No.806875

紫閃の軌跡

kelvinさん

第77話 行方の所存

2015-10-08 10:20:06 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2362   閲覧ユーザー数:2179

~クレイグ家~

 

「僕の知らないところでそんなことになってたんだぁ……何だか仲間はずれな気分だよ。」

「そのようなことはない。そなたの話を聞いたからこその結果だ。」

「今度何か奢る」

 

少し眠そうなリィンとマキアス、気力が満ちたような感じのラウラとフィーを見て、エリオットはすぐに気付き、その辺りの顛末をセリカが朝食をとりつつ聞くこととなった。そのようなことになっていたとは驚きだが、エリオットにしてみれば仲間はずれにされたような気分がするのは仕方のないことだ。ともあれ、2日目の課題を確認することとなった。

 

・手配魔獣(ヘイムダル港)

・新製品のテスト

・迷い猫

 

「父さんらしいというか、またバラエティー豊かだな……」

「折角手配魔獣もありますから、ラウラとフィーにとってはリベンジマッチに丁度いいのでは?」

「ふむ……なら、やってみるか。」

「だね。」

 

大方の話が固まった所で、六人が外に出ると……リィン達に掛けられる声が響く。リィン達は当然そちらの方を向くと……彼等が良く知るクラスメイトの二人であった。

 

「―――大分悠長な朝食だったようだな。」

「えっ……」

「よ、おはよう。」

「アスベル!?それに、ルドガー!?」

「一体どういう風の吹き回しですか?」

「……明日は槍でも降るかのような顔すんなよ。」

 

無理はない、とアスベルは思いつつ説明をはじめる。昨日はB班のフォロー役だったので、今日はA班のフォローに回るということだった。当然自主的判断であり、サラ教官の差し金ではないことも付け加えた上で。戦力的にも申し分ないことは解っていたので、その申し出を受けることとなった。

まずは時間的にもかかりそうな新製品のテストについて話を聞くことになった。応対してくれたハワード・オーナーはトールズ士官学院“Ⅶ組”の制服デザインを手がけた人であり、その意味でもバラエティーに富んだ依頼というのは察せるほどだ。その内容というのは

 

「実は新製品を入れるつもりなんだが、そのテストを頼みたいんだ。」

 

『ストレガー社』―――創業50周年を迎えた老舗の靴メーカーであり、レマン自治州に本社があるのだが…帝国ではあまり馴染のないメーカーのようで、帝国出身であるマキアスですらその知識程度という状態だ。その履歴からその靴を愛用しているフィー、妹のお蔭というかその辺りの知識も知っているし愛用しているアスベル、加えてセリカもストレガー社製のブーツを愛用している。今回のテストは色々条件があり、それに合致するのがラウラということで彼女がテスター役を務めることとなった。迷い猫の依頼に関してはフィーとマキアスの活躍もかいあって、無事に終わった。そしてそのままの流れで手配魔獣に関してダンベルト親方に話を聞きに行くこととなった。

 

「お前さん達は学生みたいだが、こんなところに何の用だ?」

「知事閣下から依頼を受けてきました。」

「お前さん達がやってくれるのか。昨日帝都庁に出したばかりだというのに、早い対応だな。」

「と、父さんの手回しか……」

「あはは、あの人ならそれぐらいやりそうですよね。」

 

説明の過程でラウラの話し方から貴族絡みの話になったが、周りがフォローしたおかげで特に大事になるわけもなく…まぁ、ラウラが現リベール(旧エレボニア)の出身という話も少し出ることにはなった。

 

「いや、済まねえ。貴族にも色々いるんだと思ったよ。」

 

で、手配魔獣の方はというと……実力的にずば抜けたアスベル、ルドガー…そして連携できるラウラとフィーという超攻撃的4人が組めばどうなるかは結果など言うまでもないだろう。拍子抜けというかあっさり目だった。

 

