No.718619

幸せ論(佐幸/サンプル)

転生ものの学パロです。幸村は戦国の記憶を最初はもっていない設定。
◆当作品はコピーで発行済みですが、【9/21の戦煌!5 ス34b】にて前後の時期入れて出します。その場合「コピー本持参の方に限り、250円引き」で頒布◆
戦国バサラの学バサ設定の転生パロもの。一見、佐政や家→幸ですが、立派な佐幸。佐幸以外の入る隙間はない。でもちょっと関幸が欲しい書き手の要素あり。

2014-09-17 20:35:49 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1017   閲覧ユーザー数:1017

 

幸せ論

 

 

 

学園BASARA 転生パロ 佐幸

 

 

1・影法師が待っている

2・キミ行き世界の箱庭 ―再掲― (おまけ 三成行きの休み時間)

3・箱庭の海に沈む

4・寄り道バトン

 

 

サンプルは、1・3・4となっております。

2はちょっとずつアップ中。

 

 

影法師が待っている

 

 

 幼馴染である政宗殿に対し、俺は常々、気にしていたことがある。

「Hey,真田幸村。てめえ、俺が英語教えてやってるってえのに上の空たあ、良い度胸じゃねえか」

 言葉通り上の空だった俺は、スマートフォンを操作しながら叱咤する政宗殿の言葉で我に変える。

 数人しか残っていない放課後の教室。俺が座る前の席の、椅子を借りて座る政宗殿が、呆れた顔でため息をつく。

 高校生になって最初の中間テストが近づき、部活禁止期間に入った今日。政宗殿は「なら早速」と言いながら半場強引に、俺の勉強の面倒を見ると言った。

受験勉強の頃より世話になっている科目うえ、事実、気もそぞろだったので素直に謝る。

「申し訳ございませぬ」

 頭を下げた先には、まともな単語などほとんど並ばないノート。

 怒られても止む無しと反省したのが伝わったのか、政宗殿の機嫌はすぐに戻った。

「俺の顔に、今更見惚れてんじぇねえよ」

 どこかで話しでもずれただろうか。眼帯姿とはいえ政宗殿の顔は整っているとは思うが、そのようなやり取りは交わしていない筈。

「見惚れ?いえ、違います」

「ハッキリ否定か。まあ良い、で、何で上の空だったんだ」

 政宗殿は手に持っているシャープペンで、俺の教科書に次々と授業のポイントを示していきながら理由を問い詰めた。

 やはり勉学同様、逃がしてはくれないらしい。

 幼馴染ゆえそんな男だと分かっている俺は、隠し事など出来ぬ眼差しに射抜かれながら答えた。

 英語はほとんど頭に入らない。

「政宗殿の交友関係の広さに、いつも驚かされるばかりでござるなと」

 俺の言葉を裏付けるかのように、政宗殿の持っていたスマートフォンがメールの受信を伝える。

 思いの外大きく聞こえた音から教室を見回すと、いつの間にか生徒のほとんどが帰っていた。

 日直だった宇都宮殿と目が合い、「じゃあな」と軽く手を振られた。俺も手を振り返し、別れの挨拶をする。

 これで教室に残っているのは、俺と政宗殿だけ。

 手を下ろすと、政宗殿の視線は、液晶から俺に戻っていた。

「今、気にすることか?」

「今というより、前からでござる。今日も生徒会長の毛利殿を、紹介してくれたではござらぬか」

 入学早々知り合った、猿飛佐助という名の先輩しかり。

 それは、昼休みのこと。

 佐助―と呼べと先輩に言われたのでこう呼んでいる―が、俺のために作ってくれた手製の弁当をこの教室で渡すなり、「ごめんね、今日はちょっと用事出来ちゃってお昼一緒に出来ないよ、俺様残念」と言った。

