No.738744

精霊使いの剣舞~憑依聖剣(拳)を振るう者 ~

第7話

2014-11-22 14:32:10 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1940   閲覧ユーザー数:1861

最初に動いたのは魔獣

 

巨大な体躯に似合わず機敏な動きで間合いを詰め、神威を纏っ た剣の様な爪が明確な殺意を持って、それよりもはるかに小さなユウトへと振り下ろされる

 

ユウトは迫りくる決定的な死の線から距離をとるように宙を翻った。脚を降ろしていた銅像から足にみなぎらせていた氣を壁の氣と同調させつつ着壁(←誤字ではない)した

 

魔獣の爪はユウトが立っていた銅像をいとも容易く両断する

 

熱したナイフでバターを切り分けるかのようになめらかな動きだ。人間なら確実に死んでいたに違いない

 

「……機敏な巨体というのは厄介だな」

 

そう呟くユウト

 

「だけど……」

 

そう言いながら魔獣に向かって走り出す

 

「氣術……」

 

それに気づいた魔獣は再び爪を振るう

 

そして

 

「氣砲拳!!!!」

 

氣をみなぎらせた拳とぶつかり合い、ガラスが割れたような快音を響かせながら魔獣が持つ三本指のうち、真ん中の爪が砕け散った

 

「指一本を相手取ればこんなものだよな」

 

その砕けた様子を見ながら不適に笑うユウト

 

そのままの流れで相手の懐に飛び込み……

 

掌を……

 

「くらえっ!」

 

腹に叩きつけ

 

「百鬼夜行(ピック)!!」

 

そう叫ぶと手から赤と白のブロックが連結して飛び出し魔獣を壁まで叩きつけ……

 

更に……

 

「"二つを一つに変える力"……、地面+鉄(くろがね)!!」

 

地面から大きな大きな大砲を出してダメージを与える

 

"二つを一つに変える力"

二つの物質を組み合わせてそれぞれの特徴を持つ物質を作る能力……

 

条件は"自分が持っているもの、又は触れているものでないといけない"

 

この場合、ユウトの足が地面に触れている、神器は持っているものと判断されているので融合できる

 

「最初に言う……ナメるなよ、獣が」

 

ユウトがそう言う

 

お互いの言葉は分からない

 

ただ破壊を行うためだけのからくりの様な、憎悪に支配された 怪物に、同種と会話するための機能があるかすら怪しいもの

 

しかし、不敵に歪んだユウトの口角を見て何かを感じたのか叫びを張り上げた

 

同時にあの結晶の様な、不快感を掻き立てる神威が風となって身を叩く

 

死臭を吹き付けられているかのような気分に強い不快感を覚えるユウト

 

だがそれ以上に──闘いが始まった事を、ユウトは悟る

 

「(やっとこさ本気になったと言うところか)」

 

前世の時から様々な者から何度も受けてきた「殺意」……

 

それを魔獣からユウトは感じていた

 

その質がより昏くどす黒いものへと変わった事にユウトまた口角を歪めつつ、構えを取る

 

 

ユウト視点

 

明確な形を持たずに遊んでいた拳を緩く握りしめ、体から力みを排出……

 

同時に、体を包む神威がはち切れんばかりに膨らみ、ちりちりと音を立てて火花へ変わる

 

──憑依合体S,O,T

限界以上に纏わせた神威は小さな体が故に爆ぜる程の密度を持って雷となり、体に満ちる

 

魔獣を前にオレが取った構えは

攻撃主体の構え、"鋼"

 

オレの作る氣術は体術の流れも入っている……

 

防御主体で投げ技、又は遠距離攻撃を視点においた構え"柳"

 

移動、及び間接技主体の構え"獣"

 

そしてオレが今行っている攻撃主体の構え"鋼"……

 

打撃、つまり近距離攻撃を視点においた構えである

 

単純な話、ここまでの巨体が相手では間接技も投げ技も意味をなさない

 

──故に、オレが取るは"鋼"

 

打撃を主としたこの構えならば、巨体が相手でもやることは変わらない

 

立ち回りには多少の変化を要求されるであろうが、そんなものは想定の内だ

 

明らかな戦闘態勢を整えた私を見て、魔獣が唸りを上げる

 

種を異にするオレですら直ぐに分かるほどの怒りに染まった表情

 

矮小な生物が生意気に──と言った所か……

 

ともあれ手合わせには相応しくない、殺し合いの為の感情である事は確かだな

 

『オオォォォォォオン!』

 

魔獣の纏うドス黒い神威が膨らみ、唸り声が雄たけびへと変わる

 

