No.747964

リリカルなのは×デビルサバイバー GOD編

bladeさん

12nd Day そのために僕は前を向く

だいぶ遅くなりました。
けれどようやく書き上げられたので投稿します。

2015-01-01 23:08:43 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1822   閲覧ユーザー数:1771

 

 

 状況は想定しうる中で最悪とまではいかないが、それに近い状態であることは明らかだった。

 未だ二体の悪魔しか姿を表していない状態ではあるものの、少女を中心として瘴気は溢れ出し、その遥か頭上には召喚のためのゲートが静かに佇んでいる。

 

 だが幸いなことにそのゲートを潜ることのできる悪魔はまだ居ないようだった。もし通ることのできる悪魔が居るのであれば、今ここに溢れかえっているはずで……であるとすると、この状況でただ二体のみ存在するこの悪魔たちは果たして幸運なのか不運なのか。

 

「アマテラス!」

 

 力強い少年の声が戦場に響き渡る。

 その眼にはいつもある迷いが消え、ただ目の前に存在する敵と戦うために眼前の敵を見据える。

 

「二人を頼む。それと、雑兵の相手も」

 

 油断なく命令を伝える。

 アマテラスもまた力強く頷き、アリサとすずか両名の近くに控える。

 その様子を見てからカイトは目下、眼前の敵……と言えるかは分からないが加害者を見据える。

 アヤと真逆の想いでもって歌い続ける少女は、カイトの姿を見ても変わらずただ、ただ……泣き、歌い続けている。

 その様はまるで、歌の奴隷のようだ。

 

「それとデビットさん」

『分かっている。この場に居る者の救助及び治療、そして住人たちの避難。全て任せ給え。君は自分の成すべきことを成せ』

「……ありがとうございます。あとはよろしく頼みます」

 

 そういえば。と、カイトは思う。

 こうして後ろに誰かが居て、援護してくれるような状況になったことはないなと感じていた。

 PT事件と呼ばれた戦いにおいても、傍から見ればプレシアの本拠地に連れさられた形となるカイトではあるが、実際はプレシアと演じたただの茶番としかならない戦い。

 闇の書事件では、確かに共に戦っていたものの後ろに誰かが居て支えてくれるような状況でもなかった。

 そしてそれは東京封鎖においても同様で、となりで戦うものはいるものの、後ろから支えとなる者は居なかった。

 だからこそ少年は思う。こうして誰かが支えてくれる今の状況を、悪くないなと。

 

『聞こえているか?』

 

 思考に入っていたカイトを呼び覚ましたのは、仮面の男の低い声だ。

 

『ここまでの道中でも話したがあの子を救うには力では無理だ。いや、むしろ力を振るう事で状況が悪化する可能性がある』

「……駄々をこねている子供。の、ようなものだっけ?」

『そうだ。だからこそ、我々が彼女にすべき事は力ではなく』

「言葉でもって想いを伝える……か」

『そうだ。それこそが他ならぬ人に与えられた、人だけが持ちうる力なんだ』

 

 思いおこさせるのは、原書の歌。

 何故歌が悪魔の世界を人の世界を繋げるのか。それはきっと他ならぬ人自身が本来持っていた力に他ならない。他者と分かり合うための力、たとえそれが昨日まで命を賭して戦っていた敵であっても、分かり合う可能性を持つそれが人。

 そしてそれを成すために必要な力は他ならぬ『言葉』なのだ。

 

「だからあの子を救うことができるのは他ならぬ『言葉』ってわけか」

『そう、ただ時間があまりない。急いで行ってくるといい』

「わかってる」

 

 目標は白くて黒い少女。

 泣きながら眠って、泣きながら歌っている。そんな痛々しさしか感じさせぬ女の子。

 

 なんとも器用な真似であるが、それは当然でもある。

 少女は眠っている。

 少女は泣いている。

 少女は歌っている。

 一つ一つの行動を見ればわかるが、あの少女は「それしか出来ないのだ」

 赤ん坊が泣いてグズることで、その意志を表すように。あの少女は泣くことで、歌うことで自分の事を表すしか出来ない。

 だが気にかけるべきはあの少女だけではない。

 

