No.770942

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第040話

今回、孫堅と孫夫人の事を少し交え、孫夫人の名前も少し改変を加えて記述しました。
孫夫人の弟で呉景という人物がいるのですが、その呉景と孫夫人を加えて孫景という架空の人物を作りました。
設定と致しましては、孫堅の従兄弟であり孫家の跡取りで、孫堅である炎蓮が孫景に嫁いだ形になります。
結構文章が上手いこと出来た気もしますので、感想コメや誤字脱字修正コメなど頂ければ幸いです。
それではどうぞ。

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2015-04-14 01:08:59 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1629   閲覧ユーザー数:1533

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第040話「受け継がす者達」

大陸を賑わせる劉表危篤状態の3日後、遂に白龍の意識が戻り、彼の寝室には主な諸将が集められていた。

「お父様、体の加減はいかがですか?」

「……おぉ、小龍(シャオロン)か。華佗君の付きっきりの看病のおかげで大分と楽になった」

寝具にて横たわりながら話す白龍に小龍は彼の手を超手で包むように握り締める。

親子水入らずの対面に水を刺す真似は出来ないと思い、一刀と凱はそれぞれ部屋を出る。

 

「なんだって。白龍さんは未だ危ないことにかわりない?」

別の部屋にて一刀は凱の診断を聞くと驚愕する。

「手は尽くし、毒の循環も抑えることもでき、手の甲の毒も万一に備えて骨を少し削った。俺の医師としての診察としては、もう元気になってもおかしくない」

「だったら、何処に問題があるっていうんだ?」

「………年齢だよ」

「年齢?」

「そうだ。年のせいで体の耐久力が極端に落ちてしまっている。もしも俺や一刀などが同じ状況に陥っても直ぐに治るだろう。若さによる体内抵抗力があるのだから。しかし劉表殿は既に60過ぎだ。病気に対する耐性も低く、傷の治りも遅い」

一刀は久しぶりに会う白龍の姿を見て目を疑った。

倒れてからの闘病生活の影響か、体の線は細くなり、初めて出会った二年程前と比べると明らかに覇気が足りて……いや、皆無と言ってもいいだろう。

「鍼治療でもなんとかならないものなのか?」

「……前にも言ったと思うが、五斗米道(ゴットベェイド―)の鍼治療は、あくまで身体能力の活性術。やりすぎるとそれこそ身体的負担を越えてしまって、劉表殿の体は内側から崩れ去る。義姉(あね)の張魯……いや、お前らは確か真名の交換を済ませていたな。絢香姉ぇの食治療。つまり外部から栄養を送る五斗米道(ごとべいどう)でも、今の彼の体では吸収しきれない」

「だったら、他にもう手は無いのか?」

「………祈るしかないだろうな――」

その言葉に一刀はおもむろに壁を殴って、その拳からは血が出ていた。

「すまない一刀。俺が付いていながらこんなことに……」

「……いや、凱のせいじゃない。俺の油断こそも原因なんだ。三国同盟が成って、いい気になっていたばっかりに……」

そんなこと言いながらも、一刀にはもう一つ気がかりなことがあった。

それは白龍が死んでからのことである。

現時点で白龍の跡目は娘である小龍に継がされることになるのは間違いない。

問題はその後にあるのだ。

小龍は以前箱入り娘であった為に、荊州の領民は小龍の実力を知らないし評価もしていない。

荊州は白龍という一枚岩……とまではいかないまでも、彼の死は荊州のみならず周りの諸国にも大きな影響をもたらし、こぞってこの国を奪いに来るであろう。

小龍は頭の悪い人物ではなく、むしろ優秀といってもいいかもしれなかったが、如何せん箱入り娘で病弱であった為に、外の事を知らな過ぎた。

そこで白龍は、同盟に際し一刀に小龍のことについて相談を持ちかけたのだ。

一刀の目から見ても小龍は非常に優秀に見えたため、重昌の下で(まつり)、軍略を学ばせることを提案して、白龍は重昌に頼み込んで小龍を彼に預けたのだ。

同盟者の、ましてや友人の頼みを重昌はこころよく了承し、小龍が重昌の下で鍛えてられている間に、白龍自身は三国同盟を駆使して荊州の内政のより一層の強化に努め、小龍が重昌の下より帰ってきた時には、彼女に荊州を任せる気持ちでいたのだ。

