No.740842

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-12-01 12:17:27 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:730   閲覧ユーザー数:714

 

 

 

 story53 激闘!黒森峰戦!

 

 

 森から出てきた黒森峰戦車隊は、大洗を追撃しながら砲撃を慣行。

 

 

 途中でティーガーⅡが放った砲弾がⅣ号に飛んで行ったが、フェルディナントが間に割り込み、傾斜した戦闘室側面を斜めで砲弾を弾き飛ばす。

 

 

 大洗戦車隊は砲弾をかわしつつ、最初の目的地である207地点を目指す。

 

 

「全車輌!『もくもく作戦』です!」

 

「もくもく用意!!」

 

『もくもく用意!』 

 

『もくもくよーい』

 

『もくもく用意完了』

 

『もくもく準備完了!』

 

『準備完了!いつでもいけるぞ!』

 

『OK!後は合図だけネー!』

 

『いつでもいけます!』

 

『レオポンチームはいつでも!』

 

『ゾウチームもいけるよ!』

 

「クマも準備完了!」

 

 最後に如月の報告が終わるなり『もくもく始め!!』と西住の号令と共に各戦車の後部より煙幕が噴射される。

 

 

 それにより、大量の煙幕によって黒森峰側は視界を奪われ、大洗の戦車を見失っている。

 

「煙?忍者じゃあるまいし、小賢しい真似を」

 

 逸見は愚痴りながらも、「撃ち方用意!」と言おうとしたが、『全車撃ち方やめ!』とまほに止められる。

 

「一気に叩き潰さなくて良いのですか?」

 

『下手に敵の作戦に乗るな。無駄弾を撃たせる気だろう。弾には限りがある。次の手を見極めてからでも遅くは無い』

 

 決勝戦では20輌まで参加可能となり、黒森峰はもちろん20輌投入してきている。しかし持てる砲弾は参加車輌数に応じて設定される。それにより、20輌の戦車を参加させている黒森峰側の戦車一輌の砲弾携行数は少ない。

 それに対して大洗は全部で14輌。戦車一輌が携行出来る砲弾の数も黒森峰側より多い。黒森峰側には余裕は無いが、大洗には多少の余裕はある。

 

「逃がすもんですか!」

 

 と、逸見は砲手に主砲の横に付けられている同軸機銃を発射させ、煙幕の中に潜む大洗の戦車の位置を割り出す。

 

 

「敵、十一時方向に確認!」

 

『あの先は坂道だ。向こうにはポルシェティーガーとフェルディナントが居る。足が遅いからそう簡単には登れまい。十分に時間はある』

 

「・・・・・・」 

 

 逸見は煙幕が晴れるのを待ちながら、十一時の方向を睨む。

 

 

 

(開始早々煙幕か)

 

 同じ時、如月の読み通り、レーヴェに乗る斑鳩はキューポラの覗き窓から煙幕を凝視する。

 

(まぁ私たちと正面からやり合うのは愚の骨頂だ。そこまで馬鹿じゃないか)

 

 まぁそれは別に良しとして、斑鳩はあの時の西住の事を思い出す。

 

(あそこまで心を折ったって言うのに立ち直るとか、意外とメンタルは硬いようだな。てっきり豆腐並みに軟いと思っていたが・・・・これだったら、完全に心を折りに掛かれば無駄が省けたものだったな)

 

 軽々とそんなえげつない事を考えていると、煙幕が晴れる。

 

 

「・・・・は?」

 

 最初に目に入った光景に、斑鳩は思わず声を漏らす。

 

 なぜなら、足が遅く重いポルシェティーガーとフェルディナントを、味方の戦車がワイヤーで牽引して引っ張って、既に坂道の頂上付近まで登っていた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 状況を説明すると、ポルシェティーガーをⅣ号、M3、Ⅲ突がワイヤーで牽引して引っ張り、フェルディナントを五式、四式、三式、九七式がワイヤーで牽引して引っ張り上げていた。

 

「さすがに重い・・・・」

 

