No.756885

浅き夢見し月の後先 〜 魔法少女まどか★マギカ新編「叛逆の物語」後日談私家版 〜 17〜18章

DACAENESISさん

No.756534の続きです。まどかの家に向かう杏さやマミなぎ組の前に、ほむらが立ちはだかります。

2015-02-07 21:24:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:678   閲覧ユーザー数:678

17.鹿目知久と自宅玄関先のプチマゲドン(或いは鹿目まどか以外の場合:その1)

 

 鹿目さんの家に向かう最中も、美樹さんと佐倉さんは途切れなく話をしている。話題の中心は言うに及ばず、鹿目さんだ。…未だに実感が沸かないなぁ。円環の理が地上に降臨してて、私の学校の下級生になってるだなんて。

 「もうほむらの奴、まどかに会っちゃったかなぁ。長話してたから出遅れてるしなぁ」

 「さっきからそればっかりだな、お前。なるようにしかならねぇんだよ。それに会ったからって何だってんだ。あたし達に会わせないためにラチカンキンでもするってのか」

 「いや、実際やったじゃん、あいつ」

 …ここだけ聞くと、なんかずいぶんと物騒な話ね。さっきの話のことだと思うんだけど、暁美さんという子がまるで極悪犯のようにも聞こえちゃう。

 問題は、私の傍らで所在無げに俯いて歩くなぎさちゃんだ。円環の理次第とはいえ、場合によってはこの世から消えて無くなるかもしれないと云う状況に彼女はあるのだ。

 「…大丈夫?」

 「はい。お姉ちゃん達が何とかしてくれますよね?」

 気丈に答えるも、その声は震えている。

 「ええ、相手は神様だけど、出来る限りのことはやるわ。任せておきなさい」

 

 「ここだよ」

 佐倉さんが指したお家に着いて、呼び鈴を押そうとした瞬間に腕を掴まれた。

 「呼び出しはさせないわ、巴マミ」

 黒髪を靡かせ、鋭い目つきの美少女が威嚇するように言った。暁美ほむら、彼女が。

 突然現れた彼女の手を振りほどき、私は言った。

 「暁美ほむら…さん、ね。初めまして。でも、あなた、初対面の上級生に対して少し不躾じゃないかしら」

 すると、ウンザリしたような薄い笑いを浮かべて、彼女は言った。

 「久しぶりの再会だというのにあんまりだわ。まあ、錯乱して私を殺そうとしたことも忘れてるくらいだから、仕方ないわね」

 「?!」 予想外の返答に頭が混乱した。錯乱して殺そうとした? 彼女を? 私が?

 彼女は、返す刀で美樹さんにも語りかけた。

 「まったく、美樹さやか、貴方という子は。折角人間に戻れたというのに、わざわざそれを捨てに来たの?」

 「あんたなんかに指図されるいわれはないね、この悪魔!」

 「…で、あんたは一体何しに来たんだい、お嬢様?」 佐倉さんが訊いた。

 「相変わらず落ち着きがあって助かるわね。単刀直入に言うわ。美樹さやか、百江なぎさ、貴方達の中にある『それ』を私によこしなさい」

 

 彼女の台詞を前に、私達四人は身を守るように固まった。美樹さんの前に佐倉さんが、なぎさちゃんの前に私が、暁美さんを遮るように立つ。

 「あら、誰一人として協力的じゃないのね。力ずくで奪わせる気なの?」

 「取れるもんなら取ってみろよ。あんたにもそれ相応の代償は払ってもらうぜ」 佐倉さんが威嚇する。

 「暁美さん、あなたの話は佐倉さんから聞いたわ。さらに円環の理の力を狙うなんて、円環の理の座を奪うつもりなの?」

 暁美さんから、今までの超然とした気怠げな雰囲気が唐突に消え去り、怒気がそれに取って代わった。私の言葉は、彼女から強烈な怒りを引き出したのだ。

 「…巴マミッ! 貴方、円環の理であることがそんなに良い事だとでも思っているの?! それがどれだけ残酷なことなのか貴方に分かるとでも言うの?! いいわ、そんなに円環の理の元に行きたいというなら…」

 

 「コラー! 人の家の玄関先で一体何を喧嘩してるんだ、君たち!」

 突然、私達は門から出てきた男の人に一喝された。鹿目さんのお父さんだろうか。暁美さんは、先ほどの怒気はどこへやら、男の人の顔を見た途端に縮こまってしまった。

 「全く! さやかちゃんまで一緒になって! 君だってもう小学生じゃないんだから、人の家の玄関先で騒いだら近所迷惑になることくらい解ってるだろう! …ほらほら、外でまどかを待ってることはないよ、皆、家に入りなさい」

 

 綺麗に掃除された廊下を通り、応接間に通される。しばらくして、飲み物をもってお父さんがやってきた。ずいぶん早くにお仕事からお帰りになるのね。それとも、今日はお休みなのかしら?

