No.766346

天馬†行空 四十四話目 陶犬瓦鶏

赤糸さん

 大変お待たせいたしました。 

 真・恋姫†無双の二次創作小説で、処女作です。
 のんびりなペースで投稿しています。

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2015-03-22 23:27:16 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5388   閲覧ユーザー数:3847

 

 

 槍と剣が火花を散らす。

 

「……」

 

「っく……うぅ……っ!」

 

 馬上に在って尚、低く身を屈めてから伸び上がるように繰り出された、短く細い槍から伝わってくる痺れる様な衝撃を猪々子は辛くも大剣の腹で受け止めた。

 

「――二つ」

 

「ッ!!? ――うああっ!!」

 

 間髪入れず、閃いた銀光。

 刺突に続き大剣を襲った斬撃は、いずれも細身の武器からは考えられないほど重く猪々子の腕を打つ。

 

「――っ、く」

 

 必死の形相で二撃をなんとか捌いてたたらを踏む猪々子に対し、斗詩はあくまで冷静に右手で短槍を構え、左手の剣を背中に隠すように引いた。

 そして両者は一旦距離を取り、再び対峙する。

 始めに口を開いたのは猪々子だった。

 

「――と」

 

 呼ぼうとして、喉まで出かかった親友の名を猪々子は飲み込む。

 静謐な光を湛えた斗詩の瞳を直視し、猪々子は泣き笑いのような表情を浮かべた。

 

(ああ――――、)

 

 大剣を片手一本でぶら下げ、空いた右の手で涙を拭う。

 

(――もう、戻れないんだな――斗詩)

 

 こちらを見る斗詩の目は真剣そのもので――

 見惚れるほどに凛々しく、美しくて――

 

(――ごめん。呆れるよな、気付くのがこんなに遅くて)

 

 自分や麗羽と一緒だった時とは違う、鮮烈な意志を発しているように猪々子には思えた。

 

(もう迷わないって――さっき決めたばっかりなのにな)

 

 穂先を真っ直ぐにこちらへと向ける親友の姿を目に焼き付けて――、

 

「――袁紹が将、文醜」

 

 ゆっくりと、静かに大剣を肩に担ぎ、前――対峙する『敵』――を確りと見据える。

 

「いざ――勝負ッ!!!」

 

 ――疾駆。

 

 

 

 

 

「うん、順調に進んでるわね」

 

 武陵城の一室に詰めていた詠は、孫策からの使者が訪れた件と都から朱儁が援軍として向けられたとの報せを受けて満足そうに頷いた。

 そうしている間にも前線の戦況は逐次入ってきており、彼女はその都度机上に置かれた地図に目を走らせ、盤上の駒を動かしながら竹簡に筆を走らせる。

 

(向こうの一手は順当に潰して――っと。二手目は水軍ね…………うん、そっちは月季が何とかしてくれる)

 

 筆を繰る手は止めぬまま、詠は冷静に彼方の戦場へと思考をめぐらす。

 月と共に旗揚げした頃から反董卓連合までとは違い、詠には落ち着いて策を巡らせる心の余裕が生まれていた。

 ねねと月季、稟と風。

 自身と同じ――或いは凌駕するやも知れぬほどの才を有する彼女達の参入。

 そんな彼女達が各々の戦場に立っている今、そこから一歩身を引いた場所に居る詠の視野はこれまでになく広がっていた。

 

(益州の戦況も順調。霞たちに加えて雲南の雍闓と建寧の朱褒も動いてくれた、か。……あいつの人脈にホント助けられてるわね)

 

 筆を止め、窓越しに西の空を見上げる。今頃、彼はどうしているのだろう?

 常は和やかな雰囲気の少年。しかし詠と彼女の親友は少年の別の顔を知っている。

 反董卓連合の最中、宮中にて王允率いる清流派の者達に謂われ無き罵詈雑言を浴びせられる自分達を救ってくれた人物の一人。

 年の頃は自分と同じくらいのその少年は、見たことも無い純白の衣を身に纏って劉協陛下と共に姿を現した。

 突然の事に驚く自分達を安心させるように微笑んだ少年は、文官達に向き直ると射抜くような鋭い眼差しの一睨みでざわつきそうになった彼らを黙らせたのだ。

 

『もう、心配は要りません』

 

 目の前で次々に起こったとんでもない事態に呆然とする月と自分に掛けられた言葉はとても暖かくて、

 

『董卓さん、洛陽を護って下さってありがとうございました。街の人達に代わってお礼を申し上げます』

 

