No.737562

ALO~妖精郷の黄昏~ 第48話 東方陥落

本郷 刃さん

第48話です。
今回は四方の最後、東方での戦闘になります。

どうぞ・・・。

2014-11-16 15:16:42 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:5973   閲覧ユーザー数:5148

 

 

 

 

第48話 東方陥落

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グランド・クエスト[神々の黄昏]

『侵攻側クエスト[霜の世界の黄昏]:ミズガルズと四方の階段を攻め落とせ』

『防衛側クエスト[霜の世界の抵抗]:ミズガルズと四方の階段を守り抜け』

 

 

 

 

 

No Side

 

――ヨツンヘイム・東方階段

 

「う~ん、ドラゴンの飛行はさすがとしか言えないな…」

「カァッ?」

 

遠き空中を高速で羽ばたきながら向かってくる黒竜、〈Nidhogg the Wrath Dragon(ニーズヘッグ・ザ・ラース・ドラゴン)〉を見やりながら1人の青年が呟く。

そんな彼の傍に飛んでいる鳥は問いかけるように鳴き声を上げたが、青年は微笑むだけで気にした様子はない。

 

「なんでもないよ……ただ、戦い甲斐があるなぁって思っただけさ」

「カァッ」

「ヤタもそう思うか、ならよかった」

 

青年の名は『ファルケン』、種族は猫妖精族(ケットシー)である。

茶色の短髪で服は青を基調としており、見た目としては20代後半ほどだと窺わせる。

また特徴的な指先の手袋を装備し、腰には二振りの小刀を据えている。

そのファルケンの傍に居るモンスターは彼がテイムした相棒であり、レアモンスターの〈ヤタガラス〉に属する。

名は『ヤタ』、伝説における八咫烏に類似した姿をしており、

烏でありながら足は三足、体長はピナと同じ程度だが、このヤタは戦闘におけるスキルがかなり高い。

 

「もうすぐここに到着するし、行こうか?」

「カァッ!」

 

ファルケンの問いかけにヤタが応え、1人と1匹は防衛部隊と合流しに行った。

 

 

そしてもう一方、こちらでも迫り来るボスを見据えている者が居た。

 

「空中からはニーズヘッグ、地上からはファフニールか……面白ぇ…」

 

彼は空中から羽ばたいてくるニーズヘッグに眼をやるのも束の間、

すぐに地上をかなりの勢いで這い進んでくる黄金の竜、〈Fefnir the Gold Dragon(ファフニール・ザ・ゴルド・ドラゴン)〉へ視線を向けた。

彼の名は『ガルム』、種族は風妖精族(シルフ)、奇しくもボスの一角と名を同じとする者である。

黒髪に身長は175cmほどで若干の筋肉質だが痩せ型の体型、上が白で下が黒の弓道の袴でその身を包んでいる。

また、左右の腰には1本ずつ別種の煌びやかながら強固そうな片手剣を据えており、背中には1張の弓を背負っている。

 

「さぁ~て、開戦と行きますか…!」

 

間もなく到達するだろうファフニールに向けて、ガルムは空中から駆け抜けた。

 

 

 

東方階段から離れた迎撃を務める防衛部隊の幾つものレイドパーティーが、

空中のニーズヘッグと地上のファフニールと戦闘を開始した。

先制攻撃はここ以外の階段とは僅かに異なり、ニーズヘッグに対しては魔法や矢による攻撃となり、

ファフニールに対してのみエクストラアタックや大規模魔法の発動となった。

理由としては2体ともMobを率いていないこと、ニーズヘッグが空中をそれなりの速度で移動していることがあげられる。

その先制攻撃だが、ニーズヘッグは飛来する魔法と矢を全てはいかないものの大半を躱し、

逆に勢いがあるものの這い進んでくるだけのファフニールは大規模魔法などが直撃した。

 

「この程度の攻撃で我を落とすつもりかぁっ! 舐めるなぁっ!」

「我に何かしたのか?」

 

“怒り”を名に関しているだけはあり、攻撃を回避しながら感情を昂ぶらせるニーズヘッグ。

一方でファフニールはエクストラアタックに大規模魔法という大ダメージを与える攻撃を受けながら、

大きなダメージを受けておらず、精々がHPゲージの10分の1を削った程度だろう。

 

「さすがに速いわね、魔法と矢の遠距離攻撃を行いながら近接攻撃も仕掛けるわよ!」

「おいおいおい、アレだけの攻撃を受けてダメージがあれだけって、どんな防御力だよ!

