No.75923

とある5月のとある連休

華詩さん

普段よりも長かった今年の連休。帰省したり遊び行った人が多かったみたいです。さて彼女はどんな連休を過ごしたんでしょうか。そんなわけで「とある」シリーズ第11弾です。

2009-05-27 21:45:11 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:833   閲覧ユーザー数:777

「真一、どこいくの。」

 

 私が声をかけると彼はとても緊張した表情をしていた。なんとなく行き先はわかっているけど、5分もしないうちに隣からいなくなられると私も緊張してしまう。

 車が車庫に入る音がした。お母さん達が帰ってきた。弟妹の元気な声も聞こえる。ドアが開く音がしたので私たちも玄関に行く。

 

「おかえり。」

「ただいま。真一君、ありがとうね。」

 

お母さんは彼を見るとそう言った。

 

「あっ、いえ、こちらこそ。ありがとうございます。」

「亜由美、どうだった。」

 

 お母さんは私と彼を交互に見る。後ろからお父さんが荷物を持ってくる。弟妹達はそのまま庭で遊んでいるみたいだ。

 

「亜由美ちゃん、ただいま。えっと隣の彼は?」

「亜由美の彼氏よ。将来の旦那さん候補かな。違うか旦那様。」

 

 お母さんは楽しそうにそう彼をお父さんに紹介した。お父さんは彼を見ている。私も彼を見る、そこには優しい顔があった。そっと伸ばして彼の手を握る。彼は優しく手を握りかえしてくれた。

 

「お母さん、お父さん話があるんだけどさ。」

 

 私がそう切り出すと、お母さんは嬉しそうな顔をしていた。お父さんはよくわからない顔をしていた。

 

「なに、改まって、荷物を運び込んでからでいいかしら。」

 

荷物も運び終わり、お母さんとお父さん、私と彼が向かい合って四人でテーブルに座る。

 

「亜由美のお父さん、お母さん、お話があります。」

 

 彼がそう切り出し話が始まる。私はこれから始まる緊張した空間を想像しつつ、ここ数日間を思い返していた。

 

 

 目覚ましに起こされ、目を開ける。カーテン越しに入ってくる日差しから今日もいい天気だという事がわかる。ベットからおりて体を延ばす。

 

 そして、私は体を解す為にストレッチを始める。ゆっくりと呼吸しながら体を動かしていく。体の調子は今日も良さそうだ。ストレッチを一通り追え、机に向かう。

 

 鞄から連休中にと出された課題をとりだす。量的には普段の宿題と変わらない。私は好きになれない数学から始める事にした。理解するまでに数学は時間がかかるので苦手な科目だ。理解さえしてしまえばパズルみたいなので楽しいんだけど、その理解するまでの時間がすごく苦痛に感じてしまう。

 

 そんな風に課題をこなしていく。今回は新しい事というよりも、今まで習った所の復習が多かったので、わりかしと順調に問題を進めていく事が出来た。

 

 ふと時計を見るとそろそろあの子達が起きる時間だ。あの子達を起こしてこないと。パジャマを脱いで着替えをすませあの子達が寝ているお母さんの部屋に行く。

 

「おはよう。」

 

 ドアをあけて声をかける。しかし、二人の返事はなかった。そうだ、昨日の夜に出かけたんだっけ、すっかり忘れていた。休みの日にあの子達を起こすのが日課になっていたんだな。そう思いながら階段をおりリビングにいきテレビを付ける。

 

 まちにまった五連休が始まった。テレビでは後半と言っているが、学生である私たちにとっては連休は今日が初日。家の中はとっても静かだ、この家にきてここまで静のなのは初めてじゃないだろうか。

 

 弟妹達はお母さんと一緒にお父さんの実家に遊びに行っている。私は学校が主催する月曜日からの勉強会に参加する為に残った。ただ勉強会がなかったとしても行かなかったかもしれない。行っても私の居場所は何となくないような気がしている。

 向こうにしてみれば私は完全なる他人。表立ってそう言われた事は一回もないけど、何となくそんな風に感じる。

 

 そんなわけでこの連休はプチ一人暮らしとなった。弟妹達は自分たちも残ると言って騒いでいたけどお母さんとお父さんが上手いことなだめて連れて行った。

 

