No.742342

紫閃の軌跡

kelvinさん

第55話 ご隠居

2014-12-08 06:56:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2828   閲覧ユーザー数:2522

 

~ノルドの集落~

 

「いやぁ、本当に助かったよ。」

「それほどでも。ところで、ガイウスさん達は戻ってきてないんですか?」

「ああ。そのままカメラマンの保護に行くと言ってまた出かけたんだよ。」

 

アスベル達が羊を連れて戻ってくると、その管理を任されているワタリが出迎えてくれ、そのまま柵の中に羊を入れることとなった。リィンやガイウス達の方は一足早く戻ってきた後にとんぼ返りする様な形で北部へ馬を走らせていったそうだ。

 

「まぁ、心配するような奴らでもないだろう。」

「確かにそうなのですが……どうしますか?」

「戻ってくるまで休息と行くか。何があっても動けるように。」

「そうですね。」

 

向こうの依頼が終われば、午後の課題全てをこなしたことになるのでひとまず各々休息することにした。ユーシスは少し仮眠をすると言って離れの住居に行き、リーゼロッテはプログラムの続きを……そして、アスベルとステラは交易所に来ていた。正確にはステラが買い物をしていた時に、物色していたアスベルがいたので、なし崩し的なものでもあるのだが。

 

「そういや、リィンとは色々あったみたいだが……エリゼやラウラとはちゃんと話は出来たのか?」

「えと……そうですね。リィンさんが寝た後で色々話したのです。お二方は苦笑いされていましたが。」

「となると、その身元も……ってことか。公に明かすつもりはないんだろ?」

「はい。元々社交界には兄共々顔を出すことはありませんでしたので。」

 

ステラ・レンハイム……本名セティアレイン・ライゼ・アルノール。そのことを知っているのは実の兄であるオリヴァルト皇子、そしてアスベルとシルフィア・セルナート、レイア・オルランド、それとエレボニア皇族のユーゲント皇帝、プリシラ皇妃、セドリック皇太子、エルウィン皇女、アルフィン皇女、それと現皇帝の実妹であるアリシア・A・アルゼイド侯爵夫人の十人しかいない。尤も、あの“鉄血宰相”や“怪盗紳士”あたりは知っていそうなことでもあるが。

 

「……似たような状況になってる俺が言えた義理じゃないけど、アイツは自分を省みないからなぁ……それが長所でもあるのだろうけれど。」

「否定できないというのが、何とも……」

 

どうやら、リィンの態度にやきもきしていたのはエリゼだけではなくラウラも同じだったらしく、それに便乗と言うかなし崩し的に巻き込まれる形ではあったが、ステラも“捧げた”とのことだ。普通であれば見ず知らずの人間に話すことではないのだが、ある意味家族ぐるみの付き合いをしていたアスベルにしてみれば、ステラも妹のようなものである。どうやら、エリゼが本妻ということで一応の決着を見たのだが……問題はその相手である弟弟子の方であった。

 

「リィンさんがあの調子だと、また増えそうな気がするのです……社交界でも噂になるほどですし。」

「……お人好し、ここに極まれり……ということかな。」

 

正直言って、両手で数える分で足りるのかという疑問は尽きないが……そこに関してはもう諦めた。何せ、アスベルも他人事ではない。実の父親がかつて“女泣かせ”と言われていた以上、気を付けなければならない。そう思っていた時に聞こえた、何かがぶつかるような鈍い音。どうやらステラもその音が聞こえたようで、買い物を急いで済ませた後、その方向へ向かう。その道中で同じような音を聞いたユーシスとリーゼロッテと合流してその現場に向かうと、柵にぶつかって止まっている一台の導力車があり、その傍には薬師のアムルがいた。

 

「アムルさん、大丈夫ですか!?」

「ああ、僕の方はね。」

「導力車の方も大きな損傷はなさそうですが……」

「……ちょっと、見てみるね。」

「リーゼロッテ?」

「ああ、任せた。」

 

エンジン部分から黒煙を上げているところに、リーゼロッテはその煙にせき込みながら、エンジンの中をチェックしていく。爆発はしないだろうが、一応アムルさんの手当ての方をステラが施すこととなった。すると、ちょうどカメラマンであるノートンを連れて戻ってきたリィン達と合流することとなった。

