No.747741

紫閃の軌跡

kelvinさん

幕間~白隼の国~

あけましておめでとうございます。不定期更新ですが、今年もよろしくお願いいたします。

2015-01-01 12:37:56 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2878   閲覧ユーザー数:2628

リベール王国……その歴史を紐解くと、その祖先は約1200年前にまで遡る。“空の女神”より齎された七の至宝(セプトテリオン)がひとつ“輝く環<オーリオール>”を封印した一人―――セレスト・D・アウスレーゼより続く古き良き小国の一つであった。卓越した外交手腕により、エレボニア帝国とカルバード共和国の二大国に脅かされる危険を回避し続けてきた……だが、十二年前に“百日戦役”が起こり、完全占領される済んでのところまで帝国軍の侵攻が速かった。……しかし、リベールに思わぬ救いの手が差し伸べられた。

 

猟兵団『翡翠の刃』と『西風の旅団』の独自参戦。それに呼応するかのように開始された王国軍の反攻作戦。これによって帝国正規軍は約三ヶ月余りにも及ぶ戦争全体で7割近い被害―――言うなれば『敗北』したに等しい。人的被害こそ少なかったものの、物的被害による疲弊はすさまじく、とりわけ帝国軍自慢の戦車はZCFと王国軍が共同開発した飛行艇・アルセイユ級巡洋艦の戦線投入によってなす術もなかった。いくら火力があろうとも、制空権を奪われてしまってはただの砲弾を放つ程度の的に等しい状況。

 

そして、猟兵団の『全ての状況を利用する戦い方』というのは、軍の杓子定規からかけ離れており、想定外の動きを見せる彼等に対して決定的な有効打をうつことすらできなかった……その結果とも言える講和条約ではほぼ全面的にリベール側に有利な条件での講和と相成り、帝国南部の三分の二近い領土、ハーメルでの一件分も含めて国家予算の二倍以上の賠償金+街の修繕費用を獲得。その後、共和国側との不可侵条約において共和国西側の領土もリベールに編入され……結果的に、エレボニアやカルバードと比肩しうる大国に成長した。ただ得ただけではなく、編入された領土の民に対して元帝国や元共和国というわだかまりをなくすためにあらゆる対話を行い、その為の措置も施してきた。

 

その副産物として、現在の経済規模だけで言えば下手するとエレボニア帝国に比肩しうる状況にまで発展。ここでシオンことリベール王国宰相を務めているシュトレオン・フォン・アウスレーゼ公爵の手腕が光った。可能な限り外国に頼らず、自国内での経済基盤を固めること……そのために金融関連の法案整備や王国銀行の設立、貨幣や紙幣の発行権など、諸外国の資産が万が一凍結された場合でも対応できるようにするための施策が発表されている。

 

その他にも様々な成長を遂げているリベールは一昨年の“百日事変”を乗り切り、今しばらくの平穏な空気に包まれていた。とはいえ、その空気も長くは続かない……と一部の人間はひしひしと感じ取っていた。

 

~リベール王国 ロレント市~

 

リベール王国の中部の都市―――ロレント市。人口は30万人となり、一昔前の王都の人口にまで膨れ上がっていた。その要因は向上した所得、しっかりとした教育基盤、それに加えて遊撃士協会の層の厚さが他の国と比べて厚いこと。現在はS級―――非公式のランクにいる元遊撃士が一人、現役の三人がリベールにいない状況下でも他国や国外の自治州支部に派遣できるほどの余裕がある。何せ、リベール国内にいるだけでも“紅竜の重剣”“陰陽の銀閃”“雷槍”“轟刃”“魔弾”“黎明”“調律者”の七人がA級正遊撃士……二十数人しかいないクラスの人間の内、約三分の一がまだいる状況下だ。それに加えてA級の“尖兵”“漆黒の輝星”“水の叡智”“天真(てんしん)”“黒牙(こくが)”……そして、元S級の“剣聖”、S級の“紫炎の剣聖”“白銀の狙撃手”“赤朱の槍聖”も数に加えるとその陣容はかなりの層となる。

 

そのロレント市にある昔と変わらない佇まいを残す建物―――遊撃士協会のロレント支部。一階の受付では、受付を担当している女性がカウンターの向こうに立っている銀髪の女性と話していた。

 

