No.698091

Atlantis二章 拾壱話「天央高校」

佐藤巴さん

これは人に魅せる小説であり、自己満足は三割です
二章と書いてありますが、始めての人でも楽しめるように作りましたので是非見て行ってください!

「立ち上がれ、その命と魂が武器になる――。」
ムー大陸、太平洋上にありながら、結界によって外界との繋がりを遮断してきた大陸だ。

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2014-07-02 17:18:08 投稿 / 全20ページ    総閲覧数:314   閲覧ユーザー数:309

 

室内に冷房も暖房も要らない、そんな心地よい天気

この俺、上郷昊菟は、着なれた飾り気のない服を着て、ノーリタリア市立病院から出てきた

 

「あとは薬をもらって……

帰るだけっと」

 

病院の近くにある処方箋売場へ入り、受付の薬剤師に紙を渡した

 

「少々お待ちください」

 

そう言われて眠くなりそうなほど弾力のあるソファに腰掛けた

 

開けた開放感のある窓、白い内装、消毒の清潔な匂いがする、昼のこと

 

俺は入学式を翌日に控えている

明日から、どんな学校生活になるんだろうか

 

お茶を作る機械に目をやった

白く、メーカー名がでかでかとかかれた機械が人気もなく置かれていた

 

「……エゼラル」

 

突拍子もない出来事で共同生活する事になった彼女、カナンの事を思い出す

彼女が飲んでいた飲み物だ

曰くは、病人にも利く魔力を含んだ飲み物だそうじゃないか

 

そのエゼラルのボタンが、おいてあった

 

「……」

 

腰を上げて、紙コップを手に取ると、ボタンを押して、棒立ちになる

しばらくして、無臭の白い液体は紙コップに収まった

 

暖かいそれを、摘むように持って口に流し込んでみる

 

「……うっわ

まずっ」

 

 

 

壱拾壱話「国立天央高校」

 

 

翌日、白沢疋乃の家

朝ご飯を食べ終わり、皆学生服に着替えると、荷物を持った

一緒に住んでいる女性達の着替えの為にトイレに追いやられていた昊菟もリビングに顔を出す

 

リビングは黄土色のカーペットに白い壁、ベランダに続く大きな窓

とても開放感のあり、広い空間をとっていた

マンションの一部だということを忘れるほどだ

上から見下ろすと長方形のマンションの最上階全部を使っている豪勢な物件だ

 

こんな物件に住んでいるのは、昊菟の小学時代の友、白沢疋乃のその父が建てた物件だからだ

疋乃は、中学生の時代に、この超能力と魔法が研究されているムー大陸にある日本、俗に言う、日本大陸に来て、特殊な授業を受けていたのだ

この土地は長い歴史の中、結界に隔離されていて、誰もが干渉出来なかったが、ある事件をきっかけに太平洋に現れたのだ

その結界が壊れた事件がどうして起こったのかは未だかつて不明だが

 

長方形の広いリビング

キッチン寄りにはテーブルと、壁に液晶テレビが取り付けられており、その反対側には自由な空間ともう一つ液晶大型テレビ、さらにはソファが置かれている

これのどこがマンションだと思えるだろうか

 

「よし!記念すべき初高校生!

頑張っていきましょー!」

 

疋乃は青い学生服

カナンは赤っぽい学生服だ

同じ女子でも学生服の配色が違うのは、制服は赤か青のラインと形だけ同じであれば、その個人の指定した色になるのだ

カナンなんかはいつもの黒いコートを学生服の上から羽織っている

 

彼女のかけ声に皆一様にうなずくと、レイニアだけが苦笑いで返してきた

 

「私は初小学校だがな」

 

パーカーに膝丈のスカートの私服にランドセルを背負っているレイニア

腕がないのに疋乃の要望でランドセルを背負う事になったのだ

本人もまんざらではなく、ご満悦のようだが

レイニア・スチュアート、12歳

彼女は三神蓮菜という科学者の研究所に使い魔として居たのを疋乃が引き取ったのだ

彼女は小さい頃、戦争の時の負傷により、両腕を失っている

科学者であるため、戦陣にかり出されていた三神蓮菜は、その様子を酷く哀れみ、小さな小さなレイニアを引き取ったのだ

 

科学者というのは、魔法や超能力を研究する人々であり、彼らは強力な魔法使いであることが多く、国に密接に関係している学者である

その科学者の魔法により、レイニアは戦争の最中、三神に助けられたのだが――

レイニアには国からの圧力で生かしておく代わりに「魂魄錬成」という魔術がかけられており、大量の人々の魂を植え付ける事によって、人格を分けたのだ

 

魔法は努力し、知識と理性と努力で使うものであり、超能力はその逆、本能と感性と天才で使うものであるため、両方を取ればどちらも二流になるのが責の山だったが

初めて人格を分ける事で、一流の魔法と二流の超能力を併用する事を可能とした実験成果なのである

 

