No.788036

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第046話

最近リアルが忙しいのと、別の企画を少し書いていたので、少しサボり気味でした。
別の企画としましては、もし一刀と愛紗が外史に戻ることがなかったらこうなっていたんじゃないかと思い、書いています。
それでも『外史を駆ける鬼』シリーズに属しちゃうのですが、主人公は一刀で進めていこうと思います。
重昌が出るかどうかはわかりません。
それでは戦極シリーズの方をどうぞ。

続きを表示

2015-07-07 11:31:49 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:849   閲覧ユーザー数:801

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第046話「重昌達の二年間・真打(シンウチ)

洗い場にて三人が体を洗い終えると、少し冷めた体を温める為にもう一度湯に浸かった。

「それで。結局柑奈と三葉ちゃんはどうなったのですか?」

「勿論快勝したさ。葵の話が正しいなら、韓遂は一騎討ちにおいては負け知らずの将だったらしいが、三葉曰く、その時は頭に血が大分昇っていて興奮状態だったらしい。そうなればもう『搦め手の信廉』の流れ。あの手この手で彼を翻弄して最終的に見事捕獲。銀も今でこそ私が曹操殿に推薦する程成長してくれたが、当時の実力では柑奈の敵ではなかった。彼女は力くべであっさり崩してこちらに流れを寄せて見事捕縛」

「なるほど。それで西涼の乱は鎮まったのですね」

紅音が興奮しながら彼らの話に喰いつくが、しかし重昌も葵もそれから乗り気でない様な空気を出す。

「……重義兄(にぃ)、一度上がろう。いくら月語りと言っても、ここから先は酒でもないと話してられない」

そうして三人は場所を重昌の自室に移すことにした。

なお恋歌と柑奈は既に子供達と就寝し、重昌は台所より酒と盃を人数分用意した。

紅音は用意された酒を重昌と葵に注ぎ、二人はカチンと盃を鳴らしてそのまま飲み干し、また紅音に注がれた酒を飲み干す動作を数度繰り返し、やがて二人に酔いが回り始めた時に、葵は窓から見える月を眺めて言った。

「思えば。あの時から、重義兄が『鬼』と恐れられたことの始まりだろうな」っと……。

 

「敵大将、韓遂。副将、龐徳。通綱様・信廉様により捕縛」

伝令のその言葉に、馬騰は唖然とした。

義弟の韓遂との戦が始まってから一週間もたたないうちに、敵軍を無力化せしめ、尚且つ敵大将を捕縛するという快挙。

あたかもそれを当然とばかりに重昌は鉄扇を煽いでいた。

「賈駆、我が軍の被害は?」

「……ご、五百弱」

「陳宮、敵軍の被害は?」

「………ふ、負傷者死亡者行方不明者含め、い、一万六千」

その報告に馬超と馬岱は目が点となり、重昌はまた自慢げに鉄扇を煽いでいる。

「……た、確かに重昌。お、お前の策は見事としか言いようがない。だが判らないことがある。これらの策。説明の間が惜しいと言って戦前は断っていたが、具体的にどういうことなのだ!?」

馬騰軍の大勝利に終わり、兵達は早くも嬉しさの余り踊りを踊っているが、馬騰は具体的な内容の説明を要求した。

まず重昌が説明したのは馬の装飾品。

その際に、重昌は自身お手製の鐙を取り出した。

馬の背中に付けて皆に乗って貰うと、その馬上でのバランス感覚に驚き、馬超に関しては馬を目一杯走らせはしゃいでいた。

馬騰も「戦が変わる」っと言ったが、問題があった。

本来鐙とは精巧な作りとなっている為に、西涼に来て一ヶ月二ヶ月そこらの重昌が大量に作れるはずもない。

そこで彼は馬の背中に布を敷き、その上に腕一杯の長さの縄を輪の形にする。そして一度交差させてから交差の中心を馬の背中に当てるように縄をかける。そうすると、即席の鐙が完成。

即席である為に鐙ほど足を踏ん張れるわけでもなく、バランスを取ることも難しいが、涼州で馬を乗りまわした民にその様なバランスを取ることなど朝飯前。

直ぐに乗りこなして、乗馬時での直立権、馬立権とでも言おうか、それを習得した。

赤い武具は、重昌は近々馬騰直属の部隊を赤く染めようとしており、赤い塗料を大量に作っていたのだ。

動物は赤を見てしまうと、少なからず興奮してしまう作用を持つ。

人間とは他種の動物と比べて知性を多く授かった”動物”であり、その本質は他者を蹴落とし、利を喰らう弱肉強食に生き、自らの本能が震えた時欲情し、性行為を行いたいという面を考えれば動物と変わらない。

