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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百三十三話 逃走中~海鳴市内を逃げまくれ~(中編)

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2014-11-16 13:40:44 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:18089   閲覧ユーザー数:15946

 ~~第三者視点~~

 

 海鳴市駅前。

 

 「凄いなー。綺麗だったなー」

 

 「「……………………」」

 

 「また見れるかな?見れるかな?」

 

 キャイキャイとはしゃいでいる1人の女性…水無月遥を見てアミタ、リインフォースの2人は

 

 「「(アレを見て恐怖感は無いのでしょうか?(無いのか?)」」

 

 心の中で全く同じ事を思っていた。

 遥が言ってるのは先程のディバインバスター及びスターライトブレイカーの一撃を見てだ。

 瞳をキラキラと輝かせ『良いなぁ』『私にも出来ないかなぁ』と口にしているのだ。

 砲撃に憧れるのは中の人がなのはやシュテルと同じだからだろうか?

 

 「…彼女の事は置いておこう。それよりも今は高町をどうにかしないと今後の展開が不利になるという事だ」

 

 「そうですね。魔女さんを早く探さないと」

 

 「だが、その魔女…くえすというのだったな?どの様な容姿なのか…」

 

 「あ、私知ってます。銀髪の長い髪と額にある三日月の模様が特徴的な方ですよ」

 

 「そうなのか?」

 

 リインフォースは勇紀に聞こうと考えていたが、目の前にいるアミタがくえすの特徴について語ってくれた。

 彼女はくえすとの面識があるからだ。鬼斬り役云々の話の際、勇紀と同行してたのだから。

 

 「では銀髪で額に三日月の模様がある女を探せばいいんだな?(後ははぐれてしまったゼンとも合流しないと)」

 

 「はい。ここは固まって行動するよりもバラけて街中の捜索をしましょう」

 

 アミタの提案にそうだな、とリインフォースが頷いた。

 

 「遥さんもそれで良いですか?」

 

 「…………にゃ?」

 

 少し間をおいてから反応する遥。どうやらアミタとリインフォースの会話を聞いてなかった様子だ。

 もう一度、アミタが同じ内容を説明すると遥は笑顔を浮かべて『良いよ』と答えた。

 

 「では早速探すとするか」

 

 「はい!お互い捕まらない様に頑張りましょう!」

 

 「うん!アミタちゃん、リインちゃん、また後でねー!」

 

 「(リインちゃん…悪くない呼ばれ方だな)……遥だったな?お前も気を付けてな」

 

 こうして3人はバラけ始める。

 果たしてこの街の何処かにいるくえすを見付けることが出来るのか?

 

 

 

 「うー…………ゼーーーン!!どこだーい!!」

 

 小さく唸りながら1人の逃走者を探すオレンジ髪の女性…アルフ。

 

 「狼の使い魔であるアタシの鼻が臭いを辿れないなんて、酷い制限もあったもんだよ」

 

 今のアルフは狼としての能力を完全に封じられているため、オープニングゲームから逃走する際にはぐれた禅を見つけられないでいた。

 

 「ゼーーーーーーーン!!!!」

 

 しかも大声を上げての捜索ときたもんだ。彼女はハンターに見付かる事を恐れていないのか?

 道行く通行人達も何事かと思い、アルフの方に視線を向けるが当の本人はお構いなしだ。

 

 「うー……こうなりゃ誰かに聞くしかないかねぇ」

 

 アルフは誰でも良いから禅の情報を求めるために、すぐ近くにいた女性に声を掛ける。

 

「ちょいとそこのアンタ」

 

 「???私に何か用ですの?」

 

 「実はある人を探してるんだけど…」

 

 アルフは通行人に禅の特徴を事細かに伝える。

 しかし帰って来た答えは当然と言うか『知らない』との事だった。

 

 「そうかい。悪かったね」

 

 一言謝ってからアルフは別の人に情報を求めに行く。

 だが悲しいかな。ゲーム開始時に支給された携帯を使えばすぐにでも禅と連絡が取れるという事に気付かないのは。

 そして…

 

 「…何だったんですの?」

 

 今アルフが話し掛けていた人物こそ、このミッションにおいて捜索対象となっていた正義の魔女(ジャスティスウィッチ)くえす本人だったという事に。

 何も知らない、気付かないアルフはこうして移動しながら禅を捜索するのだった………。

 

 

 

 「んー…くえすいねえなぁ」

 

 「おらんねぇ」

 

 勇紀、ジークの長谷川兄妹はこそこそと人目を避ける様に移動しながら目的の人物を探していた。

 

 「あー…夢の内容を鮮明に覚えてたらこんな苦労しなくて良かったんだけどなぁ」

 

 「目ぇ覚ましたら内容忘れてるなんてよくある事やもんねぇ」

 

 くえすがどこら辺をうろついていたのかを思い出せない勇紀は地道に捜索せざるを得なかった。

 その勇紀に付き従うジーク。

 2人の現在の場所は翠屋周辺。

 通行人の姿をちらほら見掛ける程度でハンターはいない。

 

 「海鳴市全域が舞台だから遭遇率が半端無く低すぎる」

 

 「どこか一ヶ所でジッとしてくれてたらええのにねぇ」

 

 長谷川兄妹はそんな事をぼやきながらハンターを警戒し、住宅街に出る。

 そこで2人は自分達と同じ立場の逃走者2人を見付ける。

 

 「理子さん?」

 

 「フェイトちゃんもおるよ」

 

 視界に捉えた金髪ツインテールコンビ。

 だがどこか様子が可笑しい。

 

 「ねぇ…早く移動しない?ハンターに見付かっちゃうよ」

 

 「ううぅぅぅ……砲撃……砲撃怖いよぉ……」

 

