No.738962

紫閃の軌跡

kelvinさん

第45話 とある貴族生徒のロクでもないフラグ

2014-11-23 09:54:28 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3145   閲覧ユーザー数:2841

~トールズ士官学院 グラウンド~

 

そして、『実技テスト』の時間。サラは今回の中間試験の結果にご満悦のようであった。

 

「いやぁ~……あたしですら驚きを通り越したわ。まさかの平均900点越えだなんて……しかも、上位10人中9人がⅦ組だったもの。あの教頭の表情を見ただけでも爽快だったわ。」

「別にそのために頑張ったわけじゃないですけれど。」

「というか、教官のそれは半分以上が教官自身の問題ですよね?」

「まぁ、そう言うな。」

「まったく、あのちょび髭オヤジ……大体、人のプライベートに散々口出ししておいて……おまけに婚期の事まで言われる始末よ!教頭風情に別に心配される覚えはないわよ!!」

「教頭“風情”って……」

「……教官が暴れない程度に、酒でも贈っておくか?」

「余計暴れる未来しか見えないんだが……」

 

事情が事情とはいえ、サラ教官の言い分もご尤もである。とはいえ、そう言われる原因を作っているのは他ならぬ教官自身なのだが、敢えて口に出すことは避けた。

 

そんなこんなで気を取り直してサラ教官は『戦術殻』を呼び出す。それを見たフィーとリィンは先月の実習で見た“白い物体”に似ているといい、それを聞いたラウラが尋ねるも、『こっちのこと』といってそれ以上喋ろうとせず、それをラウラが睨んでいる状況であった。何はともあれ、『実技テスト』を始めようとした時、

 

「―――フン、面白そうなことをしているじゃないか。」

 

その声の方角―――ここから見て階段奥側に立っているのは貴族生徒。見るからに1年Ⅰ組の生徒だということはすぐに解った。何せ、男子生徒四人に女子生徒二人……女子の片割れはフェリス・フロラルドであり、男子生徒の一人は<五大名門>の一角であるハイアームズ侯爵家の三男、パトリック・T・ハイアームズであった。何やら一波乱ありそうな予感……階段を降りてきて近づくパトリックを中心とした貴族生徒。これにはサラ教官も不思議に思い、尋ねた。

 

「あら?君たちの武術教練は明日のはずなんだけれど……」

「いえ、トマス教官の授業が自習となりましてね。折角なので、クラス間の“交流”でもしようかと思いまして参上しました。最近、目覚ましい活躍をしている<Ⅶ組>を相手にね。」

「剣を抜くってことは……」

「実戦形式の練習試合、ということで理解していいんだな?」

 

そう言ってパトリックは自らの得物―――騎士剣を抜く。それを見たエリオットは驚き、そしてそれでパトリックがやろうとしていることを見抜くようにリィンが問いかけた。

 

「察しがいいじゃないか。そのカラクリ相手もいいが、たまには人間相手もいいだろう。真の“帝国貴族の気風”を示してあげるためにもね。」

 

……要するに、このままでは帝国貴族のプライドが許さない、ということだろう。せめて武術ではⅦ組には負けないとでも言いたいのだろう……だが、彼等は“実戦経験”と“模擬経験”では大きく違う点に気付いているのだろうか。まぁ、言わぬが花という奴だ。この提案にはサラ教官も賛同し、『戦術殻』をしまいこんだ。

 

「実技テストの内容を変更―――Ⅰ組とⅦ組の模擬戦とする。戦闘は4対4の試合形式、道具やアーツの使用は自由とするわ。」

 

ともあれ、メンバーを選ぼうとするのだが……何せ、貴族の……<五大名門>の御曹司だ。面倒な理由を付けて絞ろうとする可能性があったので、ルドガーがメンバーを言った。

 

「こっちはリィン、エリオット、マキアス、ガイウスの四人でいいじゃないのか?」

「どうしてですか?」

「……貴族の気風、ということは間違いなく男性を選ぶように仕向ける。で、ユーシスは<五大名門>があるから除外しろとか言いそうだし、俺やアスベルは適当に理由を付けてくるだろう。アスベルのほうは“リベール”という理由があるからな。そうなると、リィン、エリオット、マキアス、ガイウスの四人となるわけさ。」

「それを言ったらリィンはどうなるの?」

「……多分、問題ないと思う。(ここでリィンを除外してルドガーなんか入れたら、逆に憐れなことになるぞ)」

「え?」

 

アスベルの言葉通り、その四人とパトリック達が対戦することとなったのだが……ユーシスが言うだけの実力は備えていたが、魔獣のみならず人間とも対戦する経験を持っていたリィン達が一枚上手……一枚どころか十枚以上上手だった。

 

『リィン、ガイウス!アーツが来るよ!!』

『解った。はあああっ!!』

『体勢が崩れた!……マキアス!!』

『任せてくれたまえ!!』

 

