No.778891

義輝記 星霜の章 その三十六

いたさん

義輝記の続編です。

2015-05-22 17:25:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1496   閲覧ユーザー数:1379

【 久秀たちの攻防 の件 】

 

〖 司州 河南尹 鶏洛山付近 にて 〗

 

久秀「手を離しなさい! これじゃ、颯馬を壊せないじゃない! その手を離しなさいッ! ──離せ! 離せぇ!! 離せぇえええッ!!」

 

ヒサヒデ「離サナイ! 絶対ニ──離サナイッ!! アノ時、声ヲ上ゲテ止メルダケノ『久秀』ジャナイ!! 颯馬ヲ壊サセナイ……! 颯馬ハ……モウ『久秀』ト関係ナイ……幸セナ生ヲ送ルノヨ!!」

 

久秀「何をバカな事! 颯馬は久秀のモノよ! 久秀の意志で、捨てると壊すのも自由なの! この久秀の中で……久秀の事を理解し、久秀の行動を見ていたんだから──分かるでしょう!?」

 

ヒサヒデ「………颯馬ハ玩具ジャナイ! 颯馬ハ……『久秀』ニ気付イテクレタ! 久秀カラ隠サレタ『久秀』ニ……唯一……手ヲ差シ伸ベテクレタノヨ! ソンナ颯馬ヲ……久秀ノ……私達ノ道連レナンカニ……サセナイ!!」

 

久秀「『お前』は忘れたの!? 颯馬は、久秀たちを見捨てたのよ!」

 

ヒサヒデ「忘レテイルノハ……久秀ヨ! 颯馬ハ『必ズ戻ッテ来ル』ッテ言ッタ! 日ノ本ノ地ニ……必ず戻ルト! 喚キ散ラス久秀ト……泣キ止マナイ順慶ヲ……抱キシメテ……強ク頷イタ!! ソレヲ……忘レタノ!?」

 

久秀「そんな事──知らない! 久秀は覚えてなんか──いないッ!!」

 

ーーー

 

二人の久秀は、言葉の応酬をし牽制し合い……互いに睨み付ける! 

 

久秀は颯馬の命を狙い、持っていた短刀を颯馬の胸に突き入れようと、力を込める。 だが、もう一人の『久秀』が、決死の形相で凶刃の阻止を図ろうと動く!! 

 

姿形、見た目、髪型が全部瓜二つの久秀たちだが……目的は全くの逆! 

 

颯馬の『命を奪わんと欲する者』と『命を護ろうとする者』に別れるのだ! 

 

ーーー

 

久秀「そもそも……久秀の中に居た『お前』が……どうして出て来れたのよ! 声をか細く上げて、久秀に愚見を述べるだけの『お前』が!?」

 

ヒサヒデ「久秀モ……知ッテイルデショウ? 人ハ……死期ガ近イト……精神ガ別レル事ガアルッテ?」

 

久秀「『影の病』の事? ふん! それを利用して……久秀の前へ出てきたわけ? じゃあ……久秀は……颯馬を壊す事に、躊躇しているとでも言いたいの? 何をバカな事を! 颯馬は、久秀のモノ! 久秀だけのモノなのよ!」

 

ーーー

 

二人の久秀が……互いに牽制、制圧、目的を達しようと動くが……同じ体躯、同じ考えを持つため、容易に決着がつかない。

 

通常ならば……体力的に後から登場した『久秀』の方に分がある。 

 

然りとて……刃物を所持し攻撃を仕掛ける久秀、その腕を掴み颯馬を守ろうとする『久秀』では、精神的に久秀の方が有利なのだ。

 

『久秀』が身体を得て、実際に動く事など……今回初。

 

しかも……まだ一刻(約二時間)も経過していない。 それなのに、早くも肉弾戦に突入するのは、些か無理が出てくる。 

 

★☆☆

 

光秀「───久秀が……二人!? そ、それに……貴女はッ!!」

 

半兵衛「………お久し振りですね~! 半兵衛さんも、こんな場所で会いたくたかったんですが~。 これも……颯馬さんに関わる者の運命ですかね~?」

 

久秀たちの間近に居る光秀は……自分を庇うように背を後ろに向けて、久秀たちの動向を注視する……『今は亡き仲間』へと声を掛けた!

