No.809094

九番目の熾天使・外伝 ~短編㉒~

竜神丸さん

彼女が彼に惚れたワケ その5

2015-10-20 14:58:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1386   閲覧ユーザー数:777

殺し屋集団、大蛇(オロチ)

 

「牙」のモディ・ブレッセンが一人の嘱託魔導師に敗北した事など知りもしないであろう、他の構成員達がいるこの組織のアジトでは、何が行われているかと言うと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぁ、あ、ぁ…ぁ、やん…ん…ッ…!」

 

「ぐぉ、ぉ……締まるねぇ。やはり幼い子供は良い、最高だ」

 

「んぁ、ぁ…痛…ッ…ぃあ……ゃ…!」

 

その2階の個室にて、髭を生やした金髪の男性がベッドの上で、一人の少女を押し倒したまま組み伏せていた。その少女はまだ十歳を迎えたばかりで心身共に幼く、何故自分がこうして組み伏せられて美味しく頂かれているのかも分からず、男性と少女はお互いに全裸で繋がったまま快感を味わい続けていた。

 

「光岡様」

 

「ん?」

 

そんな中、男性―――光岡優雅(みつおかゆうが)の部下と思われるサングラスの男性が音も無く姿を現した。光岡は特に驚くような素振りは見せず、組み伏せている少女に嬌声を鳴かせ続ける。

 

「何だ? こっちは今、この子を愛でるので忙しいんだが」

 

「先程、モディ・ブレッセンが死亡したとの報告が入りました」

 

「ほぉ、あの馬鹿が……誰にやられた?」

 

「名前は榊一哉。時空管理局の嘱託魔導師で、まだ十代の少年です」

 

「! …ほほぉ、それは良いなぁ……ぬ、ぅ!?」

 

「ぁあ、ん……あ、ぁ、ぁ、ぁ、あ、や、ぁ…!」

 

その一言を聞いた瞬間、光岡はそれだけでよほど興奮したのか、少女を抱き寄せたまま腰を振るのをやめた。少女が気持ち良さそうな表情で震えている事から、恐らく少女と繋がったまま達したのだろう。光岡は恍惚な表情を浮かべている少女に接吻してからようやく少女と離れる。

 

「…で、居場所は分かっているのか?」

 

「はい。既に座標も特定されています」

 

「それは実に良い……あぁ、それからお前」

 

「はい、何でし―――」

 

直後、サングラスの男性の眉間にナイフが深々と突き刺さった。サングラスの男性は一瞬で絶命し、光岡はスーツを着終えてから告げる。

 

「俺の事は“頭”と呼べ……と言った筈だぞ」

 

光岡はそう言って、身支度を済ませてから部屋を退室するのだった。ベッドに倒れたまま、ピクピクしている少女を放置したまま…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、榊家では…

 

 

 

 

 

「モディ・ブレッセンの誘拐事件についての書類を徹夜で済ませて、ちょっとばかし一哉とアリスの様子を見てみようかなぁ~なんて思ってやって来てみれば……どしたよ一哉?」

 

ロランの目の前には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺に聞かないでくれ、ロラン」

 

「~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで猫のように懐いているアリスと、そんなアリスに抱きつかれて窮屈そうにしている一哉の姿があった。これにはロランも苦笑いしか出来ない。同じく榊家にやって来ていたのか、近くで二人の様子を微笑ましい表情で見ていたデイビットがロランの存在に気付いた。

 

「おぉ、ロラン君! 見てくれ、あのアリスがこんなにも一哉君に懐いて…!」

 

「ペットみたいな言い方になってますよデイビットさん……それで、何故にこんな事に?」

 

「あぁ、話すと長くなるんだが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モディの誘拐事件から翌日、アリスは無事にトーレアリア家の屋敷に戻って来る事が出来た。彼女を屋敷に送り届けたのは一哉だが、彼はアリスを屋敷に送った後、モディとの戦闘で疲れたのか、自宅に戻った途端にすぐさま深い眠りについてしまった。

 

あれだけ酷い事を言った筈なのに、何故そこまでして自分を助けたのだろうか?

 

そんな疑問にかられたアリスはその後、デイビットと知理から一哉の本当の気持ちを知ったのだ。

 

『一哉君の兄である英介君が死んだ時、お前は酷く悲しんでいただろう? それを見てからというもの、一哉君は君が少しでも早く元気になれるよう、わざと君に嫌われるような態度を取り続けていたんだ。不器用ではあるが、彼なりに君を励まそうとしてくれていたのだろう』

 

そんな真実を聞かされ、アリスは愕然とした。一哉が今まで喧嘩腰でいたのは、自分の為に…?

