No.780404

IS〈インフィニット・ストラトス〉〜G-soul〜

瑛斗、箒に決闘を挑む!

2015-05-29 21:47:42 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1327   閲覧ユーザー数:1290

「うっ……うあっ、あっ、あぁぁぁぁぁっ!!」

 

薄暗い牢獄の一部屋から、女の悲鳴が響く。

 

「うふふふ………」

 

その悲鳴の後からまた別に、違う女の笑い声が聞こえた。

 

「いい反応してくれるわねぇ。もぉっと虐めたくなっちゃうわぁ」

 

喜悦の笑みを見せる女の名は、エミーリヤ・アバルキン。

 

神掌島での楯無━━━━刀奈との戦いに敗れ、捕らえられそうになったところを協力関係にあったクラウンの仲間の女に助けられ、彼らと行動を共にしている。

 

「でもそろそろ限界なんじゃないかしらぁ? そろそろその状態になって三日経つわよぉ?」

 

「ふざ……けんな……っ。こんなことで私が……!」

 

挑発的なエミーリヤを睨みつけたのは、先の襲撃の後虚界炸劃(エンプティ・スフィリアム)に囚われたダリルであった。

 

だが、専用機の《ヘル・ハウンドver2.5》を含め身につけていたものを全て剥ぎ取られ、X字の磔台に固定されるダリルは、なす術もなくエミーリヤの玩具に成り果てていた。

 

「お前達は何だ……! いきなり襲ってきやがって! あの男達が使ってたISもどきはなんなんだ! お前達の目的はなんだ!?」

 

「……………………」

 

エミーリヤへ噛み付くダリル。その目には、諦めの色は見えなかった。

 

しかし、エミーリヤは意に介さない。

 

「……………んふ♫」

 

手に持っていた何かのスイッチをエミーリヤが動かすと、ダリルの身体がビクンッ! と一度大きく跳ねた。

 

「ひぎっ!? うあああぁぁああぁぁぁぁぁっ!!」

 

「口のきき方には気をつけなさい? あなたは私達に捕まってるのよぉ?」

 

そのままスイッチをMAXまで動かす。

 

「やめっ、ひぐっ!? んあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」

 

「うふふ……あはははっ! いい! すごくいいわぁ! あなたエリナよりもずっといいわよぉ!」

 

ダリルの絶叫と彼女の手足を拘束する鎖が拘束台とぶつかる音が重なり合って不協和音を奏で、エミーリヤはますます気持ちの昂りを感じずにはいられない。

 

「……つまらないね、ツァーシャ」

 

「そうですね、シェプフ」

 

「?」

 

と、声が聞こえた。幼い少女の声だ。

 

「あなた達、あいつの……」

 

牢屋の入り口に立っていたのはクラウン・リーパーの娘でデザインベイビーの双子姉妹のシェプフとツァーシャだった。

 

「何か用かしらぁ? ここは子どもが来るような場所じゃないわよぉ?」

 

エミーリヤは興ざめとばかりにスイッチを切り、双子を追い払うように手を払う。

 

「んっ……あっ………!」

 

その後ろでダリルは力なくうなだれ、小さく痙攣を繰り返していた。

 

無残なダリルの姿を見た後、シェプフはエミーリヤを嘲笑した。

 

「やれやれです。三日経ってこれですか。やり方が回りくどいですよ。おばさん」

 

「シェプフの言う通りです。おばさん」

 

「おば……!?」

 

シェプフとツァーシャの無遠慮な発言を受け、エミーリヤの額に青筋が浮かぶ。

 

「き、聞き違いかもしれないわねぇ。もう一回言ってごらんなさい?」

 

(本当に言ったら殺す……!!)

 

「いやいや〜」

 

「私たちも命は惜しいので」

 

引きつった顔で笑うエミーリヤの前を双子姉妹はスタスタと通り過ぎた。

 

「ちょ、ちょっと……! この子は私が━━━━」

 

「お父様からの指示です。楽しむのも結構ですが、仕事はやっていただかなくては」

 

「わかってるわよ! 今がその最中だったのがわからなかったのかしらぁ!?」

 

ツァーシャはため息をついてから、ですからと続けた。

 

「そのような責め方ではこの手の女を堕とす事は出来ない、ということです」

 

「こんなんじゃ、いつまで経っても埒があかないです!」

 