 真摯な想いが篭っていた。

 

『ここからは私達に任せて下さい。――――これ以上、貴女達が彼らの相手をする必要は無い』

 

 一転、彼方――虎牢関の方角だろか――を鋭く睨みつけて強固な意志を感じさせる断固とした口調で少年は宣言する。

 その眼差しと横顔はとても凛々しく、思い出した詠は思わず赤面し――

 

「――ッツ!? ち、ちちち違うわよ!? ボ、ボクはあいつの事なんてなんとも思ってないんだからっ!! ――――あ」

 

 ――ばたばたと手を振ったせいで、地図の上に置かれた駒は倒れ、墨が転々と散っていた。

 手に持った竹簡共々飛び散った墨で斑模様になった詠は顔を真っ赤にしたまま叫ぶ。

 

「…………う、ううう~~!! ぜ、全部一刀が悪いんだからーーー!!!」

 

 

 ◆――

 

 

「先陣の将は討ち取りましたか」

 

「はっ!」

 

「結構、では陣を前へと進めましょうか」

 

(そう――劉表、或いは蒯良か蒯越あたりの思惑通りにね)

 

 息せき切って天幕に駆け込んできた伝令の報告を受け、荀攸こと月季は穏やかに断を下す。

 慢心し切り、脆くも崩れ去った劉表軍の将、王威を討ち取ったことには何の感慨も抱かず、ハの字眉毛の軍師は先を読む。

 中央を進んできた軍は囮で、本命は東から南下する水軍……と、もう一手。

 

(二方面、と見せ掛けて更にもう一軍を伏せる。恐らく、先陣に快勝した我々の慢心を衝くつもりなのでしょうが……)

「しかし、我々も随分と過小評価されたものですね……」

 

 過去に江東の虎と呼ばれた孫堅率いる精強な軍を退けた経験からなのか、はたまた水軍の練度において劣る(と思っている)こちらを侮っているのか。

 

(どちらにせよ、見積もりが甘い)

「では、渡河の準備を始めますか」

 

 静かに、月季が天幕を出る。

 ただ一点、長江の先を見据えながら。

 

 

 

 

 

「姉さん」

 

「ん」

 

 襄陽城のとある一室。

 静かに入室した文官風の少女が差し出した書簡を、部屋の主は一つ頷くと受け取った。

 

「ああ、やっぱり王威は先走ったか……まあ、思った通りの展開だけどねぇ……」

 

 封を切り、目だけを動かして文に目を通した部屋の主――自身を姉と呼んだ少女と背格好や容貌が似ている少女――は軽く溜め息を吐く。

 

「で、江夏は…………ああ、こっちもやっぱりかぁ」

 

「蔡瑁殿の計は外れ。だけど姉さん、呂布と徐晃……若しくはどちらかは動けない筈よ」

 

 二つ目の書簡にさらりと目を通した少女がまたも溜め息を吐くと、妹の方は淡々とした口調で指摘した。

 

「ん~」

 

 が、姉の反応は芳しくない。

 

「姉さん? なにかあったの?」

 

 何時に無く難しい顔をする姉に、妹は首を傾げながら呼びかけた。

 

「ん……いや、さ。あったというか、これからありそうというか……ね」

 

「…………長江より北、江陵を中心に九つの小隊は常時巡回させてるわ。万が一にも伏兵の可能性は――」

 

「んにゅにゅにゅにゅにゅにゅ」

 

「――ホント、どうしたの? 姉さん」

 

 無い、と続けようとした妹の目の前で、姉はこめかみに人差し指を当てて奇妙な唸り声を漏らす。

 

「なんっか引っ掛かるんだよねぇ……」

(一時とは言え天下の諸侯を抑えた賈文和に荀公達らがやけに真正直な戦法を取ってる、ってのが、ねぇ)

 

「……董卓軍内では桂陽の鮑隆と陳応が多少水軍の心得があるとは聞き知っているけれど、蔡瑁殿が抱える船団程の規模を指揮出来るほどの実力があるとは思えない。荀攸らが江を渡る際には護衛くらいはするでしょうけど……虎の子の蔡瑁殿は江夏寄りに南下するし」

 

 故に向こうの水軍は肩透かしを喰らい、こちらの水軍は上陸後に荀攸らの後方を脅かせる、と妹は続けた。

 

「ん…………ふぅ、今は頭捻っててもどうしようもないや。江陵の巡回はそのまま……後、張允(ちょういん)に荀攸の横腹を突かせて」

 