その様なお膳立ての最中に、今回の事件である。

今この様な状態で荊州の手が小龍の手に渡れば、劉備達が何を起こすか分かったものでは。ない。

今彼女たちは白龍の客将であり、白龍は劉備の親戚であれば、小龍が受け継いだ際、彼女たちは小龍の下につくことになるのだが、重昌の事を一方的に敵視している劉備のことである。

重昌寄りの小龍とは対立することとなり、結果、荊州は二つに割れる事にもなるのだ。

【しかし、いくら白龍さんがいなくなって重昌さん寄りの小龍が領主になっても、主の小龍を差し置いて劉備が勝手をすれば、荊州の民は黙って居るはずもない。劉備の立場も危うくなる。向こうの陣にはしゅ……諸葛亮もいる。龐統もいる。それを計算出来ぬ彼女らではない】

しかし一刀のこの考えは、後々無残に打ち砕かれることになるのであった。

 

それからというもの、白龍の体調は徐々に回復していき、小さな仕事を行えるぐらいになった時、呉の孫策が国境を越えて荊州入りしてこようとの報告が入ってきており。

さらに同時期に、曹操も長安に向けて進行を開始した報告が一刀の下に寄せられ、影村陣営組は帰還を余儀された。

「すみません白龍さん。他国の軍が攻め寄せる時と言えば、同盟国として手を貸さねばなりませんのに」

「いやいや心配には及ばないよ。曹操は強い。重昌の一刀君の力を必要とする気持ちもよく判る。それより、こんな時になんだが、一つ頼みを聞いてはもらえないか?」

「ええ、それは構いませんが、どういったことでしょうか?」

白龍は窓の外を眺めながら間を置き答える。

「……小龍も一緒に連れて行ってはもらえないかな?」

「え?小龍も……」

「曹操が長安に攻め入るとなれば、重昌と曹操がぶつかり合い大きな戦になる。そのまたと無い機会。是非味あわせてみたいのだよ」

「そ、そんな。それだったらこれから白龍さんも孫策の率いる呉と戦になります。そちらでも経験はつめるのでは?」

「いやいや。孫策が今回攻め入って来た理由など、俺が弱ったことを確かめる小手調べにすぎない。それよりも影村対曹操という英雄同士のぶつかり合いの方が華もある。小龍には蔡瑁や向朗(しょうろう)を付ける。上手く使ってやってくれ」

「蔡瑁さんや向朗さんと言いますと、白龍さんの宿老の方じゃありませんか。白龍さんはどうするのですか?」

蔡瑁、字を徳珪。正史においては劉表に仕えた人物であり、彼の姉が劉表の側室であった為に彼は劉表の義弟にあたる。

邪魔な劉備を排除するために数々の所業を続け、劉表の死後は曹操に仕えるが、周瑜の計略にて疑心暗鬼に陥った曹操に殺される人物だが、この世界での性別は女だ。

向朗、字を巨達。こちらも劉表の家臣であり、彼の死後は劉備に付き従い蜀漢を共に立ち上げた政治家。

卓越した政治力を武器に劉備の死後も子である劉禅に仕え、多くの弟子を持ち、80歳以上まで生きたとされている。

こちらの世界では蔡瑁と同じく性別は女性である。

彼女らの親は幼少の頃より劉表に仕え、死後も親の代わりに、忠実に劉表を支え続けており、小龍の面倒もよく見ていたらしい。

「なあに。あの子たちは元々小龍に従わせる予定だったんだよ。俺の下に置いたのは経験を積ませるためだけに過ぎない。確かに俺の下には彼女たちを抜けば宿老はほとんどいなくなったが、まだ黄祖がしぶとく生き残ってくれている。それに客将といえど、関羽・張飛の様な豪傑や諸葛亮・龐統の様な賢人もいる。十分に勝てるさ」