シェプフがエミーリヤに一瞥をくれながら言った。その言葉がエミーリヤの歪んだ心に火をつけた。

 

「言ってくれるじゃない。尻の青い小娘が……! だったら見せてみなさい! あなた達ならどうするのかねぇ!」

 

「わかりました! ツァーシャ!」

 

「はい。では、手っ取り早く終わらせて、お父様に言われたお使いを済ませに行きましょう」

 

ツァーシャが肩から提げていたカバンの中からヘルメットのようなものを取り出した。

 

「さて……」

 

シェプフは拘束台と連動した鎖を引き下げて、拘束台を傾け、ダリルと目の高さを合わせた。

 

「くっ………!」

 

「こんにちは! ご機嫌はいかがですか?」

 

「……最悪……だ………」

 

「あらら。それはかわいそうです。ですが、ここで素敵なお知らせですっ!あなたには、私たちと一緒にお父様のために戦う駒になってもらいます! お父様のお役に立てるんですよ! よかったですね!」

 

「だ、誰がっ……!」

 

屈しないダリルは怒りの炎を燃やす瞳で双子を睨みつける。

 

「ふざけやがって! 私はお前らの言いなりになんてなるつもりはねぇ! お前らまとめて地獄に落ちろ!!」

 

「わわっ!? 怖いです……」

 

「彼女にあれだけ痛めつけられているはずなのに……」

 

怯えたように寄り添い合うシェプフとツァーシャ。

 

しかし━━━━。

 

「「……素晴らしい」」

 

次の瞬間、その顔は引き裂いたような笑顔に変わったのだった。

 

「……………!?」

 

ダリルは戦慄した。恐怖した。

 

(何だ……この二人…………!?)

 

目の前にいる双子が、まるで悪魔のように見えた。そのエメラルドの瞳に、ただならぬ狂気が渦巻いている。どす黒く、飲み込まれそうになるほどの狂気が。

 

(こいつら……人間なのか……!?)

 

「「あなたは本当に素晴らしい」」

 

「っ!?」

 

「そうでなくては、駒になる資格もありません」

 

「お父様も、さぞお喜びになるでしょう」

 

ツァーシャがヘルメットのような何かを頭に被せる。それは目まで覆うように出来ていて、ダリルの視界は暗黒に飲まれた。

 

シェプフはもう一度鎖を引き、拘束台を直立させた。

 

「やっ……やめろ! やめてくれ! いやだっ!! いやだぁぁぁぁぁっ!!」

 

恐怖にかられたダリルは、どれだけエミーリヤに責め抜かれても流さなかった涙を流し、半狂乱で頭を激しく振り動かす。

 

「怖がる必要はありません」

 

「あなたは生まれ変わるのです」

 

その言葉の直後、ダリルの頭の中でキィーン………と甲高い音が鳴り始める。

 

(……私……死ぬのかな………)

 

抵抗を続けながらも、心の奥底で死を悟ったダリルが最後に思ったのは、両親でも、己の過去でもなく、たった一人の少女のことだった。

 

(フォルテ……ごめん………!!)

 

「「さあ、どんな悲鳴を聞かせてくれますか?」」

 

次の瞬間、人のものとは思えない絶叫が牢獄に木霊した。

 

 

クラウンの放送からすでに三日が経った。

 

テレビや新聞では様々な憶測が飛び交い、世界中が騒然となっている。

 

ISに匹敵するというマシン、IOS。

 

謎の組織、虚界炸劃。

 

そしてクラウン・リーパーの真意。

 

どれもこれもが謎だらけ。

 

IOSについてはIS学園も関係しているんじゃないかという根も葉もない噂が出てくる始末だ。

 

そんな世の中の影響で学園内にも少なからず不安は広がってはいるけど、IS学園はなんとか平時と変わらない状態を保っていた。

 

変わっているとすると、スコールとオータムがチヨリちゃんと一緒に独自に虚界炸劃について調査してるくらいだ。夜毎連絡は来るから、無事にやってるらしい。

 

「うーん……」

 

放課後、俺こと桐野瑛斗は整備室で無人展開した専用機《G-soul》とにらめっこをしていた。暇な時にもこうしてることが多い俺だが、今回ばかりは違う。

 

「どういうことだ……」

 

軽い電子音の後、G-soulとリンクしたノートパソコンにG-soulのデータが表示される。どこも異常はない。ある一点を除けばな。

 

その唯一の異常とは……

 

「Gメモリーが、無くなってる……」

 

そう。俺が使い続けてきたG-soulのとっておき、Gメモリーがたった一個、ボルケーノを残して綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「……………………」

 

俺は沈黙したままパソコンの画面を見る。その姿は非常に冷静に見えるだろう。

 

けれど、けれど……!

