No.698490

命-MIKOTO-20-話

初音軍さん

萌黄のいない場所で命と触れ合う瞳魅。
ふれあいながらも命のためになりそうな情報を提供すると
命の中で希望が膨らんでいった。
後に萌黄と相談してみんなで情報先へ向かったのだが
そこは…。

2014-07-04 18:28:19 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:334   閲覧ユーザー数:334

命20話 一歩

 

 いってきまーす。萌黄とマナカちゃんという珍しい組み合わせが昼過ぎになって外へと

遊びに出かけていった。二人の気配を感じなくなる頃、私は背後からの感触に

なるほど、と頷いてしまった。

 

「ねぇ、命。たまには私にもさせてよ」

「マナカちゃんを使って萌黄を離したわけですね」

 

「人聞き悪いなぁ…まぁ、でもそうでもしないと二人きりになれないじゃん」

「仕方ない人ですね」

 

「あー、たまには癒してくれるっていったのは命なんだからね。

言葉の責任はとりなさい」

「はい…」

 

 怒られてしまった上に子供を叱るように「めっ」とか言われながら眉間辺りにちょんっ

と軽く指で突かれ、ちょっと複雑な気持ちであった。

 

「あのー、じゃあ私はどうすれば?」

「んー、とにかく後ろから抱きしめさせて欲しいな」

 

 そういって私の返事を聞く前に後ろに回って抱きついてきた。

いきなり過ぎてびっくりしたけれど、何より力づくでどうにかするという何かじゃなく

勢いとは違ってとても優しく包み込んでくれたことに驚いた。

 

 何か体につけてるのか、ふわっと花の匂いを感じた。

力が抜けるような気持ちよくなる匂いだった。

 

「命が好きそうな香りの香水見つけるの大変だったのよね。天然ものの高いやつ」

「もう、無駄遣いして…」

 

 前から自然の匂いに囲まれていて、感じ方が強いから濃縮した香りは嫌じゃないけど

嗅いでいると頭が少しくらくらするようになる。

 

「何をするつもりなんです…」

「私が命に? 何をすると思う~~?」

 

 楽しそうに笑いながら私をからかうように言う瞳魅に軽く不安を覚えていたけれど。

直後に残念そうに瞳魅は呟くようにいった。

 

「過ぎたことはしないよ。今日は命と楽しく過ごしたいからねえ」

「そう…」

 

 少しうとうとし始め、抱きついた格好のままで近くにあったソファに座った。

私が瞳魅の上に乗っているような形で体重がかかっているのに

時折笑みが聞こえていた。重くないのだろうか…。

 

 そんな気遣いの言葉などかけようものなら全力でからかってきそうなので

出そうになった言葉を飲み込んだ。

 いい匂いでほどよく気が抜けた私はそのままの体勢で体を触られても

変な感じがしなくて暫くされるがままになっていた。

 

 その途中、軽い感じに話していた瞳魅が急に真剣な声色になって

私の耳元で囁いてきた。

 

「子供欲しいんでしょ…」

「え…?」

 

「この前の不思議な子が帰ってから命寂しそうにしてるからさ、気になってたんだ」

「うん…」

 

 将来の娘になると言っていたみきのことだ。

本当に私と萌黄にそっくりで信用してしまうくらい。

それくらい似ていて、素敵な子だった。

 

 だけど時間経つたびに実際にあったことが薄れていって

夢の中のことだったんじゃないかと思えてきたのだ。

 

「私の親戚の一族でね…。そういう研究している人たちがいるのよ」

「え…?」

 

「同性でも子供を作れるっていうのをウリにしていてね。当時の私は非現実的だと

笑っていたけれど、命やマナカと会ってね。素直になってから少し考えが変わった」

「…」

 

「今度紹介しようか、もしかしたら何とかなるかもしれないよ」

「できるでしょうか…」

 

「わからないけれど、あの子を信じているんでしょう? 家族が欲しいんでしょう?」

「…はい」

 

「一度会ってみる?」

「萌黄と相談してみます」

 

 そこで初めて振り返って瞳魅の顔を見ると少し複雑そうな顔をしていた。

その表情を見ていたら胸が詰まるような思いがした。

 

 私の反応でどれだけ瞳魅は傷ついたんだろうか。本人しかわからないけれど

罪悪感からじゃないけれど私はそんな顔をしていた瞳魅を正面向いて抱きつくこと

しかできなかった。

 

 ハグをして頭を撫でると気持ち良さそうに目を瞑っている。

 

「不思議とこうされると心地良いのよね、貴女限定で」

「そうですか」

 

「私、エロエロなのに!普段エロエロなのに!」

「連呼しなくていいですよ!?」

 

 そんなやりとりの後にそっと目を開けて安らいだ顔をしながら

瞳魅さんは私に聞いてきた。

 

「何で急にこういうことしてくれたの?」

 

 こういうことは撫でていることだろうか。私は手を休めずに思ったことを

素直に口にした。

 

「私のことを想い続けて言ってくれてるのに、可哀想かなって」

「同情?」

 

