No.807072

九番目の熾天使・外伝 ~短編EX~

竜神丸さん

指揮者と歌姫

2015-10-09 13:57:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3426   閲覧ユーザー数:1211

生い茂った、深い森。

 

動物達が平穏に過ごしているこの森にて…

 

「はぁ、はぁ…ッ…!!」

 

スリットの入った白いドレスを身に纏った水色髪の少女が、今にも息が切れそうな状態で必死に走っていた。そんな無理をしてまで逃げようとする少女の後方からは…

 

「追え、絶対に逃がすな!!」

 

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」

 

時空管理局の魔導師達が、一斉に少女を追いかけて来ていた。その内、一人の男性魔導師が上空から弓型デバイスを構え、逃げている少女に狙いを定める。

 

「仕留めてやる、化け物(・・・)め…!!」

 

「ッ!? あぐぅ…!!」

 

放たれた矢は少女の右足を掠り、その痛みで少女はその場に倒れ込んでしまう。その隙に魔導師達があっという間に少女の周囲を取り囲んで逃げ場をなくし、魔導師達を率いる緑髪の女性魔導師―――パノス・ディムラー三等陸佐が槍型デバイス“パルチザン”の刃先を少女の首に向ける。

 

「終わりだ、小娘。このまま本局まで連行させて貰う」

 

「く…!!」

 

少女はパノスを強く睨みつけるが、そんな彼女の身体にチェーンバインドを巻きつける。パノスは部下の魔導師達に指で合図し、魔導師達は頷いて少女を連行しようとする。

 

その時…

 

「「「「「グルァァァァァァァァァァァァッ!!!」」」」」

 

「!? 何…!!」

 

ネズミの姿をしたステンドグラス模様の怪物―――ラットファンガイアが、何処からか大群を率いて出現。魔導師達に向かって一斉に襲い掛かって来た。

 

「チィ、またあの鎧の男か……ロイミュード部隊、応戦しろ!!」

 

「「「ハッ!!」」」

 

パノスの指示で、数人の魔導師が前に出る。すると魔導師達の身体が一斉に変異していき、コブラ型、スパイダー型、バット型の下級ロイミュードに姿を変えてラットファンガイア達と応戦する。

 

~♪~~♪~♪♪~…

 

「ッ…伏せろ!!」

 

パノスと他の魔導師達がその場に伏せると同時に、巨大な斬撃が飛来し、周囲の木々を切断。その直後に一人の戦士が跳躍して姿を現し、少女の隣に着地する。

 

「凱歌!」

 

「姫様、ご無事で…!!」

 

髑髏のような形状の頭部、黒い複眼、骨のような意匠のある胸部と両肩、黒いローブの付いた下半身、右足に巻きついている鎖、ボディの所々に露出している機械パーツ、そしてベルトにぶら下がっているコウモリ型モンスター“ガイキバット”など多くの特徴を持った仮面の戦士―――“仮面ライダー凱歌(ガイカ)”。凱歌は少女を縛りつけているチェーンバインドを引き千切った後、少女を守るようにパノスと対峙する。

 

「面倒な事をしてくれる……化け物の分際で!!」

 

「ッ…!!」

 

パノスの構えたパルチザンが槍型から鞭型に変化し、凱歌に向かって容赦なく襲い掛かる。凱歌がパルチザンの攻撃を足で蹴り弾く中、指揮棒とサーベルを組み合わせた形状の直剣“グロリアタクト”が凱歌の右手に出現。凱歌はグロリアタクトでパルチザンを弾きながらパノスに接近していく。

 

「パノス・ディムラー……貴様だけでも討ち取る!!」

 

「フン!!」

 

凱歌はグロリアタクトをパノスに向かって突き立てるも、パノスはそれを右手で容易くキャッチ。同時に彼女の左手が拳を握り、凱歌の仮面に向ける。

 

「愚かな……私もロイミュードの力を手にしている事、忘れた訳ではあるまい?」

 

「ッ…グァァァァァァァァ!?」

 

「凱歌!!」

 

その瞬間、パノスの左腕が一瞬で機械のような巨大な砲身に変化し、凱歌の仮面を容赦なく狙撃。仮面にダメージを受けた凱歌が少女の隣まで吹き飛ばされ、少女が凱歌の下まで駆け寄る。

 

「お望み通り、まずは貴様から始末してやる」

 

パノスは再び左腕の砲身を構え、銃口にエネルギーを溜め始める。それを見た凱歌は少女に支えられながらもグロリアタクトを振るい、一体のラットファンガイアを近くまで呼び寄せる。

 

「姫様、お逃げ下さい……この場は私が…!!」

 

「何を言ってるの…!? あなたを置いて逃げるなんて出来ない!!」

 

少女は凱歌にしがみつくものの、凱歌は既に多くのダメージを受けて満身創痍だった。目の前にはロイミュードの能力を持ったパノス、周囲には下級ロイミュードと魔導師達。従えていたラットファンガイアは、今いる一体を除いて全滅。状況は絶望的だった。凱歌は迷わずラットファンガイアに命令する。