 

(いやいやいやいや、え、ウソ、何これ? え!? 何で!? なして!? なにゆえ!? や、ホントなんで? えええええええええっ!?)

 

心の中ではものっそい狼狽してますです、はい。

 

「ど、どうなってる……!」

 

原因を究明を急いだ俺は画面をスクロール。指をキーボードの上で走らせる。

 

分析の結果、Gメモリーのために使っていた拡張領域(バススロット)は何か別のものにすげ替えられていたことがわかった。

 

「このデータは何だ……?」

 

詳細を調べようとしたが出された結果は『UNKNOWN』という表示だけで、要領を得なかった。

 

どういうことなのかさっぱり見当がつかない。

 

…いや、見当はついている。これはおそらく《G-entrasted》……G-soulのワンオフ・アビリティーが原因だ。

 

一夏の《白式》の《零落白夜》と同じく、かなりのデータ量らしい。

 

だけどそれが一体どうしてGメモリーを飲み込んでしまったのかがわからなかった。

 

いつかエリナさんも言っていたが、俺のG-soulの拡張領域は他のISと比べて、Gメモリーの容量を差し引いても十分すぎるほどに膨大だ。

 

それなのにG-soulはGメモリーを消して、ワンオフ・アビリティーで上書きした。それがどうにも解せない。

 

「こんな時は……」

 

制服のズボンのポケットから手のひら大のデバイスを取り出して、パソコンの横に置く。

 

「天才の助言をいただくとするか」

 

起動ボタンを押すと、デバイスの画面が光って篠ノ之博士のホログラムが姿を現した。

 

《呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! 束さん参上っ! えっくん、お呼びかな?》

 

「博士、ちょっと見ていただきたいところがあるんですが……」

 

《なになに? えっちなやつ?》

 

「いや、違います。俺のISのワンオフ・アビリティーが前からあったデータを侵食したんです。何か原因があるんでしょうか?」

 

《んー、確かこのISにはえっくんが作った装甲形態変化システムが組み込まれてるんだよね?》

 

「はい。それがワンオフ・アビリティーに書き換わったんです」

 

《多分これはISの自己進化のせいだね》

 

「自己進化? まさか、G-soulがGメモリーをいらないって判断したってことですか?」

 

《断定は出来ないけどねー。ISのコアはブラックボックス。私にもその全容はわからないんだもん》

 

話しながら踊るようにくるくる回る博士のホログラム。動きは人間さながら。

 

三日前に博士のホログラムがこのデバイスから出てきたときはとても驚いたもんだ。

 

ホログラム博士は本物の博士と比較して、思考パターンの一致率は99.9%。ほとんど本人と言っても差し障りがないらしい。

 

しかし残りの0.1%の違いは、曰く決定的であり致命的なんだとか。

 

それよりも重要なのは、どうして博士は学園に━━━━俺たちのもとにやって来たのか。

 

もちろん最初の疑問はそれだった。クラウンの放送の直後のタイミングだったんだから、何かあるはず!

 

と、思ったんだが、どうやらプロテクトがかかっているようで、ホログラムの博士にはまだ答えることは出来ないらしい。なぜそんなまどろっこしいことをするのか……。

 

博士が来た理由はおいおいわかるとして、もう一個重大な問題があった。

 

このデバイスをどうするか、だ。

 

なんとこのデバイス、ISのコアが発する微弱で特殊な電波を受信し続けないとデバイス内の全てのデータが消えてしまう。

 

そのISも俺の《G-soul》、一夏の《白式》、箒の《紅椿》の三機だけと指定されていて、その上博士は初期起動の後は俺か一夏か箒じゃないとデバイスが起動できないよう細工を施したんだ。

 

ここまで固めてくると、何があるのか知るのが怖くなる。

 

この時点でデバイスは誰が所持するのか選択肢は一気に狭まったわけだ。

 

箒に持っていてもらおうという案も出たけど、本人がそれを強く拒否。

 

一夏も、もし何かあった時に機械に強い俺の方がいいと言った。

 