 車の窓からお母さんは「良い機会だしね。経験しないとわからないから。羽目を外しちゃダメよ。それとこれは一番大事な事だけど、自分を大切にね。」そういって出かけていった。

 

「さてと、ご飯を作ろう。」

 

 フライパンに油を引いて、卵を落とす。今朝は目玉焼きとトーストでいいや。簡単だしね。サラダも欲しいな。冷蔵庫からレタスとトマトを取り出し簡単なサラダを作る。あとは牛乳を持ってきておしまい。

 

 テーブルにパンと目玉焼きとサラダを並べる。一人分だとこんなにもあっさりと用意が終わる。食事もあっという間に終わってしまいとっても味気ない。食器を片付けて棚にしまっていく。初日でこれだけ一人だってのを自覚するとは思いもしなかった。

 

 洗面所にいき、洗濯機に洗濯物をいれて、スイッチを押す。今日は天気がいいから乾燥はなし。庭に干しておこう。洗濯機が止まるまでの間に私は家の掃除を始める。いつもの休日と変わらない生活のリズムを刻んでいく。

 

 あの子達がいないぶん、部屋の掃除は何時もより早く終わっていく。お手伝いをしてくれる二人にあわせて動いているからどうしてもゆっくりになるからかな。でもそんな時間の経ち方は嫌いじゃない。

 

「さてと、いい天気。お昼ちょっと過ぎには乾くかな」

 

 開け放ったリビングのガラスドアから見える空は青く、入ってくる風が気持ちがよかった。柔らかな春からさっぱりとした春になったんだな。洗濯機から終了の音が聞こえる。

 

 洗濯物をカゴに入れて、リビングのガラスドアから庭に降りる。下をみると、あちらこちらに小さな緑の芽が出ている。今のうちにしておくと楽かな。根を張ってからだと結構辛いものがあるしね。数学の課題が終わったらお昼までは庭の手入れをしよう。

 

 

 洗濯物を干し終え取合えず、私は連休用として課された宿題を部屋でといていく。普段は休み中の学校の課題とかはあの子達が起きる前の朝早くとお昼寝している時間と夜にやる事にしている。あの子達が起きている時はなるべく一緒にいる。

 

 どうしても時間が欲しい時はリビングであの子達が遊んでるのを見ながらしている。その時はあの子達が気を浸かってくれる。外で遊びたいの我慢して部屋の中で遊べる事をしていてくれる。

 

 何とか予習部分を終える。後は復習部分なので割と簡単に進んでいった。課題を終えて時計を見るとまだ九時を少しだけ過ぎただけだった。予定していたよりも早いペースで課題が進んでいった。

 

「何か変な感じ。」

 

 私はそう呟き、教科書とノートを閉じる。さて、庭の掃除をしよう。私は汚れてもいい服に着替えて、残りの教科の課題をもってリビングに行く。

 

 普段ならそこで遊んでいる弟妹の姿は当然ない。やっぱり寂しいんだろうな。お昼からはここで続きをやろう。部屋に一人でいると何だかおかしくなりそうだ。

 

 そう思いながらリビングから庭を見ると、洗濯物が気持ち良さそうに風に揺られていた。その先には妹が出しっぱなしにしていたおもちゃが転がっていた。

 

「もう、りょうちゃん。片付けてない。しょうがないな。」

 

 庭に出て草取りを始める。まだ小さな目なので軽く摘むだけで根っこまで綺麗にとれる。中には小さな花を咲かせているものある。雑草って言うけれど、それは私たちが勝手に区分したものなんだよな。その横で蟻達も活発に活動している。

 

 蟻や小さなよくわからない虫達を眺めながら作業を続けていく。思っていた以上に日差しが強く軽く額に汗が出てくる。でも嫌な汗ではない。風が吹くたびに心地よさを感じた。

 

 すると玄関のチャイムがなる誰だろう。庭の草取りを中断して玄関に行く。玄関には何やら困った顔をした彼が荷物をもってたっていた。ちょっぴり大きな鞄だった。

 

 親友が連休は学校で合宿と言っていたから、その荷物なんだろうか。部活は時期をみて辞めるといっていたから合宿まではいくのかな。

 