 何故か道端で体育座りをしながらブルブル震えてるフェイトを理子が困惑しながらも移動しようと促していた。

 通行人の人達はそれをスルー。

 基本的に与えられた役割以上の事はしないエキストラだからだ。

 故に道端で少女の様子が可笑しくても一切関与しようとしない。

 

 「グスッ…ゼン……何処にいるの?1人は寂しいよぅ…」

 

 「いや…さっきから1人じゃなくて私も一緒にいるんだけど…」

 

 理子の言葉は今のフェイトには届かない。

 その様子を見かねた勇紀が2人に接触する。

 

 「あのー…理子さん、どうしたんですか?」

 

 「あっ、勇君丁度良かったよ」

 

 勇紀に声を掛けられ、振り向いた理子が笑顔を浮かべる。

 

 「実はさっきからこの子…フェイトちゃんの様子が可笑しくって」

 

 理子は語る。

 なのハンターが放った先程の光の柱を見てから、フェイトが何かに怯える様な様子を見せ始めて今に至る、と。

 その言葉を聞いてリリカルなのはの原作知識を有し、禅達の世界について若干聞き及んでいた勇紀はすぐに悟った。

 

 「(…トラウマ再発か……)」

 

 怯える様を見せるフェイトに勇紀は同情を込めた視線しか送れなかった。

 あんなモノ(スターライトブレイカー)を食らってトラウマにならない方が可笑しいとしか思えない。てかならない奴がいるのだろうか?

 勇紀でさえ、鋼鉄乙女(アイアンメイデン)を使って肉体、精神共に守らねばヤバいかもと思うぐらいなのだ。

 

 「うぐっ…えぐっ…」

 

 遂には目元に涙が溜まり始める。

 このままでは涙腺が決壊し、泣き出すのも時間の問題。

 ここで大泣きしても通行人は目もくれる事は無いが、泣き声をハンターに聞かれると即座にやってくるだろう。

 

 「…なぁフェイト。そんなに禅に会いたいなら、ゲーム開始時に支給された携帯を使って本人に今いる場所を聞けば良いんじゃないのか?」

 

 「っ!!?」

 

 勇紀が言うと即座に顔を上げるフェイト。

 『その発想は無かった!』と言わんばかりの表情を浮かべており、すぐさま携帯を取り出す。

 禅の番号を見つけ、耳に当てる事数コール…

 

 『もしもし?』

 

 彼女の意中の人物である橘禅が電話に出てくれたのだ。

 

 「ゼン!!ゼンだよね!!」

 

 『はいはーい。可愛い子に癒しを与える少年、橘禅君ですよー』

 

 「良かった…まだ脱落してなかったんだね。ホント良かったよぅ」

 

 目元に溜まった涙を指で拭い、安堵するフェイト。

 脱落した時点でその旨を知らせる通知メールが届くのだが、すっかりフェイトはその事を忘れている様子だ。

 もっとも、禅が脱落したという事を知ればフェイトはどうなるのやら…。

 

 「それでね。ゼン、今何処にいるの?」

 

 『うん?さっきまで八束神社で身を潜めようと思ってたんだが、上空に佇んでる破壊魔(なのは)さんが建物を綺麗に掃除してくれちゃってな。新たな隠れ場所と正義の魔女さんの捜索を行ってるんだ』

 

 「そうなんだ」

 

 『そういうフェイトこそ、今何処にいるんだ?』

 

 「えっと……」

 

 フェイトは自分達のいる場所と、勇紀、ジーク、理子がいる事を説明する。

 そしてくえすの容姿について勇紀が教えようとしたが、禅の側にはキリエもおり、くえすと一度会った事のあるキリエから特徴を聞いて既に知ってるとの事。

 

 「ねぇゼン。私と今から合流出来ないかな?」

 

 『んあ?そりゃ構わないけどハンターに見付からず来れるか?』

 

 「大丈夫だよ!私、スピードには自信あるんだから!」

 

 その自慢のスピードもこのゲームでは身体能力の制限で発揮出来ないのだが、禅と今から合流出来るのが余程嬉しいのだろう。

 これ等についても完っっっっっっ璧に忘れている。

 勇紀、ジーク、理子の3人はその事を指摘しようとしたのだが、せっかく表情を明るくさせたフェイトに言うのは気が引けるのか誰1人として言う事は無かった。

 程無くして電話を切ったフェイト。

 

 「じゃあ、私はゼンの所へ行きますね」

 

 上機嫌でスキップしながら俺達から遠ざかっていくフェイト。

 丁度曲がり角を曲がろうとした所で

 

 「……………………」

 

 曲がり角の方からやってきたハンター(ユーリ)と遭遇した。

 

 ポン

 

 無言でフェイトの肩を叩くハンター(ユーリ)

 

 「……え?……あれ?」

 

 フェイトは自分に何が起きたのか理解出来ていない。

 

 ガシイッ!

 

 そして両手両足を拘束され、成す術も無いフェイトになのハンターからの天誅が下る。

 

 「ね…ねぇなのは。私達、親友だよね?その収束した魔力、撃ってきたりしないよね?」

 

 確かに親友だが、それはフェイト達の本来の世界にいる高町なのはの事である。

 上空にいるなのハンターはフェイトの知る高町なのはとは別人だ。

 

 「……フェイトちゃん、受けてみて。この…ディバインバスターのバリエーションを!」

 

 「そ、そうだ!元の世界に帰れたらなのはとユーノが恋人同士になれる様に私も協力するよ!見返り無し、無条件で手伝うよ!」

 

 「私の想いを全てこの一撃に……」

 

 「な…なのはぁ……」

 

 先程までの笑顔だったフェイトの表情が再び涙ぐんだ表情(モノ)に変わる。

 

 「……さようなら、『痛姫』様」

 

 「『痛姫』様って何の事!!?」

 