「バニングスさん。月村さん。頼めるか?」

 

 カイトのCOMPを持って、この場に立ってくれている二人。

 小さな少女を救うのがカイトの役目であるなら。今この場で、敵を倒すのがこの二人の役目である。意志を貫くためには力もまた必要である。

 

「無理はしないで。危なくなったら、逃げてほしい」

「任せなさいって! なのはたちだって出来てるんだもの。アタシにだって……!」

 

 カイトのことを羨ましいといった、アリサ・バニングス。

 ある意味、今この場に立つことができているのは、彼女の望みの一つがかなったということなのだ。けれどそれは決して自分の中の自己満足のためではない。

 

「……。月村さん」

「はい、分かってます。大丈夫です、アリサちゃんは私が支えますから」

 

 そう言って月村すずかは微笑む。

 今この場で最も争い事に向いていないのは彼女だというのに。それでもなお、友を支えるために彼女は戦う。もしかしたら、この場で一番心が強いのはこのすずかという少女なのかもしれない。

 

「アマテラス」

「えぇ。承知しておりますわ、仮初……とはいえ彼女たちは今わたくしの召喚者……彼女たちは私にお任せください」

 

 どこか眩しい物を見る目で神は……アマテラスは言う。

 時とともに失われたという人の心。他者を慈しむそんな慈愛の心をもつ少女たちが居ることがアマテラスには嬉しく思えた。

 

「ですから、今はご自身の役割を果たしてきてください。サマナー……いえ、『人間』天音カイト」

 

 魔王となったカイトに対してアマテラスはあえて人間と付け加えた。その意味に気づかないカイトではない。

 

「あんた……」

「人から悪魔となっても、貴方の中にある中心的な力は『人間』の……。そして、人間だからこそ……成せることがあるのです。たとえどれだけの力がなくとも、全てを成す可能性があなた達に」

「分かった……ありがとう」

 

 その眼にはもう迷いはなく、ただ光が宿っている。

 その瞳を見てアマテラスは『あぁ……やはり……』と人知れず、言葉に出さずに思うのだ。

 

 どれだけ失われても、決して無くならないものはあるのだと。

 

* * *

 

 飛ぶのではなく翔ぶ。浮くのではなく漂う。それが現在のカイトの空中での移動方法と言える。

 未だ完全に空中での移動制御は行えないため、浮いてからガルを使用してその風圧でもって翔んでいた。

 

「やり……にくいなぁッ!」

 

 倒すのではなく救うための力を。

 少女からの攻撃は回避もしくは万魔の盾により無効化しつつ、その取り巻きである下級・上位~中級・中位レベルの悪魔を蹴散らしていく。

 リアルタイムに入り交じるその戦いを広い視野でもって見渡しつつ、攻撃対象を選択するのは困難を極めた。

 なにせ通常であれば全体魔法でなぎ払えるところを、あの少女を巻き込まないように単体魔法で対処しているのだ。通常の戦闘よりも難しいに決まっている。

 それに加えカイトは空中戦闘に難を抱えているのだ。それがカイトを精神的にも体力的にも追い詰めていく。

 当然あるが、そんな戦い方がいつまでも続くはずがなく……やがて追い込まれていた。

 

「ッ! やば……ッ」

 

 対処しきれない一撃がカイトに迫る。黒い影、怨念のその一撃がカイトを薙ぎ払おうとしたとき――炎をまとった閃光が影とカイトの間を貫いた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 落ち着いた……どこかで聞いたようなそんな声。

 カイトの隣に立つその少女は、カイトもよく知る少女に似通っていた。

 

「お久しぶりです。そして改めて初めまして『カイト』。私の名前はシュテル。シュテル・ザ・デストラクター……理のマテリアルを担当しています」

「シュテル……。闇統べる王が言っていたのはキミか」

「はい……漸く言葉を交わせました、カイト」

 