「どうしたの。その荷物。合宿?」

「まぁな。あがってもいいかな?」

「いいよ。何か用事があったんでしょう。」

 

 私がそう言うと彼は今度は驚いた表情をした。どうしたんだろうか。

 

「あぁ、それはいいけど外で何してるんだ?」

 

 彼は私が手に持っている道具を見ながら聞いてくる。そして私の顔にそっと触れる。

私は突然の彼の行動に身をすくめる。

 

「何?」

「ん、ほら土が付いてる」

 

 彼は笑いながら手に付いた土を私に見せる。さっき手で汗を拭いた時に付いたのかな。

 

「ありがとう。今は庭の草引き。ちっちゃな雑草が一杯生えてきてるから。」

「手伝える事ある?」

 

 彼が何故かそう言ってくれる。

 

「いいの。合宿なんでしょう?その荷物。」

「いいんだ。それは。」

「そう、じゃ、一緒に草引きお願いしていいかな。」

 

 何かよくわからない答えが返ってきたが、私はあまり深く考えずお願いする事にした。

 

 

 一緒に庭の草引きを始める。彼には庭木側の草引きをお願いして、私は花壇の中の草を抜いていく。新しく芽を出しているものもあった、中にはもう花が咲き終わり枯れてしまったものもあったのでそれは抜いていく。

 

「静かだよな。二人がいないと。」

「そうだね。あの子達がいると賑やかだもんね。」

 

 彼がそんな事をぼそりと言ったことに私も何気なく答えたが、ふと考えるとあの子達がいない事はまだ何も言ってない。家の中で遊んでいるとも考えられるのに。

 

「ねぇ何でいないの知ってるの。私、話してないよね?」

「えっ、ああ、おばさんから電話があった。」

 

 彼はそう言って後ろ向き、草を抜いていく。いつの間に電話なんてしていたんだろうか。そうださっき課題で不安な所があったんだっけ。

 

「あのさ、あとで数学の課題見て欲しいんだけど。いい?」

「いいよ。俺も見て欲しいのがあるから。」

「じゃ、コレにきりがついて、休憩したらね。」

 

 そういいって二人で黙々と作業を続けていく。時たま彼の方を見る。何だか変な感じがする。どう変なのかはよくわからない、いやわかっている。一緒に作業している彼を見ると遠くない将来を思い浮かべている。

 

 しばらくすると、お昼のサイレンが聞こえる。あれもうお昼。あの子達がいるとお菓子の時間はとか、お腹減ったと言ってくるからサイレン前に休憩やご飯の準備にかかるんだけど。あの子達に頼っていた部分もあったんだな。これからは私が気づいてあげれるようにしないとな。

 

「ごめん。お昼になっちゃた。ゴミ集めて終わりにしよう。ご飯食べていって手伝ってくれたお礼。何が食べたい?」

 

 彼に声をかけると彼は作業をしたまま返事をした。

 

「なんでもいいよ。」

 

 彼の返事がいつも聞いているあの子達の返事と一緒だった。

 

「もう、二人と同じ事いわないでよね。さて、何にしようかな。」

 

 ゴミを二人で集めて、外の水道で手を洗い家の中に入る。彼にはリビングで待っていてもらい、私は台所に行く。さて何を作ろうかな。冷蔵庫を覗く、あんまりないな。チャーハンしかできなさそうだ。リクエストがなくてよかったかも。

 

 でもごはんは朝たいてない。冷凍庫を覗くラップしてあるご飯が二人分ぐらいはありそうだ。冷蔵庫から必要なものを出して細かく刻んでフライパンで炒め味付けをしていく。ご飯を電子レンジで温めていると彼が声をかける。

 

「何か手伝える事ある。」

「じゃ、これ持っていって。並べて欲しいな。」

 

 彼に取り皿とスプーンを渡す。後はご飯と絡めめて炒めるだけだけど、うまく混ざるかな。

 

「わかった。後はいいのか。」

「大丈夫だよ。そろそろ出来るから座って待っていて。」

 

 大皿にチャーハンを二人分盛りつける。私の家では一人一皿にしない。大きなお皿に盛りつけてみんなで分けて食べる。

 

「はい、おまたせ。味はあんまり期待しないで、私のオリジナルだから。」

「ありがとう。美味しそうだ。いただきます。」

 

