No.699359

戦国†恋姫~新田七刀斎・戦国絵巻~ 第17幕

立津てとさん

どうも、たちつてとです
美濃での日々は短く、次からはまた他の場所が舞台になります

どの場所かって?それはお楽しみに(というか、すぐにわかります)

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2014-07-08 16:31:21 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:2000   閲覧ユーザー数:1737

 第17幕 アタック!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 越後

 

「うわああああぁぁぁ!やっぱり今からでも愛菜は行くのですぞー!どーん!」

「こら愛菜!暴れるんじゃありません!」

 

美濃から美空と秋子が戻り、空が人質として織田に行くという知らせを受けた愛菜は連日駄々をこねていた。

 

それは空が越後を出発しても変わらない。

 

「うぅ・・・こうなったら閻魔様に一筆啓上・・・」

「くだらないことしてないで、早く来なさい!将としてのお勉強の時間ですよ」

「うわああぁぁ空さまあああぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「うおおおおおぉぉお!やっぱり今からでも俺達は行くぞー!」

「そうだそうだ!旦那の居る所に俺達は居るんだ!」

「旦那ぁぁぁ!待っててくだせぇぇぇぇ!」

 

訓練所では七刀斎隊が連日悲しみの雄叫びをあげていた。

 

「だー!もう、うるさいっすー!」

 

その前で困った顔をしているのは、美空から七刀斎隊を任された(丸投げされた)柘榴だ。

 

「けど姐さん!俺達ぁ七刀斎の旦那の部隊だぜ。旦那が向こうに行ってる間何してりゃあいいんすか!?」

「ひとまず柿崎衆に組み入れてるっすから、スケベさんが帰ってくるまではガマンっす!」

「「「「「ちぃっくしょおおおおおぅ!!」」」」」

 

このように連日聞こえるバカ騒ぎに、美空も頭も悩ませていた。

 

(はぁ・・・やっぱり剣丞を置いてきたのは失敗だったかしら)

 

 

 

 美濃 

 

美空達が去って数日後。岐阜城には長尾家からの人質として空がやってきていた。

 

「お初にお目にかかります。長尾景虎が子、長尾空景勝でございます」

 

小さな体で行儀よく挨拶をする空。

対面した久遠は頷き、面を上げるように言った。

 

「うむ。織田家当主、織田上総介久遠信長だ。名目は人質だが、お主は言わば客。そう畏まる必要はないぞ」

「へ?は、はぁ」

 

空が驚くのも無理はない。

この場に居合わせた剣丞自身、美濃での生活の中で久遠や他の将と顔を合わせることが多かったが、誰にも固いという印象は無く、むしろフランクな印象を受けたものだ。

 

これは織田家は長尾家に対し友好的な姿勢をとるということの表れでもあった。

 

「住まいはもう用意してある。護衛や身の回りの世話は七刀斎がやるとのことだったが、それでいいのだな?」

「はい。美空お姉さまの要望です」

 

あまりに自然に肯定されたので、逆に久遠の方が面食らっていた。

 

「そ、その・・・あまり人の事情にとやかく言うつもりはないが、美濃にいる間は七刀斎との2人暮らしだ。それでもいいのだよな?」

 

つい同じような内容を言葉を変えて聞いてしまう。

空は一瞬剣丞の方を見て顔を赤らめると、俯いて静かに首を縦に振った。

 

「お姉さまが言うことですし・・・それに、私も別に構わないというか安心というか・・・」

「え!?」

 

本来挨拶の時に外野が口を挟むのはご法度だが、剣丞はツッコミ気味に声をあげてしまった。

 

「お、おう、そうか・・・」

 

引き気味な久遠。

同じくこの場にいて一連の流れを見ていた剣丞隊最古参であるという木下藤吉郎ことひよ子―仲間内からは気楽に「ひよ」と言われているので剣丞もそう呼んでいる―が、傍にいる他の剣丞隊の面々に耳打ちしていた。

 

