No.77889

stage of gothic Part1

落葉さん

これは約二年前ぐらいにとある企画で漫画化もしたメダロットの二次小説です。

鎌足盧遮那と呼ばれる少年がゼロ、カオスと呼ばれる白と黒のKBTと共に面白い物を探して回る勝手気ままな物語です。
色々と無茶があるとは思いますが、よろしければ見ていってくださいませ。

2009-06-07 23:53:17 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:978   閲覧ユーザー数:908

 

Part1 The Gothic prelude

 

 

 ここはとある町にある駅前。駅はそこが都会であることを示すかのように大きく、駅の中に様々な店が所狭しと並び、様々な人々が各々の用事、仕事のために歩き、行き交う。

 一つでも多く、道行く客に品物を買わせようと店員達が競い合うように声を張り上げ、駅員は改札口や電車内で日々の激務をこなしている。

 駅の外もマンション、デパートなど大型の建物が数多く並んでおり、そこに面した道路の交通量も半端ではない。ただ、少しそこから外に出ると、打って変わって田園地帯や田舎風の家が建ち並ぶ住宅街などまだ発展しきっていない場所が広がっている。それは、ここは局所的な都会であると言うことを意味していた。

 しかし、それは悪く言えばであり、その田園地帯があるからこそ、その町は自給率が他の都会に比べて高く、そして局所的な都会があるからこそ何かを買うのに事欠かない持ちつ持たれつの関係を築いていた。

 表がこう華やかであると、それに比例した大きな問題も起きていた。その町では都会が内側にあり、田舎が外側にあると言うことから、都会の人間はここまで都会が発展したのは自分が外側の人間より優れているからだと慢心し、田舎の人間を頭の悪い「外側」と揶揄して、陰口を叩き、田舎の人間もそれに反発して、自分たちがいなくては自給自足が出来ないくせに威張る他人任せな「内側」と都会の人間を評した。

 それは「外側」と「内側」の人間の混ざった学校ではそれを理由としたいじめが多発し、子ども達の将来を脅かす重大な問題へと発展していた。

 そんな両極端な町に「外側」よりさらに外の別の町からそれを見物しようとやってきた者がいた。彼はその町の状況をコンビニの適当な雑誌を立ち読みしてそれを知り、自分にとっての「面白いもの」があるかもしれないとやってきたのだった。

 そして……その彼が白と黒の二人の従者を従えて電車から降り立った。

 

「なぁ、ゼロ。カオス。何か面白いことはないかねぇ?この町には」

 

 彼……鎌足 盧遮那が着く直前まで眠っていたらしく、目に目薬を点して目をすっきりさせながら白と黒の従者に聞く。

 

「俺に聞くな。知るわけがないだろう」

 

 白い従者 ヴァイスビートルと呼ばれる機種のパーツを付けたゼロがぶっきらぼうに答えた。ゼロと呼ばれた白の従者は武士のような性格をしているようだ。

 ヴァイスビートルはKBTとしては何から何までKBT型の仕様から外れていた。両腕にはライフルやガトリングのような射撃武器ではなく、肩に取り付けられた組み立て式の大剣を装備し、頭部に反射装置と格闘型の武器構成をしており、肩には加速、回避用の補助ブースターが搭載され、機体カラーも何故か白い。

 

「そうですね……私のデータベースではニュースにこの町にはゴスロリ小学生が注目を集めていると言うのがありますが……」

 

 黒の従者 カオスビートルと呼ばれる機種のパーツを付けたカオスが秘書のようにあらかじめ用意した情報を盧遮那に伝えた。

 カオスビートルはブラックビートルから派生機でメダチェンジする事でタンク型になるのは同じだが武器の構成はかなり異なっていた。

 頭部はミサイルが排してステルスと呼ばれる索敵妨害装置を装備され、ライフルはマニュピレーターを排された長大な物に変更し、ガトリングは威力よりも命中率を重視した造りになっている。

 ステルスは使用する事で完全隠蔽のように狙われなくなるパーツだが完全隠蔽とは異なり姿が消えない代わりに効果が長いのが特徴で攻撃の直前に使用して空振りを誘ったり、遮蔽物に姿を隠して、突然、消えたかのように見せかけるのが主な使い方だ。

 

「ん~趣味じゃない……。どうせなら合気道でフェアに勝負できたり口が達者な奴がいいなぁ。どれ、公園にでも行ってここで何をするかゆっくり決めよう。予定はあんまり立てていなかったし朝食も食べてない」

 

 そんな腹が減っては何とやらな理由で盧遮那達は駅の北口の近くにあった公園に移動することにした。この男、予定を組む事をせず、勝手気ままに行動するようである。

 盧遮那はコンビニで余ったメダロットパーツを売ると、それで出来たお金で朝食を適当に買い、近くにある公園へと移動する事にした。

 公園に到着すると、盧遮那はベンチに座って朝食を食べ始めた。公園はそれなりに広く、滑り台、砂場、ブランコの他にもアスレチックなど子供達の興味を刺激するものが数多く設置されている。しかしその割に子供があまりいなかった。今日は日曜日であり、子供たちがここで遊んでいてもいいような気がするのだがその気配すらなかった。

 盧遮那はそんな違和感に多少の疑問を持ちながら朝食を食べた。ゼロはその間にカオスにこの町のことについて説明してもらっている。少し時間がたつと盧遮那は朝食を終え、少し休む事にした。しばらくすると、なにやら足音が聞こえてきた。誰かが公園に入ってきたらしい。盧遮那はそれを気にする事無く休みを続けようとするが…

 

「そこでなにをしているのよ」

 

 突然、何やら高飛車な物言いをするリーダー格の女の子とその取り巻き4,5人が盧遮那達を取り囲んだ。

 どれもこれも少々、人相が悪く、礼儀に欠け、顔はお世辞程度にはかわいいと言えるかもしれないが、性格はよろしくなさそうな女の子達ばかりだった。

 盧遮那はとり囲んだ女の子が自分を満足させるだけの興味を持っていないと判断したが、仮にも高校生である自分がたかが小学四年生に取り囲まれて、ふんぞり返られるのは少々気に食わないと思った。

 盧遮那はベンチに横たえていた自分の身を起こすと、いつもの奇奇妙妙とした表情でリーダー格の女の子に目を向けた。

 

「何か用かぃ?」

「ここはあたし達のテリトリーよ。さっさと出て行きなさい」

 

 盧遮那が話しかけるとリーダー格の女の子が盧遮那を見下すような目で見ると指差して偉そうに歳不相応な命令をした。

 

「どこにそんなものが書かれているんだぃ?ついでに言うと、ここは公園で公共の場ですよ?君たちの私有地じゃないから、僕が咎められる理由はないねぇ。僕は、ちょっと休みたいだけなんだ。ほっといてもらえないかぃ?」

 

 盧遮那はこれ見よがしに辺りを見回すと薄ら笑いを浮かべた。

 

「イヤよ。あんたのような変態のために私達の努力の時間がなくなるなんて」

「努力の時間?」

 

 盧遮那は意味不明な単語が出てきたのでオウム返しをしてみる。するとそれを聞いたリーダー格の女の子はニヤリと口を吊り上げる。

 

「わかってないわね。注目を集めるための努力に決まってるじゃない」

「注目?さしずめヒロインにでもなろうとでも言うのかぃ?」

 

 ヒロインと言う言葉に反応したらしくリーダー格の女の子が胸を張り、腰に手を当ててウィンクという何かのポーズを取った。恐らく、モデルのポーズか何かと思われるが人相の悪い顔とポーズには似つかわしくない幼さが何もかもを台無しにしていた。

 

「そうよ!この私、「内側」の姫である甘城 民世はこの学校1のレディよ!皆には恐れ敬われ美しさも、強さも何もかもを手に入れた最強のヒロインなのよ!!今回はメダロットのお祭りがあるからそれに出場するための最終調整よ!!」

 

 それを見た盧遮那は民世に見とれるどころか凍りついた。何か見てはならないものを見てしまった。そんな様子だ。そして大きなため息を吐いた。

 

「はぁ…赤の他人の僕にそんな事言ってて恥ずかしくないんか?……オマケに無礼極まりないし」

 

 盧遮那のストレートな感想に民世はすぐにカッとなった。どうも気は短い模様だった。

 

「うるさいわね!!」

「……ハッ。それに何?ヒロインって?かわいいお姫様?悲劇の女戦士?着飾れば誰でもなれるものなのかい?それに見栄を張ったとこで僕がたじろいでいるとでも?僕も知らないけどヒロインと言う肩書きってのはそんな安い代物なのかな?」

 

 個人的にはヒーローだのヒロインだの名乗りを上げる事自体、恥ずかしいと思わないのかと考える盧遮那は肩をすくめ、両手を上げるいわゆるやれやれとしたポーズを大げさに取り、端から見ればやる気のなさそうな態度で返す。

 

「ならなんでいい歳した奴がここにいるのよ!?」

「そんなもの、辺りを見回したらたまたま、ここが目に入ったからやってきて、朝食食べたらお腹いっぱいになったんでちょっと休みたいなぁと思ったっていう事に決まっているじゃないか。何?俺が子供をさらう誘拐犯か何かかと思ったか?悪いけど、僕はそんな趣味はない。そもそもここに来たのは、僕を満足させるほどの面白いものを探すためさ。君たちには、その面白いものが感じられないからどうでもいいがね」

 

 激昂する民世に別にたじろく訳でもなく何事もないかのように盧遮那はゆっくりとした口調であっさり返す。その時、盧遮那は大きいあくびをしながら手で寝癖を整えた。

 

「き~!!もういい!!と、とにもかくにも覚悟なさい!」

 