そしてさらに彼女はこのムー大陸において名のある魔法使いであり、宗教を問わず多くの神の力を形式的に使うことが出来る

その力の異名は、「魔法神殿(シュライン)」と言う

この形式魔法というのは、多くの人が信じる概念を利用し、魔法を使う大魔術である

「しかし、よく入学出来たな、カナン」

 

そう、我らがカナンフォルセティは本来なら入学出来るような境遇の人間では無いはずなのだ

彼女は何十年も封印されていた人である

昔、ムー大陸が太平洋に出現した大事件に関与しているというトンデモ人物なのだ

 

外見こそ若々しいがその実は封印されていただけで学生の年代をはるかに越えた人間なのだ

毛先に行くほど金髪になる彼女の髪は癖が無く美しい

スタイルも良く、肌は白い、黒のコートと肌の白さのコントラストが余計にその白い肌を明白にする。

その美しい風貌と、大きく、赤い瞳は同年代を思わせる

本人曰く、能力を使っていくらでも外見なんて変えられるし、不老になれるらしい

 

彼女の行動原理は謎で、封印を施した昔の仲間の指示により、研究所を襲撃し、情報を集め、日本大陸に来ていたのだ

学校に入学してくるあたり、そんなにせっぱつまってるようにも見えないが

 

この結界の張られて隔離されていたムー大陸に元から住んでいた、彼女のような新人種の事を夢人(ムジン)と呼ぶ

性格、感性は奇異なものであり、運動神経は幻想的なまでに強く、同じ人間として扱おうとすると痛い目を見るだろう

 

「同時に何人か洗脳すれば、不可能じゃないのよ

このぐらい、入学するのは他愛もないよ」

 

同時に何人か洗脳

その言葉だけ聞けばかなり簡単そうに聞こえるが、実は違う

魔法は併用すればするほど消費量も処理コストも何倍にも上昇する

カナンはそれをやってのけていたのだ

無論、すごい事だが、昊菟にはそのスゴさは伝わらないままだった

「じゃ、行こっか」

 

疋乃の空間接続が目の前で起こると、このマンションの外の景色を映し出した

マンションが大通りに立ち並び、空は狭いが、空気は澄んでいる

幅の広い道路には車両が通ってるわけでもなく、ただ学生達が歩いている

 

「じゃあ、また後でな、疋乃、昊菟、カナン」

 

「ええ、レイニアもしっかりやってくるのよ」

 

「おう」

 

マンションを出てレイニアは反対方向へと歩いていった

その歩調はルンルン気分に見える

 

それを三人ともほほえんで見送ると、振り返って反対方向へ高校を目指した

 

「レイニアもすっかり、可愛い子供だね~」

 

「疋乃も相変わらず可愛いの好きよね~」

 

「カナンも相変わらず、なんでもやるよな」

 

列島から大陸に今年来た高校生にとっては、かなり緊張してるだろう

それはこの上郷昊菟も例外ではないが、疋乃のサポートやカナンの案内により、大陸にはある程度慣れていた

俺たちは緊張した面もちの生徒達の中、暢気に歩いている

少し、誇らしい気分だった

 

因みに、ちょっと前に話題に出た痛覚目覚ましだが、買った

効果は抜群すぎる

ただお目覚め痛覚は、朝からテンションが下がるので勘弁してほしい

 

 

そうだ、せっかくだから少し整理をしよう

俺、上郷昊菟に起こったこと

日本列島で超能力を発現させていた俺は、少し前にムー大陸にある高校に入学するために、俺は一人、知り合いである疋乃の親がもつマンションに引っ越した

日本列島で聖(ホーリー)という能力を覚醒させたオレは、特別措置で大陸に行ったのだ

その時にカナンの研究室襲撃からの逃走に巻き込まれ、科学者の手先であるレイニアと戦い、退けて、帰ると疋乃が憤怒していた

 

カナンも送るためについてきていたので、俺とカナンで疋乃に説明し、そしてあとをつけてきたレイニアを見つけ、逃げ出したので、追走し、保護する

しかし彼女は自分の研究所の科学者、三神蓮菜に認めて貰えなければ酷い目に会うとの事なのだ

そこで三神蓮菜と戦う事になったのだ……

科学者には国の後ろ盾もあり、レイニアは研究成果だ、そうそうタダでは逃がせ無いような状態だったのだ

その勝負に辛くも勝利し、カナンは疋乃の家を拠点に、レイニアは研究所から引き取り疋乃の家に住む

 

俺は疋乃の家に成り行きで住むことになってしまった

疋乃はそう言うことをいともたやすく行ってしまうちょっとズレた人なのだ

それでも一人暮らしよりは楽だから、彼女らの厚意に甘えて、よしとしよう

そして、この日を迎えたのだ、天央高校入学日を

 

 

天央高校

日本大陸に国が建てた高校だ

この学校はエリート高校でもある、大陸にとっては、だが

偏差値は中の上、しかしその生徒の大半は超能力者か魔法の心得のある者、優秀な学力を持った人間を教育している

いずれも、国にとっては有益な人間の教育、というわけだ

 