そんなわけで俺がデバイスを預かる形になったんだ。

 

「なるほど……。仕方ない、Gメモリーのことは諦めよう」

 

《およ? いいのかい?》

 

「幸い、消えたのはG-soulの中のGメモリーのデータです。予備はしっかり用意してありますし、もう一度インプットして何か起こったりしたら大変だ」

 

《いい判断だね。けれど束さんとしては、この残った一つが気になるよねぇ》

 

「ボルケーノですか……」

 

無人展開されるG-soulの右腕を見た。

 

エリナさんに頼んで元あった右腕の装甲と換装したこのボルケーノブレイカー、のほほんさんの助言から作った、たった一つ残ったボルケーノのGメモリー。

 

《どうしてこれだけが残ったのかなぁ?》

 

「うーむ……………」

 

深く唸って、熟考する。あらゆる可能性を考えてから、一つの仮定を導き出した。

 

「G-soulはボルケーノブレイカーのことを気に入ってるのかも」

 

まあ半分冗談だけど。

 

《なははは! かもねー》

 

でも天才さんの評価は良かった。

 

「あくまで仮定の領域を出ませんけどね」

 

G-soulの無人展開を解除。ぐ〜っと伸びをした。

 

「さて、アリーナに行ってトレーニングでもするか」

 

《おっ! えっくんのせくしぃぼでぃが見れちゃうんだね!?》

 

「変なこと言わないでくださいよ……」

 

呆れ顔をしつつ整備室を出ると、箒と鉢合わせした。

 

「よう、箒」

 

「瑛斗か。ISの整備か?」

 

「まあな」

 

《箒ちゃん! やほー!》

 

手にしていたデバイスの上の博士が手を振る。

 

「………………ではな」

 

だけど、博士の姿を見るなり箒はぷいっと顔を逸らして行ってしまった。

 

「ま、待てよ箒。せっかくなんだ。何か博士に聞きたいこととか━━━━」

 

「話すことなどないっ!」

 

声を張り上げた箒に、次の言葉を封殺された。

 

「失礼する」

 

スタスタと足早に去っていく箒。

 

「あっ! おい、箒!」

 

《いいよ、えっくん》

 

呼び止めようとしたけど、博士に止められた。

 

「でも博士……」

 

《いいんだ。仕方ないよ。箒ちゃんの態度は、当然のものだよ》

 

「そんなことありません。箒だって、きっと博士と話をしたいと思ってるはずです」

 

《そうなら、いいね……》

 

ホログラムの博士は肩を落として落胆するような仕草を見せた。。本当によく出来ている。仕草まで人間そのものだ。

 

(でも……なんつーか、博士っぽくないな)

 

わざとらしく落ち込んだフリをするのはよく見たが、こんな風に本気でしょげ返ってる博士は見たことがない。

 

《……えっくん》

 

「は、はいっ?」

 

《お願い。私、箒ちゃんと話がしたい》

 

「って言われても………」

 

今しがた足蹴にされたばっかりだ。箒は博士を避けてるし、真正面からは無理な気が…………

 

「………………はっ!」

 

頭の中で電球に明かりがついた。閃いたぜ!

 

《えっくん?》

 

「いや、ここは真正面から真っ向勝負だ!」

 

 

「…………………」

 

瑛斗と別れた箒は、苛立った気持ちを抱えながら廊下を歩いていた。

 

(何をやっているのだ、私は……)

 

強く地面を踏みしめるその足取りは、どこか八つ当たりじみたものを感じさせる。

 

(あれでは、逃げたようなものではないか……!)

 

ぎり、と奥歯を噛み締めると、誰かとぶつかってしまった。箒の勢いに負けた相手は、尻餅をついてしまう。

 

「いたた……」

 

「す、すまない。大丈夫か……む?」

 

「ご、ごめんなさ……あ」

 

手を伸ばした相手は簪だった。

 

「簪、怪我はないか?」

 

「う、うん。平気」

 

簪は差し出された箒の手を握って立ち上がった。

 

「本当にすまない。前を見ていなかった」

 

「いいよ……。でも、どうしたの? 箒、怖い顔して歩いてた………」

 

「ち、ちょっとな。はは……」

 

はぐらかしてこの場を離れようと思ったが、簪は察したらしい。

 

「篠ノ之博士のこと、でしょ?」

 

「え……」

 

「本音から聞いたの。本音が虚とケンカした時、偶然通りかかった箒が話を聞いてくれたって」

 