 回避は苦手みたいだからとにかく攻撃していくぞ!」

 

各レイドリーダーは即座に次の指示を出すが、ファフニールを担当している者達はさすがに動揺を隠せない。

しかし、ダメージが少なくとも与えることが出来ると改めて判断し、攻撃を再開する。

 

「ん、俺の攻撃じゃファフニールは厳しいかも…。ヤタ、俺達はニーズヘッグと戦いに行こう」

「カァッ」

 

了解したとばかりに頷いたヤタを引き連れ、ファルケンはニーズヘッグと戦いに向かった。

 

「ニーズヘッグはともかく、ファフニール相手にそこらの武器の耐久力では無理がありそうだな。

 俺の剣ならファフニールと戦えるだろう」

 

ガルムも己の武器の能力などを考慮し、ファフニールの許に赴いた。

 

 

 

 

他の侵攻者達と違い、飛行してきたニーズヘッグは空中での戦闘を行っている。

当然だがプレイヤー達のほとんどが空中戦を行っており、一部のメイジ部隊が地上から支援する形である。

そして、空中戦を行うプレイヤー達はニーズヘッグの左右からの攻撃を行えないでいた。

それはニーズヘッグの行う羽ばたきにあり、妖精であるプレイヤーとは違い、

その羽ばたきによって発生する風圧でプレイヤー達の接近を妨げている。

接近するには正面か背後、真下か真上が主になっている。

 

「吹き飛ぶがいい!」

 

ニーズヘッグは空中に浮かびながらブレスを噴いた。

拡散型のブレスが正面に展開していたプレイヤー達に襲い掛かるが、

ドラゴンということもあり予めブレスを警戒していたメイジ部隊がブレス軽減の魔法を使用し、ダメージを軽減した。

 

「単体でも連携でもいいから近接攻撃は途絶えさせないで! メイジ部隊は火力で援護!

 そこ、弾幕薄いわよ、なにをやっているの!」

「「「「「は、はい!」」」」」

 

キビキビとした女性レイドリーダーの指示に応えていくメイジ部隊。

近接武器を持つプレイヤー達は改めて攻撃と離脱を繰り返しニーズヘッグに攻撃を行うが、

正面からだとブレスや前脚による攻撃が、後方からならば尻尾による叩きつけが、下方であれば前脚と後脚による攻撃が行われる。

唯一の死角が上方からの攻撃に思えるかもしれないが、羽ばたくための翼によって不意の打撃攻撃を受けることになる。

つまり、それらの攻撃を掻い潜り、なおかつダメージを与える…普通ならば至難の業だが、

レイドパーティーに集まった戦力はみながみな、それ相応の実力者なので厳しいながらもダメージを与えていく。

 

そこにファルケンとヤタが到着し、戦闘に参加してきた。

 

「よっ、と!」

「カッカァッ!」

 

二閃と一閃が駆け抜ける。

二閃はファルケンの持つ2本の小太刀による高速の斬撃、一閃はヤタによる高速の突撃、

それらがニーズヘッグの迎撃を掻い潜って肉体にダメージを与えたのだ。

 

「高速戦闘が出来る人でニーズヘッグの迎撃を回避しながら攻めた方がいい!」

「そうみたいね! 高速機動を出来る人、奴の攻撃に気を付けて攻めて!

 その他の人達で援護、メイジ部隊は支援魔法(パフ)と攻撃魔法で援護を!」

 

ファルケンの提案にレイドリーダーの1人である女性は応じ、周囲に指示を下した。

彼に倣うように古参のプレイヤー達が高速機動でニーズヘッグに攻撃を仕掛け、

メイジ部隊は戦力を別けて支援魔法と攻撃魔法を行い、

弓などを扱う者達は羽ばたきによる風圧で矢が弾かれないように援護を開始した。

 

「ヤタ、スキルで強化をよろしく」

「カァァァッ!」

 

ヤタは自身の体から光を発するとその光が周囲を包み込んだ、固有のスキル《先導者の光(ガイド・オブ・ライト)》である。

放たれた光はプレイヤー達に全ステータス20%UPの恩恵を与え、敵であるニーズヘッグの全ステータスを5%DOWNさせた。

通常の魔法ならば最高位のボス相手にステータスダウンの見込みは薄いが、

こちらもレアモンスターの固有スキルなだけはあり、ニーズヘッグのステータスダウンに成功したのだ。

そこにファルケンが二振りの小太刀で斬り掛かった。

 