「………それならいいのですが――」

一刀はまだ気がかりでならないのだ。

仮に白龍の身に何かあった時、劉備がどのような行動に出るか。

そんなことを考えているとき、白龍は一刀の正面から向かい合った。

「なあに、心配するな。地の利はこちらにあるし、ただ追い払うだけだ。俺の方はお前に対し何の心配を持っていないんだぞ」

「……え?」

「俺に何かあっても、小龍のこと守ってくれるんだろう?」

「も、もちろんです。彼女も俺の大切な仲間ですから」

「……仲間ねぇ……」

「どうかしましたか?」

「いや、何でもない」

白龍は先に部屋を出ようとすると、その背中を見つめる一刀に、首だけを動かし顔を見せて答える。

「俺ぁ死なねぇぜ、一刀。重昌の作る世の中を見るまではな。重昌に伝えておいてくれ。もし目の前の障害にウチの奴らが絡んできても、俺に構わず握りつぶせってな。例えそれが、桃香であってもな」

そういうと白龍は一刀が今の問いに答える隙を与えず、そのまま部屋を出て行った。

 

白龍出陣に先だって、一刀達も長安に向かう準備をし、白龍と小龍は別れの抱擁を交わしていた。

「お父様、ご武運をお祈りしております」

「小龍も体に気を付けてな。重昌の下に居る時は彼を父と思い勉学に励むんだぞ」

小龍はその小さな体を父親の大きな肩に頭をうずめ、軽く頭を叩くように撫でられると、二人は抱擁を解いた。

「頼むぞ凛寧(リンネイ)黒美(ヘイメイ)

「……おまかせを白龍さま」

「そうだよ。例え火の中水の中。この黒美ちゃんにおまかせあれですよ」

背中には長い槍、腰に刀を帯刀し、頭がポニーテールで月の形をした髪飾りをする小さき声の人物は蔡瑁であり、白龍に対し元気な声で答え、一人称で自身の真名を言う少女は向朗であり、彼女の恰好は何故か白の着物で裾に桜の模様が散りばめられた袴を履き、履物も下駄であるため、恰好で言えば『明るい陰陽師』とでも言おうか。

白龍はそれぞれを片手で同時に頭を撫でる。

「頼むぞ、我が娘たち」

蔡瑁は恥ずかしいのか顔を赤らめて俯き、向朗はへへへっと言いながら、擽ったそうにじゃれた。

「それでは者共、出陣だ!!江東から来るネズミ共を蹴散らしにいくぞ!!」

白龍の喝で荊州の兵士は雄叫びを挙げると、彼らは出陣していった。

一刀や小龍たちは思いも寄らぬだろう。

それが自分たちの見る、荊州の龍、劉景升の最後の雄姿であるであることを……。

 

白龍の領国に進出した孫策である雪(雪蓮)。

襄陽に侵入してきた彼女は既に白龍を待ち構える様に着陣を済ませており、白龍も自らの砦の高台から呉軍を眺めていた。

「……懐かしいな炎蓮(イェンレン)。ここでお前は散ったのだな……」

「劉表様」

彼が感傷に浸っていると、後ろより一人の人物が声をかける。

「………蜘蛛(ピンイン)か。ここには俺たちしかいない。ためでいいぞ相棒」

白龍が相棒と呼ぶ人物こそ、この地で孫堅を討ち取った本人の黄祖であった。

「だったら白龍。どうした、こんなところで。何を考えていた?」

「いやなに。かつて孫堅と死闘を決したこの地で、今度はその娘が雪辱を晴らしにくるのかと思えば……な」

「なるほど。……覚えているか?あの日の事」

「忘れたくとも忘れられない。初めて俺たちが仲違いしたときのことだ」

 

