No.733399

ガールズ&パンツァー 隻眼の戦車長

『戦車道』・・・・・・伝統的な文化であり世界中で女子の嗜みとして受け継がれてきたもので、礼節のある、淑やかで慎ましく、凛々しい婦女子を育成することを目指した武芸。そんな戦車道の世界大会が日本で行われるようになり、大洗女子学園で廃止となった戦車道が復活する。
戦車道で深い傷を負い、遠ざけられていた『如月翔』もまた、仲間達と共に駆ける。

2014-10-29 14:22:19 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:423   閲覧ユーザー数:413

 

 

 

 story38 奇想天外な方法

 

 

 

 それから少しして、吹雪の中偵察隊が戻ってきた。

 

 

 

「凄い!これだけ正確な情報を!」

 

 秋山達が集めてきた情報を元に地図に書き込むと、プラウダ高校の戦車隊の包囲網の詳細が現れる。

 

「よくあんな中でこれだけ正確な配置を」

 

 如月も目を見張るものが多い。

 

「雪の中の進軍は中々楽しかったですよ!」

 

「うむ。楽しかった」

 

 毛布を羽織り、秋山とエルヴィンはスープを飲む。

 

「まぁ、確かに楽しめたわね。特にスリルと言う点では」

 

 鈴野もスープを飲みながら呟く。

 

 

「こっちも大変だったわよ・・・・」

 

「敵に見つかったからな。

 まぁ、それがかえってよかったようだ。あれはそど子のうっかりだったが」

 

「!何言っているのよ!あれも作戦の内よ!」

 

 と言い争っているが、それで見つかったのだろう。

 

「そうやっていつもうるさいから、こういう時にもうるさいんっすよ。偵察中に雪投げたり言い争うかっつーの」

 

 ため息を付きながら中島はカップに入っているスープを飲む。

 

「ぐぬぬ・・・・」

 

 事実であるために、言い返せれない。

 

 

 

 

「でも、これで作戦が立てやすくなりました!」

 

「あぁ。何とか出来るはずだ」

 

 西住と如月は地図を見て、この包囲網をどう切り抜けるかを話し合う。

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 観客席に居る早乙女はモニターを見つめる。

 

(まんまと向こうの罠にはまったわね。状況は大洗の方が圧倒的に不利)

 

 大洗が立て篭もる教会の周りにはプラウダの戦車が完全に包囲している。

 

(あの見え透いた罠に引っ掛かるなんて。少し過小評価だったかしら)

 

 ゆっくりと息を吐くと、腕を組む。

 

(いや、翔は私を欺いたほどの実力はある。それでもこの罠に引っかかったという事は・・・・・・何かあったの)

 

 如月らしからない事に、違和感を覚える。

 

 

(さて、この追い詰められた状況の中、あなたならどう出る、翔?)

 

 

 

 

「はん」

 

 焔は腕を組むと、息を一気に吐く。

 

(あんな程度の罠にかかってこのざまか。結局は成り上がりの弱小校だったな)

 

 批判的な言葉を呟きながらも、モニターを見つめる。

 

(だが、勝負は最後まで分からないものだ。もしここから逆転するのなら、大穴だな)

 

 胸の中で、大洗に勝つことに期待をしていた。

 

(まぁ、プラウダに借りを返すと言うのも悪くは無いが、私からすれば汚れた血をぶっ潰す方が楽しそうだからな。勝ってもらわなければな)

 

 邪悪にも口元が歪む。

 

 

 

 

「どうしてプラウダは攻撃しないのでしょうか?」

 

 しばらく攻撃しないプラウダに疑問を抱いていた。 

 

「プラウダの隊長はこの状況を楽しんでいるのよ」

 

「えぇ。彼女は搾取するのが大好きなのよ。プライドをね」

 

 セシアは紅茶を一口飲み、カップを左手に持つ受け皿に置く。

 

(さて、ここからどう巻き返す気かしらね・・・・)

 

 目を細めて、モニターに表示される現在の状況を見据える。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 焚き火を目の前にして、吹雪が吹く中ナヨノフは周囲を見渡す。

