No.734051

「真・恋姫無双  君の隣に」 第36話

小次郎さん

一刀の国、華国が建国される。
使者が各国を訪れ、王の器を持つ者たちに与えた影響は。

2014-10-31 22:22:56 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:16536   閲覧ユーザー数:10453

蒼天の下、楼閣の最上段から見える景色は、数え切れないほどの人で埋もれている。

昇ってきた階段の最上段の一段下から左右に、美羽と月を先頭に武文官達が段差ごとに並び控える。

幾許か経ち、静寂が訪れる。

全ての人が俺に注目する。

俺は剣を抜き放ち天に向け、言葉を放つ。

「我は北郷、天の御遣い也。今この時より、華国の建国を宣言するっ!!」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第36話

 

 

一刀を王とする新しき国、華国から使者が送られてきたわ。

建国に関しては左程に驚くことではないわ、それだけなら市井の者でも口にしていた事だから。

但し、使者が届けてきた大陸を統一後の建国書が無ければね。

「幾らなんでも無理よ、・・いえ、不可能じゃないわ。先の案件と組み合わせれば」

内政を行わせれば右に出る者のない桂花が驚嘆する内容。

「人口比率による役人や兵士の人員調整。確かにこれなら財政の管理もしやすいし、適正な人員を保てます」

天才的な軍略を持つ稟を刺激する新しい制度。

「主要都市を六つとして民に移住を促し、肥沃な土地を最優先に開拓して治水を行い国全体の食料生産率の増加。成程、先ずは大陸の基礎体力を立て直す訳ね」

分析能力に優れる詠は状況に最も適する判断が出来るわ。

「漢帝国の法をそのまま使われているものも多いが、権力を持つ者にとっての権限が殆んど削られている」

「自治領を持つ事の完全廃止か、本気で漢だけやのうて大陸中の諸侯に喧嘩売る気やな」

秋蘭と霞は、その気になれば標準以上の文官をこなせる知力を持つ。

そんなこの娘たちが食い入る様に書を読み解いている。

私も同じ、届けられてから書を手から離していない。

あくまで草案らしいから、建国書としてはまだまだ手を加える点が多々あるけど、非常に興味深いわ。

自分以外の王は作らず、法の下に世を統治する、さながら始皇帝ね。

たいしたものだわ、戦乱の世となって王を名乗る者は他にも現れるでしょうけど、具体的にどんな国を創るのかを明記して公表するなんて、貴方以外はありえないでしょうね。

私も考えていなかった訳じゃないしね、私の国、魏国を名乗り挙げる時に改めて国の在り方を表明するつもりだったわ。

むしろ明確な意思表示の出来ない王や国など、私にとって路傍の小石に等しいわ。

・・本当に貴方は私の心を捉え続けるわね。

逃がさないわよ、一刀。

どんなに一人で先に進んでいても貴方の背中を見逃したりしない。

貴方には私の隣に居てもらうのだから。

「貴女達、暫く休める時は無いと思いなさい。我等も早急に建国案をまとめ世に示すわ。全ての官に一刀の建国案を読ませ意見を出させなさい。当然予定している麗羽攻略の準備を並行させてよ!」

「「「「「御意」」」」」

「桂花、一刀に使者を出しなさい。洛陽へは我が軍も同行すると」

「よろしいのですね?離反者が出ますが」

「今の貴女が全身から表している決意を持つ者こそ、私に相応しい者達。新しき時代を築く者たちよ!」

「直ちに!」

一刀、貴方一人を悪役にしないわ。

それにしても、華国、建国書、他の諸侯はどんな顔をしてるかしらね。

 

 