彼は取り皿にチャーハンをよそい食べはじめる。

 

「美味しいよ。」

 

 彼はそう言ってどんどんと食べていく。美味しそうに食べてくれる彼を見るのはとっても好きだ。今度はちゃんと材料を揃えたときのも食べてもらいたいな。

 私も取り皿によそい食べはじめる。そうだ時間とかは大丈夫なのかな。この後何か用事があるんだろう。

 

「ねぇ、合宿の集合時間とか大丈夫なの。」

「大丈夫。部活は昨日で辞めた。」

 

 あっさりと彼は答える。そうするとあの荷物は何なんだろう。

 

「そっか決めたんだ。じゃ、あの荷物は何?」

「あれは……。なぁ、おばさんから何も聞いてないのか?」

「聞いてない。行きがけに良い経験をしなさいとはいわれたけど。」

 

 一人暮らし。この経験は滅多に出来ないので存分に楽しみながらしようと思っているけど。彼は下を向いてなにやら考え込んでいる。しばらくして顔をこちらに向ける。表情はすごく真剣なものだった。何があるんだろうか。

 

 

「一昨日、家におばさんから電話があったんだ。連休中、亜由美が一人になるからって。」

 

 彼はそこまでいうと真っ赤になって下を向いてしまった。そっかそれで、様子を見にきてくれたのか。そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに、こういう所は何だか可愛いな、それにしても、お母さんも心配性なんだから。

 

「ありがとう。ちょっぴり寂しいかなって思ったけど。何とかなりそうだよ。真一も遊びにきてくれたし。それで真一はどこに行くの?」

 

 私がそう聞くと彼は意を決したように顔を上げさっき以上の真剣な面持ちで私を見つめる。なんだろう、そんな顔で見つめられたら何かドキドキしちゃうよう。

 

「えっと、驚かずに……、無理だと思うけど聞いて欲しい。俺も聞いた時は冗談だと思ったんだけどさ。」

 

 彼はボソボソと話しを進めていく。それはこんな内容だった。お母さんから彼のお母さんに電話があった。はじめは私が彼の家に連休中お世話になる話しだったのが将来の事を考えると二人で生活させるのもいいと言う結論になり彼が私の家で過ごすことになった。

 

 その話しを聞いて、見送りの時のお母さんの言葉を思い出す。アレにはそう言う意味があったんだろうな。

 

「そう言う訳なんで、ふつつか者ですが。よろしくお願いします。」

 

 彼はそう言ってちょこんと頭を下げた。えっとそれって、私のセリフなんじゃないだろうか。でもこの場合はこれであってるんだろうか。というよりも私は何も聞かされてない。けどこういうのもありなのかな。せっかくお母さんが用意してくれた機会だし、一人だとやっぱり寂しいしね。

 

「こちらこそ、お願いします。ねぇ荷物どうしようか。ここにおいておくのもなんだしね。あと寝る場所。」

「リビングでいいよ。ソファーで寝るから。」

「ダメだよ。でもどうしようか。」

 

 取合えず彼にはお客さん用になっている部屋を使ってもらう事にした。この部屋はそのうちあの子達のどっちかの部屋になる予定だ。

 冗談で私の部屋で寝ると聞いたら彼は一瞬戸惑ったものの首を横に降った。

 

「さすがにそれは理性が保てない。あのさ、亜由美。もしも俺が変な事になったら。遠慮せずに引っ叩いて欲しい。」

「今までもそんな事なかったし。大丈夫でしょう。」

 

 今までも二人だけになる事はたびたびあったけど。彼がそんな風になった所はみたことがなかった。

 

「ありがとう。でも万が一の時は遠慮なくな。」

「わかったよ。覚えておく。私も気をつけるよ。」

 

 そんな事を話しながらリビングに戻る。リビングのテーブルに二人で並んで座り、残りの宿題を進める。そうだ、自信がない部分があったんだ。これであっているのかな。

 

「少し教えて欲しいあるんだけど。いいかな。」

「どこ。」

「ここなんだけど。」

 

 彼が丁寧に説明してくれたおかげで自信のなかった部分も理解する事が出来た。彼は私に苦手な古典を聞き、あとは二人で時々質問をしながら問題を解いていく。時折、それ以外で彼の視線を感じて顔をあげる。すると彼は下を向いて課題を進める。そんなことが幾度となく繰り返される。

