No.764765

すみません、こいつの兄です。95

妄想劇場95話目。ハーレム回……なのかな?寸止め回です。
どこまで書いたら、R18にしないといけないんでしょうね。

最初から読まれる場合は、こちらから↓
(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2015-03-16 00:23:22 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1319   閲覧ユーザー数:1160

 夏の終わり。秋寸前。というか、ほぼ秋。そんな季節。

 そんな季節に、俺たちの被害はこれからだ!と言わんばかりの猛烈な台風が関東地方を直撃した。川は増水するし、潮は高くなるし、風はびゅーびゅー吹くし、記録的な豪雨まで食らった。

「直人くん。電車止まったわよ。泊まって行きなさいな」

いつものように市瀬家で美沙ちゃんの家庭教師をしていた俺は、交通手段を失った。あろうことか、ダンディなお父様はダンディにドイツ出張。つまり車も出ない。

「お兄さん、よくたどり着けましたよね。来ないと思ってました」

いつものように俺を背もたれにして、勉強していた美沙ちゃんが振り返って言う。

 そりゃ、来るよ。

 美沙ちゃんが可愛すぎて、俺の根性レベルが四つくらいボーナスついているのだ。上下レインコートに長靴装備で、電車に乗って、住宅地の道路に川のようにして流れる水の中をじゃぶじゃぶと駅から歩いてやってきた。

 やってきたのはいいが帰る頃には、俺より根性ナシの電車が止まっていた。

 市瀬家から自宅までは、最短距離で十キロほど。

 自転車でもあれば、まぁなんとかなる距離だが、なにせ電車が止まるほどの大嵐だ。どうにもならない。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

お言葉に甘えるも何も、他に選択肢がない。

 

 夕食は真奈美さん作のペポーゾ。

 また知らない名前の料理が出てきた。胡椒がきいたビーフの煮込み料理だ。ものすごく美味い。

「真奈美がお料理してくれるようになって助かるわー」

「お姉ちゃん、料理だけは上手いよね」

猛烈に美味い。

「これ、どうやって作るの?」

真奈美さんに作り方を聞いてみる。

「……ローリエとワインに塩胡椒をすりこんだ牛肉を浸して……冷蔵庫に入れて、あとで煮るの」

聞くと簡単そうだが、絶対再現できないぞ。たぶん『塩胡椒をすりこんだ』とか簡単に言っている部分がなにか魔術的なテクニックが入っているんだろう。あと、すごく美味いたまねぎも入っているのだけど、今の説明の中に一切出てこなかった。

 あっという間に食べきる。残ったソースもフランスパンで拭くようにしていただく。市瀬家では米の出ない食事も珍しくない。とことん洋風だ。二宮家だと、味噌汁が出ない食事が珍しい。とことん和風だ。

 デザートに、クレーム・ブリュレが出てくる。

 これまた初めて食べるデザートだ。小さな器に、オムレツのようなグラタンのような見た目のデザートが盛られている。焦げ目がついているところを見ると一回焼いてあるのだけど、冷たいデザートだ。

 美味すぎ。

 どうなってんのこれ?

 真奈美さんは美食倶楽部でシェフとパティシエになれる。だが美食倶楽部には「これを作ったのは誰だぁっ!」と叫んで厨房に飛び込んでくるパワハラの権化がいるので駄目だ。厨房で漏らして大惨事だ。パワハラとかする上司がいる職場はみすみす得がたい才能を逃していると思う。パワハラだけど優秀な上司なんてものはいないのだ。部下がいい成果を出すためには、まず部下が辞めずに働いていなければいけない。わかったか海原○山。(えらそう)

 

 夕食が終われば、お風呂の時間である。

「お兄ちゃんと入る」

むぎゅ。

 真奈美さんがソファに座る俺の背後から抱きついて嫁入り前の娘さんにあるまじき発言をする。やめなさい。はしたない。あと、後頭部にほんのりとした柔らかさが押し当てられて気持ちいい。あえて確認はしないが、おそらく俺の頭部がパ○ズリみたいな状態になっている。控えめなBカップなので、エロマンガみたいに頭が挟まれるほどの状態にはなっていないが、それでもヘブンでパラダイス。

 つまり、真奈美さんのボディは十分にヘブンでパラダイスでガーリーなので、いっしょにお風呂に入るとかとんでもない。俺の理性が持たない。理性が持たないと本能だ。本能だと繁殖してしまう。

「だめ」

鋼鉄よりも固いジルコニウムの意志で断る。ここで断らないと俺の股間がジルコニウムより固くなってしまう。すでにちょっと硬化開始している。

「やー」

あああああ。気持ちいい。そうやって、だだをこねるみたいに俺の頭を抱え込んでムニムニ動かされると、絶妙すぎる弾力に意志が溶けていく。真奈美さん基本ノーブラ・ジャージだからなー。ジルコニウムの意志が溶けていく。メルトダウンだ。

