No.761702

ある狂人の日常"5"

最近どうも書くことを忘れている気がする。

2015-03-02 02:32:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:257   閲覧ユーザー数:256

 回る回る。時計の針は回る。踊る踊る。ターンを続ける。決して逆方向へと回り出すことはない。常に砂はこぼれ落ち続けている。この世にあるありとあらゆるものは、常に有限である時間を消費しながら、その存在を保っている。

 ……だからどうした、って話よね。そんなもの気にしたってしょうがないじゃない。大体、そんなものを細かく気にしてたら、人生がTool-Asissted-Speedrunみたいになるじゃない。まああれはあれで芸術的なんだけどさ。でも、私はさすがに、城を壊すと立ちションがしたくなる生活は送りたくないかな。そもそも私女だし。立ちションとか、一部の層にしか需要がないと思う。さらに私の立ちションだよ? 需要あるわけない。

 というわけで、今日も無為に一日を過ごすべく、布団から一歩も出ずにいる。布団暖かいものね。できればこのまま布団と一緒になりたい。でもそうすると、一つの問題が発生する。布団自体に温度を感じる器官があるのかということ。ないよね、絶対。やっぱ布団と一緒になるのはいいや。ぬくぬくしてたいし。

 とはいうものの、さすがに何も食べずにずっと布団に引き籠もっているわけにも行かない。だってお腹減るじゃん。お腹減ったらそりゃ何か食べたいよ。絶対に。お腹減ってるとすごく機嫌が悪くなるしさ。細かいことにカリカリしちゃうからね。だからといって、げっ歯類よろしく何かをかじって前歯を削ったりはしないけどさ。そのカリカリじゃないんだよね。まあどうだっていい。

 さてやむを得ないので、私は布団を勢いよく蹴り飛ばし、起き上がる。さらば布団。君とは体だけの関係だよ。また夜になったら、ね。だって布団かけないと寒くて寝てられないしさ。

 適当に脱ぎ捨ててある洋服を手に取り、とりあえず外に出られる程度に身なりを整える。なんか昨日もこの服着ていたような気がする、まあいちいち人の服装を気にしてる人なんかいないよね。お巡りさんとか、ああいう特徴的服装の人々はともかくとして。お巡りさんって、ホント怖いよね。この前コンビニに行ったときなんかさ、普通にお巡りさんがいるんだから。万引きか何かでもあったのかと思ったら、普通に男性用美容品の棚を見てるんだから。まあ、お巡りさんだって人だしね。時間があるときくらい、普通の人に戻りたくもなるよね。制服着たままはどうかと思うけど。正直。

 とりあえず外に出られる格好になったので、次は洗面所。順番めちゃくちゃだけど、気にするだけ無駄だって。ホント。最終的に私が問題なければ何も問題はないんだから。ざっと鏡を見て、顔によだれの後やら何やらがないかを確認。ない。よし。髪の毛。超はねてる。ダメ。水と櫛を駆使して、寝癖を直す。ナンセンスなジョーク。この点、男性はうらやましいよね。丸坊主にすれば何もかも解決するんだから。女だと丸坊主って選択肢がなかなかとりづらい。ベリーショートみたいな感じくらい? まあ何にしろ女が丸坊主は世間一般的に見ておかしい。尼さんにでもなろうかな。邪な心しかないわ、私。

 さすがに手抜きを重ねた結果、五分ほどで寝癖直しと顔洗いは完了する。ちょっと服が濡れたけど、なあに気にすることはない。どうせ上着を着るんだから。上半身は裸でも何ら問題ない。じゃあ何で洋服を着たのかと言えば、そりゃあ寒いからよ。あと、露出狂ではないから、かな。こう見えても、一応世間並みの羞恥心はあるつもりだし。でも本当に世間並みの羞恥心があるなら、今こうして生きていること自体、恥でしかないんだけどさあ。何しろ悪いこといっぱいやってきてるからね。でもまあ、昔のお侍さんみたいに、恥になることがあったらお腹切るなんてことしないから。精々首くくるか、お薬をスナック菓子感覚で大量につまむくらいじゃない?