 『リリカルなのは』とは全く違う別作品のゆかりんキャラが奈々様キャラに対しての呼称だと、フェイトが知る由も無いのは当然である。

 

 「全力全開ぃ……」

 

 「あ…あぁぁ……」

 

 「スターライトォ……ブレイカーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 

 「い…嫌あああああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!」

 

 フェイトの悲鳴が住宅街に響き渡る。

 ちなみに勇紀、ジーク、理子の3人は…

 

 「(フェイト…すまん)」

 

 「(堪忍やで、フェイトちゃん)」

 

 「(迷わず成仏してね)」

 

 フェイトがハンター(ユーリ)に肩を叩かれた瞬間には既に逃げ出していた。

 そのまま残っていたら爆☆殺トラウ魔砲(スターライトブレイカー)の余波に巻き込まれ、確保同様の扱い…失格になってしまうからだ。

 尚、今回のなのハンターは珍しく喋っていた。

 これは彼女にとって縁のある人物に天誅を下す場合にのみ聞ける特殊台詞だったりする。

 こうして彼女(フェイト)は最愛の(ヒト)に会う事無く、平行世界の親友(なのは)の手によってゲームの舞台を降ろされたのだった………。

 

 

 

 残り時間=77分15秒。

 『フェイト・テスタロッサ』爆☆殺(しっかく)

 残りの逃走者=16人。

 

 

 

 「おーおーおーおーおー。またもや物騒な光が降り注ぎましたなぁ」

 

 住宅街の一角に落とされた爆☆殺トラウ魔砲(スターライトブレイカー)を見て呑気に言う禅。

 八束神社で一緒にいた白雪、キリエとは『正義の魔女(ジャスティスウィッチ)くえすを探す』という理由で先程別々の場所へ散り、その直後に掛かってきた電話の相手、フェイトと落ち合うために移動してる最中だった。

 集合場所は禅とフェイトが自分達の世界で通学している小学校、聖祥の正門前である。

 

 ピリリリリリ…

 

 メールだ。

 多分さっきの犠牲者の情報がきたんだなと禅は思い、メールを読み上げていく。

 

 「何々……『フェイト・テスタロッサ爆☆殺。残り逃走者は16人』……そうか、フェイトは捕まったのか…………ん?……フェイト?…………フェイトだとおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」

 

 何度もメールを読み返すが、その通知は誤報ではなく事実を書いた短い一文である。

 

 「そ、そんな…じゃあさっきの爆☆殺トラウ魔砲(スターライトブレイカー)はフェイトに放たれたモンだってのかよ…」

 

 これで禅とフェイトは合流する事が出来なくなってしまった。

 

 「フェイト…お前の仇はちゃんと取ってやるからな」

 

 禅は空にいるなのハンターを睨みつける。

 

 「元の世界に帰ったら覚えてろよ、なのはああぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 そして怒りの矛先は何故か自分達の世界にいる高町なのはに向けられていた。

 尚、禅達が元の世界に帰りなのはに仇討ち出来たのかどうかは不明である。

 だが、ここで叫んだのは失策と言えよう。何故なら…

 

 ダダダダダダ!!

 

 ハンター(シュテル)に見 付 か っ た。

 

 「うおっ!?破壊魔(なのは)さんのそっくりさんがコッチ来る!?」

 

 慌てて逃げ出す禅。

 入り組んだ道を縦横無尽に駆け回ってハンター(シュテル)を撒こうとするが、中々振りきれない。

 そうして追い付かれそうになった時、前方に人影が見えた。

 

 「「ちょ!?何でコッチ来るのよ!?」」

 

 アリア&クルミである。

 突然自分達の方向にハンター(シュテル)を引き連れて逃げてくる禅を見て目を見開き、コソコソとしていた態度を一変し、逃走モードに移行する。

 

 「このクソガキ!!アンタ私に何か恨みでもあんの!?」

 

 「んなもん無いッスよ!!逃げた先にお二方がいただけの話ッス!!」

 

 「何でコッチに逃げて来たのよ!?他の方向へ逃げなさいよ!!」

 

 「コッチ来たのだって偶然ッスから!!」

 

 2人のくぎみーに挟まれながらも逃げる禅と、増えた逃走者達を追い掛けるハンター(シュテル)

 目の前には左右に別れる道。

 禅とクルミは左に、アリアは右に曲がりハンター(シュテル)が追い掛けたのは…

 

 「ちょ!?アンタのターゲットはアッチに逃げたでしょ!!」

 

 右側に逃げたアリアだった。

 文句を言うアリアだが、ハンター(シュテル)は無言で追い掛けるだけ。

 

 「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

 徐々に息が切れ始め失速するアリアに対し、ハンター(シュテル)は息一つ切らしてすらいない。

 

 「ぐっ…武器さえ使えたら…」

 

 このゲームで自らが持つ銃器類が一切使用不可能のため、迎撃する事は叶わない。

 

 「こっ……にゃあっ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げ、アリアは躓いて転倒した。

 そして立ち上がろうとするよりも早く

 

 ポン

 

 ハンター(シュテル)に肩を叩かれ、失格に。

 

 「くうっ…私が捕まるなんて」

 

 アリアは悔しそうに唇を噛み締める。

 

 ガシイッ!!