 教室を去る際、傍にいた政宗殿がやけに楽しげに佐助を見上げていた。

 佐助は反対に、政宗殿を睨んでいたから喧嘩でもしたのかと首を傾げるも、割と日常茶飯事な光景でもある。

 政宗殿は佐助が出て行くなり、持参してきた自家製の弁当片手に、俺をある場所へと案内してくれた。

 てっきり昼食時の定番となった屋上ではなく、なんとそこは生徒会室。

―今日はここで食うから、ついでにアンタを紹介してやる。

臆面も無く言った政宗殿と相反する緊張感は、今も思い出せる。生徒会などと大それた物と関わりのない、ましてや入学して間もない、部外者たる俺を紹介とは何か。

「どうして政宗殿は、いつも唐突なのでござるか。おかげであんなことに……」

 政宗殿がいきなり扉を開けたのと、俺が言葉にならぬ言葉で叫んだのは同時。おかげで中に居た生徒会長の視線を、一点集中で浴びてしまったのだ。

 不甲斐なし。部活が解禁になった暁には、真っ先にお館様―武田先生の愛称―の下へ行き、ご指導を貰わねば。

 政宗殿といえば、あの時も今も、笑ってばかり。

「interesting.俺が面白いからに決まってるだろ」

およそ共通点の見えない生徒会長の毛利先輩と、どこでどのようにして知り合ったのかを飛ばし、政宗殿は簡素に俺と会長を引き合わせた。

ああ、だが、そうだ。

唐突に、上の空になるほど気にしていた意味を理解する。

「政宗殿」

「What?」

 何故か、この男が唐突に紹介する者と会った後、決まって政宗殿の機嫌は悪くなっていた。

 例に洩れず、今回も。

「どうして政宗殿は、紹介するまでは至極楽しげなのに、それが済むや唐突に顔色を変えるのでござるか。あまり良いこととは思えませぬが、何か理由でも?」

 結局昼休みは、俺のことをいくつか聞いてきた会長の質問に答える程度で、連れてきた張本人である政宗殿は静かだった。

 ただ一言、会長に「いつも居てる、あいつはどうした」と尋ねただけ。

「あやつは風邪だ。相変わらず腑抜けた男よ」

 やけに角のある口調だったので、二人が指す者が誰かは、聞けず仕舞い。

 分かるのは、政宗殿の様子が変わったこと。その理由を、俺が分からないのに、会長は分かっている様子だったこと。

 無口になった政宗殿と一緒に生徒会室を去る際、俺に向かって「貴様が来たければ、また来るが良い」と言われた意味も、俺には分からない。

 だから「どうして」と聞いてみたのだが、当の政宗殿は意外なほど口を閉ざしてしまった。

「政宗殿?」

 二人しかいない部屋は、途端に沈黙の箱と化した。部活のない放課後は人の気配も薄く、一層、政宗殿の静けさが深く感じてしまう。

 長い前髪の隙間から俺を凝視してはいるが、その実、男の目は俺を見ているのか。

 奇妙な不安にかられる程、黙ってしまう意味が分からない。

 政宗殿は、明確な答えを示してはくれなかった。

「意味なんかねえよ。ただその時の気分が、そうだっただけだろ」とだけ言い、沈黙の箱から出るのを促す。

 弁当箱だけしか入っていない鞄を持ち、あっという間に扉まで行ってしまう。

「政宗殿」

「下校時間過ぎると小十郎がうるさい。ほら、帰るぞ」

 片倉先生は確かに厳しい方ではあるが、どうにも腑に落ちない。

 しかし、追求したい俺を置いていく気配を漂わせるから、慌てて教科書とノートを鞄に入れて、政宗殿を追いかける形で教室を出た。

 放課後でもまだ明るい空が、廊下を少し早めに歩く二人の足下に影を作り、二人分の気配だけが響く。

 まさか本当に、二人しか校内に居ない訳ではないだろうが、静か過ぎる男の背中が、やけに煩く聞こえた。

 単純に怒っていたとしても何になのか、もしくは、誰になのか。やはり俺には分からない。

 分かるのは、いつだってどんな態度であれ、真田幸村という俺を否定していないこと。

「政宗殿」

 名を呼べば立ち止まってくれるのは、知り合った時から変わらない。

 肩越しに振り返る様に、俺はホッと撫で下ろす。得も知れぬ安堵感が、焦燥感に置き換わる。

 もしや俺はもっと以前から、こんな二人しか無い空気を知っているのではないか。

 追いつくどころか立ちつくす俺を、隻眼が凝視する。

 俺には分からない俺の心を読み取ったのか、政宗殿の空気が、俺を慰めるように和らいだ。

「あんたは、そのままで良い」

 どうしてか、男が笑う顔を見るのが苦しかった。

 

 