興奮すると理性が少しばかり変になり、感覚がむき出しになる。

赤を見ると、よい方向に働けば、血気盛んになり力が湧いて来る。だが悪い方向に働けば、脳が少し馬鹿になる為、その迫りくる赤色は恐怖へと変わり、恐れおののくのだ。

赤い部隊で日本の有名どころと言えば、武田四天王の一人山県昌景、徳川四天王の一人井伊直政、『日の本一の(つわもの)』と詠われた真田信繁などがこの自軍を赤く染めた軍、赤備えを作り。

昌景は設楽ヶ原の戦いでは敵軍の馬防柵を乗り越え駆け、徳川の軍勢をあと一歩まで追い詰め。直政は関ヶ原の戦いにおいて、その赤き軍団で敵を薙ぎ倒して西軍を震え上がらせ。信繁は大坂夏の陣で豊臣完全劣勢の中、徳川の大軍を蹴散らし、家康を届くか届かないまで追い詰めている。

重昌達のやってきた外史では、この赤備えを発案したのは恋歌であり。彼女が赤き軍勢を率いて敵を蹴散らす姿に、付いた呼称がそれまでの『鬼戦姫(きせんき)』から『血鳥姫(ちしょうき)』に変わった。

こうした謂れから重昌は馬騰西涼軍全兵の鎧を塗料で赤く染めたのだ。

車懸がりの具体的な説明は過去の文章を見て頂き、この陣形は上杉謙信が川中島の合戦にて武田軍に使った戦法とされる。

その時に武田軍に大変な被害をもたらした為、今では謙信の奇抜な戦法の代名詞とされているが、実はこれは後の人々による創作の疑いもある。

何重物馬防柵、これも詳しい概要は先の文章を読んでいただき、その馬防柵に嵌った敵を殲滅。

そこで役に立つのが、重昌が城より持ってきた連弩。

その角度を調節し、横幅広く三列に設置。

鉄砲より距離や威力は格段に劣るものの、鉄砲や弓の撃つ動作、弾込め(矢引き)・構え・撃(放)つ一定の動作を連弩であれば矢引き・放つで短縮出来る。

さらにさらに第一波が放たれている間に次の者は矢込めして引く。

その流れを回して行くと、矢の消費は激しいモノの、際限なく敵に矢の雨を降り注がせることが出来る。

もしこの策、相手が歩兵であれば途中で進軍を止められるが、馬である為途中で止まることは出来なく、仮に馬防柵の防御が突破されることがあろうとも、抜けるのは十数である為に、そのままこちらから突き殺されて終わり。

そうして積みは三葉と柑奈である。

韓遂は隴西までの渓谷の周辺にて多くの草を放ち、兵が潜んでいないか何度も確認したが、実はこの時二人が草に嘘の情報を流す様に仕向けながら、こっそり渓谷に潜んでおり、韓遂西涼軍が渓谷を抜けた時にそれぞれ排除したのだ。

そうして三葉たちは退路を防ぐために渓谷を閉鎖。そのまま韓遂の後ろに付けて彼らの捕縛に成功。

っと、いままでの流れがこうである。

それを聞くと、軍師面子と馬騰は感嘆のため息を漏らし、武将面子はどういうことか判らぬ風であった。

 