 

★ーー★ーー★ーー★ーー★

 

『竹中半兵衛』……織田家の『羽柴秀吉』『黒田官兵衛』と何時も三人で過ごしていた天才的知将。 病弱の身の上で有りながら、戦場を往来し……戦場を己の死に場所と定めていた武人。

 

ほんわかとした帽子を被り、何時も柔和な笑顔を絶やさない(喀血も……)癒し系の将である。 

 

★ーー★ーー★ーー★ーー★

 

光秀は、唖然と様子を露わにし、半兵衛の手を後ろから握りしめた。

 

───ギュッ!

 

光秀「あ、温かい!? それに……生きている人と変わりないじゃないですか!? わ、私は……夢を見ているのでしょうか? 半兵衛殿が、数ヶ月前に病で身罷れた(みまかれた)と、颯馬から知らせを受けたのに──ッ!?」

 

半兵衛「そうですよ~? 病で伏せていましたら、部屋に天使さんが乱入して来まして~。 半兵衛さん、初めて見ましたよ……あんな立派な髭を生やし、異様な傾奇いた衣装の天使さんが……存在したんですね~!」

 

光秀「……………!?!?」

 

半兵衛「おや~? その天使さんに……軍学書を認め(したため)たんですが、渡して貰ってませんかね~? その後に……魂が完全に抜けてしまいまして……身体に戻れなかったんですよ~?」

 

光秀「───それでは!? 何故、ここにッ!? あの久秀と───関係があるのですかッ!!?」

 

半兵衛「今は……ちょ~ぉと話すのが難しいですから、後で説明しますよ~。 とりあえず……半兵衛さんは……既に『往生』しちゃてますぅ。 ……だけど、半兵衛さんたちは味方ですので、安心して下さいね~!!」

 

光秀「──────!」

 

ーーー

 

半兵衛は、何時ものようにニッコリと……後ろを振り向き笑い、光秀に笑顔を見せた後、久秀たちの様子を再び注視し始めるのであった。

 

 

◆◇◆

 

【 張譲の殺意 の件 】

 

〖 鶏洛山付近 にて 〗

 

颯馬を巡り争う久秀たちの周りには、唖然とする光秀、勝負の行方を見守る半兵衛たちが居る。 

 

しかし、その勝負の行方を見守るのは、半兵衛たちだけでは無い! 

 

ーーー

 

張譲「ヒ、久秀サマガ……二人ダト!? ダ、ダガ……理由ナド、ドウデモイイワイ! 久秀サマノ御所望ハ……アヤツノ命! 忌々シキ……アヤツヲ葬レバ……後デ何トデモナル! コノ世界ナド……スベテ終ワルノダカラナ!!」

 

ーーー

 

愛紗と凪の攻撃を受けたまま、張譲は……驚愕の表情を浮かべた。

 

しかし、次の瞬間には───何か行動を起こすため、自分の懐に手を入れて、黒い棒状のような物を取り出す。

 

張譲「コレヲ……放テバ……クククククッ!!」 

 

それは……古代から伝わる暗器(隠し武器)の一つ『匕首』 

 

張譲は数本取り出して、皺だらけの自分の口へ……一本を咥え、数本を手に持ち、投擲の構えを取る!!

 

ーーー

 

愛紗「同じ姿の者が二人……だと!? そ、それに───十常侍の一人、張譲は………既に死んでいるとッ!!?」

 

凪「別におかしい事はありません! 虎牢関の折りに、大規模な僵尸(きょんし)を出現させたのではないですかッ!? それよりも、張譲の持つ得物を───ッ!!!」

 

愛紗「───き、貴様ぁ! 一体何をッ!?」

 

張譲「見テ分カラヌノカ? 久秀様ニ楯突ク……愚カ者『天城颯馬』ノ命ヲ絶ツ為ヨ! 久秀様ノ命モ後僅カ。 ナラバ……久秀様ノ忠実ナ下僕デアル……私ガ成ス事ハ……コレシカアルマイ!!」

 

