No.735533

紫閃の軌跡

kelvinさん

第31話 公都に集う武士(もののふ)

2014-11-06 23:39:51 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:3697   閲覧ユーザー数:3478

ユーシスとアスベルがアルバレア公爵家城館に向かった後、リィンらはレストラン<ソルシエラ>オーナーシェフのハモンドからの依頼である“食材の調達”のためにオーロックス峡谷道で一通りの食材を調達した帰り道……

 

「ん?あんなところで釣り人?」

「街も近いでしょうし、安全と言えばそうですが……」

「そ、そういうものなのか?」

「……(リィン、気付いた?)」

「(ああ……見事なまでに隙が無い。達人級と言っても過言じゃないかもな。)」

 

東口前の石橋で、呑気に川釣りをしている男性の姿―――そして、見事なまでに立派な魚を一匹釣り上げたところでリィン達に気付き、釣竿をしまって振り向いた。その第一印象は“インドア派”的な好青年。だが、その立ち振る舞いに隙が微塵にも感じられない。フィーにとっての“団長”、リィンにとっての“ユン師父”……二人がよく知る人物と同等位のクラスの人間であることは明白であろう……それを知ってか知らずか、青年が話しかけてきた。

 

「おや、その制服の意匠はトールズ士官学院のものみたいだけれど、赤い制服とは珍しいね。」

「えと、トールズ士官学院のことをご存じなんですか?」

「まぁ、僕もそこの卒業生だからね……っと、僕の名前は“ユーノ”とでも呼んでくれるかな?」

「え、ええ。そのユーノさんは何故ここに?」

「それなんだけどねぇ……笑わないで聞いてくれるかな?」

「どゆこと??」

 

ユーノと名乗った人物が語ったここにいる理由……それは、

 

「いや~、実は帝都やその近郊からまともに出歩いたことが無くてね……気が付いたら、ここに来ちゃって……で、連れが迎えに来るまで趣味の釣りに興じてたわけだよ。」

「いや、帝都の方が広くて迷うレベルなんですが……」

 

慣れない土地での“迷子”……ということらしい。これには帝都出身者であるマキアスが冷や汗をかきながら言葉を述べた。とはいえ、連れの人がここに来るという保証もないので、リィンらはその連れの人がどこにいるか尋ねると……奇しくも、レストラン<ソルシエラ>であった。

 

ともあれ、ユーノを連れてリィンらがレストラン<ソルシエラ>に戻ると、そのユーノの姿を見てふくれっ面をする女性が店の前に一人。彼の前に来ると明らかに怒ったような口調でまくしたて始めた。

 

「あ~!!もう、一人で出歩かないでって言ったじゃない!!心配したんだからね!!」

「ゴメンゴメン。今度埋め合わせするからさ……それにしても、そこまで心配してくれるなんて、相も変わらずの心配性だね。」

「は、話を逸らさないでよ!!…そうやって頭を撫でても………許さないんだからね。」

 

その女性の機嫌を取る様に柔らかい口調で喋りつつ、彼女の頭を撫でるユーノ。その行動に反論や文句は言うのだが……それに反して頬を赤く染めて俯いていた。この光景にはリィンらが呆気にとられていた……そのことに気づき、ユーノが改めて

 

「っと、君たちもありがとう。何かお礼をしたいところだけれど……」

「いえ、お気遣いなく。」

「ええ。僕達もここに用事がありましたので。」

「困った時はお互い様、だね。」

「そっか……君たちの方も頑張ってね。」

「あ、ありがとうございます。」

 

そう礼を述べて、立ち去るユーノと連れの女性……ふと、ルドガーが気になる質問をリィン達に投げかけた。

 

「そういえば、あの二人……恋人というには、かなり親密そうな感じがしたんだが?言葉というよりは、雰囲気から感じたことだが。」

「う~ん……私の予想だと、長年連れ添った夫婦みたいな感じでしたね。」

「ま、それだけじゃないみたいだけれど。」

「フィー?」

「……独り言って奴かも。」

「な、何だそれは……」

 

そう言葉を交わすリィン達……一方、先程の男女……“ユーノ”とそのお付きの女性は宿泊先―――職人街の宿で、言葉を交わしていた。

 

