No.774284

Sitting on Top of the World

がいこつさん

書きはじめた頃は春キャベツが出たてでした。

2015-04-30 00:57:17 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:614   閲覧ユーザー数:612

 

 近在、といっても鎮守府からはバスに揺られて山を越えた先にあたる、の農村から収穫したての春キャベツが届けられたということで、妙高型姉妹にも一部が振る舞われた。一部でも大玉で六つ、四人姉妹だからひとりあたま一玉半ということになる。

 いかにもみずみずしそうなあわい黄味を帯びた緑の目にやさしいキャベツの姿とはうらはらに、なかなかすべて食べきるにはほねの折れそうな難物だった。

 黒い波が護岸を削り取るように打ち寄せる海と日々向き合わざるをえなかった冬を越え、目にしたいかにも魅力的な春の訪れであっただけになおさらだった。

「腕の見せどころじゃないか」

 うららかな早春の木漏れ日を思わせるほがらかな笑いに、冬山の人を寄せつけない氷壁のような断絶を同居させられるのは那智くらいなものだろう。

 料理のからきしなこの次姉は、はなから自分の専門外と傍観者を決め込むつもり満々だし、

「足柄姉さんの料理はおいしいからなんにでも合います」

 末の妹はお世辞だか白旗だかわからないものを振りまわして敵前逃亡、隣でうんうんとうなずいている長女も似たようなものだ。

 けれども、足柄さんはここで反駁したりしない。

 むしろ春キャベツに最適のレシピはなにか頭の中で素早く考えはじめるのが足柄さんだった。

 

 鶏のもも肉のクリームシチューに最近はサトイモを入れるのが足柄さんの中でひそかなブームだった。噛んだ際のほろりと砕ける独特の食感という点でジャガイモの利点を認めないわけではなかったが、煮崩れしないサトイモはシチュー自体の舌ざわりを邪魔することなく、おまけに腹にずしんと響くボリュームを与えてくれ、プラスが多いように感じられた。

 そこに、鶏の骨離れよく、それでいて弾力を失わないもも肉が加わると、噛みしめるたびに異なる感触が口の中でおどり、「食べている!」という満足を強くできた。

 足柄さんはそのシチューに春キャベツを投入した。水分の多い葉ものだが、春キャベツは甘みも強いため、濃厚な牛乳の味わいを薄めることなくむしろコクのひと味を追加してくれた。

 やわらかな繊維質がシチューのとろみを補佐してくれるのも嬉しく、これは当たりだった。

 それに気を良くしたというわけでもないが、翌日は春キャベツをふんだんに使ったエビのマカロニグラタンにした。

 昨日のシチューで合うのはわかっていたおかげで、ホワイトソースの味もさほど悩むことがなかった。やや小麦粉多めで作りたっぷりの春キャベツを入れた。

 オーブンから出したてのキツネ色に焼けたチーズの焦げと、ホワイトソースとマカロニの乳白色、エビの朱色にキャベツのうっすらとした黄色が目を楽しませてくれる。

 はじめのうちはそのままハフハフと、容器の熱気ごと口に入れるつもりでぱくつき、マカロニの喉越しに目を白黒させつつとろける味わいに舌鼓を打った。

 エビのぷりぷりした歯ごたえと春キャベツのやわらかさはお互いによいアクセントになり、キャベツがエビの奥にある甘みを引き出してもくれた。

 牛乳系の料理が二日続いたので、その次の日はコロッケに挑戦してみた。キャベツを使ったひき肉料理は、以前餃子で大失敗した覚えがあるので、その雪辱戦という意味も含めて挑んだ。

 水気を十分に切ったキャベツは思った以上に中身を蒸らしてくれて、ボリュームの割りに重さの少ないふんわりコロッケに揚がってくれた。

 これをたっぷりのソースにくぐらせて、ご飯に乗せていただくと、かっ込むつもりもないのに白米が後から後から入って止まらなかった。

 これで三日間。かなり贅沢に使ったつもりだったが、厨房には大玉がまだ半分以上残っている。

 