 

「アスベル、この状況は?」

「戻って来たのか。どうやら、トラブルっぽくてな。今リーゼロッテが見ている。」

「あの子が?……私も手伝うわ。」

「そうしてくれると助かる。」

 

リーゼロッテの手伝いをする形でアリサも原因究明のためにエンジンのチェックをしていく。

 

「リーゼ、そっちのほうは?」

「う~ん……結晶自体は大丈夫そうですが、回路が切れかかってます。」

「こっちもみたいね。……接触不良と配線の部分が切れかかってる。流石に専門の技術者を呼んだ方がいいと思うわ。」

「流石、ラインフォルトの人間と言うべきか。だが、リーゼロッテがそこまで詳しいとはな。」

「あはは……これでも、一応帝都科学院に在籍していたことがありますので。」

「ええっ!?」

「私達と変わらない歳で、ですか!?」

 

帝都科学院―――高等技術機関であり、ルーレ工科大学と並んで帝国の導力技術の発展を担っている場所の一つだ。導力学のエリート中のエリートしかそこへ入ることを許されていない場所に彼女がいたというのは、驚きと言うか疑念すら出るほどであった。

 

「フフ、流石はドライケルス帝所縁の学院の生徒達じゃな。」

 

そうして話していると、そこに姿を見せたのはイヴン長老とラカンであった。大事に至らなかったのは幸いだが、この集落にはこの導力車しかない。故障したままでは生活に支障をきたしてしまう……それを聞いたリィンが『何かできることはないか』と尋ねると、専門の技術者―――ここから北のラクリマ湖畔に住んでいる帝国人の“ご隠居”を連れてきてほしいとのことだった。その人物はかなり導力技術に詳しいので最適とも述べていた。

 

「……」

「アリサ?」

「い、いえ、何でもないわ。」

 

その様子からしてアリサはその人物に心当たりがあるような感じであるのだが……まぁ、その予測は“正解”であると言わざるを得ないが。ともあれ、その申し出も“実習”の一環と言うことで引き受けることとなった。その道中……一行は妙な魔獣をみかけた。

 

「?あれは……」

「ガイウス、あの魔獣……」

「ああ。少なくとも、ここらで見かけたことはない。いや……初めてみるタイプの魔獣だな。」

「巨大な石の人形……」

 

どう考えても、普通の魔獣の生態系からしても“この次元には顕現できないはずの魔獣”―――言うなれば、ストーンゴーレムとでも言うべきだろう。しかも、そのゴーレムの周りを覆っているのは黒き禍々しいオーラ。リィン達が動くよりも先に早く動いたのは、いつの間にか乗っていた馬から“消えた”アスベル―――次の瞬間には、ゴーレムの眼前に迫っていた。

 

「自然の摂理を曲げて顕現せし者、その在るべきところに還れ―――『焔刃烈破』」

 

振るわれるは、一つの刀に凝縮した焔の太刀。超高密度の焔によってあらゆるものを切断する“烈火”の奥義の一つ『焔刃烈破』。その刃を防ごうと腕を構えるも、その腕すら介することないように一刀両断し……縦に真っ二つになったゴーレムはそのまま力尽きて消滅した。それを見届けると、そのまま太刀を納めてリィン達の元へと戻った。

 

「済まない。時間を費やすわけにはいかなかったから手早く終わらせたんだが……どうした?」

「いや、流石だなと思ってさ。」

「頑張れば、あれぐらいの事は皆でもできるぞ?」

「どれぐらい努力しろと言うのだ、阿呆が。」

 

だが、気にかかる点はいくつかあった。本来の地・水・火・風の四属性しか働かない場所で、あの魔獣というか人形から感じたのは上位属性である時・空・幻の三属性。それと、4月の時に戦った“黒きオーラ”を纏ったグルノージャと同じようなオーラを纏っていたこと。どう考えても自然の摂理を逸脱しているものだ。

 

(となると、『古代遺物』―――それに該当する物はとなると、『アレ』だな。)

 

“星杯騎士”としてはそれを回収する必要があり、場合によってはその当事者を処刑する必要がある。だが、表沙汰にできない事由が『あり過ぎる』ので、最悪の場合は古代遺物そのものを破壊してでも止めることも考慮しなければならない。

 