 女の子は盧遮那にあっさり返されて、言葉がなくなったため、普通なら使う事はなさそうな言葉を口走って、ラストセーラーを転送した。取り巻き達も次々とメダロット達を転送した。転送されたのはセーラーメイツ、セーラーマルチなどまるでSLR型の博物館でも見ているかのような面子だった。

 盧遮那は嘲笑を浮かべるとベンチから重い腰を上げて立ち上がり、右腕に装着された白、左腕に装着された黒のメダロッチを交差するように構えた。

 

「(あ、ごまかした。おまけにほぼ辻ロボトルだし)……はいはい。ゼロ。カオス。このおバカさんどもにヒロイン以前にメダロッターとは何か教えてあげよう」

「おう」

「はい」

 

 ゼロとカオスは盧遮那の前に立つと大剣と大型ライフルをそれぞれ構える。

 

「やっちゃえ!!」

 民世の一言でSLR型全員が一斉にゼロとカオスに容赦ない銃弾の雨を浴びせかけた。数え切れないほどの銃弾は、公園にあった砂場の砂を舞い上げ、砂塵となってゼロとカオスの身を包んだ。しばらくすると一斉射撃は収まった。それに連れて、少しずつ砂塵が無くなっていく。民世たちは砂塵がなくなるのを待った。その顔には、自分たちの前に広がるのがゼロとカオスの残骸であると言う確信があった。現に機体の反応数が一体に減っている。それは少なくとも一体は撃破している事を意味していた。

 が、砂塵がなくなりかけた瞬間、いきなり砂塵の中からレーザーが放たれた。不意打ちを仕掛けられたセーラーメイツは回避しきれず、突然のレーザーに見事、頭部を撃ちぬかれて地面に倒れ伏した。

 

「何っ!!?」

 

 砂塵がなくなると、そこには大剣を盾にして構え、カオスを守るゼロとステルスを発動し、メダチェンジしてキャノンをSLR軍団に向けているカオスの姿があった。先ほどのレーザーはカオスが放ったもので機体反応数が減っていたのもステルスの影響だ。弾丸はゼロの大剣で全て弾かれていてゼロとカオスは無傷だった。

 

「ラストセーラー 一体、セーラーメイツ 二体、セーラーマルチ 三体。偏った射撃チームだね。しかもチームワーク最悪。これじゃ、本気を出すまでもない。ゼロ。カオス。メダフォース禁止で行こう。カオス。マルチ達にライフルで脚部を撃って足止めして、ゼロは隙あらば敵を適当に両断してしまって頂戴な」

「承知した。確かに大した事はないな。カオスの方が何倍も強い」

「了解しました」

 

 二体のKBTは指示を受け、走り出す。

 

「なめやがって!!」

 

 その間にSLR軍団がまたライフル、ガトリングを撃ってきたがカオスはそれを避けながら、ライフルをセーラーマルチ達の脚部に撃った。セーラーマルチ達は脚部を撃たれて、身動きが取れなくなった。そしてそこにゼロが現れ、

 

「オォォォ!!」

「嫌ぁぁぁ!!」

 

 大剣という破壊の力を持った得物を振り上げるゼロの迫力に恐怖し、悲鳴を上げてガトリングを放つセーラーマルチをゼロは手にした大剣で躊躇いなくティンペットごとまっぷたつに切り裂いた。

 

「メダチェンジしてレーザーを」

 

 盧遮那はニッと笑いながら指示を出すとカオスはメダチェンジをした。ライフルで素早くセーラーメイツの両腕を吹き飛ばして戦闘能力を奪う。

 

「高くからライフルでマルチの頭部を撃ち抜いて」

 

 カオスは盧遮那の指示に従って、メダチェンジを素早く解除してステルスを発動させた。

 セーラーマルチは必死に応戦するが熟練度がなく照準の出来ないその射撃はカオスには全く当たらず、青空にプラスチック弾が吸い込まれていくだけだった。

 カオスは力強く地面を蹴って、周りの木を伝い、高くジャンプすると華麗にムーンサルトをしながら、ライフルでセーラーマルチの頭部を上空から正確に撃ちぬいた。これで残るはラストセーラーと武器を失ったセーラーメイツだけだ。

 

「物陰に身を隠してステルスを起動しなおすんだ」

「はい」

 

 カオスはアスレチックの後ろでステルスを発動させた。相手からは隠れていた敵が突然、消えたかに見えるため民世は有り得ない事に驚く。

 

「なっ!?また消えた!!?」

「別の物陰に移動し、ライフルで頭を精密射撃だ」

 

 盧遮那の指示でカオスは隻眼のカメラアイを最大限に使用した精密射撃で敵の頭部を狙い撃つ。ライフルは敵の目を捉えて貫通する。セーラーメイツは為す術もなく倒れた。

 

「フィニッシュだ」

 

 すかさずゼロがラストセーラーに大剣を構えて走り出した。ラストセーラーは必死になってライフルとガトリングを一斉射撃するが、大剣が盾となり銃弾は大剣に弾かれていく。

 そして剣の間合いにゼロが到達すると大剣を体全体の力で振り回してラストセーラーを上半身と下半身とに綺麗に切り分けた。

 

「いやぁっ!?何で勝てないのよ!!?」

 

 女の子達はゼロとカオスにあっさりと倒され横たわるそれぞれのメダロットに駆け寄る。どれも完全に修理するにはかなりかかりそうな損傷ばかりだった。

 

「大口を叩いている割にたいした事ないね。ヒロインというのはやはりか弱いもんなのかぃ?そもそもセンスがないんだよ。センスが」

 

 盧遮那は呆れ口調で民世に逆に指差して嫌みを言う。

 

「キィ~!覚えておきなさい!次は倒してやるわ!」

 

 負けたヒロイン?グループは言い返せず捨て台詞を吐いてそれぞれのメダロットを回収して走り去った。

 

「はいはい。覚えてたらね」

 

 盧遮那は逃げたヒロイン?グループを、手をハンカチのようにひらひらさせて見送った。

 

「ルウ。どうでした?私は強くなれたでしょうか?」

「ああ。ゼロは動きにキレがあるし無駄がなくなってきてる。カオスも命中率が高くなったと思う。でも回避がまだまだだな。次はあの攻撃を余裕で避けられる程の動きを期待してるよ」

「はい!」

 

 パチパチパチパチ……

 

 盧遮那がゼロとカオスの批評を行っていると突然、小さな拍手が響いた。盧遮那はその拍手のする公園の入り口を向いてみると、そこには黒いドレスを着た……いわゆるゴスロリと呼ばれるスタイルの恰好をした女の子とその友達と思われる元気娘、そしてゴスロリ娘の黒い天使型のメダロットが盧遮那に歩み寄ってきた。

 もしかするとカオスの言っていた例のゴスロリ娘はこいつかと盧遮那は思った。

 

「なかなかの腕前ですね」

 

 拍手を終えるとゴスロリ娘が口を開いた。盧遮那は少し感心したような顔つきになった。顔は子供なのにどこか大人びていて、ドレスがかわいさと言うより上品さを引き立てており、目も普通の子供にはないものを持ち、只者ではないオーラを放っている。

 

「誰だぃ?君たちは??」

「失礼。名乗るのを忘れていましたわ。私は道明寺 桜。こっちは私のメダロットのエンジェルよ」

 

 盧遮那は一応、警戒したかのような口調で聞くとゴスロリ娘……道明寺 桜は思い出したかのように頭を下げると名前を名乗った。少なくとも見た限りでは、さっきのヒロイン?グループよりはよっぽどこちらの方がヒロインに見えた。

 

「ああ。何だかいたなぁ。雑誌にたまに取り上げられてんのを見た。何か大会の上位に常に食らいついているゴスロリ娘とかってあったかな。ああ。それと敬語を無理に使わんでもいい。礼儀さえ欠かなければね」

「わかったわ。そうさせてもらいましょう。雑誌か……。そんなこともあったわね」

 多少、会話していると今度は桜の友達と思われる元気娘が前に出てきた。こちらの方は体育会系らしく髪を短く切りそろえて男の子のような恰好をしていて、桜とは好対照な印象を持った出で立ちをしている。どうもカオスに興味があるらしく来た時からカオスを感心するように見ていた。

 

「あたしは真頼 志帆。すごいよね。君。この子がムーンサルトしているのを見たら感動しちゃった」

「お褒めのお言葉、痛み入ります。私達の自己紹介がまだでしたね。私はカオス。白いのがゼロでこちらが私達のマスター 鎌足 盧遮那です。私達はルウと呼んでいますが」

「うっわぁ~。すごく礼儀正しい子だね。あたしのヘッディーとはえらい違い。桜もそう思わない?」

「そうね。それにあなたは『白と黒の弾き手』なのね。道理で強いと思った」

「……そんな通り名なんぞもってたっけかな?」

 

 そういった瞬間、一瞬にして静寂が訪れ桜と志帆は驚愕、ゼロとカオスは呆れの表情をした。それを見た盧遮那は後頭部が痒くなったらしく後頭部を掻いている。

 

「ルウがそれを聞いてなかっただけですよ……」

「そうなんか?」

「そうだ。お前の耳が節穴なだけだ。俺はその通り名のおかげで強者と戦えるのだ」

「ふぅん。そう」

「(自分の通り名を自覚してないなんてある意味、大物ね)あのさ。メダロットのお祭りが

 

 今日、あるんだけど一緒にきてくれない?その中の大会で三人のメンバーが必要で、しかもそのお祭りに入場するのに少なくとも一人、十五歳以上の保護者っぽい人がいないとならなくて探しているんだけど」

 桜は自分たちが偶然見かけて盧遮那の所に来た本当の理由を切り出した。盧遮那は少々怪訝そうな顔をする

 