「………遂」

馬騰の前には縄で縛られた韓遂と龐徳。

「何故だよ、銀兄者。なんで反乱なんて起こしたんだ!?」

「………」

「黙ってちゃ判んねぇよ。答えてくれよ!」

司馬懿……紫が縛られた龐徳の肩を掴んでそう言い寄った。

「理由も糞も無い。銀は私の意見に賛同して手を貸してくれたに過ぎない」

紫の質問を韓遂が代わりに答え、その韓遂に司馬懿は殴りかかろうとするが、その手は馬騰に制された。

馬騰はジッと韓遂を見つめていると、じれったそうに韓遂が口を開く。

「義姉者……反乱を誘発させた俺は勿論死刑だろう?だったら早く()ってくれ」

馬騰は二人の背後に立ち、スラリと剣を抜くと、韓遂と龐徳は目を瞑った。

剣が振り下ろされた瞬間、縄は切れ、二人は解放されたのだ。

「どういうつもりだ、義姉者!!俺はアンタを殺そうとしたんだぞ!!」

馬騰が忠に生きる武人であれば、韓遂は戦場に生きる武人。

負ければ打ち首になることも韓遂の武人の美学でもある為、この行為は彼にとって屈辱以外の何物でもなかった。

「………今、漢王朝が腐敗していく中、身内同士で争ってなんの得がある。今回の戦い、兵の質は同じ。ということは兵の数で圧倒的差のあったこっちが不利だった。それであたし達が勝ったということは、これがあたしとお前の実力の差だよ……」

馬騰の静かな言が全て理に適っているので、韓遂は口を噛みしめる。

「今は皆一つとならなければならない時さ。つまらない身内争いは今回限りにしな」

そう言い終えると、彼女は剣を鞘にしまうと、そのまま幕舎に引き上げていく。

その幕舎にて、ある程度の時間差を考えて重昌が訪問する。

「……重昌か……なぁ、あたしは間違っているのかな?」

幕舎に入ると、馬騰は目尻に拳を当てながら何かを悩んでいた。

先程の韓遂らの処遇について言っているのだろう。

「いいえ。確かにお館様の仰る通り、今は国を挙げて一つにならなければならぬ時。つまらない身内争いはもっての外。だが、もしこの次があれば、お館様には覚悟してもらわなければなりません」

「……覚悟……?」

「覚悟です。今回の一件で周りの豪族はお館様の実力にひれ伏すでありましょうが、同時に過信もうまれる事は確かです。だから韓遂将軍を許すのは今回限りです。次同じことがあれば、例えお館様が許そうとも、私が韓遂将軍の首を()ります。努々(ゆめゆめ)お忘れなきよう」

重昌が平に頭を下げると、馬騰は黙ったように頷く。

しかしその数日後事件が起きる。

馬騰が城下にて通り魔に重傷を負わされたのだ。

ただの通り魔ならまだしも、その者は西涼の豪族の一人であり、先日の馬騰と韓遂の一戦にて馬騰側の豪族であった為に、彼女は油断していたのだ。

馬騰は直ぐに城に運ばれ治療が施された。

幸いにして重昌も医療の心得がある為に直ぐに治療が施されたが、そこでまた問題が起こった。

「なんだと!?血が足りない!!」

重昌が皆に医療説明を施している間に馬超が声を挙げた。

「そうだ。葵様は血を流し過ぎている。今のままでは血液不足で死に至る」

「何か方法はないのかよ!?」

「方法が無いわけはない。今、蒲公英殿に医者を探しに行って貰っている。しかし私の考える方法は並みの医者に通ずる方法じゃない。にわか医者より、本格的に医学に精通している物でなければ」

そんな話の中で、馬岱が「連れて来たよ」と引っ張って来たのは、赤髪で上は白い肩と腕が別れ切れ目はファーで包まれたコートを着て、内側は黒のシャツに胸元で十字の白いライン。下は茶色のジーンズを掃いた医者にはとても見えなさそうな若者である。