「よっ、しっ!」

 

閃く二振りの小太刀が幾つもの斬閃を生み出してはニーズヘッグの体に刻まれ、ダメージとなる。

そもそもALOにおいて一部で武器の『二刀流』が流行り出したのはキリトが《二刀流》を扱っていたことが主な理由だ。

ファルケンは元々、小太刀を1本だけで使用していたが、二刀流ともなれば盾を持たない状態で攻防一体を体現できる。

そこに二刀流が流行り出したことで彼もその波に乗り、見事に使い手となることが出来た。

 

「あらよっ!」

 

さらに他のプレイヤーとの交代時に離れると今度は苦無を使い、それを頭や脚に目掛けて投げた。

するとブレスや脚による攻撃を僅かに遅らせることが出来た、どうやら攻撃直前に攻撃を受けると僅かに遅れるらしい。

それに周囲も気付き、さらに攻撃パターンを割り出したことで順調にダメージを与えていく。

 

到達時は空中を移動することで回避していたニーズヘッグも、

いざ戦闘になれば滞空状態となったので攻撃もある程度は安定して行えていた。

先にもあったように高速機動が可能な者達で攻撃や反撃を掻い潜ってダメージを与え、

それ以外の者達は攻撃を武器や盾で防ぐなどして壁役を務め、弓部隊は矢で攻撃やスキルを発動し、

メイジ部隊はホーミング系の連発魔法や高威力の魔法、範囲系の魔法で攻撃していった。

確実に削れていくダメージ、7本あるHPゲージの1本がもう少しで0になるところに彼が攻撃の波に加わる。

 

オリジナル・ソードスキル(OSS)《満月》」

 

ファルケンは自身が持つ上位の小太刀『逆鱗・光牙』を二刀流とし、OSSを放った。

前後に構えた小太刀、それを空中で回転しながら斬りつける。左右からの攻撃には弱いものの、

突貫力と斬撃が強く、煌いた刃が見事な円を描いて2連撃を行った…その様は満月の如く。

さらに彼の相棒であるヤタもスキルを発動した、体から風が巻き起こってそのまま翼に集束したのだ。

ヤタは勢いをつけるとニーズヘッグに向かって突撃し、体を回転させながら翼で攻撃した。

〈ヤタガラス〉の固有スキルの1つ、《ソニックブレイカー》だ。

 

「ぐおぉっ!? 神々に組するからとはいえ、侮るなかれということか…!」

 

HPゲージが1つ減り、ニーズヘッグの戦い方に変化が訪れた。

いままでは一ヶ所に留まり戦っていたが、ついに空中での移動を始めた。

徐々に加速し、羽ばたく時の風圧も増していく。

また、荒々しさがあった攻撃に正確性も加わり、ただ“怒る”のではなく内に秘めた様になっている。

 

新たな戦闘方法に地上からの支援部隊はどうしたものかと途方に暮れる。

無闇に空中での援護を行えば自分達がやられる可能性があり、とはいえ攻撃魔法を当てるのも難しく、

味方へ支援魔法を掛けようにも味方も動いているのでタイミングがとり難い。

 

「ニーズヘッグの行動パターンが判明するまで味方への支援を主にするぞ!」

 

地上のレイドパーティーのリーダーは下手に攻撃するよりも味方への支援を優先した。

変化した行動パターンを明確にするまではそれが適当だと言えよう。

 

さて、空中では飛行しているニーズヘッグとの戦闘が再開していた。

円を描くように飛び、向かってくるプレイヤー達に噛み付きやブレス、脚による攻撃に尾の叩きつけと、

移動している以外は滞空時とあまり変わらないように見えるが、そこに新たな攻撃が加わっている。

それは体を回転させることによる翼の攻撃、さらに発生した風が刃となってプレイヤー達に襲い掛かった。

 

少しの間…いや、変化した行動パターンを解明したことでオーディン軍は再び反撃に出た。

ニーズヘッグは円を描いて飛行するため、狙いを定めれば魔法攻撃が通用したのだ、それは弓部隊にも同義である。

また、前方から突撃するか後方から追いかけるしかなかった近接武器持ち達もその行動に慣れ始めていた。

それによって大規模魔法の展開が決定し、メイジ部隊はその準備をし、

ニーズヘッグの通過地点にピッタリのタイミングで一斉に魔法を放った。

 