そして、その高校に特例で入るのが俺だ

延々と光り続ける右手人差し指の光

この前例の無い、聖(ホーリー)という超能力の為だ

勉学も足りてなければ、高位能力というわけでもない

聖という不明な能力の為の措置というワケだ

 

「しかし……広いな」

 

街を見下ろす丘の頂きにある天央高校

その大きな丘一つを贅沢にとった校庭と校舎

そして周りに建物一つ建つこと無く、壮大に広がっている森

校庭にある走るための白いラインは端っこが見えない壮大さだ

まさにこの広いムー大陸を象徴するような壮大さである

列島にあるどの大学でも、この規模にはかなわないだろう

 

「天央高校はあらゆる設備をそなえて、多くの生徒を預かり、寮もある、だから異様なほど壮大だけど、改めて広さを実感させられるね

ここまで校門から校舎が遠いと、学校に着く時間とクラスに入る時間をはき違えると痛い目を見るね」

 

「そうだな、気をつけよう」

 

「よお、共同生活組ィ!」

 

聞き覚えのある男の声を聞く

新城誠

褐色の手を振り、後ろに立っていた

切れ長な目と、金髪と朱色に染めた髪がヤンキーを連想させるが二重の目にメガネ、黄土色の学生服は優等生という雰囲気も出している不思議なヤツだ

 

特技は、出来ない事はなにもない、とのこと

 

「あら、新城君、おはよ」

 

「おぃーっす疋乃嬢

いい天気だな」

 

ニカっと屈託のない笑顔で挨拶を済ませると、少しバカにしたような顔をして

 

「コト、両手に華とは、まさにこのことよのう」

 

と言った

 

「新城、それ、二人同時に口説く口説き文句だな」

 

「何言ったって口説きになるわ~、二人ともええ美人さんじゃからの」

 

カカカと笑う彼はとてもすがすがしく悪びれた様子もない男だ

 

「ところでこの名簿すごいな

カナンもわしも、疋乃嬢もコトも一緒のクラスに居る名簿なんて」

 

「ああ、それ私が編成したの

職員全員洗脳ついでに」

 

おいおいおいおいおい、カナンさん

 

「カーっ!おっそろしいのお!」

「おはよう、白沢さん」

 

その誠の隣を、静かに、優雅に、そして足早に歩く女性が居た

聞きなれない声だった

気品に溢れ、細く繊細できめ細やかな声が良いとこ出のお嬢様を連想させる

日傘をしており、傘から降りた陰にその小さな体が収まっていた

 

「あ、おはよう紅林さん」

 

疋乃が紅林さんと呼んだ女性

その肌は白く、背丈も小さいが、確かな凄みというのだろうか

お嬢様にあって然るべきものが備わっているように思えた

髪は金で、その癖の無いまっすぐな髪は肩に少しかかる程度でさらりとしている

 

疋乃のように、なんちゃって令嬢ではなさそうだ

この子はこの子で小さいが

 

「お友達方も、おはようございますわ」

 

小さな体は、日傘の下で、腰を折った

 

優雅だ、お嬢様だ

 

「紹介するね、中学の時のクラスメイトだった、紅林美綺さんだよ

こっちはカナン・フォルセティ、上郷昊菟、新城誠君だよ」

 

「初めまして、皆様

今日から天央高校に入学します

ご学友として、是非ともよろしく」

 

微かに微笑んで言う、絵に描いたようなお嬢様だ

 

しかし、気になったのは、俺だけだろうか

 

「目が……赤いんですね」

 

そう、言っていた

 

彼女は赤い目を丸くした後に、柔らかく微笑んだ

なんだかその笑顔から彼女の素性が覗けない、独特の妖しさがあった

 

「はい、生まれつきでして、これで生まれたままの目なんですよ」

 

魅入られるような鮮やかな赤い瞳

カラーコンタクトなどで表現出来るものではない

カナンもレイニアも赤眼だ、しかし……

少し光っているようにすら見えるソレに、俺は違和感を覚えていた

 

「どないしよったん?コト

ははあん、さては一目惚れかネ?」

 

「ち、ちげーよ!そんなんじゃないって!」

 

「ふふふ、お話に華を咲かせるのも結構ですが、そろそろ向かいましょうか

話していて遅刻してしまってはわけないですから」

 

それもそうだ

俺たちは校門から異様に広い校庭に出て

体育館へと歩きだした

 

入学式を終えて、俺達は緊張した生徒達の中、先生の案内で教室へと向かっていた

 

「一年三組のクラスはここです

担任が来るまで待ってて下さいね」

 

ロングの黒髪の先生が、そう言い放ち、きびすを返して職員室へ行くのを見届けると、新城はさっそく教室一番のりをはたした

 

「おー!中学ん教室より綺麗よのー!」

 

その大ざっぱで大胆ながら、手本となりそうな堂々とした態度に、皆そろそろと誠と同じようにクラスの扉を通った

 

体育館に集まり、先生の指示のままに座り、行進し、入学式をすませたばかりの俺たちは慣れ親しんでない環境に緊張している……はずだった

 