 

「ッ…姫様を連れて逃げろ!!」

 

「シャッ!!」

 

「!? 待って、離して!! 凱歌、凱歌ァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

「追え」

 

「ハッ!!」

 

「ッ…しまった!?」

 

凱歌の命令を聞いたラットファンガイアは頷き、強引に少女を引き連れてその場から逃走し、パノスの命令で一体の下級ロイミュードがそれを追いかけていく。少女が凱歌の名を必死に呼ぶ中、凱歌は再びグロリアタクトを構え直し、せめて残ったパノス達だけでもこの場で足止めしようとする。

 

「無駄な事をするものだな。死ぬ順番が変わるだけだぞ?」

 

「何とでも言え……姫は、私が何としてでも守り抜く…!!」

 

「…馬鹿には何を言っても無駄か」

 

パノスは呆れた表情をしつつ、左腕の砲身のエネルギー充填を完了。そのまま砲弾を放とうとする。

 

(ッ……申し訳ありません、姫様…!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ギュィィィィィィィィィンッ!!-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? チィ…!!」

 

その時だった。

 

突如、飛来したアナザーシフトカー達がパノスの砲身に向かって体当たりを仕掛け、それによりパノスは左腕の砲身がズレてしまい、放たれた火炎弾が違う方向へと飛んでいく。

 

「寄ってたかって、弱い者苛めは良くないんじゃねぇの? お姉さんや」

 

「ッ…何者だ!!」

 

パノスが睨みつけた先で、大木の陰に隠れていた戦士が姿を現す。その正体は、凱歌とは違うライダーシステムを用いた戦士―――アナザードライブだった。

 

「そ、そなたは…」

 

「ここは俺に任せて、早く向かってあげなよ。姫をお守りする騎士さん?」

 

「! …かたじけない」

 

「待て!!」

 

「おっと、お前等の相手はこの俺だ」

 

アナザードライブに感謝の意を示し、その場から立ち去っていく凱歌。パノス達は逃げた凱歌の後を追おうとしたが、そんな彼女達の行く手をアナザードライブが阻む。

 

≪シンゴウアックス!≫

 

「ひとっ走り、付き合って貰おうか…!!」

 

「生憎、貴様のような奴に付き合うつもりは無い!!」

 

パノスが再び放った火炎弾を、アナザードライブは召喚したシンゴウアックスでそれを切断。二つに分かれた火炎弾がアナザードライブの後方で爆発したのを合図に、下級ロイミュードや魔導師達もアナザードライブに向かって襲い掛かり、一同は激戦を繰り広げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、次元世界オルトロス…

 

 

 

 

 

 

「―――で、また僕は食材運びに付き合わされた訳ですね」

 

「仕方ないだろ? 文句ならガララワニの肉を一人で全部平らげやがったZEROに言ってくれ」

 

「支配人さ~ん!」

 

「また一体ガララワニを仕留めました!」

 

「OK、マナちゃん、マユちゃん。肉を切り分けてからこっちに持って来てくれ」

 

「支配人殿、これらの木の実は食べれるだろうか?」

 

「うん、問題ないよユーリちゃん。そこの籠に入れておいて」

 

「支配人~、何か凄ぇデカいガララワニいたから、取り敢えず仕留めてやったぜ~♪」

 

「カエデちゃんグッジョブ!! よくやった!!」

 

支配人やディアーリーズ達は現在、このオルトロスに生息するガララワニの狩りを行っている真っ最中だった。何故そのような事をしているのかと言うと、ZEROが楽園(エデン)に保存していたガララワニの肉を一人で全て平らげてしまい、食堂の一部のメニューが調理不可能になってしまったからである。その為、支配人はこの日の任務が無いディアーリーズと一部のディアラヴァーズを連れて、ガララワニの肉の調達に向かう事にしたのだ。

 

「全く、あの食いしん坊なバトルジャンキーはどうにかならないんでしょうか…?」

 

「諦めろディア。あの馬鹿の暴食っぷりは、団長やソラさん以外で未だに止められた試しが無い。それにアイツは空腹だと何をやらかすか分からん」

 

「そのZEROさんって、一体何をやらかしたのさ?」

 

「あぁ、カエデちゃん達は知らないんだったな……過去に一度、ZEROの所為で管理局だけでなく旅団まで大損害を被っちまった事があってな。アン娘さんの連れていた戦艦が何千隻も沈められるわ、機体が損傷してロキが危うく死にかけるわ、kaitoまで巻き添え食らうわ(無事だったけど)、デルタさんや二百式まで危うく巻き添えを食らいかけるわ、okakaの自動人形が何体か大破するわ、俺の連れていたライオトルーパー部隊も大半が巻き添えを食らって死んじまうわで、アイツの所為で俺達は散々な目に遭わされてるんだよ。流石の団長もこれには怒って、一同はZEROの奴を牢獄送りにしたのさ。どういう訳か、最近になってまた出て来る羽目になっちまったが」