「ぬぐぁぁぁっ!?」

 

かなりのダメージが入り、威力も高かったこともあって怯みが入り、ニーズヘッグはそのまま地上に落下していった。

叩きつけられるように墜落したニーズヘッグに、プレイヤー達は一斉に攻撃を行った。

武器、矢、魔法と、次々に攻撃が与えられ、ファルケンとヤタもその中で暴れ回る。

 

「ふっ、はっ!」

「カァァァッ!」

 

高速で動き回りながら二刀の小太刀でニーズヘッグを斬りつけ、ソードスキルも使用するファルケン。

ヤタは自身の周りに火の弾を作り出し、翼の羽ばたきに合わせてそれをぶつけていく、固有スキル《フレアバースト》だ。

さらに、今度は翼が光を纏うとそこから光が放出されていき、ニーズヘッグにダメージを与えた。

固有スキルの《ストナーサンシャイン》である。

 

かなりのダメージを与えられながらもニーズヘッグは立ち上がり、飛び上がろうとして羽ばたき始める。

その前に6本となったHPゲージを削りきろうと大規模魔法を放とうとするも、このままでは間に合わない。

だが、彼らは決死に向かっていった。

 

「ソードスキル《エターナル・サイクロン》」

「カァァァァァッ!」

 

ファルケンは敢えて真正面から突っ込み、眉間に向けて短剣のソードスキル、

その中でも奥義技である4連撃技の《エターナル・サイクロン》を放った。

そこにまるで《スイッチ》を行うようにヤタが全身に光を纏って突撃してきた、

聖属性を纏う固有スキル《ゴッドバードストライク》だ。

 

「がぁぁぁぁぁっ!?」

 

この2つのスキルをクリティカルポイントに直撃したニーズヘッグは再び怯み、

そこに大規模魔法の準備を終えたメイジ達がファルケンとヤタの離脱を確認してから魔法を放った。

全ての攻撃が命中し、煙が晴れた先ではニーズヘッグのHPが残り5本となっていた。

次の行動を警戒しながら改めて態勢を整えようとした時、ニーズヘッグは動き出した。

 

「よくぞ我にここまで傷を与えてくれたものだ……だが、許しはしない!」

 

全身から黒いオーラを発すると、次の瞬間にはそのオーラが闇の衝撃波となって駆け抜けた。

プレイヤー達を飲み込みながら吹き飛ばしていき、辺り一帯を更地にした。

防御力の低いメイジ部隊の多くを消滅させたが、それ以外のプレイヤー達はHPをレッドゾーンへ削られたものの生き残った。

それでもレイドパーティーが壊滅したことに違いはなく、この場の戦いは終局へと向かう。

 

 

ニーズヘッグの戦いの一方で、ファフニールの戦いも厳しいものだった。

 

 

 

 

当初にあった通り、ファフニールの防御力は凄まじいものであった。

 

「なんだよ、コイツ! 攻撃がほとんど効いてない!?」

「魔法もあまり変わらないわよ!?」

「狼狽えるな、動きは遅いからとにかく攻撃しまくれ! 何処かに必ず弱点があるはずだ、そっちを見つけていけ!」

 

会話からも察せられると思うが、直接攻撃も魔法攻撃もほとんどダメージにならないのだ。

大規模魔法やエクストラアタックを同時に行えば先程と同じとはいえ相応のダメージは与えられるだろうが、

連発すればMP回復用のアイテムも乱用しなければならなくなる。

可能な限りそれを避けたい為に、まずは弱点を探るようにとレイドリーダーは指示を出した。

 

「無駄だ、我が身は黄金の鱗。黄金は腐らず、錆びず、朽ちぬ。故に我が黄金を破ることなど出来はしない」

 

穏やかに見えながらも威圧的に語るのは戦闘中のファフニール。

その宣言の通り、未だにプレイヤー達は弱点らしい弱点も見つけられず、大きなダメージも与えられていない。

それは眉間や背中といった基本的な弱点箇所でさえも同じであり、ファフニールの黄金の鱗を貫くことが出来ないでいる。

 

また、ファフニールはニーズヘッグをも超える巨体を動かし、攻撃を行ってくる。

長く、太い尾を振り回しては叩きつけ、太い前後両脚を振り上げては地面に叩きつけ、そのまま衝撃波が発生する。

そして、ドラゴンの代名詞であるブレスは炎と毒が混じったもので、呪いのブレスというべきか。

絶対的な防御力に加えて一撃が重い攻撃に舌を巻かざるを得ない。

 