 「ほら、冷たい飲み物を持ってきたよ。これで皆クールダウンしなさい」

 「あの…」 暁美さんが、申し訳なさそうな声をあげた。

 「外で騒いでご免なさい。あ、あの、色々ありまして…」

 「だろうね。夕食の用意をしなきゃならないから失礼するけど、何か事情がありそうだし、せっかくだからここでゆっくり話し合うといい。ママとまどかが帰ってきたら声を掛けてあげるから」

 鹿目さんのお父さんが行ってしまうと、暁美さんは改めて私たちを睥睨した。

 それを見て、美樹さんが苦笑いしながら言う。

 「ネコを被りすぎてネコに埋もれてるね、ほむら」

 「大きなお世話よ。ただ、あなたは被る練習くらいはしておくべきね。またフラれるわよ」

 「そっちこそ大きなお世話だ」 反撃にむくれる美樹さん。

 「で、さっきの話。素直に私に渡す気はない?」

 「喧嘩売っておいてずいぶんだね。まあ、最初から渡す気なんかないけどさ」

 「百江なぎさ、あなたは?」

 唐突に訊かれたなぎさちゃんは、予想外の気丈さではっきり言った。

 「嫌です。あなたには渡しません」

 「他の人たちも手伝う気は無いの?」

 「無いね」 佐倉さんが言う。

 「無いわ」 私も続けて言う。

 「…聞き分けの無い人たちね。力づくでも良いのだけれど、それは最後にしましょう。ただ、貴方達がそれをまどかに返したら、まどかは円環の理に戻り、そこの二人も一緒にこの世から去ることになるけど。…それでもいいの?」

 「予想はしてたわ。だから、私たちは円環の理にお願いするつもりよ。力を返すかわりに、二人を地上に残して下さいって」

 私のこの話を、暁美さんは一笑に付した。

 「返す前のまどかには、円環の理の記憶は無い。交渉以前の問題よ。そして、まどかに返した時点で、まどかはすぐに円環の理に戻って、空に戻ってそれっきりよ。会話の余地なんて無いわ。いつ交渉するつもりだったの?」

 「…そんな、見てきたようなことを…」

 「見たのよ。前回はまどかが転校してきた直後。まるで夢から醒める人のように、世界を巻き込んで戻って行きかけたわ。私は必死に彼女を押し留めたのよ?」

 

 「じゃあ、まどかの記憶だけ先に返せばいいわけだ」 美樹さんが言った。

 「き、記憶だけ?!」 よほど予想外だったのか目に見えて暁美さんが狼狽した。「そ、そんな馬鹿なこと…」

 「なぎさは魔法少女じゃないからね。パワーがついてこなくて記憶しか残ってないんだよ。で、あたしの手元にはパワーがあるから、記憶を戻してからまどかに相談すればいいって寸法。どう?」

 暁美さんが不愉快そうに目を細めた。反論するかに見えた彼女は、口を開いた途端に突然落ち着かなげな表情を浮かべて天を仰ぎ、暫くしてから私達の方を向いて、言った。

 「貴方達のことを思って穏便にすまそうと思っていたけれど、時間切れよ。場所を変えましょう」

 

  * * *

 

 食事を用意する人にとって嫌なことは何か、と訊かれたら、一番多い答えはきっと、「食事を作ったのに色々な理由で食べない、あるいは帰ってこない」じゃないだろうか。僕が専業主夫になってからというもの、ママはああいう性格なので、何度作った食事をすっぽかされたか数知れずだけれど、ある時キツく教育してからはちゃんと連絡をくれるようになった。ともかくも、どんな形かはいざ知らず、夫婦間の対話って必要だよね。

 

 …などと考えながら、料理の皿を並べて夕ご飯の準備をしているとスマホが鳴り、ママからもう少ししたら帰り着くとの連絡があった。着いたころに丁度食べられるようにと、お絵書きしているタツヤがテーブルや壁に近代芸術をこしらえないように見守りながら急いでお皿に料理を移し替える。すると、部屋のドアをノックする音がした。

 「申し訳ありません、いいですか?」と言って入ってきたのは、暁美さんと名乗った女の子だ。そういえば、この子の名字何だったっけ?