「解ったわ……張允殿は程々で切り上げさせればいいのね?」

 

「さっすが紫丁(してい)、解ってるねぇ」

 

「……はぁ、煽てても何も出ないわよ白丁(はくてい)姉さん。――誰かある!」

 

 まるで子供のように笑う姉に軽く溜め息を吐きながら、紫丁は部屋の外へと足を向ける。

 

「はっ! ここに!」

 

「張允将軍に伝令。長江を渡る董卓軍に横撃を掛けるように……但し、深追いは禁物、と」

 

「はっ!」

 

 すぐに慌しい足音が聞こえ、それが部屋の前で止まると紫丁は戸を開けて畏まる兵士に短く命を下した。

 

「さて、私も行くわね姉さん」

 

「ん……行ってらっさい。気を付けてね」

 

 ひらひらと手を振る姉に背を向け、妹の方はカツンと靴を一つ鳴らして部屋を出る。

 

「ん~…………呂公(りょこう)、居るかい?」

 

「はっ、蒯良様。呂公、ここに」

 

 妹が立てる足音が完全に消えてから、白丁は前を見据えたまま面倒臭そうに天井へと声を掛けた。

 辺りを憚る低い男の声が応じ、音も無く室内に降り立つと蒯良こと白丁はゆっくりと椅子から腰を上げる。

 

「偵察お願い」

 

「はっ……して、どちらに?」

 

上庸(じょうよう)。 あと、念の為に兵を千ほど率いてって」

 

「畏まりました。――――――それと、失礼ながら蒯良様。その、下着が見えておりま――」

「ぴゃあああああああああっ!!!?」「――おぷすっ!!?」

 

 旗袍(チャイナドレスのこと)が椅子に引っ掛かったまま立ち上がった上司のあられもない姿に思わず突っ込んでしまった呂公は強烈なビンタを喰らい、錐揉み回転しながら宙を舞った。

 

 

 

 

 

「脆い。ふん……所詮、形骸と化した栄華に縋る輩達などこの程度のものか」

 

 足下に転がる泥と血に汚れた黄金色の具足を踏みつけ、華琳は愛刀『絶』の血振りをくれる。

 

「華琳様、港の制圧が完了しました」

 

「良し。すぐに隊列を整え進軍を再開。黎陽(れいよう)を落とすわよ」

 

「はっ!」

 

 前線より戻った秋蘭の報告に頷くと、華琳は素早く断を下した。

 

(乱世は間も無く終わる。――ならば、新たな時代の為に曹孟徳が力、揮って見せよう!)

 

 電光石火。

 その言葉がぴたりと当てはまる神速の用兵で、曹操軍は延津(えんしん)より渡河。

 袁紹軍のさしたる妨害も無いまま対岸に上陸し、一刻と経たずに港を制圧した。

 率いる兵は総勢五万。内、夏侯姉妹と季衣、流琉。さらに参軍には桂花を据えた上で華琳が率いる第一陣は二万。

 二陣は楽進らが率いており、まもなくこの港に到着する予定である。

 だが、華琳は二陣を待たず、この勢いを殺すことなく攻勢を続けるつもりだった。

 

「姉者! 華琳様から『隊を整えこのまま進軍せよ』との仰せだ!」

 

「応っ! ――聞け! 夏侯の旗の下に集いし勇者達よ! この袁紹との戦、華琳様は我等に一番手柄を与えて下さるそうだ! 何時もの鍛錬を思い出せ! 鍛え上げしその武を我等が前に立ち塞がる者達に存分に発揮してやるのだ!!」

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!』

 

 強い眼差しで先を見据える華琳の強い意志は自ずと表出し、周りへと伝播する。

 春蘭、秋蘭は当然として、彼女らが率いる兵士達もまた主君の発する熱に中てられていた。

 

 

 ◆――

 

 

「伝令! 曹操殿の軍は渡河に成功! 現在は黎陽へと進攻中とのこと!」

 

 天幕に駆け込みざま、肩膝を付いて報告する伝令兵。

 

「流石は曹操ってとこか。早いねぇ」

 

 天幕中央の椅子に座る紅い瞳の少女は、緊張感の無い口調で呟いた。

 

「何を悠長な! 司馬懿殿、これでは我々が出て来た意味がない!」

 

「心配しなさんな、士季」

 

 のんびりとした司馬懿の態度に業を煮やした鍾会が柳眉を吊り上げ食って掛かるが、司馬懿は泰然とした態度を崩さない。

 