 感情の起伏は少なく感じるが、それでも確かに親愛の情を込めてシュテルは言った。

 

「それにしても久しぶりって?」

「私からすれば……ですよ。安心してください、私と貴方が出会ったのは今日が初めてです。ただ……王が持つ紫炎の書から私は見ていた、それだけですよ」

「あぁ、なるほ」

「ドーン!」

 

 元気な声でカイトは弾き飛ばされた。それと同時に蒼き閃光がカイトの頭上を掠め、烏天狗の身体が真っ二つになる。

 

「さっすがボク! ナイスアシストだよね!」

「たわけ!」

 

 スパン! と青い少女は勢い良く叩かれた。闇統べる王の手によって。

 

「レヴィ! 何をやっておるか!」

「む~。何って助けたんだよ! この人も無傷でボクはカッコイイ! いいコトずくめだよ!!」

 

 ブーブーと少女は抗議を送る。どうやら本気でカイトを助けようと思ってした行動なのに怒られているのに納得いかないらしい。

 

「え~っと?」

「彼女名前はレヴィ。レヴィ・ザ・スラッシャー。まぁ、見ての通りの可愛い子です」

「ハハハ……。このタイプは周りに居なかったなぁ。なんか、うん。和むかな」

 

 憤りを隠さない少女、レヴィはカイトを見ると跳ねるように近づくときょろきょろと観察をしたあと……ガバっと抱きついた。

 

「うわっ!」

「お~……! やっと触れた、やっと会えた! ……ってアレ? ボクなんでこんなことしてるんだろ?」

「いや知らんよそんなこと」

 

 本人がわからないというのに、他人がわかるはずもなく。ただただ困惑するのみだ。

 

「まったく。衝動的に行動するなと我が常々言っているだろうに」

 

 そこにいたのは保護者だった。

 同居していた時からその気配はあったが、基本的にこの闇総べる王という少女は世話を焼く好んでいる。それが闇統べる王としての元来の本質なのか、それとも元とした人物の本質までコピーするのか判断は付かないが一言で言うと彼女はおかん体質である。

 

「……で、だな、その……」

「おう……」

 

 二人の間に微妙な空気が流れている。先日別れたばかりだというのにすぐに再開してはこうもなる。

 それでもと、二人共が同時にお互いを見る。

 

「久しぶり、元気そうでよかったよ」

「うむ。汝もな」

 

 ただそれだけの会話で何時もの空気に戻った。

 互いに嫌っている訳ではなく、ただ気まずかっただけなのだからそれが解消されさえすれば元通り。

 

「だがこうして我のところに来たということは、考えなおしたということか?」

「いや、それはないのだけど」

「んなっ?!」

「ただ、うん」

 

 何故動こうと思ったのか。理由は事態はカイトにとって沢山あった。

 悪魔が出現する可能性があったから。

 アヤと同じ原初の歌をうたい、それでいて真逆の性質を持つ少女を止めるため?

 

「いや違うな」

 

 それらも偽りならざる本心であるのは間違いない。

 けれどそれらは自分の本心に対して言い訳のように飾り付けた言葉に他ならない。そして、自分の……天音カイトの本心はきっと、この一文にすべて込められている。

 

 プレセア・テスタロッサの時もそうだった。

 カイトの言葉が真の意味で届いたのかはわからない。けれどあの女性はその数少ない命でもってフェイトを助けることを願った。優しくか弱い女性であったころの面影をのぞかせて。

 

 八神はやてたちの闇の書事件もまた同じである。

 納得できないと、訳の分からない力に振り回され、人生を棒に振るのは自分だけで十分だとあの時カイトは叫んだ。

 けれどそれもきっと自分が動くために吐いた言い訳でしかない。

 その本心はきっと「友達が泣いている。だから止めたい」とそれだけだった。

 

 東京封鎖の時のカイトの心もまた同じ。

 『誰かを助ける。それは正しいことだ』そう言った父の言葉を受け止め、その思いのままに力を振るい、その結果その守るべき対象である人間に殺されようとした少女を知っている。