 さすがに疲れた。

 料理をすることがというよりは、決められた材料で、なるべく早くというのがプレッシャーになっていた。

 せっかくのいただきものだからできるだけおいしく頂戴したいというこだわりも、じわじわと足柄さんを苦しめた。

 ひさしぶりの非番で、洗濯も掃除も済ませたというのに、いまいち気持ちがすっきりとしてくれない。

 ほかにだれもいない居間で、大の字に横になってみても、妙に神経が張り詰めて眠気に身を任せるつもりにもなれない。

 寝そべったまま伸びの要領で背筋をそらせてみると、喉の奥からウシガエルの悲鳴を高くしたような声がもれる。ほとんど首だけでブリッジの体勢をとり、見るともなくあたりを見ていると、窓の外に視線が行った。

 早春には珍しく、深い青色の空が広がっている。普段見慣れたあの海のように、底抜けで果てしも知れぬ青さだった。海と唯一違うのは、空には身をおびやかす不気味な脅威が一切ないということだ。

 だしぬけに足柄さんは起き上がり、改めて窓から空を見上げた。何度見返してみても見事な快晴だった。

 不意に足柄さんはこうして部屋の中でくすぶっているのに猛烈な馬鹿らしさを感じた。

 

 思い立ったが吉日ではないが、決心すれば行動に躊躇いがないのが足柄さんの長所である。

 デニムにカッターシャツだけのラフな格好に、足もともヒールの抑えめのミュールで、早春というよりは初夏の装いだが、本人まったく気にしていない。そこにバスケットをひとつ携えて外にくり出した。

 もっとも町に足を伸ばすつもりはない。駅前行きのバスは、朝夕のラッシュ時のほかは本数も少なく、これからでかけたとしても向こうで過ごせる時間がろくにとれないから、あわただしいだけになってしまう。

 そこで足柄さんが向かったのはバス停留所のある表門とは反対の、鎮守府庁舎別館の裏手から山肌に沿う、ぶなやくぬぎが枝を迫り出させた自然のトンネルだった。かなり急勾配の小道を一歩ずつ確かめるように上る。やがて別館の屋根が眼下にうかがえるようになった頃、やにわに道が平らになり、新緑の兆しかけた枝々が一気に開けた。その先に訓練用の予備グラウンドがある。

 一応形ばかり「海軍施設のため民間人の立ち入りを厳粛に禁ずる」と書いた看板が立てられているものの、その文字がずいぶんかすれているのからもうかがえるように、長らくまともに使用されてもいない。なにしろ、いかにも不便な場所で、大人数で一斉に用いるには移動ばかりが大変だし、少人数ならばもろもろの施設のそばにある正規グラウンドで間に合う。かといって、何組も同時に陸上訓練を行うわけでもない。そんなわけでわざわざ使用しなければならない積極的理由に乏しい。

 そうしてわざわざやって来た足柄さんも、正確にいうと予備グラウンドが目的だったわけではない。

 その隅から臨む眺望に用があったのだ。

 港からすぐ切り上がる山肌に建てられた鎮守府からは湾内の光景が一望できるが、庁舎からは工廠の建物がそびえてどうしても海を見ているという実感が乏しかった。艤装の整備や修繕・開発で世話になっている以上、そうした裏方仕事に敬意を払っている点では、足柄さんとて人後に落ちるつもりはないが、その時の気分はあまり工廠に向かってはいなかった。

 その点、この予備グラウンドは、敷地内こそ整備は行き渡っているが、周辺は手付かずで残されており、野草の生い茂るなだらかな坂が伸びて断崖へと続いている。

 そしてそこからは海原が遥かに広がる。

 眼下の藍色の海と頭上の蒼穹、波のうねりに混じる気泡と空にまぎれる雲の白さ、それらが刻一刻と色合いを変化させて常に留まるところを知らない。足柄さんはそのただ中に立つのが好きだった。足下の緑にういきょうの黄色い花が散りばめられる初夏の頃もわるくない。秋口の下草に紅が点描されだす時期もなかなかだ。冬の枯れ野の荒涼とした姿も、それはそれで味わえる。