 

 「んにゃあっ!?」

 

 そして裁きは下される。

 

 「あああ、アンタ!!武偵の私に対してこんな無礼を働いてたたた、タダで済むと思ってるんじゃないでしょうね!?公務執行妨害で逮捕するわよ!!」

 

 震える声で言うアリアだが、遥か上空にいるなのハンターに聞こえる筈は無い。

 

 「全力…全開ぃ……」

 

 徐々に溜まり、膨れ上がっていく魔力の塊を見て顔をどんどん青褪めていくアリア。

 

 「こここ、交渉しない!?ここで私を見逃がせば今回の件は不問にしてあげるわ!!どど、どう!?悪くないでしょ!!?」

 

 「スターライトォ…」

 

 「ひっ!」

 

 「ブレイカーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

 「た…助け………」

 

 爆☆殺トラウ魔砲(スターライトブレイカー)に呑み込まれたアリアの悲鳴は最後まで聞く事が出来なかった。

 ツンデレ武偵は少年に引っ張られた形で現れたハンター(シュテル)のせいで脱落した………。

 

 

 

 残り時間=75分48秒。

 『神崎・H・アリア』爆☆殺(しっかく)

 残りの逃走者=15人。

 

 

 

 「ようやく見つけたぞ、くえす」

 

 「???誰ですの?」

 

 とある場所にて。

 商店街に現れたハンター(レヴィ)から逃げ切った優人、緋鞠、静水久は目的の人物であるくえすを見付ける事が出来た。

 

 「『誰?』…じゃと?お主、ふざけておるのか?それとも脳の許容量があまりにも少ないのか?」

 

 「…初対面の相手に対して随分と無礼な物言いですわね」

 

 緋鞠とくえすは互いに睨み合う。

 

 「緋鞠、多分このゲーム内でのくえすは俺達の事を知らないって設定になってるんだと思うぞ」

 

 「ここは長谷川勇紀の夢の中。目の前の女は本人とは似て非なる存在…なの」

 

 優人と静水久はくえすが自分達の事を知らないのも当然だと理解している。

 あくまで目の前のくえすはゲームの登場人物として与えられた役割を演じるだけの存在としてここにいるのだから。

 

 「初めまして。アンタが『正義の魔女』さんで間違い無いよな?」

 

 「如何にも。私こそが鬼斬り役十二家の1つ、『神宮寺家』の跡取り娘にして正義の魔女(ジャスティスウィッチ)くえす様ですわ」

 

 「…鬼斬り役という設定は活きているみたい、なの」

 

 「それなのに同じ鬼斬り役である若殿の事は知らぬ、と。矛盾しとるのぅ」

 

 全くである。

 

 「その正義の魔女さんにお願いがあるんだ。実はあの空に浮いている人を撃ち落としてほしいんだけど…」

 

 「???」

 

 優人に言われるまま上空を見上げ、眉を顰めるくえす。

 

 「アレは…危険ですわね。相当に大きな魔力を有しているみたいですし」

 

 『私並の魔力はありますわね』とはくえす談。

 

 「お願いします。このままだと街が大変な事になるんで」

 

 正確に言えば遮蔽物が減っていき、逃走者にとって不利になっていくだけなのだが。

 

 「仕方ありませんわね。困っている一般人を救うのも正義の魔女の務め。私が何とかしてあげましょう」

 

 「…だから若殿は一般人ではなく鬼斬り役じゃと言うのに」

 

 「猫…言うだけ無駄、なの」

 

 若干テンションが上がり気味のくえすを見ながら口にする緋鞠と静水久。

 だが、これでやっとなのハンターを墜とす事が出来ると思いきや、予想だにしない事態が。

 

 「ではこの街で特に広くてそこそこ高い位置の場所へ私を案内なさい(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 「「「は?」」」

 

 3人共くえすの言葉を聞いて目が点になる。

 

 「どうしましたの?」

 

 「いや…アレを何とかしてくれるんじゃ…」

 

 「勿論どうにかして差し上げますわ」

 

 「それと広くて高い場所に連れてけというのは何の関係が?」

 

 「こんな街中では狭すぎて大魔術を行使出来ませんもの」

 

 「だからその場所へ連れて行けという事、なの?」

 

 『えぇ』と短く返事をするくえすに対し、優人達は若干混乱していた。

 何せくえすに会えばミッションはクリア出来ると思っていたのに、まさかの場所移動を要求されたのだ。

 風芽丘に通っているとはいえ、海鳴市に住んで居ない優人達は街の地理に詳しくない。どこに広くてそこそこ高い場所があるのかなんて全く知らないのである。

 

 「い、いや!落ち着け。こういう時は勇紀に聞くのが1番だ!」

 

 ポケットから携帯を取り出して、勇紀に掛ける。

 

 『も…もしもし…』

 

 「ゆ、勇紀か?俺だ?」

 

 『はぁ…ふぅ…優人か?ふぅ…どうしたんだ?』

 

 「あ、あぁ…ちょっと聞きたい事があるんだが、どうしたんだ?やけに息が切れてるけど」

 

 『さっきまで…はぁ…ハンターから逃げててな…』

 

 優人はその言葉で勇紀が息切れしてる理由を察した。

 今、勇紀は身を隠しながら体力の回復に専念してるとの事。

 他に一緒にいたメンバーとははぐれたんだと。

 

 『で?聞きたい事って何だよ?』

 

 「あぁ…実はくえすを見付けたんだが…」

 

 優人は現状を説明し、次に勇紀に尋ねる。くえすの提示した条件に一致する場所を。

 電話相手の勇紀は少し街の地理を脳内に浮かべ、ここだと思った場所を優人に伝える。

 

 『俺が思い浮かぶのは藤見台にある小高い丘だな』

 

 その場所こそ『リリカルなのはA’S』においてリインフォースが(そら)に還った場所である。

 『とらハ』原作だと高町士郎や月村の両親、アリサ・ローウェルが眠る墓地のある場所だが、この世界では墓地は無い。『リリカルなのは』の世界観が優先されている証拠の1つだろう。

 

 「そこにはどうやって行けばいいんだ?」

 

 『それはだな…』

 

 優人は勇紀から藤見台の丘までの場所を聞き、『ありがとう』と告げて電話を切る。

 

 「若殿、目的地は分かったのか?」

 

 「ああ、勇紀が言うにはこの街のとある場所にある丘じゃないかって」

 

 「そこへこの女を連れて行けばミッションクリアになる、なの?」

 

 「多分な」

 

 「では早速向かうとしようぞ。おいくえす、私達に着いて来い」

 

 「本っっっ当に偉そうな女ですわね。何様のつもりですの?」

 

 とことん緋鞠とくえすは相性が悪い様だ。

 

 「け、喧嘩すんなって2人共。今はミッションに集中しようぜ」

 

 「……若殿に免じてここは引いておいてやる」

 

 「ははは……えと、正義の魔女さん。俺達に着いて来て下さい」

 

 優人達がくえすを連れて行こうとした時

 

 ダダダダダダ!!