「見よったか?あの校長、配管工の赤帽子のおっちゃんみたいな顔しとったで」

 

「ちょっとやめてよ~、私も似てるなーって思ってたんだから」

 

疋乃と新城はもう話していた

順応早っ

 

この誰も話していない教室でよく話せるものだ

 

……前の席にはカナンが座っていた

こんな至近距離で彼女の後ろ姿を見たことは無かったが、とても綺麗で艶のある髪をしている

レイニアや疋乃や俺と同じ空間で同じように生活し、同じようにシャンプーを使って居るのだと到底想像出来ないほど、さらりとした髪だ

 

「昊菟ー」

 

その髪を見ていたら、黒い服の肘が俺の机の上にぐったりとのし掛かってきた

髪はふわりと彼女のイスの背もたれにかかる

 

「何あの暇なセレモニー」

 

その腕に頭を乗せて、腰を捻らせ、首を落として綺麗な髪を折りつつ、こちらを見据える

カナンは不服そうに俺をじっとりと見つめ、口をとんがらせるとそう呟いた

 

「入学式だよ」

 

「ええ~~、入学して一番最初にする事なんてパーティーでしょ~普通~」

 

カナンのやるせない顔が口の動き、顎の動きと共に顔が上下する

どうやらカナンの中では大ブーイングらしい

 

「……日本人はだいたいこうなの」

 

苦笑しつつそう言うと、口をとんがらせてこう返してきた

 

「入学式に焼酎も出さないなんてびっくりよ」

 

それはこっちの方がびっくりだよッ!

 

「お前ら、こんな静かな中よく喋れるよな」

 

後ろの席に居た不良っぽい男子が話しかけてきた

髪の毛総立ちの赤髪ツンツン男子、整えきれなかったにしては多い量のチョロ毛が額の中央から鼻先に降りている

誠同様、不良っぽい外見だ、制服もワイシャツの下に赤いTシャツを着ている、初日から学ランを着ないなんてずいぶんとまあどってりした態度だ

だが瞳にはまっすぐとした意志の強さと同様に、冷静さを秘めた目をしている

 

大陸では学生が地毛がカラフルな夢人にあこがれて髪を染めるなど、よくあることだった

だから誠は二色に染めてるし、彼は赤く染めたのだろう

それが世の中の流れ、ふつうな事だった

学校生活で髪を染めたいがために大陸に来る生徒もそう少なくない

……まあ、このエリート高校に至ってはそんな人はそうそう居ないだろうが

 

「君は……?」

 

「神戸憐だ、よろしく、上郷昊菟」

肩にドッと手を乗せるように叩かれ、その人当たり良さそうな顔をのぞかせた

 

「ああ、よろしく」

「ねえ憐、あんた日本人で楽しい!?」

 

「はい!?」

 

あ、良かった、こいつ俺と同類だ、常識人だ

 

「た、楽しいぞ?」

 

「ホント?夢人ならお酒も飲めるしこんな沈黙の教室なんてあり得ないわ!」

 

「え、き、君夢人なのか!?」

 

「ああ、憐、紹介するよ、彼女はカナン・フォルセティ、ワケあって一緒に住んでるんだ」

 

「……コレか?」

 

憐が小指を立てて聞いてきた

恋人か?という指だ

 

「誰がこんな唐変木とそんな関係になりますか」

 

「お、おま、カナン、そんな言い方は無くないか?」

 

「何よ、ホントのコトでしょう?」

 

ふ、不機嫌だ……頭が良く、言葉が達者なだけに手に負えない……

よっぽどあの入学式に不満があるんだな……

 

「あーでも、夢人って~……そっか、だから変なコトになってるわけか」

 

そうだ

このムー大陸においては、全世界から変人の巣窟と呼ばれるほど、変な人が集まる

よく言えば個性的、悪く言えば変人だ

その変人大陸、ムー大陸の中でも変人と呼ばれているのは大陸の先住民、夢人

彼らの感性や考え方はムー大陸の結界によって全世界と隔離されていた為、とても特異で奇異なものとなっている

 

その夢人と関われば、不思議のドアを全開に開け放つ事になるだろう

「私は夢人の中でも変人ですからね

あなた達にとっては変人の中の変人よ」

 

そこ、ドヤるところじゃないっす、カナンさん

 

「ねえ、あなたなんて言うの?」

 

疋乃と誠が二人で赤髪の彼を見た

 

「神戸憐だ、よろしく

君らも、昊菟とカナンと知り合いか?」

 

「うん、そうよ、私は白沢疋乃、一緒に暮らしてるの

……えっと、昊菟と、カナンと、私と……」

 

「あとロリっ子一人ね」

 

カナンさんその説明する必要あるぅ?

 

「おい昊菟、どういうことだ、あれか?おまえたらしなのか?

