No.816865

Fate / YATAI Night

Blazさん

さぁさぁ第三話です。
今回はちょっと二人の事について密着してみましたよ。

2015-12-03 11:48:58 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:924   閲覧ユーザー数:908

第三話 「日常風景」

 

 

 

 

 

 

響が「屋台エミヤ」でのバイトを始めて数日。

すっかりと板についた彼女は店番の一部を任され客の接待にも積極的に顔を出すようになった。

 

 

「また来てくださいねー」

 

 

「くそっ…時臣ぃ…時臣ぃ…!!」

 

 

「………。」

 

「何も言うなよ」

 

「ええ…」

 

今日もまた一人客を見送った二人だが、相変わらず珍客の多いここでは客が帰る時にのしかかっていた重しが取れるような感覚があるのだなと実感し客の接待に対して苦労を覚えていた。

特に今回はことある毎に「時臣」と言っていた白髪反面抉れた男性が来客したのでその気苦労は店主であるエミヤでも顔に出ていた程。

毎度こんな客が居るのだなと、なぜか自分の行動が可愛く思えた響は男を見送ると客用の長椅子に深く腰を下ろした。

 

「ふぃい…」

 

「ご苦労だったな。まさか、あそこまで妄執にとらわれた客が来るとは…正直私もあんなのには二度と出会いたくもない」

 

「私も流石に二度三度は…」

 

 

客には悪いがと思う二人は、もう二度と彼のような客が来ない事を切に願い、束の間の休息に体を休めていた。

彼らの居る屋台ではランダムな時間差で次の客が来るため、長時間だったり短時間だったりとその差は違ってくる。今回の場合は長い時間であったのでよかったが、さっきの客のような性格の人間も居るには居るため素直に休めるという時間はそうそうありはしない。

なので。彼らにとって休憩時間はとても重宝されるひと時なのだ。

 

 

「今のうちに済ませておけ。次がどうなるか分からんからな」

 

「はーい」

 

苦笑した響にエミヤはいつもの如く賄いのラーメンを差し出す。

今回は付け合わせの焼き鳥の種類が多くつくねや肝、ハラミなどが乗せられており油が汁に付けこまれ染みわたっている。更にそこにネギやもやしなどを乗せれば食欲はより一層強くなる。

賄いの料理ではあるが、これほど食欲をそそるものはそうそうお目にかかれるものではない。始めてこれを出された時の響もそうだ。あまりの豪華さに食べていいのかと最初戸惑ったが、おでん焼き鳥ラーメンの三種があるので遠慮すれば悪影響が出てしまう。

なのである意味この賄いも重要なことではあったのだ。

 

 

「いっただきまーす!」

 

割りばしを割って汁をすする。

ラーメンの一口目はそう決まっている。

というよりも、決められたというのが正しいのだろうか。店主であるエミヤに言われ始めた手順が今ではすっかりと馴染んでしまった。

一口スープを飲み、それから麺を食す。これが彼の言う手順らしい。

 

ただし響の場合二番目から直ぐに麺ではなく肉に手を付けるが。

 

 

「………。」

 

「ん~おいしい♪」

 

肉を頬張り、麺をすすり、スープを飲む。勢いの止まらぬその食事スピードの口径にエミヤは相変わらずの凄まじさに唖然とする。

なにせ大どんぶり一つを丸々平らげるのだ。普段屋台の周りを動き回るだけでそこまでエネルギー消化にはならないはずだが彼女はどうやら燃費が悪いようで、時折腹をすかせた音を鳴らしだり愚痴ったりしている。

 

「…相も変わらず…だな。君は」

 

「だって店長の賄い美味しいんですモンッ!焼き鳥にラーメンという犯罪的なコンビですよ!?」

 

「人によれば脂っこさの塊ともいえるがな…」

 

事実油ののった者同士の合体した結果がこのラーメンであるのは事実だが。

それを好きだというのなら別に彼も変だとは言わない。だが、それを感触する胃袋があるというのは流石にもどうかと思えるし、何より…

 

 

(第一、その油はどこで燃やされているのだ?)

 

少女に聞いてはいけないであろう疑問を脳裏に浮かべ首をかしげる彼は、彼女の普段の行動を思い返す。起きて仕込みの手伝いと皿洗い。その後昨日の洗濯物を洗ったり干したり。

彼女でいえばこのぐらいの時間に客が来はじめる頃合いだ。

自分が料理の用意や調理などをしている間、ビンの出し入れや空いた皿の回収等々…

言えばかなり動いているが、その間に休んだりもしているし、何より全て僅かな屋台の周りで行っている事だ。

一体どうやって動けば昨日の食べたエネルギーは全て消化されるのだろうか。

これについて以前マスターに聞いた時、彼は一瞬だが地獄を片鱗を見たというのは言うまでもないが、それで飽き足らず興味ももっていたのだった。

 