 

そして翌日、一哉の下を訪れたアリスは…

 

『一哉、大好き…♪』

 

『…ハイ?』

 

驚きのスピードで、一哉に惚れてしまったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――要するにアンタの所為かい!!」

 

「テヘペロ☆」

 

「テヘペロ……じゃ、ねぇよっ!! 本当に口が軽いなアンタって人は!? 俺だった一哉に黙ってて欲しいって言われたから黙ってたのに!!」

 

「何を言う!? 私と知恵は娘の為なら何だってするぞ!! たとえそれが火の中、水の中、地獄の中に飛び込む事になろうともな!!」

 

「あぁもうこの親バカめぇぇぇぇぇぇ…!!」

 

「…そんな話はどうでも良いからロラン、見てないで早く助けてくれ」

 

「一哉ぁ…♪」

 

「ちょ、そんなに引っ付くな、そんな頬をスリスリして来るな暑苦しい!!」

 

「あらあらまぁまぁ♪」

 

ロランとデイビットが言い合う中、アリスに頬をスリスリされて恥ずかしそうに叫ぶ一哉、そんな二人の様子を微笑ましい表情で見ている知理。今日も今日で、トーレアリア家はありとあらゆる意味で騒がしいのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…いつもあぁなのか、あの少年の身の回りは」

 

「ははは……そうみたいですね」

 

そんなトーレアリア家の様子を遠い建物の屋上から見ていたのは、苺クリーム入りのクレープを食べているカンナ、そして彼女の付き添いであるランとボルス。今回、モディと戦えずに終わった為か、現在のカンナはかなり退屈そうな表情をしていた。

 

「全く、私は今回やる事が何も無かったな。出来る事なら、捕らえたモディを私がこの手で拷問にかけてやりたかったところだが」

 

「仕方ないですね。彼、榊一哉君がモディを倒してしまいましたから……ただ、正当防衛とはいえ、モディが死んだ事でロランさんの書類仕事は大変だったみたいですが」

 

「大変だっただろうねロラン君も。また今度、僕の方から差し入れ持って行こうかな……あれ? そういえば、ウェイブ君とクロメちゃんは何処に…?」

 

「あぁ、あの二人なら……何やら決めた事があるみたいだぞ」

 

「「?」」

 

カンナが見下ろす先を、ランとボルスも見下ろす。その先には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、弟子入りしたいだと…?」

 

「はい! お願いしますミロシュさん!」

 

「私も、お願いします…!」

 

ウェイブとクロメに、弟子入りを志願されているミロシュの姿があった。二人が綺麗な姿勢で頭を下げて頼んで来ているのを見て、ミロシュは困惑の表情を浮かべている。

 

「君達は管理局に所属してる身だろう? それが何故、一端の傭兵でしかない私に弟子入りなんか…」

 

「俺はまだまだ未熟です! あの時ミロシュさんに助けて貰わなかったら、俺は今頃、モディのロボットに殺されて死んでました…!」

 

「…あの時のか」

 

それを聞いてミロシュが思い浮かべたのは、モディの人形として操られたASTACOとの戦闘。確かにあの時、ウェイブは一度ASTACOに捕まり、危うく殺されてしまうところだった。ミロシュとクロメの介入が無ければ、そのまま殺されてしまっていたかも知れない。

 

「俺とクロメの二人がかりでやっとだったモディのロボットを、ミロシュさんは刀一本で簡単に破壊してみせた。だから…」

 

「それで、私に弟子入りしたいと? それなら私じゃなくて、カンナ隊長や他のイェーガーズの者達に鍛えて貰えば良いだろうに…」

 

「ミロシュさんだからこそ、お願いしたいんです」

 

「…何?」

 

ミロシュが更に困惑する中、ウェイブはその場で膝を突いてから頭を下げ、クロメもそれに続く。

 

「カンナ隊長からも今まで何度か言われたんです……『強さは既に完成されていても、メンタルの弱さが足を引っ張ってしまっている』って……俺、イェーガーズに入ってからまだ新入りで、こういった戦いは経験が少ないから……カンナ隊長達以外で、戦場で戦い抜いて来た人にも色々教わりたいんです…!」