「んなもん。親にでも一緒に行ってもらえばいいんじゃないのかぃ?」

「今日、親がいないんだ。家にいる十五歳以上の人は両方とも親だけなんだよね。それに大会みたいなものだから生半可なメダロッターじゃダメじゃない?そこに都合よく十五歳以上そうでオマケに強いメダロッターが目の前に現れたと」

 

 志帆も何とか引き入れようといろいろと話してみる。盧遮那は無関心そうに相槌を打つだけなのだが。

 

「ふぅん……・」

「探しては見てるんだけど三人目が見つからないのよ。知っている人は皆、予定入っちゃってるし。それに私達、ちょっといろいろあってメンバー集めが大変なの」

「そうそう。強い人とかあんまりいないし(本当は恐くて桜と組みたくないと言う人が多いからなんだけど)」

「初対面の人間をそんなに信用していいのかぃ?別に僕が悪い奴だとは言わんが少しは警戒した方がいいんじゃないのか?そのうち誘拐されるぞ」

 

 盧遮那は念を押すように桜に問いかける。

 

「いいのよ。気に入ったから。もし誘拐されそうになったら返り討ちにしてやれるしね。その妙な態度や言動といい、不敵な笑みといい、私とは別の意味で変わり者だし。それに策謀家の様に戦術を組む頭の切れるメダロッターは、この町の人間にはそうそういないから……貴方、合気道やってたりメダロットのメンテを自分でやっているでしょう?」

 

 桜の鋭い勘に盧遮那はニッと笑った。これは面白そうだ。そんな顔をしている。

 

「よくわかるねぇ」

「私もやってるから目や手とか見ればわかるのよ」

「ふぅん。僕……いや、俺は確かに合気道をしているし、メダロットのメンテもしている。付け加えると内部パーツの微調整もやってる」

 

 盧遮那は桜を面白い人間と認めたらしく口調を変える。

 

「やるわね。私とは結構、気が合いそう」

「そりゃどうも。で、何をすればいい?」

「やるのか?」

 

 ゼロが怪訝そうな顔をして盧遮那を見る。盧遮那はゼロの方を向くと

 

「こいつに興味が出た。こいつに付いていけば何か面白いものが見られそうな予感がしてきたんでね」

 

 と笑いながら答えた。

 

「詳しくは調べられないだろうけど、保護者かどうか聞かれるからそこで貴方がそうだと答えればいいの。最近、児童誘拐事件とか多いから安全のためそうしているらしいのよね」

「OK。わかった」

「決まりだね。じゃ、行こうよ」

「そうね」

 

 盧遮那の承諾を聞くと桜と志帆はすぐに歩き出す。フッと笑い、少しため息を吐くと盧遮那も後を付いていく。

 

「ま、たまには保護者面するのも悪かないかね」

 

Part2:The Gothic March

 

 そんな訳で盧遮那は桜と志帆の保護者代役として付いていく事となり、盧遮那一行は公園から出ると盧遮那が出た駅の北口とは逆の方向にある南口へと向かった。

 南口を出るといろいろな店、雑居ビルが立ち並び人々が賑わう姿が辺り一面に見えた。北口が住宅街だとするならば南口は商店街と言うような印象を受ける。その中でも期間限定で出されているらしい一際大きい看板が目に入った。そこには豪華な装飾を施され、『町創立五十周年記念大メダロット祭』と大きく書かれていた。

 

「ここは五十年でここまででかくなったのか」

 

 盧遮那はせっかく現地の人と知り合えたのだから現地の人にとってはどうなのか聞いてみる事にした。すると志帆が答え始めた。

 

「そうだよ。あたし達の町は積極的に他の町の技術を取り込んでメダロットを作業員として組み込んでみたりと斬新なアイデアを編み出して短期間でここまで発展したんだ」

「…けど、内側と外側の格差が広がり溝も深まったわ」

 

 桜が少し声のトーンを落として得意げな志帆の後に言った。確かに三人の周りでは時折、内側と外側についての口喧嘩が起きていた。

 

「話には聞いていたが状況は深刻そうだな。そういや聞いてどうする訳でもないがあんさんらは内側か?それとも外側なんか?」

「私は内側で志帆は外側よ」

「違いは気にしないのか?」

 

 盧遮那は試すように桜と志帆に聞いた。それを聞くとすぐにまっすぐ盧遮那の方を見て、二人共、「全然、気にしてない」と同時に答えた。

 

「何でだ?」

 

 盧遮那はニッと笑いながらまた二人を試す。

 

「私は彼女のことをとても気に入ってるの。それに格差で友達を決めるなんてダメな奴がする事だわ」

「あたしも。だって友達を作るのに身分みたいなのなんて関係ないよ」

「なぁるほど。あんさんらみたいなのがいるならまだ希望はある。すまないな。少~し試させてもらったわな」

「別に謝らなくていいわ。興味があったんでしょう?立場が違うのに何故、そこまで仲がいいのかって」

「まぁね。実際、そういうのが珍しいこの世の中だ。悲しいことにな。そんな訳で面白いものを一つ見させてもらったぞ」

「もしかしてルウは面白いものを探すのが好きなの?」

 

 いつの間にか志帆が盧遮那のあだ名で呼んでいたが盧遮那は気にするようなそぶりを見せずに普通に答える。

 

「ああ。毎日が同じように見える学校に飽きて、何か普通でないもの…つまり面白いものを探したくなったのさ」

「へぇ。結構、変わり者なんだね」

「よく言われる。そのためなら努力は惜しまんよ」

「ですが勉強など面白くないものに対しては極端なまでに無関心ですけどね。帰ったら私がみっちり学力を付けて差し上げます」

「え?カオスって勉強も出来るの!?」

「え…まぁ…最初に読んだ英語版のキリスト教本が面白かったものでして…その…独学で高卒レベルまでちょっと…頑張ってみちゃいましたっ」

「うわぁ…すごいや!こんなにかわいくて賢いなんて~!」

「嘘…メダロットってここまで頭がよくなれるものなのね…」

 

 志帆が質問するとカオスが照れて急に恥ずかしそうな仕草をしながらも証明として、物理や数学の豆知識を披露したり、自分が普段どうしているのかを説明すると桜はその頭のよさに脱帽する羽目になった。

 メダロットが人間と同様に心を持ち、考えることは周知の事実だがさすがにここまで頭のよく、宗教をするメダロットなどそうそういないだろう。おまけにさっきの戦闘で見せたムーンサルトや射撃技術も加わると恐るべき文武両道のメダロットと言えよう。

 本当にまるで漫画に出てきそうな万能秘書のようなメダロットである。

 

「そういえば。ルウはいい歳して勉強は出来ないのね」

「はい。成績が、私が来る前は本当にひどくて頭がよくなった後、悲しいものを見たものですよ。実技以外は不真面目だったため、どれも五段階で2ですから。そして私が何とか教え込んで成績を3まで何とか成績を上げてあげました」

 

 再び、話題が、盧遮那が勉強できない事に向けられ、カオスがその実態を明らかにした。それを聞くと桜はエンジェルにできるか模索し、志帆はただ、ただ感動するばかりだった。

 

「……(私も今日からエンジェルに勉強の手伝いさせてみようかしら…?)」

「……(スゴすぎだよぅ…)」

「実技が出来るし専門学校に行けばいいからぶっちゃけどうでもいい」

「あ、開き直った」

「開き直った」

 

 盧遮那は棒読みで反撃を仕掛けるが会話に割り込んできたカオスに散々、痛い所を突かれた為、盧遮那は誤魔化そうとしても桜と志帆に笑われてしまい意味がなかった。

 

「うるさいなぁ。……ん?祭りってあれか?」

「ええ。そうね。行きましょう」

 

 会話をしている内に祭りの会場である『ロゼオパーク』に到着した。『ロゼオパーク』は町の創立十周年に建てられたもので町の象徴的な存在になっている。

 中は小規模なテーマパークになっており、様々なアトラクションが数多く存在している。そのため、休日は子供連れの家族やカップルでいつも活気に包まれている。

 さらに『ロゼオパーク』限定版のメダロットも発売されていてそれを目当てにやってくる人も後が絶たなかった。

 

「ルウ。頼むわよ」

「あいよ」

 

 盧遮那達はまずそれぞれのチケットを買い、パンフレットをもらうとパークに入るためのゲートに向かうことにした。ここの所、起きているロボロボ団等の組織への対策としてゲートは一箇所しか設けられておらず、そのゲート以外は塀や中の建物で囲まれているため、入るにも出るにもゲートからしか通れなくなっている。しかも入り口と出口は二列ずつのため、大勢で一斉に襲撃されるのを回避できる作りになっている。

 そしてそのゲートの前に桜たちが持ちかけた問題である受付係が四人立っていた。

 

「お客様、保護者の方はいますか?」

「ああ。僕ですよ。十六なので問題ないですよね?」

「ええ。この方々とはどういう関係ですか?」

「え~っと…」

 

 盧遮那は関係について考えていなかったため少々、考え込んでしまった。しかしその問題はすぐに解決されることとなった。

 

「ああ。従兄なんですよ。ね?兄さん」

「そうそう。桜の従兄なんだ。ね?ルウ兄」

 

 何と、桜が盧遮那は自分の従兄とデタラメをでっち上げた。内心、盧遮那はそれでいいのかと焦ったが仕方なくそれに合わせる事にした。

 

「ああ。そうなんですよ」

「わかりました。どうぞ。お通りください」

「…いつの間に従兄かよ」

「いいじゃない。私達、そういうのあまりいないし」

 

 盧遮那のツッコミを軽く流し、桜は盧遮那の右手を掴んだ。

 

「そうだよ。ね?ルウ兄」

 