「レオポン!!ダイエットするぜよ!!」

 

「・・・・どっしりしたのが、レオポンのいいところだ」

 

 Ⅳ号の冷泉、Ⅲ突のおりょうはポルシェティーガーの重さに愚痴を溢す。

 

 

 

「あぁっ!!おっもーい!!」

 

 五式の早瀬もまた、大きな声で愚痴りながらもエンジン全開で引っ張る。

 

「四輌がかりでもこれほどとはな」

 

「大体P虎より重い博士を何で日本戦車で引っ張らないといけないんだ!」

 

「そもそもチハの馬力じゃ引っ張っても意味無い気がする」

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「凄い事考えるわね・・・・あいつ」

 

「そうね」

 

 観客席の近くに『九四式六輪自動貨車』を置き、近くに椅子を置いて座り、モニターから試合を神楽と中須賀は唖然としながら観賞していた。

 

「そもそも、フェルディナントを日本戦車で引っ張るって、無茶ありすぎな気が」

                 ・・・・

「五式や四式ならまだしも、三式とチハたんじゃ少し荷が重いわね」

 

 日本戦車の大半(と言うか殆ど?)はさほど馬力が無いので、戦車を牽引するのには向いていない(そもそも想定なんかされて無い・・・・はず)。

 

「そうですよね。どっちかって言うと逆の方が良い気が・・・・・・ん?」

 

 ふと、中須賀はある事に気付く。

 

「早乙女さん・・・・今――――」

 

「・・・・気のせいよ」

 

 無表情で神楽は返事を返す。

 

「いやでも「気のせいよ。いいわね?」・・・・アッハイ」

 

 続けて聞こうとしたらズイっと無表情且つ黒いオーラを纏った神楽が迫ってきて、聞くのをやめた。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「次行きます!『パラリラ作戦』です!!」

 

『パラリラ作戦!了解!!』

 

 

 と、先頭を走っている八九式、ルノーが煙幕を出しながら左右に分かれると、ジグザグに走行する。

 それにより、煙が広範囲に広がっていく。

 

 

「くぅ!!パラリラ言うたら俺達の専売特許だろうが!!」

 

 四式の車内で大声で二階堂はなぜか悔しそうな表情を浮かべ、そんな事を口にする。

 

「リーダー。別にこんな時に言わなくたっても」

 

 少し呆れた様子で中島は言葉を漏らす。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「意外に煙が広範囲に広がるな」

 

 キューポラハッチを開けて斑鳩は上半身を出し、広く広がる煙幕を双眼鏡を覗いて見る。

 

(風も風で全く吹いていねぇ。天候は向こうに味方しているか)

 

 双眼鏡を下ろし、軽く鼻を鳴らす。

 

『全車!榴弾装填!』

 

 ヘッドフォンよりまほからの指示が届くと、斑鳩は車内に戻り、ハッチを閉める。

 

「装填!」

 

 レーヴェの装填手は榴弾を砲に装填し、報告する。

 

 

『撃てっ!!』

 

 指示と同時に各車輌の砲から榴弾が放たれ、斑鳩のレーヴェと105ミリ砲搭載型ティーガーⅡ二輌からも轟音と共に榴弾が放たれる。

 

 榴弾は煙幕の中に入って坂道に着弾すると同時に爆発を起こし、爆風で煙幕を吹き飛ばす。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(開始早々、面白い動きを見せるわね)

 

 モニターに映るその光景に、神楽は少なからず楽しそうに見ていた。

 

「煙幕を張って最初から逃げるって。まぁ、それが正しいか」

 

「そうね。真正面から黒森峰と戦っても、大洗に勝ち目は無いわ」

 

 ただでさえ相手の戦車は大戦時中名を轟かせたものばかり。それに対して大洗は強力な戦車はあっても、寄せ集めの様な構成であるが為に、真正面から戦える性能は無い。

 

「・・・・でも、これからどうするって言うの?」

 

 と、車より出てきた早乙女家の家政婦が持ってきたコーヒーが入ったカップを二人は受け取ると、少し飲む。

 