「―――報告は以上よ。」

「お疲れ様、シェラザード。それじゃあ、これが報酬ね。」

「ありがと、アイナ。……それにしても、彼等の仕事を引き受けて初めて分かったことだけれど、これだけの案件をこなすなんて、エステルレベルよ。まぁ、アスベルに関してはそうなってしまうのも無理はないという感じだけれど。」

「仕方がないことよね。私もそれを聞いたときは目を見開いたけれど。」

 

報告をするA級正遊撃士―――“陰陽の銀閃”シェラザード・ハーヴェイは受付の女性―――アイナ・ホールデンに依頼の報告を行って報酬を受け取ると、息を吐いて愚痴を零した。その言葉には流石のアイナも同情の表情を浮かべつつ述べた。アイナはアスベルの本当の素性を知る数少ない一人……理由としては『いざという時のごまかしがしやすいようにするため』らしい。アイナがそれを聞いた当初は、驚きのあまり笑顔のまま凍り付いたのは言うまでもない。

 

「彼らはいないけれど、あの二人も今では立派なA級の正遊撃士よ。……総本部の方からは、S級の打診も来ているそうよ。先日、エレボニアで“古代遺物”絡みの案件を解決したそうだから。」

「十中八九、先生の抜けた穴を埋めるどころか、広告塔なのでしょうね。本人たちには?」

 

エステル・ブライトとヨシュア・ブライト……百日事変を経て、A級正遊撃士となり……先日ロレントに帰った後は“家族”であるレンを連れてリベール国内を転々としていた。彼らの父親であるカシウス・ブライトという元S級正遊撃士の穴を埋めるため……彼等に対するS級への打診に関してシェラザードが尋ねると、アイナは苦笑を浮かべてこう答えた。

 

「伝えたけれど、固辞したそうよ。本部には適当にごまかしたけれど。本当の理由は……聞きたい?」

「……何て言ったのかしら?」

「二人揃って『あの三人に勝ててないから』だそうよ。」

「あれは次元そのもののレベルになりそうな問題よ。……エステルもヨシュアも人間を辞めるつもりかしら?」

 

あの三人―――S級正遊撃士であるアスベル、シルフィア、レイアのことだ。その実力はここにいる人間の中ではシェラザードが一番よく知っていることだ。最早人という枠を逸脱していそうな実力を目指していそうな二人の本当の理由を聞かされ、シェラザードにできる反応はため息を吐くことだけであった。そんな飲み友達とも言える彼女の様子を見つつ、アイナは話を続けた。

 

「さて、そればかりは本人たちの問題だからね。……そうそう、シェラザード。貴女指名で王国軍から依頼が入っているのだけれど。」

「王国軍……というか、依頼主は先生でしょう。」

「正解よ。まぁ、詳しいことは本人から聞いて頂戴。今日だったら非番で家にいるわ。貴女が帰ってくる前にレナさんが立ち寄って、そう聞いたから。」

「解ったわ。依頼を受けるかは先生からの話を聞いてからということで。」

「ええ。」

 

アイナからその話を聞き、シェラザードは久々にブライト家に立ち寄ることとなった。すると、扉を開けて応対したのはカシウスの妻であり、エステルらの母親であるレナ・ブライトであった。

 

「あら、シェラさん。お久しぶりですね。」

「お久しぶりです、レナさん。そういえば、エリスちゃんは?」

「丁度寝たところよ。まぁ、レオンやカリンが暇なときは面倒を見てくれているから助かっているわ。」

「そうですか。(……慣れないわよね。というか、それに簡単に慣れるほうがおかしいのかしら?)」

 

昨年、レナは妹―――次女のエリスが生まれ、男三人の女三人という大所帯で賑やかになっていた。男はアスベル(表面上は別戸籍)、ヨシュア(養子)にレオンハルト(カリンの婿扱い)……女はエステル、エリス、カリン(養子)……只でさえ、ブライト家は色々有名なのに、それに拍車をかけている状況だ。リベール王家の末裔でもあり、エレボニア貴族の末裔……ただ、セレストは『それだけでは済まない』と言っていたのだが、それに関しては未だに解っていないのが現状であった。

 

話は戻って、カシウスとレナ、それとまだ赤ん坊であるエリス以外の面々はあちこちに出かけている状況であった。なし崩し的に夕食をご馳走になることとなり、その後でカシウスの書斎へと招かれたシェラザードはアイナからの依頼について尋ねる。