巨体を支える地が蹴られ抉られ、魔獣はオレへと駆けた

 

殺意のみを本能とするが故の行動であろう、圧倒的な質量を持った突進は何処までも愚直で、単調

 

だがその速度は目を見張るものがある。巨大な質量と膨大な魔力、そしてこの速度

 

全てが単純が故、それは何よりもシンプルな死を想わせる

 

だが……

 

「月歩」

 

月歩で空高くへと舞い上がる

 

魔獣の体高よりも高く、その巨大な姿がやや縮んで見える程に

 

言うまでもなく、突進の範囲の外だ。魔獣がオレを見失う

 

駆ける魔獣──その体がオレの真下へ来た時、オレは脚を天へと向け、折りたたむ

 

息を継ぐ間もなく、オレは足を起点に神威を放出した

 

簡素な足場を神威で作ったのだ

 

蹴るために

 

「シッ!」

 

短い息遣いで気合いを込め、瞬発的に足へと力を込める

 

空から地面に向かって跳躍したオレは、地へと引かれる力を呑みこみ、弾丸と化した

 

空中で体勢を整え、向かうは魔獣の背

 

小さな体ながらに重量を遥かに超える力を纏ったオレは、足から魔獣の背へと着弾し、結晶を 踏み砕いた

 

『グゥアオオオオオオオオオッ!』

 

された魔獣は悲痛な声を上げ、体を硬直させる

 

前足を上げ、突進を止め大きな体が傾いていく

 

背後を取ったこの状況、魔獣に取れる反撃の手段はないはず

 

全力の雷を込め、握りこまれた拳を打ち込めば、勝敗は決しよう

 

出来る事ならばもう少し戦っていたかった気もするが、今この身はオレだけのものに非ず、美しい街の行く末がかかっている

 

「悪く思うな」

 

無意味だろうが言う

 

生き物であることにかわりないから

 

言いながらオレが雷を拳に込めた、その瞬間だった

 

『ブルウオオオオオオ!』

 

くぐもった怨嗟の声が響き、オレはとっさに耳を押さえた

 

この咆哮だけでも攻撃なのではないかと思えるほど心に訴えかける不協和音

 

だが、この怪物の真価は、ここからであった

 

「な──ッ!」

 

先ほど砕いた結晶が、魔獣の体からせり上がってくるのが見える

 

「(早い……!?)」

 

ほんの一瞬だけ嫌な予感が走る

 

ここにいるとまずい事が起きる。長年の経験で培った勘がそう言う

 

躊躇わずに跳ぶ

 

空へと躍り出た直後、オレは自らの予感が正しかった事を知る

 

魔獣の背に突き出た昏い色の結晶。人の子供ほどもある巨大な結晶が、空のオレへと向かってきたのである

 

「ちっ!? 月歩!!!」

 

オレは月歩で結晶が届かない所へ移動する

 

ドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!

 

周りに刺さる結晶を見て冷や汗が流れるのを感じながら着地する

 

それを見据え、魔獣が嘶いた

 

──先ほど、オレが殺気を纏った瞬間に背の結晶を隆起させ、射出した……?

 

「人の悪意には敏感……という事か?」

 

そう思ったその瞬間私の眼に飛び込んできたのは、暫くは見たくない光景であった

 

「……マジ?」

 

視界に並ぶは、空を埋め尽くす赤い結晶

背から生やすだけではなく、空に生成することも 出来るとのか!?

 

そしてそれを射出することもできる、と

 

「厄介だな……」

 

だが……あれを試すには、ちょうど良い

 

「ウィンド、行くよ」

 

呼び掛けるは風の精……

 

「聖なる風よ、全ての流れ読み解く拳となりて我が手に宿れ……」

 

展開式を唱えた途端に風が吹き荒れ、オレの両手に緑色の皮手袋が現れる

 

手の甲には紋様が精緻に刻まれており、自分の周りにかすかな風鳴り音を立てる

 

「精霊魔装――"風王の繭(シルフィコクーン)"」

 

今のところオレが出来るただ一つの精霊魔装……そして

 

「誰もオレを……傷つけれない」

 

そう言いながら歩く……

 

避ける意味がなくなったから……

 

 

ーある場所ー

 

「……成る程ね……面白い武装だな」

 

広場の戦いを見ていた一人の少年が感心する

 

「? ロード、どう言うことですか?」

 

そう聞きながら録画を続ける深緑色の宝石……

 

「あの武装……防ぐとか攻めるタイプじゃないって事」

 

そう言いながら観察を続けていた


 
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