 「どうかしたのかい?」

 「…ちょっと用事が出来たので、まどかの帰りを待たずに帰ることにしました。お邪魔しました」

 「他の皆は?」

 「…私が、連れて帰ります」

 「そう。…一つ訊いてもいいかな。今日、皆が大挙してお見舞いに来てくれたのって、まどかが神様になったことと何か関係があるのかい?」

 彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべた後、すぐに笑顔になって言った。「はい。また、その内にこの件で来ようと思います。あと…」 言いよどんだ後に、幾分恥ずかしそうに言った。「先ほど、まどかとお義母さんにお会いしたんですけれど、お茶を御馳走になったのに挨拶もせずに帰ってしまいました。ご免なさい、改めてお礼に伺いますって伝えてもらえますか」

 「分かった、伝えておくよ」

 「では、失礼します」

 扉を開けて出て行った後、何となくその後からついて部屋の外に出ると、彼女の姿はかき消えていた。応接間にはもう誰もいない。

 残ったコップを片付けながらふと思った。…テレポーテーションか何かかな。神様の友達だけあって天使か悪魔なんだな、きっと。

 

18.鹿目まどか以外の場合:その2

 

 目の前のテーブルが突然消えうせ、気がついたら地面に座っていた。

 「ここは?!」

 「しゅ、瞬間移動?!」

 しばらくして不意に現れたほむらが、律義にも全員に靴を渡しながら言った。

 「ここは見滝原の郊外よ。まどかの家で暴れるわけにもいかないから」

 「ど、どうやってここへ?」

 「使い魔を使ったDio式瞬間移動よ。…」 何なの、でぃおしき瞬間移動って。そもそも、言った本人がなんで妙に恥ずかしがってるんだよ。

 そんな微妙な空気をかき消すように、不意に周りの空間が歪む。ほむらが「魔女の結界」を張ったのだ。

 あたしは、何となく、ほむらの結界を「巨大な家具が乱立する虹色の世界」という感じで思い描いていた。しかし、実際に構築された結界は、モザイク状に色々な魔女の結界が混ぜあわさり、全体に調和して組み合わさったようなものだった。

 ふと脇を見ると、杏子とマミさんは妙にオタオタしている。…そりゃそうよね、この二人は魔女の結界を知らないもんね…って和んでる場合じゃないよ。

 「杏子! マミさん! 変身して下さい!」 二人をせかしながら、とにかく魔法少女に変身する。二人も続いて変身すると、それを脇で見ていたなぎさが目をキラキラさせながら歓声を上げた。いや、ここはテンション上がる場所じゃないから!

 あたし達に対峙するほむらも、異形のソウルジェムを手に変身する。漆黒の羽と黒に装われた禍々しい姿。その姿を見て、私は思わず反射的に叫んだ。

 「露出度高すぎない、それ?!」

 …あたしの台詞を聞いた二人が噴き出す。口をヘの字に曲げて頬を赤らめるほむら。ごめん、反省してる。今度からちゃんと空気読むよ。

 

 「…美樹さやか、まずは貴方からよ」 やべ、無駄に標的になっちゃった。

 ほむらが手を振ると、空中から三つ又の槍が出現した。

 「悪魔って言ったら三叉槍ですもんね」 満足そうに言う。

 「銃じゃないんだ?」

 「新しい世界の自衛隊の人達にまで迷惑掛けてられないわ」

 言うか早いか、繰り出される三叉槍。やばい、剣だとリーチが足りない。腕力そのものはあたしの方が上だと思うけど、武器の特性として向こうのほうが有利だ。

 そこに割り込む赤い槍。「へへ、槍同士なら負けねえぞ」 嬉々として杏子がほむらに襲いかかる。しかし幾合の打ち合いを経て、微妙に杏子が押されているのが傍目にも分かるようになってきた。杏子は槍ではかなわないと悟ったのか多節棍に切り替え、あたしもほむらの死角から割り込みをかけて、二人がかりに持ち込む。

 しかしほむらの槍使いは予想以上だった。杏子をいなして石突きで突き飛ばし、返す刀であたしの足を横薙ぎに斬りつける。あまりの痛みにつんのめって倒れるあたし。

 「美樹さん! 佐倉さん!」 あたし達が接近しすぎていたせいで手を出しあぐねていたマミさんが攻撃を開始する。マスケットの銃声が連続して轟くが、ほとんど同時に響く金属音。ほむらの方を振り向くと全くの無傷だ。そして、その周りには黒い帯状のものが。あれがマミさんの弾丸を弾いたんだ。