 なんか、どうでもよくなってきた。真奈美さんと付き合おう。というか結婚しちゃおう。学生結婚だから養うのは大変だけど、真奈美さんも働いているし、安い材料でも美味しい料理を作れるし、真奈美さんなら大丈夫だ。うん。結婚してしまえば一緒にお風呂に入っても、お風呂で卒業しちゃっても大丈夫だ。少子化、晩婚化の問題を解決しよう。

「お姉ちゃん!いい加減にしてよ!」

あ。美沙ちゃんが御キレになっておられる。そうだった。危うく、大切な決断を気持ちよさに流されて下してしまうところだった。

「お姉ちゃん自分がなに言ってるかわかってるの!?」

「うん」

「わかってないよ!」

「美沙。十八歳以上の好きあっている男女は一緒にお風呂に入っていいんだよ」

しばらく見ないうちに、真奈美さんが頼もしくなっている。感慨もひとしおだ。御キレあそばされている美沙ちゃん(17)に正論で反撃している。勇者だ。

「お兄さんはロリコンだから、私の方がいいはずだもん!」

大天使ミサエルちゃんを可愛いと思うのをロリコン呼ばわりされるとは、世の中がおかしい。美沙ちゃんはだれがどう見ても百パーセント可愛いだろ。というか、十七歳の美沙ちゃんレベルの美少女に劣情を覚えない男の方が異常なので、変な大人の都合で十八歳未満に劣情を抱くこと自体が異常性欲者みたいな扱い、やめれ。今すぐ。

 怒った顔まで可愛い可愛さ百パーセントの美沙ちゃんがつかつかとソファに向かって歩いてくる。おもむろに俺の手を掴む。

「お兄さん。一緒にお風呂に入ろ!」

 

美沙ちゃんが。

俺の。

手を。

掴んで。

『一緒にお風呂に入ろ』。

 

美沙ちゃんが。

俺の。

手を。

掴んで。

『一緒にお風呂に入ろ』。

 

 次の瞬間。俺は脱衣所にいた。

 

「お兄ちゃん。美沙は未成年だから犯罪だよ」

「真奈美さん、すまん。人生と引き換えにする価値がここにあるのだ」

美沙ちゃんと混浴である。死んでいい。死ねばワルキューレのお姉さんに会える。知ってる。俺、一度臨死体験しているからな。死ぬのは、実は想像するほど怖いことではない。

「じゃあ、私も」

俺の前に美沙ちゃん。後ろに真奈美さんである。目の前の美沙ちゃんは脱衣所でTシャツのすそを掴んでフリーズしている。顔は耳たぶまで桜色に染まっている。エロ可愛すぎて、俺がキュン死しそう。

 じー。ぱさ。

 えっ?

 背後のただならぬサウンドに振り返ると真奈美さんが、ジャージの上着を脱ぎ捨てていた。真っ白な肩がキャミソールから伸びている。その手がジャージのズボンにかかり、するすると脱ぎ捨てる。色気の無い大き目のパンツ。色は白。

「おわぁっ!ストップ!」

やばい!

 脱衣所で脱衣である。いや。おかしくない。当たり前の行動なのである。だけど俺もいるのである。まさか、まったくためらいも無く脱衣するとは思わなかった。美沙ちゃんみたいに真っ赤になって躊躇するのが普通。もちろん、いまさら言うまでもなく普通じゃない真奈美さんである。キャミソール+パンツのみを残すギリギリなところで真奈美さんを押し留める。

「なんで?」

真奈美さんが嫁入り前の女の子だからだ。スカートめくりがアウトならパンツ丸出しもアウトである。パンモロである。というか真奈美さんの肌、相変わらず現実離れしてるな。きれいすぎる。ちがう、そこを見ちゃいけない。というかこの子に抱きつかれたりしてるのか……。そりゃ気持ちいいわけだよな。ちがう、俺の意識が理性と本能に交互に乗っ取られる。

「お姉ちゃんばかり見てちゃだめ!今日はお兄さん私の先生じゃん!」

背後から、頭を掴まれて百八十度回頭させられる。残念ながら、俺の首関節はそんなに回転角度がない。急に回転させるのやめてくれ。取れちゃう。痛みに一瞬。頭がきゅるきゅるネジみたいに回って、ぽんって取れる瞬間を幻視する。