「それにしても……ユーノが“例のクラス”を見たいだなんて言いだした時は驚いちゃったけど。それで、どうだった?」

「悪くはないね。一人だけ飛び抜けた“例外”はいたけれど、見事なまでの“原石”だったよ。流石は息子の親友が見出した子たちだね。そういう“カレン”は、お気に入りの子とかいなかったのかい?」

 

印象としては悪くない……そう言いたげなユーノは、『カレン』と呼んだ連れの女性に尋ね返した。

 

「いるにはいたけれど、私のお気に入りになるにはまだまだね。とはいえ、あの子たちの成長具合からすると……教えてるのはサラっちあたりかしら?彼女、結構自由闊達にやらせそうだし。」

「御目がねが高いことで……そのサラという人とは知り合いかい?」

「昔の腐れ縁かな。……向こうにしてみたら、私はとっくに死んでると思ってそうだけれど。というか、ユーノもホント変わり者ね。」

「否定はしないし、何を今更。(………とはいえ、この優雅な街もひと波乱ありそうかな)」

 

ユーノが内心で呟いたその予測が悪い方向で当たってしまった……それは、マキアスがクロイツェン領邦軍に逮捕されてしまったことだ。

 

彼に掛けられた容疑はいくつもあるが、その最たるものは昨日の砦の侵入容疑……それはあくまでも建前で、本当の目的としては“革新派”の中核に位置するレーグニッツ帝都知事の息子を人質に取り、物事を優位に進めたい思惑から来るものだろう。そのために障害となりうるユーシスとアスベルを引き離したのだ。

 

そうなると領邦軍の行動は素早かった。リィンらの宿泊先のホテルの部屋に“調査”という名目で足を運び、色んなところに兵士を送り、捜査という名目でリィン等を監視する……あまり目立つ行動を控えるため、リィン達は職人街にある宿酒場で一度休憩することとなった。

 

一方その頃、レグラム方面から乗り場に到着する導力列車。

 

『バリアハート、バリアハートです。どなた様もお忘れ物がございませんようお降りください。ヘイムダル・ケルディック方面へお越しの方は……』

 

場内に流れるアナウンス……そして、列車から降りたのは一人の青年と一人の女性、そして一人の少女であった。駅から出ると、その光景に目を輝かせていた。

 

「ようやく到着ね、バリアハート。にしても、アスベルも災難よね……あの不良中年親父ってば、人使い荒くないかしら?」

「エステル、言いたいことは解るけれど……」

「フフ、面白い人だと思うわよ?尤も、この街も何だか不思議よね。“翡翠の公都”というより、“鋼の公都”って喩えがしっくりきそうな感じよ。」

「レン、君まで……」

 

アスベルの名を呟いた女性―――最年少でA級遊撃士となったエステル・ブライト。バリアハート全体を包んでいる不穏な空気を直感で掴んだように言い放ったのは『執行者』No.ⅩⅤ“殲滅天使”レン・ヘイワース。そして、そんな二人のブレーキ役となっている青年は元『執行者』No.ⅩⅢ“漆黒の牙”ヨシュア・アストレイ改めヨシュア・ブライト。

 

エステルとヨシュアの父親であるカシウスからアスベルがバリアハートにいることを知り……先日クロスベルで獅子奮迅の活躍を見せたばかりだというのに、身内に会いに来たいというエステルの提案で、ヨシュアとレンの三人で来たのだ。その彼等が駅から出た印象は……見たところ領邦軍の兵士らをよく見かける、という印象であった。

 

「見た感じ、兵士の数が多いわね……前に来た時はこんなに多くはなかったけど、何かあったのかしら?」

「……そうだ。確か、トヴァルさんがこの街に来てるはずだ。彼の行きつけの店に行ってみよう……もしかしたら、何か聞けるかもしれない。」

「それもそうね。あの人なら何か知ってるかもしれないし……レンもそれでいい?」

「レンは一向に構わないわ。寧ろ、その方が楽しそうな予感がするの♪」

「あはは……」

「レンの勘って滅多に外れないからね……そういったところは“調停”譲りなんだろうけれど。」

 

進んで面倒事に首を突っ込みたがるレンの性格に、エステルとヨシュアは二人揃って冷や汗をかいたという。これでいてかなりの実力者なのだから、尚恐ろしいことこの上ない。そうは言ってもエステルとヨシュアも“それなり”に修羅場を潜り抜けてきているのでかなりの実力者であることには違いないが。

 

「そういえば、ここに戻る前に<工房>に立ち寄ってたみたいだけれど……何かしてたの?」

「ちょっとしたお茶会よ。それに、気になる話も聞けたから。」

「気になる話?」

「ええ。第二柱と第七柱……“蒼の深淵”と“鋼の聖女”が花嫁修業のためにリベールに行っていたらしいのよね………フフフ、負けるつもりなんてないんだから♪」

 

そう話したレンの笑みは……まるで、背後に不気味ななにかを具現化させているような印象を強く受けた。一方、エステルとヨシュアの二人はその話を聞いて、一昨年の出来事を思い返しつつ小声で話した。

 

(ヨ、ヨシュア……それってあの時の話よね?)