 さて、親の顔を見た回数よりもいっぱい作ったいつも通りのポニーテール。おでこに一束下がった可愛い前髪。よくわかんないロゴ入りジャンパーを羽織り、細くもなく太すぎるわけでもない普通のジーンズを履いたいつものスタイルで、私は冬の町へと飛び出した。飛び出したって言ってもさ、危ないからね。普通に歩いて玄関から出たよ。本当に飛び出したら、向かいの玄関に衝突するかもしれないし。ぶつかったら痛いもんね。

 とは言ってもだ、特に行く場所、決めてないんだよね。その一瞬一瞬を大切にして生きているからね、私。ご飯が食べたいと思ったその一瞬を大切にした結果、特に何も考えずに外へ出るくらいには、一瞬を大切にしているよ。まあ簡単に言い換えると、刹那的、あるいは衝動的、ってとこかな。あんま真似すべき特徴ではないよ。たとえば、今こうして困ってるわけだし。

 与えられた選択肢は三つ。一つ、コンビニ=コンビニ弁当。楽だけど、なんか味気ない。二つ、外食=豪華なランチタイム。超豪華なおいしいご飯が私を待っているけど遠い。三つ、帰宅=現実は非情である。今度は夜までふて寝かな。

 まず選択肢から、二番は除外する。こう見えても人嫌いだからさ、人混みの中に突っ込むのもあまり好きじゃないし、列に並んでじっくり待つ、っていうのも耐えられない。あ、ここでいう突っ込むは、人混みの中を進んでいくって意味で、ね。あ、これもちょっと誤解されそう。なんて言えばいいのかな。あそうか、徒歩で、っていえば良いんだ。車で突っ込んだ日には……まあ、瞬間的には楽しいかもしれないよね。でもさすがに、そんな刹那的欲求を満たしても、ねえ。

 三番も、できれば避けたいな、と思う。いや正直、何も食べなくてもそこまで問題はないんだけどさ。家からほとんど出ず、というか自分の部屋から、ややもすれば自分の布団からも出ようとしないから。燃費良いのよ。さすがにトイレは行くけど。まだオムツァーになるほどズボラにはなれない。一度慣れたら、赤ちゃんみたいな気持ちで日々を過ごすことができるのかもしれないけどさ。それはそれで楽しそう。世の中の難しいことを何も考えずに生きてけるんだからね。そういう人生を、送ってみたかった、なあ。まあ、今も大して変わりがないか。そんな感じの生活だよね、今も。まあどうでもいいや。

 となれば、もう選択肢は一つしか残ってない。コンビニ弁当。正確にはまあお弁当じゃなかったりするけど、面倒だしコンビニ弁当で一括り。パスタとかそばとかうどんとか鍋焼きうどんとか冷凍うどんとかあるけど。うどんばっかじゃんか私。香川にでも引っ越そうかな。南海トラフが怖いからやっぱやめよう。本当に南海トラフが怖いんだったら、香川どころか日本にすらいない方が良いんだけどさ。

 で、ここで私、よせば良いのに冷凍うどんでインスピレーションが働く。そういえば、ちょっと遠くのコンビニになるけど、そっちで私の大好きなアレの冷凍食品があった気がする。いやまあ同じようなものが近くのコンビニでも出てるんだけどさ。あるじゃん? メーカーによる好みとかってさ。正直、昨今どのメーカーでもさほど変わりがないような気がするんだけどね。実は各業界は、とても大きな一つの会社がすべて裏で糸を引いているんじゃないか、とか。それなら今の状況にも納得がいく。どこのポテチを食べても、同じような味しかしないのはきっとそのせいだ。うん、そうだ。そうに違いない。ぶっちゃけ材料同じようなの使っていたら、そりゃ同じようなものができるよね。

 まあそれはともかくとして、そう思いついてしまったものだから、徒歩三分以内の、一番近いコンビニをスルーして、私は徒歩十分かかる遙か彼方先のコンビニを目指す事に決めてしまった。ホント、よせば良いのに。

 いつものコンビニの裏にある道を通り抜けて、ずっと歩いて行く。途中、カルトの大きな建物があるけど、無視する。他人を信仰するなんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがあると思うんだよね。どこの馬の骨かもわからないのを崇拝するくらいなら、私を崇めなさいよ。私はどんな人に対しても平等に接するよ。主に無視という形で。

