No.727558

快傑ネコシエーター14

五沙彌堂さん

66、狒々の応報
67、美猫の業
68、白猫銀の攪乱
69、秘密会議
70、日輪の十字架誕生

続きを表示

2014-10-03 12:01:08 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:480   閲覧ユーザー数:480

66、狒々の応報

 

狒々の犯罪者が2人夜道で辻強盗を働こうと獲物を待って亜人街の盛り場の暗がりで

待ち構えていた。

富岡平作の弟で富岡義仁と山井一夫の弟で山井等であった。

2人共兄が犯罪者ということで世間で肩身の狭い思いをし、自身も犯罪者になっていた。

「俺たちが肩身の狭い思いをしているのは俺たちの兄貴たちがドジを踏んだ所為だぜ。」

「懐の暖かい奴から銭ふんだくって遁ずらしてこんな所からおさらばしねえとな。」

警察の警戒の厳しい所は避けながらも比較的裕福な人が通り掛る様な所を探していた。

折悪しく、雅が一人道を急いでいた。

英国大使館に招待されこんな遅い時間まで付き合わされていたのであった。

「早く帰らないとネコがお腹を空かして待っているだろうな。」

早足で近道を歩いていたのだった。

「おぉ、いい鴨がこっちへやってくるじゃねえか、一寸絞めて身包み剥いでやろうぜ。」

不意打ちだった、富岡義仁が獣化して雅に襲い掛かっていった。

しかし大きな間違いを犯しているとは思ってもみなかった。

雅は直ぐに反応し殴りかかって来た狒々の顔面をカウンターで全力で殴ってしまった。

即死だった、バンパイアハーフの全力の拳はデミバンパイアにもダメージを与えるぐらいなんで、

当然獣化した狒々など相手にならなかった。

雅は直ぐに大和警部補に連絡を取りいきなり襲いかかって来た狒々を殴殺したと告げた。

「みやちゃん、お手柄だよこいつは富岡平作の弟で富岡義仁って奴で強盗殺人の容疑者

なんだ、しかしこいつは本当にバカだね、よりによってみやちゃんに不意打ちを仕掛けるなんて、

こりゃ傑作だよ。」

大和警部補は皮肉っぽく笑った。

 

一方山井等は富岡義仁が一撃で殴殺されたのを見て、その場から一目散に逃げた。

逃げていく途中に金髪の若い女性が1人で歩いているのを見つけた。

辺りを見回し人気もなく騒がれても大丈夫だと行きがけの駄賃におそうことにした。

しかしそれは、雅と同じく英国大使館に招待されこんな遅い時間まで付き合わされていた

エカチェリーナ・キャラダイン少佐ことエリカであった。

不意打ちだった、山井等が獣化してエリカに襲い掛かっていった。

激怒したエリカは全力で拳を撃ちこみまくり、狒々はもはや原型を留めていなかった。

エリカから連絡を受けた大和警部補は挽肉になった狒々が富岡義仁の共犯の山井等だと

推定して調べたら山井本人に間違えなかった。

「少佐、お手柄です、こいつは強盗殺人の容疑者で山井等だった奴です。」

さすがに大和警部補も冗談を言う気力もなかった。

 

67、美猫の業

 

