―――15話『人として、星詠として』
―ありがとう・・・・先生・・・―
そう、聞こえた気がした。
眠っている間のことなど、わかるはずもないが。
【一刀】「・・・・・ん」
朝の光で目が覚めた。
そして体を起こすと同時に感じる違和感。
隣で眠る少女。
昨日はあのままここで寝たんだった。
この子は、今どんな夢をみているのだろう。
自分の事が分からなくなり、そして、自分は自分のために生きているのではないと知らされ
俺は、何もできないのだろうか。
ずっと思ってきたことだった。
学校に薫を連れてきたのも、いざと言う時に俺が駆けつけられるように。
だが、実際はどうだろう。
何が出来る。
俺が願えば、外史はまた変わってくれるのだろうか。
この子を星詠から解放してくれと願えば、外史はそうしてくれるだろうか。
・・・・
なんて希望的な考えだろう。
それができるなら、もうとっくに薫は普通の女の子として暮らせている。
願わなかった日などないんだから。
やはり、何もできないのだろうか。
【一刀】「困った時はいつも、あいつだな・・・・」
まったく、人に頼ってばかりだ。
俺は寝台からでて、服を調え、部屋を出る。
出来るだけ静かに。
今は眠らせてあげたい。
コンコン―――
貂蝉のいる客室の前まできた。
しかし、ノックをしても中から反応は返ってこない。
出かけたのか?
仕方ない、と思い後ろを振り返ろうとした。
【貂蝉】「あらん、ご主人様ったら、朝からだなんて今日はまたずいぶんと積極的ねぇ」
【一刀】「・・・・・・・・」
背後から聞こえた声に思わず助けを呼びそうになった。
自分の背後にアレが立っているなんて・・・・な?
【一刀】「いや・・・まぁ、ちょっと聞きたいことがあってね」
【貂蝉】「あらあら、昨日は曹操ちゃんといい、ずいぶんと仲達ちゃんは愛されてるのねぇ・・・妬けちゃうわぁ」
【一刀】「華琳が?」
【貂蝉】「ええ、そうよん。仲達ちゃんを救える方法はないかってね。」
【一刀】「それで、あるのか?そんな方法」
【貂蝉】「ええ、ないこともないわねん。ただし、これはご主人様では無理なことだけどねん」
【一刀】「俺じゃ無理・・・?」
そして、俺は昨日華琳に話したと言うその方法を貂蝉から聞きだした。
華琳と薫の互いの記憶を消すことで、救えるのだという。
そんなこと、させられるか。そう思い、俺は華琳の元へ走っていった。
だが、華琳の部屋の前まで来たところで気づいた。
そして後悔した。
これは以前俺がとった方法だ。
その俺が、今の華琳になんて言うつもりだ。
他の方法も見つけられないのに、俺に華琳を止めることなんて出来ない。
【華琳】「誰か・・・そこにいるのかしら?」
突然中から声をかけられた。
【一刀】「あ、ああ・・・俺だよ。華琳」
【華琳】「一刀・・・・・」
【薫】「ん・・・・ん~~・・・」
ずいぶんスッキリした朝。
すぐ隣にいるはずの男がいないことに気づく。
頭を抱えて、はぁ・・・とため息。
【薫】「女が寝てるのに、どっか行くか~~~、普通」
朝から微妙なテンションのまま服を着替える。
今日はやることがたくさんあるんだ。
そう、言い聞かせ、うなだれる自分を奮い起こす。
【薫】「よっし!!やるぞーーー!!」
独り言にしてはずいぶん大きい声。
でも、そういわないと、動けない気がした。
そして、景気づけに――といわんばかりに扉を強く開ける。
――ゴン!!
【地和】「きゃう!・・・・痛ったぁ~・・・・。ちょっと!扉くらいもっと静かに開けれないの!?」
【薫】「へ!?・・あ、え、えと・・・ごめんさない!!」
【地和】「ん??・・・あんた、誰?」
【薫】「え?」
――――――。
【天和】「へぇ~、昨日からここにきたんだ~。じゃあ、私たちが知らなくてもしょうがないね」
【地和】「まあ、アタシ達今帰ってきたばっかだしね」
【人和】「それで、貴女は?」
【薫】「ああ、えと、司馬懿っていうんだけど、ここの人なら真名でいいよ。真名は薫。」
【地和】「ちょ、ちょっと!真名なんて、そんな簡単に・・・」
この3人は数え役満シスターズ?だっけ?