「私なら、反撃の場へ相手を誘導する。そして逃走経路上に伏兵を忍ばせる、ってところかしら。そしてそこを通る黒森峰に不意打ちを掛け、少なくとも一輌撃破ないし、二輌損傷、って所かしら」

 

「・・・・・・」

 

「恐らく、西住みほは同じ事を考えるはずよ」

 

「それは向こうだって同じ事を考えて、対策はしているはずじゃ」

 

「当然でしょうね。でも、相手はどこに伏兵が潜んでいるかは分からない。それがすぐか、しばらくしてかは、判断のつけようが無い」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「うっひひひゅ~・・・・」

 

 その頃、茂みと林の中にカメチームのヘッツァー改が息を殺して潜み、黒森峰を待ち構えていた。

 

 

 少しして黒森峰の戦車隊がヘッツァー改の前を横切り、タイミングを見計らい、角谷会長は引き金を引いて砲弾を放つ。

 

 一直線に砲弾はヤークトパンターの足回りに着弾し、履帯と転輪を破壊する。

 

 河島はすぐに次弾を装填し、小山は次の目標に車体を旋回させ、黒森峰側の戦車が砲塔を旋回させる中、もう一輌のヤークトパンター一輌に向けて砲弾を放ち、履帯を破壊する。 

 

「会長!二輌履帯破壊です!」

 

「にひ。河島~当たったぞ~」

 

「分かってます!」

 

 角谷会長はピースサインを河島に見せるが、38tの時よりもかなり重くなった砲弾に苦戦してそれど頃ではなかった。

 何より結局最後まで一発も命中弾を当てれなかった河島への皮肉が見て取れる気がする・・・・

 

 すぐに会長はスコープを覗くと、黒森峰の戦車はこちらに向かって来ようとしていた。

 

「・・・・二輌が限界か~。撃破したいなぁ~」

 

 そう呟きながらも、ヘッツァー改はすぐに撤退する。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「くっ!あのチビィッ!」

 

 黒森峰側はヘッツァー改撃破の為に、砲塔を先に車体も向けようとしていた。

 

 

 ドガンッ!!

 

 

 すると突然パンターⅡ一輌の砲塔右側面に何かが着弾し、砲塔より白旗が揚がる。

 

「っ!?」

 

 逸見は驚きつつ撃破されたパンターに目をやる。

 

『申し訳ございません!16号車やられました!』

 

『こちら10号車!三時の方向に発砲煙を確認!』

 

「ならさっさと撃破しなさい!」

 

『それが、こちらの砲では射程外です!』

 

 10号車からの報告を聞き、逸見はハッチを開けて身体を出し、三時の方向に向かって双眼鏡を覗く。

 

「な、何なのよ、この距離は・・・・・・?」

 

 逸見が驚くのも無理は無かった。

 

 

 なぜならば、双眼鏡を覗いても、そこに居た戦車はゴルフボール程度かそれ以下の大きさでしか見えなかった。

 推定でも3000m以上は確実にある。

 

「じ、自走砲?ま、まぐれよ。あんな遠くから撃ってそう簡単に当たるはずが――――」

 

 するとその戦車は砲身を上に上げ、砲撃をする。

 

『敵戦車発砲!!』

 

「ほ、放って置きなさい!あんなに離れていて弾がそう何度も当たるはずが――――」

 

 

 しかし逸見が言い終える前に砲弾はパンターⅡの車体正面と左側履帯の間辺りに着弾し、パンターⅡは動きを止める。

 

「っ!?」

 

 その光景に逸見は目を見開き、驚きを隠せれなかった。

 

 

(あんな距離から直撃させるとは・・・・相当な狙撃手が居たものだな)

 

 撃破されたパンターと履帯が破壊されたパンターⅡを見ながら、斑鳩は内心で呟く。

 

(だが、よくあんな急造戦車があったもんだ)

 

 と、内心で呟くと、ティーガーⅡの至近に砲弾が着弾し、履帯が破損して動きが止まる。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「豹の二、撃破。次弾装填!」