 

「何?」

「あのさ、連休始まったばっかりなんだからさ。どこか遊びに行かないか?」

「えっ課題と勉強会がでいっぱいだよ。」

「亜由美、もうそろそろ終わりだろそれ。」

 

 彼にいわれて課題はほとんど終わりに近かった。いつの間にこんなに進んでいたんだろう。自分でもビックリするぐらいの進み具合だった。

 

「本当だ。でも真一は終わりそうなの?」

「まぁボチボチかな。課題の量が亜由美より少ないからね。」

「いいよ。でも課題が終わったらだよ。」

「わかった。じゃ、残りを頑張りますか。あのさ、亜由美ここなんだけどさ。」

 

—そんな感じで課題をやり終え、後は二人でのんびりとお茶を飲みながら、明日の事を話をしたりしながら過ごした。そんな感じで一日目は過ぎていった。—

 

 

 映画を見終わったあと、ファーストフードで少し遅めのお昼を取る。私は初めてお持ち帰りでなくお店で食べる。

 

「こんなところで良かったのか。」

 

 彼はそう言いながらポテトを摘む。

 

「うん、こうやってお店で食べるのは初めてなんだ。」

 

 普段利用するときはお持ち帰り。弟妹に少しの間留守番してもらって私が買ってくる。

 

「そっか、ならよかった。ふわぁぁ」

 

 彼は欠伸をかみ殺していた。私は今朝の事を思い出す。昨晩ベットに入り、ウトウトしていると下で物音がした気がした。気になり確かめにいくと、そこには真っ暗なリビングのソファーに座っている彼がいた。

 

「どうしたの。」

「ごめん、起しちゃったな。何だか寝付けなくってさ。」

「ううん、枕が変わるとダメとか?」

「そんなんじゃないよ。まぁ色々とあるんだよ。」

 

 彼はそう言って笑っていた。

 

「色々って何。」

 

 そう言って彼の横に座る。灯のないリビングでソファーに座るのは何だか変な感じがする。

 

「男には色々あるんだ。深くは聞かないでくれ。」

 

 彼を見る、暗がりで表情はよくわからなかったけど、何だか照れているみたいだった。

 

「そうなんだ、じゃ私は寝るね。明日が楽しみだよ。」

「ああ、俺も。」

 

 そして、朝起きてリビングに降りていくと、ソファーで彼が寝ていた。部屋にもどらなかったんだ。気持ち良さそうに寝ている彼の顔を覗き込みながら、やっぱり落ち着かなかったのかと思った。

 

「やっぱり眠い。少し早めに帰る?」

「大丈夫だよ。服見に行くんだろう。」

「うん、でも無理しないでね。明日から勉強会あるんだから。」

「なぁ、勉強会行くのやめて。明日も遊びに行かないか?」

「ダメだよ、ちゃんと行かないと。」

「冗談だって、ちゃんと行くよ。」

 

 デートの帰りに二人で食材を買いにスーパーによる。ここには以前に彼ときた事がある。そのときは弟妹が迷子になり二人して大慌てした。夜は何にしようかな、そうだ、食べたいものがあるか聞いてみよう。

 

「ねぇ、夜何かがいい。」

「エビフライが食べたい。」

 

 彼はそう言って買い物かごの中にエビを入れていた。どうしよう、フライは今まで一人で作ったことがない。

 

「どうした。もしかしてエビダメだったりする?」

「違う、エビフライ一人で作った事ないから。大丈夫かなって思っただけ。」

「材料はわかるんだろう。二人で作ればなんとかなるよ。」

 

 私が頷くと彼が頭を撫でる。撫でてくれる手が何だかとってもくすぐったかった。家につき、冷蔵庫の中に食材をいれる。リビングに戻ると彼はソファーで寝息を立てていた。やっぱり眠かったんだ、ご飯の準備までゆっくり寝かせてあげよう。

 

 私は彼の隣に座り編み物を始める。今年渡すセーター。もう準備しているのって驚かれたけど、そうしないと絶対に間に合わない。これが編み終わったら、お揃いのマフラーを編む。出来上がると丁度いい時期になっている予定だ。

 