 

 ハンター(ディアーチェ)に見 付 か っ た。

 

 「っ!?優人!!猫!!ハンターが来た、なの!!」

 

 「げぇっ!!」

 

 「タイミング悪すぎじゃろ!!」

 

 くえすを放置し、逃げる事を優先した3人。

 そんなくえすの真横をハンター(ディアーチェ)が通り過ぎ、くえすは置いてきぼりにされた。

 住宅街を抜けて海鳴市の駅前に逃げてきた。

 ここで優人は再び商店街方面へ、緋鞠は風芽丘方面へ、静水久は翠屋方面へと別れた。

 ここでハンター(ディアーチェ)が追い掛けたのは…

 

 「っ!?コッチに来るな、なの!!」

 

 静水久だ。

 彼女は通行人を上手く壁代わりに使いながらハンター(ディアーチェ)から逃れようとするが、通行人の姿が無くなってからは徐々に距離が縮まっていく。

 

 「うぅっ!!身体が重くなければ…妖力が使えればどうにでもなるのに、なの」

 

 必死に走り、路地に入るが

 

 「っ!!?行き止まり、なの!?」

 

 目の前の道は先がなかった。

 

 ポン

 

 そして背後から肩を叩かれる。

 

 「はぁ…はぁ…そんな……なのっ!!?」

 

 息が激しく切れている最中に両手足を拘束される。

 インターバルすら許さず罰を与えるのがなのハンターなのだ。

 

 「全力…全開ぃ……」

 

 「や…止めろ、なの。私がお前に何をした?なの」

 

 「スターライトォ……ブレイカーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 

 「な………なのおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!!!!!」

 

 静水久が叫んだ直後魔力の奔流に呑み込まれ、着弾と同時に起きる大爆発。

 もうこれで爆☆殺トラウ魔砲(スターライトブレイカー)の犠牲者は4人目だ。

 現実世界のなのはならこれだけ短い間隔で収束魔法(ブレイカー)を撃てば間違い無く身体に凄まじい負担が掛かる。

 そのデメリットが無いなのハンターは正に『魔王』の称号が相応しいだろう………。

 

 

 

 残り時間=72分06秒。

 『静水久』爆☆殺(しっかく)

 残りの逃走者=14人。

 

 

 

 あれから誰もくえすに会う事が出来なかった逃走者達。

 そのまま残り時間が70分を切ってしまい、生き残っている逃走者全員に通知メールが届く。

 

 「『ミッション失敗。ゲーム終了時までなのハンターは存在する事が確定した』……かぁ。キッついなぁ」

 

 そんなメールを読み上げたのは勇紀の義妹、ジークである。

 彼女は勇紀、理子ともはぐれ、現在はハンターに怯えながら海鳴市の図書館前にいた。

 

 「うぅ…何処に行ったのかなぁ?」

 

 そんなジークの前に困った様子でオロオロする人がいた。

 

 「アレって…くーちゃんの飼い主さんや」

 

 ジークはオロオロする人物…神咲那美に視線を向けた。

 元はルーテシアと仲の良かった久遠(子狐形態)と仲良くなろうとした過程で出会った人物である。

 最初こそは遠慮がちにしか接する事が出来なかったが、今では気兼ね無く接する事が出来、久遠にも勇紀、ルーテシア程に懐かれているのである。後、久遠が人型になれるのも知っている。

 そんな久遠の飼い主である那美さんが何故オロオロしてるのか理由を聞こうと思ったジークは那美の元へ歩み寄る。

 

 「那美さん那美さん、どうしたんですか?」

 

 「うー……久遠が何処かへ行っちゃったんだよ。何処にいるか知らないかな?」

 

 「くーちゃんですか?それやったらさっき翠屋の前にいるの見ましたよ」

 

 ジークは勇紀達とはぐれてから逃げてる最中、翠屋の前を通ったのだがその時に久遠が子狐形態でいたのをしっかりと確認している。

 本来なら久遠に話し掛けるのだが、その時はハンターに見付かるとヤバいと思っていたのでジークは久遠に関わらなかったのだ。

 

 「翠屋に?うん、分かった。早速向かってみるよ」

 

 久遠がいる場所が判明し、ホッとするのと同時に那美は翠屋の方へ歩き出そうとして立ち止まり、ジークにある物を手渡した。

 

 「これ、久遠がいる場所を教えてくれたお礼だよ。じゃあね」

 

 バイバイと手を振って那美は今度こそ背を向けて去って行く。

 那美を見送ったジークはすぐさま那美に渡されたある物を見ていた。

 

 「これ…兄さんがやってるカードゲームのカード……やんな?」

 

 那美に渡された1枚のカード。

 ジークはこれを何に使うんやろ?としばらく疑問に思っていたが、結局答えは分からずじまい。

 とりあえずポケットにカードを仕舞って図書館前から移動する。

 このカードが後にジークを救う事になるとは当の本人は予想だにしていなかった………。

 

 

 

 ~~サイドストーリー~~

 

 最初のミッションが終わり、更に10数分程が経った。

 

 「脱落者は6人…一気にペース上がってるわね」

 