その昔、劉表・孫堅・黄祖は同じ学び舎の同士であり、その場には黄蓋や程普の姿もあったという。

彼らはいつも言っていた。

腐敗した漢王朝を復活させ、正しき世を作り出すと。

それ以来彼らは家族ぐるみの付き合いをし、孫堅の結婚の際も、劉表と黄祖は大々的に彼女を祝った。

しかしそれから事件が起きたのは孫堅が三人目の子供、孫尚香を生んで暫くしたときのことである。

孫堅の夫で、後の呉の基盤でもある、長沙の太守でもある孫景が、朝廷より汚職の疑いをかけられ、直ちに召還するように命を受けたのだ。

孫堅は必死に彼に自重を促し、国に留まるように説得を続けた。

しかしなんの行動も起こさないことは、孫景自身が罪を認めたことになり、最悪の事態になれば漢より孫景討伐の沙汰が下され、劉表や黄祖も彼と戦わざるえなくなる。

孫堅は上等といいながら、夫と共にこの荒波を乗り切るつもりでいるが、孫景の気持ち的に、妻を長年の友達との血みどろの戦いに送り出したくは無かった。

孫景は単身洛陽に乗り込み、皇帝と直訴する考えを示していた。

自分は無実の身、皇帝陛下も判って下さるという言葉を崩さなかった。

その時孫堅は涙ながらに夫を引き留めた。

『江東の虎』と恐れられ、部下にも、娘にも、そして自分と二人でいる時の軽く見せる弱気な時でも見せなかった大粒の涙を見せながら自分を引き留める妻に、孫景の心は大きく揺らいだが、しかし決心が結局変わることは無かった。

彼は出発の際に言った。

「大丈夫さ炎蓮。私は死なない。死ぬときは炎蓮の胸の中って決めてるんだ。帰ったら久しぶりに家族揃って桃園の花を見に行こう」

だが彼が帰ってくることはなかったのだ。

孫景の処刑以来、朝廷が長沙に対して何か言ってくることは無く、彼はその身をとして妻と子を護ったのだが、それ以来孫堅は変わってしまった。

長沙の統治主権が孫堅に移ってから、周りの豪族は怯えを抱きだしたのだ。

元々長沙は孫景の善政、孫堅の武力、そしてそれを支える程普や黄蓋の働きがあってこそまとまっていた地域であり、それによりその地の豪族も友好的な動きを見せていたのだが、孫堅の統治になってからは、彼女は力でまとめることに執着した。

それは至って単純であり、単純であるからこそ、余計な疑いをかけられる必要もないのだと。

いや、ひょっとしたら孫堅は哀しさを紛らわせるために。

向かい所のない哀しさのぶつけ先を探していただけかもしれないと、劉表と黄祖は思っていた。

 

着陣をしている呉陣にて、程普は向こう側にそびえ立つ襄陽の砦をジッとその目で見つめている。

「泊地」

後ろから自分を呼ぶ声に耳を傾け視線を移すと、そこには呉の宿老の一人である黄蓋がいた。

「なんじゃ。何か考え事か?」

「……まぁな」

黄蓋は彼の横に自分の体を持って来、普段の呉の宿老黄公覆らしからぬ乙女な瞳で程普の横顔を覗く。

同じ学び舎時代から好いた男子(おのこ)

一時期は離れ離れとなり、その片足は不自由となりながらも、より一層の漢気を磨かせ帰ってきた。

だがその横顔は何処か哀しげであり、彼女もその状況を察すると、途端に自分も哀しくなった。

「あの場所に、白龍と蜘蛛がいるんじゃな」

「そうだな……策穣達には悪いことをしたと、今でも思っている。あの時、俺が堅殿を止めていれば」

程普は両手をギュッと握り締めると、手に爪がくい込み、血がにじみ出てくる。

 

かつて孫景が死に、孫堅が夫の愛した国を治める事に必死になっていた頃のことである。

襄陽の民と長沙の民が一悶着あった時のこと、初めこそただの喧嘩で始まった事件が、遂には殺傷事件へと発展し、『一人の命は皆の命』の考えの下、江東に住まう豪族達の怒りが荊州に向いた。