 そして志帆は左手を掴んだ。その光景は両手に花……のように見えるかもしれない。

 

「あ~。やめろ。手をつなぐな!」

 

 盧遮那はいきなり繋がれた手を慌てて振りほどこうとした。が、外れない。全然。外れなかった。右は武術の達人。かたや左はスポーツの天才でありその力は並ではないようだ。

 

「いいじゃない。別に。この方がそれっぽいでしょ?」

「あ、もしかして彼女、いないから慣れてないとか?」

「…うっさい。変な目で見られるぞ」

「そう見られるのは貴方だけでしょう?」

 

 盧遮那が抗議をすると桜が悪魔っぽい笑みとともに無責任に言い放った。

 

「殺生な…」

 

 もはや諦めモードの盧遮那はとても哀しい口調で文句を言うしかなかった。

 ただ、盧遮那は気づいてなかったが幸いな事に親子連れや兄弟が同伴の人がかなりいたため、珍しくもなく別に笑われているわけでもなかったりする。

そんな事をしている内に『ロゼオパーク』の中央である噴水庭園に到着した。そこではカップルや家族連れが思い出作りのために道行く人に写真撮影を頼み、自分達の今を写真に収めてもらっている。

また、噴水は願いの泉などと呼ばれており、中には一円やら十円やら小銭が割とたくさん入れられてある。入れた理由は願いというより記念の意味合いの方が大きいようだ。

 

「で、これからどうするんだ?」

 

 天国なのか地獄なのかわからない光景から開放された盧遮那が気を取り直して、ここでの目的について桜に話しかけた。

 

「何でも世界ロボトル大会で優勝した有名人と戦えるイベントがあって、仮装して姿を消している有名人を探しだしてロボトルして勝てばレアパーツがもらえるからそれが欲しいの。ただそれには三人のメンバーを揃えて登録しないとならないのよ」

「だから、俺がいるわけか」

「そう。それで相手は一般人に変装して戦うらしいから、ただでさえ人が多いのにこれだと探しにくいわ」

「木を隠すには森にか。確かにそうだけど作戦は無い訳じゃないな」

「?」

「まずは登録しよう。話はそれからだ」

 

 盧遮那の提案でまず噴水庭園の近くにある案内所に入りそこにいる係員に参加の方法を聞く。それによるとまずメンバー三人で各々がメダロットを一体ずつ持たなくてはならないらしい。それを聞くと志帆が悩み始めた。彼女のメダロットであるヘッディーは今、人がたくさん居るテーマパークを避けているためいつ来るかわからないのだ。

 

「となるとちょっときついわね…」

「問題ないよ…あ~らよっと」

「え?」

「もし、志帆がピンチになってヘッディーが駆けつけた時はヘッディーを使う形にして、いない間はゼロを志帆に操ってもらおう」

 

 盧遮那はゼロを転送し、ゼロのメダロッチを外すと間抜けな言葉遣いで喋りながら志帆にそれを無造作に放り投げた。ゼロは自分のメダロッチの描く軌跡をただ見上げている。

 

「わ…っと。あ、あたしが!?」

 

 盧遮那が投げたメダロッチを何とか受け止めた志帆は突然の事に驚いた。

 

「同じ格闘型だ。やりやすいでしょ?」

「そうだけど…いいの?」

「構わん。盧遮那の指示ならお前に従ってやろう。心配するな。お前が強者なのは俺もわかる。力とは何も腕っ節が物を言うわけではない」

 

 戸惑う志帆にゼロが志帆の背中を叩き、素っ気ない口調で諭す。

 

「…わかった。やってみる。少しの間、よろしくね。ゼロ」

「おう」

 

 打ち合わせを終えた三人は登録を済ませると探す人間の情報を聞くことにした。そのターゲットとなる人間とは世界大会にて優勝を果たし、まだまだイッキほどではないが有名になりつつある有望なメダロッターであるらしい。

 メダロットはアークダッシュと呼ばれているアークビートルの強化型 アークビートルD(ダッシュ)だ。赤い機体カラーに重装甲の威圧的なフォルムに加えアークビートル系列の象徴とも言える高威力のビームが特徴的な重装甲射撃メダだ。

 

「相手に不足はないわね」

「ああ。俺は以前、旅して会った事はあるけど戦ったことはなかったなぁ。まぁ、いい機会なのは間違いなさそうだ」

「二人とも何、笑ってるのさ。とても強そうだよ…」

「私もちょっと…」

 

 早くも期待に胸を膨らませる桜と盧遮那を見て志帆、エンジェルは困った顔をする。

 

「志帆。心配するな。どんなものが来ようとも俺が必ず倒す。フッ…久々の強者だ……」

「わ~ん。ゼロまで~」

 

 ゼロはというと手をボキボキ鳴らして気合を入れていた。志帆はそれを見るともはや絶望気味の口調になった。そんなそれぞれの考えを胸に移動を開始することにした。

 

「で、どう探すのよ?」

「ああ。偶然に賭ける」

 

 桜が質問すると盧遮那は普通ならとんでもない答えをさらりと返した。

 

「え?」

 

 その瞬間、桜と志帆、エンジェルは大いに驚く事となった。それに対してゼロとカオスは盧遮那のやり方を知っているためか平然としている。驚く顔を楽しむように見ると盧遮那は理由を説明し始めた。

 

「こういうゲームは探そうとするから見つからないんだよ。それに、ターゲットの体格、顔、声は覚えているから、姿を見れば、一発でわかる。さらに言えばカオスの頭部には結構、性能のいい探索用センサーが一通り内蔵されているから周囲に何かあればカオスが感じ取ってくれるわな。ターゲットの声紋、顔の画像は前に行った旅で記録してあるし」

「探しものなら私にお任せください。移動の間に私が探し出しますので皆さまはとりあえずアトラクションにでも行ってみてはいかがでしょうか?」

「何か反則くさいけどそう言うなら貴方を信じるわ。どこに行く?」

「あんさんの持っているものを見ていて気に入ったんだがそれはここで売ってたりするのか?なかなか珍しそうな感じがして欲しいんだ。あるならそこに行けないか?」

 

 桜が聞くと即座に盧遮那が意見した。盧遮那はどうも面白い事の他に珍しいものを手に入れるのも趣味のようだ。

 

「いいわよ。私がこういう物の選び方を教えてあげるわ。ここには隠れた名店があるの。そこはいろんな形のメダロッチを売っているの」

「桜。今月は懐中時計型メダロッチに好きな文字を刻み込むサービスをしているんじゃなかったかな?」

「そうね。盧遮那。貴方、運がいいわよ。このサービスは滅多にないんだから」

 

 自分の持っている懐中時計を気に入ってくれたのに気を良くしたのか桜が得意げになる。その辺はまだまだ子供の一面を持っているようだ。

 

「ほぅ。『アンティークドール』と呼ばれるだけの事はある発言だね」

「お父様の趣味なんですよ~。桜の着ているこのドレスもお父様が用意なさったものなんです~」

「ふぅん。変わった趣味をしているんだなぁ…(つかちょいと度が過ぎてそうな予感もするが…。うっ…。想像はやめとこっと)」

 

 盧遮那が通り名について言うとエンジェルが桜とその通り名について付け加えるように補足する。それを聞くと盧遮那は桜の父親について想像してみる。が、想像していて何だかまずい領域に入ってしまった気がしたのですぐにその想像を無意識の闇に葬り去った。

 そんなやり取りの後、少しはりきっている桜を先頭に盧遮那達はメダロッチ屋に足を運ぶことにした。メダロッチ屋は、店自体は大きいのだが、入り口付近のショッピングモールの中でひっそりとやっており、簡単に見ただけでは気づかない所にあった。入り口に差し掛かるとショーウィンドウにメダロッチがいろいろと並んでいた。それだけを見ればどれも普通のメダロッチのように見える。

 桜に言わせるとそれはカモフラージュならしく早く入るように皆を促した。言われるままに中に入ると盧遮那は店内に驚愕することとなった。そこには様々な形のメダロッチが店中に配置された透明なガラスケースに飾られてあった。

 普通のメダロッチはもちろん、懐中時計型、ネックレス型もあり、さらには携帯電話型やベルト型など一風変わったものも置いてあった。

 なかなか規模が大きい工房があるため、装飾も多彩でカラーリングの変更、デザインの簡略化ができ、さらには何らかの彫刻や文字をメダロッチの蓋に刻み込んだり、客が持ってくる壊れた腕時計やネックレスをメダロッチと組み合わせるという匠の技が成せる独特のサービスも展開されているらしい。

 

「こいつはすごい…」

 

 盧遮那はガラスケースに飾られたメダロッチを見て、言葉では表現できないほどに感嘆とした。こんなメダロッチの匠の技があるとは正直、盧遮那はここで初めて知った。

 

「でしょう?私と志帆はここの主人とは顔馴染みなの。だからどんなサービスをいつやってるかも知ってるの」

「こりゃ、あんさんについてきて大正解だな。こんなものが見られるとは正直、予想していなかった」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

 少し会話しているとカウンターにここの店の職人ならしい厳つい顔をした黒人の大男が姿を現した。その大男は着ているツナギの上からもわかる程、筋骨隆々としていてそれでいて指は細く繊細な形をしており、細かい作業をする時に使うモノクルを付けているという動と静が混在した特徴を持ち合っていた。

 

「よう。嬢ちゃん達。ん?今回は彼氏連れかぃ?」

 

 黒人の職人は日本語を上手く使いこなして桜に話しかける。

 

「違うよ!ひどいなぁ!」

「そんな所です。グロスターさん。今回はちょっと彼が貴方の店のメダロッチを買いたいらしいんですよ」

「初めまして。鎌足 盧遮那といいます。彼氏って言うのは違いますが友達です」

 