 

「さて、恐らくはアイナから大雑把に聞いてはいると思うが……エレボニアに出張してほしい。」

「エレボニアに……ですか?」

「ああ。今月の下旬に帝都で行われる夏至祭……そこにクローディア王太女とシュトレオン宰相の両殿下が参加なされる方向で話が進められている。だが、護衛で俺が行けば無用な騒ぎを起こすどころか、かの御仁にまた目を付けられかねない。リシャールに関しても同様の理由でな。そこで……お前に頼みたい。実力で言えば、軍から文句は出ないだろう。」

「……“鉄血宰相”ですか。」

「ああ。昨年でかなり目を付けられた。恐らくはエステルとヨシュアに関してもな。辛うじてアスベルに関してはそれほどマークしてはいないようだが……今後もそうである保障はない。正直迷惑以外の何者でもないというのにな。俺も一応お忍びで同行はするが……そのカモフラージュを頼みたいということだ。」

 

勝手に敵視される側としてはたまったものではない……そう言いたげにカシウスは話を続けた。結構実力揃いの王国軍の誰かが同行すれば余計な火種になりかねない。念のためにカシウスはお忍びという形で同行はするが、表向きの形で遊撃士―――それも、エステルやヨシュアと同等の経験をしてきているシェラザードに頼むのが良いという判断に至った。自分の弟子ということからその実力も解っているからこその抜擢に、シェラザードは特に断る理由が思い浮かばなかった。

 

「それは先生の有名税ということでしょう。依頼に関しては了解しましたが、私一人でいいのですか?」

「下手に頼り過ぎるのも問題だからな。ユリアには既に話は通してあるし、アイナとの話はつけた。いざとなれば、向こうにいるラグナやリーゼロッテ、サラやスコールにも協力してもらえるよう働きかけてある。」

「……大丈夫ですか?確か、彼等は……」

「それについては心配いらない。オリヴァルト皇子やシュトレオン殿下から今月の“実習”に関して情報を貰っていてな。丁度夏至祭にかかる形となるらしい。」

 

予めフォローが出来ることを前提に組まれた依頼体制。それを聞いて特に断る理由は完全になくなったようだ。カシウスの口から出た言葉の中の人物―――『オリヴァルト皇子』に対して、シェラザードは笑みを零しつつ話し始めた。

 

「……成程。にしても、あのお調子者があそこまで頑張っているだなんて……ちょっと信じられませんね。」

「そういえば、さりげに告白されていたな。ああいう人間は結構一途だったりするから、ちょうどいいんじゃないのか?」

「ふふ、こればかりは彼次第でしょうね。」

「手厳しい言葉だな。」

 

カシウスからの追及を躱しつつ、シェラザードは笑みを崩さずにシンプルな答えを返しただけであった。その反面、年下の妹のような存在に先を越されていることに内心焦りを覚えていたのは事実でもあるのだが。そういった意味ではカシウスの問いかけはけっこうくるものがあったのも事実。

 

 

~グランセル城 離宮~

 

カシウスとシェラザードが話していたその頃、グランセル城の離宮……その中の一室―――宰相の執務室では、積み上げられた書類の山を相手に黙々と仕事をこなすシオンの姿があった。すると、ノックの音が響く。

 

「ん?……鍵は空いているから、入っていいぞ。」

『その、両手がふさがってまして……』

「やれやれ……」

 

シオンの言葉に対して、扉越しではあるが躊躇いがちに聞こえる女性の声。そして気配を察したシオンはペンをもとに戻し、扉を開けると……トレーを持った寝間着姿の人物。それは、シオンにとっては親類の人間であり、大切な人でもあり……この国における次代の国家元首―――クローディア・フォン・アウスレーゼ王太女であった。

 

「珍しいな、こんな夜分に。」

「シオンが頑張っていますので、差し入れをしたかったのですよ。」

「そっちはそっちで忙しいはずなのに……ま、ありがたく頂くぜ。」

 

眠気覚まし代わりの紅茶とクッキー……少しばかり休憩は必要であると判断し、シオンも休憩することとした。

 

「ん。甘さ控えめだな。」

「糖分を取り過ぎないように、控えめにしたんです。」

「成程。……外交の勉強は進んでるか?」

「それなりに、ですかね。ただ……シオンやルーシー先輩から貰ったものは、多少過激に見えたんです……」

 