しかもロリコンとは守備範囲ひれーじゃねーか」

 

がっつり肩を引き寄せてそう聞かれた

 

「いや、ねーから」

 

「そうか天然かぁぁ……たち悪いぞー」

 

「いや、ちげーって」

 

すると突然誠が口を開けて

 

「実は疋乃嬢は昊菟の事がー!」

 

憐に向かって伝えようとした瞬間だった

 

「顔面握力50キロパンチぃぃぃ!」

 

「がっふ!?」

 

疋乃が空間接続で正面から誠の顔を殴った

うわー、痛そー

白沢疋乃

彼女は大陸で戦闘実習を受けている、その腕力握力はハンパないのだ

少し丸っぽい輪郭に、大人しそうな目とは裏腹に、凶暴である

髪はふわりとした金髪で、彼女も大陸に来て染めたタチだろう

 

父親が会社の社長さんで、その令嬢である

だが先も言ったとおり、気品などがあるわけではなく、なんちゃってお嬢様なのだ

 

彼女自身はいろんな事をそつなくこなせ、そこは女性らしいのだが

どこをどう間違えたのだか、萌え、可愛いものには目が無く、オタク脳であったりする

実質、ロリや美人を引き入れて喜んでるのは彼女のような気がしてならない

 

昊菟とは日本列島で小学生の時のクラスメイトであり、友の少ない昊菟にとっては数少ない友達の一人だった

その後、彼女は中学入学で大陸の中学を受け、合格し、三年ほどだけ昊菟と離れ、今になって再会した旧友だ

 

超能力をもっており、空間接続という力を使う

二つの空間をつなぎ、ゲートを通るとワープ出来るというしろものだ

この能力で空を飛んだり、様々なものを家から簡単に持ってきたり出来るのだ

 

……誰だ青い猫型ロボットの出すものを想像したのは

「良かったじゃんか、昊菟」

 

「――は?なにが?」

 

「……やっぱおまえ天然たらしだ」

 

「それはない!」

 

誠が鼻を押さえている

 

「クゥーっ恥ずかしがると暴力に発展するその性格ぅ……

悪質や……」

 

「からかうのが悪いんですっ!

あと神戸君!昊菟はたらしじゃありません!

変人なだけです!」

 

「は、はぃい!」

 

「ちょっ、変か!?

そんなに変か!?」

 

「はい!」

 

「そ、そうかぁ?」

 

少年少女達がそうやって賑やかに話しているのを、周りの生徒達は唖然として見つめていた

そんな最中に教室のドアが開いた

「はーいホラ、せーきーにーつーけー」

 

いつの間にか先生が来ていた

男の先生だ、気だるそうな顔をして、武将髭をツンツンとはやしている

服装はジャージで、適当に選んだ感の満載なジャージだ

部屋着と言われた方がまだ納得出来る

そんな彼が後頭部をかしかしと手で掻きながら俺たちを一別した

 

すると誠は席に座らず

 

「せんせー!

担任は女と相場が決まってるんです!」

 

変なことほざき始めた

 

「おー!そうか!お前新城だな!」

 

あーあ……怒られる

 

「同意だ!

明日にでも担任を女の先生に変えてもらえるように提案しよう!!」

 

「あざっす!

流石先生話がわかりますなあ~」

 

「はっはっはー!だって家で漫画読みたいしー」

 

……ダメだぞこいつ!?

 

「じゃ、職員会議に回しとくぞ、キリッと!」

 

「ラジャーッス先生、ビシッと!」

 

これはひどい、その一言に尽きる

 

「じゃーせきにつこうかしんじょー

はい、でもいちおー自己紹介しとくぞー

俺の名前は茂糀(しげ こうじ)だ、茂先生と読んでくれてかまわねー

今日だけ担任かもしれんが名前だけでも覚えてくれ

ただオレは学校でも問題になるほど面倒くさがりやだー

そして今日は説明やら集めるものがあるんだが、適当にすまして早く帰りたいと思う所存である!

意義あるものは挙手にて受け付けよう!

居るか!

居ないな!よし!良い子だ!

じゃー解散!今日は帰ってよし!俺も帰る!帰って漫画読む!」

 

「先生……二年の授業を忘れないで下さい教科担当なんですから」

 

さっき俺たちを教室につれてきた黒髪ロングの先生がそこに居た

 

茂先生はその先生を見て、ゲッソリした

 

俺たちのクラスだけものすごく早めに終わり、俺たちは帰る事にした

 

その帰路に、あの神戸憐も居た

 

「じゃあ、神戸は生まれも大陸なのか」

 

だからまだしも周りより落ち着いてたのか

 

「そうなんだ、能力は動力操作(エナジーオペレーション)

動いているエネルギーの向きを変えたり出来るんだ

風だったり魔法だったりしても変えれる

エネルギーを無くす事は出来ないが温存させる事は出来る

能力で生む事も出来ないが、貯めたものを放出する事は出来るんだ」

 

「それって強そうよのお、やりようによっちゃあ、光学兵器、いわゆるレーザーも曲げられるんじゃあないのかの?」

 

「曲げる事は出来るけどよ……

そんな急にクイっと行かないんだなこれが

それに範囲は俺から半径三メートルくらいだから

曲げきる前に焼かれちまうな」

 

「ほー、なるほどり」

 

大陸ならではの超能力漫談だな

そうだ

「あ、ちょっといいか?