「………」

「どうしたの、エマ?」

「い、いえ、ちょっと考え事をしてただけです。」

 

どうやら、先程のはエマでも予想外であったらしい。

その事はとりあえずおいておき、目的地であるラクリマ湖畔に到着した。ここに来るのが初めてとなるユーシス、ステラ、リーゼロッテは驚きの声を上げる。

 

「……まるで、お伽話の挿絵を見ているような気分だな。」

「そうですね。気分はさながら不思議な国に迷い込んだような感じです。」

「ここに来てからいろいろ感動させられますね。……それで、あの家が?」

「ああ。ご隠居が住む小屋だ。」

 

在宅しているか確かめるために近づいて様子を見てみる。湖の桟橋に係留されているボート、開いているガレージ……その様子を見たガイウスが在宅している可能性が高いということを述べた。そこから階段を上って小屋の扉をノックしているかどうか尋ねると、中から人の声が聞こえてきた。

 

「ごめんください!いらっしゃいますか!」

「おお、開いとるぞ。遠慮なく入ってくるがいい。」

「!」

「ア、アリサさん……?」

「どうかされたんですか?」

「……?えっと、失礼します。」

 

その声にアリサが目を見開き、それに対して不思議に思いながらもリィン達はその声に従う様な形でその小屋の中に入っていった。すると、そこに姿を見せたのは一人の高齢の男性。その姿を見たアリサは自分の中の予測が的中してしまったことに目を丸くしていた。

「あ―――――」

「……ご隠居。ご無沙汰しています。」

「お久しぶりです。まさか、ここに住んでいるとは知りませんでしたよ。」

「おお、ガイウス。半年ぶりくらいじゃの。アスベルのほうも元気そうで何よりじゃ。それとアリサ、直接会うのは5年ぶりになるかな?」

 

笑みを零すガイウスに苦笑を浮かべるアスベル。それに対して老人も笑みを零して答えると、アリサの方を向いて懐かしむような言葉をかけた。それを聞いたリィン達は一つの疑問を浮かばせてアリサの方を向いた。

 

「え。」

「も、もしかして……」

「お、お、お……お祖父様っ、どうしてこんな所にいらっしゃるんですかっ!?」

 

アリサは口をパクパクさせた後信じられない表情で声を上げた。何せ、こんな場所で自分の身内と出会うということを一体誰が予測できようか……その後、リィン達は席に座って改めて老人の話を聞き始めた。

 

 

~ラクリマ湖畔 小屋~

 

「フフ……まあ見当はついておるじゃろうがあらためて自己紹介と行こうか。グエン・ラインフォルト。そちらのアリサの祖父にあたる。よろしく頼むぞい。トールズ士官学院・Ⅶ組の諸君。」

 

「こ、こちらこそ。リィン・シュバルツァーです。」

「初めまして……エマ・ミルスティンです。」

「お初にお目にかかる。ユーシス・アルバレアだ。」

「ステラ・レンハイムと申します。」

「えと、リーゼロッテ・ハーティリーといいます。」

 

老人――――アリサの祖父であるグエンが名乗るとリィン達はそれぞれ自己紹介をした。

 

「ふむ、なかなか見所のありそうな面々じゃな。いや、しかし5年も経つと見違えるほど成長したの~。背はもちろんじゃが、出てるところも立派に出て。うむうむ、本当にジジイ冥利につきるわい♪」

「お、お祖父様!本当に……!今までどうしてたんですか!?す、全て放り出してルーレからいなくなって……!どれだけ私が心配したと思ってるんですかっ!?」

 

アリサは呆れた後グエンを睨んで声を上げた。アリサの言葉だけを聞けば、確かにそう言えるのも無理はない話だ。だが、グエンの方は別に行方不明になっていたわけではないとでも言いたげに説明した。

 

「一応、季節ごとには便りを出しておったじゃろう?お前がシャロンちゃんに渡した手紙もいつもちゃあんと読んでおるしな。」

「だ、だからと言って!……5年も前からここでずっと暮らしてたんですか?」

「うむ。もっとも1年中、暮らしておるわけではないが。1年の半分くらいは、帝国に戻ったり、大陸各地の知り合いの所に遊びに行っておる。」

「そう……だったんですか。」

 