 

「風が変わったな」

 

 肌で風が変わったことを感じ取り、教会の方を見る。

 

(そろそろ吹雪が止みそうだ。恐らくこれが試合再開の合図となるだろうな)

 

 そうしてポケットより結構古く、弾丸が掠ったような大きな傷と傷だらけの懐中時計を取り出し、カバーを開けて時間を確認する。

 

(そろそろ時間だな)

 

 時間を確認してカバーを閉じ、ポケットに戻すとT-43に向かう。

 

「いつでも動けるよ、ナヨノフ」

 

 と、砲塔天板のハッチが開き、一人の女子が出てくる。

 

 茶髪のミドルヘアーをおさげにしており、こめかみの部分の髪が長い。瞳の色は水色で、頭にはヘルメットを被っている。

 

「ごくろうだった、『ベルディエフ』。『クリューク』」

 

「あいよ」

 

 と、キューポラハッチが開き、砲手であるクリュークが出てくる。

 

「十五分後に大洗が立て篭もっている教会に向かう。砲は横に向けておけ」

 

「了解」

 

「ベルディエフ。照明弾を装填しておけ。もし向こうがまだ抗うと言うのであれば、それをカチューシャ隊長とノンナ副隊長に伝える」

 

「了解しました」

 

 クリュークとベルディエフは敬礼をすると車内に戻ってハッチを閉める。

 

「さて、参るとするか」

 

 ナヨノフは操縦席のハッチを開け、T-43に搭乗してエンジンを始動させ、ハッチを閉める。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 偵察部隊が得た情報を基に、西住と如月は様々な視点から話し合い、何とか反撃作戦を構築できた。

 

(あとは、時を待つだけ・・・・)

 

 頭痛がする頭に左手を付けて、五式の左側の履帯にもたれかかる。

 

 

 

 ここまでは良かったが、天候は悪化し、外では吹雪が吹き荒れる。

 

 

 

 先ほど無線で審判員が試合続行をするかの審議をしていると連絡が入った。

 

 

 現状で戦車数は同じなので、引き分けに持っていける。

 

 

 だが、損傷状態から判定する場合もあり、現状ではこちらの方が損傷した車輌が多い。そのため、判定負けと言う可能性は低くはない。

 

 

 そんな状態が続き、返答時間まで一時間を切った。

 

 

 

『・・・・・・』

 

 教会内はまるで通夜の様な重々しい空気に包まれていた。

 

 食料はもう無くなり、空腹が続く。

 特に試合開始前に居の中の物を全て吐き出してしまった如月はとてつもない空腹感に襲われている。

 

 それに加えて寒さがメンバーに襲い、士気を下げている。

 

 

「雪、ロシア。戦争と聞くと・・・・」

 

「スターリングラードを思い出すな」

 

「縁起でもないぜよ」

 

「じゃぁ冬の八甲田山とか」

 

「もっと縁起が悪いぜよ」

 

「・・・・天は、我々を、見放したのか・・・・」

 

「隊長!あの木に見覚えがあります!!」

 

 歴女チームは出口から吹雪で荒れる外を見つめながら言葉を漏らす。

 

 

 

「ちくしょう。これはねぇぜ」

 

 四式の砲塔に座る二階堂は呟く。

 

「・・・・ここまで来れたのは、やっぱり運の内、なんでしょうか」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・くそっ!」

 

 青嶋は四式の車体下部を左拳で裏拳の様に叩き付ける。

 

「・・・・・・」

 

 悲しげな表情を浮かべ、高峯は窓から夜空を見上げる。

 

 

 

 

「oh no・・・・。このまま艦部は・・・・存続する事無く消えるのデショウカ・・・・」

 

 柱にもたれかかり、意気消沈し、金剛は深くため息を吐く。

 

「そ、そんな事ないですよ、お姉さま!!」

 

 比叡はそんな様子の金剛に声を掛ける。

 

「私達がいる限り、艦部は残り続けます!!例え廃校に・・・・・・なっても・・・・・・」

 

 しかし勢いは急降下し、両手を握り締めて俯く。

 