「これも無理か…」

 

プレイヤー達が苦々しい表情を浮かべる中、ガルムだけは特に表情を変化させず、冷静に矢を射ていた。

使用している弓は『雷上動』といい、古代級武器(エンシェントウェポン)の1種である。

弱点らしき場所に矢を放つも黄金の鱗に阻まれ、ほんの僅かなダメージにしかならない。

だが、彼は焦ることもなく、次の一手を考える。

 

「(全身が鱗に覆われているから生身の場所しかないよな……眼だな、やるか)」

 

ブレスを吐き終えたファフニールの正面に浮かびながら、すかさず矢を番えて目に向けて射かける。

綺麗な直線を描いた矢はファフニールの右眼球に突き刺さり、矢で与えるにしてはそれなりに大きなダメージを与えた。

 

「弱点は眼だ、かなりのダメージを取れるぞ!」

「なるほど、助かった! 全員聞こえたな!? 眼に集中攻撃を掛けるぞ! タゲ取りも忘れるなよ!」

「「「「「おう!」」」」」

 

ガルムの言葉を受けたレイドリーダーの1人は即座に周囲へ指示を下し、行動を起こす。

 

眼球という狙い難い箇所への攻撃は刀剣類や槍を持つ者が行い、打撃系の武器を持つ者や壁役(タンク)がタゲ取りを、

メイジ部隊は支援魔法で味方の強化や一定の攻撃魔法で少しでもヘイトを逸らし、

弓部隊は近接部隊が入れ替わる瞬間の中継ぎとして矢を眼球に射る、

それらの攻撃パターンがレイドにおいて完成した。

ファフニールの行動は防御型ということもあり単調になりがち、そこを上手く突いてHPを削っていく。

 

「(そろそろ弓から変えるか…)」

 

ガルムはウインドウを操作し、持っていた弓をアイテムストレージに収納すると、今度はボウガンを取り出した。

こちらも古代級武器であり、名を『ミーティア』という。

弓系の武器でもボウガンは飛距離こそ弓に及ばないもの、威力は弓を超えている。

また、彼がもう1つアイテムストレージから取り出した物がある、矢筒なのだが中にある矢が1つずつ違う光を纏っている。

 

矢を装填するとボウガンを構え、再びファフニールの正面に躍り出る。

近接部隊と中継ぎの弓部隊の攻撃直後を狙い、1本の矢が放たれた。

弓で放たれた時よりも速く駆け抜けた矢はファフニールの左眼球に直撃し、爆発した。

 

「ぐぉっ!?」

 

呻き声を上げるファフニール。

いまガルムが放った矢はスキルが発動したわけではなく、矢そのものに爆発系の魔法が宿っていた。

使用されたのは『魔法矢』と呼ばれるアイテムであり、

工匠妖精族(レプラコーン)の中でもマスタースミスになっている者だけが製作できる高価な矢である。

その名の通り、魔法を宿すことができ、大規模魔法や一部の魔法を除けば大抵の魔法は宿せる。

製作の為の素材も貴重な物が多いが、かなり有用できる道具だ。

 

その矢に込められていた爆発系の火系魔法が発動し、ファフニールはHPを大きく削られた。

そのまま魔法矢を用いながらダメージを与えていき、ファフニールのHPゲージがついに1本削られた。

 

「黄金を貫けぬからと小癪な手を使うか……だが、これも戦というならば当然の手か…。

 いいだろう、使わねばいいだけの話しだ」

 

新たな行動パターンと言うべきなのか、ファフニールはいままで開いていた瞼を閉じ、眼球を隠した。

弱点を隠されたことに内心で舌を打つプレイヤー一同、それでも戦わねばならない以上、どうにかしてダメージを与えるしかない。

 

加えて、ファフニールは新たな攻撃を行ってきた。あの巨体で空中に跳びあがり、ボディプレスを行った。

押し潰された者達は勿論ながら大ダメージを受けるかHPが無くなり、

それ以外の者達も地面からの震動と衝撃波で吹き飛ばされ、ダメージを負う。

とはいえ、どちらもこれといった大きな損害が出ない。

 

「(このままじゃジリ貧だな。いっそのこと、前に出て弱点を片っ端から探すとしますか。

 下手に攻撃し続けて武器が壊れました、なんて洒落にならないし、こっちで行くか)」

 