 「そうだね」

 

 アリサとすずかはモニターから視線を外さないまま会話を交わす。

 

 「なのハンターの稼働は現在の所問題無し…と♪」

 

 技術主任のプレシアはなのハンターのデータ収集をしながらも、安定して稼働してる事に満足気の様だ。

 

 「これで残りの逃走者は13人……このままだと案外全員捕まっちゃうんじゃない?」

 

 「どうだろうね?なのハンターがいくつか建物を破壊してるっていっても、海鳴市は広いし街を徘徊するハンターも4体だけだから」

 

 「別にこの企画(ゲーム)を盛り上げてくれるなら全員捕まろうが、誰かが逃げ切ろうが構わないけどね」

 

 「じゃあ、盛り上げる要素として…次のミッションいっちゃう?」

 

 「良いわねぇ」

 

 アリサとすずかは笑顔……実にイイエガオを浮かべ、ミッションの準備をする。

 

 「プレシア、新しいハンターが9体完成しましたよ」

 

 そこへハンター製造工場に行ってたリニスが戻って来た。

 

 「そう…ならすずかちゃん、次のミッションに完成したハンターを追加して貰えるかしら?」

 

 「分かりました」

 

 「それからなのハンターなんだけど……」

 

 プレシアがなのハンターについて話すと

 

 「採用します!!」

 

 更にイイエガオのすずかは了承し、メールを逃走者達の携帯に送信する。

 次のミッション、逃走者達は成功させる事が出来るのか?

 

 

 

 ~~サイドストーリー終了~~

 

 残り時間が55分を切った現在…。

 

 ピリリリリリ…×4

 

 「「「「メール?」」」」

 

 逃げていた逃走者達の勇紀、優人、キンジ、禅の男連中が海鳴警察署の側で集まっていたら一斉にメールを受信していた。

 4人は受信したメールを開き同時に読み上げる。

 

 「「「「『ミッション2発令。海鳴市在住の魔導師であり『最強の魔女』と称される『ワルプルギスの夜』をデコピン1発で倒したという屈指の実力者にして海鳴市内1番の美女『オトメ』さんが暗殺者の手により毒を飲まされ、生死の境を彷徨っている。彼女を助けるには『海鳴大学病院』で解毒剤を貰い、オトメさんに口移しで飲ませる必要がある。口移しで飲ませる事が出来るのは男性の逃走者本人か、オトメさんの恋人である『タカシ』君だけだ。男性逃走者が解毒剤を受け取り、直接口移しで飲ませるか、街のどこかにいるタカシ君を探して解毒剤を手渡し、彼に任せるかは逃走者達の判断に委ねる。尚、このミッションは残り時間が40分を切るまでに遂行出来なかった場合、失敗となる』……かぁ」」」」

 

 メールを読み終え、一息ついて

 

 「「さて、どうしようか?」」

 

 ミッション参加に悩む優人とキンジ。

 

 「俺はタカシ君を探そう」

 

 タカシ君捜索へと方針を固める勇紀。

 

 「海鳴市1の美女!?ならば助けないと!!ここでやらなきゃ男が廃るってもんだああぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!!」

 

 テンションUPUPで自分が口移しやる気満々の禅。

 三者三様の反応だった。

 だがこの今にも飛び出していきそうな禅に勇紀は待ったをかける。

 

 「おい禅、止めとけって。お前が思ってる様な人じゃないぞオトメさんは。それに見知らぬ相手に口移しなんてしたらフェイトやアルフさん、リインフォースが絶対に黙ってないと思うぞ」

 

 「何言ってんスか勇紀さん!!海鳴市1番の美女(・・)が!!今、正に苦しんでいるんですよ!!ここで退く様なヤワな男じゃないッス俺は!!例え、フェイト達に後でO☆HA☆NA☆SHIされようとも!!!困った人を助けるのが俺の信念ですから!!!」

 

 「…で、本音は?」

 

 「美女の唇俺が貰ったぁ!!!!」

 

 「(やっぱりか…はぁ…)」

 

 「「(何て正直なヤツなんだ。……漢らしい)」」

 

 禅の答えに勇紀は内心溜め息を吐き、その堂々とした回答にある意味尊敬していた優人とキンジ。

 

 「ていう事で橘禅、行っきまーーーーーーーーーーーっす!!!!」

 

 病院に向かって駆け出す禅。

 

 「……優人、キンジさん。俺達も病院向かいますか」

 

 「だな。解毒剤を手に入れないといけないし」

 

 「自分でやるにしろ、タカシ君とやらを探すにしろ、まずは病院に向かってからだな」

 

 禅の後を追い掛ける様に3人も海鳴大学病院へ向かい出す。

 そんな中、勇紀は禅が口移し出来ないだろうという事はほぼ確信を持っていた。

 彼は逃走者達の中で唯一、オトメさんの容姿を知る人物であるからだ。

 そしてメールに漢字で『漢女』と書かず片仮名で『オトメ』と表記してる辺りが、我が夢ながら酷いなと思うのだった………。

 

 

 

 「すんませーーーん!!!誰かいますかーーーー?」

 

 禅はハンタ-に出会う事無く海鳴大学病院に1番に辿り着いた。

 病院内に入り、薬局に到着する。

 今回はミッションのおかげで病院内に入る事が出来るのだ。

 

 「はいはーーい」

 

 薬局の前で人を呼ぶと奥から銀色の長髪を靡かせた女性が出て来た。

 

 「(うおっ!?リイン以外の銀髪さんだ!!しかも美人!!)」

 

 「???さっき声を上げたのは君?」

 

 「あっ、はいそうです!!橘禅って言います!!」

 

 「禅君だね。私はフィリス・矢沢だよ。気軽にフィリスって名前で呼んでね」

 