 

「私も…」

 

ウェイブに続き、クロメも頭を下げたまま口を開く。

 

「今回はミロシュさんが一緒だったけど、もし私一人だったらウェイブを助けられなかった。大切な人を、目の前で失うところだった…! 私も、ウェイブと一緒に強くなりたい……ウェイブの足を引っ張るような事になるのだけは、絶対に嫌だから…!」

 

「だから……ミロシュさん、お願いします! 俺達を弟子にして下さい!」

 

「お願いします!」

 

「……」

 

目の前で頭を下げている二人の若者。彼等の決意が本物である事は、ミロシュでもすぐに理解は出来た。彼は自身の髪を何回か掻いた後、数秒ほど経過してから口を開く。

 

「…カンナ隊長め、良い部下を連れているじゃないか」

 

ミロシュはメモ帳とペンを取り出し、一枚のメモに何かを書き記していく。

 

「私が所属している傭兵団は元々、報酬と引き換えに管理局から依頼された任務を引き受ける、そういう契約関係を結んでいる。その任務も、上から身勝手な要求をされる事もあれば、引き受けた任務の内容があまりにも理不尽過ぎるような事も過去に何度かあってな……正直なところ、あのカンナ隊長も含めて、管理局に対して私はあまり良い感情を抱いてはいないよ」

 

「ッ……そうですか…」

 

「…ただ、君達のような純粋な思いを持った局員がいる事も、また事実」

 

「? …うわっとと!」

 

何かを書き終えたミロシュは一枚のメモを切り取り、ウェイブの方へと放り投げる。ウェイブが慌てて受け取ったそのメモには、通信用デバイスの番号が記されていた。

 

「ミロシュさん、これって…」

 

「私が所有する、通信用デバイスの連絡先だ。傭兵団の方には、私の方から話を通しておこう」

 

「! じゃあ…」

 

「…いつでも来ると良い。君達なら、私は快く歓迎しよう」

 

「「…ありがとうございます!!」」

 

笑顔を浮かべ、改めて頭を下げてから礼を告げるウェイブとクロメ。そんな二人を見て、ミロシュも小さく笑みを浮かべながらその場を立ち去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ミロシュの奴め、私の部下を奪うとはやってくれるじゃないか」

 

「いや、奪った訳ではないと思いますが……あの二人も、何かしら目標は出来たみたいですね」

 

ミロシュ達のやり取りを眺めていたカンナは、不貞腐れたかのようにクレープを口に頬張り、ランは笑顔でウェイブとクロメの様子を眺めていた。

 

「ミロシュさんになら、任せても大丈夫だと思いますよ。カンナ隊長だって、ミロシュさんの事を信頼してるから今回みたいに雑な扱いをしたんですよね?」

 

「…さぁ、何の話だかな」

 

(あれ、ボルスさん置いてけぼりにされた事を気にしてる…?)

 

クレープを食べ終えたカンナは口の周りのクリームを拭い、改めて凛とした表情でランとボルスに振り返る。

 

「…今回の一件で、この海鳴市では二十人もの子供が犠牲になった。そしてこの事件の詳細が、この世界で明かされる事も恐らく無いだろう」

 

「犯人のモディ・ブレッセンが死亡した他、地球はあくまで管理外世界……管理局の存在は、なるべく隠し通さなければなりませんしね」

 

「一刻も早く、残った大蛇(オロチ)の構成員達を捕まえなければなりません。そうでなくちゃ、これまで犠牲になった子供達が浮かばれません」

 

「…その大蛇(オロチ)の事なんだが」

 

ここで、カンナは二人にある事を告げる。その内容は…

 

「ッ……何ですって…!?」

 

「そんな、どうして…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンナが告げた内容は、後にロランにも伝わる事になった。それは…

 

 

 

 

 

 

 

「事件の詳細が全て、隠蔽されてる…!?」

 

とあるアパート。

 

その一室でミッドチルダの新聞を読み、ロランは思わず頭を抱えたくなった。今回モディが引き起こした誘拐事件の詳細が全て、ミッドチルダでは丸ごと隠蔽されてしまっていたのだ。ロランが徹夜で完成させた、事件の詳細を書き記した書類を本部に送り届けた後なのにも関わらずだ。その事でロランは、すぐに管理局の本局へと通信を繋げる。

 

「どういう事だ、何故事件の詳細が伏せられている!?」

 