シオンは既に宰相として多岐にわたる仕事をこなしつつ、クローゼ(クローディア王太女)の護衛もこなし、トールズ士官学院の常任理事の仕事もこなす。普通ならばてんてこ舞いになりそうな状態なのだが、そこに生かされたのは多岐にわたる仕事をこなすことが多い遊撃士としてのキャリアであった。

 

一方、クローゼのほうも次期女王として本格的に外交の勉強を始めているのだが……シオンと二人の先輩でありレミフェリア大使、ルーシー・セイランドがクローゼのために渡したその資料には……クローゼ自身色んな疑問を抱いていた。シオン自身、そこまで渡すべきか悩んだ部分はあったのだが、何事も綺麗ごとばかりではないことぐらいは彼女も承知だろうという前提で渡した。シオンは紅茶の入ったカップを置き、話し始める。

 

「……クローゼも解ってるはずだ。外交は何も綺麗ごとばかりじゃない。最大限に尊重されるべきは国家の利益であり、ひいては国民の利益。それと、この地方全体に広がりつつある戦乱の予兆。それからすれば……不戦条約自体が意味をなさなくなる可能性が高い。」

「解っては、います。ですが……」

「俺だって信用はしているさ。だがな……物事に絶対という言葉がない以上、常に最悪の事態を想定して動くこと。……エレボニアとカルバードで燻る火種。何時引火してももうおかしくはないんだよ。ただ、言い方は悪いがこればかりは当事国自体の問題だからな。」

「…………」

 

シオンとルーシーがクローゼに渡した資料……それは、西ゼムリア地方全体の情勢。そこから導き出される戦乱の兆し。戦争自体を直に経験したことのないクローゼにとっては、それほどの予測が出てしまったこと自体信じられないかもしれない。

 

「一昨年の“百日事変”。あれに端を発した常識外れの事柄……それが、リベールだけで終わる可能性なんてあってないようなものだ。」

「まだ、解決していないと?」

「いや、そういうことじゃない。それに近いような出来事―――人々に強く印象付けるような『何か』が出現する可能性があるってことだよ。“輝く環”絡みの空中都市という前例があるぐらいだからな。」

 

単純な戦争ならばまだマシなレベルだ。これに一般常識を逸脱した出来事が重なれば、誰だって慌てふためくことだろう。……正直、シオンが考えている『鉄血宰相の描こうとしているシナリオ』からすると……そのような存在が出てきても不思議ではない。

 

「クローゼにはまだ話してなかったが、来月の通商会議で“本気の交渉”でいくつもりだ。陛下にも話は通した……正直言って、あの二国には“目に余る”レベルを通り越した。」

「!?……シオン、まさか……」

「相手が実力行使するならば、“三大国”の責務として……そして“不戦条約”の提唱国として、その相応の力を以て対処すること。……これをやったら、クローゼには嫌われそうだけれど。」

 

今までのリベールからすれば、そういった手段を取ることは考えられないであろう。だが、これから迫りくるであろう事態に対して、こちらにできることは全てやっていく……たとえそれが、人から咎められる可能性のある事でも。自分の親友でもある人たちが今歩んでいる道も……今のシオンには理解できていたことだから。

 

「……なりませんよ。」

「え?」

「嫌いになりませんよ。そういうサドなところもシオンらしいですから。勿論褒め言葉ですよ。」

「褒めてるというか、貶してねぇかそれ。」

「ふふっ……」

 

尤も、その話題の発端でもある次期女王も、“原作”と比べて腹黒くなっていることには流石のシオンも苦笑しか出てこなかったのは言うまでもない。この本性をあの御仁らが見た時、逆に彼らの安否を気遣いたくなったのは気のせいだと思いたかった。

 

 

番外編一つ目(というか第四章の前置きみたいな感じ)はリベール編です。ということで、シェラザード、シュトレオン、クローディアが第四章に登場します。それ以外の人達も出る予定ですが……ちなみに、この話で出てきたもう一人は、前作のように変装します。理由はって?……そりゃ、あの人対策です。なので、得物も変わってます。

 

そして、クローゼに関しては原作よりもかなりブーストかかってます。前作の段階でオリヴァルト皇子を上回ってますからね……それから一年半経った彼女の活躍は、近いうちに見られることになります。


 
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