「患者いると聞いて、ここまで飛んで来たのだが?」

暑苦しそうな若い声で彼が言うと、重昌が彼に尋ねる。

「確かに患者はここに居る。だが直ぐに見せるわけにもいかない。なんせこちらは国主の命がかかっている。失礼だが、貴方のお名前と出身出、医術の流派をお聞かせ願いたい」

初めから疑ってかかる質疑に、彼は答える。

「……わかった。俺の名は華佗。出身は沛国譙県。流派は五斗米道(ゴットベェイドー) 薬学・鍼灸」

五斗米道(ゴットベェイド―)?確か漢中の張魯の五斗米道(ごとべいどう)の医師だとも聞いたことがあるが。華佗、失礼だが彼女とはどういう繋がりがある?」

「張魯は俺の姉弟子。彼女は食による体外からの医術、五斗米道を学び、俺は外科・薬学・鍼灸の五斗米道(ゴットベェイド―)を学んだ訳さ」

この言葉に重昌は運が舞い込んだと認識する。

200年の中国において、まだ本格的な外科治療は確立したものではなく、その時に本格的な外科治療を行った人物は一人だけいた。

それが華佗という者である。

当時華佗は高い手術能力を持ち、時の権力者より専門医として望まれたがそれを拒否。

その結果投獄されて、最後まで権力に屈せずにその生涯を終えたという。

彼がその華佗であれば、これほど心強い者は他にはいなかった。

「それでは華佗先生。医者の貴方にこんな事を言うのも何だが、これから私の言う事を聞いて私の言を信じて治療を行って欲しい」

その言葉に、華佗も医者としてのプライドもあり、重昌に喰いついた。

「何を言っている。さっきから俺の事を根掘り葉掘り聞いて、最終的には指示に従え?冗談も程々にしろ!!いいから黙って患者を俺に見せろ!!」

華佗は憤慨して重昌の前をおしのけて扉を開けようとするが、それより早く、重昌の膝と手と頭が地に付いた。

「頼む!!君の医療技術が無ければ、葵殿は助からないのだ!!先程の非礼は謝る!!だが信じて私の指示に従って動いて欲しいのだ!!なんなら真名(しんめい)に誓ってもいい。私の真名(しんめい)は重昌だ!!だから頼む!!手を貸してくれ!!」

そうやって平伏す重昌の姿に、周りの空気が凍りついた。

華佗も華佗で重昌の体を見ると、彼の着ている白い術着には多くの血が付いており、また手にも血がこびりついているのが判った。

暫くの沈黙が続いた後、華佗はコートを脱ぎ捨てながら言った。

「俺にも術着・消毒用の水をくれ。それから、俺の真名は凱だ」っと。

重昌は「華佗殿」と一言呟くように言うと、彼も「相棒には真名を預けないと成功する者も成功しないだろう」と返す。

 

「それで、俺は一体何をすればいい?」

城の医療室では、背中を刺され、先程まで手術中であった葵が横たわっている。

医療用寝具にて暴れぬよう手足を縛っているが、手術の際に気を失ったのか、既に意識は無い。

「刺された部分から不純物は既に取り除いている。凱に行って欲しいのは、内臓の消毒と疱瘡。しかしこれを行うには彼女は血を流し過ぎている。血が足りないのだ」

「な、なんだと!?」

華佗は絶望的な顔をする。

通常、血で内臓を洗う際は同じ血液型の血を必要とするが、この時代は輸血方法や血液型という概念が無い為に、血液型による拒絶反応も勿論ありうり、血液型通りなれば成功率は4分の1。確実に成功させるには、手術対象者本人の血でなければならないのだ。

「だが心配には及ばない。血は私の血で行う」

重昌の案に、また凱は驚愕する。

血で内臓を洗う方法の成功率は4分の1。実の娘である馬超のちであれば、成功の確率はそれなりに上がるであろうが、重昌の様な他人の血で洗えばその確率は格段に下がる。

「ば、何を馬鹿な事を!!いくら治療の為とはいえ、俺はそんな博打は打てんぞ!!」

「博打ではない。………凱。お前も医者であるなら一度は聞いたことはないか?『黄金の血』を……」

凱はそこでまた度肝を抜かれた。

黄金の血とは、血液型とは表面の赤血球の表面にある抗原で決まり、人間の場合、最大342種類の抗原が存在する。

血液の拒絶反応とは、この抗原がぶつかり合うことで暴れ出し、よってB型の人にA型の血を入れた時拒絶反応が起こるのだ。

黄金の血はその抗原を持たない為に、どの血に入れても拒絶反応は起こらないのだ。

世界の人口60億のうち、現在でも確認されているだけでも40人程。

重昌がそれを知りえたのは、ずいぶん昔のこと。

まだ戦国よりも前での元の世界。

血液検査を行った時、血液判定が出来ない状況に陥り、さらに大病院で調べると、抗原が見つからない黄金の血だと判断された。

それからは国からは助成金が出たり、いざと言う時の為に、自らの血を絞りに病院に向かったりもしたのだ。

「何故黄金の血かは説明している間が無い。今から私が血を抜くことによって、その様な状態で私が手術を行えば、必ず失敗をする。だからお前に頼むしかないのだ」

「………判った。お前の覚悟、俺の胸に行き届いたぞ」

「……ならば手術を再開する。三葉、鍼と疱瘡用の糸、止血剤の用意を頼む」

重昌と凱の助手として控えていた三葉を加えて、三人は葵の手術を再開した。

 

※本編で行っている医療術は、実際の医療術とは全く異なります。しかし『黄金の血』という物は実際にある物なので、気になる方は実際に調べて見て下さい。

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
5
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択