書を読みながら杯を傾ける、こんな風にお酒を味わうのは初めてね。

美味しくないし、全然酔えない。

私が目を通しているのは、三日前に届いた一刀からの建国書。

その中にある、長江と黄河を主とした大陸中を繋ぐ水上網をつくり、外洋への道を開く造船の研究などを織り込んだ国家水軍の創設の項。

一瞬夢を見たわ、大海原に向けて船を進める自分の姿を。

王である私にはありえない夢を。

「雪蓮、そろそろ止めておけ。美味い酒ではないのだろう?」

お酒を飲みながら国事に関わる書を読んでるのに、怒りもしないで冥琳が優しく声をかけてくれる。

「そんな事無いわよ。だって一刀が墓穴を掘ったのよ、自ら逆賊の汚名を被ったんだから。洛陽に攻め込むって期日まで指定してね」

建国だけならまだ分かる、領土がまとまり大きな力を生むから。

でも、直ぐに漢に対して宣戦布告するなんて!

どうしてそこまで出来るの?

通常なら漢の追求をのらりくらりかわして、逆らえない勢力を作ってから禅譲を迫って名を汚すのを避けるのに。

一刀が分からなかったとしても周りが気付くはずよ、それなのに。

「一刀は滅ぶわ。全てを敵に回したんだから」

「本当にそう思うか?では、お前は御遣いに攻め込むのか?」

「私達は揚州に攻め込むのが既に決まってるじゃない。今更、変更出来ないわよ」

「漢は全諸侯に御遣いを討てと勅を出しているだろう。近いうちに届くはずだ。それでもか?」

冥琳は穏やかに問いかけてくれる、強がらなくていいと言外に込めて。

「・・勝てる訳無いじゃない。大陸全ての民の事を考えて、汚名を着る事も躊躇わず、敵である者達にすら好かれる。そんな一刀に、小さな夢しか持てない私が敵うはず無いわ」

孫家の夢、仲間や民を家族のように想い笑っていられる国。

私はその夢を誇りに思って戦ってきたわ。

それなのに、今はこんなにも色褪せてる。

大陸統一後の新国家の樹立、その姿を示す建国書、一刀は夢を語ってるんじゃない、現実として成し遂げようとしてる。

孫家の夢なんて一刀と比べたら、子供の空想に等しい。

「雪蓮、お前の夢は小さくなどないよ。誇りに思っていい事だ。私も皆も、だからこそ戦えたんだ」

 

 

凄い。

何度読み返しても、凄いとしか思えないよ。

特に私が気になったのは教育と医療の事だった。

「ねえ、朱里ちゃん、雛里ちゃん。この学校というのは水鏡塾に比べてどう違うのかな?」

私も蘆植先生に師事してたけど書いてあるののとは全然違うから、他ではどうなのか聞いてみよう。

「全く別のものと言っていいと思います。そもそも国が民に学ぶ事を勧めるなんて聞いた事もありません」

「く、国は民に教育しようなんて考えませんでした。学ぶ事で民に力を持たせたくなかったですから」

「それじゃ、学校が出来たら」

「全ての人が、最低限の字の読み書きを、簡単な計算を出来る事になります」

「ひ、人にとってそれは大きな武器になります。解らない事を知るというのは、自分の身を守る事に繋がりますから」

自分で身を護れる、それって耐えるだけじゃなくなるって事だよね。

それにお昼ご飯も出すって書いてる、凄い!

「じゃ、じゃあ、この病院ていうのは?」

「国が管理する大きな医療施設ですね。鍼や薬草といった医療知識を学んだ者が常駐して、何時でも誰でも治療が受けられるとの事です」

「でも、治療費って高いよね、払えない人もいるんじゃないかな?」

「ざ、財源は徴収される税に含まれるようです。治療を受ける時には治療費の一割だけ払えばいいとなってます」

という事は、一回分の治療費で十回も受けられるんだ!