「ねぇねぇころちゃん、あの空って人・・・」

「うん、完全に惚れてる目だね」

 

そう返したのは剣丞隊の何でも屋と言われている蜂須賀正勝、通称転子だ。こちらも身内では「ころ」と呼ばれているので、剣丞もそれに倣っている。

 

「やっぱり七刀斎さんってお頭のご先祖様なんだねぇ」

「聞こえてるぞ、ひよ」

「はうぅ!お、お頭!?いや、今のは七刀斎さん?」

 

新田という姓と、織田の剣丞にとても似ている(実は本人なのだが)という理由で剣丞は織田家中からは「新田剣丞の先祖」という認識をされている。

剣丞自身も正体を隠しつつ織田の剣丞との共通点を「まぁ先祖だし」と怪しまれることがないのでこの設定を自ら演じていた。

 

(かといって女癖が悪いとか言われたくないぞ、織田の俺!)

 

ジト目で織田の剣丞を見るが、彼も同じような目で見返してきていた。

 

(あんなロリコンが先祖だから俺も蕩しとか言われるんだ!)

(たくさんの女を侍らせやがって・・・同じ俺とは思えないぞ貴様!)

 

バチバチと視線で火花を散らす2人。

その間には3人の人物。

 

2人はひよところで、残る1人は剣丞隊の一員、竹中半兵衛重治こと詩乃だ。

 

「まったく、お2人ともよく似ていますね」

 

詩乃のその一言で、剣丞と織田の剣丞は「ウグッ」と黙り込んだのだった。

 

 

 

 岐阜城近くの家

 

空が住むという家は数日前から剣丞も住んでおり、掃除などは完了している。いつでも空を迎えられる状態だった。

 

「ここだよ、空ちゃん」

「ここですか・・・人質というからもっと牢獄のようなのを想像していましたが」

 

剣丞と空に与えられた家は、2人で住むには申し分ない広さと綺麗さの家だった。

 

「織田家は長尾と仲良くしたいと思ってるからね。遠出はできないかもしれないけど、不自由は無いと思うよ」

 

そう言いながら空を部屋に案内する。

 

「ここが空ちゃんの部屋だよ。俺の部屋は隣だから、何かったらいつでも呼んで」

「はい、ありがとうございます」

 

箱入り娘である空に生活力があるのかは心配だったが、荷物を整理して箪笥にしまう様子を見るとどうやら杞憂だったようだ。

 

「そういえば、何で俺との2人暮らしなんだ?普通は世話をする人がいるような気がするんだが。わからないけど」

「えっ、あの・・・それは」

「あの愛菜も置いてくるなんて美空らしくない」

「あ、愛奈はこれを機に一人前の将になれるようにと勉強するらしいのです。それに私は2人でも構わないというか・・・」

 

先程と同じように顔を赤くして俯く空。

 

「お姉さまは言ってました。夫が決まってよかったと」

「ぐっ、美空がぁ!?」

 

そのことから出先で剣丞となにかあったのだと想像した空は、剣丞に対してなんとも言えない気持ちを抱いていたのだった。

 

「私も、七刀斎さんと一緒に居たいです」

「・・・え?」

 

(ナニコレ、いきなりの告白?)

 

「あと、これ。お姉さまからです」

「ん?なになに」

 

謎なタイミングで空が懐から1枚の書状を取り出す。

受け取った剣丞は訝しげな顔をして見ると、そこには美空の字でこう書かれていた。

 

【空には手を出さないこと。出したら殺すわよ】

 

「お、おう・・・」

 

相手は遠い越後の地にいるというのに、自然と引き返事が出る。

 

すると空はその手紙を剣丞の手から取り上げると、真っ二つに破り捨てた。

 

「でえぇぇ!?く、空ちゃん?」

「でも、これで七刀斎さんは私に手を出せますね♪」

 

空はテヘッと笑うと、剣丞に抱き付いてきた。2人には身長差があるため、剣丞の腹に空が顔を埋める形となる。

 

「く・・・空ちゃ、ん・・・?」

「・・・・・・」

 

見ると空はプルプルと震えていた。

 

(い、勢いで言ってみたけど恥ずかしすぎるよぉ・・・気絶しそう)

 

意識がよく飛ぶ空は今もかすかに気絶の淵を行き来していた。

 

(でも、ここで伝えないと!)