疋乃、カナン、俺ちょっと食材買ってくるよ

冷蔵庫にそんなにないよな?」

 

「うん、わかった

適当にお肉も買ってきといてー」

 

「それとなんでもいいからフルーツたべたいわ」

 

「わかった」

 

「じゃあ俺にはパン買ってくれ」

 

神戸は白い歯をニヤリとさせながら自分に親指を立ててアピールする

 

「じゃあワシは菓子でも」

 

「お前たち一緒に住んでないだろ」

 

「そうやって女子ひいきだと……!?

流石……たらし」

 

「だぁー!ちげーって!

……まったく、とりあえず買ってくるよ」

 

「おー、じゃあまた明日なー昊菟ー」

 

「じゃあのー」

 

俺は手をひらひらさせて皆に背を向けた

 

鳥モモ、豚肉、タマネギ、ブロッコリー、魚…

 

「あと卵も無かったっけな」

 

食材を見つめる

ずいぶんな量だ

オレの両親もこれくらい買っていたのだろうか

 

「はあ……はあ」

 

……後ろから荒い息が聞こえる

 

「はあ……はあっ」

 

なんだ?新手の変態か?

こういうのは無視だ、無視無視

 

「ア、アト、ギューニュー、キラシテタッケー」

 

「見つけた……っ」

 

あぁ……ついに後ろではあはあしてた変態に捕まった

だが、その声を聞いて、昊菟はピンと来た

 

ぱっと後ろを振り返る

 

「……あれ?

紅林……さん?」

後ろに居た、背の小さい金髪に赤い目をした女の子

天央高校の制服を着ていた

 

「そうよ…

ちょっと、こっち来て…

あなたを追ってきたの」

 

………え?追ってきた?オレを?

 

「長い話なら、食材買ってからでいいかな?」

 

「……かまわないわ、手伝うよ」

 

なんだろう

学校で会った時のような、気品が無いような

 

違和感を感じて見てみるも、やはり紅林さんだ

金髪という時点でも、目が赤いと言うことでも間違えないだろう

 

ぱぱっと買い物を済ませたオレは買い物袋を持って外に出た

 

紅林さんは外に出ていて、両手を後ろで組んでいる

あれ?朝は大きな日傘をしていたはず……

 

「日傘はどうしたんだ?紅林さん

忘れたのか?」

 

「美綺でいいわ

傘なら持ってるよ」

 

「……え?

でも、両手にも無いし、今日は雨降ってないから傘立ても……」

 

昊菟が自動ドア辺りを見て、美綺に視線を直すと……その手には傘があった

 

「……あ、れ?

それは、美綺の能力……なのか?」

 

「ええ、完璧なる死角にて物体の無と有を操る能力

私はどんなものでも引っ張り出せるのよ」

 

こ、これまた……とんでもない

 

「無きモノは有るモノ

有るモノは無きモノ

有限と虚無の境界に干渉する能力

死視有無(シークレットモノクローム)

これが私の超能力よ」

 

「えっと、そんな美綺は俺に何の用があって?」

 

「ここだと人目があるわ……

私の家まで来て

 

話は、そ れ か ら」

 

その妖しい雰囲気の彼女に、昊菟はたじたじだった

「じ、じゃあ行くかー……どこなんだ?」

 

「ここよ」

 

「……え?」

 

美綺は小さな手を口元に当てて、くすくすと笑った

 

「ついてきて」

 

美綺はそのまま、デパートの建物を回り込み、裏手に入っていった

昊菟もそれに続く

普通に歩いてるつもりだろうが、彼女の足は速かった

あの小柄な体で、どうしてあんなに早く歩けるのだろう

 

裏手に回ると、美綺は目を瞑り、立っていた

 

「瞬きを、して」

 

変な要望だ、目を瞑るのではなく瞬き?

キスでもするんなら目を瞑れというのがふつうだ

いや、今この段階でキスをするってのもヘンな話だが

そもそも突然捕まったのもヘンな事だし

一体この子は何を……

 

「早く」

 

俺が唖然としていると美綺はそう言った

見てもないのにどうしてわかるんだろう

 

ぱちり

その瞬間に俺は理解した

これこそが美綺の超能力なのだ、と

 

ワインレッドの空、地平線へ沈むほど青く沈む、この果てしない空

そして、この浮いた島、そこにとてつもない威圧間と存在感を示す

大きな、大きな洋館

洋館のある浮き島は、洋館とそこへ通じる石畳の道以外に支えているものは無く、とても異質なものだった

 

明らかな別の場所、昊菟は瞬きのうちに一変した目の前の世界に思考が追いつかない

 

「な、なんだここ」

 

「私の結界よ

まあ……区切りはないから結界とは言えないけど

んー世界?誰も見てないパラレルワールド?死角の世界とでも言うべきかしら」

 

どうやら本人もよくわかってないらしい

 

さあ、おいでと言って美綺は優雅で早い足取りで洋館へと向かう

俺は小走りでそれについていった、なんだか不思議な光景だ

 

空気は涼しく、澄んでいる

光は日光のような光がワインレッドの空から降り注いでいるようだ

石畳に映る陰は木漏れ日のよう……森の中だろうか?