「ねえ、これって今すぐにでも出来ないかな?」

絶対に皆が喜ぶよ。

「・・それは無理です。御遣い様も優先順位を定められてます。先ずは食の確保に力を入れて、世が安定しはじめてから取り掛かると。大陸全土に設置するには、二十年はかかるとも書かれています」

「い、医療の知識を持つ者を増やす為には学ぶ環境が必要です。ですから生活を良くして、学ぶ時間をつくり、医療に限らず様々な分野で活かせる知識を学校で身につける。・・二十年でも果たして足りるかと疑問です」

そうだよね、いけない、また簡単に考えちゃった。

一歩一歩進んでいかなくちゃ。

「桃香様、朱里、雛里。今はそのような事を話し合ってる場合では無いでしょう。御遣いは洛陽を攻めると宣言してきたのですよ。一刻も早く洛陽に駆けつけて陛下をお守りせねば。そしてよい機会です、今こそ劉姓の一族として桃香様が名乗りを挙げ御遣いを退けば、漢は厚く桃香様を遇する事でしょう」

 

 

「皆さん、本日より我が袁家は、仲国として建国しますわ。大陸中に知らしめなさい」

「姫様っ!」

「おお、すっげえ!」

「素晴らしい御決断です、既に滅んだも同然の漢に付き合う必要はありません」

「フン、勝手にしろ」

「ちょ、ちょっと待てよ、麗羽。新参の私が言うのもなんだけど、いきなり建国なんて出来る訳無いだろう」

あら、白蓮さんはわたくしの偉大さが分かってませんわね。

一刀さんは一見で見抜きましたのよ。

「そんな事はありませんわ。三州を支配下に置いて大陸で有数の勢力を持ち、その名を大陸に轟かします名門袁家。何より、このわたくし、袁本初が天子となりますのよ。むしろ遅すぎたくらいですわ」

「だから、私が言いたいのは何の準備も告知もしてないのに、いきなり仲国なんて言われても何の事か誰にも分からないじゃないか」

「でしたら早急に準備なさい。白蓮さん、貴方はわたくしに比べれば凡庸ですけど、何事も卒なくこなしますから助命して採り立てたのですわ」

「それは感謝してるけど、・・はあ、もういいよ。斗詩、私は何をすればいい?」

「白蓮さん、よろしくお願いします。お気持ちはよく分かりますから、一緒に頑張りましょう」

斗詩さん、何が分かるのですの?

 

 

やっと、一息つけるな。

建国の式典から十日が過ぎて、ようやく騒ぎも落ち着いてきた。

今日は息抜きを兼ねて、以前に美羽と来た養蜂をしている村へ、皆と一緒に来ている。

あれから賊の脅威も無くなり兵役から解かれた男達が帰ってきて、村は大きく成長したと村長が嬉しそうに話してくれた。

報告で知ってたけど蜂蜜の生産量は順調に上がってて、最近では蜂蜜を使った名産物を作ろうとしているそうだ。

夕食を摂った後、外に出て以前に七乃と誓った場所で夜空を眺めていたら、その七乃が来た。

「締りのない顔してますねえ。もしや美羽様を組み伏せてる事を考えてますね、流石は一刀さん、鬼畜ですね」

ハハ、そう来るか。

「そんな事は考えてないよ」

「それじゃあ私にあんな事やこんな事をして、肉奴隷にしている事を想像して悦に入ってたんですか。変態ですね、近寄らないでください」

「あれ、分かった?」

「ふふ、懐かしいですね。そんなに経った訳ではないのに、凄く昔のように感じます」

スルーされた、自分からふっといて。

「そうだな」

あの時は自分がどうしたらいいか、日々の仕事に追われて棚上げしてたけど、七乃との誓いが切っ掛けになった。

どうするかはともかく、華琳達に出遭えた時に恥ずかしくない自分でいようと改めて決意が固まった。

王に成る事を視野に入れたのも、確かその時だ。

「七乃、改めて誓うよ。二人を必ず護る、これからも一緒に居て欲しい」

「はい、いつまでも一緒です」

 

一刀さんと口付けしてましたら、

「一刀ーーーー!、七乃ーーーー!」

美羽様が駆け寄ってきます、後ろに璃々ちゃんや皆さんの姿も見えます。

でも美羽様、少しふらついていませんか?