 

 

「ん~♪」

 

「………。」

 

それでも美味しそうに食べる彼女の姿にそんな些細な事をと思った彼は、唐突にだが今まで聞けていなかった事を尋ねる。

何故ここに来たのかなどは暗黙の了解で聞けはしないが、彼女の私生活については聞く機会はいくらでもあった。

特段それが聞いてマズイことではないというのは彼も以前聞いた事で知っていたので今回はその続き。彼女の事についてだ。

 

「…そういえば響。君は、学校へは?」

 

「んむ?」

 

麺をすすりきょとんとした顔で質問に首をかしげる響にエミヤは何気ない顔で話を進め

 

「君が学生であるのは知ったが、どんな学生生活をしていたのか個人的に気になってね。私も今はこうしているが、かつては同じ学舎に居た身だ」

 

とさりげなくだが自分の素性の一部もカミングアウトさせる。しかし響はそこに気付かずに彼の質問である自分の学生生活についてを思い返し、彼に話し始めた。

どうやら学生生活そのものは問題ないらしい。

 

「学校生活ですかぁ…うーん…」

 

箸を置き、一旦考えに耽った響は自分の送った学校生活についてを纏める。

始まりは憧れからで、偶然の出来事から始まった日常。

多くの仲間。そして友。思い返せば僅かな間に様々な事があった。

そんな日々を思った彼女は、その部分を隠せばどうなるのか。改まってみたら口から出た言葉は意外なものだった。

 

 

 

 

「――――――普通、ですかね」

 

 

 

自分でも驚くほど普通だなと感じた日常。

だが、それがもしかしたら当たり前なのかもしれない。

 

 

「どことも変わりはないですよ。ただ誰かに憧れて、夢を探して、友達と騒いで、喧嘩して、また騒いで…そんな繰り返しです」

 

自分からあの戦いを除けば事実そうなる。

ただ一つの非日常があっただけで、それを取り除けば。その戦いが無ければ延々とその日常が続いていただろう。

誰とも変わりはない。どんな人間とも変わりはしない、当たり前と小さな刺激がある日常。

傍から見れば自分たちが日常と思っていることが非日常であるため薄らいでいたが、本当は彼女もそんな当たり前が続くはずだった。

 

「繰り返し…」

 

「そういう店長はどうなんですか?店長、結構女の人にモテてたと私はみていますけど」

 

「…私か」

 

聞いても面白くないぞ、と釘を刺すが彼女の目がそれでもいいと期待と興味の目で自分を見ていたので、適当に言い流すかはぐらかそうとしていたが、変な性格が出てしまい素直に言うしかないと決めていた。

別に軽く誤魔化してもいいのではないかと思いもするが、彼の中にある何かがそれをやめさせてしまい馬鹿正直に話すべきだと言い張ってしまっていたのだ。

 

「…君と差ほど変わりはない…かな」

 

「ええ~…」

 

「事実だ。ただ…君の言う日常と私の日常とは…少し差があるがな」

 

「………。」

 

 

英霊エミヤの生前は激動とも言えるものだった。

地獄に巻き込まれたあの日。それ以前の事は全て消え失せてしまい、そんな事がどうでもいいと思える惨状の中、彼はただ一人生き残った。

燃える炎。鼻を息詰まらせる硝煙と死臭。崩壊した世界。

彼は地獄を生き延び、救ってくれた彼に憧れた。

彼の見せた笑顔、そして願い。

それによって歪められた自分。

 

 

「私の場合、憧れはあった。友と呼べる者が居た。運命と思える時があった。だが…ただ何かが抜け落ちていた。夢を探すことはしなかったんだ」

 

「…夢を探さなかったんですか?」

 

「ああ。憧れが夢と同義だったからな」

 

 

―――――正義の味方

 

響は脳裏にその言葉を思い出す。彼と彼女が初めて出会った日に言ったセリフだ。

正義の味方だ。という言葉に何か強い意志を感じた。

子どもの夢のような事を堂々と語る彼は頭の悪い人間から見ればタダの馬鹿なのかもしれない。

覆面を被った彼が強盗だったりテロリストだったりを倒す。そんな滑稽だと思う映像が彼らの中に思い浮かぶだろう。

 

だが、その意味を知る人物から見れば?

 

その正義の味方という言葉に何かを感じた者から見ればどうだろうか。

 

 

「青臭いものさ。だが、今でもそれは鮮明に覚えていてな。それに他人がそう切り捨てたとしても、私にとっては綺麗な願いだ」

 

「………。」

 

「―――君にはないか?