新刊に続く

 

 

 

箱庭の海に沈む

 

 

 戦国の世で出会い、果ては四百年越えた現代において再会を果たした佐助と幸村だったが、あれからすぐに、幸村は体調不良で学校を欠席した。

 そして、今日で欠席願いを政宗に託して三日目。

 幸村の住まいは、学園から程近いマンション。長野から一人で上京し、親の援助を受けて一人で暮らしている。

ワンルームで物の少ない部屋は、年頃の少年が住むには充分な広さだった。

しかし今日は、午後の遅くに兄の信幸が見舞いに来たので、部屋の広さも少し変わって見える。信幸はたまたま幸村にかけた電話で弟の容態を知り、その足で長野から、スーツの上着だけを手に持ってやって来た。

 熱が下がらず、ベッドで寝ている幸村の額には二枚重ねで冷却シートが張られている。兄が弟を思って―効き目が倍になりそうな気がしたから―貼った代物は、シート一枚救急箱から出すのも苦労していた。

 幸村に頼まれて初めて、冷却シートの存在を知った信幸でも、体温計の使い方は知っている。電子ではなく、水銀限定だが。

 弟の状態を知るために計ってみたら、三十八度を軽く超えていた。

「ふむ、高いな。大丈夫かい?幸村」

 信幸が幸村の顔を覗き込んで見下せば、幸村は少しでも心配かけまいと、定まらない視線を兄へ向ける。

「は、い……あにうえぇ……」

 息も絶え絶えに呼ばれては、苦笑するしかない。

「うん、大丈夫じゃあないよね、やっぱり」

 緊張感の無い口調ではあるが、もちろん、信幸は弟をもの凄く心配している。

 今日とて老舗果物屋で一番高い、籠いっぱいのフルーツ盛り合わせを注文し、宅配業者を使って届けさせている。

 惜しいのは、信幸自身は包丁どころかカッターの使い方も知らないため、皮付き果物の処理が出来ないところだ。

 皮をめくるだけのバナナならば問題ないが、今の幸村が摂れるのはおかゆ程度。そしてこの家には材料はあれど、作れる者がいなかった。

 薬を飲んだ形跡は、床に残骸として残っている。信幸はゴミを拾い、弟が小学校の頃から使っている勉強机の傍にあるゴミ箱に捨てる。

 これで今の兄が出来ることの、精一杯が終わった。

「幸村、何か欲しい物があれば買ってくるよ。医者も呼ばなくて良いのかい?」

スラックスのポケットから二つ折りの携帯を取り出す。

幸村はほんのわずかだけ首を傾け、ゆっくりと、否であるのを伝えた。

「はい……寝てれば、治ります……」

 はあ、と一つ苦しげに息を吐く様では、説得力はない。

 どうしようと病人の隣で困り果てていると、玄関に設置されているインターホンが鳴った。

「おや、お客さんかい?」

 信幸は「行ってくるよ」と幸村に行ってから、足音を立てずに玄関に向かう。

ドアを開けると、信幸の知らない少年が、一人で立っていた。制服から、幸村と同じ学生とは認識したが、信幸が知る幸村の友人枠は、政宗と三成しか知らない。

「えと、君はどちらの子かな?」

 高校二年生に聞くには若干幼い物言いとは思いつつも、少年は頭を下げた。

「いきなり押しかけてすみません、真田幸村君の見舞いに来た、猿飛佐助と言います」

おじぎをした際、鞄と一緒に持っていたスーパーとドラッグストアの袋が、ガサリと音を立てた。

「さるとび、さすけくんね。わざわざ有難う」

「あの、……だん、えっと……真田君の家族ですよね。これ、お見舞いで持ってきましたんで、どうぞ。レトルトのおかゆとりんご、あとスポーツドリンクです。ついでに熱があるって聞いたから、一応解熱剤の薬も」