 

「その、美空お姉さまと、私は・・・あなたに同じ感情を抱いています・・・」

(な、なんだってええぇぇぇーーーー!!?)

 

頭に稲妻が奔る思いだった。

 

(あの、空ちゃんが俺のことを・・・?え、マジ?)

「お、俺もだよ」

 

剣丞は数秒フリーズした結果、自分でも訳のわからない言葉を口走ることになった。

 

(あれ、今俺なんて言った?)

「ッ・・・嬉しい!」

 

更に体を抱きしめる力が強くなるのを感じ、剣丞はもしかして自分はとんでもないことをしたのではないかと遠く感じていた。

 

 

 

「・・・じゃあ、夕餉の時間に呼ぶから」

「はい、七刀斎さん」

 

混乱の時間が終わり部屋を出ていこうとしたところで、剣丞は立ち止まる。

 

「あ、空ちゃん」

「なんですか?」

「新田剣丞って見ただろ?」

 

そう言うと、空は思い出したように声を上げた。

 

「そうでした!姓も同じだし七刀斎さんと同じ顔。一目見て気になってました」

「うん、アイツは俺の親戚みたいなもんなんだ。だからあんまり気にしないでね」

「わかりました」

 

頷いた剣丞は再び部屋を出ようとし、

 

「すいませーーーーーん!」

 

外から聞こえてきた声に足を止めた。

 

 

 

空と2人で家の前に出ると、そこには織田の剣丞をはじめとする剣丞隊の面々が揃っていた。

人見知りのきらいがある空はすぐさま剣丞の後ろに隠れてしまう。

 

「あれ、ひよにころ・・・詩乃に――」

 

剣丞も、と言おうとしたところで一瞬言葉に詰まる。

果たして自分が織田の剣丞の事を『剣丞』などと言っていいのか、という考えが頭にはあった。

 

「――剣丞も。こんな時間になんだ?」

 

現在剣丞は七刀斎として、織田家の剣丞隊に所属している。

そのポジションは、新田という苗字からか織田の剣丞に次ぐ扱いだ。

故に剣丞はひよやころ、詩乃からは敬語を使われていた。

 

「いやな、ここに七刀斎が来てから何もしてなかっただろ。だから今日は歓迎会でもしようと思ってな」

 

そういう織田の剣丞の背には買い物をしたのか、大きな籠がある。

 

「おいおい、何人分だよ」

「ちょっと買いすぎてな・・・まぁ食えるだろ」

「もう!だからウチの隊はお金が足りないんですよ!」

 

剣丞隊の財布ともいえるひよがため息交じりに怒る。

笑って謝っているところから、織田の剣丞は反省していないだろう。

 

「・・・そうか、そんだけ多いんなら1人追加しても大丈夫だよな?」

「おう、それは構わないけど・・・誰か誘いたい人がいるのか?」

 

剣丞がヒョイと体を横にずらす。

それにより、後ろから剣丞に寄りかかるように隠れていた空は前に出ることになった。

 

「空ちゃんだ。いいよな?」

 

織田の剣丞は「ああ、長尾の」と納得していたが、他がそうではなかった。

 

「ひ、ひいいいぃぃぃ!な、長尾家のあああ跡継ぎであらせられる長尾景勝さまではござりませんかぁぁぁ!?」

「こ、こ、こ、この度は織田との同盟の折ぃぃぃぃ!」

 

案の定、ひよところが恐れをなして平伏する。

詩乃はというと、剣丞の家に空がいることはわかっていたので、ある程度予想はしていたようだった。

 

逆に2人のあまりの腰の低さに驚いたのは空の方だ。

 

「ひぅっ!あ、あの・・・」

「「はい!なんでありましょうか?」」

「ひぃぃ!」

 