「それは………」

 

「そのお礼、してなかった。だから、私でよかったら箒の話……聞くよ?」

 

「…………………」

 

箒は断ろうとも思ったが、話を聞いてくれるという簪の言葉は今の箒にはありがたいものだった。

 

「では、お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

箒は簪とともに人気の少ない学園の外れの広場にやって来た。

 

「簪、お前の言う通りだ。姉さんがいきなり現れたことに私は驚いている」

 

小さな池の中に小石を投げ込む。小さな波紋が水面に起こり、消えていく。

 

「みんな、驚いてるよ」

 

「相変わらず、姉さんの行動は読めないな」

 

「うん……」

 

自分から掘り下げていくことはせず、簪は聞いてくれる。

 

「そう、わからないんだ。私には、姉さんのことがわからない……」

 

自嘲的な乾いた笑いが漏れ出す。

 

「姉さんがISを生み出したあの時に、私の知っている姉さんは、篠ノ之束は消えてしまったんだ……」

 

「好きだったんだね、博士のことが」

 

「……ああ。大好きだった。いつも私の手を引いて、いろんなところに連れて行ってくれた」

 

ほんの少しだけ楽しそうだった箒の顔に、また暗い影が差す。

 

「だが……それも過去の話だ。私の知る姉さんは、もういなくなってしまったんだろう」

 

「そう、なのかな」

 

「どういうことだ?」

 

「私も……お姉ちゃんのこと、何も知らなかった。私のことなんて見てないって思ってた」

 

でもね、と続けるその横顔は、穏やかに笑っていた。

 

「お姉ちゃんは、ずっと私のことを考えていてくれた。想っていてくれた……。だから━━━━」

 

「だから、私の姉さんも………か。残念だが簪、それはない。姉さんは人とは違うんだ」

 

「箒……」

 

「そう……姉さんは人とは違う。違い過ぎる! ISで世界を作り変えて、何も言わずに一人でどこかへ行ってしまった……!」

 

絞り出すような声を漏らして、箒は簪へ顔を上げた。

 

「きっとあの立体映像の姉さんも、姉さんのほんの気まぐれなんだ。意味なんてありはしないんだ」

 

「そんなこと、ない……と、思う。今の箒は、昔の私と同じ」

 

「同じ……?」

 

「ありえない。きっとない。そうやって決めつけて、博士を……お姉さんを避けてる」

 

「それは姉さんが━━━━!」

 

「他人のせいにしてるのも、私と同じ」

 

「…………………」

 

言葉が詰まってしまった。

 

簪の言う通りではないか?

 

そう思ってしまう自分がいたからだ。

 

束と不仲になっているのは、自分のせいではないか?

 

そう思ってしまう自分がいたからだ。

 

「私の……せい………?」

 

言いようのない寒気がした。足がすくんだ。

 

「ち、違う……違う! 私が悪いんじゃない!」

 

認めたくなかった。

 

「箒……!」

 

「お前と楯無さんのようにはいかないんだっ!」

 

耐えきれなくて、走り出そうとした。

 

その時。

 

「見つけたぞ、箒!!」

 

後ろから、ザッ! という足音と自分を呼ぶ聞き慣れた声がした。

 

「瑛斗……一夏?」

 

瑛斗の隣には一夏がいた。

 

「どっか行ったと思ったら、こんなところにいたか」

 

「な、何の用だ? 一夏まで連れて来て」

 

尋ねると、瑛斗はデバイスを箒に突き出した。

 

「箒! お前に決闘を申し込む!」

 

 

「け……決闘、だと?」

 

「そうだ! 決闘だ決闘! 当然カードゲームなんかじゃねえ! ISでの真剣勝負だ!」

 

「それはわかっているが……」

 

面食らってる箒。いい感じに驚いてるな!

 

箒を探すこと十数分。一夏を捕まえてから来たから時間がかかったが、なんとかここまでこぎつけた。

 

「え、瑛斗……? どういう、つもり?」

 

箒の少し後ろで目を丸くする簪。まさか簪と一緒にいるとは思わなかったぜ。

 

「どうするもこうするも! 箒と俺の一騎打ちよ! 俺が勝ったら!」

 

デバイスを起動して、博士のホログラムを投影する。

 

「俺が勝ったら、箒、篠ノ之博士とちゃんと話をしてもらうぞ!」

 

《………………》

 

「姉さん……」

 

決闘という響き。箒ならこういう展開にノッてきてくれるはず!