愛紗「光秀さま──! 天城様が! 天城様が危ない──ッ!!」

 

凪「む、無理です! 光秀さまも……もう一人の者に気を取られ……私たちに気付かない! な、ならば我々が………動くしかない!! ウオオォオオオ───ッ!! 動け、動けぇええッ!」

 

愛紗「ふ……普段なら……怖がる私だが! 恩人の危機を──こんな妖術如きで止められてたまるかッ!! ───私の身体よ! 動いてくれ! 天城様の命を救う為に、呪縛を破って動いてくれぇえええッ!!!」

 

凪「天城様が危ないんだ! 頼むから動いてくれぇえええッ!!!」

 

ーーー

 

愛紗と凪は、それぞれの得物で、張譲の身体を貫かんとする程の打撃を与えた! しかし、途中で身体の中心辺りで止まったと思えば、抜けない状態に陥る。

 

しかも、久秀の呪縛により……金縛り状態で動く事が出来ない!

 

そんな状態の中、張譲がある事を始め……それが、天城颯馬の命を狙う為の行動だと悟るには、時間が掛からなかった!!

 

二人は声を出せるので……叫んで知らせようと試みたが……全く声が届かない。 そもそも、知らせる場所が背中側になるため、声の方向が全くの逆!

 

また、身体は呪縛で動けず、首が動くので動かそうとしても、得物さら封じ

込められている為、背中側には中途半端な動きしか出来ない!

 

それに、光秀は半兵衛と話をしているので、気付く様子もない!

 

張譲「久秀サマハ……本当ニ……ヨク分カッテ……イラッシャル!」 

 

張譲は、愛紗たちの足掻く姿を見て……満足げな笑みを浮かばせる。 

 

先程咥えていた匕首は、片手に収めたらしく……一つだけ奇妙に濡れていた。

 

張譲「久秀サマノ術ガ掛カカレバ……身動キナド……一切デキナイ。 シカシ……貴様ラハ自由ニデキル! 何故ダカ……分カルカ?」

 

凪「─────!」

 

愛紗「───私たちを! どうするきだ!!?」

 

張譲「無知ナ下郎ニ……聞カセテヤル! ソノ……首ノ動キ、声ノ自由ハ……貴様タチニ……絶望ヲ見セ付ケレル為! 貴様ラノ嘆キガ……軍ニ影響ヲ与エ……崩壊ヘノ序曲ヘト……導ク事ニナルノダァ!!」

 

凪「止めろぉおおお───ッ! 私の事は、どうなってもいいッ! 天城様を……天城様を助けてくれぇ!!」

 

愛紗「私からも頼む! どうか────ッ!!」

 

張譲「………アノ世デ……己ノ力不足ヲ……悔メェエエエッ!!」

 

張譲は、片手で匕首を掴むと───颯馬に向かって投擲した!!

 

 

◆◇◆

 

【 左近の決断 の件 】

 

〖 同地 曹孟徳陣営 天幕にて 〗

 

 

順慶「サ、左近!? 貴女は何ヲする気──『黙っていなさい! 順慶殿、貴女を颯馬の下へ連れて行く!』───い、嫌ぁ! 颯馬サマに──見られたク無い!! 見られたクナいぃぃぃ────!!」

 

左近「ならば───後悔しながら死を迎える気か? 颯馬の奴を、アレほど執心した順慶殿が……それで納得して、世を去れると思っておいでか!?」

 

順慶「………うぅぅぅ…………」

 

左近「………私は、今のお家に居る前……筒井家の臣として活躍した! 順慶殿に、かなりの恩義があるが……その借りを返す前に、筒井家が潰れて、今のお家に仕えるようになった。 だから、最後の奉公をさせて貰うのさ!」

 

順慶「ワ、私は……左近ヲ……殺そうと………!」

 

左近「戦場往来で……敵味方に別れれば、生死をも分かつ事も止むを得ない! ……生きていれば幸運と言う事だ。 それに、生死を彷徨う(さまよう)元主君を見殺しにするのも……私の矜持が許さない!!」

 

順慶「左近…………!」

 