 そんなカルトの建物を横目に通り過ぎ、やたらめったら存在する駐車場の群れの中を歩いて行く。どうして世の中には、こうして駐車場が多いのか。是非、この国には世界で一番大きな面積を誇る駐車場、なんてのを作ってもらいたいな、なんて。まあ無理だよね。世界で一番大きいとかね。国土狭すぎ。北方あたりやっちゃいますか? やっちゃいましょうよ。私が面倒にならなきゃいくらでも領土拡大作戦やっていいよ。面倒になるならやっぱダメ。

 コンビニ直前の信号をしっかりと守り、私はコンビニへとたどり着いた。ちなみに、道路自体は狭いし、交通量もたいしたことないから、正直無視しても全く何らこれっぽっちも問題は発生しない。だって、信号待ちしてたとき、車一台も通らなかったもの。私の視界の外から、とんでもない猛スピードで走ってきたりすれば別だけどさ、この環境でそれだけの猛スピードを出すって、そいつ相当変態だよね。人間の動体視力ってどのくらいだっけ? 知らないけどさ。でも、感知しきれないほどのスピードで私に突っ込んできたら、突っ込んだ側もきっとタダじゃ済まないとは思う。私にぶつかるだけならともかくさ、絶対ハンドル誤って大事故だよね。ミンチよりひでえや。

 まあお昼もちょっと過ぎて、もうしばらくしたら学生が帰宅する頃、といった時間。コンビニに入ると、店員は暇そうに立っていた。音を聞いて、すぐにいらっしゃいませこんにちは、と声をかけてくる。内心舌打ちしてるかもね。せっかく立ってるだけで給料もらえる素晴らしい時間だったのに、客が来ちゃってさ。私だったら絶対しちゃうね。まあもっと良いのは、その暇そうな時間で、商品を前の方に引っ張り出すとかさ、すれば良いのにって思うくらい。奥まったところに入ってて、取りにくいんだよ。紙パックのミルクティーね。

 で、左手にはミルクティーを持って、奥の方の棚を見に行く。酒! ジュース! 氷! って感じで。その隣に、冷凍食品が陳列してあった。で、ざっと見回してみると……ない。私の好きなアレが。ない。なんで? どうして? 私の好きなアレが? こんなの絶対おかしいよ。泣いちゃうよ。泣かないけど。泣いちゃうよって予告してからちゃんと泣くほど、私は良い子じゃない。というか、泣くって何だっけ? ワン、ワンワン。あ、これは鳴き声的な方の鳴くだ。まあどうだっていいや。

 さて困った。いくら見渡してもないものはないらしい。で、もう手にミルクティーを持っちゃったから、やっぱやーめた、で戻って、他のコンビニで買い物をするのもなんか馬鹿馬鹿しい。スーパーでとかなら平気で物戻しちゃうんだけどさ、コンビニってさ、ほら、なんか嫌じゃん? 私潔癖症だしさ。自分が一度触った物を他人に触られるのって、なんか気持ちが悪いじゃん? 誰それが使った何々で欲情する男性諸君が世の中にはいっぱいいるらしいしね。でも私で欲情するのはないわ。まだそこら辺の幼稚園児から小学生で欲情する方が健全だとは思うわ。それもちょっとどうかとは思うけど。で、私は何を考えていたんだっけ?

 しょうがない。今日のご飯はまたしてもミルクティー一本か。まあ全然問題ないんだけどさ。でも毎日のようにミルクティーを摂取しているから、そろそろ自分の体液が、全部ミルクティーに置き換わるんじゃないかと不安で不安で仕方がない。指をちょっと切ったら、あふれ出てくるのはミルクティー。物理的ゆびさきミルクティー。名作だよね、たぶん。名前しか知らないけど。

 退屈そうに立っていたレジの兄ちゃんの前にミルクティーをおもむろにおいて、ジーンズのポケットからSuicaを取り出す。幸い察しがいい兄ちゃんで助かった。スムーズにSuicaでの会計に移り、ビニール袋に放り込まれるミルクティーとストロー。いつも通りレシートはもらわずに、背中で兄ちゃんのありがとうございましたを聞きながら、コンビニを出る。背中で聞くって言ったけどさ、私の耳って背中についていたのか。なるほど、だから私、背後から近付いてくる変質者にすぐ気づけるんだね。お父さんお母さん、背中に耳をつけてくれてありがとう。おかげで私は快適に生活できています。誰だか知らないけど。