 頭が取れないように身体もめぐらせて、Tシャツ姿の美沙ちゃんのほうを向く。俺の頭を解放した美沙ちゃんの両手がTシャツの裾を掴んで、一気に引き上げる。

 おひょぉおおっ。美沙ちゃんの乳白色の上半身が薄水色のブラだけをした状態になる。

 俺は当然のように前かがみになって頭が下がる。下方の頭は上がっているんだけどな。

「直人くん、両方見比べてから、どっちにするか決めるの?」

そこに由利子お母様まで顔を出す。

「ちちち、違います!ま、真奈美さんと美沙ちゃんと入るといいよ!」

そうだった。ここは市瀬家で、お母様同伴であった。お嬢様たちに不埒なことはしない。しないよ。チキンマインドの命じるがままに脱衣所から逃げ出す。命と引き換えにしても惜しくない千載一遇の美沙ちゃんとの混浴イベントを自ら放棄。マジチキン。死ねよ。自害を考慮する。

 

 脱衣所から脱出して、扉を閉じる。

 廊下に由利子お母様と二人きりになる。

 さっきまで、脱衣所で下着姿の美沙ちゃんと真奈美さんと一緒にいた。俺は、つまり娘さん二人と二股をかけて、混浴しようとしてた男である。世界中で、今の俺より気まずい人間を俺は知らない。

「せっかくのチャンスだったのに」

俺が言ったんじゃない。由利子お母様が言ったんだ。母親として、どうなのだ。この人も多少クレイジーだ。

「お、およめいりまえのおじょうさまにふらちなことはいたしません」

直立不動で宣言する。脂汗が頬を伝う。

「どっちかにしてね」

あ、それ。以前にも言われたな。

「えと……そ、そんなに浮気モノに見えます?」

まぁ見えるだろうよ。真奈美さんとも、美沙ちゃんともほぼ同時にいちゃついているんだから。有罪。

「見えないわ。だから、美沙も真奈美も奪うの苦労しているんだろうなって思って」

「奪うも何も……」

ごめんなさい。奪うも何も、やりかたもろくに知らない童貞野郎です。

「真菜ちゃんのこと大好きでしょ?直人お兄ちゃん」

「ご冗談を」

真菜はたしかに嫌な妹ではないが、好きとかではないし美沙ちゃんと比較できるようなものではない。美沙ちゃんはDカップ。妹はAAAカップの洗濯板だ。

「真菜ちゃんと恋人っぽいことしないの?」

「しません」

ロリコンも犯罪だが、シスコンも犯罪だ。ロリコンは人の作った法で禁じられているが、シスコンは神の作った戒律でも禁じられている。生物として妹には欲情しないようにできているのだ。あのハードディスクな妹に異性を感じたら、天罰が下ってゼウスの稲妻に貫かれる。あれ?ゼウスって妹と結婚しているんだっけ?すげーな。オリンポスの神々、マジゴッド。

「あら?外れちゃったかしら?」

「なにが?!」

「私、直人くんって真菜ちゃんと絶対一緒に寝たりしてると思ったんだけど」

「え?」

「当たったわね」

しまった。表情に出てしまった。

「あ、あいつが勝手に、たまに、たまにベッドにもぐりこんでくるだけで!ってか、なぜバレたし!」

由利子お母様が、美沙ちゃんに似た悪戯っぽい笑顔を浮かべる。

「女の勘。っていうか、美沙も気づいていると思うな……」

まじかよ。女の勘、マジニュータイプ。美沙ちゃんの方は若干強化人間っぽい。ロザミアっぽい。お兄さん言うし。

「えーと」

はめられたよな。今。

「っていうか、美沙は真菜ちゃんから相談されたのかも」

「え?な、なにを?」

「真菜ちゃんは、たぶんお兄ちゃんを美沙にも真奈美にも、他の誰にも取られたくないのよ」

そう言われて見れば、あいつ美沙ちゃんが暴走するたびに確実に妨害してきた。美沙ちゃんとのプールデートの時だって、あいつの計略で同窓会みたいになった。みちる先輩の彼氏のフリをしてアミューズメントパークに行ったときも、こともあろうか美沙ちゃんを連れて見張りに来ていた。

 そうか。

 俺が童貞なのは、あいつのせいだったか……。

「さすがに実の妹と結婚しようと思うのは、どうかと思うわ」

この美人なお母様は何を言っているんだ?