 しばらく編んでいると彼の体が傾き、私に寄りかかってくる。そのままにしていてあげてもいいんだけど、編みにくいので彼をそっと支えてゆっくりと膝の上に誘導する。

 

 一度やってみたかった膝枕をしてあげる。すごく気持ち良さそうに寝ている。そんな彼の寝顔を見ながら編み物を続けていく。そのうちに彼の寝顔がかわいくなってきたので編み物をやめて彼の顔を見続ける。

 

 彼の頭が少し動く、何だかくすぐったいな。そう思って彼を見ていると彼と目があう。目が覚めたみたいだ。

 

「おはよう。よく眠れた?」

 

 私がそう言って上から覗き込むと彼は目をパチパチさせながら、何やら考えている。寝ぼけてるのかな、私はそっと彼の頬にキスをして顔を離す。すると彼は目をパチクリさせながら、すっと起き上がり私を見る

 

「目覚めた。そろそろご飯の準備しようか?」

「ああ」

 

 彼は頬に手を当てながら、真っ赤になっている。時たまされる不意打ちのキスのお返しだ、する方は気持ちが決まってるけどされる方はドキドキするんだよ。

 

 二人でバタバタしながら夕食の準備をする。彼がエビの皮むき、腸を取る。切れ目を入れるてあげた時にまがらないようにする。私はそのエビを水で溶かした小麦粉に軽く付けてパン粉をまぶす。彼と一緒の共同作業。

 

 

 一緒になったあともこうやってご飯を作れたらいいな。子どもが出来るまでは共働きかな。二人であげたエビフライは思った以上にキレイにあがった。とっても美味しかった。後片付けも二人で仲良くする。食器を棚に入れ終えて一息つく。そろそろお風呂かな、明日から勉強会。彼は0限からあるといっていたので朝が早い。

 

「お風呂、先にはいってきて。」

 

 昨日も先に入るのは何だか恥ずかしかったので先に入ってもらた。お客さんだし変に思われてないよね。それに何だか疲れてそうだったしね。そう声をかけると彼は返事をして部屋に戻っていく。

 

 畳んであった洗濯物からバスタオルを一枚もって洗面所に行く。お湯が流れる音が聞こえてくる。心臓がドクドクと力強く体中に血液を送る。もう、なに考えてるんだろう。私は首を横に降り彼に声をかける。

 

「真一、ここにバスタオル置いておくよ。」

「わかった。ありがとう。」

 

 リビングで洗濯物をたたんでいると彼がお風呂からあがってきた。

 

「亜由美。お先。いいお湯だった。」

「はい、真一。これ。」

 

私は彼に準備しておいたグラスを渡す。さて私もお風呂にしようかな。

 

「酸っぱ。」

 

 彼は少しだけ咽せっていた。酸っぱいのダメだったかな。あの子達も平気で飲んでるので考えもしなかった。

 

「ごめん。酸っぱいのダメだった。レモン酢がちょっと入ってる。」

「大丈夫、水だと思って飲んだから。咽せただけ。」

 

 そう言って彼はグラスの中身を飲んでいく。

 

「そう、よかった。じゃ、私もお風呂にしてくるね。あっ覗いたらダメだからね。」

 

 そういうと彼は再び咽せっていた。思ったような反応されるとついつい嬉しくなる。正直、彼がそんな事はしないと確信を持っている。

 

「覗かないよ、昨日も大丈夫だったろ?もしかして信用ない俺?」

 

 苦笑いをしながら彼が聞いてくる。それに対して私は首を横に降る。

 

「信用してる。言ってみたかっただけ。」

 

 そうでなければこうやって二人っきりで過ごしているこの瞬間に安堵感や安心感が生まれるはずがない。彼にそう言って私はリビングを出てお風呂に向かう。

 

 お風呂場で髪をまとめあげ、タオルで包む。部屋でつける下着と寝間着も持ってきている。さすがにバスタオル姿で彼の前に出る勇気はない。仮にあったとしても非常識だろうな。 

 

 湯船に入りゆっくりと伸びをする。何だか今日はあっというまに一日が終わった気がする。初めて行った映画館、ファーストフードでのご飯。二人で作った夕食。初めてがたくさんあった。