 

「了解!祥子!」

 

「はいはい」

 

 瑞鶴と赤城は砲塔後部の扉を開けて外に出ると、車体後部に繋がれているリヤカーに積まれている大きな砲弾を二人掛かりで持ち上げ、すぐさま運んで砲に二人で装填し、閉鎖機が水平に閉まる。

 

「装填完了!」

 

「・・・・・・」

 

 瑞鶴の報告を聞くなり、篠原は神経を研ぎ澄ませてスコープを覗く。

 

 黒森峰の戦車はすぐさま移動を開始するも、篠原は右手に持つハンドルを回して砲を右へ旋回させ、左手に持つハンドルを回して砲身を上に上げる。

 

 彼女の頭の中で敵の戦車の移動先の予測と、どの角度で撃てば当たるかが頭の中で瞬時にイメージが浮かぶ。

 

 イメージが固まると、足元の撃発ペダルを踏み、砲口から轟音と衝撃と共に砲弾が放たれ、閉鎖機が開いて空薬莢が排出されると、赤城と瑞鶴はすぐに薬莢を一瞬拾い上げてリヤカーに放り投げる。

 

 放たれた砲弾は弧を描いて飛び、そのまま一直線にパンターⅡの車体正面と左側履帯の間辺りに着弾し、パンターⅡは動きを止める。

 

「少しずれたか。次!」

 

 すぐに瑞鶴と赤城は砲弾を持って砲に装填し、篠原が次の目標に向けて砲を左に旋回させつつ砲身を上げ下げして照準を定め、撃発ペダルを踏み、轟音共に砲弾が放たれる。

 放たれた砲弾は弧を描いて飛んで行き、ティーガーⅡの至近に着弾する。

 

「王虎の履帯破損を確認!」

 

「よし。第一目的は達した。次のポイントに移動する」

 

「了解!」

 

「瑞鶴。隊長と副隊長に報告。『狐は豹の二を狩り、王虎と豹の二の足を奪った』とな」

 

「了解!」

 

 原田はその場から戦車を移動させてその場から離れ、次のポイントへ向かう。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 その頃207地点の山岳地帯の頂上に陣地を形成した西住達は黒森峰を待ち構える。

 

「守りは固めたぞ」

 

 西住達はここにあった戦車壕跡を使い、迎撃体勢を整えていた。

 

『了解!全車砲撃準備をしてそのまま待機!』

 

 西住の指示で、各戦車は砲塔をや車体を旋回させ、いつでも砲撃が出来るように待機する。

 

 

 

 

『全車停止!』

 

 大洗が立て篭もる山岳へ黒森峰も麓で停止し、まほはハッチを開けて上半身を出し、双眼鏡で山の頂上に陣地を構築している大洗を観察する。

 

 

 両者しばらく睨み合い、観客席と各所でそれぞれ試合を見ている各学校の者達が見守る中、風の音が異様に大きく会場に響き渡り、草々が音を立てて靡く。

 

 

「・・・・想定よりも早く陣地を構築したな(やはり、侮れんな)」

 

 双眼鏡を下ろして呟くと、喉の咽喉マイクに手を当て「囲め」と指示し、各車輌は山を囲うように展開しながら山を登っていく。

 

 

「・・・・砲撃始め!」

 

 西住もまた黒森峰の行動を確認し、指令を出す。

 

『砲撃始め!!』

 

『砲撃始め!!』

 

 復唱の後に一斉に砲撃が始まり、黒森峰の戦車へと襲い掛かる。

 

 

 

 Ⅲ突より放たれた砲弾は一直線にパンターの車体上部に着弾し、煙を上げながら砲塔から白旗が揚がる。

 

「やった!」

 

 一輌撃破にエルヴィンは喜ぶも、すぐに気持ちを切り替え、制帽を被り直す。

 

「次!一時のラングだ!」

 

「ラングってどれだ?」

 

 Ⅲ突が次の目標に向けて旋回する中、左衛門座がラングを探していると「ヘッツァーのお兄ちゃんみたいなやつ!」と言う。

 