「妹と結婚なんてしませんよ」

「でも、兄と妹が両方とも誰とも結婚しなかったら、それは妹と結婚しているようなものだわ。だって二人とも一つの屋根の下で暮らして、同じ人を両親と呼ぶのでしょう?」

「う……それは、そうかもしれません」

でも、夫婦なとある行為には及ばないじゃん。でも、それだけか違いは……。

「でしょ。だけど、直人くんの幸せな家庭はたぶんうちの美沙か、真奈美と一緒にあるわよ」

にっこりと微笑む由利子さんは、たぶん正解。時は容赦なく流れる。あと一年経たずに俺と真奈美さんは成人になり、美沙ちゃんと真菜も女子大生になる。一年がすぐに流れさるなら五年だってすぐに流れ去るだろう。

 俺は、答えを出さないといけない。

 真奈美さんか、美沙ちゃんか……。もしくは。

「ところで直人くん」

「はい」

「美沙と真奈美、脱衣所に着替えもって来てた?」

「え?いや……」

そういえば、そうだ。

「うちって主人がいないと、女ばかりの家だから美沙とかバスタオル一枚でお風呂上りに歩き回るわよ」

「まじすか!」

ひゃっはぁーっ。美沙ちゃんのバスタオル巻きが見れるぞ!

「うれしい?」

いかん。有頂天になりすぎて、目の前の人が美沙ちゃんの母親だということを忘れていた。俺、もう本当に駆除されると思う。でも、美沙ちゃんのバスタオル巻きとか見たくないわけないだろ。あたりまえのことだよな。

「いえ。嫁入り前の娘さんのあられもない姿を見ようなどと日本男児として恥ずべき行為です」

直立不動でお母様に告げる。ウソは言っていない。恥ずべき行為でも、見たいものは見たいのだ。見たくないとは言っていない。いけないことほど魅力的だって言うじゃない?

「じゃあ今すぐ嫁にもらっちゃえばいいのよ。両親の承諾があれば、美沙だって結婚できるわよ」

今日の由利子さんは、なぜこんなに行き遅れた娘さんを持つ年老いた親みたいになっているのだろうか。十代のうちに美沙ちゃんと結婚なんてしたら、大変なことになっちゃうぞ。孫が二十人くらいできちゃうぞ。

「まんざらでもないでしょ?」

追い討ちがかかった。追い詰められている。

 そうか。わかった。由利子お母様は密かに怒っているのだ。美沙ちゃんと真奈美さんにふしだらでけしからんことをしている俺に腹を立てていて、今が折檻タイムなのだ。つまり、ここまでうちの娘にふしだらなことをしたのだから責任を取れということだ。直接そう言われたら、反論のしようがない。コトに及ばなければいいというものではない。美沙ちゃんは、高校一年生の秋に屋上で俺に告白している。その前に、俺は真奈美さんを公園で抱きしめている。なにをしたわけでもないハグだったけれど、真奈美さんにとってなんでもないわけじゃない。そのぐらい分かっていたはずだ。十代の一番キラキラした恋心を俺なんかに向けてくれていたのだ。そのかけがえの無い時間に対して、なんの責任もないというのはいかにも不誠実だろう。

「おかーさーん。まさか、まだお兄さんそこにいるの?」

とっくに追い詰められた事実を噛み締めているうちにバスルームの扉の向こうから、美沙ちゃんの声が聞こえてきた。

 おおう。

 きっと今、美沙ちゃんは全裸もしくは、バスタオル一枚の状態だぞ。

 十代男子。その事実が推測できるだけで、十分にごちそうさまできる。ここで言うごちそうさまとは婉曲表現である。

「いるわよー。ちゃんとバスタオル巻いて来なさいよー」

「お兄さんっ。ちょっと居間に行ってて!」

さっきまで、俺と一緒にお風呂にすら入ってくれそうだったんだからいいじゃんか!

いや、良くない。そういうのが不誠実だと言うのだ、このバカタレ。

ちなみに最初のがデビル俺の声で、後半のが理性俺の声だ。天使はドアの向こうにいる。

「あっ。お姉ちゃん!」

美沙ちゃんの少しパニクった声とほぼ同時にバスルームの引き戸が開いて、真奈美さんが出てきた。全裸で!

 ひうっ!?

 真奈美さんは、すたすたと階段を昇って二階に消えていく。

 真っ白。

 真奈美さんの肌って真っ白なんだよな。

 脚とか、すっげーすらっとしてるし!

 ウェストのカーブが!

 胸の前に抱えたジャージが邪魔だった!

 しかし、もっともクリティカルな領域はノーガード!