困り果てた空に助け舟を出したのは、意外なことにも詩乃だった。

 

「はぁ・・・2人とも、同盟国の跡継ぎにへりくだる気持ちはわかりますが、そこまでしたら変ですよ」

 

その言葉を聞いた2人ははっとしたように顔を上げた。

 

「そ、そうだけど・・・やっぱり身分には弱くて」

「元農民と野武士だもんね・・・」

 

しょんぼりとするひよ&ころ

それをみた空は一瞬剣丞を見て、それから2人に向き直った。

 

「あの、私は・・・人質とはいえ、皆さんと仲良くしたいと思っています。だから、その・・・」

 

空は顔を赤くしながら言った。

 

 

 

 剣丞隊の長屋

 

剣丞隊のメンバーに剣丞と空。全員が1つの鍋を囲っていた。

 

「はい、空さま」

「ありがとう、ひよ」

 

ひよが空の分の器に具を盛り付けて渡す。

空は両手でそれを受け取った。

 

「ころちゃんのお鍋、すっごく美味しいですからね!」

「ひ、ひよぉ・・・そんなに持ち上げないでよ。それでもしお口に合わなかったらどうするのさ!」

「そんなことないよ!ころちゃん!」

 

2人が固唾を飲み込んで空が箸をつけるのを見つめる。

 

「・・・おいしい!」

 

一口食べた感想は、ひよところに安堵の息をもたらすものだった。

 

(空ちゃんも成長したなぁ)

 

空が先程提案したのは、皆に対して友達になってほしいというものだった。

ひよやころなどは、身分を気にしてか畏れ多いと言っていたのだが、織田の剣丞が気を利かせて一応承諾させた。

 

今は先程のような距離を感じないので、長屋へ行く道で空はどうやら剣丞隊の面々と仲良くなったようだった。

剣丞が越後に来たばかりの頃を考えると大変な進歩だ。

 

「七刀斎も食ってくれ。俺らだけじゃこの量は捌ききれない・・・」

「俺が居ても変わらなさそうだけどな」

 

鍋をつつく部屋の隅には買いすぎた食材が悲しく積まれている。

 

剣丞も今は刀を傍らに置き、仮面を着けていること以外はリラックスした体勢をとり、ころ特製味噌鍋に舌鼓を打っているところだった。

 

「にしても、ホントに旨いな。越後じゃ鍋は少ないから久しぶりに食べた」

「はい。私も久しぶりに食べました。ころ、ありがとう」

「い、いえいえ!」

 

こうして、お互いの親睦を深めながら夜は更けていく。

 

 

 

空が美濃に来て数日が経った。

人質である以上岐阜の町に軟禁状態ではあるものの、自由度は高い。

 

普段はお付きの七刀斎が、たまに仕事が休みの剣丞隊の面々が、空と剣丞を連れてご飯を食べに行ったり遊びに行ったりしている。

 

こちらに来て剣丞にとっての一番の発見は、越後にある二発屋の元となった一発屋という店がこの美濃にもあるということだった。

話を聞いた剣丞はすぐさま空を連れて食べに行き、すっかり今では空共々常連だ。

中でも織田の剣丞が提案して作られたという現代風な味付けの料理は、この世界に慣れた剣丞の舌を懐かしさでいっぱいにしていた。

 

それに護衛役とはいえ、この平和な美濃での空の護衛はただ一緒に暮らしているだけでいい。

生活に必要なものは久遠が手配してくれているので、公然とニートをやれているのが現状だった。

 

しかし、悠悠自適なこの生活でも剣丞にとって悩みの種が1つだけあった。

 

それはひとえに、空の接近だ。

 

精神的には美濃に来た頃からずっとピッタリくっついている感じなのだが、日に連れて物理的にも距離が近くなっている。

勿論、剣丞もそれが好意によるものだとは気付いている。

だが「美空と結ばれて早々、浮気していいのか?」という自責の念がその接近を躱していた。

それに空とそういう関係になったとして、周りに「このロリコン野郎」という目で見られるのも避けたいというのが剣丞の本音だった。

 