 

 その間に五式はパンターに狙いを定め、鈴野は引き金を引いて轟音と共に砲弾を放ち、閉鎖機が開いて薬莢が排出されると同時に装弾機に乗せられていた次弾が装填されると、如月は抱えていた砲弾を装弾機に乗せる。

 発射された一秒後に鈴野は引き金を引いて二発目の砲弾を放ち、更に三発目の砲弾を連続して発射した。

 

 最初の一発はパンターの車体下部に着弾し、二発目も一発目と同じ箇所に着弾し、三発目は右側履帯に着弾して破壊し、パンターは動きを止める。

 

「三連射はさすがに堪えるな」

 

 砲身の冷却中に、砲弾を装弾機に乗せて薬室へ装填し、次弾を装弾機に乗せる。

 新品のジャイロスタビライザーのお陰で、鈴野の命中精度がほぼ確実な物になっているのも凄い所だ。

 

 

 フェルディナントとポルシェティーガー、八九式、九七式から放たれる砲弾が各戦車の至近に着弾する。

 

 

 直後にⅣ号から放たれた砲弾が一直線に先ほど五式に履帯を破壊されたパンターへと飛び、砲塔基部に着弾して砲塔より白旗が揚がる。

 

 

「これで二輌。さっきのキツネチームの報告を含めれば三輌撃破か」

 

「それに対してこっちはまだ撃破車輌がありません。これは幸先がいいですね」

 

 坂本は尾栓を開けて薬莢を排出すると、次弾を装填して尾栓を閉める。

 

「あぁ。だが、相手が相手だからな。油断は出来んぞ」

 

「分かっています」

 

 と、坂本がスコープを覗き込んだ時だった。

 

 

 登ってくるティーガーの前にヤークトティーガーが入ってくると、そのままティーガーを守るように前進する。

 

 五式と四式と三式、Ⅲ突、九七式から砲弾が放たれるが、強固な200ミリ以上あるヤークトティーガーの前面装甲に阻まれ、火花を散らして弾かれる。 

 

「硬い・・・・」

 

「やはり、狩虎の前面装甲の前では、歯が立たないか」

 

 舌打ちをすると、黒森峰側の戦車が一斉に砲撃を行い、大洗とは段違いの火力が襲い掛かる。  

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「何て言う火力なの」

 

 大洗が立て篭もる山岳から離れた丘に、キツネチームは待機し、瑞鶴が火山の噴火の様に砂煙が上がっている山を双眼鏡を覗いて居た。

 

「さすが黒森峰。火力に物を言わせての戦術ですね」

 

 操縦席の覗き窓を開けて、原田は双眼鏡を覗く。

 

「・・・・・・」

 

 篠原はスコープを覗き、既に狙いを定めて次の作戦まで待機している。

 

 

「慢心、油断・・・・ダメ、ゼッタイ」

 

 と、握り飯を食べた赤木は立ち上がって、噴火が起こっているように見える山を見つめる。

 

「い、いきなり何言い出してんのよ?」

 

「今の黒森峰を見た時の状態よ。どこかまだ私たちを舐め切っている」

 

 その表情はいつもの食いしん坊な彼女とは異なり、真剣そのものであった。

 

「それに・・・・慢心、油断」

 

 すると、どういうわけか赤城の表情が青ざめる。

 

「あぁ・・・・あの時の私の様に・・・・」

 

 震えた声を出し、ガクガクと震え出す。

 

「まだあの時の事引きずってんの!?てか、何自分で言ってトラウマスイッチが入ってんのよ!」

 

 ガクガクと青ざめて震える赤城に瑞鶴はどこから出したのか、ハリセンで張り倒す。

 

「・・・・・・」

 

 

 

『キツネチームの皆さん!』

 

 と、赤城をハリセンで張り倒した瑞鶴が付けているヘッドフォンより西住の声が届く。

 

『これより「おちょくり作戦」を開始します!キツネチームの皆さんも作戦を開始してください!』

 