美羽様が一刀さんの胸に飛び込みます。

「おっと。美羽、どうした、少しふらついて?って酒の匂いっ!!祭ーーーーっ!!」

「濡れ衣じゃぞ、儂は蜂蜜の入った水を渡しただけじゃ」

「それは蜂蜜を使った酒だろうが、確信犯だろ!」

ああ、この村で作り始めてる蜂蜜酒というものですね、私も飲んでみましたが美味しかったです。

「にゃはは~、一刀~、大好きなのじゃ~」

ハァハァ、可愛い、美羽様のこのお姿、目に焼き付けておきませんと。

「ふむ、璃々も飲んだのだが全く変わらんな」

「璃々ちゃんにまで飲ませたのかっ!?」

「おいしかったの~」

「あらあら、お土産に買って帰りましょうか」

「駄目!!」

流石は紫苑さんのお子さんですね、将来有望です。

それにしても星さんが共犯なのは分かりますが、璃々ちゃん位の年の子に飲酒を認める紫苑さんの教育方針はどうなのでしょう。

「それはともかく、七乃、抜け駆けとはやってくれるやんか」

「そうなの」

真桜さんと沙和さんだって普段はそうでしょう。

たまにはにはいいじゃないですか、一刀さんの部屋で寝るのを皆さんに制限されてるんですから。

「すまない。思い出の場所だと聞いていたので、邪魔するつもりは無かったのだが」

「ごめんなさい、七乃さん。美羽ちゃんがいきなり走り出してしまって」

凪さんと月さんは華国の良心ですね、お二人を武官文官の筆頭にしたのは良い人事でした。

「恋もくっつく」

「恋殿を抱き締めるのであれば、一心同体のねねも抱き締めなければいけないのです」

恋さんは一刀さんの護衛、兼、親衛隊隊長ですから傍に居るのはいいですけど、ねねさん、軍師としての役割を忘れないでくださいね。

「あの蜂蜜酒、料理にも色々使えそうです。兄様、楽しみにしてください」

「蜂蜜って精力増強にもいいと聞きますねー。その事を見込んだ養蜂ですか?」

流琉さん、風さん、もう華国に仕えませんか?

真名まで交わした仲で客人って変ですよ。

星さんがお酒を持ってきてましたので、そのまま夜空の下で話が盛り上がります。

以前は三人でしたのに、随分増えましたね。

あの頃は想像も出来なかった大切な仲間。

きっと更に増えていくでしょうね、一刀さんを中心に。

翠さんと蒲公英さんは西涼に戻られてしまい、漢に宣戦布告した以上、馬家は敵になったでしょう。

本来なら備えるべきですが、一刀さんは、

「翠が西涼で待ってると言ったのなら、此方は予定通りに行こう」

そう言って予定通り建国しました、普段から備えはしてますからいいんですけどね。

私の役割は以前と変わらず政務と軍務のかけもちです、大将軍の地位は外しましたが。

一刀さんが来るまでは影でコソコソ動いてましたが、こう明け透けな政ですと必要無いんですよね。

地味な積み重ねの毎日です。

その分は一刀さんとの時間作りに使いましょう。

 

なんか、眠くなってきたの。

先までは凄く楽しい気分でジッとしておれんかったのじゃが、もう動きたくないのじゃ。

このまま寝てしもうたら日記が書けぬのじゃが、明日でもよいかの。

今の妾が知らぬ事じゃが、将来において子供や孫達に一刀の話をせがまれて、子守唄代わりに聞かせてやる事になるのじゃ。

その妾が死んで遺品の整理で日記が見つかり、一刀の話が大好きじゃった孫の一人が本としてしまうのじゃ。

一刀の伝記や物語は沢山あるのじゃが、殆んどが神格化されておる。

妾が知ってる普段の一刀の姿が民に好まれ、また貴重な歴史資料として世界中に広まっていく事になるのじゃ。

一刀や皆には恥ずかしい一面も書いておったから、悪い事をしたがの。

そんな未来が待っている事の知らない一刀が優しく頭をなでてくれてるのじゃが、気持ちが良くてもう限界なのじゃ。

・・一刀、おやすみなのじゃ。


 
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