「こちらは関攻めをせねばならない! このままでは我々が足踏みをしている内に曹操が袁紹を降してしまう!!」

 

 そう。華琳と別れ、河内に進路を取った司馬懿らの軍は袁紹軍が詰める壺関(こかん)を前にしていた。

 袁紹にしては珍しく有事に備えて兵を配していた壺関へ進路を取った上官の意図が解らず、鍾会は声を荒げた。

 

「司馬――」

 

「――ご注進!!」

 

 高ぶる感情のまま、更に詰め寄らんとした鍾会の声を遮り、先程とは別の伝令が天幕へ駆け込んで来て膝を突く――僅か前。

 

「――来たね」

 

 司馬仲達は口元を歪め、短く呟いた。

 

 

 ◆――

 

 

「延津より曹操軍来襲! 港の防衛に当たっていた部隊は潰走しました!」

 

「河内より『司馬』の旗印を掲げた軍勢が侵攻中とのこと! 狙いは壺関の模様!」

 

 矢継ぎ早に齎される報せが玉座の間を揺らす。

 

「なな、なんと!? ここで曹操か!!」

 

「も、物見は何をしていた! ――ち、北海と城陽に報せを飛ばせ!」

 

「くっ、宦官の子風情がよくもやる! ええい、平原と城陽の部隊も動かせ! 双方向より磨り潰すのだ!」

 

「壺関は直ぐには落ちぬ。司馬の旗は恐らく愚帝に仕える司馬懿であろうが……ふ、司馬八達とも呼ばれた者にしてはよくよく愚かな選択をしたものよな。――袁紹殿、ご心配召さるな。所詮は連携も取れぬ烏合の衆、直ぐにでも崩して見せましょうぞ!」

 

 動揺を押し殺し、名士達の中でも戦慣れした者達はすかさず指示を飛ばした。

 如何に公孫賛軍から被害を受けたとは言え、全体から見ればそこまで大きな物ではない。

 壺関の要害と鄴、平原、城陽に渤海、さらには黄河以南の北海の兵も総動員すればさほどの苦境ではないと誰もが高を括っていた。

 

「流石ですわね皆さん。頼もしい限りですわ!」

 

 三方面からの敵を相手にしているこの状況の中、名士達の自信に満ちた進言を聞き、麗羽は満面の笑みを浮かべる。

 

(頼もしい方達ですわ! それに引き換え……斗詩さんは臆病ですし、猪々子さんは役に立ちませんし……まったく、困ったものですわ)

 

 最早ここにはいない二人に溜め息を吐くと、麗羽はいつも通り胸を張り、

 

「おーっほっほっほ!! さあ、ここからが華麗な逆転劇の始まりですわ!!」

 

 高笑いを城内に響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇しくも、北郷一刀を旗頭とする劉璋討伐軍が成都を落としたその日に。

 

 

 北の戦場で――

 

「いくぞ顔良! うりゃあああああああっ!!」

(斗詩に……あたいの本気でぶつかるだけだっ!!)

 

「来い文醜! せりゃあああああっ!!」

(やっと、『戻って』来たね……文ちゃん)

 

 

 

 

 

 武陵の城で――

 

「うー……もぉ、こんなトコにも墨が飛んじゃったじゃない……」

 

「失礼。文和殿、郝昭殿達は――あ、お取り込み中でしたか」

 

「あ、潘濬。ゴメン、続けて」

 

「しからば――郝昭殿達が配置に着きました。いつでも行けそうです」

 

「ん、ありがと。疲れてるところ悪いけど、次の準備に掛かってくれない?」

 

「承知」

 

 

 

 

 

 長江を北に臨む陣中で――。

 

「船の用意を。ああそれと、馬鈞殿より預かったアレも積み込むように」

 

「はっ!」

 

「劉賢殿、刑道栄殿、手筈通りに頼みますよ?」

 

「分かった!」

 

「へい。……お嬢、今度は突っ込まんで下せぇよ?」

 

「そ、そんなに猪じゃないもん!」

 

 

 

 

 

 長江を南に臨む陣中で――。

 

「出陣の支度を」

 

「いよいよですか……董卓水軍の実力は如何なものですかね、蒯越殿?」

 

「それを確かめる為の戦です、張允殿」

 

 

 

 

 

 襄陽城で――。

 

(やっぱり、なんか嫌な予感がするね……)

「呂公が無駄足を踏めば、それに越した事は無いんだけどね……」

 

 

 

 

 

 黎陽にほど近い戦場で――。

 

「退け!! 貴様らがいくら束になっても、この私の敵ではない!!」

 