「了解!聞いての通りだ、作戦開始!」

 

 瑞鶴はすぐに伝えると、車体後部のリヤカーに移動し、赤城と砲弾を持ち上げて砲に装填する。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 同じその頃、ヘッツァー改に履帯を破壊されていた黒森峰のヤークトパンターは本隊と合流を急いでいた。

 

「ふぅ・・・・間に合ったぁ」

 

 何とか間に合いそうと安堵した時、後ろからエンジン音がする。

 

「あぁ!?」

 

 そこには先ほど履帯を破壊したヘッツァーが居た。

 

「またあんな所に!七時の方向!例のヘッツァーよ!」

 

 すぐに方向転換させようとするが、ヘッツァーは先に砲撃し、またヤークトパンターの履帯を破壊した。

 

「うわぁぁ!?直したばっかりなのに!!」

 

 しかも結構の範囲を破壊されており、修理はそう優しいものにはならない。

 

「このぉっ!うちの履帯は重いんだぞぉぉぉ!!」

 

 走り去っていくヘッツァーに向けて彼女は文句を飛ばした。

 

 

 

 

「とーつげきー!!」

 

 干し芋を食べながら、角谷会長は黒森峰の戦車隊を指差す。

 

 黒森峰は立て篭もる大洗の戦車に集中して、後方から接近してくるヘッツァーに気付いていない。

 

 

「こんな凄い戦車ばかりの所に突っ込むなんて、生きた心地がしない・・・・」

 

「今更ながら、無謀な作戦だな。後方支援があるとは言えど」

 

 砲弾を持つ河島は息を呑む。

 

「あえて突っ込んだ方が安全らしいよ」

 

 と、とある本を見ながら角谷会長が言う。

 

 

 

 ヘッツァーがパンターとエレファントの間に入ると、黒森峰側は慌てた様子でヘッツァーに砲を向けようとするが、鼠の如く這いずり回っているせいで黒森峰側は狙いが付けれなかった。

 何より、戦車と戦車の間が狭いとあって、下手すれば同士討ちの可能性が高かった。

 

(小賢しい鼠が)

 

 焔は内心で吐き捨てるように呟くと、無駄な行動を起こすなと乗員と他の自分の傘下に入っているメンバーに伝えると、ヘッツァーに向けて各戦車は砲撃を行う。

 しかし外れた砲弾が味方戦車に当たりそうになったり、同士討ちを構わずに砲撃をする。

 

『こちら17号車!自分がやります!』

 

 と、ラングがヘッツァーに砲を向けようと車体を旋回させるが、その直後に車体側面をⅢ突が放った砲弾が直撃し、白旗が揚がる。

 まぁ旋回砲塔を持たない戦車が砲を向けようもんなら弱点を自ら晒しているようなもの。

 

『申し訳ございません!やられました!』

 

『私が!』

 

『待て!Ⅲ突と五式、四式、三式が向かってくるぞ!』

 

 その間にもⅣ号、Ⅲ突、五式、四式、三式、M3が接近すると、一斉に砲撃し、黒森峰の戦車の周辺に着弾した。

 

 それにより、黒森峰側は隊列が完全に崩れ、無線では慌てふためいたり文句の言い合いが起きた。

 

 更に黒森峰の後方離れた場所に居るキツネチームの十二糎砲戦車より放たれた砲弾がパンターの車体後部に着弾し、白旗が揚がる。

 そのままティーガーⅡがさっき撃破されたパンターと衝突し、慌てふためいてか、とっさに前進する。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おもしろーい!!次から次へとよくこんな作戦を思いつくわね!!」

 

 と、ノンナに肩車されたカチューシャは子供の様にはしゃぎ、落ちそうになるも何とかノンナに頭にしがみ付いて留まる。

 

「これで、15対14ですね」

 

 ノンナは現在の戦力差を口にする。

 

(黒森峰の生真面目さが、裏目に出ましたね)

 

 完全に体制が崩れた黒森峰を見て、ナヨノフは内心で呟く。

 

 