美猫は自分の手で殺した守屋靖子のことを考えていた。

守屋靖子は普通の人間だったが人非人で亜人の命を奪うこと何とも思って居なかった。

しかし本当にそうであっただろうか人の命を奪っていく内にだんだん恐ろしくなって

後悔したのではないかと。

銀を暗殺しようとしたテロリストを20名、獣化した狒々など20体以上、人語を解す

ブラウンジェンキンは50体以上、手負いのデミバンパイア3体を葬っているがこいつ等

生かしておいたら人間、亜人に被害が出る害獣のような感じで罪の意識は少なかったが、

守屋靖子はまだ誰も殺していなかった。

ただ、自分を含め、雅、銀、源さんなど自分の仲間に害が及んだだろうことは想像できる。

守屋靖子は自分の独断で始末して誰にも相談できなかった。

美猫は守屋靖子について調べてみることにした。

守屋靖子は父守屋味扇斉と父子二人で育った、母親は靖子が小さい頃に死んでいた。

守屋家自体は断絶して今は守屋流弓術を味扇斉の弟子が後をついで普通の弓術道場

になっており、味扇斉が国際A級エクスタミネーターだったことは知らなかった。

副業のことは守屋味扇斉親子だけの秘密だった。

守屋味扇斉は政府高官より闇の依頼を受け暗殺の仕事を主に引き受けていた。

国際A級エクスタミネーターの看板はその隠れ蓑であった。

主に魔性殺しの矢を使って高位のライカンスロープの暗殺を専門にしていた。

現在、守屋味扇斉の犯行とみられる未解決事件が50件以上あり守屋靖子は父が国際

A級エクスタミネーターであることは知っていたが裏稼業についても全く知らなかった

わけではないようだった。

現場検証の結果から味扇斉単独ではなく誰か味扇斉をサポートするものが必要なものが

散見されるからだ。

人を殺す手伝いをしていて、自分も一緒に人を殺したように、人を殺すことに抵抗感が

無くなって、大量殺人をしても心が痛まないように感じるようになっていたようだった。

これでは今まで殺した人間のことを考えて後悔するまでに無垢の被害者が何人出るか

わからないのであった。

本人が後悔してからでは遅いのであった。

だから、殺す前に殺したのであった。

父親を殺された哀れな娘の皮をかぶった大量殺人未遂犯であった。

殺さなければまず自分が殺され、親しい人たちが殺されていくのを黙って墓の中から

見ているしかないのであった。

しかし、自分はこんな非道な人間でも殺したという業は背負っていかねばならなかった。

やはり、自分以外他には誰も割り切って始末は出来なかったから。

 

68、白猫銀の攪乱

 

銀は趣味の薬の調合に励んでいた。

惚れ薬と言うか強力な媚薬の一種で極短時間だけ効果がある様な薬であった。

目的はもちろん雅であったが雅自体薬全般に対して強力な耐性があるため、

果たして効果があるかどうか疑問であった。

「これを何とか理由をつけて雅さんに飲ませれば、でも効き目がどの位持続

出来るかわからないとうまくいかないわ。」

とりあえず薬を小さく切った半紙に包んで薬だなのハートマークのついている

所に仕舞った。

乳鉢などの用具を一度綺麗にしてから今度は違う薬の調合を始めた。

何種類かの神経毒を持つ植物の根から採取した痺れ薬を作り始めた。

しばらくして、思い返したように、

「これだと普通の人間だと即死するわね、もう少し効き目を弱くしないと危険

かしら、ちょうどいいモルモットがいれば加減できるんだけど。」

とりあえず薬を小さく切った半紙に包んで薬だなの髑髏マークのついている

所に仕舞った。

全ての用具を綺麗にして乾かしてから片付けた。

銀は心を落ち着けるためお茶を飲んでいていいアイデアが浮かんだ。

 

「銀さんが寝込んでいるんですか。」

雅の所へ妖子がやって来て

「どうも、雅さんにお見舞いに来て欲しいようなのですよ。」

「本人がそうはっきりと言った訳では無いのですが。」

「出来れば雅さん一人できて欲しいみたいなのです。」

「わかりました、すぐに伺います。」

雅は承諾してすぐに出かける支度を始めた。

 

