらん戦をさせる気か!必要なら他の奴に行かせろ、民の移動速度などしれてる」

「いえ、民は放っておいて結構です。標的は護衛をしてるであろう劉備軍です。野戦の戦いに持ち込める好機です、徹底的に叩いてください」

それなら少しは楽しめるか。

「文醜、公孫賛、三馬鹿、出るぞ!」

「「「「「応」」」」」

 

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あとがき

小次郎です、何とか今年中に投稿出来ました。

続きをお待たせしまして申し訳無いです。

今年は去年の半分ほどしか投稿出来ず、本気で転職しようか悩んだ一年でした。

来年中に完結できるかなと考えてますが、まずは次話を早めに書こうと思ってます。

作品へのコメントや励ましのお言葉、本当にありがとうございます。

来年も頑張ります、皆様もどうぞ良いお年を。


 
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