「お姉さま・・・・」

 

 金剛の反対側にもたれかかる榛名も俯くと、一筋の涙を流す。

 

「・・・・もはや、ここまで、なのですか」

 

 比叡の反対側にもたれかかる霧島は歯を食いしばり、震える。

 

 

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 早瀬、鈴野、坂本は割れた窓から少しだけ吹雪の勢いが衰えた外を見つめる。

 

「・・・・せっかく、如月さんにまた会えて、共に戦えたのに、また、バラバラになっちゃうのかな」

 

「・・・・・・」

 

「そんなの、嫌だよ。また戦車道がやれない日常なんて、嫌だよ」

 

 坂本は涙を流し、鈴野は俯くと小刻みに震え、早瀬はガリッと歯軋りを立てる。

 

「誰だって同じ気持ちだよ。言われなくたって」

 

 鈴野は震えた声で言葉を漏らす。

 

 

 

「・・・・・・」

 

 他のメンバーを見ても、士気はどん底に達し、脱力状態が続く。

 

「み、みんな、どうしたんですか!」

 

 西住はその様子を見かね、声を上げる。

 

「もうすぐ吹雪も止みます!最後まで止むと信じなきゃ!元気出していきましょう!!」

 

 声を掛けるも、状況に変化は無く、「はーい・・・・」「分かってまーす・・・・」と、誰もが力なく返事をするだけだった。

 

(無理も無い。我々は追い詰められ、更にこの吹雪と寒さ、それに空腹感が加わればな)

 

 如月は頭痛に耐えながら、周囲状況を見る。

 

(このままでは、作戦に支障をきたす事になるのは確実か)

 

 一瞬不安が過ぎる。

 

 

「おい!士気を高めろ!」

 

「え?」

 

 あまりにも沈んだ空気に見かねて、河島が西住に怒鳴る。

 

「このままでは戦えんぞ!何とかしろ!隊長!!」

 

「・・・・・・」

 

(無茶を言う・・・・)

 

 この状況から士気を高めるなど、今の状態では考え付かない。

 ここまで来て、生徒会の無茶振りがある。

 

 

 

(勝たなければ・・・・。でなければ、学園の命運も・・・・・・みほの事も・・・・・・何も守れない)

 

 ギリッと奥歯を噛み締める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――♪

 

 

 

 

 

 すると聞いた事にある曲が耳に入る。

 

(あんこう踊り?)

 

 それは如月にとってはトラウマで、恥辱に等しいぐらい恥ずかしい踊りである。

 

(いかんな。こんな状況で頭痛のあまり幻聴が聞こえ始めたのか)

 

 幻聴が聞こえる時点でマズイ状態かもしれないが、如月はあんこう踊りの曲が聞こえる方を見る。

 

 

 

「っ!?」

 

 その直後に如月は目を見開いて驚愕する。

 

 

 視線の先には・・・・・・あんこう踊りを踊りながら歌う西住の姿があった。

 

 

「西住!?」

 

 驚いたあまり如月の声が浮つく。

 

「あんこう踊り・・・・」

 

「西住隊長が?」

 

「・・・・・・」

 

 早瀬達も予想外の事に呆然としていた。

 

 

 

「みんなも踊ってください!!私が歌いますから!!」

 

「逆効果だぞ、おい!?」

 

 河島も慌てふためく。

 

 

「あの恥ずかしやがりのみほさんが・・・・」

 

「みんなを元気付けようと・・・・」

 

「微妙に踊りの振り付け間違っているがな」

 

 武部達も驚きを隠せれなかったが、秋山は表情を引き締める。 

 

 

「私も踊ります!!」

 

「!私も!!」

 

「仕方無い」

 

「いきましょう!」

 

 秋山に続き武部、五十鈴、冷泉も踊りに参戦する。

 

 

「隊長達だけ踊らせるわけにはいかない!私達も行くよ!!」

 

『はい!!』

 

 次にバレーボール部が参戦する。

 

 

「仕方ないわね!」

 

 次に風紀員も参戦する。

 

 

「よっしゃぁぁぁっ!!おめぇら!!隊長が踊って俺らが踊らないわけにはいかねぇよな!!」

 