 

と、思ったんだけど……。

 

「………………断る」

 

「んなっ!?」

 

箒は決闘の申し出を断ってしまった。

 

「どうして!?」

 

「お前との付き合いも長い。瑛斗、お前が私と姉さんのためにおせっかいを焼こうとしているのはわかっている」

 

ぎくっ。ば、バレてる……。

 

「お前が勝ったら姉さんと話を……と言ったが、私が勝ったらどうする? 目の前でそのデバイスを破壊してくれるのか?」

 

《箒ちゃん……》

 

「箒! そんな言い方……!」

 

「こればかりは一夏、お前と言えど口出しして欲しくない」

 

箒の口調は冷たく鋭い。まるで日本刀のようだ。

 

「決闘はしない。姉さんのことは、お前に全て任せる。あの時もそう言ったはずだ。これ以上、私達の問題に首を突っ込まないでくれ」

 

箒は俺の横を通り過ぎて行く。このままじゃ箒と博士の関係は何も変わらない。下手をすれば悪くなってしまうかもしれない。

 

(こうなったら……!)

 

腹を括った俺は、息を大きく吸った。

 

「……………逃げるのか? この臆病者!」

 

「……っ!」

 

よし、箒が足を止めた。たたみかける!

 

「なんだと?」

 

「自分からも、お姉さんからも、そうやって逃げ続けるのかって言ってるんだよ! この臆病者!」

 

「瑛斗、演技なのはわかっている。だが………だがな━━━━」

 

箒から殺気めいたものが俺に向けて放たれる。

 

「私を、怒らせたいのか?」

 

「……………!」

 

なんて気迫だ……!

 

(けど、ここで物怖じしてちゃ始まらない!)

 

「箒、もう一度言うぞ。俺と勝負だ」

 

「………………」

 

「箒、俺は受けた方がいいと思う」

 

「一夏……」

 

一夏が箒を後押しした。一夏には話をつけてある。このためにこいつをを連れてきたと言っても過言じゃない。

 

「確かに箒と束さんの関係が複雑なのはみんなわかってる。でも、いつまでもそんなに意地を張ってたら悲しいだけじゃないか。向き合うときが来たんだよ」

 

「向き合うとき………」

 

箒が考え込むように目を伏せると、ザアッと風が吹き抜けて、ポニーテールが揺れた。

 

そして、箒の目が開かれる。

 

「…………いいだろう。その挑戦━━━━受けて立つ。明朝、第一アリーナ。戦いの場はそこだ」

 

「……! ああ! わかった!」

 

「手加減はしないからな」

 

それだけ言って、箒は俺たちの前から去っていった。うーわ、あの後ろ姿、絶対怒ってるよ。

 

「…………久しぶりにヒールを買って出たんだ。感謝してくださいよ、博士」

 

《ごめんね、えっくん。こんなことをさせて………》

 

ホログラムの博士は申し訳なさそうにうつむく動きを見せた。立体映像とはいえ、博士が謝ってくれるなんて驚きだな。

 

「なあ、瑛斗」

 

「一夏、お前もわざわざ悪いな。けどお前の一言が効いたみたいだ」

 

「いや、それはいいんだけど……」

 

「大丈夫……なの……? 箒は…瑛斗と……」

 

「わかってる。俺も覚悟を決めるよ。これは博士のため、そして箒自身のためでもあるんだからな」

 

誰かと誰かのために、悪役を演じる。

 

前にもこんなことがあった。

 

あれは、ダリル先輩と戦った時のこと。あの時も俺はこうして憎まれ役になったんだ。

 

(ダリル先輩、きっと無事だよな……。いや、今は箒との勝負のことに集中しよう)

 

また強く、風が吹いた。

 

 

「ふーむ、フランスのデュノア社の引き込みは失敗か………」

 

高層ビル群の並ぶとあるの大都市。一際高いビルの最上階は、世界に宣戦布告をした男、クラウン・リーパーのオフィスとなっていた。

 

「あの会社、いい条件をチラつかせたら飛びつくと思ったのに。あの親子、なかなかの切れ者だ」

 

デュノア社からの書面を乱雑に机に投げ置き、椅子から立ち上がって窓の外に視線を投げる。

 