 

屋敷の扉を、美綺が開ける

外見の大きさとはちぐはぐに、中は広さは外見分無く、長方形の豪華なテーブル一つとイスが奥と手前に二つだけの部屋だ

外見の大きさ分、すべて壁で埋められているのだろうか……?

二階や三階の窓も塔も見えたのに、そこへ繋がるような扉や階段はどこにも見あたらない

「さあ、腰掛けて

今紅茶をお出しするわ」

 

高そうなイスに腰掛けると、落ち着き無く、辺りを見回しては、この洋館の仕組みを考えるが全く検討もつかない

 

「なあ、紅林」

 

「美綺って呼んで、何かしら」

 

紅茶を出す、と言ったにしては、座ったまま、何もしない

執事とかが持ってきてくれるのだろうか?見かけてすらないが

 

聞きたい事は、山ほどある

でも、一番不思議に思った事は、聞いたところで能力だの、魔法だのと返されて訳のわからない話に持って行かれそうなので、一番簡単な質問だけする事にした

 

「ああ、悪い

えっと……美綺、一体なんの話かなって」

 

すると美綺は俺の隣へ来て、俺の頬を押さえるとしゃんがんでのぞき込んできた

赤い瞳が、上目遣いでこちらを見る

 

「もう、せっかちね

これから話すの、ちょっと待ってて」

 

頬に触れている手は、焼けるように熱い

ヘンな気持ちだった、何が起こってるのかわからない

美綺のその行動にもドキドキするし、この触れてる手の熱さは?

どう対応していいかわからず、思わず固まる

 

「あら、焼けちゃった」

 

俺の頬に触れた手のひらを見ると、木が燃えた後のような灰色の肌が見えた

火があがったわけでもないし、人間の肌はああいう火傷のしかたはしないだろうに

 

「あ、あれ?

す、すまん、大丈夫か……美綺?」

 

「ええ、どうやらあなたの能力のせいみたいね」

 

美綺は手にハンカチをかぶせ、そのハンカチが火を噴くと

手は元通りの病的なまでに白く女性らしい肌になる

 

「お茶が入ったわ」

 

俺が美綺の手を見ていたら、テーブルにはいつの間にか紅茶が入ったいた

これも彼女の能力なのだろうか

 

「あ、ありがとう」

 

と言って隣を見るが、姿は無い

 

「じゃあ……本題に入ろうかしら」

 

傍らにあったはずの声は正面の椅子に座っていた

昊菟は自分の視点が、見ているものが信用出来なくなっていた

彼女は静かにカップに口をつけ、話し始める

「私は、吸血鬼なの」

 

なんて、突拍子もない始まりだった

 

「……はい?」

 

「吸血鬼よ、目が赤く、犬歯が発達してる、吸血鬼

羽だって、ほら」

 

制服をなんのためらいもなく肩口までブラウスのボタンを外し、胸を隠して体をひねり、その背中に畳んであった羽を広げる

 

とても大きい羽だ、人間の形をしたものを空にとばすには、これほどデカい羽が必要なのだろうか

昊菟の腰掛けているテーブルよりも長く、大きい羽だ

 

「信じてもらえた?」

 

美綺は羽を畳んで背中にしまうと、シャツに袖を通しなおす

胸元に降りてきたブラウスのボタンが外れており、見えそうで少しドキっとする

 

「まあ……なんとか

でも、その吸血鬼が、俺に何の用なんだ?」

 

美綺は、シャツのボタンをはめていく

 

「それだけよ、あなたに、私が吸血鬼であること、知って欲しかった」

 

ブレザーにも袖を通しなおした

 

「どうして俺に?」

 

「あなたには、私の魔眼が効かなかったから」

 

魔眼?

 

「私のこの赤い瞳、気にさせないようにこの目の魔法的効力で洗脳してたの、なのに、あなたは私の目を見て赤いと言った

あなたは私の思い通りになってくれない

私の、深いところまで踏み込んでくる

それが、楽しそうだったから

だからあなたを呼んだ

 

……出来たら私と親友になって欲しい」

 

「それはむしろ大歓迎だ

でも、洗脳が効かなかったって、何故?」

 

すると、俺の光る人差し指に彼女の人差し指が重なった

光に強く照らされた指は、灰になり、ボロボロと崩れて消滅していく

 

「あなたは太陽よりも聖なる光を持っている

この光が、あなたを洗脳から守ってくれたのかも

それにこの能力があるから、私は灰になって焼けてしまうのね」

 

「じゃあ、別の質問、吸血鬼って人の血を吸うんだろ?

おまえは……人を殺めて、血を吸ってきたのか?」

 

「いいえ、ねえ昊菟、吸血鬼が血を飲むのは何故だかしってる?」

 

「それは……血は栄養分を運ぶから?」

 

「それだったら、何も血じゃなくても食材を食べるだけでも生きていけるのよ?