左近「私の陣羽織を顔に被れ! 顔を見せずに……会いに行くぞ!?」

 

順慶「い、いつノ間にカ……口調が……砕けたワよ………」

 

左近「ふん! 慣れぬ言葉を使うと……やっぱり苦痛だ! 兎に角、刻があまりない!  早く、参りますぞ!!?」

 

順慶「…………えぇ……!!」

 

 

◆◇◆

 

【 松永久秀の最後 の件 】

 

〖 鶏洛山付近 にて 〗

 

 

半兵衛「───あ、危ないッ!!」

 

久秀「────!」

 

ヒサヒデ「ソ、颯馬ァ───!!」

 

半兵衛の叫びにより、久秀と『久秀』の動きが静止し、光秀が動こうとするが呪縛が効いているため、反応する事ができない!

 

光秀「颯馬──ッ!!」

 

匕首は───無情にも狙い違わず、颯馬の胸に向かい飛んで行く!

 

──────ザザザッ!

 

??「───『秘剣 一之太刀』!!!」シュッ

 

─────キンッ!!

 

颯馬に当たる直前……匕首が瞬時に跳ね飛ばされる!!

 

ーーー

 

義輝「はぁ、はぁ! 危ないところだった! どうも……様子が変だと思えば……やはりか! 松永久秀……!! とうとう……相見えたぞ!!」

 

久秀「ふん……久秀の邪魔をする輩が……本当に多いわねぇ……。 貴女達、知らないの? 『人の玩具を欲しがる者は、久秀に謀られて死んじゃいなさい』って諺あるのに……」

 

ヒサヒデ「ソンナノ……アルワケ……ナイジャナイ!!」

 

信長「しかし……松永が二人? しかも……主は……!?」

 

半兵衛「お久しぶりです~! 後……あの人たちも……お願いします~!!」

 

ーーー

 

そこに現れたのが……足利義輝と織田信長!

 

『天城颯馬 健在!』の報が入っていたが、どうしても気に掛かり……三好長慶に任せ、駆けつけて来たのだった!

 

義輝「わらわは……あやつ……張譲と申したか? 颯馬を狙った不届き者を成敗してくれる! 信長は──!!」

 

半兵衛が指を差す方向には、張譲と対峙する愛紗たちの姿!

 

義輝は、颯馬に匕首を投げられた方向より、張譲が投げた者と判断。 愛紗たちの保護及び張譲を成敗すべく、歩を進める!!

 

信長「待てぇ! 周りを囲まれた………!」

 

義輝「なんじゃとぉ────ッ!?」

 

信長の警告に、歩を止めて見れば、先程まで疎らだった(まばらだった)傀儡兵が……義輝や久秀たち……張譲、愛紗たちも含む包囲網を作り上げる!

 

しかも、手にも持つは弩! 

 

弓よりも正確で、威力が高い射撃用武器。

 

一人、二人なら兎も角、数十人に取り囲まれた状態では、如何に剣聖将軍の異名を取る義輝でも……対象は無理。

 

しかも、久秀の妖術で動く者も出来ない者が居るのだ!

 

まさしく───全滅は必死!!

 

久秀「アーッハッハッハッハッ! だから……言ったじゃない! 久秀に謀られて死んじゃいなさいって! 人の言う事を……素直に聞く物よ!」

 

久秀が……得意そうに高笑いをした! 

 

見渡せば、周りの者たちの驚愕した顔が……此方を注視する!

 

久秀「ねぇ……颯馬? 久秀を置いて……この地に来なければ……こんな事にならなかったのよ! いえ……そもそもが……久秀を選ばなかった颯馬が悪いのよ! そう……思わない? ───天城颯馬!!!」バッ!

 

颯馬「………久秀殿………」

 

久秀が後ろを向けば、そこに……天城颯馬が……震えながら立ち上がり、腰の得物を抜いて構えていた!