だがこの日の朝、剣丞は自分史上最大のピンチに陥ることになる。

 

 

 

「ん、もう朝か・・・」

 

チュンチュンと鳴く雀の声を聞き、薄ぼやけの意識の中目を覚ます。

 

「今日もあの煩悩地獄と戦うのか・・・昨日は大人しかった分、今日は・・・・・・」

 

起き上がろうと目線を体に向けた時、剣丞の言葉が止まった。

 

体が重く、掛布団が膨らんでいるのだ。

まさかという疑念を抱きつつ、ゆっくりと布団をめくり、

 

「ん・・・おはようございま――」

 

瞬時に戻した。

 

思わず高達での思い出が蘇る。

 

(見間違いじゃなければ、今空ちゃんが全裸で俺の上に上に上にににに)

「ぜ、ぜんらああああぁぁぁーーーーー!?」

 

高達で光璃が隣で寝ていた時にも同じ類の焦りを感じたが、今のはその比ではない。

 

「ンーー!ンー!出してくださいー!」

 

光璃は多少着物がはだけていただけだったが、自分の目が確かなら空は自分の上で全裸だ。しかも密着。

隔たるものが剣丞のシャツ1枚という状況は、非常にマズかった。

 

「や、ヤバッ」

 

このままでは空が窒息してしまうと悟った剣丞は急いで布団をめくる。

するとせき込む声と同時に、雪国で育った真っ白な裸体が視界に飛び込んできた。

 

「な、なななな七刀斎さっ・・・!」

(自分で忍び込んでおいて気絶しそうなあたり空ちゃんは面白いな)

 

「なに?」

「き、ききき昨日は、よ、よよ良かったですね!」

 

顔を真っ赤にしながら上目遣いで見つめてくる空。

そこで剣丞は自分の中で狭くなっていた視界が広くなるのを感じた。

相手が焦っている時ほど自分は冷静になるというアレだ。

 

「・・・とりあえず服着ようね」

 

言葉と表情が合っていないぞ、というツッコミを置いておけるくらいには剣丞は冷静だった。

 

「はぁ・・・誰に聞いたの?」

「えっ?あ、詩乃に」

「やっぱりかあのムッツリめ」

 

なんとなく予想はついていた。

空が剣丞ともっと女性として見てほしいにはどうすればいいかと誰かに聞き、その相手が詩乃だったのだろう。

耳年増な詩乃の事だから、全裸で忍び込んで既成事実っぽく振る舞えば良いと教わったのだ。

 

そのことを空に伝えると、「すごい・・・全部合ってます!」と驚いていた。

 

(空ちゃんが俺に抱いてる感情を自分で言うのはなんか自意識過剰な気もしたけど・・・まぁいっか)

 

「ほら、服を着よう。こんなとこ誰かに見られたら・・・」

「い、嫌です!たまには私だって・・・!」

 

空(まだ全裸)を引きはがそうとするも、ギュウウゥゥと手を後ろに回してきてなかなか離れない。

 

(やばいぞ、今はまだいいが、このままだと息子が・・・!)

 

「グググ・・・?七刀斎さん、いつのまに刀をお持ちになったのですか?」

(ま、マズッ!)

「や、これは!なんでも――――」

 

 

「たのもーーーーーーー!」

 

聞き覚えのある声と挨拶。

剣丞は美濃で生活をする初日に織田の剣丞が同じような形で家に来たのを覚えている。

 

「おい剣丞、反応が無いではないか」

「おっかしぃな・・・たのもーーーーーーーー!」

(や、ヤバイ!!)