 その少女の死を知り、人の思考に絶望した……絶望していた少年を知っている。少年もまた少女と同じで自分の義でもって行動した結果つぶれた過去を持っていた。そして、人に裁きを下す力を手に入れた結果……溺れ最後にはそれ以上の力で、死という裁きを受け掛けた。

 親友の恩師。理不尽な死の原因を知り、自分の中に得体のしれない悪魔を受け入れ戦った女性も居た。

 

 カイトは彼らを助けるために行動した。その結果救うことができた。失ったものも多いけれどそれは確かなもので……。その心の中心にあったのはきっと言い訳なんて必要のない有りの侭の心。

 

 

「目の前に泣いている子が居る。助けようと思うにはそれだけでいい。それだけで十分だ」

 

 それを聞いた闇統べる王は信じられないと驚愕し、見知らぬふたり組の少女のうちの一人、ピンク髪の少女は「やるじゃない♪」と言い、赤髪の少女は同意するかのように頷いていた。

 

「らしくない言葉だとは思う。けどさ……たぶんこれがきっと俺の本心なんだよ」

 

 だからと、少年は言う

 

「力を貸してほしい。俺一人じゃ破壊はできても、あの子を救うことは出来ないんだ」

 

 そのまっすぐな言葉に真っ先に反応したのは以外にも赤髪の少女だった。

 

「とーぜんですッ! 泣いている子が居る……なのに何もしないなんて私にはできないです!」

 

 まっすぐに、熱血に少女は宣言する。

 それは間違いなくカイトが失った大事な物に他ならない。

 それを見て眩しそうに眼を細めながらカイトは手を差し出した。

 

「カイトです。天音カイト」

「アミティエ・フローリアン。アミタと呼んでください、カイトくん!」

 

 太陽のように眩しい笑みで少女は……アミタは手を取った。

 それと同時に横からスーッと手を伸ばす少女が居た。

 

「まっ、仕方ないわよね~。アミタが無茶をするならそれを見ている保護者が必要じゃない」

 

 それはピンク髪の少女だ。

 

「キ・リ・エ。キリエ・フローリアンよ、よろしくね~ボク?」

「うん。よろしく」

 

 さらに二つの手が伸び、重ねられる。

 茶髪の少女に青髪にメッシュの入った少女、シュテルとレヴィだ。

 

「勿論……」

「ボクたちもだよ! だよねっ!」

 

 最後の言葉が誰に無かって言われたものなのか。それがわからない自称、王ではない。

 

「フン……とんだ大馬鹿者たちが集まったものだな」

 

 やれやれ……と最後の一人、闇統べる王は言う。

 

「闇統べる王……」

「……違う」

 

 その両手を重ねるのではなく、愛おしいものであるかのように包み込み少女は言う。

 

「我が名は……ディアーチェ。ロード・ディアーチェだ、覚えておけ」

「うん。よろしく、ディアーチェ」

 

 これにて役者たちの心は揃った。

 合言葉はただひとつ。

 

『泣いている少女を救う!』

 

 ただそれだけ。

 

 それだけであるが故の……大切な信念ともなる言葉。

 あとは合図さえあれば全員が動き出す。そしてそれを発するのは今この場の中心である少年。

 今か今かと、少女たちの視線は少年へと向けられ……そして始まる。

 

「行こう、皆! あの子を救い出すために!」

 

 応ッ!

 

 終焉のラッパの音がなる。

 それに気づいた者はこの場には居ない。されど……時を待つ。

 

 愚者たちの戦いを見ながら……自分が道化であることにも気づかずに。

 

 

 大体半年ぶりぐらいの投稿でしょうか。

 そのせいか書き方がちょっと変わったきがします。(下手になってればいいんですけど、ええ)

 最後になりますが少しでも楽しんでもらえたのなら幸いです。

 GOD編もあと数話。続きは今も書いてますが、多分あと三話を目安で終わりになるかと思います。

 それではまた、次回の投稿で。

 

 

 
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