 スケルツォの言葉に志帆は必死になって否定し、桜は冗談のつもりなのか肯定し、盧遮那は桜の発言に少々、苦笑しながら否定した。

 

「ほぅ。若いもんにしちゃ礼儀正しい奴だな。結構結構。俺はここでメダロッチの加工をやっているスケルツォ・グロスターってモンだ。何かほしいモンがあるかぃ?」

 

 スケルツォが盧遮那に話しかけると盧遮那は棚の端の方にあった時計を中心とした星の彫刻が彫られただけのシンプルな燻し銀の懐中時計型メダロッチを指差して

 

「これをもらえませんか?文字も刻んでほしいんですが」

 

 と頼む。それを聞くとスケルツォは加工についてのリクエストを聞き始める。

 

「どんな文字だい?」

「『The artist of white and black』とお願いします」

「白と黒の弾き手?どういう意味だい?」

「彼の通り名ですよ」

 

 スケルツォはどんな意味があるのか顔をしかめたが桜の一言で思い出して驚いた。

 

「何ぃ!?まさか大会にはほとんど出ないがその大会に出た奴をどこぞかで偶然、会っては叩き潰している『白と黒の弾き手』ってこいつの事だったのか!?」

「まぁ、そういう風になっているそうです」

 

 スケルツォが驚愕すると盧遮那はそこまで驚くほどではといった感じに苦笑する。

 

「かぁ~。面白いね!こういう職業はこんなサプライズがあるからやめられねぇぜ!よし!早速作るから待ってな!!」

 

 スケルツォは心を熱くするとカウンターから素早く姿を消して、すぐに作業に取り掛かった。直後に何やら大きな音がしたがそれを無視を決め込んで盧遮那達はその作業が終わるまで待つ事にした。

 

「随分と熱い人だねぇ」

 

 盧遮那はスケルツォの後姿を見送りながらそう呟く。

 

「まぁね。何て言うかメダロッチ作りに命を捧げているような人だからさ」

「そういえば…。カオス。ここに来るまでに何か反応はあった?」

 

 桜は思い出したようにカオスに聞いてみる。

 

「いえ。今の所、反応はありません。少なくとも入り口にいないと判断するのがいいかと思われます」

 

 カオスはそう答えるとこれまでの索敵の報告を始めた。それによると入り口にいないという事は誰かと待ち合わせをしている。ショッピングモールで買い物をしていると言う可能性がなくなるため、アトラクションに普通に乗って遊んでいる可能性が高くなる。

 よってここで用を済ませたならばアトラクションを乗ってみるのが近道のようだ。

 カオスの報告を元に盧遮那達は『ロゼオパーク』の見取り図を見ながら今後の計画を練った。そして次は中央広場辺りに行くのが一番と判断し、どのアトラクションに乗るかはそれからにする事にした。

 計画が決まった直後、スケルツォが盧遮那の刻印入りのメダロッチを持って、カウンターに戻ってきた。

 

「待たせたな!出来たぜ!!」

 

 盧遮那は代金五千円を支払うとスケルツォからメダロッチをもらった。メダロッチには確かに『The artist of white and black』と時計を中心に一周するように刻まれていて、その刻まれた文字によって盧遮那だけのオリジナルの懐中時計型メダロッチが誕生した。

 

「こいつは見事だな…」

「これでこの二つのメダロッチはルウと私の愛のペアウォッチという事になるのね?」

「さ…桜!?」

 

 盧遮那が感心していると桜が横から自分のメダロッチを見せびらかしながら爆弾発言を仕掛ける。それを聞いた志帆と盧遮那はかなりたじろいだ。それを見た桜はその反応を楽しむように

 

「冗談よ」

 

 と言った。そう言ったもののあまり冗談に聞こえない辺りが恐ろしい。

 

「勘弁してくれよ…」

 

 盧遮那は大きな大きなため息を付く羽目になった。スケルツォはそれを見て「若いねぇ」といいながら高らかに笑った。

 

 そんな騒がしいスケルツォの店を後にして中央広場に向かおうとした矢先、三人組の若者が盧遮那達の前に立ちはだかった。三人ともRR社の社章のバッジを付けRR者の制服を着ていて、唯一の相違点は顔と髪の毛がそれぞれ黒髪、金髪、青髪であるという点だけだ。そしてなんだか偉そうにしている辺りが少々、印象を悪くしてしまっている。

 

「鎌足 盧遮那。RR(ロボトルリサーチ)社上層部の命令でお前を連れに来た。おとなしく従ってもらおう」

 

 リーダー格と思しき背の高い黒髪が盧遮那を指差して高らかにセリフを言う。それは盧遮那をスカウトしようと追ってきたRR社専属のメダロッターであることを意味していた。

 

「なぁに偉そうな事を言ってるんだぃ?僕はあんさんらみたいな小物と群れるつもりもないし自分勝手なRR社に操られようとも思わないんだけど?」

 

 盧遮那は蔑みの目を短気そうな金髪の男に向けながら嫌な口調であっさり断る。

 

「何をっ!!」

「よせ。あれは挑発だ。ここでキレては奴の思う壺だ」

 

 金髪は前に出て拳に力をこめるが黒髪がそれを制止した。

 

「しかし!」

「…あれは何?」

 

 目の前に現れた乱入者について桜は乱入者に白い目を向けながら盧遮那に小声で聞いた。

 

「ああ。あれは将来、RR社のエージェントになる専属のメダロッターだ。俺をスカウトしようと必死にこいて付き纏ってくるんよ。ストーカーっぽく」

 

 盧遮那は肩をすくめるとどんなものか説明する。かなり呆れたような口調で説明する辺りかなりの嫌悪感を持っているようだ。それを聞くと志帆が嫌そうな顔をする。

 

「うわぁ。それは嫌だね。RR社ってただでさえ信用ないのにこんなんじゃ…」

「ええ。これはスカウトするにしてもやりすぎね」

「だろう?…桜」

 

 突然、盧遮那が桜を呼ぶ。

 

「何?」

「まず、あいつらの言い分を潰すぞ」

「OK」

 

 その言葉に桜はニヤリと笑った。

 

「何、ぼそぼそと話しているんだ!」

 

 盧遮那と桜が小声で話しているのを見て痺れを切らした青髪の男が叫ぶ。それに盧遮那はため息をつきながら睨む。

 

「うっさいねぇ。普通、RR社の社章なんか付けている奴なんていないからそれについて説明しただけだよ。ついでにいかにあんさんらが無能なのかをちょっとね」

「話は聞いたわ。貴方達ってただのストーカーなのね」

「違う!我々は誇りあるRR社の次期エージェントだ!!エリートである我々と貴様らなぞとは違うのだ!!」

「エリート?こうして一人の男に付き纏うのが?笑っちゃうわね。それにエリートって何なのか知ってる?あまりに上に行き過ぎちゃってる上に親や上司に期待されてそれに応えようとしてどういう風に見られているのかをビクビクしながら気にしていて、そのストレスを部下や身分の下の人に八つ当たりをするだけの見栄っ張りなのよ」

「何を!」

「わかる?初めから誇りも何もあったものじゃないのよ」

「それにスカウトって言うのはそうやって無理にやっていいものなのかい?そういうのを人は違法って言うモンだ」

「うるさい!我々はRR社上層部から許可を…」

 

 黒髪が、自分たちが来る理由を説明しようとすると終わらない内に盧遮那が嘲笑を黒髪に浴びせかけ、

 

「虎の威を借る狐って知ってるか?有力者の権勢をかさに着て威張るつまらない者って意味だよ。借り物の力でふんぞり返るようじゃ。エージェントなるものも堕ちたもんだな」

 

 盧遮那と桜という史上最悪のコンビが発する毒舌を喰らったRR社のエージェントは完膚なきまでに言い分を叩きのめされて全員、沈黙してしまった。それを見た志帆は「この二人を敵に回さなくて良かった…」と心底ほっとした。

 

「ええぃ!話し合いは終わりだ!二人共、行くぞ!」

「そうこなくちゃ!」

「ああ!エリートの力、見せてやる!」

 

 遂に黒髪が言葉による説得を諦め、力ずくで連れ帰ろうとメダロットを転送した。転送されたのはシンザンと呼ばれるKWG型の最新鋭機三体だ。

 

「言い分潰しはこっちの勝ちだな」

「ええ。序盤のペースは握ったわ」

 

 盧遮那が何故か既に勝利したような口調で呟くと桜も余裕の表情でそれに答える。志帆はそれを見ると右手で顔を覆ってため息を吐いた。

 

「…(この二人を止められる奴いるのかなぁ…相手の方が可哀想に見えるよ…)」

「さて、相手は大したこたぁない。三人でどれだけ上手く戦えるか試してみよう」

 

 盧遮那の言葉が合図だったようにゼロ、カオス、エンジェルが盧遮那達の前に立ち、それぞれの武器を構えた。

 

「行け!エース!奴らを叩き斬れ!」

「ヘカトン!エースの補佐をするんだ!」

「フォード!奴らをかき乱せ!」

 

 三人のそれぞれのメダロットは命令通りに行動を開始する。

 エース、ヘカトンはリーダー機であるカオスに攻撃を仕掛け、フォードはゼロの足止めを行った。エンジェルは武装群から大した事はないと判断され、ノーマークになった。

 

「カオス。回避してチャンスを待て」

「長くは持たないので早めにお願いします」

 

 盧遮那は、敵はリーダー機を集中攻撃する戦闘を行うと判断し、カオスに回避行動をとらせるとエージェント達に悟らせないように桜に目配せする。桜はそれを見るとフッと笑う。

 

「おとなしく従え!」

 