 いつもとは違う景色はすごく楽しかった。一人でいたら絶対に経験できなかったことばかりだ。

 

—それから、勉強会に行ったり、柏餅を食べてりといつもの私たちらしい生活を二人で過ごしていった。ただ最後の夜にあった出来事はいつもとは少し違っていた。—

 

 

 二人でする最後の夕食も終わり、仲良くソファーに座りテレビを見る。彼もこのドラマを見ていたのはちょっとばかり以外だった。よくある恋愛ドラマの主人公とヒロインのお話。その二人が深く結ばれた。

 

 彼もこういう事したいのかな。横目で彼を覗く、彼は何だか恥ずかしそうな顔をしてテレビを見ていた。求められたら私はどうしたらいいんだろうか。

 

 でもこれってテレビとかではよくあるけど、現実としてそこまで踏み切れないそんな気がした。周りの子達でそうなったと聞いた事はない。なっていても話したりする事じゃないので伝わってこないんだろうけど。

 

 男の子ってどう思ってるんだろう。もう一度彼を見る。いつもと同じような感じがした。大丈夫、彼を信じている。

 

 ドラマが終わり、彼の手が私の手に触れる。私はいつものように彼の手に指をゆっくり絡めていく。お互いに指を絡ませて握りかえしているうちに、優しく彼に引寄せられ抱きしめられる。私も手を伸ばして彼を抱きしめる。彼の暖かさが体中に伝わってくる。

 

「亜由美、キスしよう。」

 

 さっきのテレビのシーンが一瞬、頭の中によみがえる。体中が熱くなり心臓がドクドクしているのが全身で感じられる。彼をそっと見ると目があった。そこにはいつもと同じ優しい笑顔があった。

 

 私は目を閉じて彼のキスをまつ。軽く唇に触れるキスから始まり、徐々に私の中に入ってくる。これを初めてされたときはすごく驚いたけど、今では一番好きなキス。しているうちに頭がボーッとしてくる。

 

 その内に彼の手が私の体をそっと撫でる。体が硬直する。彼の手にされるがままになり、少しずつ怖くなっていく。一度、彼の顔が離れ、頬を軽くなでられる。彼の目はいつもみている感じとは少しだけ違って怖かった。そして、彼の手が私の服の中に入ってきたき、私は彼の名前を呼んだ。

 

「真一。」

 

 私はそう言って彼を見つめる。しばらく二人で見つめあう。彼の目つきが徐々にいつもの様子に戻っていった気がした。服の中に入っていた手が外に出される。彼の体が震えている。私は腕を回して抱きしめて、彼の背中をそっと撫でる。そのうちに震えが収まった。私は彼の体を強く強く抱きしめる。そして彼に優しく告げる。

 

「真一、大丈夫?」

 

 途中で行為を辞めてくれた。もし、力で押さえつけられていたら抵抗は出来なかっただろう。彼の心の強さを見た気がした。

 

「亜由美……。ごめん、抑えれなかった。」

 

 彼がとっても苦しそうに声を漏らす。一回は慣れた方がいいかな。

 

「ねぇ、一回離れよう。」

「あぁ」

 

 私たちは抱き合っていた状態から離れて座った状態にもどる。しばらくの間沈黙が続く。CMの明るい音楽が部屋の中に響く。彼の顔はどことなく沈んでいた。たぶん、さっきの事を後悔して苦しんでいるんだろうな。

 

 彼のせいだけじゃない、あんなドラマのシーンを見た後でキスを受け入れた私もダメなんだろうな。キスの前にキスだけだよって言うだけでも違ったのに。どこかで期待していた部分もあったんだろう。それでもまだ私は全てを許して受け入れることは怖いみたいだ。

 

「ごめんね。まだ全部受け入れるのは怖いみたい。」

「亜由美は悪くない。俺が一人先走った。ごめん。」

「いいよ。ちゃんとやめてくれた。」

「ありがとう。」

 

 古いって言われるかもしれないけど、順番は間違えたくない。まぁ、少しぐらいのフライングはするかもしれないけど。それはたぶんあってもゴール間近だろうな。

 

「ねぇ、真一。明日はいつまで一緒にいれるの。」

 

 明日で連休は終わり。お昼ぐらいまでには、みんなが家に帰ってくる。

 