『全ては上層部の命令で決まった事なのだよ、ロラン執務官。全ては管理局の威信の為だ』

 

「な……ちょっと待ってくれよ!! 何でそれだけの為に全て隠す必要がある!? 理由を教えてくれなきゃ、こっちが納得が出来ない!!」

 

『ほぉ、上層部の命令を疑うつもりか? 何にせよ、この決定が覆る事は永遠に無い。分かったなら、もう切らせて貰うぞ』

 

「おい待て、まだ話は終わってない!!」

 

『口を慎みたまえ。君はいつから、そんな態度を取れるほど偉い立場になったのかね?』

 

「ッ……ふざけるなぁっ!!!」

 

通信を切られ、ロランは怒りで拳を強く机に叩きつける。

 

(どうしてだ、どうしてこんな事になっちまうんだ……こんな事件の詳細を隠して何になる!? 管理局は情報を知られる事の一体何を恐れてる!? 知られて困るような情報なんて何も……いや、待てよ)

 

ここでロランは、ある事を思い出した。それは、彼が徹夜で完成させた書類にも書き記した事だ。

 

(モディが使用していたAMF……あれはAAAランクの高位防御魔法だ。そんなミッドチルダでもあまり使用されていない高度な技術を、どうして犯罪者が所有している? いや、モディだけじゃない。今まで一哉と一緒に捕まえてきた次元犯罪者や、モディ以外の大蛇(オロチ)の構成員も似たような奴ばかりだった…)

 

そこで、ロランは一つの可能性に辿り着いた。

 

(…その技術の出所に、管理局が関係している?)

 

「……」

 

とにかく、一人で考え続けていても始まらない。ロランは新聞を放り捨ててから立ち上がり、壁のハンガーにかけていた上着を手に取る。

 

「…調べる必要がありそうだな。今回の事件と過去の事件、その裏に隠された秘密を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ロランさんは?」

 

「一度ミッドチルダに戻ったんだと。しばらくは休めって言われたよ」

 

「なら一緒に買い物でもしましょう。せっかくだから、一哉に私の着る服を選んで欲しいわ」

 

「いや、俺は行くとはまだ言ってな……おい、離せコラ!!」

 

あれから、一哉はアリスと共に過ごす機会が増えるようになった。一哉は今もなおアリスを突っぱねようとしているが、アリスは今までと違い、これでもかと言うくらいに一哉に心を開き、彼の前ではすっかり乙女の顔を見せるようになった。

 

(全く……頼むロラン、早く何か任務を引き受けて戻って来てくれ…)

 

今度は違う理由でストレスが溜まりそうになりそうである。アリスに無理やり手を引っ張られながら、一哉は内心でそう願わざるを得ないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その願いが、二度と叶わなくなる事も知らないまま…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ブルークロムウェルで起きた暴動……ボルレイ事件……ベルデューラにおけるサルジュ捕縛任務…)

 

時空管理局本局、地下の第3書庫。その中でロランは一人、ひたすら書物を取り出しては過去の事件の詳細を探し続けていた。

 

(反管理局組織“管理なき世界”の殲滅任務……そしてモディが引き起こしたムースタウン誘拐事件、そして今回の海鳴市誘拐事件……敵味方問わずAMFが使用された事件が、最近のでもこれだけ見つかるとはな。一見、どの事件も特に繋がりは見えて来ないが……もっと調べてみる必要があるか)

 

しかし書物が大量に置かれているこの書庫で、特定の事件の詳細を載せた資料を探すとなれば一苦労だ。どうしたものかと考えたロランは近くに置いてある書物を手に取ろうとして、机の上に置かれていた花瓶をうっかり倒してしまう。

 

「うわヤッベ……って、ん?」

 

花瓶が置かれていた箇所……そこに、小さな窪みが存在していた。窪みの中には一つの赤いボタンがあり、ロランは恐る恐るそれを指で押し、その直後に近くの棚が大きく移動し始めた。

 

「!? これは…」

 

棚が移動した事で露わになった、地下への隠し階段。見るからに怪しいこの階段に、ロランは内心では危険だと思いつつも、その足は無意識の内に隠し階段へと動いてしまっていた。

 

(この先に何が…)

 

真っ暗な階段を少しずつ降りていき、そしてロランは辿り着いた。いくつもの巨大カプセル、そこに保存されている機械兵士、大量に並べられた手術台などが存在する、広大な部屋に。