 要は足柄さんのお気に入りのスポットなのだった。

 そのお気に入りに先客がいたのは少々意外ではあった。

 

「足柄さん、お疲れ様です!」

 特徴的なサイドテールを揺らしつつ、急いで駆け寄ってくるなり敬礼で迎えたのは長良型軽巡洋艦一番艦長良だった。

 弾む息を抑え、汗のにじむ体でかしこまられては、足柄さんの方が息苦しくなる。今は非番だから、そんなに仰々しくしなくてもよい旨を伝えたものの、

「はい! わたしも非番ですから、お気になさらないでください!」

 通じているのだかいないのだかよくわからない答えが返ってきた。

 かつてとは異なり、年功序列や体格の差が幅を利かす時代ではないし、足柄さんもそれを強いるつもりは毛頭ない。ただ、そうした旧習を窮屈に思わない人間もいて、長柄などはその典型といえた。

 ストイックであることをモットーとして、公私ともに貫徹する。

 非番に予備グラウンドにやってきていたのも、足柄さんのような不届きな思いつきでなく、自主鍛錬という実にまっとうな理由による。

 もちろんそれが非難されるいわれはなく、謹厳実直を他人に強いなければ立派な主義だ。その点でも長良は徹底している。

 決して強制せず、他人の主義主張も飲み込む寛容さも持ち合わせている。

 その日もグラウンドの使用許可を取り、ひとり整備をして走り込みなどを行っていたという。

「ここは潮風が吹き上がってきて気持ちいいんですよね。ですから、非番のときはたまにお借りして、こうして駆けているんです」

 口を動かしながら、長良はその場で足踏みを行い、かなり高くまで腿を持ち上げている。

 聞けば朝からずっとやっているのだそうだ。

「やだなあ、ずっとじゃないですよ、きちんとインターバルはとってますから」

 やや照れたように訂正する。はにかみは同性の目からでも愛らしく思えたが、さすがにオーバーワークだろう。

 足柄さんはひとつ嘆息して、バスケットを差し出した。

 中にはお気に入りの場所で食べようと思っていたランチが入っている。

「そ、そんな、お昼をご馳走になるなんて悪いですよ!」

 あわててかぶりを振って辞退しようとするが、たちまち腹の虫が正直にかわいらしい鳴き声で返事をした。

「あうう……」

 たまらず練習着をたくしあげて瞬間的に真っ赤にゆだった顔を隠そうとすれば、シャツの下からはおぼこい容貌には似つかわしくない、しぼりにしぼって六つに割れた腹筋がひょっこりと姿を現して挨拶をしてきた。

 

 腹の音にすっかり恐縮してしまった長良をなだめつつ、足柄さんは後ろから押し運ぶようにしてグラウンド脇に転がっている大岩のところまで連れ出した。

 それもまた足柄さんのお気に入りで、長い年月に風雨にさらされた磨耗のため、上部が平らになっていて、腰掛けるにも上で飲食物を広げるのにも具合よい形状ができあがっていた。

 そしておもむろにバスケットを開けた。

「うわあ」

 途端に落ち込んでいた長良の顔から翳りが消えて、ぱっと輝きだすのがいかにも少女らしく好もしい。

 中に入っていたのはカツサンドのセットだった。昨晩、コロッケを作った際にいっしょに揚げておいたトンカツに、スライスした食パンと、そして山盛りの春キャベツの千切りだ。

 作り置きをすると、どうしてもキャベツの水分がにじみ出て、パンとカツをひたしてしまうので、別々に区分けしてある。

 お手本の意味をこめて、まず足柄さんがパンにカツを乗せ、別に用意したソース、これも市販品に足柄さんがブレンドをほどこした特製品だ、をやや多いと思えるくらいにかけて、さらにこんもりと春キャベツを重ねて最後にパンではさむ。