 フォードと呼ばれたシンザンはパイルバンカーを構え、叫びながらゼロに迫った。ゼロは少し横に飛んで回避し、

 

「断る!」

 

 答えながら大剣で空振りして隙だらけのフォードを吹き飛ばした。

 

「ゼロ!チャンスだから追撃して!」

 

 志帆の指示でゼロはさらに肩のブースターを吹かして加速し、追撃を仕掛ける。

 吹き飛ばされたフォードは壁に激突し、やっと止まって体勢を立て直した。

 

「はぁッ!」

 

 時は既に遅く追撃を仕掛けるゼロが気合いと共に無防備なフォードに袈裟斬りを放った。

 袈裟斬りはフォードの胸部、右肩部装甲を破壊し、深手を負わせた。

 

「ぐぁああぁっ」

「諦めるな!フォード!パイルバンカーをくらわせろ!」

 

 フォードは青髪の叫びに答えるようにパイルバンカーをゼロに打ち込んだ。

ゼロは回避しようと身体をひねったが間に合わずパイルバンカーはゼロの左肩を捉える。

 

「くっ…」

 

 ゼロは肩を押さえながら交代し、大剣を構え直す。その時、フォードは追撃を仕掛けようとソードを構えて走り出していた。

 

「ゼロ!」

「心配するな。ダメージは大きいが剣は持てる」

「無理しないでよ」

「わかっている。志帆、指示を頼む」

「こっちも反撃で行こう!」

「承知した」

 

 勢いに乗ったフォードは再度、威力の高いパイルバンカーで攻撃しようとした。

 ゼロは、それに合わせて反射フィールドを展開した。その反射フィールドにフォードはひるんだ。

 さらにフォードの背中に衝撃が走り、体勢を崩す。何とエンジェルが隙を見て、ライフルで狙撃したのだ。

 

「行っちゃって下さ~い~」

 

 エンジェルの声が合図であるかのようにゼロは素早く反射フィールドを解除し

 

「ゼロ!真っ二つに斬り裂け!」

 

 志帆の叫びで大剣を素早く振り上げ

 

「終わりだ…」

 

 冷酷な宣言と共に大剣は振り下ろされフォードは真っ二つになって倒れた。

 その近くにはティンペットまで真っ二つになったため傷一つ無いメダルがいつの間にか転がっている。ゼロが、メダルは斬らないように斬っている事を意味していた。それは絶対の自信と技術がなくては出来ない離れ業だった。

 それを見た桜は内心、舌を巻いた。これ程の実力を持ちながら、自分のように全国的に有名でないのはかなりおかしかった。いや、ここまで実力があれば何らかの大会の参加の手紙などが来てもいいはずだ。

 しかし桜自身、盧遮那が大会に出ているのを見た事がない。そのため、盧遮那は大会すら気まぐれに参加している事になる。それでも通り名が出来るというのはかなり稀有なケースの様に見えた。

 

 

 その一方、カオスはアクロバティックな動きで巧みに回避し、ガトリングで牽制しつつ、反撃の機会を伺っていた。

エースとヘカトンはがむしゃらに攻撃をしてみたり、連携もしたが全然、当たらなかった。

 仮に当たったとしてもエンジェルの回復、防御により修復、阻止されてしまうため。エンジェルももはや無視できない存在だった。

 

「何をしている!エース!奴らにエリートの力を思い知らせてやるんだ!!」

「ヘカトンも上手く援護をするんだ!」

 

 全然、当たらないことに黒髪と金髪は焦り始めていた。二体の装甲はまだ損傷は軽いがカオスのガトリング、エンジェルの狙撃で確実にじわじわと削られていっているのだ。このままでは間違いなく負ける。

 

「痺れを切らしたか。どれ。さらにイラつかせてやろう。カオス。ステルス発動!」

「はい!」

 

 カオスがステルスを発動させるとエースとヘカトンは一瞬、カオスが消えたような錯覚に陥ったため動きが止まった。

その隙を付いてエンジェルがライフルで脚部を撃ち抜いて機動力を低下させ、体勢も崩す。それを見たカオスは周り込んで、自身のライフルを槍に見立ててヘカトンの頭に突き、

 

「甘いです」

 

 撃ち抜く。ヘカトンの頭部は内部からライフルを撃たれたため、頭が吹き飛んで背部からメダルが出た。

 

「ジ・エンドだ」

 

 盧遮那が宣言するとライフルを構えたカオスとエンジェルが、大剣を構えて突撃するゼロがエースに殺到した。

エースは両足を撃たれて動かせなくされ、とどめとしてゼロが放つ回転斬りで上半身と下半身をきれいに分けられて両方とも地面に倒れ伏した。

 

「チェックメイトね」

「くっ…」

「おとなしく帰ってくれないかな?」

「そうはいかん!」

「見苦しい。脇役風情が出しゃばるな。てめぇらの手でやるならどうなろうが知らんぞ…」

 

 盧遮那は、まるで別人の様に雰囲気を変えた。狂気を宿らせ、刃物の様に鋭い目でエージェント達を睨み付け、身体からはおぞましいまでの殺気が立ち上らせ、拳を固めた。

 

「ひっ!!」

「さ、桜…」

「何なの…?あの異常なまでの殺気…」

 

 その光景にエージェント達、盧遮那が味方のはずの桜と志帆の双方が恐怖を感じた。

 

「失せな。命が惜しいならな…」

「うわぁあぁぁ!!」

 

 エージェント達は変貌した盧遮那に恐れをなして一目散に逃げていった。桜と志帆はあまりの恐怖で立ちすくんでいた。それに気づいた盧遮那は一瞬で殺気を解いて、いつものおかしな表情に戻った。それを見ると桜と志帆は体の力が一気に抜けて座り込んだ。

 

「あ、終わったぞ。すまんね。あんさんらまでビビらせちゃって。目で殺す方が早いかと思ったモンで」

 

 盧遮那はすっかり怒る前の状態になって罰の悪そうな顔をした。

 

「そうやるなら始めから言ってよ…。嫌なものをみちゃったじゃない…」

「ほんと…まるで多重人格みたいに頻繁に雰囲気が変わるわね…変わるのも早いし」

「まぁ、それももはや俺の個性だわな。はっはっはっは~」

 

 盧遮那の奇妙な言葉遣いを聞くと何故か盧遮那への恐怖が、暗示が解けたかのように消えた。盧遮那は桜と志帆に手を差し伸べて立ち上がらせると詫びのつもりなのかニッと笑う。そうすると桜と志帆に盧遮那が怒る前に戻ったような安心感が湧いてきた。

 

「さてと。ちょっと腹が空いてきたから何か食べないか?お詫びに奢ってあげちゃおう。メダロットのパーツを売り払うと金が大量に手に入るから財布の中は常に痛まないし」

「ほんと!?わ~ぃ!」

「そうね。お言葉に甘えさせてもらおうかしら。じゃ、私が気に入っている店に行っていいかしら?」

「いいぞ。高級なのは勘弁だがね」

「それじゃ、行こ~よ!」

「ふふっ。そうね」

 ご飯を奢ってもらえる事にはしゃぐ二人は店へとすぐに駆け出していった。盧遮那はその子供っぽい光景を見て、苦笑しながらそれを追う事にした。

Part3:The Gothic Toccata

 

 RR社の追っ手を追い払い、一段落付いた盧遮那達は昼食を取りにレストランを訪れた。

 レストランはショッピングモールの先にあり、噴水公園から南東に位置する所に堂々と建っていた。そこには主に和洋中のものがバランスよく、なおかつ幅広くそろえられており、この店があれば他のレストランは必要ないのではないかと思わせる程の規模を誇っていた。

 場所を取るためメダロットをしまって入ってみると様々な人数の客に対応できる様にある所には厨房と隣接しているカウンターに直接、席が取り付けられていて、またある所には団体用に広いテーブルが用意されていた。収容人数もただでさえ広いのに二階建てであるため相当の数の客が入れるようになっている。

 現に入り口から辺りを見回してみると従業員が客の食事をあちらこちらに運んだり、厨房で食事を作っていて、客が昼食を取ったり、雑談をして盛り上がって騒がしい様子を呈していた。

 

「こりゃ、すごいな。ちゃんと席、取れるかね?」

 

 盧遮那はどこもかしこも客でいっぱいの光景に少々、困った顔をした。

 

「取れるわよ。結構、広いから。ここは」

 

 勝手知ったる桜は盧遮那とは対照的に楽しみな顔をしている。志帆も何を食べるかを想像しているようで楽しみでたまらない様子だった。そうしていると従業員の一人が盧遮那達に気付いて歩み寄ってきた。

 

「いらっしゃいませ。何名様でいらっしゃいますか?」

「三名です」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 

 盧遮那が人数を答えると席が空いているらしく、従業員はすぐに座る席の案内を始めた。

 

「…割とすんなり行けるモンだな」

「言ったでしょ?広いって」

 

 割とあっさりとした展開に意外そうな顔をする盧遮那に桜がフッと笑う。

 そんな短い会話が終わると三人の席に到着した。三人の席は、普通のファミレスでもありそうな四人まで座れる所だった。従業員が盧遮那たちの席を綺麗にしてメニューを置くと次の仕事のため、盧遮那たちの席を後にした。

 それを見送った盧遮那は桜たちと共にメニューを開いて何を食べるか思案する事にした。

 

「私は、今日はあっさりしたいものを食べたいから…この『オイルサーディンのスパゲティ』にしようかしら」

「あたしは『クラブハウスサンド』!」

「俺は…この『無と混沌のブラックカレー』…」

「ええぇっ!?」

「正気?ここの激辛カレーは情け容赦ないわよ?聞いた話だとそれを食べて倒れた人間は数知れないって代物なのよ」

「ああ。俺は多分、正気だ。怖い物見たさって奴だな。それに無(ゼロ)と混沌(カオス)なんて俺のために用意されたようなカレーじゃないか」

「なら止めないけど…」

 