その考えに孫堅も賛同し、彼女は荊州攻めへと軍備を整えていた。

「堅殿、何故悪戯に血を流す必要があるのです!!何故話し合いに持ち込みませぬか!?」

「黙れ泊地!!ウチの家族が傷つけられたのだぞ!!黙って見過ごせるか!!」

「だから友の国を攻めるのですか!?だから何千と言う血を流すのか!?それでは大儀がなりませんぞ!!」

友という単語に一瞬孫堅は詰まるが、直ぐに彼女は言葉を続ける。

「命のやりとりに大儀なんざぁ必要なし!!殺られたら殺りかえす!!それが俺の心構えだ!!」

「それでは民の心はどうなる!!景殿が何のために死んだか忘れたか!!?」

程普は一層の怒号で叫ぶが、その一言が孫堅の怒りに火を付けて、彼女は部屋のあらゆる家具を破壊する。

「景殿景殿景殿ぉ!!お前はいつもそうだ!!何か俺がやることなすことにかこつけてはあいつの名前を出す!!俺はあいつじゃない!!俺はあいつになれないんだ!!」

「だからこそ堅殿は堅殿の行う政を行えばよろしいではありませんか!!しかし忘れたか!?俺たち孫呉の政は、あくまでも民の安寧の為。民の心を蔑ろにしての何が当主か!!」

「うるせぇ!!!!」

孫堅の拳が程普の顔面めがけて飛んでくるが、彼はそれを難なく首だけ動かして避け、孫堅の拳は壁にめり込む。

しかし孫堅その拳を抜いて程普に襲い掛かることも無く、ただ程普の顔の前で睨みつけながら話し出した。

「ならばお前ぇは付いて来るんじゃねぇ。白龍とは俺が話を付けて来る。お前も雪蓮も祭も冥琳付いて来るな。俺だけであいつと話を付けて来る!!」

 

「そう言って堅殿は出陣して行ったな」

「そしてお主も後を追ったと?」

「……堅殿は、戦は出来るが、しかし少々頭が足りないところがあるからな。万が一の時に備えて軍師が必要だと思ってな」

「その時、堅殿はなんて言っておったかのう?こっ酷く怒り狂ったのではないか?」

「そりゃあ、自分の考えが通らないと直ぐに怒る人だからな、あの人は……でも後は笑いながら、しかたねぇ奴だって言ってたよ」

「堅殿らしいわ」

二人は互いに笑いあうと、程普は片足で立つことに疲れたのか、杖を支えに体をふらつかせるが、そこに黄蓋が肩を貸して彼の体を支える。

「……あの時、堅殿が誰も連れて行かない様にした行動の意味、今なら判る気がする。堅殿は判っていたんだろう。自分の頭に血が登っていて、誰にも止められないことも。だからこそ、もしもの時の犠牲は自分自身。そう思って戦場に言ったんだろうさ。……結局の所、堅殿も景殿の後を追いかけていたに過ぎなのかもな」

「泊地……」

軽く笑い飛ばす程普が笑い終えると、彼はまた続けて語り出した。

「孫堅・朱治・凌操・呂範、他の数多の景殿が集め、景殿が育て上げた者達も、残りは俺たち二人だけとなってしまったな。……重昌の親父が言っていた。『人は、何かを成す為に生まれ、成し終えた時死んでいく』、俺たち老兵もここいらが潮時かもしれないな。白龍、蜘蛛という過去を狩りきった後は、引退するしかないのかね……」

遠くを見て話す程普に対し、黄蓋は彼の手を掴むと、自身のお腹に当てる。

彼は何のことか判らずに黄蓋に問いかけるが、彼女は判らぬかと聞くと、彼女のお腹から何かしらの脈動が手に流れてくるのが判った。

「……!!?祭!!お前……もしや……!?」

「今月で丁度一ヶ月だそうじゃ……」

顔を赤らめる彼女に対し、程普は何がなんだか訳が分からなくなった。

まずこの戦場より彼女を非難させなければならない。しかしまたいつ劉表が攻めて来るかもわからない。国元に返したいが、兵を余分に割ける余裕も今は無い。

そんな事を考えながらも、黄蓋は程普に対して言葉を続けた。

「のう泊地。お主にはまだするべきことが残っておるではないか」

「するべきこと?」

「……伝える事じゃ。儂らの生き様を策殿に、権殿に、小蓮殿に。これから孫呉に生まれてくる多くの子供たちに。そして……この子に……」

祭は泊地の胸の中に収まると、彼の彼女を抱き返して天を向かって言った。

「スマン。景殿、炎蓮。俺はまだまだ、そっちに行けそうもない」

夕方の星が差し始めた空に一つの流星が光り、彼にとってそれが何処となく天に言った二人からの返事に思え、まるで「気にするな」っと言っている様でもあり、また自分たちを祝福してくれているようにも思えた。

 


 
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