 差し出された物を受け取る際、信幸は一つ気になった。

「すまないね。ところで、僕が幸村の家族って分かったのは、弟から聞いたからかい?」

 佐助は「いやあ」と、くだけて接してしまいそうになるのを、こらえてから答える。

「似てますし」

 大事にしている弟と似ていると言われ、初対面ながら猿飛佐助は良い子という、あっさり幸村の友人枠に収まった。

 柔らかい笑みで、ドアを最初より大きく開ける。

「せっかく来たんだから、見舞うかい?」

「良いんですか、あがっても」

 言葉だけ遠慮を見せ、佐助はあっさりと幸村のいる部屋に入るのを許された。

 願ったり叶ったりなのは、佐助だけではない。

 物腰の優しい顔のまま、信幸は佐助に交換条件を提示した。

「むしろ君次第では渡りに船だよ」

「はい?」

 病人の為に、あえて過度な明かりを付けていない薄暗い部屋で、思わず佐助の足が止まった。

 君次第、という不穏な言葉の意味は、ごくごくあっさりと判明する。

 

 

 

 

新刊に続く

 

 

 

寄り道バトン

 

 

体調も戻り、佐助との問題も解決した週末明け。

ようやく学校に来てみれば、三成殿と徳川殿の様子がおかしかった。

昼休み。日直の仕事として片倉先生への言付けを済ませた俺は、佐助の手弁当を待ちわびた足取りで屋上へ向かう。

梅雨になれば利用できないので、天気が良いだけで有り難く感じる。

「今日のおかずは何でござろうな~」

 意気揚々と扉を開けると、晴天の下で、三成殿と徳川殿が、なにやら不穏な空気を纏っていた。近づくにつれ、尻を付けて座っている徳川殿の横で、立ち上がっている三成殿が、殺気を露に叫んでいる言葉が耳に届いてくる。