 おおおおおお。

「直人くーん。大丈夫?」

「え?」

由利子お母様に頬をぺちぺちされる。

「フリーズしてたわよ」

「……あー」

そりゃ、フリーズするよ。突然、同い年の十九歳の女の子が全裸で出現だよ。しかも真奈美さんだよ。歩くビスクドール。マスターグレード真奈美さんだよ。

 これでフリーズしない童貞がどこにいる。

「大丈夫?刺激強すぎた?焦点合ってないよ?」

由利子お母様が、本気で心配そうな声を出す。刺激が強すぎたかと問われれば、イエスだ。ああいうものは、もう少しドキドキ少しずつ心拍数を上げてから見るものじゃないかな。いきなりクライマックス過ぎないかな。というか真奈美さんなに考えてんだ。俺がここにいるの知っていただろうにバスタオルも巻かないとか……。あ、そうか。真奈美さんか。たぶん真奈美さんは俺のことを異性だと思っていない。というか、真奈美さん異性同性の区別があまりついていない。俺が最初は真奈美さんを女の子の分類に入れていなかったのと同じように……。

「お兄さんっ。いつまでもそこにいないで向こう行ってよ!」

バスルームの扉から首だけ出して美沙ちゃんが叫ぶ。つやつやの首と肩だけというのも、萌える。今日は次々に脳内HDDに回想シーンがオープンされていく。(エロゲ脳)

 脳内HDD書き込みタスクに処理能力が百パーセント使われている俺の手を誰かが引いた。

 ジャージを着用して二階から降りてきた真奈美さんだった。脳が沸騰してフリーズした俺は、思考能力ゼロのまま真奈美さんに手を引かれて階段を昇っていく。

 階段の下で、由利子さんが「美沙ー。もう大丈夫よー」と言っているのが聞こえた。

 

 誘われるままに真奈美さんの部屋に連行される。その途中でも、数分前に見た滑らかな白い肌がフラッシュバックする。いつものジャージ姿に戻った真奈美さんの肩や背中を見ても、ジャージの内側の白い肌を意識してしまう。

 真奈美さんは、未だに若干引きこもり気味だ。ジャージ姿からも分かるように、普通の女の子みたいにおしゃれを楽しんだりもしていない。女の子同士でおしゃべりも、かなり限られている。普通の女の子からはほど遠い「真奈美さん」としか言いようのない生き物だ。

 それでも最初に汚部屋の中で下着姿でゴミに埋もれてドラクエ3のレベル上げをひたすらやっていた真奈美さんから比べると、相当に女の子だ。当時の真奈美さんが女の子レベル1ならば、今の真奈美さんは女の子レベル三十くらいにはなっている。美沙ちゃんは女の子レベル99だ。早くケッコンカッコカリしないと!

 それはそれとして、真奈美さんも女の子レベルがあがって真奈美さん・改になりそうなのだ。

 そんな女の子しはじめた真奈美さんが、石鹸のふんわりとした香りを漂わせて俺を部屋に招きいれている。俺は手を引かれて、真奈美さんと並んでベッドに腰掛ける。

 こっちを向いた真奈美さんが、両手を広げて俺に抱きついて来て。

 ベッドに押し倒されて。

 柔らかな重さとベッドの柔らかさに沈み込んで。

 真奈美さんの吐息が耳をくすぐるように囁く。

「やっと、いっしょに寝れるー」

はわわわわわ。もーだめだー。この状態になって踏みとどまれる男っているの?ってか、この状態で一晩過ごして踏みとどまれるものなの?そんな人いるの?ダライ・ラマかローマ法王以外に?

 むにむにむにむに。

 真奈美さんが俺の首筋に鼻先をこすりつけてマーキングする。同時に胴体の上に乗っている各部もむにむにと押し付けられる。ああっ、もうっ!けしからんな!真奈美さんのくせに、もっとやれ!

「前は……」

はいー。俺の前シッポは、もうエネルギー充填百二十%だよー。なんか、ごりごりしてたらごめんねー。いや、もう、これ、意志ではどうしようもないのよ。

「……お兄ちゃん、窓の下だったから……」

「え?なにそれ?」

何時のことだったか、記憶を探る。その脳内作業で、若干血流が下半身から脳に戻ってくる。そんなことあったっけ?

「迎えに来てくれたとき」

少しだけ顔を浮かせて、俺の目の前五センチの距離で真奈美さんがヒントをくれる。

 そういえば、そんなことがあった。

 まだ俺の自転車が川底に沈む前。真奈美さんが、ようやく学校に通い始めたころのことだ。真奈美さんが、夜中にうちに来ようとして駅前で立ち往生したときに、自転車で迎えに行ったっけ。あの日は夜中に娘さんのいる市瀬家に乱入するわけにもいかず、かといって真奈美さんを放置するわけにもいかずに折衷案で真奈美さんの部屋の窓の下で寝たんだった。

「真奈美さん……」

「なぁに?」

五センチの距離のセルロイド人形の顔が微笑む。真っ白なその肌と微笑みは、ホットミルクの甘さ。

「一緒に寝たかったの?」

「うん」

静かに細めた目は、一切の色気が無くて、かといって子供のような無遠慮さも無い、大人の女性でも子供でも少女でもない。それではなにかと言うと、真奈美さん・改だ。真奈美さんは、女の子じゃない。それはずっと俺が思っていたことだけど、今の真奈美さんの目も、本当に女の子じゃなくて、女性じゃなくて、子供でもなくて、ただ真奈美さんな目だった。きっとエネルギー充填百二十パーセントに反応しちゃっている俺の男の子の身体とはちがった「一緒に寝たい」が真奈美さんの気持ちなのだろう。