 例え頭が良くても、技量が高くても、臨機応変に柔軟に対応できるかと言うとそれは別の話になる。

 現に教本通りに鍛え上げられた黒森峰は、想定外の動きに対応しきれず、更に追い討ちとあってまともに動きが取れずにいた。

 

 

 

「これは・・・・」

 

 今までの試合には見られなかった黒森峰の慌てっぷりに、中須賀は何度も瞬きをする。

 

「教本通りの教えが、大きく裏目に出たわね。堅苦しい学校故の弱点ね」

 

 軽く鼻で笑うと、カップのコーヒーを少し飲む。

 

「・・・・突発的な事態にマニュアルが崩れて、総崩れという事ですか」

 

「えぇ。真面目過ぎるのも、考えものね」

 

「・・・・・・」

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「役立たず共が。たかが弱小校の鼠一匹も殺せないか」

 

 苛立った様子で喋ると、105ミリ砲搭載型ティーガーⅡとレーヴェより砲弾が一斉に放たれ、ヘッツァーの周囲に着弾するが、その内一発はヤークトティーガーの車体側面を掠る。

 

 続けてレーヴェの主砲より轟音と共に砲弾が放たれ、ヘッツァーの近くに着弾するも撃破には至らなかった。

 

 その直後に山の上を陣取っている大洗の五式、四式、三式が一斉に砲撃をし、黒森峰の戦車数台に砲弾を着弾させる。

 

 

 すると後退中のエレファントのすぐ後ろにキツネチームの十二糎砲戦車が放った榴弾が落ちると爆発を起こし、そこに大きな窪みが現れた。

 そのままエレファントは穴に後ろから滑り落ち、そのまま身動きが取れなくなった。

 

 

 

「右側がぐちゃぐちゃだよ!!」

 

 ヘッツァーによって体性は完全に総崩れとなり、最も右側が手薄になっている。

 

「右方向に突っ込みます!全車突撃!!」

 

『全車突撃!』

 

 西住の号令と共に如月が復唱し、全車輌は右方向へと突撃を慣行する。

 すぐにポルシェティーガーとフェルディナントがⅣ号の前に出ると、ティーガーⅡとラングより轟音と共に砲弾が放たれるが、砲弾はポルシェティーガーの強固な装甲に阻まれ、火花を散らして弾かれる。

 

 そのまま勢いよく戦車と戦車の間を突破し、最後尾のルノーの車体後部より煙幕が放たれ、そのまま煙幕に隠れて一気に離脱した。

 

『やっほー!!』

 

『やりました!』

 

『やれやれ。スリル満点だな』

 

 

「うっひゃー!肝が冷えましたよ!」

 

「相変わらず西住は奇想天外な作戦を考える。だが、それが黒森峰には、想定以上の効果を発揮しているな」

 

 次の目的地点を目指し走行している中、早瀬が息を思い切って吐くように言葉を漏らす。

 

「だが、パンターはこれで全滅。戦力の差も縮まった」

 

 ヤークトパンター二輌とパンターⅡ及びティーガーⅡ一輌は合流までに時間が掛かるとして、エレファントはキツネチームの砲撃によって出来た窪みにはまり、脱出はそう容易な事ではない。

 

 

 すると五式の後ろを走っているポルシェティーガーの車体後部より煙が上がり、徐々に速度が落ちていく。

 

「ポルシェティーガーが・・・・まずいな」

 

「うわぁ・・・・こんなタイミングで・・・・」

 

 

 

「・・・・・・!」

 

 如月がキューポラの覗き窓から後方を見ると、一瞬だが、ティーガーⅡ一輌が追撃していた。

 

「たかが一輌で追撃か。まぁ・・・・少し実験台になってもらうか」

 

 と、如月は砲弾ラックより通常砲弾とは、榴弾とは異なる砲弾を取り出す。

 

「良いのですか?今使っても?」

 

 鈴野は装填している砲弾を薬室から排出させると、装弾機を一旦後ろに下げて、取り出した砲弾を薬室に装填する如月に聞く。

 