 両手で抱えても持ち重りのするほどのボリュームになったが、臆することなく思いきり大口を開けてぱっくりと食いついた。

 ザクリと歯に響くカツの衣に、噛み切るのに顎の力を要する肉々しい肉、そこに食パンと春キャベツの性格の異なるやわらかさが加わり、まず噛みしめるだけで楽しい。

 ソースの辛さとキャベツの甘さのからみ具合もわるくない。これは思っていた以上にあたりだったかもしれない。

 それなりのボリュームのあったはずのサンドウィッチが、ほんの三口ほどですべて足柄さんの胃の中へ消えてしまった。

 次は長良の番だった。ほとんどおあずけを食わされた形になっていたため、改めてバスケットを勧められると、疾風の如き所作で瞬く間に、足柄さんと負けず劣らずのカツサンドを作り上げた。

 そうしておもむろに口を開けてぱくつく。遠慮も躊躇いもなく、喉の奥まで見通せそうな豪快なしぐさがなんとも心地よい。

「これは、おいしいですね!」

 しばらくもぐもぐと咀嚼したうえでこぼれた感想だけにひとしおだった。

「特にソースが。お肉にもキャベツにも合って」

 うれしいことをいってくれる。ここまで持ち上げられたならば、「もうひとついかが」と申し出ないわけにはいかない。

 それからふたり並んで食事を続けた。

 カツサンドのみではあったが、キャベツの配分やソースの量を調整するだけでも案外味わいは変わるし、念のためにマスタードやケチャップなどのほかの調味料も持参している。

 また、油のしつこさが鼻についてきた時のために、魔法瓶にほうじ茶を用意もしてきていた。

 眼下の岩場に波の寄せる潮騒が距離のあるために耳にやさしく響いてくる。普段ならあれだけまといついて髪にからむように思える浜風も、ここでは清々しささえ覚える。

「この予備グラウンドはお気に入りの場所なんです」

 三つ目のサンドウィッチをほおばりつつ、長良はぽつりとつぶやいた。

「もっと鎮守府の近くで練習してますと、すぐに汗と潮風でべたべたになっちゃうじゃないですか。体の動きもわるくなりそうで、あれが苦手なんです。なんで、こうして非番の日を見つけては、こちらを使わせてもらってるんです」

 足柄さんの持参したアルマイトのカップに注いだほうじ茶をすする。

「でも不思議です。なまぐさい海のにおいから逃れて、自由に動けるここに来ると、はじめはワクワクして高揚感でいっぱいになるんですが、そのうちまた、どうしようもないくらいにあちらがなつかしくなってくるんですよね」

 長良のいおうとするところは足柄さんにも理解できる気がした。

 制服を脱ぎ、普段の勤務から解放された気分になっても、いつの間にか心は海に馳せていることに気づかされることがある。

 それは軍人の職業病というよりは、もっと本能に根ざした部分によっているように思えてならない。

「多分、このキャベツみたいなものだと思うんですよ」

 少女の手にしてはかなり節くれだち、武骨に太い。けれどもそれは長良に限らない。軍籍にあるものみなに共通する、傷つき癒えることをくり返すうちに変質していった指だ。長良はそれで淡い緑の千切りを指していた。

「合い間合い間で感覚をもどしてくれて、いちばん大事なところを改めて教えてくれますから」

 その時、背後に聳える山から、一陣の風がおろし来た。足柄さんはとっさに髪を押さえてやり過ごしたが、もろにあおりを受けたバスケットは中身のキャベツをいくらか宙に舞わせた。ひらひらりと漂う春の先ぶれは、海の色とくらべてみればいよいよもって淡く、ほとんど白い筋のようだった。