 

「ッ……こんな場所があったのか…」

 

機械兵士が保存されている巨大カプセルに、ロランは手でゆっくり触れる。保存されたままピクリとも動かない機械兵士だが、部屋が暗い事もある所為か、今にも動き出しそうな雰囲気を醸し出している。

 

「!」

 

近くの手術台の上に置かれている、ボロボロの手日記。ロランはそれを拾い、開いて読み始める。

 

 

 

 

 

 

【十月三日 今日も一人 被験者が送ら て来た 世間ではか り有名な犯罪者ら いが、そんな情報は の場では重要ではない 重要な は、被 者がこの実験に耐 られるかどうかだ 今回もまた、いつも通り 験を始める事 する】

 

 

 

 

 

 

(ここで行われた実験……その詳細が、これに記されている…?)

 

文字がところどころ消えてしまっているが、読めないほどでもない。ロランは更に読み進めていく。

 

 

 

 

 

 

【十月四日 被験者Fはリ カーコアを持 ない普 の人間だ 失敗 れば被験者Fは死 する ろうが、成 すれ 我々の計画は 調に進 事だろう まずはどれ け肉体が頑丈 のかを正 に測る為の実験、Aプランか 始めよう 思う】

 

 

 

 

 

 

【十月六日日 被験 FはAプランを 調に突破した だが問題 まだ山積 だ Aプランを突 した被験者は 以外に 存在してい のだ Bプランに突入 てからは、慎重に実 を行 必要 あるだろ 】

 

 

 

 

 

 

【十月十日  験者Fは見事、Bプランを 破してみ た これ らば期待 出来るかも知 ない こ で例の物理学者が開発 たという、あの人造ファ ト を体内に埋 込ませ リン ーコアの代 りに出 れば、この実 は成功と見 されるだろ 】

 

 

 

 

 

 

【十月十九日 実験 成功だ 人造  ン ムと無事 肉体が融 し、被験 Fは人造魔 師として完成 れた こ 技術を人工 ンカーコア 上手く応用 れば、人 魔導師 大量に生み す事も夢 はな  まずはこ 結果を最高評  に報告し け ば】

 

 

 

 

 

 

(!? 最高評……最高評議会か!? じゃあ、まさかここは…)

 

血痕が多く残った手術台、床にバラバラに散らばっている手術道具、そしてこの手日記。ここで一体何が行われていたのか、それが想像出来ないようなロランではなかった。

 

(人造何とかの技術を人工リンカーコアに応用し、それによって人造魔導師を量産する……管理局の魔導師は人手不足じゃなかったのか…ッ!?)

 

更に読み進めていった結果、ロランは驚愕した。

 

「これは…!!」

 

 

 

 

 

 

【十月三十一日 オロチの連中 AMF 貸し与 て正解だ た 奴等に 本当 感謝し いる お げで我 は自力で人 魔導師 大量に開発 る事が出来 ように った この技術 えあれ 全世界 我々管理局 物 なった 同然だ】

 

 

 

 

 

 

(オロチ……大蛇(オロチ)の連中だと!? じゃあ、今回のモディの一件だけでなく、今まで過去に起きた事件にも大蛇(オロチ)が関わって…)

 

それ以外にも、ロランは置かれてあった資料を次々と読み漁る。大蛇(オロチ)と管理局が裏で繋がっているという事実、管理局が今まで揉み消して来た犯罪件数、現在進行形で行われている違法研究など、管理局の犯して来た悪事が次々と判明していく。

 

(そんな……じゃあ、この管理局は―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見     た     な     ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!?」

 

その時だった。殺気を感じ取ったロランが横に動くと同時に、ロランの立っていた場所に二、三本のナイフが突き刺さる。ロランが振り返った先には、黒装束に身を包み、口元を黒マスクで覆った男が立ち塞がっていた。

 

「ロラン・アルティミット執務官……秘密を知った者は、生かしては帰さない」

 

「ッ…嗅ぎつけるのがお早い事で!!」

 

ロランは即座に右手から魔力弾を発射するも、黒装束の男は身を屈めるだけでそれを回避し、瞬時にロランの目の前まで接近。一瞬で近付かれた事にギョッとするロランを、黒装束の男は容赦なくナイフで斬りつける。

 

「ぐぁ、く……このぉっ!!!」

 

「む…」

 

ロランは足元に魔力弾を撃ち込み、その際に発生した土煙で黒装束の男を怯ませる。その隙にロランは黒装束の男から距離を取り、両手に魔力を収集する。

 

(ここは逃げるが勝ちだな、追いつかれそうな時だけ迎撃するか…!!)