そんな名前の歌手。
結構売れてて、大陸中に信者がいるみたい。
名前くらいしか、知らなかったんだけど・・・・・
【薫】「でも、あんた達が名乗ってるのって真名でしょ?」
【地和】「それは・・・そうなんだけど」
【薫】「なら、いいんじゃない?地和・・・だっけ」
【地和】「そうよ」
この3人も昨日みた記憶にいた。
ほんとは、名前や顔どころか正体だって知ってる。
でも、会ったばかりでいきなり知ってるよ~ってのも変だしね。
【薫】「そういえば、今日は・・・こんさーとだっけ。しないの?ほわーってやつ」
【人和】「今日はさすがに帰ってきたばかりだから、明日になると思う。」
【天和】「お姉ちゃんは、いつでもいいんだけどね~~」
【地和】「姉さんは無駄に体力余りすぎ」
【薫】「あはは」
明日か・・・。
こうやって知り合ったんだから、少し見たかったんだけどな。
【薫】「あ、そうだ。3人とも後で少し暇あるかな?」
【地和】「?・・・一応あいてるけど」
【薫】「じゃあ、少しでいいからまた後で付き合ってくれない?」
【地和】「何するの?」
【人和】「わかったわ」
【地和】「え、ちょ、ちょっと!」
【薫】「ごめんね!そのときちゃんと説明するから~~」
手を振り、3人と別れる。
【地和】「なんなのよ~」
やることは、色々あるけど
まずやらないといけないこと。
【薫】「やっぱ、あの2人からだよね」
そして、調理場へと向かう。
【流琉】「あ、ちょと季衣!つまみ食いしないでってば!」
【季衣】「味見だよ、味見~~」
【流琉】「そういってもう何個目かわかってる~~?」
やっぱりここだった。
どうも、先生に教わったお菓子を作ってるみたい。
クッキーだっけ。
【薫】「流琉~、季衣~」
【二人】「あ、薫」
【薫】「何してんの??」
【流琉】「今お菓子をつくってるの。後で皆で食べようと思って」
【薫】「あ、そうなんだ」
【季衣】「薫は何してるの?」
【薫】「私は、二人にちょっと渡すものがあってさ」
【流琉】「私たちに?」
【季衣】「なんだろ?たべもの?」
【薫】「違うよ。あ、でもクッキーが焼けてからの方がいいかな」
そして、3人でそのお菓子が焼けるのを待つ。
【春蘭】「お、いい匂いだと思ったら、例の菓子か!」
待っているところに春蘭がきた。
匂いでくるって・・・春蘭らしいね。
【秋蘭】「あ・・・薫もいたのか」
【薫】「うん。今来て、流琉がお菓子やいてたから待ってるんだよ」
【秋蘭】「そうか・・・」
この二人まで来るとは思ってなかったけど、この際・・・まぁいいか。
そして、クッキーがやけた。
皿へ盛られていくお菓子を見ながら、つぶやいた。
【薫】「みんなに・・・返すものがあるんだ」
【秋蘭】「・・・」
察しがいいんだろうな。秋蘭は複雑な顔でこちらを見つめていた。
【春蘭】「・・・・・・・・返すもの?」
昨日は春蘭も聞いていたと思うんだけど、たぶん、私の状況が分かっていても、それが何なのか分かっていないんだろう。
【薫】「手を・・・・出してくれる?」
四人は、それぞれ手を出してくれた。
そして、私はそれに1人ずつ、手を握っていく。
【薫】「思い出を・・・・返すね・・・」
薫の体から四人へ青白い光が流れていく。
【四人】「・・・・・・・・」
今までの記憶が一気にフラッシュバックしているのだろう。
四人からの反応がなくなった。
自分もこうなっていたのだろうか。
記憶は・・・返せた。
次はあの3人。
普段なら警邏に出ているだろう3人はまだ朝だからか、街にはでていなかった。
警備隊に所属しているからと言って、いつも一緒にいるわけではなく、それぞれが別々の場所にいた。
訓練場に凪。
研究室に真桜。
沙和は自室にいた。
【凪】「薫様・・・・」
【薫】「やっぱさ~・・・その様ってやめてほしいなぁ・・凪にそう呼ばれると違和感が・・・」
私の地位が軍師。いわゆる参謀に当たるからと凪はこうして昨日から様をつけて呼んで来る。
【薫】「その・・・・あの時はごめんね。先生つかってだましたりして・・・」