誰かが安っぽいと捨てたとしても、自分にとっては価値のある願いは」

 

 

その問いに、響の心は正直だった。彼女の頭が考えるよりも前に自分の本心が既に答えを見つけ出していたのだ。

自分の願いについて言葉を詰まらせたが、それは思いのほか簡単に見つかった事に対しての驚きでもあった。

そして無意識の内に自分の口は開き、言葉にしていた。

 

 

「―――似たようなものです。私も。青臭い正義というか…理想論っていうか…」

 

「―――。」

 

「前に、今は友達の子に言われたんです。「それは偽善だ」って」

 

自分だけが良いとした善意。

意思のない、意味も持たない願い。

自分の意志が偽善であると言われた時、彼女はひどく絶望した。

今まで掲げて来た自分の意志が偽善であると嘘であると言われてしまったからだ。

 

「まぁ時々言われはしたんですけど…ああもはっきりと言われると心が折れたっていうか…間違っているのかなって」

 

「…それは」

 

「今でも時々思うんです。自分のそれはただの自己満足なんじゃないかって。ただの押しつけ願望なんじゃないかって。そう思うと…なんだか…」

 

必死にもがき、決死で覚悟した想いを容易く打ち砕かれた時。

自分が硬く決めた意思がこうもアッサリと裏切られた瞬間。

それはエミヤも経験していた。

自分が最後の最後まで信じていた理想に裏切られた時。

同じだったのだ。

彼女は偽善と言われても善意を掲げ、そして裏切られ。

彼は正義の味方を信じ、そして切り捨てられた。

 

ただ善意のために、ただ成し遂げたいという思いのために頑張ったのに。

何故人はこうも易々とそれを壊すのだろう。

裏切られた彼は、全てを失い残されたのは八つ当たりに近い希望だけだった。

 

 

 

 

「――――だがな」

 

「――――ッ」

 

「偽善も、人によっては善意から始まる。それは他者から見た善意の姿だ。

自分から見れば善意に見えてしまうだけで、な」

 

彼は言う

善意と偽善、張るならどちらが簡単だと思う。

 

簡単な問いだ。偽善の方がただ言葉を並べるだけで簡単なやり方だ。

 

 

しかし、彼の答えは違った。

 

 

「善意と偽善で難しいのは偽善だ」

 

「…え?」

 

「善意は心のまま、思うがままに振る舞えばいい。自分が心から願う事、思う事だからな。

 

 

―――だが偽善はどうだ?

善意を盾にして悪意を持ったり、他の善意を持っているのに仕方なくその善意を張っていたりもする。人によってはその張った善意が悪意になり、逆に隠していた善意が悪意になる。

結局、善意のほうが簡単なんだ。思うがままに言えばそれが自分にとって善になってしまうのだからな」

 

「けど…善意は正しいから善意であって、偽善は間違った善意で」

 

「誰がそう決めた?」

 

―――違う。偽善というのは自分で認識して初めて偽善と呼ばれる。誰かがそう思って初めてその形となる。

自分が善意と思い相手が偽善ととれば食い違いが生じ、互いに別々の認識としてその『善』を見る。

自分から見れば『善意』

他者から見れば『偽善』

 

「いくら誰かがその意思を『偽善』と認識しても自分にとっては、あるいは第三者は『善意』ととるかもしれない。それはその人間が決めた定義であって共通定義ではない」

 

「―――――ッ!」

 

「わかるだろ?善意を張るよりも、自分が傷つけられるのを覚悟してでも張る偽善の方がどれだけ難しいものか」

 

自分がそうであったように。あの人がそうであったように。

偽善というのがどれだけ難しいものか。そして、それを通すのがどれだけ険しい道なのか。

 

「君はどっちだ。善意か、偽善か」

 

改めて彼は問う。簡単な意思か。傷ついた意志か。

その問いを投げられた時。響の小さく空いていた口は笑みに変わった。

 

 

「私は…多分後者だと思います」

 

「理由は?」

 

「偽善って確かに嘘の善意ですけど…ちゃんとあるじゃないですか『善』って文字が」

 

 

誰かが偽善だと切り捨てたとしても、自分にとってその願いは大切なものだ。

だから捨てない、だから屈しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この願いは――――――決して、間違いなんかじゃない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フッ」

 

「…店長?」

 

「いや何。お互い似た者同士だなと…な」

 

「え?ええ…??店長と…一緒???」

 

 

 

「さて。そろそろ次の客が来るかもしれん。早いうちにそれを食べきってしまえ」

 

「………なんか店長と一緒なのは嫌だなぁ…」

 

「…何を想像した」

 

 

 

 

「いえ。なんか電話ボックスで着替える覆面の…」

 

「いつの時代だ」

 

 

 

これが後にある侍少女から借りたもので知ったと聞いた彼は、彼女の友人関係に不安を感じたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「店長。次はデコです」

 

「ああ。そうだな」

 

 

「待てぃ!!!私の名はケイネs――――」

 

 


 
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