No.783982

深きところより、主よ

宗三左文字さんと女審神者さんのお話しです。
とらのあな様で通販しております。長いお話しですので、お気に入ったら是非お買い求めくださいませ。
http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/30/83/040030308398.html

2015-06-16 10:10:38 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:631   閲覧ユーザー数:624

 

 

 

「今、蛍丸が泣いて出て行きましたけれど、何か……?」

 入れ違いに本丸に入ってきた宗三左文字が問う。

「ああ、えっと……皆に均等に接している積りなのですが難しいですね」

 女審神者が顰(しか)め面で答える。彼女は畳の上に庭を向いて正座していた。

「貴方は余程均等に接しているように思えます」

 慰める訳ではないけれど、つい口に出て、しかも咎めるような自分の声色に宗三左文字は苦く笑った。

 そうなのだ、この人は誰に対しても平等であれと、確かに審神者としては遖(あっぱれ)な考えだが、しかし、宗三左文字としては、あまり嬉しくない感覚である。

「ところで、何か用事ですか?」

 女審神者が敢えて明るい笑顔を作って訊いた。

 宗三左文字は、真っ直ぐに女審神者を見据えて座った。

「ええ……」

 そう濁してから、宗三左文字は、ゆっくり口を開いた。

「何故最近、僕を近侍にしてくれないんです?」

 宗三左文字思った以上に恨みがましい声だと、自分に嗤った。

 女審神者は明らかに困った顔で、口を噤んだ。

 しかし、宗三左文字の雰囲気から何かを察したのか、

「答えなければいけませんか?」

 とだけ、言った。

「ええ、以前は僕を侍らせていたじゃないですか。それなのに最近はずっと近侍が蛍丸……」

 宗三左文字は、先程泣いて出て行った蛍丸の事を想い出した。

 粗方、察しは付いていた。どうせ似たような悩みだろう、と。

「それは……次の戦いに備えて実践経験を……」

 女審神者の回答は大変ご立派で生真面目で、(この人はいつもそうだ)と宗三左文字は彼女らしい答えに少し口元が緩んだ。

「でも、近侍と審神者の関係はもっと深いものだと皆思っていますよ。僕はあなたの所に帰ってくるしかないのに、遠征にだけ行かせるなんて……以前はあんなに可愛がってくれていたのに」

 と、意味ありげに宗三左文字は自身の体を触る。

 元々彼の服装は、胸元が開(はだ)けているので、矢鱈卑猥に女審神者の眼に映った。

「規程では審神者はそのような事はしませんし、私もしていなかった筈ですが」

 女審神者が間髪入れずに応えた。

「怒ってるんですか?」

 からかうように宗三左文字が聞き返す。

「……はい。とても。審神者である私を侮辱されたので。ただでさえ女審神者は侮られ易いのに」

 女審神者は口惜しそうな顔で続けた。

「しかも、そういう事を貴方が言うとは思いませんでした」

「でも、余所ではそういう事もあると聞きました」

 何食わぬ顔で、宗三左文字は追い打ちを掛ける。

「余所様は余所様、うちはうちです」

 そう女審神者が言った後、ふと、思いついたように、彼女にしては迚(とて)

も珍しく、ニヤッと人の悪い笑顔を浮かべた。

 こんな顔を彼女から引き出せたのは、自分だけだろうと、宗三左文字は事情はどうあれ、少しだけ嬉しくなった。

「そんなに、うちが嫌なら、余所にやりましょうか? 宗三左文字、あなたを侍らせたい人は今も変わらず多いとおもいますよ」

 そんな女審神者の言葉も、今更何とも思わない宗三左文字は、表情を変えずに言い放った。

「嫌みですか」

「そうです」

 そう言った後、女審神者は少しだけ悲しい色を瞳に浮かべて、俯いた。

「大体なんで私が貴方を近侍から外したか、本当に解らないのですか?」

 と。

「わかりませんね」

 サラッと宗三左文字は流す。

 女審神者は、付喪神である刀剣男士と話す時、いつもキチンと目線を合わせて話していたが、彼女は彼女にしては珍しく、ずっと俯いたままで、宗三左文字の方を見なかった。

「それはとても……私情を挟んでいるからですよ……」

「わかりませんね」

 宗三左文字の言葉に観念したように、女審神者は面を上げた。

 そして、彼女らしく、しっかり宗三左文字を見て、

「あなたを、もう傷つけたくないからです」

 一語一語ハッキリと応えた。しかし、そこから先は、

「……貴方を一番大切に思っているから……」

 語尾がフェードアウトした。

「顔が赤いですよ、審神者どの」

 宗三左文字が愉快そうに笑った。

「だから、言いたくなかったのです。――誰にも平等であれと思っていた私が、こんなこと言える訳ないじゃないですか。あと、からかわないでください」

 女審神者は朱く染まった顔の儘、一気に言い終えた。

「ごめんなさい、つい。――貴方が可愛くて」

 長い指で口元を隠して、でも、矢張り気持ち良く笑っている宗三左文字は、彼にしては珍しく明るい声で願いを言葉にした。

「だったら、僕に触れてください」

 と。

 

 

 

 ――今後の二人の事は、また別のお話。

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択