【凪】「それは・・・・もう、謝って頂きましたし、済んだことです。」
【薫】「うん。でも、もう一度ちゃんといっておきたくて」
【凪】「・・・・そうですか」
【薫】「・・・・・」
【凪】「・・・・・」
こうなると気まずいよね。
【薫】「・・・・・・凪、返すね。あなたと隊長の思い出」
【凪】「・・・・・・・・」
凪の手を握る。
少し抵抗されたように感じたけど、それも微妙なものですぐになくなった。
そして、先ほどと同様。青白い光が凪へと流れ込む。
【薫】「・・・・・・・・・ありがとう、凪」
自室にいた沙和。
今日は朝は弱いのか、少しボーっとしていた。
【薫】「そういえば、あんたが一番ひどかったね」
【沙和】「ほんとなの」
【薫】「ずっとハズレ扱いだったからな~」
【沙和】「ひどいの」
少し、怒っているようにみせる沙和。
でも、やっぱり複雑なようだ。
【薫】「・・・・・返すね」
【沙和】「お別れなんて・・・早すぎるの」
【薫】「・・・・お別れじゃないよ。沙和。私ようやく目標だった華琳の元で働けるんだもん。」
【沙和】「・・・・わかったの」
沙和は手をだしてくれた。
そして、光が流れる。
【薫】「ありがとう・・・・沙和。それと・・・・最後まで騙して、ごめん・・・・っ・・・」
少し急いで、その部屋から出る。
ここにいたら、立ち上がれなくなりそうだったから。
研究室に向かった。
そこに真桜がいる。
【真桜】「なんや・・・薫か」
【薫】「ひどいなぁ~」
【真桜】「どっちがひどいねん・・・あんだけかき回しといて、急にいなくなるとか言われてもな~」
【薫】「はは・・・それもそうだね・・・」
【真桜】「うちの記憶、返してくれるんか?」
【薫】「そうだね・・・・そのためにここへ来たんだから」
【真桜】「そうか・・・・んじゃ、うちがしゃべれんようになる前にこれ、渡しとくわ」
そういって、真桜が持ってきたのは、大きな扇。
【薫】「これって・・・」
黒い羽・・・・ある意味、翼だ。
柄の部分には緑色の玉石。
その裏側に刻まれた『黒皇扇』の文字。
【真桜】「薫の武器・・・って呼べるもんやないけど、ここで働くんやったら必要やろ?」
【薫】「・・・・・・・・ありがとう・・・真桜・・・・」
こんなの・・・・・だめだよ・・・真桜。
嬉しいのに・・・・
笑えないよ・・・・
【真桜】「ほら、手、だすんやろ?」
【薫】「うん・・・」
そして、握手の形になった二人の右手。
その手から光が流れ、やがて真桜の意識は遠のく。
【薫】「・・・・・っ・・ありが、とう・・・・真桜」
【稟】「・・・・・・」
【風】「・・・・・・」
【薫】「そんな顔されると、言い出しにくいなぁ・・・」
広間にいた、二人。
【稟】「いえ、すみません。そうですね・・・それが司馬懿殿の役目・・・なのですから」
【薫】「真名で良いって言ったのに」
【稟】「あ、いえ・・・」
【風】「薫ちゃん、ほんとにいいんですか?」
【薫】「・・・・・・・ほんとは二人相手にもっと知略対決したいなーとおもってたけど、しょうがないよね」
ははは・・・とおもわず乾いた笑いをだしてしまう。
【薫】「追いかけっこじゃ、結局二人に最後まで読まれてたし。」
【風】「でも逃げられちゃいましたから、風達の負けですよ~」
【薫】「あれは・・・華琳がいたからね・・・」
【稟】「戦で援軍を予測できなかったのはこちらの落ち度ですよ」
ふふっと笑いかける稟。
【風】「・・・・・」
【稟】「・・・・・」
【薫】「・・・・・ありがとう」
二人はそっと出してくれた。
私のことを理解したうえで、受け入れてくれた。
こんなに嬉しいことはない。
二人の手をとり、記憶を返す。
【地和】「んで、何のよう?」
【薫】「あんた達ともちゃんと話したかったんだけどね」
【天和】「???」
三人の部屋に行き、先ほどの約束を果たす。
【薫】「手を出してもらえる?」
【人和】「・・・・・」
【天和】「これでいいかな?」
【地和】「何するつもりよ?」
【薫】「三人には、大事なマネージャーさんを・・・返すね」