「うん、運動にはなったかな。」

「だな。」

「戦術リンク抜きでそんな連携できるのが悔しい」

「我らも精進せねばな。」

 

アスベルとルドガーに関しては何だかんだで付き合いが長いので、戦術リンクなんて使わなくてもお互いの動きを把握できるほどに洗練されていた。ただ、アスベルとルドガーについてはリィン達の練度上げも考慮してか、それ以降は完全にサポートに徹した。手配魔獣の依頼も達成した所で戻ろうとした時、空気の流れを感じて……隠し通路を見つけてそのまま進んだ先は、

 

「ここは…」

「『オスト地区』か。」

「マキアスの実家があるところだよね。こんなところに繋がってたんだ。」

 

帝都は広い。その地下道なんて、いくら情報局と言えども100%知っているわけではない。そもそも地下道なんて一般市民には使わない代物のため、“ブラックボックス”のような状態になっているのは確かだろう。そして正午を知らせるように鳴り響く聖堂の鐘。そんな光景に感心している中、何かを考え込んでいたマキアスが第一声を発した。

 

「みんな、そろそろ昼時だし、近くの店で簡単なものでもテイクアウトしないか?」

 

 

~レーグニッツ家~

 

そんな提案に誘われるがまま、A班+2名は簡単なランチをレーグニッツ家でとることとなった。それが何を意味するのかは“知って”いる面々もいるのだが、敢えて黙ることとした。フィッシュ&チップスと本格的なコーヒー……コーヒーに関してはレーグニッツ知事が買い置きしているようで、職務の合間に戻ってきては一息ついているとのことだ。ヴァンクール大通りの百貨店で細かい注文をしているということも思い出しつつ。

 

「何というか、生真面目というか頑固というか。」

「はは、否定はしないさ。父さんも僕も簡単に生活スタイルを変えられるほど器用ではないから。」

 

清廉潔白、そして質実剛健を地で行くからこその実力と実績。そのスタイルを維持し続けるために生活リズムを変えないという忍耐力。そう簡単に変えられるほど器用ではないというのも事実だろうが。ふと、フィーが棚の上にある写真立てに気付いた。

 

「あ……写真発見。」

「ああ、それか……」

「うわああ……マキアスが可愛い!」

「昔は何とも言えぬ愛らしさを持っていたのだな。」

「ですね。」

「純粋っぽいよなぁ……」

「だね。これが、こんなに口煩くて頑固になるとは……(あれ?どっかで見覚えが……)」

「ええい、人の昔の写真で盛り上がるんじゃない!!」

 

其処に映るのはレーグニッツ知事と幼い頃のマキアス……そして、一人の女性の姿。その姿を見た時、その中でフィーは首を傾げた。聞けばマキアスにとって父方の従姉にあたり、家が近いこともあってよくレーグニッツ家に来ており、父子家庭であったマキアスやカールの世話的な事をしてくれていたそうだ。

 

「ふむ、ということはどこかの家庭へ入られたのか?」

「……六年前に行方不明……もう亡くなってると思う。」

「思うって、どういうことです?」

 

遺体が見つからず、飛び降りた場所に残された遺書と彼女が愛用していた靴……場所が場所なだけに捜索も出来ず、“死亡”扱いとなった、とマキアスは述べた。そうなった経緯は……身分というこの帝国にとっては切っても切り離せぬ柵(しがらみ)だった。

 

マキアスにとっての“姉さん”―――彼女はカールの紹介で出会った人物、伯爵家の御曹司であった。二人はカールが仲人という形で婚約した。……元々能力が優秀なカールを貶めるがため、それを快く思わなかった“貴族派”の面々が彼女に対して嫌がらせをしてきたのだ。伯爵家で急に持ち上がったカイエン公爵家との縁談。嫌がらせに対して周りを巻き込まないがために彼女は隠し続け……最後には婚約者であった彼に裏切られ、命を絶ったのだろう……そうマキアスは述べた。