 そして三人はオーダーして待つ事、数十分。それは来た。

 桜にはオイルサーディンと色とりどりの野菜が乗ったパスタが、志帆にはクラブハウスサンドが目の前に現れた。

 盧遮那には…海の幸を具とした真っ黒なカレーが現れた。さながら白い米はゼロ。黒いカレーはカオスを表しているかのようだった。

 

「いただきます」

 

 盧遮那は合掌するとカレーを口に運んだ。桜と志帆はそれを、固唾を呑んで見守った。

 カレーを食べた盧遮那は…喉をつっかえないように少し水を飲みながら何事もないかのようにパクパクとカレーを食べていた。

 

「何をしているんだぃ?あんさんらも食べないと冷めるぞ?」

「か、辛くないの?」

 

 平然とした口調で喋る盧遮那に志帆が恐る恐る聞いてみる。盧遮那はそれに気付いて一旦食べるのをやめて、口の中のカレーを飲み込んでから答え始めた。

 

「辛いんだけど…まぁ、許容範囲内だな」

「貴方の許容範囲ってどこまであるのよ…」

 

 その答えに桜は眉をひそめて大きな大きなため息を吐く羽目になった。

 

「さぁねぇ?…試してみるか?お勧めはしないけど」

「じゃっ…じゃあ、少しなめるだけ…」

 

 志帆は恐い物見たさでカレーを少しだけ…なめた。すると…。

 

「……かっかかか辛っ!辛いっ!!辛い!!死ぬっ!!死ぬっ!!水!!水水水!!!」

 

 志帆は慌てて目の前にあった自分の水を飲み干した。それでも辛さが収まらないらしく、桜と盧遮那の水も急いで飲み干した。三つの水を飲み干した時点で辛さが収まり、志帆は何とか落ち着いた。この世の辛さとは思えない辛さを体感した志帆は息絶え絶えでぐったりとした表情になった。

 

「し、志帆……?」

 

 桜は恐る恐る志帆を呼びかけた。

 

「ルウ兄は何でこんな地獄みたいなのを食べられるのさ…」

「ははは~。それは俺も知りたいねぇ」

 

 志帆のダイイングメッセージに盧遮那は笑いながら答える。

 

「認めない…。こんなものを食べられる人がいるなんて認めないよ…」

「現にここにいるけど?」

「君は人じゃない…」

「ひどいなぁ。そういや、児童誘拐事件ってのは何で起きてるんだ?」

 

 人でなしと言われた盧遮那は急に気になったのか児童誘拐事件についてカレーを食べていない桜に聞いてみた。

 

「理由まではわからないわ…」

「ルウ。それに関しては私が説明します。気になったのでメダロッチ経由でネットにアクセスして調べておきました。昼食を食べながらお聞きください」

 

今はメダロッチの中にいるカオスは困っている桜に代わってメダロッチを介して説明を始めた。三人はカオスの勧めで食べながら聞くことにした。

児童誘拐が起き始めたのは五年前。とある小、中学生達が次々と消えて、行方不明になった事から始まった。

その親達は協力してあらゆる情報網を駆使して、居場所を捜索したが手掛かりすら見つからず、遂に二年後には打ち切りになった。

ところがそれから一年後、別の町にてロボロボ団が逮捕された際、何と誘拐された子供達がその中にいた。少年法に基づき、その子供達は親の下に三年ぶりに戻ったが、子供達は警察、セレクト隊にロボロボ団で何をしていたのかを聞かれたが驚いた事に誘拐されてからの期間の記憶が全くなかったらしい。

警察側は質問を変えて、誘拐されて何をされたかを聞いてみると、子供達は誘拐されてから金と引き換えに、誘拐した人間とは別の何らかの組織の人間に引き渡され、その組織に注射で薬物投与され、紫のチョーカーを付けられたと答えた。

警察とセレクト隊は子供達の証言から考えた結果、子供達は誘拐されて子供達を誘拐犯から買った『組織』によって、人身売買の商品として精神操作を行われて忠実な悪の先兵と化し、ロボロボ団などの人員不足に悩む組織にその子供達を斡旋し、その斡旋料で莫大な利益を得ているものと推測した。

 紫のチョーカーについては、押収して調べてみると、精神操作をするための超音波を発する機械が仕込まれていたらしい。

 この事から紫のチョーカーを付ける事で斡旋されてからも、それによって常時、精神操作を行い、子供達が任務失敗すると秘密漏洩を防ぐため、記憶を速やかに抹消する事がわかった。

 現に子供達を逮捕したセレクト隊員の証言ではその子供達は共通して紫のチョーカーを付けており、任務失敗した直後にチョーカーが勝手に外れて、子供達は自分が何故、ここにいて、何をしていたのかもわからず、混乱している様子だったという。

こうして警察、セレクト隊は子供達の僅かな証言を手掛かりにして、『組織』について捜査を開始した。

捜査を始めてはみたものの、証言から引っかかるのは子供を誘拐した誘拐犯のみで、『組織』を捕まえるどころか情報が全く得られず、誘拐犯を捕まえるのも一苦労だった。

 さらに誘拐犯を捕まえたとしても、誘拐犯は山小屋や廃ビルなど『組織』とは全く、関連性のない場所で取引するだけで、これといった情報が得られず、皆目検討が付かないのが現状だった。

その間にも小中学生は全国規模で誘拐されていて、年々、誘拐された人数が増えるばかりのまま今に至る。

 

「なるほど。なかなか厄介だな。それなら脱走しないし、捕まっても秘密が抹消されていて手口ぐらいしか足跡らしいものがわからないから、完全犯罪の構図が成り立つ訳だ」

「補足すると最近、この町でも起きていて、下校時は親が迎えに来たり、このテーマパークの様に保護者同伴で入らなければならない場所が増え始めています」

「なるほどな。だったらロボロボ団とかそういう大型の組織の幹部から吐かせるか、取引の記録を押収しない限り、組織の足取りは掴めんな」

「ええ。ロボロボ団などの大型の組織を完全に駆逐すれば出るかもしれませんが…」

「それなら天領イッキ辺りがやってるがねぇ…。それでも資料がないとなると誰かが持ち出している?…こいつは考えるのはもう少し落ち着いてからの方がいいかな…こりゃ。さて、次はどこに行く。俺はどこでも構わないけど」

 

 聞くことを十分に聞いた盧遮那はそれに関しての考えをまたの機会に考える事にして、話題を変えて次の予定について桜と志帆に聞いてみた。

 桜は予定を考えると何かに行き着いたらしく思い出したように頷いた。

 

「そうね…。城に行ってみたいんだけどいい?」

「そういえば増築が完了してもう営業再開しているんだったっけ?」

 

 それを聞いた志帆は同意するように頷いて補足する。

 

「ええ。それに城には忍者屋敷みたいに仕掛けがたくさん用意されているのよ」

 

 忍者屋敷みたいな仕掛けと聞くと城と聞いてた辺りからつまらなさそうにしていた盧遮那が興味を示した。

 

「ふぅん。なら一度見てみたい気がするな。その城は」

「じゃ、行きましょう。昼食を取るためにいなくなっている今がチャンスよ」

「うん!行こう!」

「あいよ」

 

 桜の提案で昼食を早めに終わらせて、三人は城へと足を運んだ。

城は普通のテーマパークのように赤やら青など派手な色を塗りたくって綺麗に仕上げたメルヘンチックなものではなく、石材などにある自然色で統一されていた。

 歴史ある古の城をイメージしているらしく、所々、ワザと石材を欠けさせたり、尖った塔などがなく、無駄に高く作らなかったりしてあった。古い城と言えば聞こえはいいが高くついた内装のコストとの釣り合いの結果とも考えられた。

盧遮那達が城の門まで来た頃、丁度、客があまり来ていない状態で門には若いカップルと親子連れが一組ずついるだけだった。

 

「ビンゴ!ってとこだねぇ」

「うん。これなら多分、あのカップルと親子連れ達の中に入ってそのまま行けそう」

 

盧遮那達は恐らくこの調子ならすぐに城の中に入れることであろうと予想して、とりあえず、次の番を待っているカップルと親子連れの後ろに並ぶ事にした。

 数分後、前の客と思われる親子連れ三組とまだまだ新米ならしい若い案内人が出てきた。

 子供が仕掛けで訳がわからないのはわからなくもないが、親と上司からマニュアルを渡されているであろう新米案内人までもが困った顔をしている所を見ると、かなり手の込んだ仕掛けが用意されていて、探検するのは楽じゃない事が容易に想像できた。

 

「次の方、どうぞ…」

 

 やや疲れ気味の新米案内人は次の客がいることに気づくと気を取り直して、盧遮那達を城の中へと案内した。

 大きな城門をくぐって城の中に入ると外の古臭いイメージとは裏腹に豪華な空間が広がっていた。石材でできた階段があれば、赤い大きな絨毯が敷かれていてその周りに色とりどりの花が植えられてある。その花の事も考えられており、花に直接、太陽光が当たるように窓が開けられている。

 調度品も割と豪華でどれも金や銀のメッキ処理が成されていて金銀の輝きを放っている。

 

「これだけ見れば、ただの偉い人の城って感じだな」

 

盧遮那は辺りを見回してみる。城は確かに豪華な装飾をされていて綺麗なのだが肝心のカラクリが見あたらなかった。カラクリというのは普通、目には見えない所に作るのだから当然と言えば当然なのだが。