「おばさんにお礼もいいたいから。帰ってくるまで一緒にいるよ。」

「そっか。じゃあそれまで一緒にいて。お母さん達に伝えたい事があるから。」

「伝えたい事って?」

 

 彼は不思議そうな顔をしてこちらを向いている。さっきまでの青い表情は少しずつ抜けたみたいだ。

 私は彼に伝える内容を教える。彼はとってもビックリしていたけが、一度目を瞑り天井をむく。しばらくの間そうやっていたと思うと、ゆっくりと顔を戻して私を見る。

 

「いいよ。一緒に。いや、俺が伝える。頑張るよ。」

「いいの。」

「いい。あのさ、亜由美、左手を出して。それで軽く握って。」

 

 私は彼の前に左手を軽く握って突き出す。すると彼も同じように左手を握り突き出して、私の左手にあてる。ちょうどお互いの指輪同士が触れあうように当てられる。

 彼を見ると彼は少しだけ頷いて言葉を続けた。

 

「俺と一緒に人生を歩んでくれませんか。」

 

 彼の言葉がそう紡がれた。彼と目があると彼は軽く頷く。あの時はちゃんと返事が出来なかった、だから今度はちゃんと答えないと。

 

「はい、よろこんで。私もいつまでも一緒に歩きたい。」

 

二人で見つめあい、互いに笑顔が溢れる。お互いの気持ちの確認。そしてそれを両親に伝える。

 

 

「それで話って何、改まっちゃって。」

「僕らから、二人に大事な話があります。」

「ほら、あなた。覚悟はいい?」

 

 お父さんは怒っているような悲しんでいるようなとっても不思議な顔をした後、すごく真面目な顔になった。私と彼はお互いに顔を合わせる。そしてひと呼吸し、声を揃えて二人に告げる。

 

「「共に歩みたい。そう決めました。」」

 

 あの後、二人でどう伝えればいいかを話し合った。彼は『お嬢さんをください』かなとか、『二人の中を認めて欲しい』とか、聞いた事があるフレーズをならべていたけど。つき合っているのは二人とも知っている事なので、素直に二人の気持ちを伝えることにした。

 

「それはどういう意味なのかな。」

「まだまだ未熟です。だから仮の婚約と思ってもらいたいです。二人でこの指輪に誓いました。」

 

 私と彼は左手を二人に見せる。お母さんは私たちを見てなんだか納得したように大きく頷く。

 

「指輪にはそう言う意味があったんだ。」

「そんな、まだ早いよ。お互いの事をもっとよく知ってからでも遅くない。」

「それは大丈夫。こうやって二人で帰りを待ってくれたんだもの。」

 

 お母さんがそう言ってお父さんを制する。そして私と彼を交互に見る。

 

「どういうこと。」

「二人はこのお休みの間、一緒に生活してたの。そして、今日二人して私たちに報告してくれるってことは。お互いの事をよりわかったてこと。一時の感情でなく、ずっと続く感情だってわかって」

 

 それを聞いたお父さんはすごく狼狽していた。

 

「なにそれ、聞いてないよ。ずっと一緒って。彼、泊まってたってこと。」

「心配はないわよ。私の娘と娘が信じた将来の夫なんだから。」

 

 私は隣に座っている彼を見る。彼も私を見る。何となくお互いに笑みがこぼれる。

 

「嘘、もしかしてしちゃった。」

 

 お母さんの声がこわばった気がした。お父さんはもう、なんと言っていいのかわからない表情をしていた。私たちは首を横に降る。そんな風な雰囲気になって流されそうになったけど、私たちは留まれた。

 

「もう、脅かさないでよね。さて、アナタ、亜由美が受け入れているのを反対する?」

「そう言うわけではないけど。」

 

 お父さんが私を見る。私もお父さんを見る。すると今度は怖い顔をして彼を見る。

 

「一つ条件がある。亜由美ちゃんを必ず幸せにしてほしい。いいかな?」

「はい。」

 

 彼が返事をした。お父さんは怖い顔からとっても穏やかな顔になっていた。

 

 こうして彼と一緒に過ごした連休は終わり。また明日から新しい一日が始まる。この連休で私と彼の関係は恋人から恋人以上夫婦未満。いや恋人以上予定夫婦かな。

 

fin


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