「――一矢一殺。夏侯妙才が矢を受けよ!」

 

「さあ、曹孟徳が力、その目に焼き付けて逝くがよい!!」

 

「ひっ!? な、なんて勢いだ!?」

 

「ひ、怯むな! 数の上ではこちらが上だ!!」

 

 

 

 

 

 壺関の西に位置する陣中で――。

 

「失礼します。――はじめまして、ですね? 司馬仲達殿?」

 

「な――!?」

 

「良く来てくれたね、張燕(ちょうえん)殿」

 

 

 

 

 

 鄴城内で――。

 

「弩兵を! 鉄騎兵を前に出して黎陽に向かうのだ!」

 

「壺関へ五千ほど回しましょう。それで事足ります」

 

「城陽と北海へ早馬を!」

 

「おーっほっほっほ! いざ、華麗に進軍ですわ!!」

 

 

 

 

 

 ◆――

 

 

 

 

 

 そして三日後――。

 

「な…………ぁっっ!!?」

 

 上庸に辿り着いた呂公が見たものは。

 

「よう。待ってたぜ、劉表の将」

 

 蒼天に翻る――

 

「何故――何故こんな所に!」

 

「あんた等の動きは読めてた、ってとこさ。んじゃ、往くぜ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「西涼の馬孟起。――いっくぜええええええええぇっ!!!!」

 

 

 

 

 

 ――『馬』の旗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 

 公私共に環境や健康面等、色々と変化が起こり、ここまで遅れてしまいました。

 待って下さっていた皆様方、本当にお待たせいたしました。

 短くて申し訳ありませんが、四十四話目をお届けいたします。

 出来れば次はもっと早めに更新できればと思っております。

 

 では、次回四十五話でお会いしましょう。

 それでは、また。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超絶小話:ある『書』

 

 

 これは、ハク達が月の元へ援軍として駆けつける前夜の話。

 

「そういえばさー。コウちん、あの写し絵箱? だっけ? よくあんなの考え付くねー」

 

 瓢箪の酒を煽りながら、ハクは何気なくコウに尋ねた。

 

「ああ、あれは凄かったな。よもやコウ君があのような技術も持ち合わせているとは思わなかった」

 

 ゆっくりと酒杯を傾けながら、ケイも相槌を打つ。

 

「あー……はははッス。実はあれ、オイラが考えたんじゃないッスよ」

 

 二人とは違い白湯を飲むコウは、曇る眼鏡をふきながら苦笑した。

 

「んぅ?」

 

「ほう? ……では何方からか伝授されたのか」

 

「いえ、そうでもないッス」

 

 意外そうな顔になった二人に、コウは頭を振りながら眼鏡を掛け直す。

 

「あれの作り方は洛陽に居た頃、ほんの少しだけ読んだ本に載ってたッス」

 

「本? へぇ、そんなのあるんだ?」

 

「直ぐにお偉いさんが買っていったッスけど…………ちょっと妙なんスよね」

 

「?」

 

「妙――とは?」

 

 どこか神妙な声色になったコウの様子に何かを感じ取ったのか、ケイは声を潜めた。

 

「いや…………オイラがあの本を見たのはもう何年も前の事なんスよ。でも――」

 

「――でも?」

 

 ハクがごくりと唾を飲み込み、コウに聞き返した。

 

「――あんなに精緻な設計図があるのなら、他に読んだ誰かが作っててもおかしくないッス。けど、未だに誰も作ったって話を聞かないッス」

 

「コウ君でないと作れないほど難しいのではないのかな?」

 

「それは無いッス」

 

 友人の腕前を知っているからこそのケイの言葉に、しかしコウは即座に首を横に振る。

 

「アレはかなり解り易い解説も付いてたッス。別にオイラじゃないと作れないって訳じゃなかったッス」

 

「じゃあ、何でだろ?」

 

「それがオイラにも未だに分からないッスよ……」

 

 二人して腕組みする友人達にケイはふと思いついたことを聞いてみた。

 

「そういえばコウ君」

 

「あ、何ッスか?」

 

「その書物は何という名なのだい?」

 

「おお! さっすがケイさん、名前が判れば探りようがあるよね!」

 

 ケイの一言にぱあっと表情を輝かせるハク。

 

「ん~うろ覚えッスけど…………あれは確か」

 

「「確か?」」

 

 額に指を当て、記憶を辿るコウ。

 

 

 

 

 

「確か、太平なんとか、って名前だったッス」

 

 

 

 

 

 


 
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