 

そして土煙が晴れ、その中から黒装束の男が飛び出して来た。階段まで戻った後、ロランは黒装束の男を足止めするべく一瞬だけ振り返る。

 

(そこだ―――)

 

 

 

 

 

 

直後、ロランの身体がピタリと止まった。

 

 

 

 

 

 

(な…!?)

 

 

 

 

 

 

否、それ以上動かせなかった。

 

 

 

 

 

 

何故なら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロランさん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この場にいない筈のアリスが、目の前で笑顔を浮かべて立っていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その所為で、彼は対応が遅れてしまった。

 

「油断したな」

 

「!? しまっ―――」

 

 

 

 

 

 

-ザシュウッ!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら一哉、早く来なさいよ! アンタの服は私が選んであげるから!」

 

「いらんお世話だ、お前は俺の母親かっての」

 

「あらあら、お熱いわねぇ♪」

 

海鳴市。そこではアリスと知理の買い物に付き合わされてグッタリしている一哉の姿があった。アリスがウキウキ気分でスキップし、知理が楽しそうな表情で屋敷に帰ろうとしている中、一哉は二人に聞こえないように小さく溜め息をつく。

 

(もうめんどくさい、帰ったら迷わず寝てやる…)

 

-Prrrr!-

 

「…!」

 

その時、一哉の所有していた小型通信用デバイスが鳴り始めた。一哉はすぐにそれを起動し、通信を繋げる。

 

「こちら一哉。ロランか?」

 

≪―――ッ……聞こ…る、か……一哉…≫

 

「…!?」

 

通信から聞こえて来るロランの声。しかし、何処か様子がおかしかった。

 

「おい、どうしたロラン?」

 

≪すま、ない…………少し…しく、じった…≫

 

「!!」

 

その一言で、一哉はすぐに察した。ロランの命が危ないと。

 

「知理さん、アリスを連れて先に戻ってて下さい!!」

 

「え、ちょ……一哉!?」

 

「一哉君!?」

 

アリスと知理を先に屋敷に帰らせた後、一哉は誰もいない路地裏にまで移動し通信を繋げたままの通信用デバイスを取り出す。

 

「ロラン、どうした!! 一体何があった!?」

 

≪げほ……ッ…一哉…………俺、とんでもねぇ事を…知っちまった…!≫

 

「な……どういう事だ…!?」

 

≪今、そっちに、データを…送った……まずは、見てくれ…!≫

 

「!?」

 

一哉の通信用デバイスからディスプレイが映し出される。そこに表示されたのは、ロランが管理局の隠し部屋で手に入れた、管理局と大蛇(オロチ)が裏で繋がっている事についての情報だった。

 

「おい……これ、まさか大蛇(オロチ)と管理局が…」

 

≪色々、あって…けほ………それしか、手に入らなかったが……管理局が犯して来た犯罪は、まだまだこんなもんじゃない……管理局の上層部は、全て黒だ! はぁ、はぁ……んで、それを見ちまった…所為で……俺も今、殺されかけてる真っ最中さ…!≫

 

「!? 何処にいるんだロラン!! 待ってろ、すぐに向か―――」

 

≪来るなっ!!!≫

 

「ッ!?」

 

通信用デバイスから響くロランの怒鳴り声に、一哉は思わずビクッと反応する。

 

≪ぜぇ、ぜぇ……良いか、一哉……管理局から、離れるんだ……お前は、ミッドに来ちゃいけない……管理局に挑んだ、ところで……殺されるだけ、だ…!≫

 

「何を言ってるんだ!! それじゃアンタはどうなる!?」

 

≪良いから聞け…! お前は、なるべく…管理局にバレないよう、に……身を隠せ…! 奴等は、俺の方で……引きつけておく、からよ…≫

 

「おい待て、何勝手に決めてるんだ!!」

 

≪一哉……お前や、アリスちゃんと一緒に過ごせて……俺は―――ブツンッ≫

 

「おい、ロラン……ロラン、返事をしろ!! ロランッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッドチルダ、とある森…

 

 

 

 

 

 

「何処へ逃げても無駄だ。特殊な結界を張った以上、誰も助けには来ない」

 