ルーレを離れての悠々自適な生活―――ラインフォルト社を大きくし、今まで培ってきた導力技術の腕は、彼の生活の支えともなっているようであった。その言葉を聞いて納得と言うかある意味諦めたような感じでアリサは頷いた。

 

「それにしても、アスベル君と会うのは四年ぶりじゃな。その容姿なら引く手数多じゃろ。」

「再会して早々の言葉がそれですか……そういえば、博士から貴方が遊びに来たと言っていましたが。」

「何、友人の好じゃよ。エリカ君も相変わらずアルバートと取っ組み合いの繰り返しじゃ。ティータちゃんやダン君も大変じゃと思った。尤も、シュミットの奴は苦い顔をしていそうじゃが。」

「ははは……にしても、グエンさんは俺達の特別実習の事もご存じだったみたいですね?」

 

アルバートとエリカ、グエンとイリーナ……『似た者同士』であるということにはあえて触れないほうがいいと思ったアスベルであった。

 

「そ、そう言えば……」

「まるで俺達が来るのを待っていたような様子だったな。」

「もしかして“特別実習”の依頼を出したのですか?」

 

アスベルの疑問を聞いたエマは、グエンが自分達の事を知っているように言った事を思い出し、ユーシスは呆れた表情で苦笑するリィンと共に尋ねた。このような辺境でそのことを知っているというのは確かに疑問であった。

 

「まぁ、集落の運搬車が壊れたというのは偶然じゃが。それがなくとも、実習の期間中にお前さんたちが訪ねてくるだろうとは思っていた。イリーナの連絡にもあったしな。」

「!?か、母様と今でもやり取りをしてるんですか!?」

「必要最低限じゃがな。我が娘ながら、仕事(と娘の進展具合)が楽しくて仕方ないようだからの~。義理の息子共々じゃが、どこでどう育ったらあんな仕事中毒(親馬鹿)になるのやら。」

「………」

「アリサさん……?」

「………」

 

完全に縁を切ったわけではなく、必要最低限ながらも連絡を取り合っている祖父と母親……それに対してどこか納得いかないアリサの様子に気付いたステラは首を傾げ、流石にアスベルもアリサのほうを見つめていた。

 

「さて、コーヒーも飲み終えたしとっとと修理に向かうとするか。ガレージで工具を取ってくるから少し待っておるがいい。そうじゃガイウス。大岩魚が何匹か釣れたから持って行ってくれんか?」

「ええ、ありがたく。アスベル、手伝ってくれないか?」

「ああ。それぐらいは言わなくても手伝うけれどな。」

 

先に小屋を出たグエンとガイウス、そしてアスベル。その三人が出ていった後を見つめながら、リィン達は各々グエンの印象を述べていた。

 

「………RFグループ先代社長、グエン・ラインフォルトか。名前だけは知っていたが、ずいぶん軽妙な老人だな。」

「もう少しお堅い方かと思いましたが……そんなイメージが意味を成してませんでした。」

「そ、そうですね……飄々とされているというか。」

「えっと……親しみ安い方でしたね。」

「……ふう、いいわよ。別に気を遣わなくっても。趣味人で、飄々としててみんなから愛されているけど気まぐれでいいかげんで……5年前だって……」

「アリサさん……?」

「ううん、何でもない。私達も行きましょ。すぐに集落に戻るでしょうし。」

「ああ、そうだな。」

 

その後リィン達はグエンと共に集落に戻る事になり、グエンの希望によってグエンはアスベルの後ろに乗せてもらい、集落まで戻り始めることとなったのである。

 

 

忘れがちですが、アスベルの立場からすると“外法”なのですよね……<G>は。

この章と第六章はアスベルがやたら弄られます(事実)

 

ステラ(セティアレイン)とエルウィンのキャライメージですが、

ステラ→カグヤ(シャイニング・ブレイド)の髪と瞳の色がオリビエと同一。

エルウィン→エルウィン(シャイニング・ティアーズ)をアルフィン寄りに。

という感じです。

 

……この三章のどこかである人物絡みの外伝入れます。ほぼ私の想像から書くことになりますので、ご了承ください。

 

夢幻鏡全部手に入れて遊んでましたが……一つ言いたいことが。

ロイドのSクラ、何でメテオブレイカーじゃないんですかー!!(そっちかよ)

 


 
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