「ごめんなさい、そういうことになるかも…」

「…それでもいいわ。僅かな間でも私のモノになってくれるなら」

 

 チュッ

 

 最後に頬にキスをして私は飛び跳ねるように瞳魅の上から降りた。

長身の私を上に乗せるのは重かっただろうけど彼女は嬉しそうに微笑んで

私を見つめ続けていた。

 

 

「という話を聞いてね」

 

 瞳魅から聞いた情報を萌黄に話すとぽかーんと口を開けながら呆けていた。

そんな萌黄も可愛いけれど今重要なのはそっちじゃなくて。

 

「何だか少し現実離れしていてびっくりなんだけど」

「ですよね、私もあまり信じられなくて。でも会ってみるだけ見てみません?」

 

「命ちゃんが言うなら私はそうするよ。会うだけね!

そっから先は要検討!大事なことだからね!」

 

「わかってますよ」

 

 私の返事に少しホッとした顔を見せる萌黄。この話をしているのは

私の部屋でご飯お風呂全て済ませてもう寝るという時に寝巻きを来た二人が

ベッドの中で愛を語りあう時間帯に私が話を持ちかけたのだった。

 

 それは愛の言葉から子供の話になったらびっくりするだろうけど。

話の後まんざらでもないという顔をしていたからホッとした。

萌黄もあの子のこときちんと覚えているんだって安心した。

 

 安心ついでに眠くなってしまった。

 

「そういえばマナカちゃんとどうだった?」

「思っていたより反応よかったよ、無表情だったけど」

 

 瞳魅のことがあったとはいえ、それなりに楽しかったのかな。

あの子は本気で嫌だったら即効帰る子だったから。

 

「最後はソフトクリームを食べさせあいっこしてた!」

「何それ私もしたい!」

 

 想像したらとても可愛い映像が脳内に浮かんでしまって

うらやましかった。私にはそういう態度あまり見せないから、ちょっとした嫉妬だろうか。

 

「まぁ、ともかくお互い色々あってお疲れ様だよ。今回の話もまた時間ができたら

言ってみようね」

「はい…」

 

「おやすみ、命ちゃん…」

「おやすみ、萌黄…」

 

 一通り話を終えてから布団の中で私と萌黄は指を絡めながら手を繋いで

寄り添うようにして眠りについた。

 

 

 みんなで都合の良い日が一月後に取れて4人全員で噂の研究してる人に会いに

行くことにした。私が子供の頃にいた所のようにこれから向かう場所もかなり

人の気配が少ないという。

 

 何県も離れ、電車で長いこと揺られて長時間歩いてようやく到着する。

途中から建物などの人が住んだり働いているものが徐々に消えていき、

木々や畑等、昔ながらの光景が増えていった。

 

 歩いている時に虫がマナカちゃんにくっついてきて大騒ぎになったりもした。

あの時は怖がってるマナカちゃんには悪いけれど可愛くて思わず笑ってしまった。

誰でもそうだけど、自分の経験したことないものや慣れないものに対して

気持ち悪さや怖さなどが増幅していくのだろう。虫だけに留まらずそういうものだ。

 

 さてそんなこんなであまり舗装されていない道路を幾らか過ぎた所から

雑草が多い茂る所へと入っていく。

 

 だが私たちが入った場所は人一人が歩く幅はきっちり刈り取られていて

人の行き来はあるように感じられた。だけどそれ以外は丸っきり手入れが

行き届いていない。

 

 最低限の手入れしかしていない。そんな不思議な光景。

 

 虫に気をつけながら歩いていくと、やがて大きな建物が目についた。

白くて大きな建物。とても住宅と呼べるものではなく、どちらかというと

廃墟になった病院といった方が合っているだろう。

 

「ここが研究室だ。以前、私の一族と繋がっていて挨拶がてらに合ったくらい

しか面識がないが。連絡先はとってあったので前もって連絡してあるから

安心してくれ」

 

「一族?」

 

 私が聞き返すとちょっと困ったようにしてから誤魔化すように別の話題に

変えられた。そういえば私は瞳魅の素性を知らないままだった。

気にはなるけれど、プライベートなことだから必要以上に踏み込めずにいたから。

 

「行こうか」

「何か肝試しみたいだね~」

「ちょっと、やめてよ・・・」

 

 瞳魅、萌黄と口にしてから歩き出すとマナカちゃんは怖がるようにして

瞳魅の服の裾を掴んでぴったりくっついていた。

 みんなで横並びにして歩き、私は萌黄の右隣を歩いて右手側は壁に向けて

長く続く廊下を歩いていくと、徐々に自然のものとは思えない臭いがしてきた。

 

 私たちが今歩いていた近くにあった部屋から漂ってくるようだった。

 

「ここね」

 

 瞳魅の言葉に私たちはその場所で立ち止まり息を呑んで扉の前で立っていた。

怪しい雰囲気たっぷりの中で何が起こるのか不安で胸がいっぱいだったけど。

一緒に手を握っていた萌黄が傍にいてくれれば何とかなるかも。

 

 それくらい心強くて嬉しい気持ちを持ちながら私は戸を開いた。

 


 
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