先々月の“特訓”で、幅広く視野を持つことを鍛えてきたエリオット……そして、その視野は味方に対する有効な対処を促すとともに、敵からの脅威を少なくすることにも繋がっている。それはマキアスも同じで、先月の事も踏まえて冷静に物事を見つめる力を磨きつつあった…そして前衛組であるリィンとガイウスの成長…それと、ARCUSの戦術リンクの『ラッシュ』や『バースト』まで駆使し、一度も危機に瀕することなく勝つことが出来た。

 

「―――そこまで!勝者、“Ⅶ組”代表!」

「やった!」

「流石ですね。」

「まぁ、及第点だな。」

「手厳しいな、ユーシスは。」

 

まぁ、B班の方でもA班ほどではないにしろそれなりに経験を積んできたおかげか、苦戦と言えるほどのものでもなかった。

 

「……やったか」

「はぁ……疲れた。」

「どうだ、これが僕達の実力だ!!」

「(最近、アスベルと手合わせするようになってから疲れをあまり感じないな……)」

 

一息ついたガイウスや疲れ切った表情をしているエリオットやマキアス……リィンもそれなりに疲労しているのだが、動けないほどではないようだ。この学院に入ってから1週間ぐらい経った時……街道に出ていくアスベルの姿を見て、彼の太刀捌きを見て驚いた。そのキレは『影の国』をも遥かに超えるレベルにまで洗練されていた。リィンに気付いたアスベルは、ユン師父が途中で打ち切ってしまった剣術の修行を『見る』ということで、時間さえあれば鍛練に付き合っていた。流石に今のリィン相手では本物の太刀は“まだ”使えないので、アスベルは父親から“護身術”程度に教わった棒術で相手をしている状態だ。

 

『ぐぅっ……これで本気じゃないなんて……』

『十二年。俺が“八葉”の八つの型を会得してからの年数と積み上げてきた研鑽は伊達じゃない。とはいえ、俺でも“極める”までは至ってないけれどな。……お前が内なる力を“怖れる”のも解るが、それだって“お前自身”だということを忘れるな。』

『………』

 

“守護騎士”……『影の国』で知ったアスベルの正体。“聖痕”と呼ばれる印を持ち、“古代遺物”を使役する者。そして、彼の持つものは……奇しくも、自分と似たような境遇だった。だからこそ、彼の言葉は重い。自分も“力”と向き合える日が来るのか……それは、解らなかった。

 

「ば、馬鹿な……」

「こんな寄せ集めどもに……」

「…………………」

 

一方、膝をつく貴族生徒……そして、パトリックは唇を噛みしめてリィン達を睨みつけていた。それを見たルドガーは顔を顰めた。

 

「どしたの?」

「いや………(この後、どうするんだ?よもや、同じ<五大名門>相手に……)」

 

“原作”ならばともかく、今のリィンはれっきとした<五大名門>の一角にして、“公爵”家の御曹司。いくら養子とはいえ、彼と彼の義妹は皇家からの信頼も篤い……馬鹿げたことはしないと思うが……そんなルドガーの推測はものの見事に打ち砕かれた。

 

「……とはいえ、いい勝負だった。下手をすればこちらも押し切られる所だった。機会があればまた―――」

 

「触るな、下郎が!」

 

そして、リィンがパトリック達を称賛して近づいて手を差し伸べた……その時、パトリックが差し出された手を弾き、リィンを睨んで怒鳴った。

 

「いい気になるなよ……リィン・シュバルツァー……“成り上がり”であるユミルの領主が拾った出自も知れぬ“浮浪児”ごときが!」

「……ッ……」

(はぁ………)

(これ、面倒なことになるぞ………)

 

案の定……であった。これにはアスベルとルドガーが揃ってため息を吐いた。今の言葉はリィンのみならずシュバルツァー公爵家―――ひいてはエレボニア皇家であるアルノール家への侮辱に繋がる。“不敬罪”と言っても差し支えないレベルだ。

 

「おい……!」

「貴方……!」

「ひ、酷いよ……!」

「言っていい事と悪いことの区別もつかないんですか……!?」

 

パトリックの罵倒を聞いたマキアス、アリサ、エリオット、ステラはパトリックを非難した。だが、パトリックの勢いは止まらない様であった。

 

「ハッ、他の者も同じだ!成績がいいからって、貴様ら平民ごときがいい気になるんじゃない!ラインフォルト!?所詮は成り上がりの武器商人風情だろうが!おまけに蛮族や猟兵上がりの小娘、果ては“侵略者風情”や“帝国を裏切った恥さらし”まで混じっているとは……!」

 

「……」

「………ヒドイです。」

 

パトリックの罵倒を聞いたガイウスは目を伏せて考え込み、リーゼロッテはパトリックを睨むように呟いた。これはもう、明らかに“侮辱”のレベルだ。

 

「な、な……」

「………」

「否定はしないけど……」

「小娘……わたしのこと?」

「……酷いです。」

 