正解は、人の魂を食べるから」

 

「……魂?」

 

「そう、それを表すのは、血

 

生きてる証拠

生きるというシンボルである、真っ赤な血液…

 

様々な感情の入り交じった血液を含み、ソレを体に吸収する事によって生きる」

 

彼女は急に身を乗り出し、俺の顔に顔を近づける

小さな口が、「はあっ」と目の前でめいっぱい空気を吸い込んだ

話の流れと、その行動から、あ、吸われると感じた頃には

――――口づけされていた

鉄の味がする

文字通りの熱い口づけ

触れている唇は熱を持つ

 

痛みは無く、吸われてる感覚もない

唇が灰にならないことから力を蓄えているのは明らかだ

俺は思考が止まって動けなかった

 

こく、こく、と喉が鳴る音がする

「んはー……」

 

あぜん

 

しばらくその口づけの余韻を感じた後、何か違う感じもして、すぐに質問した

 

「今の……血、吸ったのか?」

 

「ええ、ちゃんと頂いたわ

まあ、あなたの血であってあなたの血じゃないからね

吸われてる感覚は無くて当然ね」

 

「……どゆことさ」

 

「私の能力であなたの口の中に生んだ血液を私は飲んでるの

キスってよりは、口移し

あなたの口を通った血液は、あなたの魂を微量に含んでいるわ

その魂を、私は吸う

こんな事が出来るのは、あなたが私が吸血鬼ということを知っているから、一年ぶりの血、おいしかったわ」

 

「疑似的に血を吸ったって事か……

俺の血が抜かれたわけじゃないんだな

 

で、したかったのはこれ?」

 

「それもあり、あなたと親友にもなりたくて

そして、私がこういう存在であると、理解して欲しくて」

 

「えっと、じゃあ次、どうして魂を吸うんだ?」

 

「奇病よ、ある魔法使いが仕掛けた、魂が少しづつ保てなくなる奇病

それを安定させる手だてが吸血行為

太陽に苦手なのは、太陽の光に耐えられない体をしているから

魂が安定して保てないからかしら、太陽の光に揺らいでしまうのか、いずれにせよ、あなたのような光は苦手でね」

 

「なんでそんな危険な俺に理解を?」

 

「あなたは私が怖い?」

 

「いや、ぜんぜん」

 

「でしょう、それはあなたは私に対抗手段があるからだと思うの

普通の人なら吸血鬼って聞いただけで逃げるでしょう?」

 

それも……そうか

 

「今日はありがとうね

お帰り頂いていいわ、あと、お礼のものを届けるから、待っててね」

 

そのまま、一回の瞬きで、俺はデパートの裏手に居た

元々居たところだ

下手したら俺は夢でも見ていたのだろうか

でも、口に残った血の鉄の味と、隣にいた紅林が居ないから、現実なのだと理解する事が出来た

 

「……とんでもない能力だ……」

 

あまりの非現実出来事にぼーっとして

 

「……あ、家に帰るか」

 

と独り言を原動力に動き出した

 

吸血鬼……か

逸話として有名だったけど

実在したとは……

 

「ただいま」

 

家についた

中では疋乃は洗濯物を干しており、レイニアはテレビを見ていた

カナンはなにをするでもなく、座禅を組んでる

悟りでもひらくんか、お前は

 

皆のお帰りなさいという声に迎えられる

 

「レイニアは初めての学校どうだった?」

 

「楽しかったぞ」

 

ニコニコしながら答えるレイニア

親の気持ちってこういう気持ちなんだろうか

なんか知らないがうれしくなる

 

昊菟はにこりとして頷く

 

「うん、それはよかった

じゃあ、食材しまってくる」

 

カーペットを歩き、キッチンの中にある大きな両開きの冷蔵庫の手前にビニール袋をがさっと置いて、つめていく

 

ん?おかしい

 

「なあ、疋乃、カナン、アイス買ってきたのか?」

 

「しらないわ」

 

「え、なんで?」

 

ふたりとも知らないと言う

じゃあ、これは何だろう――

 

まばたきした瞬間、冷蔵庫の中に紙が出現した

 

「え?」

 

それを手に取ってみる

 

 お礼よ、今日はありがとう

 

そう書いてあった

 

「ああ、紅林か…あいつ、冷蔵庫もってないのかな」

 

昊菟は同じ紙に字を書いてからキンキンに冷えたアイスを手に取った

 

「ありがとさん

みんなー、アイス食べよう!」

 

「おお!アイスだと!?

初めて食うぞ!」

 

「食前だけど?

ま、いっか、今日は慣れない制服で疲れたもの」

 

「あのね~、生活費は私の親から貰ってるんだけどなあ

まあ、いっか、楽しみにお金をかけるなら、たまにはいいよね」

 

そうして、みんなでおかしいくらい冷えているアイスを頂くことにした

 

紙にはこう書いた

 

 紅林、アイスはもう一つ上の扉の、冷凍庫に入れるものだぞ

 

その紙を疋乃が見つけて首をかしげるのはまた後のお話

 

 
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