 

「正直、僕は恨んだ。相手の彼や伯爵家、横槍を入れてきた公爵家……終いには、身分制度や貴族そのものを恨んだ。でも……結局はただの“八つ当たり”なんじゃないかって思った。」

 

恨んでも仕方のないことだと思う。自分の身内を殺されたようなものだ……マキアスのみならず、貴族によって何らかの形で“奪われた”ことを経験する者たちは少なからずいるだろう。そういった傲慢さに不満を持つ者にしてみれば“革新派”という存在は大きいのだろう。マッチポンプ式に双方共に敵を作り続ける二つの派閥……帝国の行く末が不安に思えるのが何というか、情けない限りだ。

それは置いといて、マキアスは『結局はその人』であると言った。ユーシスに関しての反応は、まぁ、相も変わらずというか同族嫌悪的なアレも否めなくはない。互いに負けず嫌いな面を持っているだけに。

……マキアスから一通りの話が済んだところで、フィーが尋ねた。

 

「ねぇ、マキアス。その人がいなくなったのって6年前って言ってたよね?」

「?あ、ああ……それがどうかしたのか?」

「この人、見覚えある?」

 

そう言ってフィーが取り出したのは一枚の写真。フィーが制服姿なことから、入学する直前に撮られたものだが、其処に映るのは一人の男性とフィー。そして、綺麗な長い髪を持つ女性の姿だった。

 

「これ、フィーの両親?」

「血は繋がってないけどね。」

「!?……そんな、まさか……」

「マキアス?」

 

マキアスはその写真に写る女性……髪の長さや色は違えど、その顔の輪郭は見紛うことなくマキアスにとっては一番見覚えのある女性に違いなかった。マキアスはフィーの方に尋ねた。

 

「フィー、この人は……」

「六年前、団長が拾ってきた人。団長は“落ちてきた”って言ってた。……飛び降りた下に団長がいたんなら、話は合ってると思う。で、その時の髪型がその写真のだったから見覚えがあると思った。やっぱ、間違ってなかったんだ。」

「い、生きてるのか!?」

「勿論。その写真が何よりの証拠。それと、昔の名前を聞いたことがあったんだけど……“レーグニッツ”って言ってたから間違いないと思う。」

 

時期的にも照合するし、多少月日が経っているとはいえその面影からしても本人であることには違いない。マキアスにしてみれば死んでいると思った人間が生きていたことに驚きだった。まぁ、こんなこと自体“非常識”なのだが。

 

「良かったね、マキアス!」

「あ、ああ………姉さんは、今どこに?」

 

フィーは、その人はクロスベルにいることと“団長”と呼ぶ人と結婚して、妻となっていることも合わせて説明すると……マキアスは少し考え込んで、

 

「……父さんには知らせないほうがいいだろう。姉さんが生きて幸せなのなら、それを咎める権利など僕にはない。また姉さんを政争に巻き込ませたくないからな。きっと、父さんもそれは望まないと思う。」

「マキアス……」

 

自分の父親も身内がまた自分たち絡みで巻き込まれることをよしとはしない……その考えだけは少なくとも自分と一緒であるだろうとマキアスは述べた。その後の経緯はどうあれ、死んでいたと思っていた身内が生きていたことが知れただけでも、マキアスにとってはこの上なくうれしかったのだろう。

 

「でも、マキアスも素直じゃないよね。ここまで来たら、ユーシスのこともちゃんと認めてあげればいいのに。」

「な、何故あんな傲慢不遜な奴を認めないといけないんだ!?」

「ふふっ……」

 

マキアスにとってのユーシスという存在は、どこか認めつつも納得できない相手……という所は解消されずじまいであった。そして、昼食も終わった所でリィン達は残りの課題を消化すべく午後の活動を開始することとなった。

 

 

次回、○○○○ 水面に沈むの巻(ぇ


 
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