ガルムはミーティアをストレージに収納することで僅かでも身軽にした。

そして、右腰にある片手剣を抜き放つと構えて、ファフニールに斬り掛かった。

 

「せぇぇぇあぁぁぁっ!」

「ぬっ…!」

 

周囲の者達はガルムの持つ剣がファフニールの鱗に弾かれると思ったが、そうはならない。

食い込みはしないが弾かれもせず、剣と黄金がぶつかったことで僅かながら衝撃波が起きた。

だが彼はそんなことを一切気にせず、連撃を始めた。

次々と行われる連撃と発生する衝撃波、その様に誰もが驚く中が当然ながら剣が壊れると予想した。

しかし、剣は一切の破損状態になることもなく、耐え続けている。

一体どういうことだと思い始めた時、1人のプレイヤーが声を上げた。

 

「あの剣、伝説級武器(レジェンダリーウェポン)の『不剣デュランダル』!?」

「なっ!?……いや、それを考えれば納得がいく…!」

 

伝説級武器『不剣デュランダル』。

ここで性能を述べるとすれば、攻撃力は『聖剣エクスキャリバー』や『魔剣カラドボルグ』に劣り、

『魔剣グラム』のような通過能力もなければ、『神杖ケリュケイオン』のような加護もない。

だが、ある一点においてはそれらの武器を超越している。

それは“耐久度無限”である、文字通りの力、不屈、不敗、不滅、不敵、それらの意味を持って『不剣デュランダル』である。

削られることのない耐久度、最強の剣には劣るが最高クラスの攻撃力、その2つが重なることで最高の剣であり盾となる。

 

「おらぁぁぁっ!」

 

縦横無尽に動き回り、様々な場所を斬りつけていくガルム。

例え一度は誰かが攻撃したかもしれない場所でも、弱点である可能性が消えない限りは攻撃を続けた。

胴体、脚、尾、頭、斬れる場所はとにかく斬りまくり、他のプレイヤー達もそれに倣い攻撃を行うが、弱点は発見できない。

 

そんな中でもファフニールの攻撃は続き、いままでは僅かでも動いていた奴がいまでは鉄壁の要塞ともいえる。

 

「(さて、どうするか…。生身の場所なんてもう残っていないし、

 閉じられている瞼以外に開くのは……っ、あるじゃねぇか、一ヶ所だけ!)」

 

その時、ガルムは気付いた。瞼以外にも開閉し、そこは最初から行われている場所だと。

ファフニールへの攻撃を中断し、頭部へと移動する。

そこでブレスを行おうと口を開いたところであり、

その開いた口に向けてデュランダルによる片手剣ソードスキル《ヴォーパル・ストライク》を放った。

 

「がぁっ!?」

 

一撃を受けたファフニールは怯み、ブレスが遅れている間にガルムの技後硬直が解け、離脱して叫びあげる。

 

「全員、口の中に攻撃叩き込めぇっ!」

「メイジ部隊、弓部隊、ファフニールの口内に一斉射!」

 

すぐさま弓と魔法がファフニールの口に向けて放たれた。

ブレスが吐かれる前に叩き込み、ブレスが吐かれても両脇から正確に打ち込み、ブレス直後の閉じる間にも攻撃が行われた。

一連の攻撃によりHPが大幅に削られ、既に半分を超えていた。

 

「次のブレスが決め時だな……それじゃ、こっちでいくか」

 

デュランダルを右腰の鞘に収め、今度は左腰の剣を抜き放った。

 

剣の銘を『光剣クラウ・ソラス』、

伝説級武器でありその性能はMP、魔法の威力、魔法範囲の拡大にあり、剣でありながら魔法性能に特化している。

 

そして、ガルムは大規模魔法の詠唱を始める……唱えるのは風系のものであり、長い詠唱を手早く済ませていく。

ファフニールがブレスの準備に入り、再びその口を大きく開いた。

 

「喰らいやがれ!」

 

その一言の後、風の大規模魔法を発動してファフニールの口が切り刻まれた。

プレイヤー達の魔法、矢、攻撃も加わり、HPゲージが極端に減少、6本から5本へとなった。

 

「よし、これで残り5本だ!」

「ああ……それにしても凄ぇよな、アイツ…」

「【殲滅魔導士】、確かそう呼ばれているはずだぜ…」

 