「ッ……はぁ、はぁ…!!」

 

既にロランは瀕死の重傷だった。斬り落とされて失った右腕、ナイフで潰れた左目、大量出血している腹部、口からは盛大に吐血する始末だ。そんなロランの持っていた通信用デバイスを破壊した黒装束の男は、今も立ち上がろうとしているロランを蹴り倒し、倒れた彼の胸部を踏みつける。

 

「死ね」

 

黒装束の男は一本の刀を取り出し、鞘から抜いた刀身をギラリと光らせる。そんな黒装束の男の行動を、ロランは残っている右目で薄らとだが見据えていた。

 

(ここで、終わりか…………引き際を見誤った、俺の自業自得か…)

 

黒装束の男が、刀の刃先をロランの首元に向ける。

 

(すまない、一哉……すまない、アリスちゃん……俺、もうお前達の保護者でいられなくなっちまった…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロラン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロランさん!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(一哉……アリスちゃん……二人と一緒に過ごせて、俺は…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せ、だったぜ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、血飛沫は高く舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後。

 

ミッドチルダに転移した一哉は、必死にロランを探し続けた。街中にはいない、となると街の外かと思い、彼は街の外れにある森をとにかく探し続けた。そして彼はやっと見つけた。

 

 

 

 

 

 

「……ロラ、ン…?」

 

 

 

 

 

 

ロランの、無惨に変わり果てた姿を。

 

「嘘、だろ…」

 

ロランの死体の前で、一哉は崩れ落ちた。彼はロランの胸部に刺さっているナイフを抜き取り、ロランを必死に揺さぶる。

 

「なぁ、何してんだよロラン…? 早く起きろよ……こんな所で寝て、風邪でも引きたいのか…?」

 

自分でも無駄な行為だとは分かっていた。それでも、今の一哉にはそれしか出来なかった。そうする事で、目の前の現実から逃げ出したかった。

 

「おい君、そこで何をしてる!」

 

そこへ、ミッドチルダのパトロール隊と思われる魔導師達が複数やって来た……が、タイミングが悪過ぎた。

 

「な……ひ、人殺しだぁ!?」

 

「…ッ!!」

 

「おい、待て貴様!!」

 

魔導師達に見られ、一哉はすぐにその場から逃走。魔導師達は彼を殺人犯だと誤解し、彼を追いかける。

 

「逃げるな、殺人の容疑で逮捕する!!」

 

「ッ……飛べ、地走り!!」

 

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」

 

斬撃を飛ばし、魔導師達が怯んだ隙に一哉はその場から転移して逃亡。その日、一哉の顔を覚えた魔導師達が彼の身元が嘱託魔導師の榊一哉である事を調べ、あっという間に一哉は指名手配犯にされてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…」

 

あれから天気が悪くなったのか、海鳴市は現在、地上に大量の雨が降り注いでいた。そんな雨の中、一哉は返り血で汚れた服のまま建物の路地裏まで移動し、そこで膝を突く。

 

「…ロラン……俺は……俺、は……ッ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

 

 

 

 

この時、一哉は珍しく涙を流した。

 

 

 

 

その涙も雨で流され、彼の叫びは雷の音で掻き消される。

 

 

 

 

だからこそ、今の彼には都合が良かった。

 

 

 

 

普段、滅多に人前で弱さを見せる事が無い一哉。

 

 

 

 

そんな彼が、今だけはその弱さを曝け出していた。

 

 

 

 

弱さを曝け出し、ただひたすら子供のように泣き続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、いよいよ管理局に追われる身となった彼は決断した。

 

 

 

 

 

「…すまない、アリス」

 

 

 

 

 

『海外に逃げてくれ』……その言葉だけを書き記した手紙をトーレアリア家の屋敷に残し、一哉は一人、海鳴市からその姿を消す。

 

アリス達が彼の失踪を知るのにかかった時間は、僅か一日程度だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めましてだな」

 

海鳴市を旅立ち、成長した一哉は旅先で出会った青年―――キリヤ・タカナシと共に、ある人物に出会った。その人物との出会いが、一哉を更なる戦いへと導いていく。

 

 

 

 

 

 

「私の名はクライシス……OTAKU旅団設立の為、君達にも協力して欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、年月は経ち…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様が……貴様がロランを…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

榊一哉―――否、二百式は、因縁の人物と決着をつける事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 


 
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