 一方通行な昂ぶりを自覚して、少し冷静になる。

 相手は真奈美さんである。エッチな展開以外に考えがおよんでいなかった自分の脳みそが本能すぎる。でも、真奈美さんにむにむにされると本当に気持ちよすぎて脳みそ溶け出しちゃうのでしかたない。

 そこに、激しくドアを開ける音が襲ってくる。

 ひうっ?!

 後ろめたさ満タンの俺氏。超、びっくり。オナニー中に部屋に妹が乱入してくるよりもびっくりしたかもしれない。

 しかし、事態はより深刻である。

 部屋に飛び込んできたのが美沙ちゃんだからである。

 もう少し注釈をつけると、ヤンデレの気のある美沙ちゃんである。

「お兄さんっ!お姉ちゃんになにしてるのっ!?」

よく見よう。俺が下になっているよ。

 俺の上に乗っていた真奈美さんが、ごろんっと音を立ててカーペットの上に転がる。すごいな美沙ちゃん。今、片手で真奈美さんを転がしたぞ。真奈美さんがいくらスレンダーと言っても体重四十キロ前後くらいはありそうだぞ。片手ってどういうことなの?目からハイライトが消えて、怪力を発揮しているのはかなりマズい状態だ。俺は軽く恐怖した。

「あらあら、美沙ったらだめよー」

そこに現れた由利子さんが、いまにも俺に襲い掛からんとする美沙ちゃんを片手で釣り上げて、背後から抱きすくめる。市瀬家では人間を片手で吊り上げるのが日常なのだろうか。あまり見たことのない日常である。あと、あのほっそりした腕のどこにそんなパワーがあるのだろうか。物理的におかしくないだろうか?

「だって、お兄さんお姉ちゃんと寝ようとしてたよ!」

ああ。お母様になんてことを言いつけるんだ。いや、事実なんだが、事実だけに都合が悪いのである。

「じゃあ、美沙は久しぶりにお母さんと一緒に寝る?」

「それと、これとは違うもん!」

「違わないわよねー。真奈美」

さすがお母様。よく分かっている。今の真奈美さんは、お母さんと一緒に寝るに近い

「うん。私、お兄ちゃんと寝るー」

そう言って、真奈美さんが再びベッドに登ってくる。ついでに俺の上にも登って来る。お母様の前では、なんとも居心地が悪いので、少し離れて欲しい。ナチュラルに横にスライドしながら起き上がって、なんとかベッドに並んで座る程度の距離に留める。

「美沙は覚えてないかも知れないけど、美沙、ちっちゃい頃にお姉ちゃんがお母さんと寝る番のときに何度も譲ってもらったのよ。美沙、よく泣いたから」

由利子さんが、そう言いながら抱きすくめた美沙ちゃんを撫でさする。俺も美沙ちゃんをナデナデしたい。美沙ちゃんの髪の毛はすべすべでさわり心地がいい。マイクロファイバー並みである。別にマイクロファイバー抱き枕カバーなどと比較したわけではない。そんなものは持っていない。欲しいとは思う。

「じゃあ、お姉ちゃん。お母さんと寝ていいよ」

「美沙、お兄ちゃんと寝るの?」

そんなことになったら、明日の朝までに犯罪が確実に成立すると思う。美沙ちゃんは来年の三月三日までは未成年で違法なのだ。

「あら。美沙、もうお母さんと一緒に寝るのイヤ?」

「嫌じゃないけど、お姉ちゃんが、お兄さんと一緒に寝るのっておかしいじゃん!」

正論だ。俺が、真奈美さんと一緒に寝るのはおかしい。俺も真奈美さんも十九歳の大学生なので一緒に寝たりしても、犯罪ではないが、そういうのはちゃんと恋人同士がやることだと思う。