 「了解ッス、フィリス先生!!(美人の笑顔♪俺得俺得♪)」

 

 「それで今日は何か用かな?」

 

 「実は知り合いが毒を飲まされまして…解毒剤が欲しいんです」

 

 「解毒剤だね。ちょっと待っててね」

 

 一旦奥へ引っ込むフィリスだが、すぐに戻って来た。

 その手には瓶が握られており、中に液体が入っている。

 詳しい説明もせず、解毒剤を持ってきてくれたのはゲーム上の仕様とだけ言っておこう。

 

 「はいこれ」

 

 「ありがとうございます」

 

 禅は解毒剤を手に入れた。

 

 「それとちょいと聞きたい事があるんスけど…」

 

 「???何かな?」

 

 「この街に住んでるオトメさんって人の住所知ってます?」

 

 逃走者自身がオトメさんの所へ辿り着くにはこの街の人達に尋ねなければいけない。

 

 「オトメさん?ひょっとして海鳴市で1番美人のオトメさんの事かな?なら知ってるよ」

 

 「ホントッスか!?その人の住所教えてください!!(駄目元で聞いてみたがまさか知ってたなんて。どうやら運が良いな俺)」

 

 フィリスは快く頷く。

 最初の1人目でオトメさんの住んでいる家の住所が聞けたのは僥倖である。

 

 「えっと、この病院を出て……」

 

 禅はフィリスから道のりを聞き終え、頭を下げて礼を言うと病院を飛び出し、駆けていく。

 病院を出て数分…。

 これまたハンターに出会う事無く来る事が出来た禅。本当に運が良い。

 門が閉じられて中に入れないので彼がインターホンを鳴らすと中から2人のメイド服を着た女性が出迎える。

 

 「「どちら様ですか?」」

 

 「ちはーッス!解毒剤を届けに来たもんですけど」

 

 禅は解毒剤の入ってる瓶を見せる。

 

 「解毒剤!?」

 

 「本当に!?少し待ってね!」

 

 1人の女性が門を開ける。

 

 「お待たせ。さ、入って入って」

 

 「お邪魔します」

 

 禅はオトメさんが住む屋敷の敷地内に足を踏み入れた。

 2人のメイドさんの後をついていく禅。

 

 「解毒剤を持ってきてくれたって事はこれでオトメさんが助かるんだね♪」

 

 「そうだね」

 

 「あのー…オトメさんっていう人はそんなに美人なんスか?」

 

 「そりゃあね。海鳴市では間違い無く彼女より綺麗な人はいないよ」

 

 「私達なんて足元にも及ばない程の美しさだよ。君もきっとビックリするよ」

 

 「いやいや、お二方も凄い美人さんだと俺は思いますよ」

 

 「そう?お世辞でもそう言って貰えると嬉しいかな」

 

 「お世辞で言ったつもりは無いッスよ。あ、お二人のお名前を伺っても良いッスか?(どっかで見た事あるんだよなぁ、この人達)」

 

 禅は自分を案内してくれるメイドさん達に名前を尋ねる。

 

 「私はフェイトって言うんだよ」

 

 「私はアリシア。フェイトのお姉ちゃんだよ~」

 

 「フェイトさんにアリシアさんッスか。………………ん?……フェイト?…………フェイトだとおおぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」

 

 本日、フェイトの名を叫んで二度目の絶叫である。

 

 「え!?マジで!?フェイトって成長したらこんなナイスバディになるの!?アルフやリインと遜色無いんだけど!?」

 

 フェイトの背中を見ながら驚く禅。

 

 「(しかもメイド服。こ、これは未来のフェイトのバリアジャケットなのか?…………悪くない。むしろグッジョブメイド服!!)」

 

 禅はメイド服のフェイトの姿をしっかりと脳内に焼き付ける。そしてフェイトの隣にいるアリシアについては総スルーしている。

 

 「着いたよ。ここがオトメさんの私室~」

 

 1つの扉の前で2人が止まった。

 

 「(い、いよいよ海鳴市で1番の美女とチッスを!チッスをするであります!)」

 

 心の中で禅は歓喜する。

 既に解毒剤は口の中に含み、スタンバイOK。

 後は口移しで飲ませるだけ。

 フェイト、アリシアに続いて室内に足を踏み入れ

 

 「あそこにオトメさんがいるから…早く解毒剤を飲ませてあげて」

 

 フェイトの言葉にコクリと頷く禅。

 解毒剤を口の中に含んでいる彼はリスの様に頬を膨らませていた。

 

 「(フェイト、アルフ、リイン、悪いな。けどこれは人助け…そう、人助けなんだよ)」

 

 一応自分に好意を抱いてくれている女性達の顔を思い浮かべ、心の中で謝罪しつつも禅はゆっくりとベッドに近付く。

 そこで彼が見たものは…

 

 「ぶるぁ…ぶるぁ…」

 

 荒い息遣いでうなされ、顔が汗まみれになっているチョビ髭を生やしたオッサンの顔をしたオトメ……そう、まさしく『漢女』であった。

 

 「ぶーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!」

 

 即座に口に含んでいた解毒剤を吹き出す禅。

 おかげでオトメさんの顔は自らの汗と解毒剤まみれだ。

 一瞬で禅はベッド前から部屋の出入口のドア前まで後退し、ブルブルと震えている。

 

 「ちょっと!?何してるの!?」

 

 「解毒剤は口移しで飲ませなきゃいけないんだよ!?」

 

 フェイトとアリシアは禅の行動を見てちょっと怒り気味。

 だが当の本人は凄い勢いで首を左右に振って拒絶する。

 

 「無理無理無理無理無理!!!こんなオッサンと口移しなんて無理!!!チッスなんて無理ッスよぉ!!!」

 

 「オッサン!?何て酷い事言うの!?」

 