マキアスは口をパクパクさせ、ラウラ、アリサとフィーは怒気を纏ってパトリックを睨み、エマは悲しそうな表情をした。何せ、Ⅶ組のほぼ全員に対しての侮辱……言うなれば全方面に対して喧嘩を売っていくスタイルという他ない。

 

「パ、パトリックさん……」

「さすがに言い過ぎでは……」

 

一方、パトリックの罵倒が余りにも酷い事に気付いている貴族生徒達は、表情を青褪めさせてパトリックを見つめ、止めるように諌めた……事の次第が“明らかにマズい”というのは流石の貴族生徒ですら気づいているのだ。

 

「うるさい!僕に意見するつもりか!?」

 

が、どうやらそれすらも一蹴してしまった。ここで、アスベルとルドガーはあることに気付いてしまった。そして、パトリックが今言ったこと……これはもう“どうなっても知らない”のレベルだ。その意味は、この後に分かる。

「……聞くに堪えませんね。」

「おい、いい加減に―――」

 

セリカと共にパトリックを睨むユーシスが口を挟もうとしたその時、今まで黙っていた人物―――ガイウスが口を挟む形でパトリックに問いかけた。

 

「―――よくわからないが。貴族というのはそんなにも立派なものなのか?」

「っ……!?」

「ガ、ガイウス……?」

 

ガイウスの問いかけにパトリックは驚き、エリオットは戸惑った。それもそうだろう……帝国では“当たり前”でも、諸外国からすれば“何故”の言葉である。国の制度が違う故というのもあるが……ガイウスにとっては、それが“不自然”に見えたのだろう。

 

「そちらの指摘通り、オレは外から来た“蛮族”だ。故郷に身分は無かったためいまだ実感が湧かないんだが……貴族は何を持って立派なのか説明してもらえないだろうか?」

「な、な……」

 

それは一度聞いてみたかった質問であった。貴族は何を以て立派というのか……パトリックは一瞬たじろいだが、声を荒げつつ叫ぶような感じで言い放った。

 

「き、決まっているだろう!貴族とは伝統であり家柄だ!平民ごときには決して真似のできない気品と誇り高さに裏打ちされている!それが僕達貴族の価値だ!」

 

「なるほど……リィン、ラウラやユーシスの振る舞いを見れば、納得できる答えではある。だが、それでもやはり疑問には答えてもらっていない。伝統と家柄、気品と誇り高さ……―――それさえあれば、先程のような言い方も許されるという事なのだろうか?」

 

自分たちが“貴族”ならば何をしても許される……その論理から言えば、“ハーメル”のことも“身分”で片付けられる……そういう風にしか聞こえない。ちなみに、同じ帝国貴族である“とある方”の答えはというと……

 

『―――領民に支えてもらっている以上、それに確りと応えることこそが、家名を後世に伝えることの“秘訣”であり、貴族の“義務”だろう。伝統や家柄、気品や誇り高さも大事だが、“自らの命を預けてくれる民に自らも身を粉にして報いる”という貴族の本質を違えないこと……それが、我がシュバルツァー家の家訓だ。』

 

そう答えたのは<五大名門>の一角を担う人物……テオ・シュバルツァー公爵であった。

 

 

「ぐ、ぐうっ……」

「ガイウス……」

「ふむ……」

「……これは“良い問いかけ”ですね。」

 

ガイウスの問いかけに反論ができないパトリックは言葉を失くして唸り、リィンは驚き、ラウラは納得した様子で頷いた。そして、セリカはガイウスの言葉をしっかり受け止めた上で笑みを零した。

 

「―――へぇ?中々面白い問答をしてるな。それと……ちょっと聞き捨てならない言葉も聞こえたが。」

「え?」

「この声……まさか」

 

すると、リィン達の前に姿を見せる一人の少年。外套がついている翠緑基調の軍服…右腕側には“白隼”の国章…栗色のメッシュがかった黒髪に真紅の瞳を持つ人物が姿を見せた。そして、その人物は笑みを零していたが……その覇気は明らかに“怒り”を顕現させたようなものであった。

 

 

この先のパトリックの運命は今のところ四択位ありますが……

 

1.酷い 2.より酷い 3.惨い 4.もっと惨い

 

てな感じです。違いが不明?……感じろ(ぇ

逆に考えるんだ。『不敬罪でお家取潰しになるよりは数万倍マシなのだと』……万で済むかな?

 

あと、前々回のアルフィンの説明で気付いたかと思いますが……四章(三章でもちょっと出ますが)の一人はアルフィンの“姉”です。要するに将来のメインヒロインポジって奴です。つまり……解りますね?(ヒント:閃Ⅱ)

 

それと、どこかで話していたクレア大尉の絆イベント(対象:『前作』の外伝絡み)は第四章で組みます。その繋がりで、第三章にてちょっとしたフラグイベントがあります。

 

第三章は……特別実習に入ってからが本領発揮です。

 


 
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