「おかしくないよ」

おかしいと思っているところに、隣から真奈美さんが意外とはっきりした声で否定する。

「私、お兄ちゃん好きだし。お兄ちゃんと一緒に寝たいし。お兄ちゃんと一緒が一番いいもん」

真奈美さんが俺の頭を抱えて引き寄せる。真奈美さんらしからぬ毅然とした声と行動に驚く。

「ちょっ!お姉ちゃん離れて!」

美沙ちゃんが俺の頭を掴んで、真奈美さんから引き剥がす。頭だけ掴んで振り回すのやめよう。取れちゃうといけない。

「私だって、お兄さんのこと好きだもんっ!」

そう言って、美沙ちゃんが頭をぎゅっと抱きしめてくれるので頭がDカップに押し付けられて天国過ぎておかしくなっちゃぅうううー。

「美沙も、お兄ちゃんと一緒に寝たいの?」

真奈美さんの声が、美沙ちゃんが宣言しなかったところを突く。

「……い…一緒にね、寝るわけないじゃん……。つ、つきあってもないのに」

だよねー。

 美沙ちゃんが一緒に寝てくれるんじゃないかと思っちゃいけないな。いくらなんでも、そんなエロゲみたいな展開はない。ここまででも、十分エロゲみたいな展開だけどな。今日はいったいどうなっているんだろうな。

「じゃあ、私が一緒に寝る」

「お姉ちゃんだってつきあってないでしょ!」

「つきあってなくても、一緒に寝るよ。お兄ちゃんだもん」

「直人お兄ちゃんは、真菜ちゃんと一緒に寝てるもんねー」

「えっ!お兄さん。真菜と一緒に寝てるの!?」

由利子お母様!何を言うんだッ!この野郎!このカオスどうしてくれる!

「ま、まって美沙ちゃん。真奈美さん、お母さん。ちょっと状況を整理しよう!」

タイタニウムの意志を持って美沙ちゃんのDカップから顔を引き剥がし、状況の整理を試みる。非常に状況が混乱しているからだ。

「まず…」

「真奈美は、お兄ちゃんと一緒に寝たいのよねー」

「うん」

「お姉ちゃん。やらしい」

「やらしくないよ」

「やらしいことはしないよ(予定)」

「お兄さん、嘘つきです」

「(今のところ)ウソじゃないよ」

「美沙は、直人くんと一緒に寝たいの?」

「そんなわけないじゃん!」

大変残念である。

「直人くんは、誰と寝たい?」

そういう選択肢が、この人生において選べる日が来るとは思わなかった。童貞なのに、選択肢が贅沢すぎるぞ。

「あ、言っておくけど、美沙といやらしいことしたら犯罪よ」

美沙ちゃんと一緒に寝て、いやらしいことを我慢するのは人類に可能なのだろうか。

「あと、真奈美ともやらしいことしないって、さっき言ったわよね」

なるほど。俺は死ぬんだな。ナマ殺されるだな。

「信じられない」

美沙ちゃんが、半眼で俺をにらむ。

「でも、真菜ちゃんと一緒に寝ていやらしいことしてないんでしょ」

「さすがにそれはない」

きっぱり否定できる。あの妹相手に欲情するとか想像つかない。

「やっぱり一緒に寝てはいるんだ…」

美沙ちゃんが、半眼をさらに細めて俺をにらむ。俺はさっきから由利子お母様の誘導尋問に引っかかりすぎである。いわば美人の年上の女性にもてあそばれている。だが、こういうもてあそばれ方は好きじゃない。上手にぴゅっぴゅできたねー的なのがいい。

 そうじゃない状況の整理だ。

 まず美沙ちゃんと一緒に寝るのはナシ。俺の自制心の上限を超えている。十七歳の美沙ちゃんは法で禁じられている。なにより美沙ちゃんもダメだと拒否している。

 真奈美さんと一緒に寝るのは、真奈美さんは拒否していない。同時にお母様からは、真奈美さんにいやらしいことしないと言質を取られた。真奈美さんへのイヤラシ欲が俺の自制心の上限範囲内に本能がおさまっているかと言うと疑問だ。だが、由利子お母様は大丈夫だと思っているみたいだ。根拠は俺が妹と寝ても別になにもないからだ。根拠としては薄弱だが、たしかに真奈美さん側にその気がまったくないのは、さっきの目を見ればわかる。つまり妹と似たようなものかもしれない。

「じゃあ、真奈美と一緒に寝てもいいじゃない?」

由利子さんがにっこりと微笑む。大切な娘さんと、変な馬の骨が一緒に寝ることに微笑む母親。あまりノーマルではない。

「良くないよ!お兄さん、ぜったいお姉ちゃんにいやらしいことするよ!」

姉と変な馬の骨が一緒に寝ることに激怒する妹。こっちのほうがノーマル。美沙ちゃんのこれは、ツンデレのツンなのか。最近はデレ濃度も濃くなってきているので、ディスられても嬉しい。これが、恋は盲目と言う状態だろうか。たぶん違う。