 「オトメさんは海鳴市でナンバーワンの美女だって言ったでしょ!!性別は男じゃなくて女だよ!!」

 

 「何処が!?むしろワーストワンでしょアレ!!てか女!?あの容姿で!?」

 

 禅はオトメさんを指差しながら反論する。…が、フェイトとアリシア、オトメさん専属のメイドである2人は禅の言葉に激オコプンプン状態である。

 

 「君、怪しいね。本当にオトメさんを助けに来たのかな?」

 

 「直前までは助けようとしてたのに、ここへ来ての心変わり………はっ!?まさか君はオトメさんに止めをさしに来た刺客なんじゃぁ……」

 

 「いや…アレはここで殺しておいた方が世のため人のためになるんじゃぁ…」

 

 ついでに未だ見ぬタカシ君のためにもなると禅は思う。

 同時に『あんなオッサンを恋人にしたタカシ君とやらの精神は正常なのか?』と疑うのも無理はないだろう。

 だが、この一言がマズかった。

 フェイトとアリシアの警戒心がMAXになり、完全に禅の事を『オトメさんに止めを刺しに来た刺客』と認識されてしまったのだ。

 

 「オトメさんをやらせはしないよ!」

 

 「者共~出会え出会え~~!!!」

 

 フェイトはオトメさんを庇う様に両手を広げて仁王立ちで構え、アリシアが号令を飛ばす。

 

 「せ、戦略的撤退!!」

 

 ここにいてはマズいと感じた禅はすぐさま部屋を飛び出し、オトメさんの家を後にする。

 この直後、逃走者全員の元に通知メールが届くのだった………。

 

 

 

 ピリリリリリ…×3

 

 「「「あ、またメールきた」」」

 

 丁度病院前に着いた勇紀、優人、キンジだったが、いざ解毒剤を貰いに院内へ入ろうとした瞬間、メールを受信した。

 

 「「「『ミッション2失敗』……って、はあっ!?」」」

 

 あまりにも予想外な内容に驚く3人の声が見事にハモる。

 何せミッション失敗までの時間はまだあるのに、突如失敗と通達されたのだから。

 3人は混乱しつつも続きの文に目を通す。

 

 「『逃走者の1人がオトメさんを救うどころか止めをさそうとした事実が発覚。これによりミッション2は現時刻を以て強制終了。更に通常のペナルティ以上のリスクを課す事とする』」

 

 「『まず、街中に徘徊するハンターを10体追加。合計14体のハンターが君達逃走者を狙うだろう』」

 

 「『更になのハンターの制限を解除し、真の姿を曝け出させる。絶望せよ逃走者達。これが『管理局の白い魔神』として君臨する不屈のエース・オブ・エースにして『ネオ・ナノンゾン』と言っても差し支えないなのハンター、真の全力全開モードだ』……か」

 

 メールを読み終えた3人が一斉に空を見上げると

 

 「エクシード・ドライブ及びブラスターシステムの制限解除(リミットリリース)

 

 眼下にいる逃走者達には聞こえないが、確かになのハンターはそう呟いた。

 同時に光に包まれるなのハンター。

 やがて光が収まると、先程までのスーツ姿ではなく白色を基調とした服とロングスカート……『高町なのは』が纏うバリアジャケットであり、通常時ではなくエクシードモードを解放した時のデザインに変更されていた。

 が、相変わらずサングラスはつけたままである。

 ただ問題は他にある。

 まず、本来のエクシードモード時には無かった、背中に日輪を思わせる様な神々しいパーツが装着されている事。

 次にブラスタービットと呼ばれる浮遊物が4機、なのハンターの周囲に展開されている事。

 最後に、上空から街を見下ろすなのハンターの姿が

 

 「「増えてるーーーーー!!?」」

 

 1体から3体になっていた(・・・・・・・・・・・・)

 

 「あぁ…こんな内容だったっけ。増えたハンターって確かゴットバルト家の皆だったなぁ」

 

 驚く優人とキンジの側で勇紀はポンと手を打って今更ながらに夢の内容の一部を思い出していた。

 ハンターも10体追加された今、逃走者達にとってはますます不利な状況になっていく………。

 

 

 

 ~~第三者視点終了~~

 

 ~~現状~~

 

 残り時間 46分11秒

 現在の賞金額 525800円

 逃走者数 14/20人

 

 長谷川勇紀(逃走中)

 ルーテシア・アルピーノ(確保済み)

 ジークリンデ・E・長谷川(逃走中)

 アミティエ・フローリアン(逃走中)

 キリエ・フローリアン(逃走中)

 天河優人(逃走中)

 野井原緋鞠(逃走中)

 九崎凜子(爆☆殺)

 静水久(爆☆殺)

 遠山キンジ(逃走中)

 神崎・H・アリア(爆☆殺)

 星伽白雪(逃走中)

 峰理子(逃走中)

 水無月遥(逃走中)

 神無月葵(確保済み)

 葉月クルミ(逃走中)

 橘禅(逃走中)

 フェイト・テスタロッサ(爆☆殺)

 アルフ(逃走中)

 リインフォース(逃走中)

 

 ~~あとがき~~

 

 現実(リアル)世界のなのははエクシードモードを解放しても背中に『バリオン創出ヘイロウ』を装着なんてしていませんし3体に分裂もしませんし『ネオ・ナノンゾン』なんて呼ばれていません。

 あくまで勇紀が見た夢の中だけの仕様です。

 しかし『管理局の白い魔神』という呼び名は存在しています(笑)。

 数多くの二次小説では『悪魔』『魔王』止まりですが、この小説ではエクシードモードを解放したら『魔神』にまで呼称が昇華されるのです。

 それと次回からハンターに確保された逃走者達はStsのヴィヴィオと同じ様な目に遭います。

 


 
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