 「それは…」 マミさんが驚愕する。そう、それは、色こそ違えどマミさんのリボンそのものだった。

 ほむらがニヤリと笑う。「貴方の知らない事だけど、貴方にはちょっと負けが込んでいたものね、巴マミ。ここでドローにさせてもらうわ」

 マミさんのリボンが飛び交い、拘束せんとほむらに襲いかかるも、ほむらのリボンに全て弾かれる。そのリボンの戦いを陽動に脇からマスケットを連発するマミさん。しかし、出現した黒く丸い盾に全て弾かれる。さっきもそうやって弾いたのか。

 「イメージが湧けばその形にすることが出来る、貴方の魔法って便利よね」 ほむらが何となく関心したように言う。

 黒い盾はそのままフリスビーのようにマミさんに向かって飛んでいき、痛打を加える。しかし、そこにいたのはリボンで作ったマミさんのダミーだった。ばらけて爆ぜるリボンはまたしてもほむらに襲いかかるが、ほむらのリボンがそれを全て防ぐ。

 すると、まるっきり予想外の方向から「あっ!?」と言うマミさんの悲鳴が聞こえた。そちらを見ると、大きな橋脚状の構造物に黒いリボンで縛りつけられたマミさんの姿があった。「相手が移動する場所に罠を仕掛けていたのは貴方だけじゃなかったってこと。やっとリベンジが成ったわ」 なんでそんなに嬉しそうなんだよ、ほむら!

 「このぉ!」 あたしと杏子がまたしても襲いかかる。しかし今度はほむらは槍すら使わず、マミさんのリボンのニセモノで応戦し始めた。黒いリボンが私達の刃に沿うように走り、刃筋をそらす。あたし達じゃリボンすら破けないっていうの?!

 「楽しくなってきたわ。午前中の二人よりよっぽど骨があるわよ、二人共」 ちくしょー! 何この余裕?! このカボチャ娘!

 こうなったら奥の手だ! 杏子と目配せして、以前の練習通りにポジションを取る。杏子は嫌々だろうが仕方ない。

 「えいちくしょー! 景気付けだ! ロッソ・ファンタズマ!」 もうヤケクソといった感じだが、なんで今回に限って必殺技名を叫んだ、杏子。

 杏子の姿がぼやけて分身する。あまり彼女が使いたがらない幻影魔法だ。一斉に幻影が襲い掛かる後ろから、あたしが素早くほむらの肩辺りに刀の切っ先を向けて、トリガーを引く。幻影の後ろからあたしの刀の切っ先が撃ちだされて飛んでくる、まさに必殺技だ。知性の高いタイプの魔獣に対抗する際のために練習した技だが、知ってるマミさんにも結構当たるくらい強力だ。ましてや、初見のほむらにはこれは避けられないはず。

 刀の切っ先が貫通し、失せた幻影の先には、肩を貫かれ崩折れるほむらの姿があった。やった! …と思った瞬間、なんと、そのほむらは黒いリボンの塊となって爆ぜ、一番近くに居た杏子を巻き込んで縛り上げてしまった。

 暫くして、空中からの声。「佐倉杏子、貴方の魔法は面白いけど、不意打ちの拘束をするなら巴マミのリボンの方が便利ね」 空飛んでやがったよ。

 よく見ると、ほむらの拘束の仕掛けはマミさんのリボンと同じらしく、中心部に鍵の意匠がある。となれば、縛られても中心の鍵を破壊すれば開放できるはずなんだが、マミさんは遠いし、杏子は解こうとするあまり無駄に転がりまくるせいで狙いが定まらない。そもそも、地面に降りたほむらがジリジリと間合いを詰めてきた。なぎさを庇うように背にして立つものの、よく考えたらあたしも標的だよ?!

 「さっきの連中よりマシとはいえ、折角、私個人の特殊能力を使わずにいてあげたのに、なんて不甲斐ないの貴方達。…まあ、それはいいわ。美樹さやか、百江なぎさ、貴方達を守る騎士はこの体たらく。円環の理の力は貰って行くわよ」 三叉槍を手に迫るほむら、あたし達二人の後ろは既に壁。

 追い詰められて絶体絶命のピンチの時、その異変は起こった。

 ほむらの後ろに何かいる。そして、マミさんが叫んだ。

 「危ない! 暁美さん?!」

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択