『アイサー!!』

「・・・・・・」ビシッ

 

「久々に踊るぞ!!野郎共!!」

 

『おぉ!!』

「・・・・・・Jawohl(ヤヴォール)」

 

『シャベッタァァァァァァァァァ!?!?』

 

 そんなノリのまま二階堂達もあんこう踊りに参加する。

 

 

「Wow!あんこうDanceネー!」

 

「何でこんな時に・・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

 金剛はテンションが上がり始め、比叡、榛名、霧島の三人はこの状況であんこう踊りと言う行動が理解できず呆れていた。

 

「比叡!榛名!霧島!皆さんが踊っているのにワタシタチだけが踊らない何て道理はないデース!Let`s Go!!」

 

 テンションを上げ、金剛があんこう踊りに参加する

 

「お、お姉さまが踊るのなら、私も!」

 

「私も行きます!」

 

「こうなれば私も!」

 

 比叡、榛名、霧島も金剛に続いてあんこう踊りへ参加する。 

 

 

「みんな・・・・」

 

「あんなに意気消沈だったのに」

 

 今では殆どのメンバーがあんこう踊りをしている。

 

「行くぞ」

 

 あまり乗り気ではなかったが、如月が前に出る。

 

「みんながやっているのに、私達だけが踊らないわけにはいかんだろ?」

 

「・・・・そうですね!!」

 

「えぇ」

 

「こうなったら、とことん踊ってやるぅぅぅっ!!」

 

「それ、この間も言わなかった?」

 

 そして如月たちも最後にあんこう踊りに参加する。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 スピーカーより流れる奇抜な歌詞を聞き、モニターに映るある意味奇妙な踊りをしている大洗のメンバーに早乙女は唖然としていた。

 

(一瞬寒さで頭がおかしくなったかと思ったけど・・・・まさかこんな方法で士気を取り戻すなんて)

 

 呆れるも、同時に可笑しかった。

 

 奇想天外な方法だが、効果は十分、いや、それ以上の成果を出している。

 

 

(それにしても、懐かしいわね、あんこう踊り。小さい頃踊ったっけ)

 

 あんこう踊りを見て昔の記憶が蘇る。

 

(でも、あの衣装は今思えば恥ずかしいってもんじゃないわね)

 

 同時に恥ずかしい思い出も蘇り、苦笑いを浮かべる。

 

(さて、どうなるのかしらね)

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 焔はあんこう踊りを見て呆然としていた。

 

「なぁにやってんだ、あいつら?」

 

 到底理解できず、ため息を付く。

 

「寒さで頭がいかれたか」

 

 呆れながらもモニターを見る。

 

(だが、こんな事して、どう出る気だ?)

 

 逆にこんな事をしている為、焔は予測が付かなかった。

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「・・・・・・」

 

 時間になって大洗が立て篭もる教会にやって来てT-43から降りてみれば、何を血迷ったのか大洗は奇妙な歌詞と共に妙な踊りを踊っていた。

 

「・・・・・・」

 

 一瞬思考が停止するも、呆れながらもナヨノフは指をパチンと鳴らすと、通告の時に連れてきた生徒は息を吸う。

 

「あのっ!!」

 

 大きな声を上げると、西住たちは『あ・・・・』と踊りを止め、ハモッて声を漏らす。

 

「もうすぐタイムリミットです。返答は?」

 

 ナヨノフが西住に問うと、少し間を置く。

 

 

「・・・・降伏はしません。最後まで、戦い抜きます」

 

「・・・・・・」

 

 西住の返答に何も答えず、目を一旦瞑ると一息吐く。

 

「そうですか。残念です」

 

 そう言い残して、ナヨノフともう一人は教会を出てT-43に乗り込む。

 

「では、後の戦場で・・・・」

 

 するとT-43の砲塔が後ろに向き、砲身が上に上がると砲撃を行い、上へと飛んだ弾は光を放ちながら破裂すると、T-43は信地旋回して元来た道へ走り出して教会から離れていく。

 

 

 

 

 

 


 
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