「銀さんお加減はいかがですか。」

雅は銀の顔色が透けるように青白いので心配そうに尋ねた。

「お恥ずかしい所をお目にかけてしまって。」

「少し疲れが溜まっていたようで、こうやって少し休んでいればまた元通りになりますよ。」

銀は少しかすれたような声で静かに答えた。

「雅さんに優しくしてもらえるだけとても幸せな気分になれます。」

銀は雅の手を固くギュッと握った。

銀は雅の目を見つめて言った。

「確か、以前また一緒に寝て頂けると言って頂いたと思いますがお願いできますか。」

銀は少し顔を赤らめて甘えるように言った。

「猫又に変化してないとだめですか。」

ちょっと残念そうな、寂しそうな顔で言った。

雅は心底困っていた、流石にこの状態で一緒に寝るのはとても恥ずかしかった。

銀のことは嫌いなわけではなくむしろ好きな女性であったが恋愛の対象というより

憧れの女性であった。

ここで猫又に変化してもらえば同衾できるかと言えばそれでもやっぱり無理だった。

せめて美猫が一緒なら何とか自分の中で言い訳できるのだがこのシチュエーションでは

無理だった。

せめて、美猫がと思っていたら襖が開いて美猫がやってきた。

 

「銀ねぇ、大丈夫か。」

「こんなに顔色が悪くなるまで無理して。」

美猫は雅の手を握った銀の手を上から重ねる様に握った

美猫は大粒の涙をボロボロ溢し銀の体を心配した。

今度は銀が困ってしまった、美猫が本気で心配しているのである。

美猫と銀は苦楽を共にしてきた間柄なので本気の美猫にお芝居でしたとは言えなかった

のであった。

でも誰が美猫に伝えたのであろうか、妖子は言わない筈なのにいったい誰が。

枕元で。

みゃー、みゃー、

と心配そうに鳴いているキジコがいた。

キジコが雅と妖子の話を美猫に伝えたので美猫が吃驚して飛んできたのであった。

銀は意外な伏兵に力が抜けて本当に具合が悪くなり2人の手厚い看病を受ける羽目に

なった。

しかし元々自分の蒔いた種なのでキジコを責めるわけにもいかず、大人しく2、3日寝て

自分の詰めの甘さを反省していた。

 

すっかり体調が戻り元気になった銀だったがしばらくの間、お互い恥かしくて雅と目が

あわせられなかった。

美猫にもやたら心配されることに銀の良心が痛むのであった。

聡い妖子は銀がお芝居だとは言わなかったものの不自然な伝言を頼んだことを全く追求せず、

本当に具合が悪くて雅に甘えたかったのだと解釈していた。

キジコは相変わらずマイペースで自分も何か役に立ちたいと思っている様であった。

 

69、秘密会議

 