このビルは虚界炸劃の拠点と言っても差し支えは無く、IOSを使用した衛兵たちがビル周辺を見張る、クラウンの牙城であった。

 

「マーシャルもダメだったけど、呼びかけに応じる軍隊や傭兵はそこそこ集まってるし……………あれっ? もういいのかい?」

 

クラウンは窓に映ったご機嫌斜めなエミーリヤに気づいて、声をかけた。

 

「あなたの娘達に横取りされたわぁ。おかげで暇よぉ。年上への礼儀ってのは教えてないのかしらぁ?」

 

「そうなの? あの子達にはドイツに行くよう言ったんだけどな………」

 

「子どもの面倒くらいちゃんと見たらぁ? 大きくなったらグレるわよぉ?」

 

「善処するよ。そうだ、これを見てくれよ」

 

クラウンが指を鳴らすと、大型ディスプレイに黒いIOSが映し出された。 制作途中らしく、フレームが一部露出している。胸部装甲になりうる場所には、結晶━━━━ISコアが暗くが輝いていた。

 

「ちょうど、彼女のISをIOSに『変える』作業も終わりそうなんだ」

 

ソファに深く座ったクラウンは、楽しそうにエミーリヤに説明する。

 

「あらそぉ。面影は残ってるけど、結構変わってるのねぇ」

 

「《ヘル・ハウンドver2.5》改め、《ケルベロス》だ。彼女のISには面白い隠し玉があってさ。それを全面に押した改修を施してる」

 

「ふぅん。それにしても、IOSねぇ……」

 

画面の向こうの黒いマシンを心底不愉快そうな目で一瞥するエミーリヤ。クラウンは不思議そうな顔をした。

 

「どうしたんだい?」

 

「別にぃ。真実を知って少し胸が痛んだだけよぉ。でも、どうしてあのダリルって子だけなのかしらぁ? もっと連れて来れば退屈しないで済むのに」

 

「有象無象に用は無いよ。欲しいのは有用な駒さ。安心しなよ。シェプフとツァーシャにはこれからドイツに行って活きがいいのを何人か連れてこさせるつもりだ。君にも分けてあげるようあの子達には言っておく」

 

「あら、嬉しいわぁ」

 

「それにね、ダリル・ケイシーはこの春にIS学園を卒業しているんだ。それが彼に、ひいては彼の仲間にショックを与えるには効果的だと思ってね」

 

「まぁ、相変わらず悪趣味だことぉ」

 

エミーリヤはわざとらしく顔をしかめてから、クラウンへ近づいた。

 

「人生わからないものねぇ。私、あの女へ復讐するだけのはずだったのにこんなところにいるんですものぉ」

 

「エミーリヤ、君は更識楯無に関すること以外では存外まともな人間だ。いや、そういった感性を持つなら善良と言ってもいい」

 

「それはどうも。でも私、国家反逆者なのよねぇ」

 

「ああ。だからここに戦力として置いてる。IOSじゃなく、ISを用意して」

 

「ふふ……新しいISはとっても素敵よぉ。感謝してるわぁ」

 

クラウンの膝の上に跨り、その頬を撫でるエミーリヤ。彼女の右耳には、透明な色のイヤリングが光っていた。

 

「今なら、あなたを殺せそう……♫」

 

「やめた方がいいよ。君が俺を殺すより先に彼女が君を殺すことになる」

 

「……………」

 

振り返ると、扉の前には長い布で顔を隠した女の姿があった。

 

「あらぁ? ごめんなさい。あなたの旦那様をとっちゃったわぁ」

 

「お気になさらず。私と彼はそのような関係ではありませんので」

 

「もう、つまらないわねぇ」

 

取りつく島もない女に肩をすくめて、エミーリヤがクラウンから離れる。

 

「その通りだ。つまらないじゃないか」

 

立ち上がったクラウンは、軽やかな足取りで女に近づき、強く抱きしめた。

 

「やあやあおかえり! 会いたかったよ〜………」

 

クラウンは女の背中から腰へとどんどん手を下げていく。

 

そしてきゅっと引き締まった尻に手を伸ばかけた瞬間━━━━

 

「…………………」

 

 

ギリリッ!