 ところで、変質者が近付いてるって言ったのは、別に何の比喩でもない。珍しく事実。いやね、もしかしたら私と家の方向がちょっとかなりすごく似ているだけかもしれないけどさ。でもね、あからさまに私遠回りしてるんだけど、それでも綺麗についてきてるんだよね。まだ気付かれてることに気付いていないみたいだけどさ。まあ、普段の私を見てたらそう思うよね。いつも家に引き籠もってるか、唐突に思い出したように家から飛び出して、不審者のごとく世の中を徘徊してるからね。今も、無軌道的に散歩をしているだけって思われてるのかも。

 でもさあ、私を追いかけてくるだなんて、とんだ変質者もいたもんだよね。魅力、欠片もないつもりなんだけど。困ったもんだよね。穴があれば何でも良いのかな。だったらちくわとかと仲良くしてなさいよね。じゃなかったらさ、人っぽい形をしてるもので代替しなさいよね。具体的にいうと、ドールとかさ。恥ずかしいのは最初だけだから。一度やっちゃえばもう何も怖くないから。たぶんね。

 ところで、いつまでもこの変質者と遊んでいてもいいんだけど、一つ問題が発生した。私が飽きた。もひとつ、疲れた。おうちに帰りたい。貸家だから自分の家とはいえない家に。三回はくどいね。

 しょうがないので、変質者の方が満足する結末を与えてあげよう。私は路地に入る。ここには確か、大きな門構えの家がある。何気なく入っていって、すぐに手近な物陰へと隠れる。幸い、変質者との距離がそれなりに開いていたのもあって、この家に入っていったと見事に信じてくれた。と期待したい。一つ幸いな事に、この家門構えこそはすごく良いんだけどさ、正面以外結構穴だらけなんだよね。というわけで、私はそっちをそっと通り抜け、とっととその家から離れた。後日、この家の近くで変質者が逮捕されたとか、されないとか、そんな話があったらいいな。

 小犯罪を何個か犯した後の帰り道は、とても楽しいものだった。どこからか、警察にずっとにらまれているんじゃないか、って被害妄想に陥りながら家に帰れるから。何気なく歩いてるようにみえて、すごいスリルに溢れる帰り道になった。いいよね、こういうの。少なくとも金はかからない素敵な遊びだし、周りにも迷惑がかからないし、何より、自分一人でいつまでも楽しめるんだから。

 楽しむのは良いんだけど、でも楽しみすぎは良くない。片道十分程度のコンビニに行ったはずが、帰ってきたら一時間経ってるんだから。貴重な時間をこう無駄に浪費すると気分が良いね。どうだあかるくなつたろう。発光する砂とか、ちょっと危険な物質じゃないのかな。まあいいか。

 無事に帰宅したところで、そのまま自分の部屋に戻って、袋からミルクティーを出す。自分の部屋って、何を言ってるんだろ私。この家の住民、私しかいないんだから、全部私の部屋じゃない。正確には、いやまあいいや。二回も繰り返したって面白くないものは面白くない。

 いつも通り、絨毯の上に置いたちゃぶ台の上に紙パックを置いて、私はその近くに座って、ちゅーちゅー吸い始める。こういう擬音が似合う幼女に生まれたかった……。まあどうでもいいや。幼女に生まれたら生まれたで、薄い本が厚くなったり、世の中の変質者を喜ばせたり、お酒やたばこを飲むのに苦労するだけに決まっている。あ、でも子供運賃で電車に乗ってもバレなさそうな気もする。それだけは良さそうだよね。滅多に家から出ないという点に目を瞑ればさ。やっぱ今のままでいいや。

 ところでミルクティーを啜ってて気付いたけど、なんか世の中が暗くなり始めている。まあ時間も時間だし当然だけどさ。しかも今日は曇っているし。というわけで、幕は下ろされました、と。いや違う。うちのカーテンは降りてくるタイプじゃないや。幕を引かなきゃ。スタンディングオベーションでその幕引きを迎えなきゃ。でもちょっと待って。私が幕を引いたら、誰がスタンディングオベーションをする? 私がスタンディングオベーションをするなら、誰が幕を引く? ああもういいや。スタンディングオベーションなんて知ったことか。幕引き。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択