 

★☆☆

 

久秀「……そのまま、久秀を斬ればいいのに……。 相変わらず甘いわね!」

 

颯馬「………い、違和感を感じていた。 このやり方、久秀殿の謀にしては……ぬる過ぎる! いったい……何を考えているんだッ!?」

 

久秀「それを察知するのが軍師よ? でも……颯馬には無理かな? 久秀の気持ちを踏みにじって、旅立った颯馬だもの。 分かるワケないよね?」

 

颯馬「…………俺は、大切な人を誰だか……知ってしまった! だから、久秀殿の玩具のままで居るワケには、いかなかったんだ! 俺は──『明智光秀』を生涯の伴侶に決めている! だから、貴女の束縛から……自由に──!!」

 

光秀「…………颯馬!」

 

久秀「聞きたくない! 聞きたくないッ! そんな事を久秀に言う為に、今まで動かずにいたの!? それとも……何か策でもあると言うの!?」

 

颯馬「俺は……戦で多数の兵を斬ってきた! 生き残る為に、他の者の命を踏み台にして……生きてきた! だが、女、子供だけは……斬らずに済まして来たんだ! 斬れば……俺は、俺自身を軽蔑しそうになりそうだから!」

 

久秀「偽善ね! 殺さなくては殺されるわ! 今まで、その行動で生きていたのなら、颯馬は運がいいだけ! こうして──殺されるだけよ!」

 

颯馬「……そうだ! だから──松永久秀! 俺は……貴女を斬る! 俺一人の後悔で、皆が救えるのなら! 俺は……貴女を斬り捨てる!!」

 

久秀「………ふ~ん、久秀が斬れるの? そんな軟弱な颯馬の考えで……この久秀が斬れるの! ならば、斬ってみなさい! 斬りなさいよッ!!」バッ!

 

─────ガチャガチャガチャ!

 

久秀が、片手を突き上げると……何人かの傀儡兵の弩が……颯馬に向けられた!

 

颯馬「───────!」

 

久秀「さぁ───迷っている暇は無いわよ! 久秀が上げた腕を下ろせば、一斉に放たれるわ! そうすれば、久秀諸共も全員の死は確実! 久秀を斬れば──颯馬が後悔するだけで済むわ! どうするの、颯馬!!」

 

あまりにも悠長な久秀の行動に……張譲が意見する!

 

張譲「久秀サマァ────ッ!! 私ニ……御任セ下サレバァアアアッ!!」

 

久秀「黙りなさい! 玩具の癖に──久秀の命に背いて、匕首を使ったわね!? しかも、自分で舐めた匕首を使用し、破傷風を発病するような手を使うなんて、久秀の真似事……まだ早いわよ!!」

 

張譲「─────!!」

 

久秀「久秀のやる事、黙って見ていなさい! 手出しなんて無用よ!!」

 

久秀に釘を刺され、押し黙る張譲!!

 

久秀は、颯馬が今だ構えたまま、自分を凝視するのを見て、最後の警告を発した!

 

久秀「これで───最後よ! 斬りなさい、颯馬!!」

 

久秀の言葉に……覚悟を決めて、刀を振り下ろす颯馬!

 

颯馬「久秀ど────『危ないッ! 天城さま!!』──!?」

 

颯馬は、刀を振り上げ直し──久秀を斬ろうとした時、愛紗の叫びが聞こえた! 急いで見れば、張譲が匕首を投げた瞬間!

 

張譲「久秀サマニ……害ナス輩ハ───死ネェエエエッ!!!」

 

颯馬は既に刀を振り上げて───久秀を斬るところ! 即ち、身体が流れているため、自分に向かう張譲の匕首を……分かっているのに……避ける事が出来ない! 

 

颯馬「────!!」

 

颯馬は、今度こそ───死を覚悟した!!

 

ーーー

ーーー

 

─────ドスッ!!

 

『────────!!』

 

──グラッ──

 

────バタン!!

 

ーーー

ーーーー

ーーー

 

声にならぬ悲鳴が上がる!

 

皆が皆───颯馬の居る場所に───注目する!

 

人が倒れる音が……ゆっくりと響く!!

 

ーーー

ーーーー

ーーー

 

颯馬「久秀殿─────!!」ガバッ!

 

颯馬は、自分を庇って匕首を受けて倒れた……久秀の傍に近寄る!

 

久秀「…………そ、颯馬…………」

 

久秀が……息を苦しげに吐きながら……颯馬に手を伸ばす!