「貴様がどれだけ悪影響を与えたのか、分かっているのかっ」

「落ち着け三成、不可抗力だと言ったろ」

 傍には佐助と政宗殿が居るが、二人とも割って入る気など微塵も見せず、弁当を広げていた。

「今日こそ殺っちまいましょう、三成先輩っ」

 三成殿の前で焼きそばパンを食べながら加勢する島殿の声と、政宗殿の横に座っていた柴田殿が食べ終えた弁当の、蓋を閉める音が重なる。

「左近、口だけならば黙った方が良い」

 昼休みのチャイムが鳴ってから十分程度で、一体、何があったのか。

 他の生徒たちは、二人の剣幕に圧されたのか、いつもより距離を置いているようだ。

 状況が掴めない俺に、佐助が手招きする。

「旦那~、こっちこっち」

「佐助、すまぬ。少し遅くなった」

「体はどう?片倉の旦那への用事なんて、独眼竜に押し付ければ良かったのに」

「おいコラ猿、今日の日直はこいつだ」

 徳川殿の隣で政宗殿が目で俺を指すので、俺は事実なので頷いた。

「日直は大事な仕事だ。終わったから佐助の弁当を早く食べたい」

「へへ、ちゃんと用意してましたよっと」

 嬉々とした表情で弁当の蓋を開ければ、俺が想像するよりも美味しそうな中身だった。

おかずだけが弁当に盛られており、米は全て具の違うおにぎりになっている。

「おー、今日もでかしたぞ佐助っ」

「あったり前でしょうが。俺様の旦那への愛情たっぷり入ってるからねえ」

 やはり佐助は器用だ。楽しみにしたかいも、あるというもの。

 三成殿の横に佐助は座っているので、俺は佐助の前に座った。ウェットティッシュを渡されたので手を拭いている間に、水筒からお茶を注いでくれる。

 政宗殿の手弁当も美味しいが、佐助の味は懐かしさも相まって、俺にとっては特別だ。

「いただきますっ」

 まずはおにぎりをと、ほお張る手を徳川殿の声が引きとめた。

「真田、昼飯のところ何だが、ワシを助けてはくれないのか」

「ふへ?」

 しかし時既に遅し、佐助の美味いおにぎりは、俺の口の中。

「目先の食欲でアウトオブ眼中だとよ」

「放っておけば良いって、どうせいつもの痴話喧嘩なんだし」

「誰と誰が痴話喧嘩だ、気色の悪いっ」

 食べてしまったので飲み込むまでの間、徳川殿と佐助が口を挟んだ。ただ、徳川殿への返答を、三成殿が食らい付いたのはどうしてだろうか。

 噛んだ米を飲み込み、佐助から受け取ったお茶で喉を潤す。

「それで、何のことでございましょうか」

 思ったままを尋ねれば、徳川殿の肩がガクリと落ち、三成殿の気は幾分落ち着いた。

「真田ぁ」

「ふん、仔細気にする必要などない」

 立ち上がっていた姿勢からその場に座り込む三成殿に、島殿が「どうぞ」と、持っていた紙パックのジュースを渡した。

 一体、何があったのか。三口で一個目のおにぎりを食べ終えた俺は、二人分の距離から政宗殿に目配せをすると、ため息混じりに教えてくれた。

「不可抗力らしいぜ」

「え?」

「真田幸村の記憶を引き出したのは不可抗力だと、家康が言ったんだ。それで石田の野郎が、目ぇ吊り上げてただけだ。どうして家康なんだ、ってな」

 傍にいた佐助が俺にだけ聞こえる声色で、「あんたが言うかねえ」と呟いた。

 佐助の真意も気になるが、ひとまず状況は理解できた。

「確かに不可抗力ではあった」

 事実のみを伝えてから箸を握り、弁当からポテトサラダを食べる。

「真田が言うと、意味合いが違って聞こえるな」

 ははは、と笑う声を遮らんばかりに、三成殿が「ゲスが」と舌打ちをした。

 はて、何か違っていたであろうか。

 それにしても、佐助が作ったポテトサラダは美味いな。

 腹は減ってはなんとやら。昼休みはしっかり食べねばならない。

 俺と一緒に昼飯を始めた佐助たちとは別に、既に食べ終えた柴田殿は、島殿へとゆっくりと視線を移した。

「左近、我々は五時間目が体育だから、教室に戻るぞ」

「え~、ちょっと早くない?」

「政宗様、それでは失礼致します」

 柴田勝家殿は伊達家に使える身。同級生でも跡取りである政宗殿に敬称を付けて退席を申し出る姿は、見慣れた筈の俺でも、いささか躊躇う。

 片倉先生だと気にならないのは、やはり、習慣なのだろうな。

 一方の島殿は、先輩を慕う後輩そのもの。佐助曰く、俺とお館様みたいな関係と、以前教えてくれた。

 お二人とも記憶は無いし、政宗殿や三成殿も気にしてなどいない。

 確かに俺の記憶が呼び覚まされたのは不可抗力かもしれぬが、俺の業の深さを思えば必然だったのだ。

 事情を知らぬ二人が、教室へと戻るために立ち上がる。

 島殿だけ、地面に置いていた手付かずの紙袋を掴み、三成殿の手の中に収めさせた。

「三成先輩―、ちゃんとご飯食べて下さいねー」

 内容と紙袋から察するに、購買部で買ったパンであろう。事実、三成殿が開けた中からは、メロンパンが一つ出てきた。

「良かったですな、三成殿」

「私は買ってこいなどと言っていない」

 すげなく紙袋に放り込まれるメロンパンを、俺は未練から凝視する。

「ですが食べねば、午後からの授業が持ちませんぞ」

「食べずとも授業ぐらい受けられる。家康の隣で食べるつもりなどない。幸村はそいつの弁当を食べていろ」

 そいつ、とは佐助のこと。

 佐助の弁当を食べて欲しいが、三成殿が手をつけてくれたことはない。

 これは俺の食べる物という言い分なのだが、ならば、紙袋に戻されたメロンパンは、三成殿のためのメロンパンの筈。

「佐助、弁当をこっちに持ってきてくれ」

 俺は佐助の前から、三成殿と徳川殿の間にある隙間に入り込む。違和感ある二人の距離は、丁度一人分。

「幸村?」

「真田」

やれやれ、と呆れられながらも、佐助は弁当をきっちりと運んでくれる。弁当を挟んで佐助が座ったのを確認してから、手を合わせた。

「ご飯はみなで食べると、一層美味しいでござる」

お二人を交互に見上げてから、二度目のいただきますをする。

「頂くぞ佐助っ」

「はい、召し上がれ」

 俺に箸を渡した後に食べ始めた佐助も、我関せずと食べる政宗殿も、政宗殿の弁当を拝借する徳川殿も。

 そして、紙袋から出したメロンパンの袋を、無言で開けた三成殿も。

「さすがは佐助だな、今日も美味い」

「お褒めにあずかり、恐悦至極ってね」

 みなで笑いながら飯を食う。それがどれだけ幸福か、きっと、分かっている。

 

 

 

 

新刊に続く


 
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