「だいじょうぶよー。真菜ちゃんで慣れてるものー」

由利子お母様が、美沙ちゃんを説得にかかる。

「お母さん!真菜とお姉ちゃんじゃ全然違うよ!安全評価基準でAAAとBくらい違うよ!」

真菜と真奈美さんのボディの危険度を安全評価基準に当てはめると、たしかに真菜がAAAで真奈美さんはBだと思う。美沙ちゃんはDだな。極めて危険だ。

 それにしてもなぜ由利子お母様は俺を真奈美さんと寝せたがるのだ。昔の美沙ちゃんみたいに、俺に責任を取らせて真奈美さんをうちの嫁にしようという作戦なのか?昔と違って、俺もやぶさかではなくなっているけれど、そんな風に流されて人生を決めちゃいけない気もする。なにより真奈美さんはたぶん一緒に寝ることと責任をとるような事態が脳内でリンクしていない。ここでダーっとなだれ込んじゃうと、真奈美さんが状況を理解しきらないまま、後戻りできないところまで行ってしまう。それは詐欺だ。

「いやらしいことしてもいいよ」

「ほらっ!お姉ちゃん変なこと言ってる!」

「大丈夫よー。私、直人君のこと信じてるから」

ごめんなさい。信じられても、こっちには自信がない。真奈美さんボディは抱きつかれると、思わぬ柔らかさに極めてデンジャラスなんだよ。真奈美さんも由利子お母様もそのあたりが本当の意味ではわかっていない。あと、真奈美さんは「いやらしいこと」がなんなのかわかっているのか?分かっていないんだとしたら、俺は卑劣極まりないことになってしまう。

「真奈美さん『いやらしいこと』ってわかってる?」

「お兄さん!家族の前で言葉攻めですか!?」

違う。真奈美さんに『ほら、いやらしいことってなんだ?はっきり言わないと分からないだろう?ん?』とやっているわけではないのだ。美沙ちゃん。

「うん。わかってるよ……」

真奈美さんが、おどおどと答える。

「生……」

「ナマっ!?」

そういやそうだ!そんな準備してきてない!生になっちゃうぞ!おおおう。

「…クリーム」

クリーム?

「全身に塗って……」

はい?

「舐めるとか……だよね?」

誰だ。真奈美さんにそんな漫画読ませたの。青少年に悪影響が出てるぞ。

「ほらっ!お母さん!ぜったいダメだよ!おかしいよ、この人たち!」

いや。今の俺が言ったわけじゃないんだが。

「あんまりイキナリ高レベルなのもいけないかしらねー」

さっきまでイケイケだったお母様もさすがに少し考える仕草を見せる。

「でしょっ!ダメだよ!」

美沙ちゃんが押す。

「でも真奈美。ぎゅってしてもらって寝たいわよねぇ。昔は美沙ばっかり一緒に寝てたから……」

由利子さんの目はマジだ。ここは由利子お母様としても、トラウマポイントである。美沙ちゃんに愛情が移ってしまって、幼い頃の真奈美さんへの愛情が薄かったのではないかという点において後悔しているのを俺は知っている。かといって、馬の骨(俺)と一緒に寝かせようと頑張るのはよくない。少し冷静になるべきだ。

「あのー」

控えめに手を挙げて発言を求める。

「そこは、お母様が真奈美さんと一緒に寝ればいいのでは?」

 

 折衝の結果。ベッド配分はこういうことになった。

 真奈美さんと由利子お母様は、真奈美さんのベッドで添い寝。

 美沙ちゃんは、いつもどおり自分のベッドで寝る。

 俺は、由利子お母様の……というか、市瀬夫妻のダブルベッドを一人で占領して寝る。

 最初からこの配置にならなかったのが不思議だ。なぜだ。

 真奈美さんが一緒に寝れるーとか言い出したからだな。

 ダブルベッドを見て、受験に行ったとき妹がダブルとツインを間違えて予約していたことを思い出した。いつの間にやら、本当に妹と一緒に寝ることに抵抗がなくなっている。たしかに子供の頃から途切れることなく、妹とは時折一緒に寝ていた。それでも、最近……美沙ちゃんに告白されたあたりから、妹が妙な甘え方をしてくるようになった。

 まぁ、その理由もなんとなく知っているから不気味ではない。

 あいつは、変化が怖いのだ。あいつの記憶は過去が冷凍保存されている。人が忘れることで今を生きて行くときも、あいつは薄れることのない記憶を持っている。そして今が失った過去の瑞々しさを思い知るのだ。

 ……。

 親に可愛がられたかったときに、甘えられなかった真奈美さんも、今、過去を取り戻そうとしているのだろうか。

 ちがうな。

 真奈美さんの過去に俺はいない。俺と一緒に寝たがったのは、過去を取り戻すためじゃなくて、今で過去を購うためなのだろう。

 そんなことをうつらうつらと考えながら、眠りに落ちていった。

 

(つづく)


 
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