 

それを見て、驚くのは……実際の当事者……張譲!

 

張譲「ナゼェ!? ナゼェ──天城颯馬ヲ庇ウノデスゥ………!!」サァ…!

 

張譲は、今までにない狼狽振りを示すが……後の祭り。 

 

久秀より力を貰う張譲は、自らの力の源を破壊した事になったため、程なくして……消滅する事になった。

 

最後の最後まで……悔恨と疑問に満ちた顔をしながら………

 

ーーー

ーーー

ーー

 

義輝「白装束の兵士共が……消えた?」

 

信長「張譲とやらも………な!」

 

ーーー

 

愛紗「────天城さま!」ダッ!

 

凪「あ、天城さま! お身体は───ッ!?」

 

ーーー

 

光秀「………颯馬」

 

ヒサヒデ「……………」

 

半兵衛「………久秀さん……」

 

ーーー

 

久秀は、颯馬を狙う匕首の軌道に入り、肩で受けた!

 

しかし……残り少ない命を妖術の力に変え続けた久秀に取って……既に致命傷と等しい傷である。

 

久秀の命が、風前の灯となったため、包囲網を結成していた傀儡兵も……喚き散らしていた張譲は………消滅。 

 

呪縛で動けなかった、凪や愛紗も自由に行動できるようになり、颯馬の下へと駆けつけてきた!!

 

ーーー

 

颯馬「久秀殿! どうしてぇ……こんな事を!!」

 

久秀「あ……ぁあ……颯馬が……早く久秀を斬らないから……こんな事になるのよ。 せっかくの計画が……台無し……よ」

 

颯馬「────どう言う事ですか?」

 

久秀「……久秀はね……考えたの……。 途中で『アイツ』に止められてね……。 久秀の欲しかった物は何なのか。 颯馬に寄り添っての……死を望んで……久秀が満足できるのかって………」 

 

颯馬「………………」

 

久秀「久秀はね……颯馬の身体じゃ無くて……『心』が欲しかったのよ! 何時も……久秀に笑い掛けてくれる……暖かい心が……。 真剣に久秀を思い叱ってくれる颯馬の心が………」

 

颯馬「………久秀殿……」

 

久秀「だけど……颯馬には……光秀が居るんだよね? 久秀の場所は……もう……どこにも無いんだよね?」

 

颯馬「……………」

 

久秀「だから……颯馬の手で……久秀を殺めるようにすれば……生涯……久秀の事……忘れないでしょう? 唯一……颯馬に殺された『おなご』として……颯馬の記憶に、心に居続ける事が……できる筈だったのに……な……」

 

颯馬「で、では……あの包囲網は!」

 

久秀「す……姿を具現化させる……だけで……精一杯。 力なんて……尽きちゃた。 そ、颯馬が……悪いのよ……変なところで……躊躇するから。 久秀たちを……見捨てたように……実行すれば……良かったのに……!!」

 

颯馬「………久秀殿! 俺は……生涯……忘れません! 俺に対等以上の勝負を挑んだ……稀代の軍師を……!!」

 

久秀「そう………そうなんだ……」 

 

颯馬「久秀殿……!!」

 

久秀「……良かった……。 か、必ずよ? 必ず……覚えていて。 颯馬に……もう……置いて……行かれるのは……やだ……。 絶対に……嫌なんだか……ら……ね……」ガクッ!

 

颯馬「───久秀殿ぉおおおッ!!」

 

『………………………』

 

 

 

ーーーー

 

天城颯馬を追い、管理者たちに利用されつつも……対等以上に接し、三国の時代に華麗な徒花を咲かせた……『松永久秀』は……こうして世を去る。

 

最後まで……執着をみせた……天城颯馬の腕の中で………

 

 

 

ーーーーー

ーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

この物語で……最大の悪役で出てくれました、松永久秀の最後となります。

 

別の『久秀』も居ますが……そちらは別キャラと云う事で。

 

なぜ……久秀が亡くなったのに『久秀』が居るのかは……次回にて。

 

次回の掲載は、6月の予定になりますので、よろしくお願いします!

 

 

 


 
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