プレイヤー達がガルムを見ながら彼の異名を話していた。

キリトに続いて2本の伝説級武器を持ち、高位の魔法も使いこなして単体での広域戦闘をこなせる妖精剣士、それがガルムだ。

良い空気が広がり始めた時、ついにファフニールが攻勢に動いた。

 

「黄金の隙間、そこを突くとはやはり面白い! これほど血湧き肉躍る戦いは久方ぶりだ!」

 

閉じていた瞼を開いて眼が露わになり、地に伏せるようにしていた体躯が起き上がる。

全身の黄金が輝きだし、跳び上がるとすぐさま着地した……が、直後に地中から黄金の槍が無数に突き上がった。

木々を超える高さまで伸びあがった黄金の槍々に貫かれ、ダメージを受けたプレイヤー達、

幾人かは避けられたがそれでも被害は甚大である。

半数のHPが0、半数近い者のHPがレッドゾーンとなり、半壊滅に近い状態となった。

 

 

 

 

ファフニールがレイドパーティーに大損害を与えた時、ニーズヘッグが飛来してきた。

上空に居るニーズヘッグの周囲を十数人のプレイヤーが攻撃しているが、まるで気にも留めない。

空中のニーズヘッグと地上のファフニール、2体はある方向に向くとそちらに向けて突進を始めた。

 

「妖精共よ、滅びゆく様を見るがいい!」

「これが竜の破壊である!」

 

2体のドラゴンは空中と地上で重なるようになり、そのまま黒と金のオーラを纏い、そこへ突撃した。

 

「「《ドラゴンダイブ》」」

 

突撃した先は東方階段であり、2体のドラゴンによる突進を以てして、一瞬で扉は崩壊した。

障害物の遺跡さえも跡形も無く吹き飛ばしたその姿にプレイヤーは呆然とするしかない。

 

「ヤタ、《先導者の光(ガイド・オブ・ライト)》をもう一度頼む! 追いつくよ!」

「カァッ!」

「俺も行くぞ!」

 

ファルケンはヤタに願い、スキルによる強化を施してもらい、その恩恵を受けたガルムも続いて2体のドラゴンを追った。

しかし、東方階段が陥落したことに違いはなく、その損害も小さくはない。

 

 

――世界樹

 

「死者の血に溺れた忌々しい竜が…! 世界樹の根だけでは飽き足らないというか…!」

 

イグドラシル・シティの梢の先端に居る大鷲が声を荒げている。

名を『フレースヴェルグ』、“死体を飲みこむ者”の意を持ち、ニーズヘッグとは互いを罵り合うほど険悪な仲だ。

 

「来るがいい、ニーズヘッグ! 妖精達と共に貴様を八つ裂きにしてやる!」

 

彼は世界樹の梢の先にて、戦いの時を待つ。

 

 

――アースガルズ

 

「彼の竜と戦う時が来たのか…」

 

ワルキューレの先導を受けて歩むエインフェリア(英雄)達の先頭を行く男性が居た。

名を『シグルズ』、北欧神話においてファフニール(ファーヴニル)を打ち倒す英雄だ。

 

「どのような相手であろうと、私はこの世界の敵を打ち倒そう!」

 

腰に『魔剣グラム』を据えながら、シグルズは他のエインフェリアと共に進軍を続ける。

 

No Side Out

 

 

To be continued……

 

 

 

 

 

あとがき

 

昼を少し過ぎましたが今回もなんとか投稿が間に合った・・・。

 

さて、今回で東方階段が陥落となり、四方全てが落とされることになりました。

 

そんな中ですが次回は中央のミズガルズでの戦いになります、そこにはオーディン軍の『神霆流』が揃い踏みです。

 

しかし、そこに来たるのはフェンリルと我らがあの人、果たしてハクヤ達はどう戦うのか・・・。

 

ほぼ同じ展開なので愛想を着かされないか不安ですが、完結させる為にも頑張ります!

 

今週のアニメ『ソードアート・オンライン』でついにユウキが本格的に登場しましたね。

 

ただ、個人的には「OPでキリトさんがいないってどういうこと?」って思いましたね・・・あ、EDもか。

 

あれ、「最初の段階で剣に写っていたかな?」とも思いますが、なんにしても主人公に対する処遇じゃない!

 

というわけで、次回はウチの真っ黒い人達が大暴れしますのでお楽しみに~w

 

それでは・・・。

 

 

 

 


 
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