 

どうやら訪問者は織田の剣丞と久遠のようだ。

このような状況をあの2人に見られては、たちまち美濃のロリコンの名が日の本中に駆け巡るだろう。

 

「仕方ないな、入るぞ」

 

ガラガラと引き戸を開けて家に入って来たのは久遠のようだった。

 

「やっば!おい空ちゃん!お願いだからどいてー!」

「ふ、ふんっ!別に私は誰に見られようが七刀斎さんの傍にいられればそれでいいんです!」

「君は良くても俺は死ぬ!」

 

そうこういている間に、久遠を追って織田の剣丞も家に入ってきていた。

 

「話し声・・・」

「なんだ、やっぱりおるではないか」

 

2人は剣丞の部屋の前で歩みを止めた。

 

(くぉぉぉぉ!どうする俺、どうする!?)

 

空は離れず、久遠達は戸1つ隔ててすぐ近くだ。

剣丞の脳細胞は今フル回転していた。

 

「おーい七刀斎、開けるぞ」

 

久遠がそう言いながら戸に手をかける。

 

開けた2人の前に飛び込んできたのは、布団を異様に隆起させた剣丞の姿だった。

 

「なんだ七刀斎、いるならいると言えばよかろうに」

「あ、あはは・・・」

 

剣丞は戸が開かれる間に空を再び布団の中に隠し、枕元に置いてあった仮面を瞬時に装着していたのだ。

 

だが2度目の酸素供給減少に、空は布団の中でまた暴れていた。

 

「お、おい七刀斎。その異様に盛り上がった布団はなんだ?まるで人でも入っているような・・・」

「それに心なしか中でメッチャ動いてる気が」

 

(クッ、もう見抜きやがった!流石は時代の風雲児!)

 

まったく関係ないことを心の中でいいつつ、剣丞は言い訳を考える。

 

(どうする、とりあえず話を変える方法!)

 

「あ、そういえば何で2人は朝早くから俺んちに?」

「ああ、それはな」

 

久遠が思い出したように答える。

織田の剣丞はというと、朝早くに起きたのか随分と眠そうだ。

だが彼はキッチリ聖フランチェスカの制服を着て刀を帯びている。

遊びに来たというわけではなさそうだった。

 

「今から京に行く。ついて来い」

「・・・は?」

 

今から一発屋行こうかのノリで言われ、一時意識が空白になる。

だが耳が確かなら行こうと言われた行き先はもっと遠い場所で・・・

 

「いつ?」

「今だ」

「どこまで?」

「聞こえなかったのか?京までだ」

「なんでだよ!」

 

そのやりとりを見ていた織田の剣丞が小声で「ほら、やっぱり誰でもそうなるって」と言っていたのを聞いて、彼も被害者かと剣丞は同情を禁じ得なかった。

 

「行きたいから行くのだ!そこで剣丞隊の主要な人物を護衛として連れて行こうと思ってな。お主もついて来い」

「え、いや。俺は空ちゃんの護衛なんだけど」

「空も連れて行けばよい。とにかく、壬月たちに見つからぬうちに準備しろ!」

「え、ええぇ!?」

 

立ち上がらせようとの考えからか、久遠がグイィッと剣丞の腕を引っ張る。

突然の事で抵抗が間に合わなかった剣丞は、あっさりと布団から出ることになった。

 

「あ、しまったあああああぁぁぁ!」

「――――プハッ!」

 

酸素を求めて布団から出る空。

無論服など着ていない。

 

「んなっ!」

 

重たかった瞼が一気に軽くなる織田の剣丞。

 

「な、なななな・・・!」

 

剣丞と空を見比べて顔を真っ赤にする久遠。

 

「・・・・・・ははっ」

 

最早笑うことしかできない剣丞。

 

「こ・・・・・・」

「こ・・・・・・」

 

久遠と織田の剣丞が同時に噛みしめるように呟く。

聞き返そうと2人に近づくと、返って来たのは答えではなく、2つの拳だった。

 

「こんの痴れ者があああぁぁぁぁ!!」

「このロリコン野郎ーーーーーー!!」

 

その日から美濃には「良い子にしていないと仮面を着けた男が攫って食べちゃうぞ」という子供への言い聞かせが始まったとかそうでないとか。

 

 

 

 


 
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