【三人】「????」
手を握る。
ずっとつらかったと思う。
自分達が思う夢とはどんどん遠ざかっていった過去。
それを救ってくれた人たち。
その記憶がなくなっちゃったんだから。
思い出したら、喜んで・・・・もらえるかなぁ・・・・・
光が流れていく。
そして、中庭に桂花を呼び出した。
【桂花】「こんなとこで、何の用よ」
【薫】「桂花には特に言いたいことがあってね」
【桂花】「は?」
【薫】「そこじゃ、喋るの大変だし、もっとこっち来てよ。」
【桂花】「・・・・・・」
桂花は地面を眺めている。
その目に入ってきたのは薫の前だけ異様に濃く変色した土だった。
【桂花】「・・・ふん」
そういって、桂花は回り込むように薫に近づく。
【薫】「あ・・・・・」
【桂花】「落とし穴で私をはめようなんて、10年早いのよ」
【薫】「・・・・・・」
少しうつむく薫。
【桂花】「まあ、わざとはまってあげてもよかったんだけd・・・・・・・・・きゃあああああ!!!!!」
ズシーン!!と音を立てて、桂花は地面に落ちていった。
【桂花】「痛ったぁ・・・・・何よこれ・・・・」
【薫】「あはははははは!!10年はやいのはどっちよ!私があんなにわかりやすく落とし穴なんて作るわけないでしょ?色の変わっているところ以外全部穴で囲まれてんのよ!」
【桂花】「な――っ!貴女、何のつもりよ!?」
【薫】「よっと・・・・」
ズサッと音をたて、桂花と同じ穴に入る。
【薫】「やっぱ、あんた罠の才能ないわ」
【桂花】「―――っ。あ、あんたにそんなこと言われる筋合いないでしょ!?」
【薫】「前も・・・・・こうやって、先生はめようとして、自分がはまったのよね」
【桂花】「そんなの・・・・知らないわよ・・・・」
そっぽを向く桂花に対して、伝えたかったことを言う。
【薫】「だから、思い出させてあげる」
【桂花】「そんな記憶・・・・いらない・・・・」
【薫】「だめだよ・・・・桂花・・・・」
【桂花】「っ!・・・・・なんなのよ・・・・」
そっと抱きしめる。
【薫】「忘れてちゃいけないんだよ。先生がいなくなって、あんなに悲しんでたくせに。」
【桂花】「私がそんなはずないでしょ!?」
【薫】「・・・思い出したときは、もう少し素直になってなさい」
【桂花】「・・・・・うるさいわよ」
抱きしめて、体から光が桂花へと流れ移る。
【薫】「もう、わすれちゃ・・・だめだよ。桂花」
そして、最後の二人。
この二人は私を、受け入れてくれるだろうか。
私がやることを許してくれるだろうか。
私は、泣かずにいられるだろうか。
華琳自室―――
【一刀】「華琳・・・・・」
【華琳】「・・・・とめないのね」
【一刀】「俺に、華琳をとめることはできないよ・・・・」
【華琳】「貴方と同じだから?」
【一刀】「ああ、それに・・・・・俺も薫を救いたい」
【華琳】「そう・・・・・」
【一刀】「華琳が忘れても・・・・・俺が覚えている。皆も忘れないと思う。だから、大丈夫だ」
【華琳】「ええ・・・それは心配していないわ。心配なのはむしろ自分・・・・忘れた後、また思い出そうとしないかがこわいのよ」
【一刀】「・・・・俺の時は、自分が忘れようとしたことは覚えていた。だから大丈夫だろう」
【華琳】「そう、ね・・・・」
二人の会話はすでに意思を決めたものだった。
かならずあの少女を救うのだと。
【一刀】「なら、行こうか」
【華琳】「ええ」
忘れたくないから、忘れにいく。
生きていて欲しいから、記憶を消す。
そばにいて欲しいから、ここにいさせてはいけない。
別れないために、別れに行く。
彼女が好きだから、彼女を忘れる――。
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真恋姫(魏ED)AS
いよいよ15話。
今回は切りどころがなかったために、すこし長めです。
そして予定ではあと2,3話で最終話になります。
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