 

 

女が、ヒールでクラウンの足を踏みつけた。

 

「い……っ!? たぁぁぁぁぁっ!?」

 

激痛に目を見開いたクラウンはゴロゴロと大理石の床の上を転がる。

 

「…お戯れも大概になさってください」

 

「バカな男ねぇ…」

 

布の間から覗く女のクラウンを蔑むような目。ついでにエミーリヤもゴミを見るような目でのたうち回るクラウンを見ていた。

 

「ひどいなぁ! ジョークだよ、ジョーク!」

 

「セクハラの間違いじゃないかしらぁ?」

 

一蹴されたクラウンは痛みに耐えつつ女との話を続けた。

 

「そ、それで彼女の様子は?」

 

「篠ノ之束に問題はありません。順調に活動を続けています」

 

「そうかい。それは何よりだ。クロエちゃんはどうした?」

 

「ご命令通り、虫の息になるまで痛めつけてから逃がしました」

 

行方は知れませんと女は続けた。

 

「あらやだ、暴力的だわねぇ」

 

「いいや、よくやってくれたよ。あの子のことだ。必ず彼らに加担する………そこでまとめて叩き潰すんだ」

 

ようやく足の痛みが引き、立ち上がったクラウンの顔に、邪悪な笑みが浮かぶ。

 

「まったく、気持ちがいいね。実に気持ちがいい。物事が思い通りにいくっていうのは。ククッ……」

 

その笑いに、エミーリヤは背中に氷を置かれたような感覚を覚えずにはいられなかった。

 

(この顔よ……悔しいけど、この男のこの顔に私は逆らえない……!)

 

「……さて、早速だけど君に新しい仕事だ」

 

クラウンは女の肩に手を置いた。

 

「僕は明日あの場所で彼と会ってくる。その間、君には前から話していたことをやっておいてほしい」

 

「わかりました。彼女はいかがしますか?」

 

女の目がエミーリヤに向けられる。

 

「いいや。あちらの戦力的に考えて君だけで十分だ。存分に暴れてくるといい」

 

「なぁに? 勝手に話が進んでないかしらぁ? 何をしようってのよぉ?」

 

「世間は俺の放送をスキャンダルか何かと勘違いしてるようだ。だから、こっちが本当に本気だってことを教え込もうと思ってるんだ」

 

「でぇ? 何をするのぉ? どこかに攻撃でもぉ?」

 

「………その通りだよ」

 

クラウンの悪魔のような笑顔が、さらに深く顔に刻まれる。

 

「どこなのかしらぁ?」

 

「IS学園だ」

 

一度動き出した悪意は、留まることを知らない。

 

 

本「インフィニット・ストラトス〜G-soul〜ラジオ〜!」

 

真「りゃ、略して!」

 

本&真「「ラジオISG!」」

 

本「は〜い、こんばんは〜! 布仏本音だよ〜」

 

真「あのあのっ! 布仏さん!」

 

本「なんですか〜せんせ〜?」

 

真「ど、どうして私たちが? これって桐野くんと織斑くんのコーナーですよね?」

 

本「あ〜、実は〜、きりりんとおりむーは会長たちにボコボコにされてばたんきゅ〜なのですっ」

 

真「そ、その代役で、私たちが?」

 

本「そのと〜りです。はい」

 

真「うぅ、緊張しますけど、そういうことなら頑張りますっ!」

 

本「じゃあ〜、質問に行きましょ〜!」

 

真「はい!」

 

本「グラムサイト2さんからの質問〜! のほほんさんと山田先生に質問です。洋服や下着を買うとき困った事ってありますか? ですって〜。わはぁ、えっちぃなぁ〜」

 

真「こ、こういう質問も来るんですね」

 

本「そだね〜、確かにお洋服は大丈夫だけど〜、下着はちょっとめんどいかな〜。可愛いのはサイズが合うのがお店になかったりするし〜」

 

真「ネット通販が便利ですよね! あ、でも届くまで時間がかかるのが玉にキズですね」

 

本「む〜、やっぱりもっと品揃えを豊富にしてほしい〜! お店で買いたいです〜! ほら、せんせ〜もっ、お願いしてくださいよ〜」

 

真「えっ? あ、は、はい。よろしくお願いします! …って、こんなのでいいんですか?」

 

本「大丈夫ですよ〜。多分」

 

真「た、多分ですか」

 

本「……あれ? もう時間〜?」

 

真「えぇっ!? も、もう終わりですかっ?」

 

本「仕方ないですね〜。それじゃあ〜」

 

真「み、み、みなさん!」

 

本&真「「さようならー!」」


 
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