 

「な、なるほど……道理でZERO殿の姿を見るたびに、ロキ殿が嫌そうな顔をしていた訳だ」

 

「だ、大丈夫なんでしょうか…? その、ZEROさんが自由の身になっていても…」

 

「俺は不安で仕方なかったけどよ。団長が決めた以上は、俺達もそれに従うしかな―――」

 

 

 

 

 

 

-ボゴォォォォォォォンッ!!-

 

 

 

 

 

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

支配人が言い終わろうとした直後、湖から北の方角にある森から爆発音が聞こえて来た。支配人達は即座に作業を中止する。

 

「何だ、何が爆発したんだ?」

 

「よく分かりませんが……行ってみた方が良さそうですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ!!」

 

「シャァァァァァァァァッ!?」

 

「あぅ!? 痛…ッ…!!」

 

その爆発音が聞こえてきた北の森では、別世界から逃げ込んで来た少女が下級ロイミュード(バット型)によって窮地に追い込まれていた。下級ロイミュードが指先から放つ弾丸でラットファンガイアも粉砕されてしまい、一人になった少女は傷を負った右足を引き摺りながらも逃げようとする。しかし下級ロイミュードは翼を生やして先回りし、少女の首を左手で掴んで持ち上げる。

 

「か、は……ぁ…」

 

「ふん……終わりだな、マムクートの巫女よ」

 

下級ロイミュードは右手の指先から長い爪を伸ばし、それを少女の顔に突き立てようとする。少女は悔しそうに涙を流す。

 

(そんな……終わり、なの……こんな所、で…)

 

「死ね」

 

「ッ…!!」

 

少女が目を瞑り、下級ロイミュードは爪を思いきり突き立て―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪ピィィィィィィィッ!!≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、何……ヌォッ!?」

 

―――られなかった。

 

≪ピィ、ピィッ!!≫

 

「ぐ、おのれ……邪魔をするな!!」

 

「ッ……がは、ごほ…!!」

 

飛んで来たプラモンスター“アズールファルコン”が下級ロイミュードの顔面を攻撃し、その拍子に持ち上げていた少女を手離してしまったからだ。地面に落ちた少女は喉を押さえて咳き込み、アズールファルコンの攻撃を受けていた下級ロイミュードにカエデが飛びかかる。

 

「ぐ、貴様…!!」

 

「アンタの相手はあたしだ!!」

 

カエデが双剣を構えて下級ロイミュードに斬りかかる中、倒れていた少女の下にはマナとマユが駆け寄り、少女を優しく抱き起こす。

 

「大丈夫ですか、しっかりして下さい!」

 

「けほ、こほ……あな、た…達は…?」

 

「大丈夫……あなたの味方です…!」

 

 

 

 

 

 

 

一方で、カエデは下級ロイミュードと戦闘を繰り広げていた。それを近くで見ていたユーリは眼鏡を外し、下級ロイミュードを視界に入れる。

 

「! コイツ、死の点も死の線も見えないのか…?」

 

「この程度の相手なら、直死の魔眼がなくても問題ないさね……壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!」

 

「何…グォォォォォォォォォォォォッ!?」

 

カエデに投擲された短剣は、下級ロイミュードに命中すると同時に破裂。そのダメージで下級ロイミュードが膝を突くと同時に、ディアーリーズの変身した龍星が跳躍し、戦極ドライバーのカッティングブレードを倒す。

 

≪スタースカッシュ!≫

 

「くたばれロイミュード…セイハァァァァァァァァァァッ!!」

 

「ま、待て…ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!?」

 

龍星の繰り出した飛び蹴りが、下級ロイミュードの胸部に命中。下級ロイミュードはアッサリ爆発したが、爆炎の中からロイミュードの魂であるコアは出て来なかった。

 

「コアが無い……やはり、管理局の作ったロイミュードか」

 

離れた位置で見ていた支配人がそう考察する中、龍星の変身を解除したディアーリーズは、マナとマユが保護した少女の方へと駆け寄る。

 

「彼女は?」

 

「大丈夫です。疲れて、眠っただけみたいですから…」

 

「良かった……でも、どうして彼女はロイミュードなんかに襲われて…?」

 

「ロイミュードって事は、またあの管理局の仕業じゃないの?」

 

「それは間違いないだろうが……ん?」

 

その時、支配人はある事に気付き、しゃがみ込んでから少女の右手をゆっくり触れる。手の甲には、竜の爪を模した小さな紋章があった。

 

「! この娘、まさか―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼等が助け出した、一人の少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少女の存在を賭けて、またも事件は勃発する事になる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

九番目の熾天使・外伝 ~短編EX2~ 指揮者と歌姫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更新日、未定…

 


 
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