(うん……ある意味“白面”と対決するよりも精神をすり減らしたからね。……決着がつくときは、世界の終わりかもしれない。)

(……内情を知ってるヨシュアが言うと説得力在りすぎるんだけれど……)

 

“蒼の深淵”と“鋼の聖女”と“殲滅天使”の三つ巴の戦い……それが終結するときは、世界の終焉なのではないかと、心のどこかで思ってしまったヨシュアであった。そして、それを聞いたエステルも引き攣った笑みを浮かべたほどであった。

 

 

その頃……アルバレア公爵家城館にいたアスベル……外は見るからに昼を少し過ぎたぐらいだろう。少し慌ただしい廊下……その様子からするに、マキアスが領邦軍に拘束されたとみて間違いないであろう。そして、扉が開かれて姿を見せた人物―――ユーシス・アルバレアの姿を見て、その推測は確信へと変わった。

 

「ユーシスか。」

「……人伝に聞いたが、あの男が捕まったらしい。俺はこのまま行動するが、お前はどうするつもりだ?」

「……そっちの方は任せる。こっちはこっちでやるべきことが出来た……リィン達にはそう伝えておいてくれ。」

「解った。お前ほどの人間相手ならそうそう遅れは取らんだろうな。正直言って、兄上と同格以上に感じた。」

「ふむ……そんなに強いのか?ルーファスさんって。」

「兄は宮廷剣術の達人だ。と、そんなことは後にして……あの男のようになるなよ?」

「そっちこそな。」

 

ユーシスはそう言って部屋を後にした。それを聞いたアスベルも行動を開始することとした。正直言って、先月の行動で懲りてくれていれば質実剛健たる帝国人の気風もあったのだが……それを期待している時点でダメな算段であったというべきなのかもしれない。

 

「ま、“お膳立て”はルドガーがやってくれるだろうから……こっちは“後顧の憂いを断つ”ことを優先するとしますか。」

 

彼を信頼しつつも、そのために行動するアスベル……リベールでの異変における“裏の立役者”―――その一端を、アルバレア公爵は垣間見ることとなる。

 

 

前半で出てきた二人ですが……その片方は『前作』の一人の愛称です。“見た目温和そうな人ほど実はヤバい”の味方Ver.です。敵Ver.はって?……エセ教授とか敏腕弁護士とか銀行家とかetc

 

そして、コメントで予測されてましたが三人の登場です。前もって言っておきますが、“彼”は出ません。だって……出すまでもなく戦車をスクラップにできる人がいますので(ヒント:<パテル=マテル>を投げた人)

 

私は優しいからな……“今は”叩き潰さないだけ感謝するといい。終わりの時は、せめて身内の手で幕を引かせてやろう。本当に慈悲に満ち溢れているな。(誰に対して優しいのかは、敢えて言わない鬼畜安定スタイル)

 

 

ここで、『前作』の小話を一つ。

 

『翡翠の刃』の団長“驚天の旅人”ですが、そもそも『翡翠の刃』自体直感でつけたもので、そのイメージも直感で選びました。その時は団長にああ言った設定を組み込む予定はなかったのですが……ランディの存在を見て『逆に裕福な家庭から転身した人も少なからずいるだろう』という反対の発想から、あのような設定を後付けで追加しました。

 

そういったキャラに対する愛着もあって、猟兵団に対するテコ入れは結構やってます。ある意味便利屋的存在だから困ります……その最たる存在が“闘神の娘”であり、ギルド襲撃事件の猟兵団投入ですが。

 

 

そういえば、『前作』の時は憶測混じりで書いていたのですが……よもや、“あの猟兵団”の得意戦法が焼き討ちだとは……それを知った時、『マジ!?』と声を上げたのは私だけでいいです。

 


 
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