新米案内人はこっそりマニュアルを読んで案内ルートを確認して、何やらハプニングが無いように祈ると僅かな威厳をかき集めて胸を張り案内を始めた。

その様子に親子連れとカップル、そして志帆は不安そうな顔をしながら付いていく。

ところが盧遮那と桜は違った。二人とも何か企んでらしく互いの顔を見てニヤリと笑う。

 それは悪ガキ達がよからぬ事を考えているのによく似ていた。

 それを見た志帆は、この幸運なのか不幸なのかわからないこの二人と知り合ってしまった自分の運命を今はかなり恨めしく思った。

 彼らは間違いなく、ここで厄介事を引き起こそうとしているのは盧遮那とは短い付き合いとはいえ自分の考えでは明白だった。

それの予兆のように盧遮那は案内人の目をごまかしながら壁をくまなく調べて、桜はどさくさに紛れて調度品を動かしてみたりしていた。

新米案内人は自分の仕事をこなすのに精一杯だったため、二人の企みに気づく事は全くなかった。

そしてその時は…来た。室内庭園が広がる場所で桜がレプリカの聖杯を持ち上げると下にあった台座が動いて…盧遮那、桜、志帆が立っていた床が突然なくなった。

 

「わっ!」

「あぁぁあぁ!!」

「やりぃ」

 

 あまりにもお約束すぎる仕掛けにはまった三人は穴に広がる闇に桜はスカートを押さえながら、志帆は半泣きしながら、盧遮那は罠にはまれた事をニヤリと笑いながら吸い込まれていった。

新米案内人は志帆の叫び声に気づいたが時は既に遅く、三人の姿はどこにもなく床もいつの間にか落ちる前と同じ状態に戻っていた。

 

「ま、また怒られる…」

 

 新米案内人は力無くそう呟いて立ち尽くした。周りの客もどうしたものかと困ったように辺りを見回していた。

 

 

 新米案内人の不幸の使者たる三人は床から落ちて地下で気を失っていた。

 地下は蝋燭の明かりだけが頼りの闇の空間が広がっていた。その闇の中で地面に落下した桜と志帆は目覚めた。

 桜は蝋燭を頼りに辺りを見回してみた。辺りは蝋燭が灯っている場所以外は全く見えず、ここがどういう場所なのかが把握できない。

 

「ん…少し気を失ってたみたいね」

「うん。ここ、どこかな?」

「さぁ?少なくともよくない場所のようね」

「おぃ」

「ん?」

「そういえばルウは?」

 

 会話をしていて気づかなかったが盧遮那の姿が見あたらなかった。桜と志帆は辺りを見回してみたが盧遮那の姿は全く見えなかった。

 

「潰してくれるなよ…このバカどもが…」

 

 もう一度、声がした。それは桜と志帆の真下から聞こえた。盧遮那は…セリフ通り、桜と志帆の下敷きになって潰されていた。声からしてかなり怒っている様である。

 

「わっ!!ご、ごめん!!」

「あら、なに這い付くばっているのよ?踏まれたいの?」

「んなわけあるか。あ~体がガチガチじゃないか」

 

 盧遮那は立ち上がると手を強く握った。するとバキバキッと手が鳴り、さらに腕を伸ばすとパキッと関節が治る音がして、最後に首を回すとベキゴキバキッとあまりよろしくない音が鳴り響いた。

 

「あ~すっきり」

「いったいどういう身体の構造をしているのよ。貴方は」

「ん?関節が外れやすくなっているんだよ。何故かね。おまけに背中の後ろで合掌できるし」

 

 盧遮那はそれを証明するかのように背中で合掌して見せた。その体の柔らかさに桜と志帆は驚きと恐怖を混じらせた表情をした。

 

「うわぁ…怖いよ…」

「そんな化け物を見るような目で見ないでおくれよ。それはそうとここ、どこよ?城の地下なのはわかるけど」

「わからないわ。とりあえず移動してみましょう」

「違いない。あと、メダロットは必要な時以外は出さないでおいてくれ。万一捕まった時の保険としてな」

「わかったわ」

「うん」

 

 何もわからない以上、ここで考えていてもしょうがないので桜の言う通り三人は移動を開始する事にした。

 松明の明かりだけでは心もとないので志帆はゼロを呼び出して頭部の鏡面装甲を光らせて懐中電灯代わりにし、先を進む事にした。鏡面装甲の光で周りが大体見えてきたので三人は周りを注意深く見てみた。

 周りはかなり古くなっており、昔からこの地下はあったという事を物語っていた。しかし松明が付いていたり、一部の道が修理されている所を見ると、ここを誰かが使用していて何かをしている事が容易に推測できた。

 

「ねぇ。子供の声が聞こえない?」

 

 しばらくすると桜が子供たちの泣き声が聞こえてきたような気がしたらしく二人を呼び止める。盧遮那と志帆は桜の言葉を確認するように耳を澄ましてみる。

 

「聞こえるよ。でもこれは…。まさか…」

「ああ。ここは誘拐犯のアジトと繋がっている様だわな。こいつはまずい展開になってきたな…」

 

 志帆の不安を読み取った盧遮那は志帆の懸念を説明するかのようなセリフを呟くと普段の奇妙な態度ではなく、かなり真剣な顔に変えた。

 

「一刻も早く、子供たちを探し出して脱出しましょう」

「ああ。気をつけろよ。そうとわかれば何が起きるかわからない」

 

 警戒しながら進んでいると突然、壁が回転してサーベルタイガー型のメダロット スミロドナッドが二体、前に立ちはだかった。

 

「やっぱ、こういうのもアリなんか」

「逃げましょう!こんな狭い道で戦ったらこっちが不利よ!!」

「いや、それにゃあ及ばないわな」

 

 不利と判断した桜は二人に逃げるよう促したが何か策があるのか盧遮那がニヤリと笑った。

 そしてスミロドナッドが襲いかかる。が、吹き飛ばされた。

 何といつの間にか志帆によってマッハマッシヴの両腕に換装したゼロが右腕、両足のブレードと左腕のハンマーを構えていた。

 

「こんな狭い道だからこそミサイルやレーザーみたいな重火器が役に立たないし。回避も難しい」

「一気に行こう!!ゼロ!!」

 

 盧遮那が説明を始めると志帆の指示でゼロが駆け出す。スミロドナッド二体は果敢にこれを迎撃しようとソードを構えて襲いかかる。

 

「なら、こちらもそれが出来るゼロにやらせればいい」

 

 盧遮那の説明は続く。三体のメダロットが剣を振るう。そして剣と剣がぶつかりこすれるけたたましい音が通路に鳴り響く。

 その結果、ゼロは右手のソードで一体を止め、もう一体の腕を足のブレードで受け流した。

 

「そのままハンマーを叩き込んで!!」

 

 手の空いた左腕で、ソードで受け止めていた一体にハンマーによる渾身の一撃を頭に叩き込む。ハンマーを叩き込まれた一体は壁に吹き飛ばされて機能停止した。

 

「反射で待ち伏せて反撃するんだ!!」

 

 受け流しされたもう一体が攻撃力の高いソードで再び襲いかかる。それを見たゼロは反射フィールドを展開した。

 反射フィールドが張られるとスミロドナッドは反射を恐れて怯む。それにより隙が生まれた。

 ゼロはそれを逃さずソードで胸部を切り裂き、振り切るとすかさずサマーソルトで追撃を仕掛ける。

 

「ゼロは近接武器なら何だって使いこなす武芸の達人なんでね」

 

 盧遮那の説明が終わった頃には三回の斬撃を受けたスミロドナッドは戦闘不能となって倒れた。戦闘を終えたゼロは腕を元に戻してもらうと盧遮那の方を向いた。

 

「このまま正面突破でいいか?」

「ああ。派手にやっておくれ。どうせ見つかってるから早いに越したことはないね」

 

 盧遮那の言葉と共にゼロの突撃が始まった。

 見張り用のメダロットがスミロドナッドの様に二体一組で何度か襲ってきたがゼロは狭い空間にも関わらず、大剣を振るい、必要に応じて、志帆が手持ち武器だけを威力は大剣より劣るが振りの早いシンセイバーのコテツザンゲキに変更したり、マッハマッシヴの両腕に換装して素早く斬り捨てていく。

 

「志帆。お前の武器換装は的確だな。お前のメダロットならしいヘッディーはいいメダロッターに恵まれたものだ」

「大した事はしてないよ」

「謙遜するな。お前は強い。機会があればお前とヘッディーに手合わせを願いたい」

「はい。勝手に話を進めない。目的地に着いたぞ」

 

 戦闘をしながら話をしていた志帆とゼロは盧遮那にたしなめられて全員は前を見た。

 そこには城にはつき物の牢獄に何と六人の子供達が閉じ込められていた。

その子供達はかなり最近にさらわれたらしく服があまり汚れてはおらず、栄養失調でないためか顔色は割とよかった。そして、何故か全員、眠っていた。

盧遮那は牢獄の施錠を調べてみた。指定されたナンバーを揃える事で外れる南京錠と鍵を差し込む事で鍵が外れる普通の錠前が付けられていた。

普通の錠前ならピッキングでいけるかもしれないが南京錠では誘拐犯から情報を得ない限り開ける事が出来ない。

 

「来たまではいいが、こりゃ、面倒だな」

「ええ。やはり誘拐犯を探し出すしか…」

 

 桜は喋っている途中に倒れた。盧遮那は不審に思って桜を見た。見ると子供達同様、眠っていた。

 

「何か眠い…」

 

 今度は志帆が倒れて眠りだした。その様子を見て盧遮那はどうなっているのかを確信した。が、時は既に遅く盧遮那も意識が飛びそうになっていた。

 

「…睡眠ガスか。う…か…つ…」

 

 その言葉を最後に盧遮那も倒れた。

 

 

 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
1
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択