「どうせ後で分かる事だ。今使っても問題は無い。それに、どんな反応を見せるかも、確認しなければな」

 

「・・・・それもそうですね」

 

 鈴野は砲塔を旋回させて主砲を真後ろに向ける。

 

 

 

「逃がさないわ!目標!一時方向フラッグ車!」

 

 ティーガーⅡに乗る逸見は大洗を追撃し、Ⅳ号に狙いを定める。

 

「っ!敵五式が列を離れ、こちらに主砲を!」

 

 砲手は列から離れた五式がこちらに主砲を向けているのに気付く。

 

「あの戦車の火力でこのティーガーⅡの装甲を抜けるはずが無いわ。放っておきなさい」

 

 と、砲弾が装填させるのを確認してから、キューポラの覗き穴を覗くと、その直後に五式が発砲した。

 

 

 ベチャッ!!

 

 

「なっ!?」

 

 その瞬間突然覗き窓が真っ暗になる。

 

「車長!?スコープが真っ暗に!?これじゃ狙いが!?」

 

「操縦席も覗き窓が真っ暗に!?」

 

 と、砲手と操縦手から同じ報告が来て、逸見はとっさにハッチを開けて外を見ると――――

 

 

「な、何よこれ!?」

 

 最初に目に入った光景に驚きを隠せれず、声を上げる。

 

 なぜなら、ティーガーⅡの砲塔と車体前面に、黒いペイントがへばり付いていた。そしてキューポラに手を付いた逸見の手に黒いペイントが付着する。

 

 先ほど五式が放ったのは黒い塗料が入ったペイント弾で、粘度が強いので走行中に下へ垂れ落ちにくいが、一応後後の事を考えて水性である。

 

 操縦席の覗き窓もまた黒いペイントで塞がれてしまっているため、ティーガーⅡはそのまま地面に半分埋まっている岩に右側の履帯が乗り上げ、その影響で履帯を繋ぐピンが折れて履帯が外れ、動きを止めた。

 

 

 

 

「効果は覿面だな」

 

 キューポラの覗き窓を覗き、前面が真っ黒になっているティーガーⅡが岩に乗り上げ、動きを止めたのを確認する。

 

「ドイツ戦車が日本戦車にあんな事されたら、さぞかし悔しいでしょうね」

 

「間違いないな」

 

 これで効果があれば、後の作戦では効果を十分に発揮してくれるだろう。

 

 

 

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァッ!?なんて事してくれたのよ!!」

 

 鈴野の言う通り、逸見は前面黒ずみのティーガーⅡを目の当たりにして、発狂していた。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 そうして黒森峰と距離をだいぶ空け、西住達は川の前で停車していた。

 

 

 しかし川は一昨日と昨晩の大雨の影響か、茶色く濁って増水し、流れが速くなっていた。

 

 

「だいぶ黒森峰と引き離したな」

 

『はい』

 

 如月は無線で西住と話し合っていた。

 

「市街地への最短ルートは・・・・・・ここを渡るしかないな」

 

『そうですね。上流にはレオポン、下流にはアヒルさんで進んでいきましょう』

 

「軽い戦車が流されないようにするんだな。了解した」

 

 そうして西住と如月は各戦車に川を渡る事を伝え、隊列を指示する。

 

 

 そうして左から八九式、九七式、三式、M3、ルノー、Ⅲ突、Ⅳ号、四式、五式、ポルシェティーガー、フェルディナントに並び替えると、増水した川へと入水する。

 

 車体は揺れていたが、各車輌は順調に川を突き進んでいった――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――だが、事はそううまく順調に進むものではない・・・・

 

 

 突然M3が川の中央で停止した。

 

「っ!M3が・・・・!」

 

 キューポラの覗き窓からウサギチームのM3が停止したのに如月が気付く。

 

『全車停止してください!ウサギチームのM3がエンストを起こしました!』

 

「っ!」

 

 その瞬間如月は背筋に冷たいものが突き抜けるような感覚が走った。 

 

 

 

 


 
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