ガード伯爵がわざわざこの国に来たのはスレート大侯爵を連れ戻すことだけが目的では

無かった。

この国にデミバンパイアを退治する技術を英国より学んだ大谷行基との旧交を温め、

真祖バンパイアの犯罪者についての対応を考え特に黒魔術に傾倒している真祖バンパイア

を抹殺すること話し合っていた。

「ガード伯爵、自分の存在の否定にも繋がりかねない黒魔術を信奉する真祖バンパイア

など存在していいものでしょうか、真祖バンパイアは神の祝福の元に存在するわけです

から、悪魔崇拝によって自らの力が維持できるとは思いませんが。」

「行基大検校、残念ながら完全ではないにしても悪魔崇拝を部分的に取り込んで自らの

魔力を強化して私利私欲を満たそうとしている輩が存在します。」

「黒魔術をデミバンパイアの中に広めたのも元はと言えばそういう輩が原因でもはや

制御不可能な状況です、彼等は真祖バンパイアからの独立を企んでいます。」

「我が国では黒魔術使いのデミバンパイア自体は英国から供給された魔術武装のおかげで

かなり駆逐しましたよ。」

「英国では黒魔術使いのデミバンパイアの背後にいると思われる黒魔術を信奉する

真祖バンパイアがいる限り完全には根絶できない。」

「やはり一部の真祖バンパイアの抹殺が必要だが、そのカギを握っているのは行基大検校

あなただ。」

「しかし、真祖バンパイアを抹殺する場所が問題です、どの国も受け入れを拒否する

でしょうな。」

「今の所真祖バンパイアを非公式ながら処刑できたのは例の得物だけですよ。」

「でも我が国に亡命してきたところを非公式に抹殺するとして我が国が国際世論から

非難されるのは御免ですな。」

「では、真祖バンパイアの所属する国籍で処刑を行うのが一番問題が少ないでしょう。」

「問題は得物と処刑人ですな、例の得物に関する情報があまりにも少なすぎる、処刑人

エクスタミネーターも認定基準を新たに設けなければならんでしょう。」

「現在の所その得物の製法は全くわからない、強いて言うなら密教と神の教えを独自に

解釈した宗教的天才の作りだした偶然の産物としか言えない。」

「その宗教的天才古宮慧快はもういないわけですし、例の得物の製法もその墓の中に

あるわけだし、製法が分っても古宮慧快のような天才がいなければ作ることもできない。」

「では行基大検校現在ある例の得物を効率よく抑止力として使うのが肝心でしょうなあ、

黒魔術使いの真祖バンパイアに対して喉元に突き付けた剣として。」

「悪魔信仰に一度手を染めたものはいずれ処刑して向後の憂いを絶たねばなりません、

その時にはこの国の力を借りねばならぬでしょうな。」

 

70、日輪の十字架誕生

 

気力、体力ともに絶頂期に会った古宮慧快は密教の即身成仏の思想とキリスト教の

悪魔払いを融合させて、邪悪な不死族を消滅させる得物を考えていた。

古宮慧快自身密教から少し外れたところにあった原始太陽信仰の考えも取り入れ

日輪の力を借りて超常的な力を使い、太陽を嫌う闇の不死族を即身成仏あるいは

調伏、怨敵退散で消滅させようと念を込めて得物を作っていた。

ただ残念なことに古宮慧快にはそれを文字に表現することができないため、その

製法を記録できなかった。

たとえ記録できても超常的な力を発揮して念を込めることは他の者には全く真似の

出来ない事だった。

樫の木の十字架に念を込め鋼以上の強度を持たせ、丈夫な布に念を込め、大日如来

を表す梵字を書き旗を作り端を強化した樫の細い棒に縫い付け、念を込めて縒った

丈夫な紐で吊るし十字架の天頂部の聖別された銀の釘を打ち付け、形になったものの

前で超常的な力を借りて加持祈祷を13日間行い完成したのが日輪の十字架であった。

古宮慧快にとっても途轍もない苦行を強いられて作り上げたもので慧快の寿命が30年

は縮んだようだった。

しかし、威力は絶大であった、ただし慧快自身も日輪の力を借りて超常的な力を発揮

しなければ、自分の体の生命力を削られさらに自身の寿命を縮めてしまうのであった。

若い頃の慧快は自分の寿命など気にせず、体当たりでその力を使っていたが40歳を

超えたあたりで肉体の衰えを感じ、無理をして命を落としかけ、それからの10年間は

体を騙し騙し使って勤めを果たしていた。

60歳を超えると超常的な力が全く使えなくなり、もし無理に使えば命を落としかねな

かった。実際最後に日輪の十字架を使って肉体が限界を超え寝たきりに近い状態になって

しまった。

 

慧快の作り出した日輪の十字架に大検校大谷行基はことのほか注意を払い、その威力が

デミバンパイアだけではなく真祖バンパイアにも効果があるとすると慧快が命を懸けた

日輪の十字架を心無い真祖バンパイアに破棄されることを恐れ、慧快に注意を促し、肉体の

限界が訪れる前に安全な場所に隠蔽するように忠告した。

 

慧快の死後、日輪の十字架について慧快自身が書き残したものを全て大検校大谷行基

が集め全て慧快の墓の中に収め、存在したことさえ隠し通した。

以後50年間日輪の十字架が日の目をみることはなかった。

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択