 その白い線が藍色の海に映え、いつまでも消えない。と思えば、それはよく目を凝らせば航跡だった。

 波を切る先頭に視線を移してみると、艤装を身につけた同僚たちが颯爽と海面を駆っていた。

 出撃部隊の帰投というものものしい雰囲気ではない。後ろにボートをつないで牽引しているところからして、物資輸送任務についていた艦隊だろう。

「多分、五十鈴達ですね。ちょうど今日くらいに帰ってくるって聞いていましたから」

 さすがにこの距離から見分けるのは困難なので、長良もあくまで推測からいっただけだった。

「あっ……」

 鉢巻きのあたりに手をかざして遠望していたところで、長良の口からそんな声があがった。

 何気ないつぶやきではあったが、思いのほか切迫した響を含んでいたので、足柄さんが視線を向けてみると、長良の顔色は真っ青に変わっていた。

「……忘れてた」

 

「食事当番忘れてたんです! 今日は五十鈴が帰ってくるから、みんなで食べることになってて、ちょうど非番だから私にお願いって昨日いわれてたのにー」

 頬に両手をあてて、身も世もなく慨嘆する長良を、とりあえず足柄さんは落ち着かせてあげた。

 長良型軽巡洋艦二番艦五十鈴は足柄さんも見知っているが、さっぱりした性格で、あまりそうしたことに拘る性質とも思えなかった。

「五十鈴はそうなんです。でも名取が……」

 名取は同三番艦にあたる。上二人の闊達さの陰に隠れ物静かでおとなしい印象を持つ娘だ。

「普段はもちろんおっしゃる通りなんですけど、あの娘、こういうことになるとすっごく恐いんですよ」

 すっごく?

「それはもうすっごく。あー、なにも準備してないー」

 傍目にもわかるほどに狼狽して、両腕をさすり身震いをする。

 恐怖ではない。実際に少々肌寒くなってきだしていた。

 春とはいえ、山頂からの吹き下ろしはまだ寒気をはらんでいて、ワイシャツ姿の足柄さんもややひんやりとしてきていた。汗で濡れた運動着姿の長良ならなおのことだろう。

 その様を目にしていると、足柄さんの頭に妙案が浮かんだ。

「ポトフですか?」

 長良は伝えられた料理名を聞いても、怪訝な表情をするばかりだ。

 名前はもちろん知っているだろうが、その調理法まで頭になかったのだろう。

 フランスの家庭料理であるポトフは、おおまかにいえば野菜と肉を煮込む鍋料理だ。各地で味つけ、中身、調理法は異なり、これという定まった規則はない。それは逆にいえば、どういう風にしたってかまわないということだ。

 さほどの下拵えも必要なく、多人数で食べるのにも向いて、ボリュームもある。ポトフという名前にちょっと特別に響くところがあるのがみそでもある。

 足柄さんはそのあたりをかいつまんで説明すると、持参していた紙ナプキンに、知っているレシピを書いて渡してあげた。

 憔悴していた長良の顔に、見る見るうちに生気がもどってくる。

「ありがとうございます!」

 何度もお礼をいっては頭を下げてくる。そこまで大袈裟にされるようなことではないから、適当になだめて帰るようにうながした。

 本当に飛ぶような勢いで、走り去る長良の後ろ姿を見送り、足柄さんはほうじ茶をもう一杯そそいで口に含んだ。

 礼をいいたいのは足柄さんの方だった。

 思いもかけず、今日の夕飯の献立にありつけたのだから。

 厚切りのベーコンのポトフはわるくない。もちろん春キャベツをたっぷりいっしょに煮込んで。

 やはり表に出てみるものだ。部屋の中でひとり鬱屈としていた気分は既に晴れ、すっかり爽快になっている。

 その気持ちで山からの吹き下ろしを受け止めてみれば、わずかにではあるが新緑の

においが混ざっていた。

 眼前の春ばかりに目がゆきがちだが、同じだけ夏も近づいてきている。

 足柄さんはおもむろに袖まくりをしてみた。それは来るべき夏に向けての意気込みだったのか、はたまた夕飯にむけての景気づけだったのか。

 


 
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